俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第36話 恋すること愛すること

 私は一人寂しく学校から自宅のアラームクロックへ帰る道をトボトボとゆっくり歩いていた。

 今月の初めくらいまでなら和輝のバイクで乗せて行ってもらっていたから孤独を感じるけど、流石にもうこの感じにも慣れた。今じゃあ通りすがった見知らぬ人のツインテールを見て、あの子もいいツインテールしてるわねなんて考えるくらいにはね。

 でも、やっぱりまだ慣れないことがある。

 

「はぁ……」

 

 思わずため息が私の口から漏れた。

 原因は多分、自然公園で女エレメリアンが出現した時、あるアクシデントというか……ある現場を私がうっかり目撃したことで和輝と大喧嘩をしてしまいその結果、和輝はテイルバイオレットに変身できなくなっただけじゃなく、和輝との関係は崩壊してしまったことが原因……だと思う。

 結局、もう12日も和輝とは口をきいていない。

 

「何なのよ……ほんとに……」

 

 あの日以来、ずっとこう。

 胸にぽっかりと穴が開いたようなツインテールをほどいている時みたいな物足りなさと、怒りでも哀しみでも苦しみでもないよくわからない変な感情が、常にこみあげてきて落ち着かない。

 その影響なのか最近はツインテールを結ぶ速度も制度も落ちてきている。今までなら20秒もあれば完璧なバランスで両方とも結ぶことが出来ていたというのに、今朝なんてツインテールを結ぶのに10分近くかかってしまった。

 なんていうか髪が上手くまとまってくれない。だから結ぶのに時間がかかってしまうわけ。こんなのまるで私の心みたいにとっ散らかっているみたいじゃない。

 

「詩織、今日どうする?」

 

「どうしよっかな~蓮君に任せちゃおっかな~」

 

 トボトボとゆっくり歩く私の隣を、肩を寄せ合うように歩く二人の男女が追い抜いてしまった。

 チラッと聞こえた会話内容や後ろ姿からしてあれは多分、クラスメイトの水嶋さんよね。水嶋さんは女エレメリアンの騒ぎがあった翌日から数日間、体調不良を原因に学校を休んでいたけど、あの調子ならもう完全に大丈夫そうね。

 

「……」

 

 何でだろう。今、もの凄く水嶋さんの事がうらやましいと思ってしまった自分が心の奥底にいた気がする。多分、本当は和輝と仲直りしたいだと思うんだけど……

 

(お前が俺の言い分を全然聞いてくれねぇだけだろうが!!)

(テイルバイオレットなんか辞めてやる!!)

 

 駄目……!! いざ、和輝の事を思うと怒りに近いようで少し違う変な気持ちが沸き上がってきて興奮してしまい冷静でいられなくなってしまう。

 それにもう一つ。和輝の事を思うと思い出してしまうことがある。

 あの日、私なんかとはまるで違うくらいには大きな胸が特徴で尚且つツインテールの見知らぬ女が和輝とキスするくらい親しげにしている場面が鮮明に蘇ってくる。

 今度は胸が締め付けられるような苦しみと哀しみに近い変な感情が私の心を支配し始める。

 

「和輝のバカ……」

 

 胸の奥から感情がこみあげてきてしまう。多分、今の私は酷い顔しているんだとわかってしまうくらいには。

 この気持ちは一体何なのよ……? 一体どうすればいいのよ……? 

 一向に出る筈のない答えを探しながら歩いている内にいつの間にか川にかかる大きな橋に差し掛かった。この橋も前までなら車道を和輝のバイクで渡っていたのにねなんて考えながら渡りきろうとしたそんな時、橋を降りた場所に広がる水辺公園から声が聞こえてきた。

 

「ちょっとそこのあんた。なんて顔してんだい。折角の可愛い顔が台無しじゃないか」

 

 お年寄り特有のしわがれた声だけど凄く元気に満ち溢れている。

 私の事を言っているのではないのかとふと思い声のした方向、水辺公園を見ると川が一望できるベンチに腰掛ける白髪をお団子状に丸めて束ねた元気そうなおばあちゃんと目が合った。

 目が合った後じゃ遅いかもしれないけど、本当に私でよかったのか不安だったので私? と自分の事を指さしてみるとおばあちゃんはうんと頷いた。

 

「そうさ、あたしゃあんたのこと言ってんだ。そこら一帯のボケ老人と一緒にしてんじゃないよ。まぁ、そんなこったよりもあんたちょっとこっちに来な」

 

 やや乱暴な口調なのだけど、そのおばあちゃんからは初めて会ったというのに不思議な優しさが感じられた。

 私はそのおばあちゃんの言う通り、橋を渡り切ってすぐの階段を降りることでおばあちゃんの座るベンチに駆け寄った。

 

 

 

 

「さ~て、今日はどのカップルを引き裂いてあげようかしら」

 

 高層ビルの屋上から夕方のスクランブル交差点での人々の流れを嬉々として眺めながらニヤニヤと口元を歪ませるているのは、先日の自然公園で大騒ぎを巻き起こした元凶であるグレモリーギルディ。

 悠香の推測通り、グレモリーギルディは自身の持つ特殊能力、他者に現実と区別することが困難な幻を見せるという物を活用することでテイルブルームから逃げ切ることに成功していたのだ。

 あの日、グレモリーギルディは広大な自然公園全域を覆うよう特殊な結界を展開、結界の中では全ての男女がそれぞれ全く違う別々の幻を見せることで、自然公園を利用している多くのカップルの仲を破壊しにかかったのだ。その結果、間接的にではあるが厄介者であるテイルバイオレットを無力化できたのはグレモリーギルディにとってとても嬉しいことであった。

 

「やっと見つけたぞ、グレモリーギルディ。そろそろふざけるのも大概にしろ」

 

 グレモリーギルディの背後からドスの籠るほど怒りに震える低い声が聞こえてきた。ハッと驚きながら振り返ると屋上の入口の扉に腕を組みながらもたれ掛かるバアルギルディの姿がそこにはあった。

 なんだバアルギルディか~とグレモリーギルディは心の中で胸を撫で下ろす。

 あのテイルブルームとかいう恋愛知らずの化け物だったらどうしようかと思ってしまうくらいには、グレモリーギルディはテイルブルームにコテンパンにやられた苦い記憶を一瞬だけ思い出した。

 

「なぁに? バアルギルディの坊や?」

 

 一応仲間であるバアルギルディとわかったからには、いつも通りの態度で平静を装うグレモリーギルディ。

 だが、怒りに震えるバアルギルディにはその人を食ったかのようなグレモリーギルディの態度は逆効果もいいところであり、バアルギルディの怒りはより強くなる。

 

「とぼけるなよ。グレモリーギルディ!!」

 

 怒りのままに扉をたたき壊すバアルギルディの様を見て、思わずグレモリーギルディは身構えてしまう。普段滅多なことで声を荒げないどころか物にぶつかることすらもしない温厚なバアルギルディがここまで怒っているこの状況で身構えぬ者などいないのは当然の理であった。

 アルティデビル内でも指折りの実力者であるバアルギルディに対して、戦闘があまり得意ではないグレモリーギルディが敵う通りなど万が一でもありはしない。グレモリーギルディはいつでも逃亡が可能な体勢を取りつつ訳を問う。

 

「何がどうしたってのよ……!!」

 

「君にはあれ程言ったはずだぞ。我々の使命を忘れるなとな。君が出撃してからもう二週間、期限はとうに過ぎているというのに倒されたという報告も属性力を奪ったという報告もない。一体何をしていた」

 

「あ~そのことね、楽しみすぎてすっかり時間を忘れていたけどそれなら大丈夫大丈夫。それよりもあなた、ちょっと乳酸菌足りてないんじゃないのぉ~?」

 

 訳がわかったこともあり、グレモリーギルディは構えを解いてバアルギルディの厳しい態度などどこ吹く風とばかりに軽口をたたき始める。

 バアルギルディの眉間のしわがみるみるうちに増えていく。もう一度、ガツンと言ってやろうかとバアルギルディは思ったその直後、グレモリーギルディのある言葉を聞いてそれを思い留める。

 

「あなたが言う究極のツインテールを超えうるツインテール属性の持ち主ならもう見つけているわ」

 

「何だと!? それは本当か!?」

 

「ええ。とっても可愛いくて引き裂きがいのあったお嬢ちゃんだったわよ」

 

 引き裂きがいのあったというのは物理的なことではなく、カップル的なことを指しているのはバアルギルディは一瞬で理解した。

 失恋属性(ロストラブ)のグレモリーギルディの事だ。得意の幻影を活かしてカップルの仲を引き裂いていたに違いにない。だが、それよりも今は……!! 

 

「その持ち主がわかったのなら何故、早く奪取しないんだグレモリーギルディ」

 

「テイルバイオレットがいなくなった今、この世界で私たちの障害となるのはテイルブルームとかいう鈍感ちゃんだけ。いつでも奪うことが出来るのならできる限り人間の文化を楽しむものよが普通ってものよ」

 

「そうか……って何だと!? テイルバイオレットがいなくなっただと!?」

 

 テイルバイオレットに一目惚れをしている且つ、テイルバイオレットの事を生涯一のライバルとなると予期すると感じていたバアルギルディにとってその言葉の衝撃は強く響いた。グレモリーギルディの様子からして嘘を言っているようには見えない。

 また、バアルギルディはテイルバイオレットこそが目当ての属性力を持つ者だと考えていたのだが、グレモリーギルディの話し方からしてどうやらそれも違うようだ。

 黙り込んでしまうバアルギルディ。グレモリーギルディは薄ら笑いを浮かべた。

 

「フフッそう言えばあなたはテイルバイオレットの事が好きだったわね~ごめんなさいねぇ、私のせいでいなくなちゃって。でもそれも「我々の使命だ」だもの、しょうがないわよねぇ~」

 

 ニタニタと薄ら笑いを浮かべながらバアルギルディを煽るグレモリーギルディ、ご丁寧に後半はバアルギルディのモノマネつきである。

 ここで手を出せばリーダーとしての威厳に関わってしまうために手が出せないバアルギルディは苦虫を嚙み潰したような表情になる。

 

「フフッじゃあ期限ももう過ぎてることだし、お望み通りこれからそのお嬢ちゃんから属性力を頂いてくるわ」

 

 そう言うとグレモリーギルディは蝙蝠の羽を広げ夕空に飛び立っていった。

 一人残されたバアルギルディは虚しく呟く。

 

「テイルバイオレット、君は本当にもう私の前に現れてはくれぬのか……」

 

 

 

 

 川が空が段々と夕焼けのオレンジ色に染まり始める中、私は不思議なおばあちゃんに導かれるままにベンチに腰掛ける。

 真正面に見える川の流れがキラキラしていてとても綺麗に見えるわ。

 

「まずはすまないね、こんな老いぼれに戯言につき合わせちまって」

 

「ううん、別にいいの」

 

 このおばあちゃん、近くで見れば見るほどエネルギーに満ち溢れているのがわかる。年齢は60? いや70くらいかしら? 

 それに何というか、このおばあちゃんから和輝と似た雰囲気を感じる。口調が乱暴な所とかが特にね。

 

「で、あんたは何悩んでんだい? こんな老いぼれでよかったら相談でも乗ってやるよ」

 

 何処の誰かも知らない人に相談なんていつもの私なら考えもしないし、ましてやこんな提案は丁重にお断りしていたと思うけど、このおばあちゃんなら別に良いかなと迷わず思える謎の信頼と安心感があった。

 沈み始める夕暮れが照らす中、私は静かに口を動かす。

 

「私、ついちょっとまである男の子と一緒に色んな事をしてきたんです。一緒に色んな場所にも行ったし、色んな人やツインテールに出会った。でも……些細というか何というかある出来事がきっかけでその男の子と大喧嘩しちゃって今まで一緒にやってきたことも全然出来なくなっちゃって……」

 

「……」

 

「それからもう2週間も経っちゃたかな。アイツと顔を合わしてもお互いに何も喋らない毎日が今日含めてずっと。何か気まずいっていうか何というか……」

 

 腕を組みながら黙って聞き続けてくれるおばあちゃんがゆっくりと口を開いた。

 

「あんたはその男の子と仲直りでもしたいのかい?」

 

「……それがわからないの。いざ、アイツの前に立つと喧嘩した時のこと思い出しちゃってムカついちゃうのに、でもアイツがいないと何か物足りないというか、あいつの事を思う度に心がチクチクするみたいな変な感じになっちゃう。喧嘩をする前から気が付いたらずっとこうで私、この気持ちが何なのかがわからない。この気持ちが何かわかれば何かスッキリする気がするんだけど……」

 

 記憶を失う前の自分やそれを知る人物、例えば私のお母さんやお父さんだったらこの気持ちの正体もわかったのかな……

 少しの沈黙の後、おばあちゃんは喋りだす。

 

「それはズバリ、恋だね」

 

「……恋?」

 

 耳を疑った。

 今、このおばあちゃんは私のこの気持ちの正体を恋っていった!? 

 私がアイツに、和輝に恋をしてるっていうの……!?

 

「……ない!! ないないない!! 絶対絶対、絶対にない!!」

 

 興奮してしまった私は思わず立ち上がって必死にそれはないと手を振っておばあちゃんに訴える。でもおばあちゃんはそんな私の否定なんかどこ吹く風みたいに余裕の表情をしている。

 

「あんた、鏡か何かで自分の顔でもよーく見てごらん。あの夕日以上に真っ赤っかだよ」

 

 そう言われたので、急いでスマホを開いて今の顔を見てみた。

 その顔は私の髪の赤紫色や夕暮れの紅よりも断然、真っ赤だった。正直な所、全然理解が追いついてきてくれない。私は本当に和輝に恋をしているっていうの……!? 

 

「好きな子を思うと心がチクチクしたり、いざ目の前に立つと冷静でいられなくなっちまう。あたしゃもあんたみたいに若くて可愛かった頃は死んだ爺さん相手によくなったものさ。ま、あたしは今でもまだまだ可愛いけどね」

 

 ニカッと元気に笑っている所、悪いとは思うけど、最後の一文は余計だと思う。

 そんなことよりも……

 

「私は和輝のことなんて……」

 

「じゃあ、聞くけど何が原因でそんな喧嘩になっちまったんだい。大体想像つくよ」

 

 自信満々に聞いてくるおばあちゃん。

 私が怒る原因となったその出来事のことはあまり口には出したくなかったけど、今ここでこのおばあちゃんの前で黙っていたら私は一生、このままになってしまう気がする。

 正直、思い出すのも嫌になるけど決心して話し始める。

 

「最近、その男の子が私に対して何か隠してるというか何か避けてる気がして、気になって何してるのかを調べてみたらその男の子が……知らない女の子と楽しそうにしていて……」

 

 胸が締め付けられるような感覚が私を襲う。思い出すだけでも苦しいし悲しいし辛いためキスをしていたとまでは流石に言えなかった。

 だが、そんな私とは対照的におばあちゃんは妙に嬉しそうに見えた。

 

「ほれみな、やっぱり恋じゃないか」

 

「え……!?」

 

「好きな男の子が自分じゃない女の子と仲良くしてる所を見ると感情が抑えられなくなる。恋する乙女にはよくあることなんだよ」

 

 今までの事を振り返ってみれば、悠香さんと初めて出会った時や夢宮ヒカリがテイルバイオレットのことが好きだと言った時、私はよくわからない怒りを覚えてしまっていた。それに和輝と一緒にいる時、なんだか凄く安心してしまっていた自分もいた。

 

「これが恋……」

 

 言われた直後は気が動転していたこともあって、そんなことないと否定してしまったというのに、時間が経つにつれ徐々に実感が湧いてくる。

 ずっと疑問だった答えがようやくわかった時の達成感というか安堵感が、私の心とツインテールを満たしてくれている。

 

「でもどうしよう!? 私……わたし……」

 

 恋をしていることを理解した途端、あの時の出来事や大喧嘩をしてしまったという現実が重くのしかかってより辛い気持ちなっていく。

 和輝に会いたい、和輝と一緒にいたい。でも和輝にはあの時の女の人が……

 

「あんた、その男の子は何か言ってなかったかい?」 

 

 絶望しかける私の脳裏におばあちゃんの言葉を聞いたことであの時の和輝の発言とその時の様子がハッと蘇って来る。

 

(意味がわかんねぇつってんだろうが!!)

(お前が俺の言い分を全然聞いてくれねぇだけだろうが!!)

 

 あの時は気が動転して気づかなかったけど、和輝はあの時ずっと意味がわからないと言っていた。もしかしたらあれは嘘を誤魔化そうとしているじゃなくて……

 あれ? そう言えば確か、あの日、あの女エレメリアンが何かをしたせいで公園中がパニックになっていた。それにあの時、あの女エレメリアンは和輝には能力がかかっていないとかも言っていたわね。もしかして私はあの女エレメリアンに何かされていたとしたら……!!

 

「ま、それがもし本当にその男の子が好きな子だったとしても、一度、面と向かって告白でもなんでもしてみればいいんだよ。その結果、周りから泥棒猫とか何とか言われようが、あたしはあんたを応援するよ。恋する乙女に情けは無用なのさ」

 

 泥棒猫とかのくだりは置いておくとして、告白かぁ…… 

 私にそんな勇気はあるかなと不安になってくる。記憶を失う前から今日今まで色んなエレメリアンと対峙してきて勇気は人一倍持っていると自信はあるけど、正直、自信がない。

 エレメリアンという怪物と戦うよりも告白して想いを伝えることの方が断然、勇気がいる気がする。もしふられてこのまま、友達としてこれからも頑張ろうなんて言われた日には立ち直れない。

 

「大丈夫だよ。あたしの見立てじゃその男の子はあんたに惚れてるよ。自信持ちな」

 

 不安に押しつぶされ暗く落ち込みかける私に対して、おばあちゃんは優しく発破をかけてくれた。

 何倍も人生経験が豊富なお年寄りの言葉ほど元気になれる。

 

「随分いい顔になったじゃないか。さてと……バカな孫がもうすぐ帰る時間だし、あたしはそろそろ帰るとするよ。これ以上あたしが出る幕はないしね」

 

 そう言うとおばあちゃんはベンチから立ち上がり階段の方へゆっくり向かっていく。おばあちゃんの背筋を一ミリも曲げずにシャキッとしていて、年齢を感じさせない気品があった。

 それにしてもこんなおばあちゃんのお孫さんってどんな人なんだろう……? なんかちょっと気になっちゃう。

 

「あ、そうだ。最後に一つアドバイスしてやるよ」

 

 橋の上に続く階段を歩くおばあちゃんは思い出したかのように振り向き、さっき以上に大きな声を張り上げる。

 

「男ってのはバカな生き物だからね。何かにかこつけて自由が欲しいとぬかすもんなのさ。だからどんなにその子が好きでも、束縛だけはしちゃいけないよ。ストーキングなんてもっての外さ。いいかい? その子が一人にしてほしそうな時、本気でその子を愛するのならその子を信じて待つんだよ」

 

 言い終えるとおばあちゃんは風のように去ってしまった。

 残された私は川に落ちないように取り付けられている柵に体を預け、川を眺めながらふと考える。

 

 どんなに好きでも縛り付けちゃいけない。まるでツインテールと一緒ね。どんなにこの髪型が好きでも四六時中ずっと縛っていたら髪は痛んじゃう。

 和輝がいないとすっごくそわそわしちゃって、会いたいって気持ちが止まらない。でもだからといって和輝の一人でいたいっていう気持ちも考えずにずっとついていちゃったら和輝だって嫌がるのは当然じゃない。

 

(いや!! わたし、このままお風呂はいる!!)

 

(もう、そういうとこばっかりお父さんに似ちゃって……。いい? ずっと縛ってると――のツインテール、いつかポロっと落ちちゃうわよ。それでもいいの?)

 

(それはもっといや!!)

 

(じゃあ早く髪解く。お風呂の後、また結んであげるから今は我慢しなさい)

 

 今ふと、初めてツインテールにした日の事を思い出した。ツインテールを解こうとしなかったせいでお母さんに迷惑をかけちゃった幼き思い出。

 ツインテールを解かないといけない就寝時間と入浴時間は正直、好きじゃないし辛いけど、これもツインテールを大事にしたいと思うから乗り越えられる。じゃあ、和輝の事だって同じ。好きだからこそ我慢するし我慢できる。

 

「でもまずは、和輝と仲直りからしなきゃね」

 

 決意に燃える私の頬を風で揺れる左のツインテールが撫でてくれた。

 何だか、ツインテールが励ましてくれているみたいで気持ちがいい。ツインテールに応援されるなんて元気が出てくるに決まっているじゃない。

 

 

 

 一先ず、今日は家に帰ろうとしたその刹那。後ろから、丁度、街灯の上あたりから声が聞こえてきた。

 

「見つけたわよ。お嬢ちゃん」

 

 

 

 

 同時刻、新聞部部室。

 

「昨日、先生にはあんなこと言っちゃたけど結局、どーすんすか先輩」

 

 ここ数日間ですっかり定位置とかしたソファの上で寝転びながら匠が悠香に尋ねる。

 

「あたしも一体どうすればいいのかわかんないわ、せめて話をちゃんと聞かせてくれればいいんだけど」

 

 喧嘩の訳を聞いても和輝とティアナ、互いに何も答えてくれない以上、悠香や匠が何かを言える状況ではなかった。

 頭を悩ませる悠香。そんな中、新聞部のドアが叩く音が聞こえてきた。

 

「先輩、お客さんっすよーー」

 

「どうせ、先生でしょ。今日、会議があるから遅くなるとか言ってたのよね」

 

 そしてドアがガラガラと音をたてながら開かれる。そこに立っていたのは悠香と匠の予想とは違う者だった。

 

「……うっす」

 

 そこには和輝が立っていた。




今回は今まであまり出番がなかったあの人に大活躍してもらいました。
ちなみに幼きティアナの出来事は原作、4巻のある人物の発言が元ネタ。

次回、決着。
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