俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第35話 ブレイクアップ

「どうして変身できねぇんだよ!!」

 

 目の前にエレメリアンがいて尚且つ相手はいつでも戦える臨戦態勢だっていうのに俺の腰に巻かれたテイルドライバーはうんともすんとも言ってはくれない。

 こいつはヤベェ、マジでヤベェ。

 予想だにしていないパニックで汗が全身から吹き出てくる。

 俺はダメもとでテイルドライバー右側面のスイッチを押し込みながらもう一度、叫ぶがやはりというか、何も起きてくれない。

 

「何してんのよ!!」

 

 ティアナが急かしてくるが俺にも何が何だかわからねぇんだよ……!!

 

「なによ~なにも起きないんじゃあ、ちょびっとばかし驚いて損したじゃない」

 

 変身できなかったこともあり、身構えていたはずの女エレメリアンの警戒は完全に解かれており、口元がニヤニヤと歪ませていく。

 

「そうだ……!! 確か変身するには確か俺たちが気持ちを合わせる必要があるんだったはず……」

 

 何故か変身することができないティアナの代わりに、本来は属性力が足りないために変身できない俺が、テイルドライバーを作動させるためには互いの気持ちを合わせる必要があるんだったことをすっかり忘れていた。

 今の俺たちは丁度今、大喧嘩していたばっかりじゃねぇか……!! もしかしたらそれが原因なんじゃねぇのかよ……!! 

 

「和輝のせいよ!! 和輝があんな女とあんなことしてるから!!」

 

「だーから!! 意味がわかんねぇつってんだろ!! てかお前がそんなだから変身できねぇんだろうが!!」

 

「何よ!! 私のせいだって言いたいの!!」

 

「たりめぇだろうが!! 俺が頑張ってるつー時にお前はキレて意味のわかんねぇことばっかり……!! うるせぇんだよ!! この貧乳!!」

 

 変身するためにもティアナを冷静に落ち着かせようと思ってはいるが、ティアナの言い分に腹が立ってしまい、俺の頭にも血が上ってそれどころじゃなくなってしまう。

 今までずっと無意識のうちに互いの気持ちを合わせていたからスムーズに変身できていたが、本来は互いの気持ちを合わせるなんてことはとても難しいってことを実感できる。

 

「貧乳なのは関係ないでしょ!! というかやっぱり大きい方がいいのね!!」

 

「大きいほうがいいとか言ってないだろうが!!」

 

「嘘よ!! じゃあさっきの女は一体全体何だったのよ!! あんなに下品な物ぶら下げちゃって!!」

 

「だーから!! 話の意味がわかんねぇって何度言えばいいんだよ!!」

 

「そうやって何度もはぐらかす!!」

 

「はぐらかしてなんかねぇっての!! お前が俺の言い分を全然聞いてくれねぇだけだろうが!!」

 

「聞いても何も言ってくれなかったのは和輝でしょ!!」

 

 エレメリアン出現がきっかけで抑えられていた怒りの感情が、俺の貧乳発言がティアナの怒りの感情に油を注ぐ結果となりドンドン燃えあがるようにヒートアップし、収拾がつかなくなっていた。

 

 

 

 

「あらあら、いい喧嘩するじゃないの~。破局寸前って感じで私ゾクゾクしちゃうわ~」

 

 和輝たちが脇目も振らず大喧嘩を展開する様を見て、グレモリーギルディはいやらしく腰をくねらせながら一人興奮をしていた。

 アルティデビルに所属する他のエレメリアンだったのなら二人に襲い掛かるは必至であったが、失恋や破局などの恋が終わる状況が大好きなグレモリーギルディはただその様子を見るだけなのだ。

 

「でもちょっと待ってぇ。このお嬢ちゃんの属性力……まさか……」

 

 そんな中、グレモリーギルディはあることに気づいた。

 眺めているのを終え、ゆっくりとティアナに向かって歩き出す。

 

「さっきまでは気づかなかったけど……お嬢ちゃん、かなりの高いツインテール属性を持ってるじゃない。このまま遊び続けていたらバアルギルディの坊やにどやされちゃうからいただいちゃうわね」

 

 グレモリーギルディは属性力を奪うための金属の輪を出現させてティアナに狙いを定めゆっくりと近づいていく。

 喧嘩することに夢中でそんなことに気づかない和輝とティアナは回避できるはずなどなく、絶体絶命かと思われたが、グレモリーギルディの目の前の地面に光の矢が数本突き刺さった。

 

「そこまでよ!!」

 

 和輝たちとグレモリーギルディの間に割り込むようにテイルブルームが緑のツインテールをなびかせながら現れた。

 テイルブルームの登場には流石のグレモリーギルディも即座に距離を取り、臨戦態勢を取る。それに対してテイルブルームもグランアローを強く握りしめる。

 

「涼原君、橘さん!! あなたたち何やってるの!!」

 

「「せ、先生……!!」」

 

 テイルブルームの一括を聞いたことで和輝たち二人ともハッと我に帰る。

 何故、二人がこんなにも大喧嘩しているのかがわからないが、状況からして何かアクシデントが起きたのだと判断したテイルブルームは、二人に下がるように指示を出す。

 

「あなた、涼原君や橘さんに何したの。あの二人がこんな状況に気づかないくらい喧嘩に夢中になるなんて」

 

「さぁ? "これ"に関しては私は特に何もしていないけどぉ?」

 

「"これ"に関してってことはこの公園で起きた事はあなたのせいってことでいいってことなのね」

 

「フフッ、さぁね?」

 

 テイルブルームとグレモリーギルディは互いに一定の距離を保ちながら様子を伺う。

 

「とりあえず下がるぞ!!」

 

「言われなくてもわかってるわよ!!」

 

 相変わらず揉めながらではあるが、二人がちゃんと離れていくことが出来たのを確認したのちグランアローを引き絞り光の矢を発射。グレモリーギルディは手から光弾を放ちそれを相殺する。

 

「へぇ~、これが噂のテイルブルームってわけ。さっきの坊やたちからは憎たらしいくらいの恋愛の波動をかんじるって言うのにあなたからは恋愛のれの字も感じないわね。あなた、もしかして恋したことないでしょ」

 

「それがどうしてって言うんですか」

 

「私の興味外ってことよ。あなたみたいな恋愛事態に興味がないつまらない()はね!!」

 

 グレモリーギルディは手をかざして光弾を乱射。テイルブルームはそれを全て残らず矢を放つことで撃ち落とす。

 このまま射撃戦を続けても埒が明かないと感じたテイルブルームは一気に距離を詰めてグランアローをグレモリーギルディの頭部目掛けて振り下ろす。それを見てグレモリーギルディはヒラリと横にずれることで回避するが、戦闘においては和輝以上の熟練者であるテイルブルームはその回避行動を予測できない訳がなく、即座に右足を軸にして後ろ回し蹴りを行い、見事グレモリーギルディの予想を上回り攻撃を成功させる。

 体勢が崩れたグレモリーギルディに対してテイルブルームは左足で顎を蹴り上げ宙に浮かす。そしてその浮いた体に向かって渾身の掌底を叩きこみ大きく吹き飛ばした。吹き飛ばされた衝撃で木に叩きつけられたグレモリーギルディは苦悶の息を漏らす。

 グレモリーギルディは蹴られた箇所を痛そうに手で抑えながら咄嗟に距離を取る。グレモリーギルディの表情は目元が髪で覆われているために窺い知ることはできないが、怒り心頭なのは十分に感じ取ることができた。

 

「なに、調子に乗ってんのよ……!!」

 

 体勢を整えたグレモリーギルディはすらりと伸びた指の先からショッキングピンクの長く鋭い爪を生やす。

 

「その余裕そうな顔、引き裂いてあげるわぁ。私自慢の恋引き裂く爪(ハート・ブロークロー)でね」

 

 グレモリーギルディは怒りに身を任せ飛び掛かり爪を横に縦にと振り回す。

 その爪から放たれる斬撃は防御の高いテイルブルームでもきっとひとたまりもないだろう。だが、それはもしちゃんと当たっていたらの場合だ。

 テイルブルームは襲い掛かって来る爪の攻撃に対して全く焦ることなく、時に軸をずらすことで回避、時にグランアローで受け止め受け流す、グレモリーギルディ怒涛の攻撃を防いでいく。

 その様は風を受けて揺れる花びらのようであり、グレモリーギルディはテイルブルームにペースを握られていた。

 焦るグレモリーギルディは攻撃がドンドン単調になっていっていることに気づかない。そしてついに反撃とばかりにテイルブルームはガラ空きとなったグレモリーギルディの懐に潜り込むと裂帛の気合と共に渾身の肘打ちを叩きこむ。

 

「ハァ!!」

 

「ぎゃああああ!!」

 

 グレモリーギルディの悲鳴が辺り一面に木霊する。

 テイルブルームは体勢が大きく崩れたグレモリーギルディをグランアローで袈裟、逆袈裟と斬りかかる。

 グレモリーギルディは体から火花が飛ばしながら宙を舞った。

 大きく吹っ飛ばされたグレモリーギルディは舗装された道をゴロゴロと転がる。この戦いの勝者が誰なのかは日の目を見るよりも明らかだった。

 だというのに起き上がったグレモリーギルディは口から吐しゃ物を垂らしながらも口元を邪悪に歪ませている。テイルブルームはそれが気になった。

 

「ハァ……ハァ……中々、やるじゃない……でもね……!! 私を倒すことは不可能よ……!!」

 

 それは単なるハッタリや強がりなのか。

 その答えはグレモリーギルディ本人にしかわからない。テイルブルームはグランアローを構える。

 

「そう。ならこれでトドメよ!! 完全開放(ブレイクレリーズ)!!」

 

 グランアローを完全開放させることで弓の形状をさらに大きく変化させ必殺の構えをとる。

 大地が震えて、そこからエネルギーがテイルブルームに集中していくというのにグレモリーギルディの笑みは消えない。

 テイルブルームは何かあると不安に思いながらも弓を引き絞り、必殺の矢を解き放つ。

 

「ブルームツインシュート!!」 

 

 二つの矢は二筋の光の軌跡をツインテールに描きながらグレモリーギルディ目掛けて飛んでいき、勢いよく貫いた。そしてグレモリーギルディの体は放電を起こすと大爆発を起こした。

 

「やったの……!?」

 

 爆発を見届けたことでテイルブルームは変身を解き、いつものスーツ姿の華に戻る。

 グレモリーギルディを倒したというのに華の表情は晴れない。その原因は、華が矢を放つ直前にグレモリーギルディの姿が一瞬揺らいだことがあったからだ。

 もしかしてグレモリーギルディは華が気づかない内に何かをしたのかもしれない。華は気になって爆心地を確認し、属性玉を探す。

 

「やっぱり、ない……」

 

 あちこち探してみるもグレモリーギルディの物と思われる属性玉は全然見当たらない。

 これはつまり、グレモリーギルディはまだ倒されていないということだ。

 どうやってあの場を切り抜けたのだろうと華が頭を悩ませていた時だった。和輝たちがいた方向から大きな怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「テイルバイオレットなんか辞めてやる!! どうせ俺なんか大した属性力も持たねぇ役立たずだよ!!」

 

「わかったわよ!! なら勝手にしなさい!! もう和輝なんか知らないんだから!! 和輝のバカ!!」

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 テイルブルームがグレモリーギルディを圧倒している時のことだ。

 二人は離れた後も懲りずに喧嘩を続けていた。幸いなのは互いに暴力に訴えていないことくらいだろうか。

 

「じゃあ、なんで私のことをずっと避けたのよ!! ちゃんと言ってみなさいよ!!」

 

「んで一々お前に言わなきゃならねぇんだよ!! てかお前は俺の何なんだよ!! 俺はお前にとって一体、何なんだよ!!」

 

 属性力も対してない今の俺じゃティアナの足手まといだと知らず知らずのうちにコンプレックスを抱いていた和輝の気持ちが爆発した。

 ティアナは言葉が詰まる。

 私は和輝の何なんだ。何がここまで私を動かすのだろうか。私は和輝にどうしてもらいたいんだ。

 ティアナは一瞬、我に帰り考える。しかし、答えはでない。当たり前だ。ティアナは和輝と共にいる内に芽生えたある感情が何なのかがわかっていないからだ。

 

「戦えない私の代わりにエレメリアンと……戦う……ただそれだけ……」

 

 悩みの果てにでたティアナの答えは最悪の一言に尽きる。

 同時に遠くで爆発音が聞こえ、振り向くとテイルブルームがグレモリーギルディを倒したように見えた。

 その二つが重なり、和輝のコンプレックスが大爆発を起こす。

 

「そうかよ……じゃあ、先生が戦えるようになったから俺なんかもう必要ないってわけだよな!! 代わりに戦うことも出来ないような役立たずの俺なんかよ!!」

 

「そんなこと誰も言ってないでしょ!!」

 

 ここで止めないともう後戻り出来なくなるとティアナの心が警告を送る。

 必死に和輝の言い分を否定しようとするが、もう遅かった。

 

「もういい。俺なんかいてもどうせ何の役にも立たない!! それがわかった!!」

 

 そして和輝は……

 

「テイルバイオレットなんか辞めてやる!! どうせ俺なんか大した属性力も持たねぇ役立たずだよ!!」

 

「わかったわよ!! なら勝手にしなさい!! もう和輝なんか知らないんだから!! 和輝のバカ!!」

 

 ティアナは否定したかったが、つい物の弾みで言い返してしまう。

 

「ちょっと二人ともなにしてるの!!」

 

 華が止めに入ろうとするが、もう時すでに遅かった。

 今の和輝は華の言うことなど聞くはずもなく。無言でヘルメットを被り、バイクに跨る。

 

「嘘でしょ……」

 

 喧嘩の果て、バイクで走り去ってしまう和輝の姿を見て、華は呆然と立ち尽くすしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフフフッ……」

 

 上空で妖艶な笑みを浮かべる存在には誰も気づかなかった。

 

 

 

 

 新聞部部室内。

 

「はぁ~青ちゃん。今日で何日目?」

 

「一週間と四日……」

 

「11日目ってわけね……」

 

 あの日以来、和輝とティアナの二人は顔を合わせて何も発しないくらい険悪な関係になってしまった。

 本人たちは認めていなかったが、ほとんどの生徒は和輝とティアナの二人が付き合っていると思っていたためにその事は学校中で密かに話題となっており、学校一の情報通である悠香と青葉が知らぬはずがなかった。最も、悠香も青葉も顧問の華がテイルブルームであることと、和輝がテイルバイオレットだと知っている協力者の一人なので当然だが。

 

「こんちはーっす ってやっぱすんげ~綺麗っすね」

 

 軽快な声を発しながら匠がドアを開けて部屋に入ってくる。

 最近は華が顧問として掃除を定期的に行っているため、部屋がとても綺麗にまとまっていることに匠は未だ慣れない様子を見せる。

 ドサッと鞄を床に放り投げた匠はそのまま勢いよくソファにダイブした。

 

「で、どうだった? あの二人の様子? 何か進展はある?」

 

「いんや、全然ダメっすわー。一か月前までの仲が嘘みたいっすよ」

 

 ソファで寝転がりながら匠は首を横に振る。

 悠香はその報告を聞いてため息を漏らす。

 悠香は二人の仲が悪化したことを知った最初は時期に直ぐに元の関係に戻るだろうと甘く見ていたが、いつまで経っても元の関係に戻りそうにない二人の様子を見たことでその考えを改め行動を起こした。

 先ずは二人ともに悠香自身が直接声をかけて仲直りをさせてみようとしたが、勿論失敗し、現在は第二プラン、匠を使って日々の二人の様子を監視しそれとなく仲直りを誘発させるように誘導させる作戦の実行中なのだが、今の所、今日のように上手くいく兆しが全く見えない。

 

「あの二人が痴話喧嘩してる時を眺めるのが一番最高だってのに。これじゃ本業の方も手につかないわね」

 

 二人の仲が一生このままだとテイルバイオレットは二度とエレメリアンと戦うことはない。

 あの日以降、エレメリアンは現れていないし、いざという時は華が変身するテイルブルームがいるのでそこの部分は安心ではあるものの、悠香としてはあの二人が一生険悪な関係で、二度と二人の微笑ましい痴話喧嘩が見られないのが嫌だった。

 

「にしては今週分の記事も面白いっすよ」

 

「まぁ、アマチュアではあるけど一応プロ意識は持ってるから本当に手を抜くつもりなんてないのよ」

 

「流石っすわ~。で先輩の方こそ何かわかったんすか? あの日のエレメリアンが何をしてあいつらの仲を悪くしたのか」

 

「それについてはある程度見当はついてるわ、青ちゃん例の奴よろしく」

 

 悠香の合図と共に青葉がいるパソコン側のデスクから資料が投げ渡される。起き上がった匠はそれをキチンとキャッチし資料を見た。

 書いてある内容は悠香があの日、自然公園を利用していたと思われる人たちへの聞き込み結果を纏めたものであった。

 

「これなんすか? 男女間の恨みつらみばっかり」

 

「普段、自然公園を利用している人達の中からあの日、あの時間にいたとされる人を片っ端から調査した物よ」

 

 匠は未だに首を傾げているため、かいつまんで説明することにした。

 

「あの日、自然公園を利用していたカップルの大半が自分が見たくない物、つまり最愛の彼氏彼女が他の人と浮気している所を見たらしいの」

 

 要するに悠香は今回のエレメリアンは幻を操る能力を持っていて、その能力を活かすことでカップルの仲を引き裂こうとしたということである。

 たかが一時の幻だけで全てのカップルの仲が完全に引き裂ける訳はない。悠香が聞き込みを行った時には既に誤解が解けているカップルも山ほどいた。だがしかし、大混乱が発生したことと、和輝とティアナの二人のように実際に仲違いを起こしている事例があるのは事実だ。

 

「んな馬鹿な。って思ったっすけど、振り返ってみればツインテールがどうたらこうたら言う連中だったすね」

 

「先生曰くエレメリアンは倒したらしいけど属性玉がなかったと言っていたし、もしかしたら先生に幻を見せることで逃げきっているわね」

 

 パソコンの奥からドサッと音が聞こえ、そっちに首を向けると椅子が倒れて青葉が立ち上がっていた。

 

「僕は許せない。どんな理由があろうとも人の恋路を邪魔するなんて」

 

「あたしもよ。今回のエレメリアン、絶対に許さない」

 

 匠は悠香と青葉二人の背中から怒りの炎が燃え上がっている幻が見えて思わず姿勢を正してしまう。

 そんな時、ドアが開いて華が部屋の中に入ってきた。

 

「ごめんね、二人とも遅くなっちゃった……って今日は川本君もいるのね」

 

「う、うーっす、先生」

 

 華はいつも通りの軽い調子で挨拶をする匠は置いておくとして、何故か怒りに燃え上がっている悠香と青葉が気になった。

 そんな中、匠が華に今回のエレメリアンの事を尋ね始める。

 

「そういや先生は知ってたんすか? 今回のエレメリアンが幻を操るかもしれないって」

 

「昨日、既に片霧さんに聞いているから大丈夫。道理であの時、余裕があったと納得したわ」

 

 ふーんと素っ気無い返事を返す匠。

 

「それにしてもどんな幻を見せれば、涼原君と橘さんの仲を悪くできるのかしらね? それがわかれば仲直りもし易いと思うんだけど」

 

 華がうっかり漏らした一言で匠は固まってしまい、悠香と青葉は呆れ果てる。華は何かおかしいことでもあったのかと思うがピンと来ない。

 

「先生は恋愛に疎すぎるので、今回のエレメリアンをギッタンギッタンにすることだけに集中してください。和くんとティアちゃんの件はあたしらが何とかしてみせますから」

 

 悠香からピシャリと告げられた一言。

 華はふとグレモリーギルディと戦った時のことを思い出した。

 

(あなたからは恋愛のれの字も感じない)

 

 私は恋愛がわからない? いやそんなことはないはずだ。私は22歳の社会人、少なくとも片霧さんや川本君たちみたいな生徒たとよりかはわかっているつもりだ。

 実際の所、華は何故、和輝とティアナの仲違いの話で恋愛という単語が出てくるのかが理解できていなかったので大当たりなのだが、グレモリーギルディ含めて言いたい放題ボロクソに言われたことが原因で黙っていられなくなり悠香に言い返す。

 

「そんなことありません!! 私だって恋愛くらいわかります」

 

「じゃあコレ。やってみてください」

 

 悠香の指パッチンの合図と共に青葉が奥から自前のノートパソコンとゲームのディスクを持ってきて、華の目の前のテーブルに置いた。

 

「こ、これは何? 片霧さん?」

 

 華の疑問を聞いて悠香ではなく青葉が説明を始める。

 

「……このゲームは全年齢対象且つ初心者でも安心して遊べる初めてモードが存在します。初めてモードならヒロインの女の子のエンディングを見るのに必要時間は約30分で難しい選択肢もないから恋愛ゲーム初心者でも楽しめると評判なんです……」

 

「青ちゃん、説明ありがと。つまりこのゲームを初めてモードでプレイしてクリアしてくださいってことです。このゲーム、よっぽどの鈍感か、恋愛に下手くそじゃないとゲームオーバーにはならないんで、これにクリア出来たら――」

 

「認めてくれるのね。わかったわ、やってみせればいいんでしょ」

 

 ここで逃げたら先生として、人生の先輩として、女としての威厳がなくなってしまう。

 青葉が準備を整えた後、華はたかがゲームと高を括って意気揚々とマウスを動かしゲームをプレイし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 30分後。

 パソコンの画面には真っ暗な背景にTHE ENDの文字が映り、絶望のスタッフロールが流れ始める。

 華は見事に玉砕した。

 

「先生、その選択肢はないっすわ~。普通、追いかけてこないでって言われたら意地でも追いかけるっしょ」

 

「……このモード、故意にじゃないとゲームオーバーしないはずなんだけど……」

 

「見事に地雷を全部ぶち抜いていたわね……」

 

 背後からみんなのボロクソに言う声が聞こえてくる。このまま終わってしまえば華のプライドがなくなってしまう。

 華はもう一度チャンスを頂戴と懇願し、悠香は渋々承諾。別のヒロインを選択して攻略を開始したが……

 

『THE END』

 

 またしても絶望のエンディング。

 流石にここまでとはと華を見る視線が憂いを帯びたものに変わっていく。

 その後、全ヒロインを試してみたが見事に全部、同じエンディングを発生させてしまった。何だか気まずい空気になってしまったことを悠香は後悔するがもう遅かった。

 

「だ、大体……!! こんなゲームで理解できるほど恋愛は簡単な物じゃないんです!! そ、それに学校にゲームを持ってくるなんて!!」

 

 華は涙目になりながら訴えるが、哀れとしか言えなかった。

 

「先生、それ以上何も言わないでくれ。泣けてくるっす」

 

「あたしたちこんなことしてていいのしら……」

 

 悠香は額に手を当て深く後悔するのであった。




先生は思春期を絶望を抱えながら生きていたので、勘弁してやってください……
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