俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
俺が変身したあの日から3日たった。
結局、あの日以来ティアナと出会ってはいない。戦った次の日授業終わりにあの場所にも足を運んだが、出会うことはなかった。
現在、俺はエレメリアンや属性力のことについての情報を得るために図書館に来ている。普通、高校生にもなればスマホや家庭用パソコンを使って情報収集を行うものだが生憎、俺のスマホはアンドラスギルディから逃げる際に御釈迦になっているし、ばあちゃんと二人暮らしの我が家庭にパソコンなんて物はない。
「これもヒットせず……か」
図書館備え付けのパソコンを前にため息をつく。
ある程度わかってはいた。検索しても意味がないことなんて。
「何かないのかよ……」
あの日の出来事は確かに現実だった。決して幻や夢なんかじゃあない。
しかし、あの日以来ティアナと出会えていない。その現実が俺を焦らせる。もしかしたらあの日の出来事は幻や夢だったのでは……と。
「確か、あの時……」
(我はアルティメギルの者ほど優しくはないぞ)
何か手がかりになる単語はないかと考えていた頭にアンドラスギルディが言ったことがふと蘇った。
アルティメギル、アンドラスギルディは確かにそう言っていた。
あの時は必死で考える余裕もなかったが、今思い出すとこの単語も聞いたことがない。
期待半分諦め半分でパソコンに入力する。
「ヒットするわけ…………え!?」
意外や意外。今まで掠りもしなかったのに今度はかなりの数が検索結果にでてきた。
「これエレメリアンじゃねぇか!!」
検索結果内容にはアルティメギルと名乗る怪物たちが12年前、人類に宣戦布告を行ったということが書いてあった。記事に映っている怪物の写真は先日遭遇した怪物と似ている。間違いない。アルティメギルとはエレメリアン達の組織か何かだろう。
アンドラスギルディの言葉を理解するとアンドラスギルディはアルティメギルとは違う組織に属していることになる。
「魔法少女シャイニーブルーム……?」
調べるているともう一つ興味深い単語がでてきた。なんでも12年前、アルティメギルと戦った正義の味方らしい。この子もツインテールをしているしティアナの言っていたツインテールを守る戦士の一種だろうか?
「つかなんだよ。 この夥しいファンサイトの数は……」
検索結果の大半がシャイニーブルームに対してのファンサイトやwiki、まとめブログだと知り、驚愕する。
内容を見てみると戦慄した。お兄ちゃんになってあげたいとか、シャイニーブルームたんハアハアとかとにかく気持ち悪い。大の大人達が正義の魔法少女それも10歳近くの子供にこんなに気持ち悪くなれるとは……
「最後の更新は……かなり前のようだな」
ネットを見る限り最後の目撃情報以来、それぞれのサイトも更新を停止しているようだ。
12年前必死に戦ったのにこうやって人々の記憶から段々と消えていくのだろうか。
その現実が少し悲しかった。
◇
人間が観測することが出来ない未知の空間。
エレメリアン達の基地でもある移動母艦はそこに存在していた。
悪魔を想わせる姿をした怪物達は基地内の大ホールで大きな会議用のテーブルを囲み、下品な笑い声と共に騒いでいた。
「ゲハハハッ! アンドラスギルディの奴、やられたらしいぞ!!」
「人間如きにやられるなど恥もいいとこだな!!」
「引っ込み思案な奴のことだ。 大方、人間程度にビビッていたのだろう」
「メイドなどつまらん属性を好きになるからだ!」
同胞の死を悼む空気ではないのは明白だった。大ホール内はアンドラスギルディを馬鹿にする声で溢れていた。
だがその中で1人、空気を読まない者がいた。
「静まってくれないか。皆の者!!」
「ハァ?」
「白けること言うんじゃねぇよ!! バアルギルディ!!」
蛙のような顔、蜘蛛のような八本の脚を背中に持つバアルギルディはここにいる誰よりも大きく堂々とした声で、大ホール内の空気を破壊した。
「アンドラスギルディはただの人間にやられたのではない!! アルティメギルを倒した者達と同じツインテールの戦士にやられたのだ!!」
バアルギルディは真剣だった。油断せずに仲間を倒した者への警告を呼びかける。
しかし……
「ハハハハハッ!!」
「ツインテールの戦士だァ!? この世界の戦士はもう引退してる筈だろ!!」
「とんだ腰抜け野郎のようだなッ!! お前!!」
「本当にアルティメギルを倒した奴らがこの世界にいたとしてもだ……俺らがアルティメギルの馬鹿共よりも劣る訳がないだろ!!」
「そうだ!! 俺たちはアルティメギルとは違う!!」
警告を嘲笑うエレメリアンが大半を占めていた。いつの間にか嘲る対象はアンドラスギルディからバアルギルディへ変わっていた。
「だからこそ!! 警戒をするに値するのだ!! 事実、アンドラスギルディはやられている!! ツインテールの戦士に!!」
バアルギルディの言葉は大半の耳には届いていなかった。
「その戦士ってのはどんな姿をしているんじゃ?」
「いい質問だ。 アガレスギルディ」
下半身がワニの姿をした老人のようなエレメリアン、アガレスギルディはバアルギルディに率直な疑問をとばす。
「してその姿は?」
「残念だが……まだ私も見ていないのだ」
「「「「「「「「はァ?」」」」」」」」
その言葉に大ホールのあちこちの席から怒号が飛び交い始めた。
「見てもいないのにツインテールの戦士にやられたとか言ったのかァ!?」
「よくもそう堂々と言えたもんだな!! おい!!」
非難の声が上がるのは当たり前だった。自身満々に発言した言葉が何の確証もない言葉だったのだ。
より一層、バアルギルディの罵倒の声は大きくなっていく。
「私の勘は必ず当たる。 アンドラスギルディは絶対、ツインテールの戦士にやられている!!」
もう大ホール内は滅茶苦茶になっていた。
「いいか皆の者!! 我々は究極のツインテール、テイルレッドを超えるツインテール属性の持ち主を追うために、この世界にやってきたのを忘れるな!! 我々はアルティメギルを超える!! その為にも決して油断をするな!!」
そう言い終わるとバアルギルディは罵倒と笑い声が支配する大ホールを後にした。
◇
時刻は2時30分。図書館で思わぬ収穫を得た俺は遅めの昼食を摂りに行く為バイクを走らせていた。
目的地は喫茶『アラームクロック』。 この店の店主、橘正樹とは、俺が幼稚園に通っていたくらいのガキの頃からの付き合いで仲が良かった。物心つく前に両親を小学2年生の頃にじいちゃんをそれぞれ亡くし、ばあちゃんに育てられていた俺からすれば、30くらいの年の差の彼とは、さながら親子のような関係だった。
「おやっさんとも随分会ってねぇな……」
おやっさん、中学生の頃から俺は彼をそう呼んでいる。
4月に入ってからまだ一度も店に顔を出していない。それどころか連絡も最近は全くとっていなかった。まぁこれに関してはおやっさんがメールや連絡アプリを既読しない返信しないが原因なんだが……
「今日の日替わり定食は何かなぁ~」
『アラームクロック』の名物、日替わり定食。ボリュームたっぷりの割に値段は700円、おやっさんのオリジナルブレンドコーヒーとセットで900円のランチタイム限定メニュー。少し値はするが味と量がそれをカバーしている。近くで現場仕事をする若い人達や年金暮らしの老人達から人気だ。
今日はハンバーグ?それとも唐揚げ? 果たして今日の日替わり定食のメニューは俺の好物か否か。
そんなことを考えていたら目的地に到着した。
ビンゴッ!!
今日のメニューは鶏の唐揚げ、好物の一つだ。
心の中でガッツポーズを取りながら俺は勢い良くドアベルを鳴らして店内に入っていく。
「おやっさん~!! 俺、日替わり定食、大盛ね!!」
厨房奥のおやっさんに注文を出しながら、店内で最も奥のカウンター席に腰を下ろす。やはりこの店の雰囲気はとても落ち着く。ガキの頃からの付き合いで慣れているのもあるが、騒がし過ぎず、静か過ぎないこの空間は格別だ。
「失礼しま――」
どこかで聞いたことがある女の子の声と共にお冷が俺の席に運ばれてきた。
あれ? おやっさんは40代なのに結婚していない独身だ。ましてや親戚などにこんなに若い女の子はいない筈…… もしかして新しくバイトに若い女の子でも雇ったか?
「君、新しいバイトの――」
新しいバイトの子の姿を見て固まった。
「お前――」
「あなた――」
3日振りだ……忘れる筈がない……あの日、俺の目を釘付けにした素晴らしすぎる赤紫のツインテールをした少女。
「なんでいるんだ!?」
「なんでいるのよ!?」
エプロン姿のティアナがそこにいた。
「おお~和輝~久しぶりだな~」
その時、厨房の奥からおやっさんが呑気な声を出しながらでできた。
「おやっさん!! なんでティアナがここにいるんだよ!!」
「正樹さん!! なんで和輝がいるのよ!!」
ランチタイムも終わり際のこの時間は俺たちしか店内にいなかったので大きな声で問い詰める。
おいティアナ、俺とおやっさんは知り合いだし家族みたいなものだけど一応、今は客だぞ。
別に俺がこの場にいてもいいだろ……
「なんだ、お前たち知り合いだったのか?」
はい。 ついこないだ俺はティアナと出会ってエレメリアンとかいう怪物と戦いました。
女になってだけど……
「お前がこない間に雇ったんだよ。三食飯付き住み込みでな」
おやっさんは俺の疑問から答えてくれた。
「マジで雇ってたのかよ……」
なるほどな。先日ティアナが言っていた帰る場所ってのは『アラームクロック』のことだったのか……
「和輝は幼稚園くらいのころからの付き合いで俺の弟みたいなもんだ。 最近は来なかったが前まではよく食べに来たんだよ」
今度はティアナに俺のことを説明している。
てか弟ってなんだ。 弟って。
「あ、そう」
ティアナの奴、自分から聞いておいてなんだその態度。
相変わらず見た目に反して可愛げの欠片もない奴だ。
「まぁ、そういうことだ。仲良くしてくれよ二人とも」
仲良くって言われてもティアナは俺に対してあまり良く思っていないだろうし……
俺自身、少し慣れたりはしたもののティアナのキツイ言動ははっきり言って苦手だ。
好みのタイプは優しくしてくれるお母さんのような女性だし。
「フンッ」
ほら見ろ。ティアナの奴、俺から離れようと入口から最も手前の席で休憩し始めた。
てか俺という客がいるのにあんなに堂々と休憩していいのかよ……
「おい!! 和輝。 ちょっとこっちこい」
「俺!?」
普通、怒られるのは俺じゃあなくてティアナだろ……
ぶつぶつ文句を言いながらおやっさんの待つ厨房に入っていく。
「なんだよ、俺じゃないだろ!?」
厨房はとても暑かった。今日は鶏の唐揚げ、油料理をしていたので当たり前だ。
「お前、あの子のこと知っているのか?」
怒られると思ったがこの話の流れからしてどうやら違うみたいだ。
一応異世界からツインテールを守る為にやって来たってのは知っているけど……おやっさんには悪いがこれは言えないし言っても信じないだろう。
「まぁ多少はな……」
「そうか……」
この様子だとティアナも素性をあまり話していないらしい。
本当、素性もよくわからないのによく住み込みで働かせてるよ……
「あの子が記憶喪失ってこともか?」
「はぁ!?」
何、冗談言っているんだおやっさんは。
40代にして早くもボケ始めたか!?
やはりこの年で独身はまずかったか……
「おやっさん何言ってん…… マジ?」
おやっさんの表情は真剣其の物だった。冗談を言っているようには見えない。
ティアナの奴、ここに住むためにおやっさんに記憶喪失って嘘をついてるんじゃ……
「因みにティアナって名前はな……名前がないと不便だから俺が考えて名付けたんだぞ」
おやっさんの口からでた衝撃的な言葉を聞き、俺は固まった。