俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第37話 二対の魂、二対の想い

 ドアを開けた先で俺を待っていたのは、まるでどうしているんだと言いたげな匠と悠香さんの驚愕の眼差し。突き刺さる視線が気になってしかたねぇ。

 

「んだよ、その眼。俺が来て何かおかしなことでもあんのかよ」

 

「いや別に……ねぇ、先輩」

 

「まぁ……ね」

 

 何だよ、この空気は……

 今日含めて最近、余りに暇なものだから学校中を風の向くまま気の向くままにうろうろしていたら、偶然、新聞部部室(ここ)の前に来ちまったから久々に顔を覗こうかっていうのに、悠香さんも匠も随分とよそよそしくて気持ち悪ぃ。変わらないのは奥のデスクで眼鏡を光らせながらパソコンと睨めっこしている青葉さんくらいじゃねぇか。

 てか、どうして匠がこうもさも当然の如く居やがんだよ。俺もそうだから余り大きく口には出せないけどさ、別に匠は俺と同じ部員でも何でもねぇ部外者だろうが。

 

「はぁ……」

 

 来てみたはいいが、やっぱりていうか、何もすることがない。思わずため息をついちまう。

 とりあえず俺は鞄を床に置くと寝転んでる匠をソファから無言で追い出した上でもたれ掛かり、スマホを開く。スマホを開いて先ず、目につくのはおびただしい数のおやっさんからのメッセージの通知。二週間近く前に起きたあの女エレメリアンとの一件以来、俺はアラームクロックに顔を出してないんだから当然っちゃ当然だな。

 

「ねぇ……和くん? お茶とか飲む……?」

 

 またか……。悠香さんはよそよそしい態度のまま、俺にお茶をすすめてきた。

 俺は別に鈍感じゃねぇ。何故どうして悠香さんがこんな態度をとっているのかなんざ、ある程度予測だってつく。

 十中八九、この態度は俺がティアナと大喧嘩してテイルバイオレットを辞めちまったからだろうな。

 

「別に喉は乾いてませんし、変な気遣いなんざいらねぇですよ。これは俺の問題なんだからさ」

 

「やっぱしバレた……?」

 

「当たり前でしょ」

 

 テーブルを挟んで真向かいに座った優香さんはいたずらがバレた子供のようにベロを出す。後頭部、丁度髪がくくられている箇所に手を当てて、片目をウインクするのも忘れていない。俗に言うテヘペロっていうやつだろうか。

 兎にも角にもこの感じはいつもの悠香さんらしい感じだ。しっかりしているのか、していないのかわからない、この飄々としていて掴みどころない感じだ。

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙が部屋の中を支配する。

 当たり前っちゃ当たり前だが、別に特にこれといった話題があるわけでもない。本来は喋るのが得意なはずの悠香さんがこんなレベルになっちまうなんて、俺とティアナの喧嘩はここまで周囲に影響を及ぼすものだったのかと痛く感じる。

 数分の沈黙の後、悠香さんが恐る恐る口を開いた。

 

「……ねぇ、和くん? 和くんはティアちゃんの事をどう思っているの?」

 

「……別に」

 

 ティアナの事を思うと複雑な気分になって、普段以上にぶっきらぼうな態度をとっちまう。

 態度が悪いことなんてのは理解はしているが、俺自身が制御できない。

 

「好き……? それとも嫌い?」

 

「……」

 

 答えられない。いや違う。答えたくない。

 俺の心がそれを言うのを拒んでる。絶対に言わない、言ってやるものかよと駄々をこねている。

 無理には聞こうとはしない性分の悠香さんは諦める姿勢をとり、俺は気まずさから出て行こうと鞄を抱えてドアに向かおうとした時だった。予想外の人物の声が聞こえてきた。

 

「随分とめんどくせー野郎だな。おめーも」

 

 ソファから追い出された後、床で胡坐をかきながら話を聞いていた匠は唐突に立ち上がり、すまねーっす悠香さんと軽く誤りを入れたかと思うと頭をかきながらにじり寄ってくる。顔と顔との距離が近い。

 匠が拳を握りしめるのが見えた。

 

「歯ァ食いしばれよ!! 和輝!!」

 

 ぐはぁ!! 

 匠の拳は俺の頬にクリーンヒット。何時ぞやのお返しを喰らったみたいに俺は派手な音をたてながらぶっ倒れた。

 立ち上がらずに殴られた箇所を抑えて匠を睨む。普段の俺ならここでやり返すか言い返すんだが、力が出なかった。

 

「俺は何が原因で喧嘩したとか、どっちが悪いとか、そんなの一つもわからねー。でもな、今のお前見ていたらすげーイライラしてきたぜ」

 

 いつもへらへらしているだけの匠の真剣な態度の迫力に俺も悠香さんも何も喋れない。

 

「んで、好きなのか好きじゃないのかはっきりしろ、この馬鹿和輝。ま、言っとくが俺も先輩もみーんなわかってっから今更何を秘密にしようがバレバレだぜ」

 

「ッ……匠……」

 

 悠香さんの方をチラリと見ると、悠香さんは強く頷いていた。

 なんだよ……バレバレじゃねぇかよ……。何だか惨めでクッソ恥ずかしい……

 俺は全身に力を籠めて、心の中の自分自身を黙らせて力強く答えた。

 

「……ああ好きだよ!! あいつのことが……ティアナのことが好きで好きでしかたねぇ!! 何かもんくあっか!!」

 

 多分、今の俺の顔、鏡で見たらすげぇ赤くなっちまっているんだろうなと手に取るようにわかる。それくらいに俺は恥ずかしかった。

 ティアナと出会う前はあんなに彼女が欲しいとか言っていたのに、いざ好きな人が出来ちまうとこんなにも素直にならねぇものなのかよと自分でももどかしくなっちまう程度は恋するってことがそう簡単ことじゃないことだとわからされた。

 匠と喧嘩した時は、すぐにでも謝ろうと思えたのに、今回のティアナとの喧嘩では上手くいってなんかくれない。顔を合わせると俺の心が邪魔をしてくるんだ。

 

「だったらこのままでいいのかよ。このままじゃ一生変わらねーぞ。さっきも言ったがどっちが正しいとか知らねーけど、男なんだからお前が折れるしかないだろーが。だろ?」

 

 匠の言うことは痛いほど理解できる。

 このままじゃ何も変わらないどころか悪化するばっかりだ。俺が折れないといけないのもわかってる。でも……

 

「どういう面下げて戻ればいいんだよ!! 俺が弱いからいけないのに……それなのに……俺はティアナにぶつかることしかできなかった。そんな俺が今更どうすりゃあいいんだよ……」

 

 俺は心の内側に溜まっていた全てを吐露した。

 ティアナの属性力が日に日に強くなっていっていることと、先生が参戦したことで感じていた俺の不甲斐なさ。このままじゃティアナに迷惑をかけるじゃないかと思ってトレーニングにも励んだっていうのに、それすらも喧嘩の遠因になって挙句の果てに逆ギレまでしてこんなんじゃどうやって謝ればいいのかわからない。

 あの日以来、ずっと後悔していたんだ。

 

「たっくめんどくせーな、――」

 

 

 

「見つけた……見つけたよ悠香!!」

 

「どうしたの青ちゃん!?」

 

 匠が何か言おうとした時だった。奥でパソコンの画面と睨めっこを続けていた青葉さんが嬉しさのあまりにいつもとは違う大きな声をあげた。

 キャラ崩壊気味のそのテンションに悠香さんは困惑しながら訳を聞いた。俺も匠も青葉さんの方に向かいパソコンの画面を直視した。

 

「あの女エレメリアン、撃破されていないのに全然、出てこなかったでしょ。だから僕は奴は先生に見つからないようにこっそり隠れながら活動しているって睨んだんだ。で、今ターゲットは見つかった」

 

 パソコンの画面にはネットの掲示板やSNSでのエレメリアン発見の写真がいくつか並んでいる。日付は今日、場所は学校(ここ)からそう遠くない春日川大橋近辺の水辺公園。

 

「まさか、ここ最近ずっと見張っていたっていうの!?」

 

「まぁね。ネットには僕に力を貸してくれる人だらけだし、こんなの朝飯前だよ」

 

 写真に添えられているメッセージには、『テイルバイオレットの姉貴、やっちゃってください』だの『テイルブルーム様、頑張って』の文字があった。

 

「ちょっと待って、直近のこの画像に映ってるの……ティアちゃんじゃない!?」

 

 一番新しい写真、ピンぼけ画像の切れ端にうっすらとではあるがティアナらしき影が見える。それを見たことで俺の第六感がティアナの危機を感じった。

 もしかしなくても今、ティアナはあの女エレメリアンに狙われている……!!

 でも……それを知った所で俺なんかじゃ……

 

「何ぼーっと突っ立ってんだよ。早く助けに行けよ」

 

 匠から背中を強く押されたことでよろめいてしまう。

 助けにいってやりたいのは山々だけど、さっきの続きでどの面下げて戻ればいいのかわからない俺なんかがと駆け出すことが出来ないでいた俺に匠は再び声を荒げた。

 

「馬鹿野郎!! 今、お前が行かなきゃティアナちゃんは二度とツインテールが結べなくなっちまうかもしれねーんだぞ!! お前が大好きな子の……お前が大好きな髪型が見れなくなっちまうんだぞ!!」

 

「そんなのわかってんだよ……!! でも……」

 

「でももへちまもあるかっつーの!! いいか!! ティアナちゃんの相棒はお前じゃないと駄目なんだ!! 先生や俺じゃ務まらない。お前がやらなきゃならねーんだよ!!」

 

 再び、匠の鉄拳が俺の頬に飛び吹っ飛ばされ、棚に派手に激突して資料に埋もれてしまう。

 匠渾身の鉄拳は確かにクリーンヒットした。でも、不思議と痛みは感じなかった。寧ろ心の奥に溜まっていたものがすっきりと洗い流されていく気分だった。

 

「目、覚めたか。だったら早く行ってやれ。ティアナちゃんがお前を待ってるぜ」

 

「匠……ありがとうな……」

 

 今はこんなことしている場合じゃないましてや意地をはったりしている場合でもない。それを匠に気づかされた。

 俺が行ってどうなるかなんて正直、わからないけどそれでも今はティアナの下にいかないといけねぇってことだけはわかる。

 どんなに惨めでもいい。どんなにカッコ悪くてもいい。ティアナに謝るために、ティアナのツインテールを守るために俺は行く。絶対に……!!

 

 起き上がると全速力で部屋を飛び出し、ティアナの下に急いだ。

 

 

 

 

「男の友情ってやつ? たっくん結構カッコいいじゃないの」

 

「そうすか? カッコよかったすか?」

 

「……調子のらない」

 

 悠香に調子に乗る匠に釘をさす青葉。それぞれの顔は皆、満足気な表情であった。

 

「さあて……!! あたしたちは早く先生を呼びに行くわよ。あ、たっくんは後でここの片付けもやることも忘れちゃ駄目よ」

 

「へーい。了解っす、了解っす」

 

 皆、それぞれのやるべき事をするべく部屋を飛び出した。

 

 

 

 

 高架下の薄暗い空間、上では車が通り過ぎていく音が聞こえてくる。

 私は今、先日テイルブルームによって倒されたはずのあの忌まわしき女エレメリアンに追い詰められていた。

 あの時の先生の様子からして確かに倒されていた気がしたのに、どうして生きているのかなんて私にはわからない。

 

「フフッ、逃がさないわよお嬢ちゃん」

 

 じりじりと一歩、また一歩と詰め寄って来る女エレメリアンと後退ることしかできない私。

 女エレメリアンの目元はウェーブ状の髪の毛が覆っていて見えないけど、口元のニタニタとした笑みとこの態度からして、この女エレメリアンは私のツインテール属性を奪えると確信しているのがわかるわ。

 チラリと腕についた紫のテイルブレスを確認。

 

「ッ……」

 

 私のテイルブレスからはうんともすんとも言ってくれる気配が微塵も感じない。

 何でテイルブレスは動かないのよ……!! どうして私は変身できないのよ……!! 今、この場に和輝がいてくれたら……

 今は後悔している状況ではないのはわかるけど、浮かんでくる言葉は変身できないことに対する自身の悔しさと和輝がいてほしい届かない願いばかり。いくら恋をしていたからってあの時、もう少し落ち着いていて喧嘩なんてしなかったらきっと和輝が近くにいてくれたかもしれない。

 薄暗く広がる高架下の空間にて向かい合いながら後退る私は遂に、橋を支える大きな柱を背に追い詰められた。もう逃げ場はない。女エレメリアンとの距離はみるみるうちに縮まっていく。

 

「ほんっと、お嬢ちゃんいいツインテールしてるわね~ほれぼれしちゃうわ~」

 

 普通ならどんなエレメリアンに褒められてもある程度は嬉しく感じるというのに、この女エレメリアンからは全くいい気がしない。他者を見下して嘲笑うこの性格の悪さが原因だからなのは一目瞭然よ。

 

「だからこそ手に入れる価値があるっていうものよね、違う?」

 

 悪趣味な笑みを浮かべながら女エレメリアンは手から属性力を奪う為の金属の輪っかを出現させる。追い詰められた私の今の状況じゃとてもじゃないけど躱すことなんてできそうにもない。

 迫りくる絶望の前に私はツインテール属性を失い、ツインテールにできなくなってしまった私自身の姿が頭に過る。

 髪を二対に結ぶことが出来なくなり、ツインテールに対して何の感情も持てなくなってしまう私。想像するだけでも辛く悲しい。ツインテールを失うなんて命を奪われるのとなんら変わらない程に残酷な仕打ちでしかない。それに今は……!!

 

「絶対に渡さない……!! このツインテールを失えば私は私でいられなくなる。それにこのツインテールはもう私だけの物じゃない!! このツインテールは和輝の……和輝の物でもあるんだから!!」

 

 和輝が好きだと思う気持ちはドンドン膨れ上がって来る。

 ツインテールを失っても和輝と仲直りはできるかもしれないし、和輝が好きだというこの恋の気持ちは絶対に消えやしないわ。

 でも、ツインテールを失えば和輝に振り向いてもらえなくなるかもしれない。そんなの絶対に嫌!!

 

「和輝? あ~あの坊やのことかしら。私の幻の効き目が薄かったあの生意気そうな坊や」

 

「幻?」

 

「ええそうよ、私は幻を見せることが出来る能力を持っているの。それにまんまとあなたは引っかかってしまい別れてしまったって訳。だからもうあの坊やは助けになんか来てくれないわ。だってあなたがあの坊やを振ったんですもの」

 

 幻……だったらあの時、私が見たあれは幻だったのね、だからあの女の人からはツインテールの気配がしなかったんだ。じゃあやっぱり私の誤解、和輝は他の女の人とキスなんかしちゃいない。

 心の片隅でずっと不安だったことが綺麗さっぱり消えていく。和輝には誰か他に好きな女の子がいるんじゃないかっていう不安が。

 そう思うとこんな状況だっていうのに、嬉しさの余り笑いがこみあげてくる。まだ私にだってチャンスはある!!

 

「何よ、その笑み。ムカつかせてくれるじゃない。まだ、あの坊やに振り向いてもらえると思っているの? だったら二度とツインテールにできない体にしてあげるわ!! そうして真の失恋を体験なさい!!」

 

 希望を手にしたことで喜ぶ私に対して、女エレメリアンが絶望の金属の輪っかを放つべく狙いを定めようとする。

 逃げることが出来ないこの状況。何かを感じ取った私は力の限り叫ぶ。

 

「和輝ーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティアナーーーーー!!!」

 

「何なの!? きゃああああ!?」

 

 爆音を轟かせる見慣れた紫紺のバイクが、薄暗い高架下の闇を切り裂き現れ、女エレメリアンを横から弾き飛ばす。

 和輝(アイツ)がやってきてくれた。感極まった私は溢れる感情のままにヘルメットを脱いで駆け寄ってくれた和輝に抱きついた。

 

 

 

 

 勢いのままに女エレメリアンをバイクで川に吹き飛ばした俺はヘルメットを脱ぎ捨てて、地面にへたり込んでいるティアナに急いで駆け寄った。

 まず、何から言えばいいのだろうか? どう謝ってみればいいのだろうか? と頭を捻らせようとする俺に対して、ティアナはうっすらと涙を目に浮かばせながら俺の胸に飛び込び、抱きついてきた。

 

「和輝!!」

 

「お、お、お、お……」

 

 ヤベェ、声にならねぇ。好きな女の子(ティアナ)が急に抱きついてくるこのシチュエーションに困惑と興奮が隠し切れない。

 全身を張り巡る血管、一本一本が興奮の余りに沸騰してぐつぐつ煮えたぎっていく気分だ。顔も体も沈みゆく夕日以上に真っ赤に染まっていく。

 

「ば、ばッ馬鹿……!! くっつくんじゃねぇ……!! 恥ずかしいだろうが……!!」

 

 このままじゃ不味いと頭の中で警報が鳴り響いたので、全力を持ってティアナを引きはがす。引きはがされた方のティアナも自分のついやってしまった事が恥ずかしく思ったのか、我に帰ると急いで離れてくれた。

 気まずい沈黙が数秒流れる。

 大喧嘩のために二週間近くも口を聞いていなかった互いの最初の会話がさっきのあれなんだ。気まずくもなるってもんだ。

 気まずいながらも俺は意を決して、口を開く。

 

「その……ごめんな。あん時は俺のせいなのに逆ギレなんかしてよ……」

 

 やっぱりというか、匠に謝った時とは違って、ティアナを前にすると口が全然回ってくれないし、素直に堂々と言うことが出来ない。

 

「ううん……いいの。私だって和輝の言うこと何も信じずに頭ごなしに怒っちゃったし……」

 

 何だろう、久々なのが原因かどうか知らないが上手く会話が続かない。

 

「ねぇ、和輝。実は私ね……」

 

 今度はティアナが何かを決した様子で口を開き始めた。前までとは明らかに違うもじもじとしおらしくなったその態度に俺は唾を飲み込んだ。

 その時だった。ザバンと大きな音が川の方からしたと思い向いてみると、水しぶきをまき散らしながら女エレメリアンが怒り心頭といった具合で川から飛び出して俺たちの前に降りたった。

 

「何、私の前でイチャコラしてくれてるのよ……!! 私はそういう展開が大っ嫌いなのよ……!!」

 

 以前聞いた甘ったるく色っぽい声ではなく、怒りに満ちたとても低い声をだす女エレメリアン。余りに低すぎて何を言っているのかがあまりよく聞き取れなかった。

 

「和輝、話は後、先ずはあのエレメリアンをから先にやっつけましょう」

 

「おう!! 行くぜ!!」

 

 ティアナのテイルブレスが光を放ち、俺の腰回りに集まりテイルドライバーを形作る。

 たった二週間くらいだというのにテイルドライバーが巻かれるこの感覚が懐かしく感じてくるぜ。そして、何よりもテイルドライバーを通すことで伝わって来るティアナのツインテール属性が俺に力をくれる。

 

「テイルオン!!」

 

 日が沈む寸前ということでより暗くなった高架下の空間を、爆裂する青紫の光が眩しく照らす。

 ティアナのツインテール属性を力に変えて、青紫の装甲を身に纏う女になった俺の姿、テイルバイオレットが姿を現す。

 

「ざっけんじゃないわよ!! 今度こそ完璧に引き裂いてあげるわ!! そのツインテールごと全て!!」

 

「上等だ。てめぇなんざに俺たちのツインテールが引き裂かれるものかよ!!」

 

 繰り出したウインドセイバーと女エレメリアンの長く伸びたピンクの爪がぶつかり火花を散らす。紫の斬撃とピンクの斬撃が幾度も交差し衝突していく。

 

「くッ……この女野郎が……!!」

 

「あらあら、あなた私が思っていた割に結構弱いわね。テイルブルームとかいうつまらない子の方が遥かに強かったわよ」

 

 初めこそは拮抗していた鍔迫り合いも徐々に徐々に押され始め、追い詰められていく。押される俺の背中に川に落ちないように設置されている柵がぶつかり文字通りの崖っぷちに追い込まれる。

 

「和輝!!」

 

「大丈夫だ……!! 俺はこんなところでやられはしねぇ」

 

「フフッ、その威勢だけは褒めてあげるわ坊や。あ、今は坊やじゃなくてお嬢ちゃんって言った方がいいかしら」

 

 落ち着きを取り戻し、煽りを入れるくらいには余裕を取り戻した女エレメリアン。

 確かに俺はまだまだ弱いし、ティアナや先生ほどツインテール属性が高いわけじゃない。でもな……!!

 

「こんな俺にだってな、守りてぇツインテールがあんだよ!!」

 

「!?」

 

「うおらぁ!!!」

 

 裂帛の叫びと共に俺は油断している女エレメリアンの顔面目掛けて渾身の頭突きを繰り出す。

 

「きゃあ!?」

 

 突然の頭突きに驚いて体勢が崩れた女エレメリアンへヤクザキックで追撃し振りほどく。地面に転がる女エレメリアンを首根っこ引っ掴んで無理やり立たせると顔面目掛けて全力の右ストレートを叩きこんだ。

 

「よくも……乙女の顔を……!! 許さない……許さないわよ!!」

 

「許してもらいたくもねぇ。むしろこっちが許さねぇってな!!」

 

 ウインドセイバーを振りかぶる俺が見たのは、女エレメリアンがニヤリと不気味な笑みを浮かべる姿。踏みとどまった俺の周囲の空間がぐにゃりと歪み、幾つもの女エレメリアンが俺の周りを取り囲んだ。

 

「気をつけて!! 奴は幻を操る能力があるの!!」

 

 分身能力か何かよと困惑する俺にティアナのアドバイスが届く。

 なるほどな、それであの時、ティアナがおかしなこと言い出したのかよ……!!

 取り囲んだ幻は一斉に攻撃の体勢に入る。だが、理解すればどれが本物なのか見分けるのは簡単だ。幻の偽物は消えかけのホログラムのようにぶれているのにあきらかに一体だけ、くっきりとしていやがるからな。

 

「そこだぁぁ!!」

 

 本物目掛けてウインドセイバーを投擲、女エレメリアンはすんでの所で躱すが、動揺を隠しきれていない。幻は霧が晴れるかのように消え去った。

 

(何でわかるのよ……!! もしかして……この子さっきのお嬢ちゃんへの態度からして自分の気持ちにも素直になれないレベルのへそ曲がりよね。自分の気持ちすらも否定しようとするのなら知らずに私の幻すらも否定しようとするから効き目が薄くてもおかしくないっていうの!?)

 

 女エレメリアンは狼狽していてもう戦闘どころじゃない。

 今がトドメを刺すチャンスだ。

 

「行くぜティアナ!!」

 

「ええ、行くわよ!!」

 

「「完全開放(ブレイクレリーズ)!!」」

 

 ティアナと心と想いを、そしてツインテールを一つにして完全開放。送られてくるツインテール属性がエネルギーとなり、紫の嵐が俺を包み込むように吹き荒れ始める。

 俺はその嵐を背に空中に飛び出し、跳び蹴りの構えに移行する。

 

「おらぁぁぁぁ!!!」

 

「ぎゃああああああ!!」

 

 嵐を受けて空中で加速した必殺の蹴撃、強化ストームストライクは狼狽する女エレメリアンに見事直撃し貫通。女エレメリアンは耳を劈くような声とともに背後で大爆発、沈み切った夕闇を眩しく照らした。

 

「勝った……」

 

「お疲れ、和輝」

 

 久しぶりの戦闘に疲れ果てて変身を解除した俺に駆け寄って来るティアナの笑顔が女エレメリアンの爆発以上に眩して綺麗だ。

 戦闘が終わったことで落ち着いてくると同時にティアナの顔がちょっと前に見せたもじもじとしたしおらしい物に変わった。

 

「ねぇ……和輝。実は私ね……」

 

 ゴクリ、唾を大きく飲み込む。この一瞬の静寂がとても長く感じられるほどに俺に緊張が張り詰める。

 

「実は――」

 

 

 

 

「二人ともーー!! 大丈夫ーー!?」

 

 ティアナの言葉は遠くから聞こえてきた先生の声で遮られた。既に事は済んでいるが、やってきてくれたテイルブルームこと山村華先生。

 ハッと気づいた俺もティアナも咄嗟に距離をとる。

 何か空気をぶち壊された気もするが、緊張感はなくなったのでそこはよかったのかもしれない。俺もティアナも顔を真っ赤にしながら先生の下へ駆け出す。

 

「なぁ……あの時よ、お前が見た幻って一体なんなんだ……?」

 

「なーいしょ!!」

 

 そっぽを向くように全速力を出すティアナの後ろ姿がとても可愛く見えた。




告白は邪魔されるのがお約束。
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