俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
時はほんの少しばかり遡る。
それは世の男たちがやきもきし始めるバレンタインの朝。
和輝たちが暮らす日本において時刻が朝8時を回った頃であろうか。
この場所、アルティデビル基地では一部のエレメリアンがむさ苦しくもとある目標に向けて力を合わせていた。
「いいか、あともう少しで完成だ。時間までまだ間に合う!!」
「ああ、俺たちだってやれば出来るという物だ!!」
「ラストスパートだ!! 頑張れよ皆の衆!!」
一致団結し、一つの物ごとに取り組む姿を例えるなら、文化祭の出し物づくりか、はたまた合同で取り組むサークル活動か。
つい数週間前までの彼らの姿とは思えぬほどに皆がやる気に満ちていた。
一部とはいえ彼ら数名が集まり、共に作ろうとしているのは数週間前に閉鎖され、そして破壊されたエレメリアンが出撃する際の大型転送装置だ。
これがなければこの基地から人間たちの住まう世界に向かうことが出来ない。
彼らがこの装置を復元しようとするのは偏に今日がバレンタインデーであるという事に他ならない。
「絶対に貰うんだ。きっと……テイルバイオレットちゃんもテイルブルームさんも待っていてくれている!!」
そう、ここにいるエレメリアンの目的はテイルバイオレットとテイルブルームがくれる(予定の)チョコレートであった。
精神エネルギー生命体たるエレメリアンはチョコなど菓子を食料とする必要性は基本的にはない。がしかし、性別と言う概念を持ち合わせる彼ら男たちにとってバレンタインで貰えるチョコは話が別だ。それはたとえ、敵として対立している相手であっても貰いたくなるものなのである。
「しかしだ。あのテイルバイオレットだぞ。男勝りな彼女の事だし、そもそもチョコなんて用意していないのではないか?」
余った廃材を運ぶ一人のエレメリアンがふと呟いた。
それはある種当然の疑問だ。これまで戦ってきたあのテイルバイオレットが敵である彼らにチョコなんぞ用意している筈がない。
しかし、それを聞いたもう一人のエレメリアンがチッチッチッと指を振る。
「甘いな。その考えはチョコよりも甘い」
「何? どういう意味だ?」
「なぁに、よく言うではないか。普段ガサツで男勝りな少女ほど意外と乙女チックなのだよ」
「た、確かに……!!」
創作物の世界では一理ある。
だがしかし、悲しいかなこの物語においてそれはない。
彼らの一部しか知らぬ話だが、そもそもテイルバイオレットの正体は男である。
「待っていてくれテイルバイオレット!! 俺たちが君の気持ちを受け取ってみせる!!」
彼らは夢に向かって突き進む。
その為にも先ずは目先の目標である転送装置を修復せんと汗を流す。
優れた技術力を有するエレメリアンであるが、ここにいる者たちの元を辿ればアルティメギルという一大勢力に混ざらなかった半端者の集まり、技術力をベリアルギルディの提供で補っていた彼らにとってこれらの作業は困難を極める。
だが、目標の為に彼らは力を合わせるのだ。
(見ておりますかな……アスモデウスギルディ殿。我らアルティデビル、まだまだ負けませんぞ)
一部とはいえ皆が一致団結する姿をみて涙を流すのはこの基地内一の老兵アガレスギルディ。
数日前、ひと悶着こそあれど腐りかけていたこの基地の面々を再び立ち上がらせたのは彼が想いを馳せるアスモデウスギルディだ。
(他の者たちもこれに続いてくれればよいのじゃが……)
アガレスギルディがこの活動に参加しない者たちにそう願うそんな中、その装置は遂に完成というゴールの前まで来ていた。
起動自体は成功。後は最終調整と簡易テストだ。それさえ終えればここにいる皆でチョコを貰うべく出撃する……筈であった。
その時、皆のスマホに全員集合のメールが届いた。
「なんだ? こんな大事な時に誰だ?」
「送り主は不明……? 場所はいつもの大ホールか……」
「まさか、また別の者か?」
「いや、アスモデウスギルディ様が生きていたのかも……」
今までの経験からまた新たなエレメリアンがやってきたのではと考える者もいれば、戦死した筈の指導者が帰ってきたのではと考える者もいる。
吉と出るか凶と出るかわからぬこの連絡にどうすればと悩むのは皆同じ。
だが、結局は皆が向かう事になった。
先程の活動に参加しなかった面々が続々と合流しつつ大ホールへ向かう道中、集団の最後尾を歩くアガレスギルディがふと思う。
「まさか……バアルギルディ殿……」
この基地における最初の指導者たるバアルギルディ。
彼を最も尊敬していたアガレスギルディは彼が実は生きており、いずれ帰ってくる事を望む。
だがしかし、辿り着いた大ホールで待つのは高潔な魂をもつバアルギルディとは似ても似つかぬ邪悪な魂であった。
「お~お~。随分とまぁ暑苦しいねぇ~」
「「「!?」」」
真っ暗な大ホールにたどり着いた面々が続々と席に座っていく中、そんな空間を切り裂く荒々しい中性的な女の声。
どこか挑発的で嫌味ったらしい口調に皆がギョッと反応を示す。
声がした方向、大ホール中央の椅子が置いてある場所は暗闇で閉ざされていたが、皆の注目を受けて光が当たり、その影の正体が判明。
「な、何故……なぜお前がここにいる!?」
「ここは……我らエレメリアンだけの基地の筈!!」
視線の先、そこにふんぞり返るように座っていたのは赤い邪悪なツインテール戦士。
またの名をアナザーテイルレッド。
「よぉ、随分と辛気臭いなぁお前ら。チョコの一つでも貰えずクヨクヨしてたって感じかぁ?」
ピリつく空気をものともしない挑発的なアナザーテイルレッド。
不快感をあらわにした一部エレメリアンが動く。
「貴様!! 偽物風情が我らを愚弄するか!!」
「レッドたんの名を騙る愚か者に我らが裁きを!!」
「万死に値する!!」
飛び掛かったのは大勢のエレメリアン。
皆が皆、アナザーテイルレッドに対する不快感を持っており、その中でも特にテイルレッドへの憧れを持つ者が中心となり襲い掛かる。
一人一人で挑めば勝機はなくとも皆で挑めば勝算ありと自然に動きが重なった結果だ。
だが、それは甘いと言わざる得ない。
飛び掛かるエレメリアンたちを見てアナザーテイルレッドは不敵に笑う。
「元気だけは取柄。バカを褒める言葉はいつだって同じだな」
そして、ブレイザーブレイドを手にし振るう。
自制が効く一部の者たちはその時点で諦めたが、そうはいかなかった愚か者たちの末路は語るまでもないだろう。
圧倒的強者の振るうその一太刀は死神が振るう鎌のようにいともたやすく歯向かった多くの命を刈り取り、床に属性玉がだけが転がる。
絶対的な強さの壁が確かにあった。
「う、うう……」
「く、くぬ……」
「おいおい、もう終わりかよ。オレとしてももう少しはやる奴らだと思ってはいたんだがなぁ……」
中央の席にふんぞり返るその様はまるで暴君。
力に屈し、動く事すらできなかった者たちは、利口ではあるが、戦士としては情けないとしか言いようがなく、そのプライドはズタズタだ。
だが、生き残ったのもまた事実。
崩壊しかかる自身のプライドを必死に保ちながらも何人かの者は声を上げた。
「き、貴様は一体何をしに来たのだ!! この期に及んで正義に目覚めたなどとぬかすつもりではあるまいな!!」
アナザーテイルレッドがテイルバイオレットと敵対しているのは彼らですらも知っている事であり、すなわちアナザーテイルレッドが自分たちと同じ悪であるという事も知っている。
そんなアナザーテイルレッドがどうしてこの基地にやってきたのか。
考えられる理由は、正義に目覚めたか、あるいは同じ相手を狙う我々を滅ぼしに来たのかの二択。
しかし、答えはどちらでもなかった。
「オレが正義に目覚める? 違うな、このオレ、アナザーテイルレッドは正真正銘、悪の戦士。今更そんな事する程暇じゃあないな」
「ならば何故!!」
「はっ、そんなの決まってんだろ……!! 不甲斐ないお前らの為に来たのさ!!」
何!? と皆がざわつき、どういう風の吹き回しなのだと困惑する中、彼らにとってまだ見知った者がアナザーテイルレッドの背後に姿を現す。
「まだわからないのか。つくづく貴様らはこのオレ様を失望させてくれる奴らだな」
「お前は!?」
黒き翼を有する全身黒ずくめの黒き悪魔。
自らを天才であると自称するある意味では全ての黒幕とも言える影の支配者たるエレメリアン、ベリアルギルディ。
ベリアルギルディはアナザーテイルレッドの肩に手を回す。
「見ての通りだ。オレ様はこのアナザーテイルレッドと手を組むことにした。いつまで経っても目的一つも達成できず、不甲斐ない醜態をさらす貴様らはお払い箱と言う訳だ」
いつまで経っても目的を達成できない。
その言葉はここにいる誰しもがぐぬぬと不満を覚えるも言い返しきれない事実だ。
何度も何度も戦士を投入してもいつもいつもやられてしまうこれまでの戦いの日々は誰しもがよーく覚えている。
しまいには後からやってきた七つの性癖の大半に好き勝手されてはプライドを弄ばれるここ最近の彼らである。
「だがしかし、それは今までやられていった奴が俺たちの中で弱かっただけの事!!」
「そ、そうだ!! ここにいる俺たちはまだ負けちゃいない!! 俺たちが本気を出せばあんなテイルバイオレットなんか取るに足らない雑魚も同然よ!!」
言われ続けるのも癪と言わんばかりの勢いでいくつかのエレメリアンが必死に噛みつくが、それはどう見ても負け犬の遠吠えでしかない。
実際、ここに残ったエレメリアンは結果論ではあるが戦いから避けてきたものばかり。
命を大切にできるという事は危機管理が出来ているという事ではあるが、逆を返せばそれは命を懸けるほどの戦いからは逃げてきたともとれる。死地へ向かうことが出来る瞬間はいくらでもあったのだ。
「笑わせるな。本気を出したところで貴様らなんぞたかが知れている、それにその反論も聞き飽きたわ。貴様ら以上の実力を持つ七つの性癖がやられていったのがその証拠であろう? それに、貴様たちの一部がオレ様に隠れて何をしようとしていたかなどお見通しだがな」
ベリアルギルディの一言に一部のエレメリアンがうぐぐと黙り込む。
実際、ベリアルギルディが指揮権を得てからこれまでのように反抗する事は一度や二度ではなかったが、その時も殆どが同じ言い分であった。
「バレンタインだったか? 敗者がチョコレートをせびるとはなんとおこがましい」
「ほ~それは確かにまぁ情けねぇな。人間に情けを乞い、バレンタインのチョコなどに現を抜かそうとするとは……悪魔の名を持つエレメリアンが聞いてあきれるぜ」
追撃とばかりに発せられるアナザーテイルレッドの罵倒が彼らの心に突き刺さる。
罵倒される彼らは知らぬ話だが、アナザーテイルレッドは過去の経験上、エレメリアンという種をある意味では彼ら以上に知っているが故に、この発言は失望ではなく、挑発の意味が強かったりする。
尤も、この挑発を受けて完全に沈黙した様子をみて失望した事には変わりない。
「結局はこの程度か。こんな奴らでよくもまぁ坊主どもを仕留めようとしたもんだ」
「オレ様も同じ感想よ。バアルギルディめ、いくらモルモットであれば何でもよいとは言ったが、ここまでの能無しを集められるのは期待外れに程がある。だがしかし、おかげで話を進めるにはもってこいじゃあないか」
つまらなさそうな表情のアナザーテイルレッドとニヤニヤ笑うベリアルギルディ。
集まった全エレメリアンが黙り込んだのを確認したベリアルギルディは再度声を上げる。
「さて、では異論はあるまいな? これから貴様ら……いや、このアルティデビルはこのオレ、ベリアルギルディとアナザーテイルレッドの物となる。なに、貴様らには強く何も求めんし、何も変わらんさ。七つの性癖の下についていた時同様にオレ様たちの言う事を聞いて一生この基地内で惨めに暮らすがいい」
広がる絶望の空気。
アスモデウスギルディという今までの七つの性癖とは違う者のおかげでようやく彼らも立ち上がろうとしていた時にこの仕打ちはあまりに痛すぎる。
歯向かおうにも相手は自分たちよりも数段以上も上の存在が二人。
勝てるわけがない。
「なぁに、すぐに終わるさ。このオレ、アナザーテイルレッドが全ツインテールを手に入れてな」
真剣な面持ちでアナザーテイルレッドは虚空を見つめる。
そして、発令される完全な出入り禁止命令。
一部の使えそうな奴らを除いた全員がこれからの戦いに邪魔であり、小細工は不要と決めたアナザーテイルレッドによってそれは決められた。
「チョコ欲しかったな……」
「お返し、用意していたんだが……」
「また、来年があるさ……きっと」
「また……わしらは死んでしまうのか……」
集会を終え、皆がトボトボと自室に戻る際、最後尾を歩くアガレスギルディは一人呟く。
ようやく息を吹き返し始めた矢先のこれに無念しか感じない。
(バアルギルディ殿……やはり我らにはあなたが必要なのですじゃ……)
未来を想う老兵は白き悪魔を求めていた。
◇
「まだだ……まだバレンタインはおわらんよ……」
「そうだ!! 希望を捨てるな!!」
放課後となり、女子連中含めた大半の生徒たちが下校していく中、今朝同様に一部の男子生徒たちは未だ貰えぬ
本命など当然、義理チョコや友チョコすらも貰えぬ男たちの怨念にも似た執念というのは凄まじいなと感じずにはいられない。
「そうだみんな!! 俺たちには希望があるじゃないか!!」
「そ、そうか!! 俺たちにはテイルバイオレットがついている!!」
「テイルバイオレット様~!! 我らにチョコの恵みを~!!」
外に出ては、まるで古代人が行ったであろう雨乞いの儀式をするかのように男子生徒たちは手を広げ奇怪な様子を見せる。
そして、次第にそれに感化された他学年の生徒及び教員たちも集まり始めていた。
グラウンドの中央で行われていたそれはいつの間にかかなりの大所帯となっており、もはや新手の新興宗教だぜ。
「はぁ……勘弁してくれよ。どうしてあんなの見せられなきゃならねぇんだよ。んな事してチョコが降ってくる訳ねぇだろ……」
「まぁまぁ、いいじゃないの。平和って事でしょう?」
いつも通り新聞部へ向かう道中、グラウンドから聞こえてくる声を嫌と言う聞き続けている俺の気分は最悪だ。
ティアナは実に呑気だが、あんな気味悪いもん見せられて正気を保つのは難しい。
「そうだ和輝。たまにはファンサービスでもしてみる?」
「は? ファンサービス?」
「そうそう。変身して、世間一般のチョコが欲しい人にチョコレートを――」
「却下」
悪いがそんな事をやる義理まではねぇ。
俺が変身するのはあくまでツインテール、もしくはティアナを守る時に限る。
「大体、貰えねぇのも全部、自分の行いのせいだろ。都合よくテイルバイオレットにすがりやがって……」
今朝ティアナから貰ったチョコの半分をかじりながら俺はぼやく。
ティアナは苦笑いを浮かべた。
「いや、確かにそうかもだけどね。でも和輝、あなた今の姿を彼らに見られたら知らないわよ」
「上等だ。かかってくるならきやがれってんだ。全員蹴散らしてやる」
「あなたねぇ……」
何か言いたげな表情で俺を見るティアナだが、俺はそんなのどこ吹く風とばかりにチョコを腹の中に収めていく。
「そういや、匠の奴はどうしたんだ? あいつもこの後、部室に顔出すんじゃねぇのか?」
「えーっと……確か匠なら……」
ティアナが考える最中、丁度よく外から響きの良い声がこだまする。
「ヒカリちゃああーーん!! 君のチョコが欲しいよぉぉぉーーッ!!!」
「山村せんせーい!!! この堀井龍之介にもチョコをーーーッ!!!」
「馬鹿は揃って馬鹿か……」
「青春って感じね」
新校舎の屋上、俺たちが今いる旧校舎一階からもよく見える位置で仲良く夕日に向かって叫ぶ
全く、世間はバレンタインに浮かれすぎだ。
この調子じゃバレンタインのチョコ欲しさに昨日同様エレメリアンがやってきてもおかしくないな。
むさ苦しくチョコを懇願しに来るエレメリアン共の姿を想像してはうんざりするそんな時、部室がある方向から俺たちを呼ぶ声が聞こえてくる。
「和くん!! ティアちゃん!!」
「んだよ、今度は悠香さんか……」
この流れじゃまたバレンタイン関係だろ。
悠香さんの事だし、どうせ今日のバレンタイン事情でも聞きまわっているんだろと半ば呆れながら反応を返す。
しかし、悠香さんの様子はどうやら違っていた。
「そんなのじゃないの!! 大変なことが起きてるの!!」
「大変な事……? ママが何かやらかしたとか?」
「違うわティアちゃん。アナザーテイルレッドの事よ!!」
アナザーテイルレッドだと!?
悠香さんの口からあまり聞くことのない単語に驚きながら俺たちは部室へ急ぐ。
そこにはトゥアールさんが華先生や青葉さんと共にパソコンを前にしては真剣な顔つきで何かを話し合っていた。
「ママ!! 何があったの!?」
「レイジの野郎がまた何かやったってのか!?」
「総愛、和輝君……!! それが先程、私宛にレイジからこのようなメールが」
そのパソコンはトゥアールさんが私用で使う特別な物。
それ宛てにレイジの野郎が何かを送ってくるとは一体どういう了見だ。
ティアナと共にメールを確認すると、そこには一つの動画ファイルが入っていた。
何やらきな臭い予感を感じつつもそれを開く。
するとそこには……
『アルティデビルはこのオレ、テイルレッド様が頂いたぜ』
アルティデビルを乗っ取り、いくつかのエレメリアンを従えるアナザーテイルレッドの姿が映っていた。
◇
アルティデビル基地最奥に存在するベリアルギルディの自室もとい研究室。
ここ数日、いや数か月近くも留守にされていたこの部屋に久しぶりとなる主人が帰ってきた。
どこをはたいても埃が舞うようなこの部屋の中、主人であるベリアルギルディを除くもう一人、アナザーテイルレッドの姿もあった。
「全く……貴様らたちの考える事はよくわからん。どうしてこうも回りくどいやり方にこだわるのだ」
我が物顔で部屋内のソファにふんぞり返るアナザーテイルレッド。
ベリアルギルディはそんな彼の背後にて棚の資料を整理しながら、彼自身に向けていると思しき言葉を呟くように発する。
するとアナザーテイルレッドは振り向く事なく威圧した。
「どういう意味だ」
「どうもこうもないだろう? 何故、今更こんな回りくどい事をするのだ。貴様の実力とオレ様の頭脳があればこんな組織なぞ今更価値もないだろう?」
昨日はこの基地の面々を前にアナザーテイルレッドと共に同意見かのようにこの基地を支配下に置くと宣言したベリアルギルディ。
だが、実際は今更この基地に興味はなかった。
自らの目的の殆どを達成した今、ベリアルギルディにとってこの基地もといこの組織に価値はなく、先の行動は全てアナザーテイルレッドに合わせたまでの事だ。
「邪魔されたくねぇから。そう言ったろう?」
低い声でそう答えたアナザーテイルレッドの表情は背後で背を向けるベリアルギルディには見えない。
しかし、ベリアルギルディはわかっているかのような口を利く。
「そこが回りくどいというのだ。以前の貴様なら邪魔なものは自らの手で滅ぼし、狩り尽くす。先のようにわざわざ支配下におく事で無力化しようとはすまい。そういう奴だったのだろう?」
「……」
「百歩譲ってだ。ここにいる凡才以下のカス共に価値を見出すのだけならまだいい。だがしかしだ。何故、貴様は敵に塩を送るのだ? 敵であるテイルバイオレットの一派に宣戦布告を叩きつけたのはどういう了見だ」
そう、昨日トゥアールに向けて送られてきたアルティデビルを乗っ取ったという宣言。
あれに関して言えばベリアルギルディは反対していた。
曰く、敵に堂々と情報を渡すような真似に何一つの価値はない。もし、その宣言をせず、アナザーテイルレッドとベリアルギルディが繋がっているという事を隠せていればそれ相応の策も色々用意できたからという事。
「しかもだ。貴様は明日の明後日、場所と時間まで指定した。決闘かなにかだと思っているのなら何とまぁお笑いだな」
昨日の宣言の後、実はアナザーテイルレッドは動画内にて決戦の日の場所と時刻までも伝えていた。
まるで果し合いを所望しているかのような態度だけはベリアルギルディは理解を示していない。
彼にとって、これまでそのような正々堂々とした態度を示し負けていった者は恥ずかしき愚か者なのである。
「別にいいだろぉ? これはオレの問題だぜ。勝てば何一つ問題はねぇんだからなぁ」
「それについては同意だ。だが、この期に及んでわざわざ正々堂々というのが気に障る。奴らはオレ様の差し向けた刺客をもう既に6体も倒しているのだ。いくら貴様の力とオレ様の頭脳、そして無属性の力があったとしても何が起きるか最後までわからぬものだろう?」
苛立ちを声に出してぶつけるベリアルギルディ。
こうも慎重になっているのはやはり七つの性癖の大半がやられた事に起因するのだろう。
アナザーテイルレッドは振り向くと、笑み一つない冷たい表情でブレイザーブレイドの剣先を向ける。
「そもそもだ。お前さんの目的はツインテイルズへの復讐だろう? だったらあんな奴らにビビってるようじゃ無茶なんじゃねぇのか」
「どういう意味だ」
「総二たちはあんな坊主なんぞよりも上だって事だ」
アナザーテイルレッドことレイジは正史に介入し干渉した男である。
だから知っているのだ。
これまでツインテイルズたちツインテールの戦士たちが起こしてきた数々の奇跡を。
テイルバイオレットを軽々超えれるようにならなければ
「いいか? そもそもオレにだってプライドがあるんだ。この新しい力を以て
あくまでこの関係はギブ&テイクによって成り立つものである。
そう念押しするかのように言い放つアナザーテイルレッドの圧にベリアルギルディはこれ以上なにも言い返せない。
いくらベリアルギルディとて、ここでアナザーテイルレッドと仲間割れをする程、愚かではないのだ。
「さて、じゃあオレは気分転換にこの基地を見て回ることにするぜぇ。誰かさんにこれ以上、小言はいわれたくねぇんでなぁ」
わざとらしくそう言い残したアナザーテイルレッドが部屋から出ていく。
残されたベリアルギルディは今までの流れから怒り心頭。
……とはならなかった。
「フン、所詮奴も使い捨ての駒に過ぎん。オレ様の復讐において、貴様のような使いづらい駒は必要ではないのだよ」
ほくそ笑むベリアルギルディはまるで今に見ているがいいと言いたげな雰囲気でアナザーテイルレッドの事を嘲笑う。
ベリアルギルディは端からアナザーテイルレッドの事を信用していなかった。
「やはり、オレ様と我がマイエンジェルの残した最高傑作はこの少女こそが相応しい」
見つめる資料に映るのは当初のターゲットであるティアナただ一人。
「さて、そろそろ貴様の出番のようだ。準備をしておくのだな暴食の性癖」
部屋の奥、高精度の認識阻害によってアナザーテイルレッドですらも気づかなかったそこにいるのは、所々が機械化したような悪魔。
「なぁ? 我が忠実な下僕、バアルギルディ……」
怪しげな赤い光がその目に灯るのであった。
同時刻、とある都市部にある喫茶店。
懐かしさよりも古臭さを感じさせるその店のカウンターにサングラスをかけた銀髪の男が座る。
『昨日拡散されたこの映像の通り、テイルレッドと呼ばれる危険人物がアルティデビルと言われる怪物の組織を乗っ取ったとの事です』
店内にあるテレビに映り流れているのは昨日起きた一連の事件について。
それは悠香らによって拡散された物であり、世間一般が知りえる重要な情報だ。
『――そしてどうやら、このテイルレッドという存在は明日、○○地区の××にてテイルバイオレットを迎え撃つと――』
「あれは……」
テレビを眺めていた男は映像の中にあるテイルレッドと呼ばれる者の背後に立つ黒い悪魔を凝視する。
その姿からはサングラス越しでもわかる複雑な感情が読み取れた。
「お客さん、ここらでは見ない顔だね。テレビに映ってるのが気になるのかい?」
「ああ。少し昔の事を思い出してね……」
意味深な発言だが、店主はそれ以上の追及はしない。
見た目とは裏腹に友好的かつ紳士的だが、人と思えない怪しい魅力さえも放つこの男の独特すぎる雰囲気は実に神秘的だ。
「なぁマスター。これは私の勘だが、これから起こるテイルバイオレットの戦いはかつてない事件の始まりに過ぎないのではと思っている」
「お客さん、何者ですか……?」
店主へ向かって男は怪しくフフっと笑う。
まさか……とは思いつつも不思議と危険な予感は感じない。
「
男の瞳には指名に燃える強い意志があった。
最後に出てきた男は誰でしょうね? (すっとぼけ)
私事ですが、最近書いていると物語が終わりに向かっているんだなと少ししみじみとした気持ちになってしまいます。