俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
ティアナ及び総二さんとどこか面影のある顔つきと特徴的な赤い髪、データ世界に降り立った俺たちの背後に買い物袋片手に立っていたのはそんな女性。
ただの聞き間違えにしてはあまりにもハッキリと聞こえたその一言はただの独り言ではなく、俺たちへと言ったものであると理解できる。
一体、誰なんだ?
不思議な雰囲気を感じつつも警戒せんとする俺の耳に聞こえてくるのはティアナが漏らした驚愕の一言。
「お、おばあちゃん……!?」
は? この人がティアナのばあちゃん? てことは総二さんか愛香さんの母親!?
見た目の雰囲気からして恐らく前者であるとは思うが、そんなことがあり得るのか?
ティアナやトゥアールさんの年齢から考えると、あまりにも若すぎるぞ!?
でも……それはこの世界がティアナがまだ幼い頃かもしくは生まれる前の記録を再現した世界でなら説明はつくし、この雰囲気はどう見ても赤の他人とはいいきれないし、そうとしか考えられないレベルだ。
だが、まだこちらから正体をばらすのはまだ早い。未知の世界での出来事は全てが警戒するに値する事をマモンギルディの一件でよく知っているからな。
俺は慌ててティアナの口を抑えた。
「おいおいティアナ、お前何言ってんだよ。初対面の人をババア扱いは流石に失礼ってもんだぜ。どう見てもお前みてぇな孫がいる年じゃねぇだろ。いや、どうもすいません。俺の連れが意味わかんねぇ事言って」
「ちょ、ちょっと!? んぐっー!?」
「んじゃま、俺たちはそういう事で……」
俺の直感が告げている。
この人は多分、関わると面倒くさい事になる……と。
やや強引ながらもこの場を誤魔化し立ち去ろうとする。
すると、女は意味深な笑みを浮かべながら呟く。
「へー、愛香ちゃんとの子ってこんな風になるのね~」
瞬間、俺の足は止まった。
ヤバイ、マジでバレてる。
このまま黙ったまま去るのは不味いのではないかと動揺しながらも再度誤魔化しに走る。
「な、なんの事ですかね?
「あら? 総ちゃんの事は一言も言ってないけど?」
あ、ヤベぇ。なんつー初歩的なミスしてんだよオイ。
引っかけにも入らないような引っかけに自ら落ちていくのは間抜けと言う他ない。
やっちまったぜオイと慌てる中、俺を振りほどいたティアナが女と向かい合う。
「ねぇ本当に……おばあちゃんなの……?」
そう尋ねるティアナの表情は俺が見てきた今までの物よりもずっと幼く見えた。
まるでその答えを望んでいるかのよう。
「ええ、そうよ。未来からやってきてくれて嬉しいわ」
女はあまりにも嘘偽りのない微笑みでティアナを迎える。
ティアナは薄っすらと目に涙を浮かべながら女に抱き着いた。
「あらあら……」
「久しぶり……おばあちゃん……」
「あ、もしかして未来では私死んじゃってたり?」
「違う違う!! そういう訳じゃなくて!!」
首をぶんぶん振ってはそうじゃないと答えるティアナ。
その様を見て、そういえばティアナは元々いた世界から離れ、親も祖母もいない俺たちの世界にやってきていたんだよなと思い出す。
トゥアールさんがやってきて以降は多少は安心していたのだろうけど、やっぱしティアナも人の子だ。ずっと会えなかった親族とこんな形ではあるが再会できた以上は感極まっても仕方ない。
「ま、しゃーねぇか……って、あんたは俺たちが未来から来たってどうしてわかんだよ。まさか知ってたのか!?」
「ううん、全然」
だはぁ!?
何!? じゃあさっきまでのやたらわかってますって雰囲気は何なんだ!?
あれか!? 全部ただの勘って奴か!?
「面白そうだし、そっちの方がいいな~って思っちゃった」
意図してやっているのか天然なのかいまいちわからないリアクションにズッコケる以外の選択肢があるだろうか?
あざとい仕草を入れる訳でもなく、一見すると真面目、でも楽しんでいる。
苦手なタイプだぜ。
「そういや……さっき話は聞かせてもらったとか何とか言ってたけど……一体どこから……」
「あなたたちが急に現れて、ここが何処なのかとか現実なのかとかと言っていたあたりかしら」
それってめちゃくちゃ最初じゃね?
その後、少し聞いてみると何やらトゥアールさんを映したウインドウこそ見えなかったが、俺たちがトゥアールさんと話をしている事はわかったらしく、こうだったらいいな~という考えからこのような接触を図ってきたらしい。
曰く、トゥアールちゃんの発明か何かで、大きくなったそうらとその彼氏がこの時間にやってきたんでしょ? との事。
まぁ、当たらずとも遠からずって感じか。
「とりあえず、
女もとい観束総愛の祖母、観束未春は、優しくそう俺たちへ提案してきた。
このデータで再現された記録の世界で始めて出会うのが彼女なのは何か運命のような出来すぎた不安を感じずにはいられない。
でも、最初に出会うのが彼女で良かったなとも思う。
俺はティアナと未春ばあちゃん、二人の案内を受けながら、人生初めて(実は二度目)となる彼女の実家へとお邪魔することとなった。
◇
「ただいま~!!」
ティアナの実家、喫茶『アドレシェンツァ』のドアが開かれ、カウベルと共にティアナの元気な声が響く。
さっきもそうだが、やっぱしデータで再現された世界とはいえ、ティアナにとっては懐かしの故郷なんだ。
テンションが上がるのも無理はない。
「てかそうか……。どっかで見たことあると思ったら、俺も来てたんだよな」
いつだったか、俺とティアナの身体が入れ替わった時、俺はティアナの記憶を垣間見る事があって、そん時にここに訪れた事があった。
そのせいか、殆どもううろ覚えではあるが、初めてって感じはしない。
そういやこんな感じだったなと思い出せる程度の感覚だ。
「適当に座って、適当にくつろいで頂戴~」
テンション上がるティアナを見てうふふと笑った未春ばあちゃんは俺にそう一声かけると、買い物袋を置くために厨房の方へと向かっていった。
何と言うか、さっきは少し苦手意識を持ってしまったが、ここに来るまでの道中含めて意外とそんな事ないんじゃねぇのと思えてきた。
童心を忘れない心を持ちながらも確かな母性を持つ女性。
あのアクの強いツインテイルズの面々、そのリーダーたる総二さんの母親ってだけはある。
言うなればおやっさんの上位互換か。俺の婆ちゃんや、他知り合いで言えば悠香さんの要素も内包してやがるな……
「あれ? お母さんは?」
お母さん、つまり母である愛香さんがいない事に気が付くティアナ。
ティアナが言うには愛香さんは普段、未春ばあちゃんと一緒に店を切り盛りしている筈との事。
「どっか行ってんじゃねぇの。もしかしたらガキのお前を連れてどっかに遊びに行ってるかもしれねぇし」
「それもそうね……」
「とりあえず、どっか適当な席でも座ろうぜ」
俺とティアナ、二人が座れる席を探すべく店内を見渡す。
意外と広い店内には結構な客で埋まっている。
ぶつぶつ独り言呟きながらパソコンを叩く奴、テンプレな英国紳士の出で立ちでコーヒーを優雅に飲む奴、ただならぬ気配を放つ中東の富豪っぽい奴やどこかの国のお偉いさんっぽい奴。
どいつもこいつもパッと見で関わっちゃいけないタイプの奴ばかり。
あれ? ここってただの喫茶店だよな?
「やぁ少年、久しぶりだね」
「は? 誰だてめぇ」
「そうか……。君にも忘られてしまったか……。フッ……喜ばしい今日と言う日だと言うのに、遂に私も時間か……」
「だから誰だよ!! テメェはよ!!」
初対面の人を勝手に自分の世界に入れてんじゃねぇよオイ!!
意味不明な事を言い出す4、50くらいのおっさんに思わず声を荒げてしまうが、当のおっさんはぶつぶつ独り言を言いながら自分の世界に入り込みまくってやがる。
「あんまり気にしないで、昔から私も理解できてないから」
曰く、ここの常連さんってこんな奴らばかりなんだとよ。
さっきまで店主が買い出しに店に出ていて他の店員がいないあたり、客側の自主性で運営できてるという現実が理解不能だ。
「お前……大変だったんだな……」
「まぁ慣れてるし……今じゃそれもちょっと嬉しいし」
「そ、そうか……」
そうだよな。こんな空気もティアナからすりゃあ懐かしく感じるんだよな。
なんつうか、すげぇ抱きしめてやりたくなってくる。
「オイルフィールドアゲマス」
「だからテメェは誰だよ!!」
俺たち二人の雰囲気を見てそう言ってきた中東の富豪っぽい奴に一括しつつ、ようやく腰を下ろせる席を見つけることが出来た。
にしても、一見すると落ち着いているようには見えるが、皆妙にソワソワしている気もする。
ま、なんだかんだで一息つけたわけだし、一先ずの報告も兼ねてトゥアールさんたちに通信を送ってみよう。
幸い、通信の際に出てくるウインドウは他の奴らに見えないし、ぶつぶつ独り言を言っているように見えてもこの雰囲気なら何も問題ない。
「もしもし、トゥアールさん。俺だ」
『はいはい、どうしました?』
ブゥンと音と共に片腕のブレスから向こうの様子を映すウインドウが展開される。
二度目なので変なリアクションは取らず、早速報告に入る。
「どうやらこの世界はあんたが元居た世界、ティアナが生まれたテイルレッドの世界のようだ。どの時期なのかはまだいまいちわかっていねぇが、ティアナの反応からしてそう昔って訳でもないらしい」
『成程、という事はつまり、総二様が学生だった頃ではない……と」
「どうやらそのようだ。未春ばあちゃんの発言からしてティアナが生まれている可能性もあるしな」
『未春ばあちゃん!? 未春将軍と会ったんですか!?』
み、未春将軍?
トゥアールさんの驚きを受けて、あの人の事がまたわからなくなる。
将軍要素なんてあったか? カリスマ性って事なら確かにちょっとは感じるが、そんな威厳のある雰囲気じゃないし、ティアナとの様子を見ていいおばあちゃんだなとしか思わねぇんだが。
「まぁ、その未春ばあちゃんにだな。さっき偶然会って、まぁかくかくしかじか色々あって正体がバレちまったというか……」
『成程、確かにあの方なら気づいてもおかしくはないですね』
「一応、ここがデータの世界とまでは言ってないわ。向こうが私たちが未来からやってきたと解釈してくれたからそれにあわせる感じにはなっただけ」
『そうですか。それはある意味で幸運でしたね。いくら記録を再現した世界と言えど、もしその事実がそこにいる人たちに知られてしまえばそのデータその物に重篤なバグを生じてしまう可能性があります』
そうか……。その可能性もあるのか……
トゥアールさんが警戒した可能性を聞き、危なかったなと安心しつつ意識を改める。
そう、この世界はあくまでデータ上に再現された世界。
言ってしまえば当時のリプレイを追体験しているようなもんだ。
もしも、この世界全体を揺るがすような事実がバレ、それが原因で世界そのものが崩壊すればここにいる俺たちはどうなる? ハッキリと言えるのはどうあがいても無事じゃすまない。よしんば現実に戻れたとしてもこの世界に潜むウイルスを倒せなければ明日はない。
「んじゃま、引き続き色々調べてみるわ。そっちでもターゲットの出現を感知したら連絡頼むぜ」
『わかりました。それではまた――』
「あ、ちょい待ち!! そっちの様子はどうなってんだ?」
「そうよママ、大丈夫なの?」
トゥアールさんが通信を終えようとするその瞬間に俺たちは肝心な事を思い出した。
『こちらの様子……ですか? それならば、最初の通信からそう時間も経っていませんし、特に異常はありませんね』
「オッケー、じゃあまだ時間はあるって事か……」
『敵もウイルスとは言え、自我自体は有しています。お二人がやってきた事は恐らくはバレているでしょうし、敵の行動目的からしても現実世界での進行はお二人を退けた後だと思われます』
つまり、ターゲットもまた俺たちを倒さんとしているって事か。
こっちからすりゃあそいつは願ったり叶ったりだぜ。
タイムリミットってのを特に気にしなくていいのは楽でいい。
『勿論、あくまで可能性です。迅速な対応をお願いします』
「わーってるよ、んな事よ。んじゃあまた」
『はい、では』
通信が終わり、ウインドウがブゥンと音を立てながら消失。
念のために周囲の客の様子を伺うが、特にこれといった反応は見せていない。
強いて言えば、俺たちに対して「中々やるな」と言いたげな視線を送ってくる程度か。
「あら? もしかして今、トゥアールちゃんと通信でもしてたのかしら?」
直後、荷物を置き終えた未春ばあちゃんが戻ってきた。
結構な数の客がいるってのに俺たちの席の方へやってくるあたり、状況が状況とはいえ中々にいい加減な経営だなと思っちまう。
「まぁ、そんな感じです」
「へー、未来のトゥアールちゃんか~。歴史に干渉しない程度で教えて欲しいわ~」
「ママは……いつもお母さんに怒られてて……最近は私も……」
「あら! トゥアールちゃんの事、ママって呼んでるんだ~」
「う、うん……あんなでも、もう一人のお母さんだし……」
ちょっと嬉しそうな感じではしゃぐ未春ばあちゃん。
ティアナはその指摘を受け少し恥ずかしそうに赤くなる。
俺はその様子を微笑ましく思いながら眺めていた。
「ん? ちょい待てよ」
その時、俺はとある点に引っかかりを覚え、それを確かめるべくティアナに声をかける。
「なぁ、お前っていつからトゥアールさんの事をママって呼んでんだ?」
「そうねぇ……。昔はお姉ちゃんって言ってた時期もあるとは思うけど……いつからかお母さんと分けるためにママって呼び出して……」
「つまり、そう最近の事じゃねぇって訳だな」
うんと頷くティアナ。
となると可能性は一つか二つに絞られる。
「なぁ未春ばあちゃん。今日って何日だ?」
「今日? 今日は二月二日。総ちゃんの誕生日よ」
っ!? それってつまり……!?
「おいティアナ!! お前の誕生日って……」
「お父さんと同じ、二月二日……」
クッソ……通りで外の様子がちょい騒がしかった訳だ。
思い出してみりゃお祝いセールだとか何とか言ってやがったぜ。
そしてそれよりもだ、さっきまでの様子から推理するともしかしたらもしかするぜコイツは……
「ねぇおばあちゃん……私の名前ってわかる?」
「その言い方からしてティアナちゃんではないのよね。総ちゃんも愛香ちゃんもまだ決めてないって言ってたし……」
まだ決めていない。
その一言が確信に変わる。
二月二日。店内にいない愛香さん。未春ばあちゃんの反応。
それはつまり……
「おい、もしかして今日がお前の生まれる日なんじゃねぇのか?」
「嘘でしょ……? 本当に?」
当たり前だが、ティアナは驚くしかない。
それどころか、俺がそう言っても半信半疑といった様子だ。
直後、ドアのカウベルが鳴り、外より誰かがやってきた。
「あら、おかえり恋香ちゃん」
未春ばあちゃんがそう言った相手。それは愛香さんとよく似ているが、明らかに別人とわかる雰囲気を持つ女性。髪はストレートで胸は大きめ、少しトゲトゲした愛香さんとは違う天使の如き柔らかいオーラ。百人中百人が彼女を見てお姉ちゃんと呼んでしまうであろうその姿はある意味で愛香さんの上位互換。
間違いない。彼女は愛香さんのお姉さん。
つまり、ティアナの叔母にあたる人物だ。
「どうだった? 愛香ちゃんとお腹の様子」
「はい。お医者さんも早ければ今日になるかもだとおっしゃってました」
「そう……この時が遂に来たのね……」
瞬間、さっきまで店内で静かにしていたおっさん共がドッと湧き上がる。
まるでこの時を待っていたかのように喜び合うおっさんたちは年齢や人種といった垣根を越えて祝い合っており、早くも誕生日パーティーをしているかのような雰囲気だ。
部外者である俺たちからすりゃ完全に蚊帳の外って感じだが、まぁこれでハッキリとしたのは事実だ。
「やっぱりだぜ。今日がお前の生まれる日だ」
「そ、そう……なんだ……」
悲しいって事は絶対ないだろうけど、少なくとも嬉しいとも言い難い複雑な様子を見せるティアナ。
これもまぁ、当たり前と言われたら確かにそうだし、俺も同じ立場ならどう反応していいかわからなくなる。ましてや、父親と同じ誕生日で且つ、こんなにもお祝いムードを出されちゃ当人からすりゃ嬉しいやら恥ずかしいやらってもんだぜ。
「オイルフィールドアゲマス」
「いらねぇよ!! んなもん!!」
お祝いムードのまま俺たちに絡んでくる中東の富豪っぽい奴をあっちいけとばかりに追い払う。
全く、中二喫茶ってのはわかったが、もう少し絡む相手は考えて欲しいぜ。
悪いが俺はあんたみたいな奴の寸劇に付き合う性格してないんでな。
「ちなみにあの人、本物だからね」
「え?」
ティアナの衝撃発言に凍り付く。
俺もしかして何かやっちまったってやつ?
そんな風なやり取りをしていると、未春ばあちゃんと話していた恋香おばさんが俺たちに気が付いた。
「おばさん、あの子たちは……」
「あ、わかる? 実はね……」
恋香おばさんにだけ聞こえるよう耳打ちする未春ばあちゃん。
一瞬驚く様子を見せた恋香おばさんだが、一瞬にして俺たちもといティアナを見る目が変わる。
「そう……ふふ、あなたが……」
なんか、雰囲気違いません?
ちょっと犯罪臭とまではいかねぇけど、明らかヤバイオーラしてんですけど、この叔母さん……!?
隣に座るティアナはまるで気づかず、呑気に「恋香おばさん若いな~」とか言ってやがる。
お前、もうちょい身内への危機感は持った方がいいぞマジで。
「ねぇ和輝?」
「うん? どした?」
それから少しばかりした後、先程から何かを考えていたティアナが決心した様子で俺にそう話しかけてきた。
「あのね、出来るなら私、私が生まれるところ見て見たい」
「はぁ!?」
ティアナの発言は何言ってんだよとしか言えない。
俺たちの目的はあくまでこのデータ世界に潜むウイルスをぶちのめす事だ。
そんなプライベートな事やってて良いわけがない。
「お願い和輝!! ちょっと私……すごく気になっちゃって……」
「いやま、その気持ちはわかるけどよ……」
「ちょっとだけ、ちょっとだけでいいの!! 生まれた後のお母さんとお父さんを見るだけでもいいから!!」
いつになく熱くそう訴えかけてくる様を見て、俺の心が揺れる。
多少なら良いとは思うけど、でも、現実では俺たちの事をみんなが心配している訳だし……
「ちょっとくらいならいいんじゃない?」
俺が決めあぐねているそんな時、様子から察したであろう未春ばあちゃんがそう声をかける。
少しくらいなら歴史に与える影響も少ないわとどこか自信をもって言う様は不思議な説得力がある。
まぁ、敵の居場所もわからない以上、闇雲に探しても見つかる物も見つからないのは事実だしな。
「わーったよ。ちょっとだけだぜ?」
「ありがと。和輝」
喜びの笑みを見せるティアナを見て俺も自然と口角が上がる。
でも、困ったな。
入院している病院は聞けばわかるとして、どうすればあまり影響を与えず見る事ができるのか。
こればっかしは関係者じゃなきゃ難しいだろうし、どうすっかだ。
「難しい事は行ってから決めればいいんじゃないかしら? 丁度、恋香ちゃんが着替えとか入院用の荷物を持っていくところだし」
え、あの人が運転する車に乗って一緒に行けと?
チラリと恋香おばさんを見ると、彼女もまた事情を察したのか優しく微笑み返してくれた。
正直、不安だぜ。
「よ、よろしくお願いします……」
「ふふふ、よろしくね」
かくして、俺たち二人は、
◇
「へぇ~、じゃあやっぱり二人は付き合ってるんだ~」
「うん。ちょっと前に一度別れたけど、今はまた一緒」
「そっかぁ……うふふ」
運転する恋香おばさんと交流を深めていくティアナ。
同じ後部座席、隣にいる俺からすれば、恋香おばさんの態度というか雰囲気がやっぱし怖い。
この人、まさかじゃねぇけど、身内の事を襲ったりする人では……ないよな流石に。
「さ、着いたよ」
車で移動する事、約数十分。
新たな目的地である、愛香さんが入院する病院にたどり着いた。
そこは想像していたよりも大きく、全体的な雰囲気も一般的な病院よりも数段上と言っても差し支えない程にランクの高さを醸し出している。
どうやらここはテイルイエローこと神堂慧理那さんの実家、神堂家が管理、運営する病院らしく、日本国内において最も信頼できる医者やスタッフが集まる場所なんだとよ。
「んじゃあ、こっからは俺たち二人で」
「一緒に行かないの?」
「大事な時だってのに、
一緒に愛香さんの様子を見に行かないかと誘う恋香おばさんにそう断りを入れる。
ティアナもティアナで、俺の言う事には賛成なのか、恋香おばさんにここまでありがとうと礼を言っている。
恋香おばさんは少し残念がるような素振りを見せるが、それもそうねと笑顔で手を振ってくれた。
ちなみに、専用の入館証はここに来てすぐ恋香おばさんが追加で二つ貰ってきてくれたので動き回るのにそこまでの制約は発生しない。
「さて、とは言ったものの、どうするよ?」
「そうなのよねぇ……。和輝の言った通り、急に出て行っても変に混乱させてしまうだけだし。だからと言ってこのままじゃ会えやしないもんね」
こういう時、本当の事を言えれば面倒くさくなくて楽なんだよな。
未春ばあちゃんや恋香おばさんは察してくれたけど……愛香さんや他の面々にもそれを求めるのはちと難しいしな。
結局、俺もティアナも明確な方法が思いつく訳でもなく延々と病院内をうろうろする羽目になっちまった。
一応、定期的に本来の目的である
「で、悩んだ果てがこれか……」
「だってこれしかないんだもん……」
うろつき始めてからしばらくして、俺たちは愛香さんがいるであろう陣痛室の前にやってきていた。
外からでもわかる大きな個室は流石の待遇と言うべきか。
中には恋香おばさんがいるのか、姉妹仲のよさそうな会話が聞こえてくる。定期的にトゥアールさんらしき悲鳴が聞こえてくるのは多分、聞き間違えだろう。
さて、俺たちの狙いというのは、こっそりと部屋の中を覗き込むという単純明快なやり方だ。
周囲に怪しまれないように手早くやってしまうべきだが、ティアナは緊張からか扉の前でもじもじしてやがる。
「今は誰はいねぇけど、誰か見られたらヤバイんだ。さっさとやっちまえよ」
「そうは言っても……」
「お前なぁ……」
声を荒げてしまえば、それこそ誰かやってきて作戦失敗だ。
でもだからってこのままでいれば確実にスタッフか警備員のお世話だぜ。
ティアナが生まれる正確な時刻がわからぬ以上、いつ分娩が始まってもおかしくないし、ささっとやるに限るんだがよぉ……
「えーっと……君たち、どうしたのかな?」
早くしろと急かすのに夢中になっていたのか、背後からそう声をかけられた事でようやく誰かの接近に気が付いた。
ヤバイ、やっぱしバレた……!!
一先ずここは適当に誤魔化して撤退するしかねぇ……!!
そう思い、言い訳を考えながら振り向くと、そこに立っているのは見覚えしかない男。
赤い髪と優し気な雰囲気、記憶よりも一段大きくたくましく感じられるその出で立ちは世界を救った英雄にして、これから父親へとなっていくのが想像できる。
この人は……ティアナの親父、観束総二さんだ……!!
「お、お父さ……」
「だぁーっ!! 言うと思ったわ!! バカタレ!!」
ティアナの口を慌てて抑え一目散にこの場から退散。
「な、何だったんだ今の……」
残された総二は何だったんだ今のとでも言いたげな表情で退散した二人が向かった先を眺めていた。
女の子の方がしていたツインテールに既視感を覚えつつ、愛香が休む陣痛室へ入っていく。
「総二様、どうしました?」
「そうよ、どうしたのそーじ?」
「なぁ愛香、さっき外に変な子たちが……」
「お姉ちゃん、何か知ってる?」
「うふふ、秘密」
◇
あれからさらに時間が経った。
外の太陽もいつの間にか、沈み始めるくらいにはなっており、俺たちがこの世界に降り立ってもう結構な時間が経ったのだとわかる。
このまましていても特に進展もないし、一先ずトゥアールさんに連絡するとしよう。
敵の事もそうだが、他にも色々聞きたいことがあるしな。
『愛香さんが出産する時間ですか?』
「ああ、またあの後に色々あってよ。どうやらこの世界が再現しているのはティアナが生まれる日のようなんだ」
『そうですか。つまり、総愛は自分が生まれる時の総二様や愛香さんの反応が見たい……と』
「話が早くて助かるぜ。ま、コイツはちょっと一目見るだけでいいっぽいんだけど……だからって真正面から行くのはちょっとさ……」
確かにと頷いてくれるトゥアールさん。
出産時間を聞いたのは何かそれが役に立てばいいかなと思ったからだ。
つっても、だからって何かが変わる訳じゃねぇけどな。
『出産自体は私も手伝いましたし、立ち合いましたけど……何時頃だったかまでか……』
「そっか、まぁ仕方ねぇ。このまま敵の動きがない限りはこのままでいるしかないか」
現在、俺たちは病院内のとある場所にいる。
ここならあまり人目に付きづらいし、万が一その時が来たらわかるようになっている。
「ねぇ和輝? ちょっと気になるけど、ここ含めて妙に静かじゃない? 今日って確か、元々お父さんたちの誕生日だし、自分で言っててなんだけど、一人娘が生まれるって割には家の常連さん以外は全く知らない様子だし」
通信中、ふとティアナがそう口にする。
確かにそれもそうだなと思った時、トゥアールさんがその事を解説する。
『恐らく、それはレイジの根回しが原因ですね。レイジは総愛が過剰にちやほやされるのを警戒していましたし、総二様にあまり大事にするべきではないと言っていた筈です』
そういや確かそうだったな。
てことは、レイジの野郎が介入しない本来の歴史じゃもっとお祭り騒ぎだった可能性が高いって訳か。
でも、その場合だとティアナは絶対に生まれないし、総二さんも誰と結ばれるかわからないんだよな。
『それはそうと……、うん? これは……!?』
突如、トゥアールさんが何かに反応した。
何かあったのかと聞こうとしたその時、外の中庭に異変が起きる。
「どうした!? 何が起きた!?」
「見て和輝!! あんなところにエレメリアンが!!」
ティアナが指さした先、そこにはいつの間にか現れていたエレメリアンを見て騒ぐ人たち。
妊婦がどうだとか五月蠅いエレメリアンの様子を見るに奴の属性はそれだろう。
もしかしてアイツが俺たちが狙う敵の姿なのか?
慌てて駆けだそうする俺たちをトゥアールさんが制止する。
『お二人ともアレは違います。あの日、確か愛香さんの出産が始まる直前にエレメリアンが出現していましたし、恐らくはそれでしょう。当時は総二様が単独で瞬殺したと記録していた筈です』
つまり、アレは放置していても問題ないって事か?
安心しそうになる俺たち二人。
しかし、トゥアールさんは話を続けた。
『ですが、どうやら敵のウイルスがそのエレメリアンへと向かっているようです。敵の狙いは恐らく、そのエレメリアンとの融合……!!』
じゃあなんだ、それはつまり総二さん、テイルレッドが危ない可能性があるって事か?
何がどうなっているのかわからずあたふたする中、中庭でさらなる音が響く。
攻撃と攻撃がぶつかる激しい音。
中庭を見ると、そこではテイルレッドが様子を変えたエレメリアン相手に苦戦する様子が映っていた。
慌てて飛び出そうとした矢先、愛香さんがいるであろう方もまた騒がしくなる。
陣痛が激しくなり、出産の時が迫っているんだ。
「おいティアナ……行くぞ」
「うん。行こう和輝」
記録の中とはいえ、折角の大事な時間を部外者に邪魔させるものか。
想いが一致した俺たち二人は敵がいる中庭へと駆けていく。
一生に一度のかけがえない時間、俺たちが守ってやる。
原作であまり出番のないキャラたちも出したいなと思った結果、こうなりました。
元々、タイムスリップする話を予定していて、それがこういった形にはなりましたけど、どうでしょうか。
次回は満を持して総二お父さんと愛香お母さんがガッツリ出てくる……かも。