俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第40話 進化する悪魔

 夏の太陽がじりじりと照り付ける周囲を山に囲まれた大草原。

 ここは日本においてまだ存在していること自体が珍しい場所だ。山と山に囲まれた冒険マニア御用達の秘境も今日は平日の始まりである月曜日故に人の影は全く見えず、人で溢れかえるせいで太陽の暑さ以上の暑苦しさだけが充満する都会では感じることができない爽やかな暑さがあった。

 そんな大草原の中央に位置する場所には人の姿とは程遠い異形の怪物が佇んでいた。

 

「……」

 

 その異形の怪物の顔は細く引き締まった蛙を模している。そして首から下は鍛え上げられ傷一つない浅黒い半裸のボディ、背中からは手足とは別に蜘蛛の足が4本生え、それらは動きの邪魔にならないように背中に折りたたまれている。

 彼の名はバアルギルディ。アルティメギル滅びた後に組織された個性豊かなごろつき集団アルティデビルを何とか纏めようとせんツンデレ少女を愛する若きリーダー格のエレメリアン。

 彼はあることに迷いを持っていた。

 

(アルティメギルを超えることのためにはベリアルギルディが言うある物が必要だということだ)

 

 バアルギルディの脳裏には昨日、ナベリウスギルディに言った自分の言葉が反復していた。

 アルティデビルの面々はバアルギルディなどを含めた一部こそはアルティメギルの幹部エレメリアンにも遜色のない実力は持ってはいるが、平均的な実力は遠く及ばないだろう。組織全体の規模や統率力が明らかに劣っているアルティデビルでは、個々にそれぞれ地道に実力を伸ばして正々堂々まともに戦ってもツインテイルズを撃破しアルティメギルを超えるなど土台無理な話だ。ましてやツインテイルズよりも弱いテイルバイオレットに苦戦している今では余計に無理だ。

 だからこそツインテイルズを撃破するにはベリアルギルディが求めるある物を使うことしかないとバアルギルディは説いた。

 だがしかし、それでいいのか? 自らの力ではなく別の力、それもベリアルギルディの話によればエレメリアンではなく人間が作りし兵器。そんな物などに頼って得た勝利に価値はあるのか? 

 

「いや、もうよそう。今日はそのために来たのだからな。それにしてもやはり私もまだ未熟か。結局、嘘をつくことしかできん」

 

 ここ最近のバアルギルディにはある変化が起きていた。

 グレモリーギルディとの会話の際、バアルギルディはテイルバイオレットがもう現れるとはないと言われた。バアルギルディとてそれを完全に鵜呑みにしたわけではなかったが、グレモリーギルディも嘘を言っているようには見えなかったこともあってある程度は信じてしまった。

 その結果得たのは絶望に似た虚無感。

 愛する存在であり、いつかは自らと互角に戦える可能性を秘め期待していた戦士テイルバイオレットがいなくなってしまったことは、結果として一瞬の時ではあったが深い虚無感をトラウマとして植え付けた。

 グレモリーギルディの次に出撃したオリアスギルディがテイルバイオレットに撃破された報告を聞いて安堵する一方でバアルギルディは誓った。

 今まではリーダーとして振舞う為に自室以外ではテイルバイオレットに対する想いを余り見せないようにしていたが、もうやめよう。いつその日が来てもいいように中途半端に自分の気持ちは隠さない。

 だが今回、ナベリウスギルディに対しては自らの考えを押し殺してベリアルギルディと考えた目的を言ってしまった。バアルギルディはそれを悔やんでいた。

 

「つい自分の本心を隠して嘘をつく……これもまたツンデレの一つの形なのかもしれないな」

 

 1つの結論に達し、悩むこと迷うことを捨てたバアルギルディは不適に笑う。

 

「テイルバイオレット、君が愛おしい。その鋭い目つきと乱暴な言葉使いや立ち振る舞いの中に隠れた誰か愛するがそれを言い出せぬ乙女心がたまらなく愛おしい。君を想う度に何故か力が溢れだしてくる」

 

 バアルギルディは自らの属性力を急激に高めていく。まるで自分の居場所を示すかのように。

 

「さぁ、戦いの時だ。この力の理由(わけ)存分に教えてもらうとしよう!!」

 

 

 

 

「お前らーカンニングなんてしようと思うなよ。特に涼原と川本ー!! カンニングしていたら即刻留年決定だからなー!!」

 

 2年2組の一教科目の試験監督を担当する教師はまさかまさかの堀井だった。

 華先生が担当する数学だということもあって、いつも以上に気合が入っている堀井は俺と匠を名指しで警告しやがった。一週間前には俺たちに留年して欲しくないとか言ってくれた癖に今じゃこの様だ。どうせ後で問題用紙の間違いを訂正しに来る華先生にいいとこ見せようって魂胆だろうな。

 

(後で覚えとけよ……!! あのアホ教師……!!)

 

 鬱憤をぶつける為に堀井に対してガンを飛ばしてみるも効果はない。寧ろ今は堀井何かよりも目の前のテスト問題の方がヤバい。

 試験開始してからもう30分弱、試験時間が1時間だから残り半分といった所。ティアナをはじめとした秀才組はもう間違いの見直しにかかっている時間だろうが、俺はまだ半分近くが白紙のままだ。昨日戦ったエレメリアンの変態性があまりに衝撃的だったせいでそれ以降の勉強が全く頭に入らなかったのが一つの原因だろうな。多分……

 

(クッソ……!! こうなったら一か八かティアナの用紙を……!!)

 

 プライドをかなぐり捨てた俺は隣のティアナの机の上を堀井にバレないようにチラリと盗み見る。

 頭がいいティアナなら今は間違いがないように見直している時間と踏んでみたが、当てが外れた。ティアナの答案用紙は裏返されて見えなくなっており、既に見直し含めて全てを終えたことがわかる。絶望感が漂い始める。

 こんなになっちまうんだったらよ。もっと勉強しとけば良かったぜ。

 

「~~♪」

 

 絶望しかける俺とは対照的にティアナはにこやかな笑顔のままに自分のツインテールを撫でさすっていたり穂先を指に絡めてくるくるといじっていた。

 最初こそテスト中に何やってんだよ……と思ってしまったが、その様子を見続けているうちに段々と引き込まれていく。綺麗に手入れされた赤紫のツインテールと天使のようなティアナの笑顔。その二つが完璧なバランスで纏まっていて何つーかすげぇ可愛いんだこれが。

 

 その余りの可愛さに我を忘れた俺がティアナの笑顔を眺め始めた時だった。ティアナはツインテールをいじるのを辞めると表情を険しく変化させポケットに手を入れた。これはまさかと思った矢先、ティアナと目が合った。

 

(和輝、エレメリアンが出たみたい)

 

(はぁ!? テスト中だっつーの!! どうすんだよ!!)

 

 喋ることが出来ないのでアイコンタクトで意思を伝えあう。伝わっているかは不安だが、多分大丈夫だろう。それよりもこの状況をどうするかが大事だ。いくらわからないからと言ってここで教室を出てしまえばテストはそこで終了。普段なら授業なんて抜け出せばいいが流石に今日はヤバい。

 

(どうしよ和輝……)

 

(クッソ……!! 空気の読めない馬鹿野郎が……!!)

 

「みんなー問題文に変な所なかったかしらー?」

 

 テストとエレメリアン、二つの問題に板挟みになっていた俺とティアナ。そんな中に救いの女神は舞い降りた。2年生の各教室を見回っている華先生が教室に入ってきた。俺とティアナは寸分違わぬ同タイミングで手を上げる。

 

「涼原さん、橘さん。…………!!」

 

 鬼気迫る俺たちの表情を見て華先生は全てを察したのか、ティアナの机にやって来ると周囲に聞こえぬように二人だけの耳打ちで話し始める。

 

「わかったわ橘さん。堀井先生すいません!! ちょっと急な用事が出来てしまったので後は任せます!!」

 

「は、はい!! この堀井龍之介にお任せを……って何を!?」

 

 堀井に見えない角度でティアナからエレメリアン探知機を受け取った華先生は急いで駆け出し教室を後にする。困惑していた堀井も一瞬遅れる形で華先生の後を追おうとするが、勢いよく閉められた教室の扉が堀井を拒み、派手な激突音が鳴り響いた。

 

(大丈夫かな? あれ?)

 

(さぁ? まぁ堀井だし)

 

 扉にぶつかったことで床にのたうち回る堀井を心配するように見つめるティアナだが、俺からすればアホの堀井が痛い目遭おうがどうでもいい。そんなことよりもテスト問題をどうにかすっきゃねぇんだ。

 一先ずエレメリアンは華先生に任せ、俺はこの問題をブッ倒す。そのための秘密兵器、六角形鉛筆に数字を書き込んだ自作の特製サイコロ鉛筆を握りしめた。

 

(俺の運命はお前に託された。頼むぜ)

 

 文系のテストなら選択問題以外は役に立たないサイコロ鉛筆だが、このテストは数学。答えの大半は数字で埋まる。だからまだチャンスは十二分にあるってもんだぜ。

 天運に全てを任せてサイコロ鉛筆を振った。

 

 

 

 

 ティアナから託されたエレメリアン探知機を頼りに現場に急ぐのは数学教師、山村華、またの名をテイルブルーム。テイルブルームは変身したことにより強化された脚力を活かしてビルなどの建物の屋上を跳躍し渡っていく。和輝とは違い、バイクといったできる限り目立たずに現場に向かう手段を持たない彼女にとってはこの方法こそが最も早くに現場に到着することができる方法だ。

 

(まだ遠い。一体、今回のエレメリアンは何を求めているの?)

 

 景色はドンドン変わっていく。

 数十分経ったことでいつの間にか周囲の景色は都会とは遠く離れた郊外の物に変わっていく。それは人の気配が少なくなることを示している。

 エレメリアンは人の持つ属性力(エレメーラ)を求めて襲い掛かって来る怪物たちだ。即ち自らの趣味嗜好に沿った属性を持つ者がいる場所に出現するのが道理。だからこそ人が密集している場所が必然的に高くなる。

 でも今回は違う。人里からドンドン遠さがっていく。これには二つの可能性が考えられる。一つはそのエレメリアンの属性が余程特殊な場合であるケースだ。都会では見ることの出来ない属性だって当たり前だが存在しているからだ。

 そしてもう一つは……

 

「これはもしかしたらもしかするかも……なのね」

 

 エレメリアン探知機を確認したテイルブルームは気を引き締める。場所はこの奥、山を抜けた先に位置する大きく開けた草原地帯。

 山に入ったテイルブルームは全速力で生い茂る木々を抜け緑のツインテールをたなびかせる。そして一陣の風と共に見通しのいい草原地帯に降りたった。

 

「待ちかねたぞ。ツインテールの戦士」

 

「あなたは確か……バアルギルディ」

 

 大草原の丁度中心に当たる場所にて待っていたのは和輝たちから聞かされていたアルティデビルのリーダー格のエレメリアン、バアルギルディ。ビリビリと伝わってくるのは今までのエレメリアンを一線を画す迫力。アルティメギルの幹部クラスのエレメリアンに負けていない高い実力なのがわかる。

 

(間違いない。この感覚、12年前と同じ……!!)

 

 もう一つの可能性それは、エレメリアンの目的が人々の属性力を奪うためではなく、全身全霊の力を持って戦いに来るということだ。

 エレメリアンは一部の例外を除き基本的には武人肌な者ばかりだ。だから彼らは全力で戦いに来るときは決まって人がいないような場所にやってくる。高い属性力を持った戦士同士の戦いはどんな被害をもたらすかは検討がつかないからだ。

 12年前の経験からその可能性を考えていたテイルブルームは改めて覚悟を決める。泣くことしか出来なかった昔の自分ではない。今の力は昔とは比べ物にならないくらい強くなった。敵のトップに位置する実力のエレメリアンが相手でも負けはしない。

 

「テイルバイオレットはいないのか……」

 

「彼……じゃなかった。彼女は今、大事な戦いの真っ最中なの。悪いけど私で満足してもらうわよ」

 

「フッ、そうか。やはりそう簡単にはいかぬものなのだな。ならば良し。テイルブルーム、君に手合わせを申し込む。折角だ、過去に君に倒されたアルティメギルの戦士……偉大なる先人たちの敵は打たせてもらうぞ」

 

 テイルバイオレットがいないことに落胆するバアルギルディだが、直ぐに持ち直すとテイルブルームに向き直る。構えといった構えなどないただ向き合っただけの棒立ちのはずなのにバアルギルディから発せられる強烈な威圧感。まさに強者の覇気。

 

「望むところよ!!」

 

 今日一番の強い風が吹き、鳥が飛び立った音を合図にテイルブルーム、バアルギルディの両者は大地を強く踏み込み突撃し、拳と拳がぶつかり合う。

 ぶつかった時の凄まじい衝撃により足元の雑草は吹き飛び、土砂が舞い散り大地が割れる。戦場が緑一面の爽やかな草原地帯から茶色一色の荒れ果てた荒野へと一瞬で変化する。

 これほどの衝撃の中、テイルブルームもバアルギルディも互いに全くといっていい程微動だにしていない。数秒の拮抗の後に両者ともに弾かれるように後退し距離を取る。

 

「強い……!! このエレメリアン、レオギルディ以上……!!」

 

「……中々のパワー。久しぶりだ、こんなにも手が痛むのは……!!」

 

 ファーストアタックの結果からパワーは寸分狂わず互角。スピード以外はテイルバイオレットよりも大きく上回っているテイルブルームにとってこの結果はあまり喜ばしいことではない。だが、テイルブルームには過去多くのエレメリアンとの戦いで得た経験値がある。

 テイルブルームは素早いステップで距離を詰めると右の手刀でバアルギルディの首元を狙う。バアルギルディは即座に反応し、腕を盾にし受け止める。だがその手刀は囮、テイルブルームは本命の一撃を右わき腹に叩きこむべく左手を突き出す。しかし、その攻撃はバアルギルディの背中に生える4本の蜘蛛の足が受け止めに入ったために完全には叩き込むことが出来なかった。

 

「流石だな……!! だが今度はこちらの番だ!!」

 

「ッ……!!」

 

 今度はバアルギルディのターン。

 2本の腕だけではなく、背中の4本も攻撃に参加し四方八方からテイルブルームを狙うべく襲い掛かる。合計6本の腕から繰り出される攻撃は対処不能に近い。だが、テイルブルームは違う。12年前、幾つもの変態(エレメリアン)たちからの気持ちの悪いボディタッチを拒み捌き続けたのことを思い出せば、たかが6本の腕如き捌くなんて造作もない。

 大ぶりな囮の攻撃はヒラリと優雅に必要最小限の動きで舞って回避、本命の攻撃のみを素早く見抜き受け止め受け流す。

 そしてガラ空きになった懐に隙を突くように得意のカウンター戦術の一つである掌底を繰り出すも、バアルギルディは体を逸らして衝撃を和らげる。

 

「フッ……」

 

「……」

 

 両者ともに次はどう来るかを予測し、攻撃側は予測を上回るべく死角を狙い、防御側はそれに対処すべく行動を起こす。達人の領域に達するであろう2人の戦士の戦いは熾烈を極める。

 

「ハァッ!!」

 

「ツンッ!! デレェ!!」

 

 加速し、力を増していく両者の動きの数々。飛び交う手刀と拳の乱舞のぶつかる衝撃は大地を大きく揺るがしていく。ここがもし人で溢れかえる都会の真っただ中であったのならその余波で跡形もなく崩壊していたかもしれない。その証拠に数分前は爽やかな風吹きこんでいた筈の青々とした緑溢れる大草原は荒れ果てた荒野を通り越して天変地異に見舞われた崩壊する星そのもののようだ。

 

「流石にお疲れのようだな!! 足元に隙があるぞ!!」

 

 何度目かの激突の果て、徐々に徐々に疲弊していくテイルブルームは、万全の状態ではありえない足元への不注意が露呈してしまう。

 

「なっ……!? しまった……!!」

 

 足元を薙ぎ払う蜘蛛の脚がテイルブルームの体勢を大きく崩し仰向けに転倒させる。互角の戦いにおいてはこの一瞬でさえも致命的になりかねない。トドメの一撃をしかけるべくバアルギルディはテイルブルームにとって最も大事な箇所であるフォースリヴォンに狙いを定める。

 フォースリヴォンは武器を生成する部品であると同時にテイルギアを稼働させるのに必要なツインテールを維持するまさに核となる部分だ。バアルギルディは以前にハーゲンティギルディが残したツインテイルズの戦闘記録を閲覧していたことによりこの弱点の気づくことが出来たのだ。

 

「トドメだ!! テイルブルーム!!」

 

 フォースリヴォン目掛けて全力の貫手が飛ぶ。その勢いはフォースリヴォンを砕くだけでは済まないだろう。バアルギルディは勝利を確信した。しかし、

 

「それはどうかしら?」

 

 実践こそしたことはないが、ツインテールが解ければ変身が解除されることなどテイルブルームだって理解している。

 

(華、多分誰もツインテールを直接狙う奴なんていないとは思うけど……万が一の時は必ず守るんだ。ツインテールがほどけると君は力を維持できない)

 

 それは今は亡き友人が最初に行ったアドバイス。それ故に何処を狙ってくるのを読み対処するなんて容易いことだった。

 テイルブルームは首を動かすことでツインテールをずらして回避。バアルギルディの手は勢いあまり大地に突き刺さり埋まる。

 

「なんと……!!」

 

 バアルギルディの表情が驚愕に染まる時、テイルブルームはフォースリヴォンを触れたことで生成したグランアローを構えていた。ほぼ密着状態のこの状況では回避も防御も間に合わない。

 テイルブルームはグランアローを完全開放(ブレイクレリーズ)させるとバアルギルディの胸目掛けて大きく引き絞る。

 

「ありがとうティル……。これでトドメよ!! ブルームツインシュート!!」

 

 大地の力をのせた必殺の矢が空に二筋のツインテールを描きながらバアルギルディを緑の煌めきと共に天高く持ち上げていく。

 テイルブルームは勝利を確信していた。渾身の必殺技をこの距離で命中させたのだから当然だ。しかし、空に持ち上げられるバアルギルディはまだあきらめてなどなかった。

 

(私はこんな所でやられるのか……!? (テイルバイオレット)ではない戦士に敗れ、偉大なる先人たちのように散るのか……?)

 

 バアルギルディはアルティデビルのエレメリアンの中でも珍しい武人肌なエレメリアンだ。どんな負け方をしても悔いはないと感じていた。しかし、彼は変わった。愛する存在が生まれてしまった。

 

(俺以外にやられるなんて承知しないからな)

 

(き、君はテイルバイオレット!? どうして私の頭の中に!?)

 

 テイルバイオレットへの想いが高まった結果、ついには幻覚をも見せるほどであった。バアルギルディの頭の中で妄想のテイルバイオレットが照れ臭そうに頬を赤く染めながらぶっきらぼうな激を飛ばす。

 

(そうだ、私は恋をしたのだ。負けてなるものか!! 君のデレを見るまでは!! 私は死なん!!)

 

 バアルギルディの感情が最大限高まったその時、空に運ばれる最中、バアルギルディが突如として大爆発を起こす。

 

「何なの……? 勝ったの?」

 

 困惑するテイルブルーム。この爆発はエレメリアンが死んだときの物ではないと直感で理解できる。故に警戒心は解かずに空で燃え盛る爆炎を塊を見つめ息を呑む。

 そして爆炎は1つの姿を形作り、地に落ちた。

 土砂が舞い散り、砂埃が視界を塞ぐ。見えるのはバアルギルディの物とは思えない人型のシルエットのみだ。

 

「テイルブルーム。君には感謝しよう。君のおかげで私は進化することができた」

 

 舞い散る砂埃が晴れた先に立っていたバアルギルディの姿は今までの物とは異なった物であった。蛙を思わせるまさしく異形といった頭部は、煌びやかな白銀の髪と目元のみを隠す舞踏会で使うような仮面が特徴な人にそっくりな物に変わっていた。薄紫の肌と頭部に生える角が辛うじて人ではない怪物であると認識できる。首から下も同様だ。薄紫の肌が特徴の細く引き締まった鍛え上げられた人間のような肉体がそこにはある。以前の蜘蛛の脚は全く見られない。

 どこからともなく召喚した季節外れのファーがついた白のロングコートを裸の上に直接羽織るバアルギルディ。まるで一昔前の男性アイドルだ。

 

「この姿この形態……素直になれぬ想いの結晶(バエル=ゼブブ)とでも名付けようか」

 

 新しき姿にご満悦のバアルギルディ。

 完全に隙だらけなのだが、テイルブルームは攻撃しなかった。否、出来なかった。

 進化したバアルギルディがどんな力を持っているかわからないこに状況で迂闊に手を出すことが危険なのもあるが、それ以上にバアルギルディから溢れでる属性力は以前の形態を遥かに上回っているのがわかるのが原因であった。

 既に満身創痍の状態で勝てる可能性などないのがわかってしまったのだ。

 

「少しばかり試してみるか」

 

 バアルギルディはテイルブルーム目掛けて手をかざす。テイルブルームの体に途轍もない衝撃波が襲い掛かり、周囲の大地が爆発を起こす。

 

「きゃああ!!」

 

 衝撃波は受けきることが出来なかったテイルブルームは叫び声と共に吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。そして限界値を超えた攻撃により変身が解けてしまった。 

 

「変身が……!?」

 

 気絶することは避け、辛うじて意識だけは保つことが出来た。だがしかし、この状況から逆転するなど不可能に近い。

 華は己の無力さを感じながらも強くバアルギルディを睨みつけることしか出来ない。

 属性力を奪うことなどこの状況では赤子の手をひねる以上に簡単な行為だ。だが、幾ら経ってもバアルギルディは属性力を奪いに行く素振りを見せない。

 

「何をしているの……? 何故、私の属性力を……」

 

「フッ……簡単なことだ。君は私を追い詰め、進化を促してくれた。その借りを返す為に今日は見逃すのだよ」

 

「見逃す……ですって」

 

「ああ。それに私はこの世界で手に入れる最初の属性力は彼女の物と決めたのだ。悪いが君には眼中にないと言わせてもらおう」

 

 季節外れの白いコートを翻すとバアルギルディの背中から白い蝙蝠の羽が生えてくる。そしてさらばだの別れの一言とともに何処かに飛び去ってしまった。

 

「バアルギルディ……なんて奴なの……」

 

 一人残された華はボロボロになった体を立ち上がらせる。敗北こそしたものの、その眼は燃えていた。

 12年前の華なら泣いているであろうこの状況でも華は泣かなかった。




書くまで気づかなかったけどバアルギルディ、今回でようやくまともな戦闘だったと気づいてしまいました。
これからライバルキャラっぽくなっていくかも……?


キャラクター紹介12

 バアルギルディ(進化体)
 身長:214㎝
 体重:165㎏
 属性力:ツンデレ属性

 テイルバイオレットに対する恋心を解放したことにより、通常の最終闘体とは別の進化を辿ったバアルギルディの新たな姿。
 今までの蜘蛛と蛙を合わせた姿から一転して、白を基調とした服装が特徴の人型に近い正統派悪魔の姿となっている。
 人の姿に近づいた影響で見た目の怪物感は薄れてしまったが、戦闘能力は飛躍的に上昇している。
 
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