俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
わたしは昔からアイドルが好きでした。小さい子がアンパンマンやスーパーマンみたいな架空のヒーローに憧れ、好きになるようにわたしはアイドルが好きでした。
幼稚園児の頃、テレビに出てくる人気のアイドルを真似して人前で歌ったり踊ったりする影響もあり、何時しかアイドル関係なく歌を歌うことや踊ることも好きになってました。そして、幼いわたしは将来アイドルになると夢みていました。
だけど小学生の頃、「お前なんかアイドルになれない」とクラスメイトにイジメられたこともあり、元々気弱で自信がなかったわたしはアイドルになるという夢を諦めてしまいました。そのまま、わたしはアイドルという物に対しても段々離れていってしまい、多くの人たちが幼い頃の憧れを自然と卒業していくようにわたしもアイドルを卒業していってしまいました。
転機が訪れたのは中学生の頃でした。ある日、幼い頃を懐かしむように久しぶりに動画サイトでアイドルのプロモーションビデオを漁っていた時でした。目に入ったのは一つの動画。サムネに映っているのはおさげのように垂らした黒髪のツインテールに黒縁眼鏡が特徴の全く知らない無名のアイドル。アイドルが眼鏡?とわたしは興味本位で動画で開き、衝撃を受けました。画面の中で歌い、踊るその女の子の輝きに。初めは歌の内容や眼鏡に?を浮かべていたわたしはいつの間にか心奪われてその動画に夢中になっていました。不思議なことにその動画はいつの間にか消えていて、動画にでていたアイドルも調べても全くみつかりませんでした。夢や幻だったのかもしれません。でも、その出来事がわたしのアイドル熱が再び燃え上がらせたのは事実なのです。
両親との約束もあり、わたしは高校生になってからアイドルになるために行動をおこしました。多くのオーディションを巡った結果、高校1年生の年末、遂にアイドルとしてデビューしました。そしてデビューして間もなく、自分でも驚くくらいの勢いで人気になっていきました。わたしは新人だというのに多くのファンも持ち、テレビにもたくさん出れるようなアイドルになりました。
傍から見れば順風満帆、理想のアイドル活動。でもわたしには別の想いが生まれていました。今のわたしはどれだけ努力しても憧れたあの人に届かない。普通ならそんなの新人なんだから当たり前のことと思うでしょう。でも当時、アイドルが好きで好きでたまらないという感情を持っていたわたしは日が経つ度に思いつめ、焦るようになっていきました。その想いはいつしか足枷になり、日々の活動にも身が入らなくなり自信もなくなっていきました。周囲の人たちは皆優しい言葉をかけてくれるけど、それがもっとわたしを追い詰め、遂にわたしはこうなっているのも本当は心の奥底でアイドルというものが嫌いなのではないか?とわたし自身の想いを否定するようにまでなってしまいました。そしてアイドル失格の行為であるライブからの逃亡をしてしまいました。
勿論、そんなわたしに神様は許してくれませんでした。エレメリアンと呼ばれる未知の怪物がわたしを狙い、襲い掛かりました。戒めの為に全てを諦め目をつぶったその時でした。
ヒーローが現れました。そのヒーローは少し荒っぽいけど根はとても優しく、怪物を追っ払うだけではなく、わたしの悩みに一緒になって真剣に悩み葛藤し、アドバイスを送ってくれました。そのヒーローはわたしの心すらも救ってくれたのです。
この出来事はわたしにとって人生第二の転機となりました。そのヒーローの言った通り、わたしは以前よりもっと馬鹿みたいに頑張ろうと思います。3年前に感じたあの純粋な憧れを抱いて――
◇
5月15日、日曜日。先週、エレメリアンに襲われた影響で延期となったライブの当日。
ここはアリーナ内、出演者及び関係者のみが入ることが出来る控室。
煌びやかで可愛らしいフリフリの衣装を身に纏うは本日の主役であるアイドル、夢宮ヒカリ。また、ヒカリの髪は左右二つにまとめ結ばれ、ツインテールになっていた。
「……よしっ!!」
ヒカリは鏡に向かい立つと頬を両手で叩き、気合を入れる。鏡に映った顔は先週までの憂鬱なものとは打って変わり、やる気に満ち溢れた爽やかなものであった。
ヒカリが気合を入れ終わると同時に控室のドアがコンコンと叩かれた。ヒカリが「どうぞ」と返事をするとドアが開けられてスーツに身を包んだ背丈の高い眼鏡の男が入ってきた。
「ヒカリ、もうすぐだけど大丈夫かい?」
入ってきたのは男はヒカリのマネージャー。マネージャーの優しそうな声にヒカリは元気よく返事を行う。
「はい!! 大丈夫です。今日のライブ、絶対に成功させます!!」
「それはよかった……いい顔になったね」
マネージャーは優しそうに微笑み、安心したかのようにホッと胸をなでおろした。
「マネージャーさん……」
ヒカリはその様子を見て、察しないほど癇が悪くはない。何故、マネージャーが安心しているのかがすぐに察することができた。
「すみませんでした!! わたし……ここ最近、皆さんに迷惑ばかりかけてしまって……」
「いやいやいや!! 君が謝る必要はないんだよ。頭を上げてくれ」
全力で頭を下げて謝罪するヒカリを見て、マネージャーは慌てて手を振り訂正をする。
「寧ろ、謝らないといけないのは僕のほうだ。君が思いつめているのに何もしてやれなかった。本来、大人である僕が何かしてやらないといけなかったのに。本当にすまなかった!!」
「マネージャーさん!! やめてください!! 全部、わたしが悪かったんです!! わたしがつまらないことにいちいち悩んで迷惑をかけるから!!」
逆に頭を下げたマネージャーにやめてくれと叫ぶヒカリ。だがマネージャーは謝罪することを全くやめそうにない。
「いや!! 僕のせいだ!! 僕が……」
「いや!! わたしが……」
これが日本人特有の譲り合いの精神が成す光景なのか。二人ともの根がとても真面目なのが伝わって来る不思議な光景。この場にツッコミができる人が居ればすぐにツッコむであろう状況だが、生憎この場にはヒカリとマネージャーの二人しかいない。約数分このやり取りを続けた。
「……でも本当にいい顔になったよ。思い出すよ、僕が初めて君を見たときを」
それに釣られる形でヒカリも思い出した。オーディションに合格し、今の事務所に来た日のことを。
「わたし、決めたんです。もう悩まない、悩みもなくなるくらい馬鹿みたいにやってみるって」
「そうか……わかったよ」
二人ともその顔は憑き物が落ちたようとても晴れやかであった。
「で、その髪型はどうしたんだい?」
「
ヒカリはツインテールの右の房を指で掴み、揺らしてみせる。そして頬を少し赤くしながら喋りだす。
「この髪型は決意の証なんです。これから始まる新しいわたしの……」
「うん……今の君によく似合ってる。いい髪形だ」
そんなやり取りを続けていたら時計が予定している時間になったことを告げる。ヒカリは鏡を見て最終確認を行うとステージに出るために控室を後にする。
ライブ会場のアリーナ内は熱気と興奮に溢れ、皆、ヒカリの登場を今か今かと待っていた。
先週のライブがエレメリアンによって中止となった影響だろうか。先週の盛り上がりをそれは遥かに凌駕している。
スポットライトがステージを照らすとマイクを通して声が会場内に響き渡る。
『みんな~おまたせ~!!』
キラキラした衣装に身を包んだヒカリがステージに飛び出してくる。それを見て会場内のボルテージは最高潮を迎えた。
ウオオオオオオオオオオオオオオオオ……!!
怒号にも似た大歓声が巻き起こる。皆、この日を楽しみにしていたのだ。この興奮の渦は止まらない。
『先週の分まで盛り上がっていこうね~!! まずはこの曲から!!』
スピーカーから音楽が流れだすと歓声はより一層、大きなものとなっていく。そんな歓声巻き起こるある席の一角、匠は専用の勝負服に身を包み、両手でペンライトとサイリウムを交互に振り、全力でこのライブを楽しんでいた。
一方、匠の隣の席に和輝とティアナの姿は影も形も存在しなかった。
◇
「デュフフ、きっとヒカリちゃん、驚くぞ~」
翼を生やした豹頭の怪物、シトリーギルディは甲高い笑い声を漏らしながら関係者のみが入ることが出来る通路を歩く。この先を進めば今現在、ライブ中の夢宮ヒカリのステージに乱入することが可能だ。
「デュフフ、もうちょっとだよ。もうちょっとで会えるからね」
当の本人はこんな醜悪でマナーも守らないような怪物に会いたくもないのだが、シトリーギルディにはそんなのお構いなしとばかりに通路をずんずん歩いていく。ちなみに通路の入口にはシトリーギルディに攻撃されたと思しき屈強な警備員たちが伸びている。シトリーギルディは自身の歩みを止める者はもういないかと思いこんでいたその時だった。
「待ちな」
通路の隅に積まれているダンボール箱の陰から声が聞こえてくる。道中で倒した警備員の声とは明らかに覇気が違う。異形の怪物、エレメリアンを微塵も恐れていない声だ。
「だ、誰だ!?」
うろたえるシトリーギルディ。今までの勝ち誇ったかのような笑い声をだしながらの幸せそうな様子とは打って変わって困惑し恐怖するシトリーギルディの様は酷く痛快なものだった。
「ここから先は行かせねぇ。てめぇは今度こそ俺がぶっ倒す」
「それを言うなら"俺が"じゃなくて"俺たちが"でしょ?」
ダンボール箱の陰から和輝とティアナが姿を現した。シトリーギルディはそれを見てほくそ笑む。「何者かと思ったが、なんだ人間」かと言いたげな表情であった。しかし、その様子は長くは持たなかった。シトリーギルディの目は和輝の腰回りに巻かれているベルトを捉えたのだ。
「そ、そのベルト……まさか貴様!?」
再び酷くうろたえるシトリーギルディ。一方、和輝とティアナは微動だにせずシトリーギルディを睨みつける。
「そうだ、そのまさかってやつだよ。行くぜティアナ!!」
「ええ、やっちゃって! 和輝!!」
その様はまさに戦士の風格。和輝はテイルドライバーを作動させながらいつもの変身コードを高らかに叫ぶ。
「テイルオン!!」
通路内の隅々を青紫の光が照らしだす。発光が止み、目を開けたシトリーギルディの前にはメカニカルな装甲に身を包んだ青紫のツインテールの少女の戦士、テイルバイオレットが立っていた。
「さてと……行くぜ」
右手首をぶらりとスナップを効かせた後、テイルバイオレットはシトリーギルディに飛びかかり乱暴に拳を突き出した。
俺は今、変身して豹頭の変態エレメリアンと交戦中。さっきまでは会場内の関係者用通路で戦っていたが狭苦しくて戦い辛かったので屋外まで連れ出した。
「おらぁ!!」
「ぐふあ!?」
外の景色が見えると同時にエレメリアンを強く蹴飛ばした。
エレメリアンの悲痛な声が開けた外の景色に飛んでいく。ここまで来るまで散々殴り飛ばしたおかげでエレメリアンの野郎は完全にグロッキー状態。やはりコイツ大したことはない。
「やるな……流石は以前、俺と互角にやり合っただけはある」
「どこが互角だ!! ほぼ俺の圧勝だっただろ!! てか前回は手も足もでないとかどうたらこうたら言ってただろうが!!」
このエレメリアン、頭部と下半身以外は人間とほとんど瓜二つの容姿であり、その皮膚は既にあざまみれで酷くボロボロの状態だ。ここまでされておいてまだ互角だの何だのほざくのは少しばかり感心してしまいそうになる。このポジティブだけは学んでも損はないかもしれない。
「屋外に出た以上、俺も本気を出さねばいかんようだな」
エレメリアンは背中に生えた翼を大きく広げ飛翔する。そう言えば今までコイツとは開けた場所で戦闘していなかったなと思い出し警戒する。今までは完全に口だけ達者な奴だったが、もしかしたら本当の実力は口だけではないのかもしれない。
エレメリアンは股間に生い茂る毛をかきると目のような発光体を露わにし、高らかに必殺技を叫ぶ。
「喰らえ!! 俺、秘伝の奥義!!
発光体から発射された液状の光線がシャワーとなって降り注ぐ。
「下ネタじゃねぇか!!!」
直球すぎる下ネタに思わず全力でツッコミを入れてしまう。
その結果、攻撃への反応が遅れてしまい回避が間に合うかどうか。何とか直撃こそは避けたが光線は周囲に着弾し、爆発を起こす。爆風と煙が俺を包みこんだ。
「本当はこれでヒカリちゃんへのサプライズを行うつもりだったのに……デュフフ、だがどうだテイルバイオレット。俺の秘技を喰らった者は皆、身も心もズタボロ。俺の勝ちだな」
最低すぎる攻撃をした後、今度はまるで勝利を確信したかのように笑いだすエレメリアン。だがこんな馬鹿馬鹿しい攻撃でやられる俺じゃない。
煙の中から出てきた俺の無事な姿を見てエレメリアンの顔は青ざめる。
「馬鹿な……俺の秘技を喰らって身も心も無傷だと……」
「馬鹿なのはてめえのほうだっつーの!!」
つい最近、馬鹿になってやるとか言ったが、こういう馬鹿ではない。
さてと……こんな馬鹿馬鹿しい野郎に真面目に付き合っていてはツッコミが追いつかねぇし、ライブ終了まで間に合わねぇ。一気に決めてやる。
『ねぇ和輝、さっきの下ネタってどういう意味?』
ティアナの発言を聞いて思わずずっこけそうになってしまった。どういう意味かと聞かれても色々と喋り辛い。
ティアナの発言はとりあえず無視し、フォースリヴォンに触れてウインドセイバーを取り出し、構える。
「剣をとりだしてなんになる。俺は空に飛んでいてお前は飛べまい。依然、俺の勝利は揺るぎないんだ!!」
「そーかいそーかい。でも、こいつはどうかな? ティアナ、いつもの頼むぜ!!」
『わかっているわよ。そんな奴、ぶった斬っちゃって!!』
ティアナのテイルブレスから送られる強大なツインテール属性が大量のエネルギーとなり、全身を駆け巡る。辺り一面に紫の嵐を巻き起こす。
「おらよぉ!!!」
ウインドセイバーの刃に凝縮され、放たれる
「うぐおっ!!」
エレメリアンは何とか直撃を回避することには成功したが、ストームブレイクは片翼に直撃し、バランスを失って落ちてくる。
俺は墜落する場所を予想し全力で疾走する。
「こんのぉ……このシトリーギルディを舐めやがって……!! 俺はヒカリちゃんに会わないといけないんだよ!!」
エレメリアン、シトリーギルディは空中で素早く体勢を整え残った片翼を使いいち早く地面に足を着けると先ほどと同じように股間の発光体をこちらに向けてきた。
「喰らえテイルバイオレット!!」
光らせて目くらましするつもりか、それともさっきの下ネタ技で迎撃か、だがそんなのは問題じゃない。
「させるわけねぇだろうが!!」
俺は走りながらウインドセイバーを奴の発光体目掛けて投擲した。
「はぐうっ!!」
ウインドセイバーは見事命中。発光体に深々と突き刺さった。
またしてもシトリーギルディの悲痛な声が聞こえてくるが気にしない。
本日、二度目の完全開放。疾走する俺を包みこむように風が集まり、大量エネルギーが俺の腕に集まってくる。
苦痛の声を上げて身動き取れないシトリーギルディに急接近した俺は、そのまま勢いを殺さずに突き刺さっているウインドセイバーを手に掴み、腕のエネルギーをウインドセイバーに流し込みながら股を引き裂くかの如く逆袈裟で両断する。
「ヒカリちゃん……!!大好きだよ~!!」
背後でシトリーギルディの断末魔が聞こえ終わると大爆発が起きた。
「うっせぇんだよ、変態野郎……ってそんなことしてる言ってる時間ねぇか!!」
今からでも途中ではあるが多分、ライブ終了には間に合うだろう。属性玉を回収した俺は遠くで見ていたティアナと合流し、会場内へ戻っていった。
◇
「……いい曲だったな」
何とか最後の曲には間に合うことが出来た。生で聞くヒカリの歌は今までCDやテレビで聞いていたものとは違い心が震えて、盛り上がった。僅かな時間ではあったものの俺もティアナも満足感に溢れている。誘ってくれた匠に感謝しないとな……
「いいツインテールだったわ」
「いや、そうだけど……お前な……」
ティアナは自身のツインテールの先端を弄りながら言った。
いやまぁ、アイドルのライブなんだし、歌だけに注目するものじゃないのはわかるけど、この瞬間はツインテール以外にも注目しようぜ……
こういうところがツインテール馬鹿とそうでない者の差か……とふと思ってしまうが、流石にこれは違うと自分自身に言い聞かせる。
『みんな~!! 今日はありがとう~!!』
ウオオオオオオオオオオオオオオオオ……!!
ヒカリの感謝の言葉に対して会場内のファンたちは歓声で応える。
「ヒカリちゃん~ありがとう~!!」
隣の匠が大声で感謝を述べる。声量が周囲のファンたちに負けておらずとてもうるさくやかましい。
『実はみんなに言わないといけないことがあるの!!』
ライブもこれで終わりかと思った矢先だった。ヒカリが突然言いたいことがあると言い出し、周囲の人たちがざわつきだす。
こんな状況でなんだろうか? 口調からして重大発表なのは間違いないと思うが……
『わたし、好きな人ができました!!』
余りにも唐突で衝撃的な告白。アイドルというものは本来、ファンとのいざこざを防ぐために恋愛禁止令を敷いているものが多い。恋愛や結婚が許されるアイドルなんて国民的な人気を持ちつつ、長年活躍しもうそろそろ結婚しないと不味い年齢にならないといけないはずだ。
ヒカリは人気こそ高けれどまだまだ新人だし、それに16歳の高校生だ。好きな人ができたなんて告白はアイドル活動を続ける上で自殺行為もいいところだ。何考えてんだよ……頑張るんじゃなかったのかよ……
この発言に周囲のファンたちも混乱を隠し切れていない。このままでは過激な人が暴動を起こすかもしれない。そう思った時だった。
『その人の名前はテイルバイオレット!! わたしの……わたしのヒーローです!!』
続くヒカリの言葉を聞いて、会場の混乱は一気に収束を迎えた。多くの人達がよくて芸能人、悪くて一般の男性を思い浮かべたことであろうが、まさかのテイルバイオレットだとわかり、その落差にホッと息をつく。
俺としては少し複雑な気分だが……
『わたし夢宮ヒカリは宣言します。これからは今までのアイドル活動と並行し、テイルバイオレットの応援活動も行っていくことを!!』
ウオオオオオオオオオオオオオオオオ……!!
歓声が再び会場内に響き渡る。周囲から「俺も一緒に応援するぜ!!」「俺も大好きだー!!」「ヒカリちゃん×バイオレットネキ……てぇてぇなぁ」と聞こえてくる。最後の発言はまぁ……置いておくことにしよう。
会場内の人々、ほぼ全てが歓喜の声に包まれる……俺の隣を除いて……
「……おい、和輝。どういうことだぁ! ああん!?」
隣から嫌なオーラを感じ、横を向くと怒りに燃える匠が睨んでおり、掴み掛かってきた。
「これは一体どういうことだっつってんだよ!!
「おい、落ち着け。ヒカリは俺じゃなくてテイルバイオレットが好きって言ったんだぜ」
「ヒカリだとぉぉ? 呼び捨てで呼ぶくらい仲が進展していやがったのか!!」
「違うっつーの!! ティアナも何か言ってくれよ。俺とヒカリはそんな仲じゃねぇ……って」
今までにないほどの剣幕で詰めてくる匠にたまらず俺はティアナに助け舟を求める。しかし、ティアナはティアナでステージのヒカリを不機嫌そうな表情で睨んでいた。嫌な予感がする。
「どうしてかしら……無性に腹が立ってムカついてきたわ……!!」
眉をピクピクと揺らしながら怒りを露わにするティアナ。この様子、助けてくれそうにない。
「今度という今度は絶対に! 許さん!!」
「あーもう!! 勘弁してくれよぉぉぉー!!!」
俺の嘆き声は周囲の歓声に飲まれ消えていった。
◇
その夜。
『みんな、もっともっと眼鏡っていくよー!!』
ウオオオオオオオオオオオオオオオオ……!!
「ここは……」
ティアナは目を開く。
景色が見えてくると同時に聞こえてきたのはマイク越しの女の声と昼間のライブで聞いた歓声よりもさらに大きな歓声。さらに周囲の人の数も昼間のライブよりも一段と多い数だ。
前方のステージには黒縁眼鏡とおさげのように垂らした黒髪のツインテールが特徴のアイドルとだぼっとした鮫の着ぐるみのゆるキャラ。特にゆるキャラの方はその見た目からは想像できないような機敏な動きをしていて驚いてしまう。
「これ……もしかして……」
ティアナは理解した。これは夢であると。
「私……」
いつもと違う体に違和感を感じたティアナは自分の体を見渡した。ティアナの体は幼かった。3、4歳くらいであろうか? それくらい幼かった。
そして理解する。これは夢であると同時に自らの幼き頃の記憶であると。
今のティアナの肉体は現実よりも幼い。だが、目線は現実の自分よりも一段高い位置にあり、周囲の人たちを見下ろしている。この不可解な状況の答えは一つ、ティアナは男の人に肩車をされていた。
「この人は……」
肩車をしてくれているこの男の人は誰なのか? 疑問を抱いたティアナは顔を覗き込もうとするが体勢的に難しく、確認することが出来なかった。ここからわかるのは髪色が赤いことくらいだ。
「でも……この感じ」
ティアナはこの男が誰なのかはわからなかった。だけど何故かとても心地よく落ち着いてくる。
夢の中のティアナは再び、目を閉じた。