俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第20話 馬鹿みたいに

 夢宮ヒカリのライブから3日経った。あの日、エレメリアンに襲われていたのがまさかの夢宮ヒカリ本人でそのままなし崩し的に彼女の悩みを聞くことになった。だが結局、俺とティアナでは何一つアドバイスも送ることなど出来なかった。別に恥ずべきことではないと思う。当然と言えば当然のことだ。いくら俺たちが変身しエレメリアンと戦える力があった所でまだ16そこらの学生でしかないんだ。

 

 現在、時刻は午後6時過ぎ、日は傾き、一日の終わりを感じさせる時刻。俺はアラームクロックのカウンター席に座りながらコーヒーを飲んでいた。アラームクロック内には俺と店番をしているティアナ以外に人はいない。おやっさんは買い物に出かけているので二人だけの空間といってもいい。

 店内はラジカセから流れる少しポップで明るい曲の影響もあり、とても穏やかであった。そんな穏やかな雰囲気とは裏腹に俺の気持ちは沈んでおり、とてもじゃないが明るく穏やかな雰囲気になれなかった。

 

「はぁ……」

 

 両手を後頭部に当てて席にもたれかかりため息を吐く。あの日以来、今のようなため息が何度も出てしまう。これには少し訳があった。

 

「これで今日、何回目よ。流石に悩みすぎじゃない? 彼女の悩みはあくまでも彼女自身の悩み。和輝の悩みじゃないでしょ」

 

 カウンター越しでため息を聞いたティアナはコーヒーを淹れる練習をしながら問いかけてきた。

 

「ちげぇよ。そうじゃねぇんだよ。なんつーかさ、色々あんだよ……色々な」

 

「どういうこと? 言いなさいよ」

 

 余程気になったのか、ティアナは手を止めてカウンター奥から出てくると俺の右隣の席に腰掛けた。席に座ったのを確認してから俺は再び、口を開く。

 

「なぁティアナ。多分だけどさ……前回取り逃がしたあのエレメリアン。属性はアイドルじゃねぇかって思ってんだよ」

 

 奴は言っていた。この世界で初めて奪う属性力は決まっていると。

 奴の属性がアイドルならヒカリを狙った理由も説明がつく。しかもあれから3日経ったのに未だに姿を現さない。狙いは次のライブだろうか? なんにせよ奴の属性力はアイドルもしくはそれに近いものだろう。

 

「そうだとは私も思うけど……それはため息がでる理由にならないじゃない」

 

「まぁ聞けって。つまりさ、夢宮ヒカリにはアイドルの属性があるんだろ? じゃあアイドルが好きでもある。そうだろ?」

 

 属性力とは何かが好きな気持ち、想いその物だ。彼女にアイドルの属性があってもおかしくないし寧ろ当然のことだろう。

 

「エレメリアンに狙われるくらいの属性力なら確かにそれはそうね」

 

「俺さ……彼女の立場になって考えたんだよ……どうアドバイスしてやれば良かったんだろう……って。でも……考えれば考える度に俺もいつかは夢宮ヒカリと同じように迷ってしまうかもしれないって逆に悩むようになっちまった」

 

 アラームクロック内はドンドン暗い空気に包まれていく。とてもじゃないがお客さんが入ってきやすい空気ではない。流れている明るいBGMが雰囲気に合わず不協和音と化しているほどに。

 だけど俺はそんなことお構いなく話を続ける。それほどに大事な話だった。

 

「俺は今までツインテールが好きだ。守りたい。という気持ちで戦ってきた。それは今も変わらない想いだ。きっと夢宮ヒカリも最初はアイドルが好きだという気持ちで頑張っていたんだろうぜ。でも彼女は迷ってる。好きすぎるが故に」

 

「……」

 

「好きだからこそ頑張れる。好きだからこそ妥協しない。それ故に悩みにぶつかってしまう。きっと夢宮ヒカリはそうなんだろうな」

 

「……難しいわね」

 

 俺はテイルバイオレットとして戦う理由の一つにツインテールをもっと好きになりたいというのもある。いつか俺も何かの拍子でヒカリのように迷い、その結果、心の奥では嫌いなのではないかと思うようになってしまい、裏切るような行為に走ってしまうかもしれない。それが怖くて不安だった。

 

「唯乃さんは迷ってなかった。ポニーテールを純粋に対する純粋な憧れをいつまでも持ち、愛することができている」

 

 唯乃さんのポニーテールへの愛は俺のツインテールに対する愛とは比べ物にならないくらい大きかった。

 

「だから強かった。今ならそれがわかる」

 

 人間はふとした拍子で好きだったものが辛く感じることがある。唯乃さんは厳密には人間ではないエレメリアンだから違うのか? 

 いつまでも最初の純粋な憧れのまま好きでいられるようにはどうすればいいのか。俺にはわからない。

 

 そんな時だった。カランカランとドアベルが店内に鳴り響く。入口に目をやるとおやっさんが二つの買い物袋を両手で抱えて立っていた。買い出しから帰ってきたのだろう。

 

「おいおい。ちょっと辛気臭いぞー。これじゃあ客がこないじゃねぇか」

 

 おやっさんが苦言を呈する。

 当然だ。喫茶店は気持ちよくコーヒーや料理を楽しむ場所。この空気ではとてもじゃないが楽しめない。それほどに暗かった。

 

「なぁ、おやっさん。おやっさんって飯作るのが好きだった、だからこの店を始めた」

 

「正確には食べる人を見ることも好きだが……どうした? そんな改まって」

 

 おやっさんは買い物袋をカウンターの上に置き終わると俺の左隣の席に腰掛ける。

 

「おやっさんってこの仕事で辛かったり、嫌になったりしたことあった? 自分の料理が美味しくないんじゃないかって不安になることとかあった? おやっさんはどうやってこの仕事を続けれたんだ?」

 

 矢継ぎ早に質問を投げかける。鬱陶しくも思うかもしれないが、今の悩みに悩む俺はお構いなしだった。それほどにおやっさんの登場が影響を与えていた。押し込んでいた悩みや想いがあふれ出し止まらない。

 

「うーん、そりゃあまぁ……あるな」

 

 おやっさんは顎に手を当て思い浮かべていた。どんな些細な事でもこうやって話に乗ってくれる。だから俺はおやっさんと呼んでいる。

 

「毎日、俺だって悩みっぱなしだな~ 今日の味付けは大丈夫か? とか」

 

 俺もティアナも黙っておやっさんの話に耳を傾けていた。静かに語りだすおやっさんの姿は普段のおちゃらけた姿とはまるで違う。真剣そのものだった。

 

「どんな好きなことでも辛いことがないことなんてない。辛いと思う瞬間はやってくる、でもその辛さを超える嬉しさや楽しさがあるからこそ好きでい続けられる。俺はそう思うぞ」

 

 おやっさんの言っていることは理解できる。でも……まだ不安は消えてはくれない。まるで「少しでも嫌な思いなんてしたくない」と心の奥の俺自身が我儘を言っているみたいだった。そんなこと不可能だとわかっているのに……

 

「俺さ、好きなことを一瞬でも嫌いになんかなりたくないんだよ……どうすればその不安を消せるかな……」

 

 このままエレメリアンと戦い続ける内に一瞬でもツインテールを嫌いになる瞬間なんて来てほしくはない。

 この不安を抱えていたままでは戦いに身が入らない。前回逃がしたエレメリアンは強くなかったがこのままの俺ではやられてしまうかもしれない。

 先週、唯乃さんと誓ったばかりだというのに……俺は…… 

 

「一つアドバイスするとしたら……うーんそうだな~~もっと馬鹿になれかな?」

 

 暗く内向きに悩み葛藤している俺におやっさんは笑顔で語りかける。

 

「馬鹿に?」

 

「ほらさ、馬鹿って悩みなんてないだろう? つまりな、悩んでいてジッとしていても何も始まらない。それならいっそのこともっと馬鹿に悩みなんて吹き飛ぶくらいのめり込めばいいんだよ。俺も新メニューの味に不安な時は何度も何度も作ってるしな」

 

 馬鹿に……か。おやっさんらしいと言えばらしいアドバイス。どこか抽象的でカッコつけた感じ。アニメや漫画の名言を真似するかのような……でもそれが心に沁みる。

 

「馬鹿に……ね」

 

 ティアナも静かにおやっさんの言ったことを復唱していた。ティアナにも響くところがあったのだろう。

 

「……ありがとう、おやっさん」

 

 今まで心の底に溜まっていたしこりが取れ、何か答えがでてきた。そんな気がした。

 思い返すと俺は匠にツインテール馬鹿と言われることがあった。だが今の俺はまだそんなレベルに達してなどいない……!! こんな些細なことで悩んでばかりじゃダメだ。もっと……もっと……! もっと……!!

 

「ねぇ、正樹さん? そう言えばどうして喫茶店なの? レストランでもいいじゃない」

 

 ティアナが思い出したかのように質問する。

 そう言われると確かに俺も何故、喫茶店なのかは気になる。

 

「レストランの店主より喫茶店のマスターのほうがカッコイイだろ?」

 

 聞かなかったことにしよう。

 

 

 

 

 アルティデビル基地。

 ここは毎度毎度、エレメリアンの格好良かったり、渋かったり、下品だったりと様々な声が響き渡っているいつもの大ホールではない。

 その大ホールから少し離れた基地内の居住スペース。エレメリアンたちはこの居住スペースに一人一人、自身の個室を有している。そこは多くのエレメリアンが最も自由に、最も楽しく自身の属性力と向き合うことができる正に最後の砦となる場所。

 

 そんな居住スペース内、ある一体のエレメリアンの個室。

 目に悪そうな薄暗い照明。

 壁一面に積み上げられたエロゲーの箱の山々。

 エロゲーの山の反対側には壁一面を覆いつくすほど大きなガラスケースがあり、その中には大量の女性キャラクターのフィギュア。

 ガラスケースほどの大きさではなくともそこそこの大きさをしている本棚には同人誌がズラリと並ぶ。

 何も覆われていない壁にはその空白を埋めるかの如くテイルバイオレットのポスターが数種類、きっちりと貼られていた。 

 随分と俗っぽくて恐ろしさなどまるで感じることができない根暗オタクの部屋のような場所だが、これが和輝たちの世界を襲ったエレメリアンの部屋である。

 

『ベ、べつにアンタのことがす、す、好きとかそんなんじゃ……そんなんじゃないんだからね!!』

 

「フッ、やはり王道というのは最高だな……明日への活力になるというものだ」

 

 この部屋で『ツンデレ楽園(パラダイス)』なんて安直なタイトルのゲームをプレイしているはテイルバイオレットのライバルを自称するエレメリアン。その名はバアルギルディ。彼はヘッドホンやイヤホンもせずに大音量でエロゲーを楽しんでいた。

 

『(でも……本当はアンタのことが…………)』

 

「この素直になれないじっれたい乙女心、実にたまらない……たまらないと、言っている!!」

 

 エレメリアンの科学力は人間の科学力を遥かに凌駕している。このアルティデビルの基地の隅々に至る部分も人間の手では再現できぬ科学の結晶だ。そんな科学の結晶である防音処理の施された部屋の壁。それは部屋の中で響いているゲームのキャラクターボイスを部屋の外に漏れないようにしていた。勿論、興奮しているバアルギルディの声もだ。

 

「おい! バアルギルディ!」

 

 部屋の扉が強く叩かれドンドンと大きな音を鳴らす。それと同時に聞こえてくるのはバアルギルディを呼ぶ一体のエレメリアンの声だ。

 しかし、バアルギルディはそれに応じない。否、気づいていないといったほうが正しいかもしれない。それほどまでにバアルギルディはゲームに集中している。

 

「おい!! いるんだろ!! 返事しろ!! バアルギルディ!!」

 

 先程よりも一段とボリュームアップする声と叩く音。しかし、バアルギルディは気づかない。

 

「貴様ァ!! いつまで詰まらんゲームに現を抜かしているんだ!! いるのはわかっているんだ。強制的にでも入らせてもらうぞ!!」

 

 部屋の扉がいくら科学の結晶だからと言ってもエレメリアンの全力の攻撃に晒されれば原形などなくなってしまうのが普通。派手な爆裂音とともに部屋の扉は無残な形に姿を変えた。

 

「なんだ? 随分と騒がしい……」

 

 ここまでされればバアルギルディも流石に気づいた。バアルギルディが部屋の外に出ると目の前には怒りで顔を真っ赤にした一体のエレメリアン。この騒ぎに気づいた他のエレメリアンも野次馬の如くぞろぞろと集まり、遠くからその様子を眺めているのがバアルギルディの目からも確認できた。

 

「バアルギルディ!! シトリーギルディの奴はいつになったら帰ってくるのだ!! もう5日も経った。奴は何をしているんだ!!」

 

「何だそんなことか…………」

 

 はぁ……とため息が漏れる。

 

「私が知るわけないだろう。 それにタイムリミットまでまだあと約一週間はある。 気長に待つといい」

 

 アルティデビルでの出撃ルール。その一、目的はこの世界に存在する究極のツインテールに匹敵するツインテール属性を持つ者を探し手中に収めることと、この世界の属性力の奪取。その二、基本的に出撃は一体のみ。他のエレメリアンは現在出撃している者が帰ってくるまで出撃できない。その三、出撃期間は最大で二週間。時間が過ぎれば撤収し、次に出撃できるまで再びルーレットで当たるのを待つ。

 これがバアルギルディの指揮の下、皆で定めたルールだ。

 

「ぐぬぬ……!! だがシトリーギルディの奴、全く属性力を奪ったとの報告もないんだぞ!! 」

 

「彼がフェネクスギルディのように好き勝手暴れているという報告もない。 何をしているかは気になるが、帰ってくるか、それとも倒されるか……黙って待ちたまえ」

 

「くッ…………!! それもそうだが…………」

 

「話は終わりだ。私は今、忙しいんだ。 失礼させてもらおう」

 

 バアルギルディは部屋に戻ると再びパソコンを前にして中段していたエロゲーを再開した。

 

 それから数日間。扉を無くしたことで持ち前の防音機能を失ったバアルギルディの部屋の近くではエロゲーの音が聞こえてきたという。他に聞かれているかもしれないのにイヤホンやヘッドホンもせずに大音量でエロゲーをプレイしているバアルギルディの行動は多くのエレメリアンたちを震え上がらせた。

 

 

 

 

「じゃあな、俺は用事あっから」

 

 5月13日金曜日、俺はホームルームが終わると同時に一目散にバイク置き場に向かう。今日はある人物と会う約束をしている。これは俺自身の問題なのでティアナや匠には内緒だ。

 アクセル全開。俺は風を切り裂きながらスピードをぐんぐんと上げていく。とても気持ちいい。つい最近まで抱えていたつまらない悩みことが嘘のようだった。

 住宅街を抜け、橋を渡り、隣町へ。そして天高くそびえ立つビルが建ち並ぶビジネス街に到着。この辺りには商業施設や芸能事務所も多い地区だ。

 バイクを停め、俺はビジネス街の中央に流れる川を一望できる公園で約束している人物が来るのを待った。

 

「いっけねぇ……どうしよ……」

 

 スマホを確認し、時刻をチェック。時刻を見たら約束の時間よりもかなり早くに着いていたことがわかる。まだ30分も余裕がある。

 どうやって約束の時間まで暇をつぶそうかと考えていた時だった。遠くから声が聞こえ、その方角に目をやるとパーカーのフードを深く被った女の子が走ってきた。

 

「すいません。お待たせしました」

 

「いや、別に……俺の方が早くに着きすぎちまっただけだから……」

 

 可愛らしいお辞儀で謝るのは約束していた人物、夢宮ヒカリ。ヒカリが約束の時間に早く着くタイプの子で良かったと心底思う。おかげで話す時間に余裕が生まれた。

 今、こうして会えているのも先日、「万が一のことを考えて連絡先を交換しておかないか?」に対して快く許可してくれたおかげなのも忘れない。

 

「どうしたんですか? 急に会いたいって……もしかして先日のエレメリアン? とかいう怪物が……」

 

「いや、そうじゃねぇんだ」

 

 『会って少し話さないか?』 とかなり曖昧な連絡をしてしまったのが原因なのはすぐにわかる。だがこれは直接会って話したかった。

 互いにベンチに腰掛ける。傍からみればデートかと誤解されてしまうかもしれないが気にしない。別におれは夢宮ヒカリが好きだという感情はない。今回はあくまで俺自身の自己満足でやっている行為だ。

 

「俺……先日君に悩みを言われて何も言ってあげられなかった自分が悔しくてさ。色々考えたんだ……どうアドバイスしてやればいいのか?って」

 

「優しいんですね。和輝さんって」

 

 俺自身、本当にそう思ったから考えたのであって、悩んでいる本人にそう言われるとやはりというか照れる。ついつい頭を掻いてしまう。

 さて、本題に移ろう。

 

「君はアイドルが好きなんだろ?」

 

「……はい。でも……好きだったっていうのが正しいかもしれないです」

 

「"だった"ねぇ……」

 

「以前お話しましたが……わたし、不安なんです。このままの調子じゃ、応援してくれているファンの皆さんに申し訳が立たない気がして……これも本当は嫌いだからなんじゃないかって……」

 

 何故、これほどまでに不安になってしまったかなんて俺にはわからない。短期間で成功し過ぎて失敗することを恐れているのかもしれない、それともただ目指す目標が高すぎて満足できていないだけなのかもしれない、あるいは両方か。

 こうなったら俺自身の正直をぶつけるまでだ。

 

「正直なこと言うと、考えば考える度に寧ろ俺自身が迷っちまったんだけどな。いつか君みたいに好きなこと……俺で言えばツインテールか。嫌いになっちまったらどうしようって……」

 

「そうなんですか……」

 

 これには思わず、ヒカリも苦笑い。まぁ、この反応がくるのはわかっていたことだ。気にせずに続けよう。

 

「でもな、ある人が言ってくれたんだ。もっと馬鹿になれってな」

 

「馬鹿に……ですか?」

 

「ああ、馬鹿みたいに今やっていることをのめり込めばいいってな。そうすれば何か見えてくるかもしれないし、不安なんて消えるかもしれない。迷ってばかりいるより絶対いい。そう思う」

 

 おやっさんの言ったアドバイスは簡単なようで難しい。馬鹿みたいにのめり込む、いくら好きなこととはいえできるかはわからない。でも……迷って何もしないよりかはやってみる価値ある。

 おやっさん受けおりのアドバイスを全力でぶつけたが、肝心のヒカリの表情はまだ晴れてくれない。まだ足りない……何かが。

 暗い表情のままヒカリは口を開く。

 

「わたし、なれるでしょうか? あの人みたいに……」

 

「あの人?」

 

「元々アイドルが好きだった私は3年前に動画サイトで、ある一人のアイドルのプロモーションビデオを見たんです。その人はとても輝いていたんです。歌も踊りも表情も……そして何よりも眼鏡が……」

 

 昔話が始まり、いい話かなと思っていたが最後でズッコケた。眼鏡ってなんだ。眼鏡って…… ティアナといい何故、アイドルに眼鏡が関わってくるんだ……

 

「その動画はいつの間にか消えていて今はもう見れませんし、その人が何処の誰なのかはわかりません」

 

 何そのホラー。急に背筋が寒くなるような怪現象やめてくれよ……

 まぁ、俺はそんな怪現象よりもはるかにおかしな現象を体験しているような気もするけど……

 

「変な話ですよね…………」

 

「まぁそのなんだ……俺みたいな素人の意見だけどよ……今はその人に届かなくても馬鹿みたいに続けてのめり込めばいつか届くかもしれないぜ」

 

「できるでしょうか? わたしなんかに」

 

「だ~から言ってんだろ。できるって。それによ、俺からすればステージ上のあんたは結構輝いていたぜ」

 

 俯いてばかりいて曇っていたヒカリの表情にようやく光が見えた。そんな気がした。

 ヒカリは立ち上がるとフードを降ろしてこちらに振り向き見つめてくる。こうしてよくみると本当に可愛らしい顔をしていると思う。なびくブロンドの髪をツインテールにしてくれれば俺からすれば文句ないほどに完璧だ。

 

「和輝さん、本当にありがとうございます」

 

 深い深いお辞儀。ただ純粋に感謝を述べる人間の大切なマナーの一つ。その姿勢からはもう迷っていないという自信が感じられた。

 

「わたし、もっと馬鹿みたいに頑張ってみようと思います。これからずっと……!!」

 

「ああ、その意気だ。俺も本物のツインテール馬鹿になってやる」

 

 固い決意をしてヒカリは去っていた。なんでもこれから明後日のライブにむけてレッスンを頑張らないといけないとのことだ。

 きっともう彼女は大丈夫だろう。これからもっともっといいアイドルになるに違いない。

 よしっ!! こうなったら俺がやることは一つ。明後日の彼女のライブをアルティデビルの野郎どもに邪魔をさせないことだ。

 

 

 

「和輝!!」

 

 ヒカリと別れ一人で満足気に川を眺めていた時だった。背後から聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。

 

「げッ!? ティアナ!!」

 

 目を吊り上げて怒り心頭といった表情のティアナが仁王立ちしていた。これは不味い、何か嫌な予感がしてきた。

 

「何、カッコつけてんのよ!! あなたが白々しい嘘をつくからつけてみれば……何で夢宮ヒカリと会ってんのよ!!」

 

 つけてきた!? ここは自宅からかなり離れた場所だぞ!? どんな執念が体を動かすんだ……てかバレバレかよ俺の嘘……

 

「別にいいだろ……ってどうしてティアナが怒ってんだよ」

 

 つけてきたのは気になったということで別に問いやしないが、何故こうも怒った口調なのかは気になって仕方ない。もしかして嫉妬でもしてるのか? いや、そんな訳ないと思うが……

 

「別に怒ってないわよ!!」

 

「い~や怒ってる」

 

「怒ってない」

 

 そうかい、認めないつもりかよ。

 こうなったら俺も引くに引けない。認めるまで言い続けてやる。

 

「怒ってる!」

 

「怒ってない!」

 

「怒ってる!!」

 

「怒ってない!!」

 

「怒ってる!!!」

 

「怒ってない!!!」

 

「「怒ってる(ない)!!!!」」

 

 

 結局、俺たちはこのやり取りを日が落ちるまで延々と続けていた。




はたして和輝たちはライブを守ることができるのか。
次回、いよいよ決着です。
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