俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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愛香さん誕生日おめでとうございます。
本編では違う人の誕生日ですけどね。


第169話 ハッピーバースデーマイツインテール

 ティアナこと観束総愛が生まれる歴史、それは正史とは異なるものである。

 正史における観束総二の娘、観束双愛が生まれるのはとある年の二月三日。

 よってティアナの生まれる日は歴史の介入により生まれたうねりによって約半日ほど早くなっていた。

 このもしもの歴史における観束総二の妻は観束愛香(旧姓 津辺愛香)。

 その二月二日、本来であれば夫である総二の誕生日であるその日、娘を出産するために仲間たちの殆どがそれぞれの形で手助けをしていく中の出産直前、相も変わらず野良のエレメリアンが空気を読まずに出現。それを総二がテイルレッドとなり瞬殺するのが記録されているこの世界線における歴史である。

 しかし、このそれらを再現した記録の世界(データ内)では本来ならばあり得ぬ事態が巻き起こっていた。

 

「うぅ……!? な、なん……!? うゥゥゥ……!!」

 

「ッ!? どうしたんだ!?」

 

 必殺のグランドブレイザーを放たんとした瞬間、突如として敵である妊婦属性のエレメリアンが苦しみもがきだす。

 今日ばかりは妻のように心を鬼にして瞬殺する気概をもって挑んだテイルレッドもこればかりは流石に敵に対する心配が勝る。

 通信越しにトゥアールへ何があったのかを聞かんとするそんな時、敵の姿が禍々しい負のオーラで包まれる。

 

「こ、これは……!!」

 

 変貌するその姿は不定形ながらいくつものエレメリアンが歪に集まったかのような姿をしており、テイルレッドにはこの雰囲気がどこかで見覚えがあると感じてしまう。

 歴史が狂い始める中、変貌した敵の攻撃が開始した。

 

「データ閲覧……カンリョウ。テイルレッドォォ……!!」

 

「くッ!? 動きが読まれてる……!?」

 

 いくらデータ上で再現された世界の彼と言えど、この世界においてのテイルレッドは間違いなく彼であり、正真正銘の一人の生命体。

 しかし、それでも所詮はデータの中の存在であることに変わりない。

 敵はデータ上に記録されたテイルレッドのこれまでとこれからのデータを読み取る事でその動きを完璧に読み取り攻撃を仕掛けていくイレギュラー。

 一見すると無機質だが、強い怨念に従い行動するその姿は正に怨霊。

 どの歴史においても英雄とされるテイルレッドではあるが、流石に分が悪く、タイミングも悪かった。

 どの形態、どの武装、どれを使おうとしても対処され動きを読まれ、経験を武器に立ち向かうが、娘が生まれるという人生における最も大事とされるこのタイミングが彼の判断を焦らせる。

 結果、苦戦は免れない。敗北せずに粘っているだけでも奇跡と言える。

 

 

 

 

「トゥアール……やっぱりあたしも行かなきゃ、そーじが……」

 

「いけません愛香さん!! あなたはお腹の赤ちゃんに集中してください!! 大丈夫です、総二様なら必ずすぐ倒して戻ってきてくれます!! あなたが総二様を信じなくてどうするんですか!!」

 

 陣痛が激しくなる中、自らも行かねばとなる愛香を抑えるトゥアール。

 他のツインテイルズの面々は各々の事情もあり、すぐには救援に向かう事が出来ないのが余計に彼女を焦らせる。

 そして始まる出産の時。

 病院側の許可を経て出産の手伝いを行うトゥアールは愛香の体力が落ちている事に気が付く。

 このままでは母子共々、命が危ない。

 まるで外で苦戦する総二とリンクするように弱っていく愛香を見て、不安に駆られるトゥアール。

 

 

 

「くッ……!!」

 

「オワリダ。テイルレッド……!!」

 

 そして外ではエレメリアンがテイルレッドにとどめを刺さんと迫る。

 ツインテールではなく、命を奪わんとする怨霊は当初の目的をも忘れ暴れ狂う。

 このままこのデータごと世界は崩壊してしまうのか……

 そう思われたその時、

 

「そこまでだぜ、この野郎」

 

 吹き飛ぶエレメリアンとふわり舞う紫のツインテール。

 もう一つのイレギュラーがやってきたのだ。

 

 

 

 

 不自然なほどに静かな者と、それと真逆に慌て騒がしくなる者で溢れる病院内。

 本来の歴史に存在しない現象が立て続けに起きた結果の再現データの不具合が発生していると思われる中、俺たちは変身し、テイルレッドの前に降り立った。

 周囲で避難誘導しつつもテイルレッドを心配している人たちはおろか、当のテイルレッドすらも理解しきれないこの状況。

 よろめきながらも立ち上がったテイルレッドと目が合った。

 

「き、君たちは……」

 

 このテイルレッドは過去の再現であり、俺たちを知らない。

 だから、今俺たちが変身している二人が一人になるエクストリームチェインを知る筈がないのにも関わらず、まるで俺たちが二人で変身している事を知っているような素振りを見せた。

 意識していたor無意識なのかで言えば、恐らくは後者。

 その事に少し驚きながらも、なおも戦う気力を見せるテイルレッドを制止する。

 

「あんたには行かなきゃいけねぇとこがあんだろ。だからよ、ここは俺に任せな」

 

 こういう時、どう言えばいいかわからず少し格好つけた言い方になってしまう。

 もう少しマシな言い方出来ねぇもんかと悩む時、ティアナの意識が表に出る。

 

「大丈夫。私たちは絶対に負けない。だから、早く行ってあげて。大切な人があなたを待ってるから……!!」

 

「……!! わ、わかった……!!」

 

 私たちの思いが通じたのか、お父さんはそう頷きこの場から離脱する。

 データとは言え、お父さんはお父さん。

 ツインテールを一目見れば、どんな摩訶不思議な事でも信じてくれると信じてる。

 私は和輝に主導権を返還し、暴れるエレメリアンへと意識を向ける。

 

「さて、やるぞティアナ」

 

(ええ、さっさと終わらせるわよ!!)

 

 心の中で頷きあう俺たち二人。

 総二さんと愛香さん、二人のこれからを紡ぐ大切な記録(未来)は邪魔させやしない。

 ウインドセイバーを片手に構え、向かってるエレメリアンへとこちらからも向かっていく。

 

「テイル……バイオレットォ……!!」

 

「マジで怨霊だな。傍迷惑な野郎だぜ……!!」

 

 敵に自我はない。恐らく本能とも言える怨念そのもので動いているんだ。

 

「だったらぶった切るっきゃねぇよな!!」

 

 乱雑に振るわれるウインドセイバー。

 その紫の刃がエレメリアンの身体を切り裂いて火花を飛ばす。

 一発、二発、三発。斬撃と言うよりかは鈍器で殴打するかのような、ある意味では俺らしい剣の振るい方はテイルレッドのそれとはまるで違い、一見すると雑すぎてなっちゃいないとも思えてしまうだろう。

 だが、気持ちだけなら誰にも負けない。

 この怒涛の攻めが敵の反撃を許さず追い詰めていくんだ。

 

「ッ……!! ダガ、データハハアクシタ」

 

「は……!?」

 

 何度目かの攻撃の果て、突然、敵の動きが変わる。

 まるで生きているのかと錯覚してしまう謎の雰囲気に一瞬だけ気圧されたその時、俺の振るうウインドセイバーがひらりと躱され、その刃が空を切る。

 

(いけない和輝!!)

 

「ッ!?」

 

「テイルバイオレットォォォ……!!」

 

 大きく開けられた口から放たれる光弾。

 突然の反撃に反応が遅れそうになるが、ティアナが気づいてくれたおかげもあって紙一重で回避に成功。

 しかし、敵の反撃は終わらない。

 

「オマエサエ、オマエラサエイナケレバ……!!」

 

「くっそ……この野郎、動きを読んで……!!」

 

 ギアが入ったかのように加速する敵の攻撃。

 それは俺の回避パターンを知り尽くしているかのように一発一発がまるで先回りしてきているかのような正確性で放たれていく。

 何とかギリギリ回避及び防御こそ出来ているが、このままじゃジリ貧だ。

 ならばとばかりにエクストリームブレイブ、エクストリームエモーショナルを使用してやろうとするが、それすらもわかっているのか、強化変身その物を妨害する動きまで取ってきやがる。

 

「おい、てめぇ!! お約束ぐらい守れっつーの!!」

 

(ダメよ和輝!! こいつはただのエレメリアンじゃない。私たちに敗北した無念が集まって形作っただけの存在よ!! お約束なんてわかりゃしないわ!!)

 

「クソったれ……!!」

 

 暴走する怨霊にヒーロー物のお約束なんてわかりゃしないのは当然か。

 ギリギリで回避、防御しつつ、何とか僅かな隙に攻撃を差し込んでいくが、効き目は薄い。

 

「オワリダァ」

 

「しまっ……!?」

 

 何度目かの攻防の果て、ここがチャンスだとばかりに仕掛けたんだが、それは敵側が用意した偽の隙(フェイク)であった。

 まんまと引っかかった俺が見たのは敵の口に強大なエネルギーが集まっていく光景。

 次の瞬間、俺は病院の中庭から、少し離れた駐車場付近まで吹き飛ばれてしまう。

 

「くッ……!! やってくれるぜ」

 

(大丈夫?)

 

「俺は大丈夫だ。お前こそどうだ?」

 

(私は平気。それよりもどうする?)

 

 負ったダメージは決して小さくないが、まだ無理は出来る。

 しかし、敵が俺たちの動きを知るカラクリを解けぬ以上は勝ち目は薄い……か。

 

『お二人とも、わかりました。どうやら敵はこの世界を通じて基地内で保有していたテイルレッドやテイルバイオレットの戦闘データ全てにアクセスする事が出来るようです』

 

 成程、通りでテイルレッドが苦戦する訳だ。

 要はあの野郎は常にカンニングしながら戦っていたって事じゃねぇか。

 トゥアールさんからの通信を聞く俺たち。

 敵エレメリアンはゆっくりとこちらへやってくる。

 

「ソウダ、テイルバイオレット。オマエタチノデータハスベテエツランシタ。オマエタチニカチメハナイ」

 

 無機質にそう語り掛けてくる敵エレメリアン。

 どうやらアクセスした影響で外との通信も筒抜けのようだ。

 トゥアールさんが一度、現実世界に撤退するかどうかを尋ねてくるが、俺たちは突っぱねる。

 

「大丈夫だぜトゥアールさん……そうよ、あいつが私たちの過去(データ)しか知らないなら勝ち目はある……そうだ、俺たちはデータじゃない。俺たちは常に進化しているんだ……!!」

 

 そう、奴が知っているのはあくまで昨日までの戦闘データ。

 いくらそれを完璧に熟知していようとも、人と言う物は常に成長していく物だ。

 髪の毛(ツインテール)が常に少しずつ伸びていくように、永遠と同じものは存在しない。いつまでもくだらねぇ怨念なんぞに縛られるコイツが勝てるどおりはない。

 

「さぁ……行くぞ!!」

 

(ええ!!)

 

 迫るエレメリアンへと駆ける。

 敵は俺たちを見て血迷ったかとでも言いたげな反応と共に迎撃に移る。

 それは昨日までを参考にした正しき行動。

 しかし、俺たち二人はそれを凌駕する。

 

「ナニッ!?」

 

 エレメリアンの攻撃が放たれる瞬間、俺の動きが加速する。

 結果、反応が遅れ攻撃をもらうのは敵側のみ。

 

「ナラバ……!!」

 

 力ならば勝てる。

 そう思ったのか、敵エレメリアンは力いっぱい拳を振り下ろす。

 瞬間、俺はティアナにチェンジ。

 私がその拳を受け止めては全力をもって弾き返す。

 

「バカナ……ナラバ、アタラシイデータヲ」

 

「いつまでもそうやって、やれると思わない事!! 行くわよ和輝!!」

 

(ああ、ぶちかましてやろうぜ!!)

 

 生まれたチャンスは絶対に逃さない。

 新たなデータを取得しようとするエレメリアンに対して私はテイルバスターを召喚。

 バスターキャノンモードの銃口を敵エレメリアンの胴体に押し当て完全開放。

 今までやったことないゼロ距離必殺のトリガーを引く。

 

「エクストームブラスト!!!」

 

(ゼロシュート!!)

 

 和輝と私、二人の心が重なり生まれる紫光の奔流は敵の怨念を消し去っていく。

 果たしてこれで成仏できるのか。

 吹き飛び、空に溶けていくかのように消滅していく敵エレメリアンの姿を私たち二人は見送るのだった。

 

 

 

 

 現実世界とデータ世界、両方を脅かす怨霊は消え去った。

 様々なイレギュラーが起こりながらも、この世界に住まう者たちは元の記録の通りに生活を続けていく。

 日が落ちて、少し経ったその時、新しき命が産声を上げる。

 

「おめでとうございます総二様! 元気な女の子ですよ!!」

 

 出産に立ち会いながらも不安気であった総二さんの表情がぱぁっと明るくなる。

 産まれてきた我が子とそれを産み切った妻相手に涙を浮かべながらも祝福する姿は、見ているだけの俺たちがどう言葉にしても、本人たちの感動は表現しきれないだろう。

 でも、愛香さんの「やったよ、そーじ」のその一言が心にジーンと響いてくるのは俺たちとしても何と言うか感慨深いって奴だ。

 

(産まれた……な)

 

(うん。そうだね)

 

 見守る俺たちの姿は周囲には見えていない。

 この世界に来ることになった元凶であるウイルスを倒した事で、現実世界の基地の機能が完全復旧、ある程度このデータ世界内への干渉が出来る事になった結果、現実の方のトゥアールさんに頼んで俺たちは周囲に気づかれぬようにこの世界に残っている。

 勿論、それら全てはティアナが見て見たいといったからだ。

 

「ねぇ見てそーじ、この子、女の子の時のそーじそっくり」

 

「ああ、そうだな。でも、目元は愛香の方が似ているんじゃないか?」

 

 産まれて直後の検査を終えた我が子を抱きながら触れ合う父と母。

 この時ばかりはいつも変に茶化すこの時のトゥアールさんも二人を暖かく見守っている。

 俺とティアナはその姿を見て、この時からこうだったんだなと頷いた。

 

「ねぇそーじ? そういえばまだ名前決めてなかったよね」

 

「うーん、そうだな……」

 

 これは後から知った事だが、総二さんも愛香さんも名前をどうするかについては産まれるまでかなり長い間考えていたらしい。

 しかし、どうもいい名前が出てこなかったのだろうという事はこの時の様子から見てもわかる。

 名前は子が親から授かる最初の宝物だ。

 そりゃあ悩みもするし、中々いい物が出せなくて苦労もするだろう。

 

「やっぱり、『そーら』もしくは『そうら』って名前がいいと思う。ダメかな?」

 

 総二さんの口から出てくるその名前。

 その呼び名は俺が嘗て出会ったツインテールの女神様と同じものだ。

 恐らく、それがいいと思ったのは、その女神ソーラへの想いが総二さんの究極のツインテール属性と重なり、自然にそうさせたのだろう。

 

「ううん、あたしもそれでいいと思う」

 

「そ、そうか……!!」

 

「でも、字はどうしようっか」

 

 呼び名は決まっても、文字でどう書くかも名前には重要だ。

 漢字、カタカナ、ひらがなと総二さんたちが住まう日本には文字は多く、それに伴う意味をまた多い。

 出来れば意味のある字にしたいなと思った時、トゥアールさんが手を上げる。

 

「それでありましたら、私が提案してもよろしいでしょうか?」

 

 そうしてトゥアールさんが提案した名前。それが総愛であった。

 総二さんの総と愛香さんの愛。二人の名を組み合わせてその呼び名に行きつくのはある意味、神様からのお告げなのか。

 二人の幸せを心から祝い考えたトゥアールさんのその名に二人は一切の文句も言わず了承する。

 結果、ここに観束総愛が産まれたんだ。

 

 

 

 

「お二人とも、おめでとうございますわ!!」

 

「ほう、これが観束と津辺……いや、観束と観束の娘か……」

 

 それからしばらくして、もう夜も遅くなりそうな時にツインテイルズの仲間たちが続々とやってくる。

 母子共々、産後の検査を終え共に良好。

 専用の個室内は俺たちも知っているような人たちでいっぱいだ。

 勿論、今来た大人の慧理那さんとそのお付きのメイドさんより先に未春ばあちゃんや恋香おばさんといった親組も来ている。

 

「こ、これが赤ちゃん……!!」

 

「そうやでイースナちゃん。イースナちゃんもいつか赤ちゃんみせてなぁ」

 

 アイドル衣装を着こんだままやってきた眼鏡の女性と一緒にやってきたサメの着ぐるみ。

 誰よりもあやすのが上手いあの着ぐるみの中の人はきっと熟練のおかんだろう。

 

「これが総二の娘か~。いつか戦ってみてえな!!」

 

「まてまて唯乃!! 気が早すぎるぞ!!」

 

 快活そうなポニーテールを揺らし、悪意なく純粋にそう言ってのけた唯乃さんとそれを慌てて止める総二さん。

 かなり久しぶりに見た唯乃さんの姿に俺もティアナも懐かしくなる。

 

「今からでも、ロエルたちの娘って事に出来ないかな~」

 

「姉様……流石に今はよそうよ……」

 

 少し小柄な双子らしき女性二人。

 姉と思しき方の少し危なげな発言もこのムードの中では冗談にしか聞こえない。

 彼女たちもまた、ツインテイルズの仲間なのだろう。

 いつの間にか、大量にいる女性たちの姿を見て、総二さんってモテモテだなと少し嫉妬したくなるが、赤ん坊の総愛の泣き顔一つみせない笑顔を見てそんな気持ちは吹っ飛んじまう。

 

(すげぇな、総二さんって)

 

(そりゃあ、私のお父さんだもん)

 

 胸を張るティアナを見て俺もまた誇らしくなる。

 じゃあそろそろ帰るかと言おうとした時、愛香さんとトゥアールさんがふと思い出す。

 

「そうだ、そーじ。さっきエレメリアンを倒したのって……」

 

「そうです総二様。先程、見知らぬ反応がありましたが、あれは一体……」

 

 そう問われた総二さんが、俺たちの事を喋り始めた。

 さっき助けてくれた紫のツインテール、それはどこか知っているようで知らない不思議な感覚。まるでもう一人の自分か、もう一人の愛香が助けてくれたみたいだったと総二は語った。

 皆がそれを聞き、不思議がる中、未春ばあちゃんと恋香おばさんは二人顔を見合わせ笑う。

 ティアナが俺の手を引き、俺たちは誰にも認知されぬまま部屋から出た。

 

(もういいのか?)

 

(うん。もう大丈夫。これはあくまで記録の中、私には今がある)

 

 晴れやかな笑顔だが、どこか寂しさも感じるティアナの表情。

 俺はそれを見て、とある事を思いつき、帰還する報告を入れた際にティアナに気づかれぬようトゥアールさんにこっそりとその事を頼み込んだ。

 

『わかりました。難しいかもしれませんが、やってみましょう』

 

 これがティアナの誕生日プレゼントになればいいのだがな。

 そう心に思いながらこのデータの世界から帰還する。

 最後、病院の中で姿を消しゆく俺たちが見たのは正史には存在しないあの男の姿。

 

「やはり想定より早い。まさか娘のツインテールは……」

 

 邪悪な笑みを浮かべていたのはアナザーテイルレッドことレイジ。

 奴がこの後、どのように暗躍をして今に至るかはもう知っている。

 消えゆく中、産まれてきた総愛へ幸あれと俺たちは願うのであった。

 

 

 

 

 騒ぎがあった次の日となる2月2日。

 一般的に節分の前日でツインテールの日とされる今日は待ちに待ったティアナの誕生日。

 昨日は地球がなくなってしまうかもしれなかったというのに、そんな事を微塵も感じさせない誕生日パーティーは無事開くことが出来た。

 

「誕生日おめでと!! すっごいねここ……!!」

 

「よくこんな場所借りれたね~」

 

「絶対レンタル代、高かったでしょ」

 

 招待した参加者であるクラスメイトの何人かが会場の広さに驚愕し、その事を口にしてはティアナがまぁねと返す。

 本当はトゥアールさんが地下基地の奥に新たな作った場所がここであってレンタル代など存在しない。ならどうしてみんながそれに気づかずそんな事を言うのかについては、会場の入り口を地上にあるとある建物の入り口同士で空間を繋げ、そうとは知らずに参加者が地上の入口から中にやってくるからだ。

 空間を繋げるという簡易的なワープ装置を作ってしまうのなど今更苦労もしないですよというのはトゥアールさんの弁だ。

 

「いやはや、こんな自分も招いて頂けるとは。教師として、こんなにうれしい事はありまん!!」

 

「えーっと……堀井先生、泣いているんですか?」

 

「勿論ですよ華先生!! 教え子の成長は教師の夢!! 幼くあどけなかったあの子が立派な大人に成長した姿を見れるなんて夢のようではありませんか!!」

 

 んな大袈裟な。てか、お前とティアナは今年あったばかりだろ。何、ガキの頃から見てましたって感じの雰囲気だしてんだよオイ。

 暑苦しく感動する堀井へ冷めた視線を飛ばす。

 

「昨日の騒ぎが嘘のようね」

 

「お、悠香さん。楽しんでんじゃん」

 

 そこらのテーブルに並べられた料理を片手につまみながらこちらに話しかけてきたのは悠香さん。

 その後ろには匠と青葉さんの姿もある。

 

「あとでティアちゃん借りるわよ~折角の誕生日、取材しない訳ないしね」

 

「それはいいけど、アイツ今忙しいぜ」

 

 ティアナは現在、参加してくれた人たちに挨拶したりでそこらを回っている。

 随分となれた様子なのは元いた世界でこれ以上の規模や参加者相手にやっていたからだろう。

 昨日の体験した記録の世界で見た、実家の喫茶店の常連たちの個性豊かな姿を思い出す。確か、石油王とか他国のトップとかいたんだっけか?

 

「そういや和輝、お前の婆ちゃん来てたぞ」

 

「は? マジかよ!!」

 

 匠の指さす方を向くと、そこには着物姿でバッチリ決めた婆ちゃんがトゥアールさんに話しかけている所であった。

 俺としては、とある奴らを呼んだ都合上、婆ちゃんには不参加にしてほしかった。

 しかし、こう来てしまっている以上はどうしたもんかだ。

 

「おばあ様、例の物はこちらに……」

 

「これは悪いねぇ、でも、おかげで心置きなくあの世に行けるってもんだよ……」

 

「おい婆ちゃん!!」

 

「なんだい和輝。どうしたんだい」

 

 今、婆ちゃんの奴、トゥアールさんからディスクみたいな物を貰ってなかったか?

 一瞬そんな事を思うが、まずは外へ出そうと意識を切り替える。

 慌てながらも婆ちゃんを外へ出さんと駆け寄るそんな時、奴らがやってくる。

 

「「「テイルバイオレット親衛隊!!! ただいま到着いたしました!!!」」」

 

 会場入り口で響く大勢の声。

 やってきたのは今や日本においてトップクラスの規模を誇る暴走族もとい珍走団、テイルバイオレット親衛隊。とある一件で改心し、俺たちの舎弟のような間柄となった奴らだ。

 

「成程、和輝君が呼んだのは彼らでしたか」

 

「いやま、アイツらならこの広さにも見合うかなと思ってよ……」

 

「なんだいありゃ、和輝の友達かい?」

 

 いや、どう見ても友達とか言えるような奴らには見えねぇだろ。

 いやまぁ、当たってると言えば当たってはいるけど……

 

「姉貴、いや、兄貴!! 今日は姐さんの誕生日パーティーに俺たち招待してくれてありがとうっす!!」

 

「まぁ……騒ぎすぎねぇようにな」

 

「勿論ですよ!! いいかお前ら!! 今日は兄貴や姐さんにとって大事な日!! くぐれも失礼のないようにだ!! どんな時でも『心にテイルバイオレット』の気持ちを忘れるなよ!!」

 

「「「ッたりめぇよぉッ!!!」」」

 

 堀井とは別の意味で暑苦しい奴らだ。

 まぁ、悪い奴らじゃないからこれ以上は責めれねぇんだがな。

 

「懐かしいねぇ。昔を思い出すよ」

 

「おばあ様、あなたもしや……」

 

 親衛隊のアホ共を見て何かを思い出す婆ちゃんとそれに気づくトゥアールさん。

 もしかして何か気づいたのか?

 よくわからないが、それがもしテイルバイオレットの事なら誤魔化す必要性がある。

 大変だが、テイルバイオレット及びアイツらのごまかしはしっかりやるとしよう。

 事情を知らない堀井含めたクラスメイトの連中から余計な誤解を生んでいるのは別の話だ。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……疲れた……」

 

「私も……」

 

 あれから少し経った。

 俺は何とか婆ちゃんへのごまかしに成功(?)し、ティアナは挨拶を一通り終えた。

 俺たちは現在、少し休憩するという体で会場の外に移動している。俺は兎も角、ティアナは折角の主役だってのにこの疲れっぷり、慣れてるとは言っても中々に大変なんだなと少し同情しちまうぜ。

 

「で、どうだ? 俺たちの誕生日パーティーも結構なもんだろ?」

 

「そうね、こんなになるなんて思ってなかったからびっくりしてる」

 

「俺もだ。こんな規模のパーティー、企画するのも参加するのも生まれて初めてだよ」

 

 でしょうねと笑うティアナ。

 そんなティアナに俺は二通の手紙を送る。

 

「これ、夢宮ヒカリと滝の奴から。両方とも忙しくて参加できねぇみたいだが、祝ってくれてるみてぇだぜ」

 

 参加できなくても祝ってくれる友人たちもまた多い。

 いつの間にかこうも仲間たちが増えていたのかと俺もティアナも感慨深くなる。 

 

「あとは、お父さんたちがいればなぁ……」

 

 手紙を読み終えたティアナが思わずそう声を漏らした。

 気づく本人は慌てて誤解であると説明する。

 

「ち、違うのこれは!! 寂しいとかそういうのじゃなくてね!!」

 

「バーカ、無理すんなっつーの」

 

 こうなる事は昨日の出来事から何となく予想はついていた。

 自身のツインテールをいじり、必死に落ち着きを取り戻そうとするティアナへと俺はトゥアールさんから受け取った例の物を放り投げる。

 

「ちょ、ちょっと!? 何よこれ? トゥアルフォン?」

 

「連絡通話用の専用型だ。そこを押せば、ある所に繋がる筈……だってさ」

 

 言葉を濁したのは、目当ての所へ通じる保証がないからだ。

 昨晩から徹夜で作ってくれたトゥアールさんが言うに確率は約2割。

 心の中で祈りながら俺はティアナがそのボタンを押すのを見つめる。

 頼む奇跡よ起きてくれ……!!

 数秒の砂嵐(ノイズ)の果て、それは聞こえてくる。

 

『……お、おい…! き…くれ……あ…い……か……!!』

 

「この声……!!」

 

 徐々に徐々に鮮明となる映像。

 そこに映るのは俺にとって初めてではないが、初めましての存在。

 赤い髪が特徴の優し気な雰囲気を持つ男性……

 

『総愛!! 総愛じゃないか!!』

 

「お父さん!!」

 

 ティアナがそう叫ぶ画面に映る人物、それはティアナの父である観束総二その人。

 驚きと喜びと涙でぐちゃぐちゃになるティアナが振り向き、どうしたのとばかりに尋ねてくる。

 

「なーに、昨日トゥアールさんにお願いしてな。少しでいいからお前がいた世界もとい次元に通信する事が出来ないかってさ」

 

「和輝……!!」

 

 俺が作った訳じゃねぇが、これが俺が思いつく誕生日プレゼントだ。

 喜んでくれたのなら俺としても本望だぜ。

 

『どうしたんだ総愛!! そこにトゥアールはいるのか!?』

 

『こらトゥアール!! 勝手にどこ行って何してるのよ!!』

 

「お母さん……!!」

 

 総二さんと共に映るのはティアナの母である愛香さん。

 口ではああ言ってるが、心配しているがバレバレだぜ。

 

「はいはいこちらトゥアール。お久しぶりです、総二様に愛香さん♪」

 

「うおっ、いつの間に……」

 

 いつの間にか現れたトゥアールさん。

 向こうの画面に映っているであろうその姿を見て、向こう側もまた心配したんだぞの安堵する声が聞こえてくる。

 

「いや~かくかくしかじか色々ありまして、報告が遅れてしまいました。ですがこの通り、総愛は無事、このトゥアールママが保護しています」

 

『よ、よかった……!! 二人とも無事だったんだな!!』

 

『でもだからってもう少し早くに連絡しなさいよ!!』

 

 声を荒げる愛香さんとまぁまぁと宥めながら深く安堵する総二さん。

 今まで出会ってきた年代はどれも違うが、間違いなくあの人たちだとわかる安心感がある。

 

「それよりもお父さん、お母さん!! 見て見て!!」

 

「うおっい!?」

 

 突如、ティアナに腕を引っ張られては画面の前に出されてしまった。

 二人の目が合ってしまい、気まずさが半端ねぇ。

 

「あの……初めまして……」

 

『き、君は……』

 

「この人はね、私の相棒であり彼氏、私と二人で一つのツインテールなんだ」

 

『『えええええ!?』』

 

 驚く画面向こうの二人。

 そりゃあそうだ。久しぶりに連絡取れた娘がいきなり男出してこれが彼氏ですなんて言ったら仰天するにきまってる。てか、場合によっちゃいらん誤解までされちまうぜ。

 

『ちょっと総愛!! なにがあったの!? 説明しなさい!!』

 

「あら~愛香さん? 少し見ないうちに老化進みましたか~? 察しが悪いだなんてかつての脳内桃色蛮族の名が泣きますよ~」

 

『帰ったら覚えてなさい。専用の墓を用意して待っていてあげるわ』

 

 さらりと言ってのける処刑宣言。

 それを聞いたトゥアールさんは恐ろしそうに身体を震わせるが、どこか嬉しそうな様子でもある。

 

『で、何があったんだ?』

 

「うん、まぁこっちで色々あってね」

 

 その後、親子久しぶりの会話に交じりながら今までの事を話していく。

 元凶であるアナザーテイルレッド、俺とティアナで変身するテイルバイオレット、こちらの世界はそっちの世界とは歴史の異なるまた別の平行世界もとい平行次元。その他にもこちらで体験した数々の思い出を楽し気にティアナは語り続けた。

 通話できる時間はあまり長くなく、夢のような時間はあっという間に過ぎていく。

 残された時間はもう僅かだ。

 

「じゃあお父さん、お母さん。またいつか絶対に帰るから、今はまたね」

 

『もしトゥアールに何かされたら後で言いなさいよ』

 

「大丈夫よお母さん。ママが変な事したら力尽くで止めるんだから」

 

 ぞーっとするトゥアールさんを尻目に笑う母娘。

 俺は俺で総二さんに声をかけられる。

 

『和輝君?』

 

「は、はい」

 

『あの子を、総愛をよろしく頼む』

 

「は、はい!!」

 

 身が引き締まるとはこの事か。

 今俺は、とても大事な物を託された……

 そんな気がする。




今回はいつか書きたいなと思っていたシーンばかりでしたがいかがでしょう。
話の都合上、あまり出てこれない総二たち原作組ですが、こういった登場でも満足していただければ幸いです。
次回からは本筋の最終章にあたる部分に入ると思います。
長かった本作品ももうすぐで終わり……かな?
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