俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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夏休み楽しかったです(サボってただけ)


第170話 不吉の予感

 人っ子一人どころか、その他の虫や植物といった生命一つ存在しえないこの世界、ビエルプラネット。

 そこのとある一角、地平線の彼方をも一望できる荒野にて立つのはもう一人の赤きツインテールであるアナザーテイルレッド。

 

『それでは最終テストを開始する。準備はいいな?』

 

「ああ、構わねぇ」

 

 どこからともなく聞こえてくるのはこの地の現在の主である、ベリアルギルディの声。

 アナザーテイルレッドが頷くや否や、目の前の地面がパックリと割れ、ロボアニメにありがちなカタパルトが地下から上がってきては、そこに乗っていたいくつもの異形が現れる。

 それはどこかで見たことあるようなエレメリアンのようでエレメリアンでない物。

 生気もなく、ただ本能のみで動く彼らはベリアルギルディの天才的超技術で生み出されたクローンであり、ベリアルギルディによって操られる意思なき兵士だ。

 どんどん数を増やし、いつしか辺り一面を覆い尽くす程の膨大な数を見ても、アナザーテイルレッドは不敵に笑う。

 

「さて、何分……いや、何秒もってくれるかねぇ」

 

 深紅の大剣ブレイザーブレイドを片手にそう呟くアナザーテイルレッドは新しき力を取り出す。

 それは禍々しき黒いデバイス。

 ベリアルギルディが作り出した対属性力専用装備。

 

「テイル……オン……」

 

 普段と同じ変身機構起動略語《スタートアップワード》だが、アナザーテイルレッドの姿に変化が起きる。

 血のように赤い深紅はより深く、よりどす黒く、装甲の各種赤きパーツはその色を濃く変え、僅かに残っていた白は邪悪な黒と無機質な銀に。元々オリジナルよりも攻撃的でトゲトゲしい部位はその鋭利を増していく。フォーライザーやアルティメットのような派手さこそはないが、一目で危険であると感じさせるその変化はまるで彼自身のツインテールが嫌がって抵抗しているかのような歪さを与える。

 そして数秒後、赤と黒のスパークが全身を走り、その変化は完了した。

 元々の悪女へと成長したテイルレッドをイメージした現在のアナザーテイルレッドの姿は、そのイメージを推し進めるかのような危険な魅力を発している。

 

『変身自体は良好。しかし、やはりツインテールに変化はなし……か』

 

「おいおい、随分と軽く言ってくれるじゃねぇか。結構、身体(ツインテール)に負担かかってんだぜ」

 

 今日までの調整で幾度となくこのデバイスに宿る魔性の力を抑え込んだ男であっても、この力は負担が大きい。

 ただ、それ即ち、力の強大さを表す。

 

「ま、この程度なら問題はねぇがな」

 

 アナザーテイルレッドがブレイザーブレイドを片手にクローンエレメリアンの群れへと向かっていく。

 何千、何万と膨大な軍勢VSたった一人のツインテール戦士。

 その決着は正しく一瞬であった。

 

 

 

 

『テスト終了。どうやらオレ様の想定以上だったという訳だな』

 

 クローン故に爆発せず消滅もしない積みあがった大量の残骸の上にアナザーテイルレッドが腰を下ろす。

 その瞳はただ真っすぐにこれからの戦いを見据えていた。

 

 

 

 

 放課後、都市部繁華街にてエレメリアン出現の報告が入り、俺とティアナと華先生の三人は現場まで急ぐ。

 あわや地球最後の日となりかけた基地内での騒動から今日でもう約10日。エレメリアン出現だけで考えれば先月末のアスモデウス戦後に数体とやり合ったはぐれエレメリアン以来となる。

 ここ最近はめっきり敵も出てこなくなって油断しきっていたが遂に来たか。

 まぁでも、トゥアールさん曰く、反応自体は前回のアスモデウスギルディたちと比べてそこまで強い相手ではないとの事。一応、俺も油断せずにはいくつもりだが、何分久々の戦闘となる訳で少し不安が勝る。気を引き締めていこう。

 

(そこの角を曲がった先の通り、反応は近い……!!)

 

 エレメリアンの持つ微弱なツインテール属性を感知するティアナの指示に従いビルとビルの間をかけるこの俺テイルバイオレットとテイルブルーム。

 

「ねぇバイオレット? 本当に今回も七つの性癖ではないのよね?」

 

「ああ、どうやらそうらしい。トゥアールさんも言ってたけど、ティアナもそう言ってる」

 

 ベリアルギルディの放つ、ティアナを狙う刺客、七つの性癖。

 嫉妬、傲慢、憤怒、強欲、色欲、怠惰ときて残りは確か暴食。

 ここら一帯はレストランや居酒屋、ラーメン屋にスイーツショップと様々な飲食店が立ち並ぶ街故にもしかして今出てきた敵が暴食の性癖の持ち主なのかと疑ってしまうのは仕方ない。

 

『出撃前同様、今も反応自体は今までの七つの性癖ほどそう強くありません。ですが、はぐれのエレメリアンよりは反応が強く、フェイクの可能性も考慮してもいいでしょう』

 

 そう、その可能性も捨てきれない。

 敵がどんな奴かは実際に戦ってみないとわからないのはよくある事だ。

 多少の不安と緊張を抱えつつも敵がいる通りへと出る。

 

 

 

 

「ヒャッハー! 少し早いがハッピーバレンタインだぜ!!」

 

 その通りは本来、少しこじゃれたスイーツショップ立ち並ぶエリアだった。

 しかし、その惨状は最悪の一言に尽きる。

 おしゃれな各店の外観をぶっ壊すかの如く、茶色のドロドロとした液体がカカオの香りと共に辺り一面に飛び散り広がっている。形状と匂いからして恐らくあれはチョコ。溶けたチョコレートが周囲に巻き散らされ、街を汚している。

 そこを闊歩するのは今声を上げた狼を思わせるエレメリアンだ。

 

「俺様が用意した特製チョコ!! 受け取れい!!!」

 

 奇怪な大砲を構えるエレメリアン。

 大砲にホースで繋がっている背中に背負うタンクがゴトンゴトンと重々しく唸ると、次の瞬間には大砲からチョコレートの弾丸が発射され街を汚していく。

 

「な、何やってんだ!? あの野郎!?」

 

(バレンタインは明日……よね。というかそもそもそんなイベントじゃないでしょ!?)

 

 斜め上を通り越すなんてレベルじゃない行動に俺もティアナも困惑しかない。

 どうしてエレメリアンがバレンタイン(そもそも今日は2月13日)にチョコを巻き散らしていやがんだよ……

 物騒でもありファンシーでもあるその姿を見ても意図がイマイチわからない。

 

『もしかしたら、自分からチョコを配る事で明日の当日にお返しのチョコを貰おうとしているのかもしれません。レッド相手にそういった行動を行うエレメリアンは何度も見てきました』

 

 なるほどな、そういうパターンもあるのか。

 トゥアールさんの推測を聞いて頷く一方で、でもそれって普通のバレンタインというよりホワイトデーが先の逆バレンタインだよなとは思う。

 バレンタインってそういうイベントじゃないのは確かだ。

 

「最近のバレンタインというのはよくわかりませんね……」

 

「いや先生、どう見てもアレはおかしいですって」

 

 バレンタインに興味なさげなテイルブルームにツッコミを入れた後、俺たちはエレメリアンを止めに飛び出していく。

 丁度その瞬間、エレメリアンは逃げる人々を発見したようで、チョコではなく属性力奪取のリングを飛ばした。

 

「お返しは勿論!! 貴様らの属性力だ!!」

 

「んな事させっかよぉッ!!!」

 

「ん!?」

 

 チョコを巻き散らすのもいけないが、それ以上に属性力だけは奪わせない。

 その想いから加速する俺の身体は飛んで行ったリングの間に割り込み、瞬間的に手にしたウインドセイバーで真っ二つに斬り捌く。

 

「グランアロー!!」

 

「ぬおぉぉッ!?」

 

 遅れてやってくるテイルブルームが敵めがけて弓を引く。

 敵は辛うじて躱したものの、攻撃の手は止んだ。

 

「大丈夫か? だったら早く逃げろ!!」

 

「は、はい!! ありがとうテイルバイオレット!!」

 

 逃げ遅れた人々を逃がし、俺たちはエレメリアンと相対する。

 その姿を改めて見ると、雰囲気が随分と今までのエレメリアンとは毛色が違う。

 全体的な風格は強者のそれとは違うが、だからとてただの雑魚と切り捨てるには違う独特のオーラ。

 強さではなく、いくつもの経験で生き残ってきたタイプの戦士のそれと言うべきか。

 

「噂通り、貴様も貴様で中々の逸材だなテイルバイオレット。この世界にも来てよかった」

 

「どういう意味だ……? お前、アルティデビルの奴らじゃねぇのか」

 

 この反応、抜け出したはぐれでも、今なお在籍する奴らでもない。

 ならやはり、七つの性癖なのか?

 そう警戒する中、奴は堂々と名乗りを上げる。

 

「いかにも、俺は世界を股にかけるスイーツハンター、菓子属性(スイーツ)のディアボロスギルディ。今日、そして明日、バレンタインという名のこの聖なる日の為に貴様らツインテール戦士たちのチョコレートをいただきに来てやったのさ!!」

 

 つまりこの野郎は俺たちからチョコを貰うために世界を超えてはるばるやってきたって訳か。

 七つの性癖と無関係だと知り、少しばかり安心はするが、こんなしょーもない事の為に街を荒らすような輩を許すつもりはない。

 尤も、面と向かってチョコをくださいとだけ言いに来ていたとしても、キモいから無理って断ってたとは思うけどな。

 

「安心しろ。貴様らは明日の本番に向けての前座だ。明日の当日、俺はテイルレッドの世界に向かい、テイルレッドのチョコをいただく。貴様らはあくまで予行演習でしかない」

 

 不敵に笑うディアボロスギルディ。

 

「へぇ~随分と舐めてくれるな」

 

(あんたなんかお父さんたちの世界にはいかせやしない!!)

 

「こんな事をしておいて、私たちがそう簡単にあげると思ってるのかしら?」

 

 挑発ともとれる自信ありげな台詞に俺たちは闘志を燃やす。

 互いに武器を構え、敵の様子を伺いあう。

 

「甘いな、チョコレートよりも甘いぞ。俺が今日に至るまでどれだけのシミュレートを重ねてきたと思っているのだ」

 

 手に持っていた大砲を手放し近接戦の構えを取るディアボロスギルディ。

 さて、どう出てきやがる? 

 警戒する中、ディアボロスギルディはテイルブルームへと指を刺す。

 

「さて、それはそうとテイルブルーム!! 貴様は知っているか!! バレンタインというこの日にかける女たちの気持ちとそこにかける想いと言う物を!! 恋する事を知らぬ貴様にはわかるまい!!」

 

「な、何を言っているの!! そ、それが一体――」

 

「隙ありだ!!」

 

 テイルブルームに揺さぶりをかけ、それに反論しようと声を上げた瞬間、ニヤリと笑ったディアボロスギルディが手の中に隠し持っていた何かをテイルブルームの一瞬開いた口内へ目掛け射出した。

 

「うぐっ!? こ、これは……!?」

 

「先生!?」

 

「ゔっ……!?」

 

 あまりにも唐突すぎる出来事に反応できず思わず飲み込んでしまったテイルブルームが苦しみだす。

 まさか毒物でも投げてきたのか!?

 焦る俺とティアナへトゥアールさんが通信を送る。

 

『大丈夫です!! テイルギアで変身している以上は毒は効きません!! しかし、これは……』

 

 何かを知り困惑するトゥアールさん。

 直後、テイルブルームの顔が真っ赤に染まる。

 

「は、はへぇ~……にゃにこぇ……」

 

「先生!!」

 

(大丈夫ですか!?)

 

 トロンと顔をふやけさせながらぶっ倒れるテイルブルームの姿には見覚えしかない。

 これは酔っぱらった際の反応だ。

 まさかとは思うが、俺はディアボロスギルディへ問い詰める。

 

「お前、何を食わせた……」

 

「なぁに、度数80%の強烈なブランデーいりのチョコレートだ。テイルブルームは酒が好きだと噂で聞いたが?」

 

 チッ、やっぱりか……

 テイルブルームが咄嗟に吐き出せなかったのも恐らく、それが自身が好みとする酒の味を感じてしまったから。

 この敵、俺たちが思っている以上に俺たちを知っている。

 

「安心しろ、お前たち未成年にはこの味は強すぎる。酒は二十歳になってからだ」

 

(相変わらず、そういう所はきっちりしているのね……)

 

 んな事言ってる場合かよ。

 戦闘開始して早々にテイルブルームがダウンしちまうだなんて中々の相手なんだぞ。

 酔っ払いすぎて戦えないテイルブルームを基地へと転送し、一対一の状態でディアボロスギルディと相対しなおすが、奴がどんな手を使ってくるか見えず仕掛けることが出来ない。

 こちらの弱点を知っていると宣言され、実際にそれを突かれる様を見せられた事が奴に戦いの主導権を与える原因になってしまった。

 

「中々仕掛けてこんな。ならば俺からいくぞ!!」

 

 雄たけびを上げたディアボロスギルディが再び大砲を手に取り構える。

 

(来るわよ和輝!!)

 

「わーってるよ!!」

 

 発射される茶色の弾丸。

 間一髪で避けたそれは発射先を茶色に染める。

 

『まさか、敵の狙いは……』

 

 トゥアールさんが何かに気づく。

 俺はそれを尋ねようとするが、相手はそんな隙を与える事もなく大砲を乱射し続ける。

 

「ハッハッハッハ!! チョコっとでも当たってみろ!! それが貴様の最後よ!!」

 

「つまらねぇギャグ言ってんじゃねぇよ……クソ……!!」

 

(和輝、このままじゃ……)

 

「でもだからって、どう反撃するんだよ……!!」

 

 砲弾の雨ならぬチョコの雨。

 この際、多少の被弾は覚悟してでも奴に接近してやる。

 そう思うがしかし、敵の言った少しでも当たれば終わりの言葉が気にかかる。

 その直後、解析を終えたトゥアールさんが通信が響く。

 

『敵の攻撃に当たってはいけません!! そのチョコレートには目標に着弾と同時に固まる特殊な性質を持っているようです!! 一度当たれば、全身をチョコレートで固められてしまいます!!』

 

「んだとぉ!?」

 

 じゃあマジで当たっちゃダメな奴なのかよ。

 一見ふざけているように見えてその実恐ろしい攻撃に驚いたその時、避けた先の地面がチョコレートで覆われている事に気づく。

 ヤバイ、これ……

 

「ぐっ……!! 足が……」

 

 案の定、チョコで覆われ起伏の失った地面に足を滑らせ体勢を崩す。

 何とか立て直すも敵はその隙を見逃さない。

 

「終わりだテイルバイオレット!!」

 

「クソ……!!」

 

 避けきる事は出来ない。

 それを知った俺は咄嗟に防御の構えを取り砲撃を受け止める。

 がしかし、先に言われたとおり、そのチョコの砲撃は俺の全身を覆いつくし、そのままコンマ数秒にも満たぬスピードで固まりきる。

 

「……(動けねぇ……)」

 

(な、何よこれ……ツインテールが甘く変な感じ……)

 

 全身と言う全身がチョコで覆われ動けなくなる。

 傍から見ればその姿は恐らくチョコレートで出来たテイルバイオレットの像とでも言うべきくらいなのだろう。

 クッソ……どうするよコレ……

 

「……(おい、ティアナ!! お前の方は何とかできねぇのか!?)」

 

(そんな事言ったって、私だって髪の毛一本も動かせないわよ!!)

 

 全身をチョコレートが覆うこの状況で俺たちが出せる手は全くもって存在しない。

 幸い、一つの身体を共有している都合上、俺もティアナも互いに意思疎通は可能ではある。

 がしかし、逆に言えばそれ以外の誰にも今の現状を伝えることは出来ない。

 通信ではトゥアールさんたち基地にいる面々からの大丈夫なのかと心配する声が聞こえてくるが、返す術はない一方的な言葉ばかり。

 

「ハッハッハッハ!! どうやら手も足も出んようだなテイルバイオレット!! これぞ俺がコレクションしている甘き彫像。俺の目的は全世界に存在する数多のヒロインをチョコへと変え収集する事なのだ!!」

 

 最初に言っていた俺たちからチョコを頂くというのが、俺たちをチョコに変えて頂くというのは読めなかったが、これは要するに特殊性癖って奴か。この野郎が好む菓子属性ってのもお菓子を食べる少女が好きなのではなく、お菓子になった少女が好きって事かよ。

 勝利を確信しては聞いてもいない野望を口にするディアボロスギルディを前に何もできず何も動けない。

 次第にではあるが、意識も何だか薄くなっていく感じまでしやがる。

 

(和輝……凄く変な感じ……甘い感覚に溶けていくみたいな……)

 

「……(俺もだ畜生。意識を保つだけで精一杯だぜ)」

 

「さぁてもうすぐ時間よ!! 貴様を覆うそのチョコはじっくりと確実に貴様の意識を奪い、やがて内側から完全なチョコにしてしまうのだ!! 貴様の持つその属性力はあとで食す時にしっかりと頂いてやる!! それが貴様の最後よ!!!」

 

 薄れ始める意識の中、走馬灯のように今までの出来事が思い起こされる。

 いくつかの思い出を思い起こす中、俺とティアナはとある策を閃いた。

 

「……(そうだティアナ!! ブレイブチェインだ、ブレイブチェインの炎があればこんなチョコなんて溶かせるんじゃねのか!?)」

 

(そ、それよ!! でも、この状態でどうやってブレイブチェインを使用すれば……)

 

「……(そんなの……俺たちならやれる!! 俺たちが出来ると思えばこの力は答えてくれる!! そうだろ!?)」

 

(そうね!! 私たち二人のツインテールはこんなチョコに負けやしない!! 固められやしない!!)

 

 一人でだったのならきっとこの甘い闇に堕とされていたかもしれない。

 でも、俺たちは二人だ。二人で一つだ。

 燃え上がる想いも力も何もかもが二倍。負ける筈も通りもない!!

 

「……(燃え上がれ!! 俺たちの!!)」

 

(ツインテール!!!)

 

 そしてその瞬間、力は俺たちに答えた。

 チョコに覆われていたテイルドライバーが赤い光を放ち、そこから力を解き放つ。

 

「何!? 何だこれは!?」

 

 そして、その光はチョコで覆われた俺たちへぶつかるとその熱い想いが力となる。

 こんなチョコにツインテールが汚されてたまるか。

 俺たちのツインテールはこんなチョコに封じられる程甘くはない。

 

「……オアラぁッ!!!!」

 

「なーーっ!? 俺のチョコが溶けた!?」

 

 全身が熱く燃え上がるエクストリームブレイブへと強化変身。

 その熱波が全身を覆うチョコを溶かしては吹き飛ばす。

 ディアボロスギルディはそんなバカなとばかりの反応を見せる。

 

「耐熱処理は完璧だったはず……!! なのにどうして……!!」

 

「そんなの、俺たちの想いが上回ったからに決まってんだろうがこのボケ!!!」

 

(覚悟しなさい!! 女の子にとって大切なイベントをあんたなんかに邪魔させない!!)

 

 後はもうこっちのものだ。

 ディアボロスギルディは再び俺たちを固めようとチョコの砲撃を再開するが、今の俺たちに当たる訳も効く訳もなく、飛んでくる砲弾は全て無力化。精製した二本のウインドセイバーが熱い斬撃の下、奴の身体を切り裂いていく。

 そして、その力が全開する。

 

「「エクストーム!! ブレイザァーーーッ!!!」」

 

「はぎゃあああああっ!?」

 

 炎と風、必殺の二連斬を喰らい燃え上がり爆発するディアボロスギルディ。

 かくしてバレンタイン前日に起こった戦いは終わりを告げた。

 街中に散乱したチョコの跡はエクストリームエモーショナルの水の力で洗い流せば綺麗さっぱり元のままだ。

 

『お疲れ様です。それにしても中々、厄介な相手でしたね』

 

「全くだ。女の子をチョコで固めたいってどんな性癖だよマジで」

 

「ちょっと気持ちよかったけどね」

 

 お前、マジで言ってるの? 

 ティアナの発言に少し……というかかなりドン引き。

 曰く、髪が痛まないように出来るのであればツインテールの穂先にチョコを浸してチョコレートフォンデュならぬツインテールフォンデュをしてみたいなと思ったらしい。

 

『チョコレートを纏うのはちょっと……遠慮します……』

 

 昔、愛香さんたちとバレンタインの時に何かあったんだろうな。

 それこそ、今みたいに自分自身がチョコレートになっちまうみたいな話が。

 トゥアールさんの言葉にはそう感じ取れるくらいの含みがあった。

 

 

 

 

 異形の怪物にチョコにされかけるという一生に一度も体験したくない出来事を経た次の日。

 今日はそう、男にとってある意味では一年で最も重要なイベント、バレンタインデー。

 夢も何もないような冷めた奴ならバレンタインなど菓子会社が決めた陰謀みたいなものだろうと鼻で笑い関係ないと振る舞うが、一般的な男どもは今日こそが天国と地獄を決める審判の日であると認識する。

 かく言う俺も去年まではそうだった。

 お世辞にも行儀よく過ごしている訳でもないこんな俺ですらこの日に至っては少しでも真面目に振舞おうとする。振り返るとなんとまぁ滑稽で馬鹿らしいが、それほどの価値が今日貰えるチョコには存在するんだ。

 尤も、今年は違う。

 

「お前ら、わかってるな」

「ああ、俺はこの日の為にどれだけの準備を」

「恨みっこなしだぜ……チョコは全部俺のものだ」

 

 校門を過ぎた辺りにて男子生徒の何人かが集まってはひそひそと何かを話し合っている。

 チラッと見た中で匠の姿も発見できたが、俺からすればなーにやってんだかって感じだぜ。

 

「みんなそわそわしすぎじゃない?」

 

「今日ってそういう日だろ? 経験ねぇか?」

 

 野郎どもの異常な雰囲気が気になるティアナへとそう尋ねるが、本人はいや別にと微妙な反応を示す。

 強いて言えばと語るのはバレンタインはお父さん宛てのチョコが世界中から届いて処理に困ったという斜め上の思い出。

 わかってはいたが、流石だ。

 

「なぁ、ティアナ。それよりもそろそろ……」

 

「何が?」

 

「いや、後ででいい」

 

 いけねぇいけねぇ。ここで変に焦ってキモい言動を見せたら貰える物も貰えねぇ。

 きっとティアナの事だ。平静を装っているが、意外と内心ドキドキでタイミングを見計らっているに決まってる。

 ここで取るべき行動はずばり我慢。焦りは禁物だ。

 心の中でそう自分に言い聞かせた俺はマシントゥアールを駐車した後、ティアナと共に教室へ。

 その道中に聞こえてくる阿鼻叫喚はこの時期だからこその風物詩。

 辿り着いた教室でも同様だ。

 

「で、どうだった……?」

「俺か? フッ、聞くな……」

「見ろよこの袋、何も入っちゃくれねぇ」

「これ、母さんのです……」

 

 何と痛ましい。これが非モテの現実か。

 母親から貰ったであろう板チョコを涙ながらバキバキ割って食べる男の悲しき姿よ。

 性格悪いって言われるかもだが、すこし優越感に浸ってしまう。

 

「おい和輝、お前はいいよな……」

 

「お、匠じゃねぇか。で、どうだったんだ?」

 

「うるせ~!! わかったこと聞いてんじゃねーよ此畜生!!!」

 

 首根っこ掴んでぐわんぐわんと揺らしてくる匠。

 いつもならやり返す俺だが、今日は特別に受け止めてやる。

 なんてったって、俺にはティアナという彼女がくれる最高のチョコが……

 

「あ、ごめん和輝。言い忘れていたけどね、今日のチョコなんだけど、実は用意してないの」

 

「へ? どゆ事?」

 

「いやだって、昨日あんな事があった訳じゃない? チョコなんていらないかなって思って」

 

 はい? じゃあなんですか? 俺は一人で勝手に貰えるとばかり勘違いをしていたと?

 いやまぁ、確かに昨日はチョコにされかけましたし、もう俺ら付き合ってからそこそこ経って今更チョコの一つ上げないからって仲が壊れるような関係じゃあねぇけどさ。

 でも、だからってチョコなし?

 バレンタインなのに好きな子からのチョコなし?

 他の連中見て優越感に浸ってたのがバカみてぇじゃん。

 これじゃ俺、ただ嫌な奴で、話のオチに使われるだけの愚か者じゃん。

 

 みるみるうちに全身から生気が抜けていくこの感覚。

 目に映る景色全てが灰色に染まりそうになるそんな時、ティアナがフフっと笑う。

 

「なーんてね、そんな訳ないでしょ。ちゃんと用意してるわよ。昨日、ママと一緒に頑張ったんだから」

 

 はい、と俺と匠の両方にティアナが小さな箱を渡してくる。

 一瞬、何が起こったかわからなかったが、それがチョコであるとわかった俺たちの動きは早かった。

 互いにそれぞれの箱を手にし、箱を巻くリボンを取っていく。

 匠の物は茶色の箱に赤のリボンという比較的オーソドックスな物、俺のは赤紫の箱に青紫のリボン。

 開けた箱の中にはツインテールを象ったチョコが入っていた。

 

「おぉ~すげ~!! ツインテールしてんじゃん!!」

 

「お前らしいな……よくできてる」

 

「ちょっと苦戦したけどね」

 

 本人はそう言っているが、チョコの形はすげぇ綺麗なツインテールだ。

 ツインテールの双房をハートを思わせるように形作るのはデザインの勝利だろう。 

 

「これね、昔、お母さんがママたちと一緒に作ったチョコと同じなの」

 

「へぇ、通りで」

 

「ちょい待ち。ママたちって事はトゥアール先生も作ったの? あの人、ツインテールの形は作れないんじゃ……」

 

 いらんことに気が付く匠がそう指摘。

 するとティアナが鞄の中からもう一つの箱を取り出した。

 

「これ、昨日ママが私に教えるついでにって、くれたチョコなんだけどね……」

 

 そのチョコレートの形はティアナの物と比べるとやや不格好ながらもしっかりとツインテールと認識できる物であった。

 

「毎年毎年作ってるけど、今年は特によく出来たってママ言ってた」

 

「そっか……」

 

 このチョコを教えたのがもしトゥアールさんだとするのなら、どう感謝すればいいかわからねぇ。

 しっかりと味わって食うのが礼儀って奴なのか?

 如何せん、こんな気持ちの籠ったチョコを貰ったのは生まれて初めてだ。

 

「あれ、てかお前のチョコ、色違うくね?」

 

「うん? あ、確かに」

 

 匠が貰った物と俺が貰った物を見比べ気づく。

 匠の物は茶一色のミルクチョコレートだが、俺の物は左半分がミルクチョコレートで、右半分は白いホワイトチョコレートとなっていた。

 見比べれば一目瞭然のカラフルさだ。

 

「まぁ、そこはその……ね」

 

 顔を赤くし、もじもじ照れるティアナ。

 これが何を表しているのかわからない奴はいない。

 俺も俺で少し照れくさいぜ。

 

「くそ~!! お前ら惚気やがって~!! チクショーーーー!!」

 

 貰ったチョコを涙ながらバキバキ食べる匠。

 なんつうか、色々とごめんな……

 

「まぁそれはそうと、ありがとうな」

 

「いいのよ別に。それよりも早くしまいなさい。先生、もうすぐ来ちゃうわよ」

 

 おっと、いっけね、それもそうだ。

 あともう1分もしない内に担任が来てホームルームが始まっちまう。

 こんだけ盛り上がっておいてなんだが、授業及びホームルーム中にチョコを出しているのがバレたら没収されちまうのがうちの学校だ。

 急いで飲み込まんとする匠を尻目に、俺も俺で急いで貰ったチョコを鞄にしまおうとする。

 その時、俺の手が滑った。

 

「あっ……!!」

 

 滑り落ち、床に激突するチョコの箱。

 そんなに強く落とした訳でもないが、念のために確認。

 

「ちょっと、何してるの……って」

 

「ご、ごめん。やっちった……」

 

 そこまで強く落としてない事もあり、バキバキに割れる事は回避した。

 だがしかし、構造的な問題なのか、右半分と左半分の茶色と白の境界を境に真っ二つになってしまっていた。

 

「大丈夫よ。また作ればいいんだし、それよりも私がもっと頑丈に作ってないからいけないんだし」

 

 ティアナはそう言って許してくれた。

 申し訳なくなりながらも俺は割れたチョコをまじまじと見つめる。

 茶色と白、真っ二つになるツインテール。

 なんだろう、申し訳なさ以上に何か不吉な感じだ。

 何か、嫌な予感がするな……

 

 

 

 

 和輝たちがバレンタインを謳歌しているのと同じ頃。

 むさ苦しい男どもで溢れかえるアルティデビルの基地ではとてつもない大事件が起こっていた。

 

「な、何故……なぜお前がここにいる!?」

 

「ここは……我らエレメリアンだけの基地の筈!!」

 

 急遽発生した全員集合の連絡。

 アスモデウスギルディの敗戦以降、またも指導者を失ったこの基地の面々からすればそれは自分たちを導く希望を感じさせる。

 がしかし、辿り着いた大ホールで彼らを待っていたのは予想だにしない人物。

 赤い髪をツインテールに束ねた邪悪な姿、憧れのテイルレッドを侮辱するその容姿に不快感を感じない者はエレメリアンの中に存在しない。

 そう、彼女もとい彼の名は……

 

「「「アナザーテイルレッド!!」」」

 

 もう一人の赤(アナザーテイルレッド)がアルティデビルにやってきた。




ディアボロスギルディがもしツインテイルズと戦った場合、テイルレッドに本作と同じような感じで逆転されるか、もしくはチョコ化したテイルブルーを板チョコの方がまだマシと馬鹿にしたために怒りで逆転されるかの二択。

次回、アナザーテイルレッドがアルティデビルを乗っ取る……!?
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