俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
「あいつ……バアルギルディだよな?」
「そんなわけが……」
多くのエレメリアンたちが口々に言うはバアルギルディの変化した容姿についてだ。
以前とはまるで違う容姿に困惑を隠しきれない。ついこの間までは蛙と蜘蛛の特徴を併せ持つ異形の姿から一転、白を基調とした服装に身を包んだ新しい姿、全開になっている胸元からわかる地肌の色が薄紫なのと頭には悪魔を思わせるような鋭利な角が二本生えている事などの細かい点を除けば比較的人に近い容姿になっているのだから当然だ。
アルティデビル基地の大ホールではこの世界に来てもはや恒例となった出撃する者を決めるくじの結果を見る為に多くのエレメリアンで溢れかえるのが毎週の恒例行事となっている。
普段は部屋に引きこもりがちのエレメリアンも余程外せない用事がない限りはやってくる。そして結果に一喜一憂し、そそくさに大ホールを去り部屋に戻るか数日振りに顔を合わせた同士と自らの愛する属性についてを語り合うのが本来の形だ。
だが、今日は違った。大半のエレメリアンが大ホールに入るなり、皆がバアルギルディの変化に目が釘付けになり、その事が気になってしまってしょうがない。
いつもならばくじに当たりますようにと必死になって神頼みするエレメリアンは何処にもいなかった。
「とてもそうは見えないが、あの気迫、あの佇まい、間違いあるまい。あいつはバアルギルディだ」
「ああ。それになんていってもあの様子……」
彼らが見つめる先にいるバアルギルディは、指定された専用の席にてどっしりと座りながらテイルバイオレットのフィギュアを見つめている。そして時折、うわ言のように「美しい」だの「綺麗だ」なんて言っているのだ。
ここにいるエレメリアンの中にもテイルバイオレットの事が好きな者はいるにはいるが、ここまでじゃない。ここまで気持ち悪いのはバアルギルディに他ならない。
「おいお前、聞けよ」
「俺っちはもう嫌だよ!?」
「チっ……!!」
激変した容姿ほど触れづらい物はない。バアルギルディの変化を例えるならば、今まで校則を破ったことがない優等生のクラスメイトがある日を境に180度方向性が違うヤンキーやギャルにイメチェンをしてきたようなものなのだ。
アルティメギルにいたエレメリアンよりかはやや陽キャ寄りのエレメリアンが揃っているアルティデビルではあるが、彼らの本質は人間のオタクに近いエレメリアンである以上、余程の胆力がなければ話しかけづらかった。
「はて? バアルギルディ殿? で……ありますかな?」
大ホールに遅れてやってきたアガレスギルディが皆の気持ちを代弁するようにバアルギルディの容姿の変化についてツッコんでくれた。
普段はバアルギルディの腰巾着をしている年寄り好きのエロジジイとしか思っていないエレメリアンたちもこの日ばかりは感謝を忘れない。
「よく気づいたなアガレスギルディ。流石だよ。他の者は何も言ってはくれぬからてっきり気づかれないものかと思ってしまったよ」
気づいてるに決まってるだろうが!! 言えるわけないだろ!! と怒りのツッコミを口々に心の中で入れるアガレスを除いた他のエレメリアンたち。
バアルギルディの天然に萌えるほど業が深いエレメリアンはいなかった。
「して何故ようにそのような姿になったのじゃ?」
「やはり気になるかアガレスギルディ。フッ……皆も実はそう思っているのだろう? 私が何故、このような進化を遂げることが出来たのかを!!」
唐突に話を振られては困惑を隠せない他のエレメリアン一同は黙って頷くしか他なかった。その様子にご満悦なバアルギルディのテンションの差が酷い。
バアルギルディは柔らかな指使いでテイルバイオレットのフィギュアを撫でまわしながら虚空を見つめ口を開く。
「私は先日、テイルブルームと死闘を繰り広げた。それは互いの実力を出し切るある意味素晴らしい戦いだったと自負している。そして僅かの差で私は負けた……」
この場にいる誰よりも強い筈のバアルギルディがテイルブルームに負けた。その衝撃により一層静まり返る大ホール内のエレメリアンたち。本人から語られるのだから本当の事で間違いはないのが余計に衝撃を強くする。
「彼女の矢を胸に射られた時、私はこのまま死ぬものと感じていた。だが、そんな私に激励を送り私の真の力を引き出して助けてくれたのはテイルバイオレットだった。そして、限界を超えた私はこの姿に進化し、テイルブルームにリベンジを成功させることが出来たのだ」
バアルギルディの指は激しさを増して、フィギュアを撫でまわす。本人が見ていたら絵面と妄想の気持ち悪さで怒り狂っていたであろう事など想像に難くない。
「つまり……バアルギルディ。お前は死の間際にテイルバイオレットが応援してくれる妄想を見たことで、強くなり進化したとでも言いたいのか……?」
「妄想か……確かにそうとも言えるが、あれは私の心の中にいるテイルバイオレットその物だと思っている。故にあれは虚構の出来事では断じてない。いつかきっと現実のテイルバイオレットも私にそう言ってくれるはずだ」
好きもここまでくればどうしようもないなと呆れる者、様々な意味でレベルが違い過ぎるとより恐れる者と皆の態度は二分する。
一先ずの経緯を話し終えたバアルギルディは勢いよく立ち上がると、後者の態度を取っていたナベリウスギルディに向かって指を指す。
「お、俺っちがどうしたんだよ……!?」
「ナベリウスギルディ。君には以前、言ったな。我々がいずれツインテイルズに勝つには他の力に頼るしかないと。だが、今の私なら胸を張って答えれる!! 確かに今のままでは勝てるはずなどないが、私のように真に愛する者を見つけて進化することが出来たのなら可能性は十分にあると!!」
ボルテージが最大限高まったバアルギルディは大ホール中央に立つと今度はナベリウスギルディ一人ではなく、ここにいる全てのエレメリアンたちに向かって声を張り上げる。
「いいか!! これから私のように強くなりたいと思う者は本当に心の底から愛する者を見つけ、その愛を心の中に思い浮かべ続けるのだ!! そうすれば何時かは答えてくれるだろう!!」
「おいおいおい。天才のご帰還だっていうのに労う言葉の一つもないのはあんまりじゃあないか」
大ホールにバアルギルディの声が響き終えた直後だった。大ホールの入口が開くと、通路の壁に一体のエレメリアンが両腕を組み尊大な態度を取りながらもたれかかっていた。白を基調としたバアルギルディとは正反対の黒い服を身に包んだ曲がりくねった山羊の角をもつ悪魔の姿。
静かになった瞬間に聞こえたということもあり、皆の注目はバアルギルディのいる中央ではなく入口の方へ向けられる。
勿論、気づいたバアルギルディがその立っていたエレメリアンに対して口を開く。
「ついに帰ってきてくれたのか……我が友ベリアルギルディ」
ベリアルギルディ。その名を聞いてざわめきだすアガレスギルディなどの一部を除いたエレメリアンたち。それもそのはず。先日、バアルギルディとナベリウスギルディの会話を盗聴していた一部のエレメリアンは彼がツインテイルズにも勝ちうる可能性をもたらすある兵器を求めて別行動をとっていることしっていたからだ。
ベリアルギルディはバアルギルディのいる大ホール中央に向かうと強く握手を交わし合う。アガレスギルディ以上の付き合いを持つと言われている二人の関係の深さがよくわかる光景だ。
「久々に見れば随分と悪趣味な色に染まっているじゃあないか」
「初耳だな。君は白が嫌いなのか?」
「無論だよ。白はオレから全てを奪った色だ。愛する者の命だけではなく心さえもな」
愛する者と聞いてバアルギルディは申し訳がなくなってしまい頭を下げようとするが、ベリアルギルディは無言で肩を叩き、それを制止した。
「そんなことよりも例の件はどうなった?」
「そう言われると立つ瀬がないな。悲しいことにまだ手には入れてはいない。だが、必ず手に入れるつもりだ。そのために私は進化したのだからな。それで君はどうだ? 帰ってきたと言うことは……」
「この天才、ベリアルギルディに不可能はない。当然、手には入れた……が、少々予想以上に厄介な代物でね。調整し、実用可能に形作るにはまだ時間が必要といったところだ」
「そうか……」
その報告はバアルギルディにとってある意味嬉しい誤算であった。半年前のテイルバイオレットと出会う前のバアルギルディならば残念がって当然だったのだが、現在のバアルギルディは自らの力ではない別の力の必要性に疑問を抱き始めているためにそう感じるのだ。
「ま、いずれ形にして見せるさ。オレたちにはなさねばならない使命がある。そうだろ?」
「ああ……。そ、それよりもだ」
曖昧な返事を返すバアルギルディは周囲を置いてけぼりにしていることに気づくと、急いで話を終わらせ、話を眺めていた他のエレメリアンたちに向かってベリアルギルディの紹介に移る。
「もう知っている者も何人かはいるかもしれないが改めて紹介しよう。彼の名はベリアルギルディ。彼は非情に頭がよく私と同等と戦闘能力を有するまごうことなき完璧に近い天才だ」
「気軽に天才ベリアルギルディ。そう呼んでくれよな。テイルバイオレットなどという存在如きに手を焼くちっぽけな凡才たちよ」
以前に盗み聞きをしていた者はベリアルギルディが少しばかり偉そうな性格をしていると聞いていたが、その態度は明らかに予想以上だった。自らを天才と事あるごとに自称するのに飽き足らず、他者を凡才と蔑む呼び方をする。これには流石にここにいる大半のエレメリアンが怒りを露わにする。
「てめぇ!! 何を偉そうに!!」
「そうだそうだ!! 何が天才だ!! 馬鹿にしやがって!!」
「俺らを甘く見てんじゃねぇぞコラァ!!」
「この自称天才!! 何も知らないくせに!!」
アガレスギルディなどの穏健なエレメリアンが怒り狂ったエレメリアンたちを制止しようとするが、まるで効果がなかった。彼らの心には今まで敗北が続いていることによって得た傷があるのだ。ベリアルギルディの馬鹿にするような態度は傷を抉り過ぎた。
「ほう……このベリアルギルディに歯向かうか……!! ならばそれ相応の覚悟はできてるんだろうなぁ? オレにとっては今ここで貴様らのちっぽけな命を踏み潰すなど造作もないのだよ!!」
ベリアルギルディが怒りを露わにした瞬間、今まで怒り狂っていたエレメリアンは強烈な殺気を感じた。
たった一言が原因で大ホール内はかつてないほどに一触即発な状況となってしまった。
こんな状況を黙ってみているバアルギルディではない。バアルギルディはベリアルギルディを宥めるように優しく声をかける。
「やめろベリアルギルディ。煽るのはもうよせ。アルティメギル亡き不安な今の時代、我々エレメリアン同士が争っている場合ではない。そうだろ?」
「…………」
バアルギルディに宥められたベリアルギルディに訪れる一瞬の沈黙。その沈黙は果たして肯定か否定かは定かではない。
沈黙の果て、ベリアルギルディの強張った表情が僅かだが解かれた。
「フッ……それもそうだな、今回はオレが悪かったとでも言っておいてやろう」
「皆も聞いてくれたか!! 今は我々が争っている場合ではないのだ!! 確かにベリアルギルディの言い方も不味いが未だに属性力を奪えていないのも事実ではある!! 今、怒りを感じた者はベリアルギルディを見返すつもりようにこれから頑張ってもらいたい!!」
ベリアルギルディの尻ぬぐいをさせられているバアルギルディに不憫を感じたこともあってかは知らないが、怒り狂っていたエレメリアンたちも落ち着きを取り戻し、何とかこの場を穏便に収めることができた。
収まりを見てバアルギルディは心の底でホッと胸を撫で下ろした。
「まぁ、とりあえず。これからは何か困ったことがあればベリアルギルディの部屋に相談に行くといい!! 彼の頭脳ならば何か名案を考えてくれるだろう。すまないが私は少しばかり忙しくなるかもしれないのだ。近い未来にいずれ来るテイルバイオレットとの決着をつけるために」
「ふぅん。それも随分久しぶりだな。それもお前お得意の勘だろう?」
「ああ。私にはわかるのだ。そのためにもこれからの仲間たちを君の頭脳で導いてやってくれ」
「勿論だとも。凡才どもをより良い未来に導くのが、オレのような真の天才の務めなのだからな」
固い握手を再び交わす白と黒の二人。
アルティデビルは今、大きく変わろうとしていた。
◇
「いらっしゃいませーー!!」
ティアナの元気な声がアラームクロック内に響き渡る。今はお昼過ぎの14時半と平日の喫茶店では一つのピークを終えた時間ではあるが、おやっさんのコーヒーを求めて常連さんは沢山やって来る。
何故、俺やティアナが平日の昼間からアラームクロックにいるのかというと今日はテスト週間明けのテスト休みだからだ。入学前はテスト休みがない高校は意外と多いと聞いていた為に俺の学校はあるとわかった時はそりゃあ匠と一緒に喜んだもんだぜ。
「どうしたものかよ……」
本来のテスト休みはテストで疲れ切った体や頭脳を休ませる憩いの時間なのだが、正直な話、全力で休む気になれないのが現状だ。
テスト週間一日目、あの日は俺やティアナがテスト中だっていうのにエレメリアンは空気も読まずに現れやがった。その時間帯のテストが偶然数学だったこともあり華先生にその事を伝えることが出来、華先生は俺が出れない代わりに単身でエレメリアン退治に向かってくれた。直近のエレメリアンが処女処女うっせぇ変態だった事もあるが、俺なんかよりも何倍も強い華先生の事だしどんな変態が来ても大丈夫だろうと高を括り過ぎていた。
結論から言うと華先生は負けたらしい。華先生と戦ったエレメリアンはまさかの敵の親玉と思われるバアルギルディの野郎。華先生が言うには撃破寸前まで追い込んだらしいが、すんでの所でバアルギルディは今までとは違う体に変化し強くなったらしい。
土壇場で進化したのか、それとも元々野郎に変身能力があって見せてなかっただけなのかは定かじゃねぇが、不安になるには十分すぎるぜ。
華先生のツインテール属性が奪われていないことだけが幸いだ。
「やっぱ俺ももっと強く……強くなるしか……」
グレモリーギルディの一件以来も俺は定期的なトレーニングは続けてはいるが、いまいち強くなれている気がしない。
何となくだけどよ。バアルギルディの野郎が俺を狙っていやがることがわかる。そのことがより不安を募らせる。
華先生が勝てなかった相手に俺が勝てるのか? 俺はティアナを守れるのか? 俺は……
「お~い。なーに辛気臭い顔してんだよ。そんなじゃ飯もコーヒーも不味くなっちまうだろぉ」
「おやっさん……」
いけねぇいけねぇ。つい一人で考え込みすぎて周りに迷惑をかけるのが俺の悪い癖だ。以前からちょっとずつ直そうとしてみるも直せる気がしない。
カウンターの向こう側でコーヒーを淹れるおやっさんの声で俺は我に帰ることが出来た。
「テストはティアナちゃんのおかげで手ごたえあるって言ってたじゃねぇか。なのにどうしたんだ? もしかして凡ミスに気づいちまったか?」
「いや、そんなじゃねぇんだ。もっとこう。どうしようもない感じでさ……。折角の休みを満喫できねぇんだよ」
「ふーん。ま、何があったかはしらんが、俺からすれば休める時はしっかり休みに限るぞ。いざという時にちゃんと休んでないと大変だからな」
ガキの頃に聞いた話だとおやっさん曰くONとOFFをきっちり使い分けるのが楽しく生きるコツらしい。働く時はとことん働き、休む時はとことん休む。そのバランスが完璧だからこそおやっさんは今まで俺に辛そうな顔を見せたことがないのかもしれねぇな。
年寄りって言うと怒られるが、こういう意見は素直に聞くのも悪くない。
「そうだな……ありがとう、おやっさん」
「おう。その調子だぜ和輝。っと……ちょっと待てよ……確か……?」
俺の返事に気をよくしたおやっさんは何かを思い出しポケットを探り始めた。そして目当ての物を見つけたかに思うと厨房の奥に引っ込んじまった。
不思議に思っていると厨房の奥からおやっさんが手招きしているのが見えた。
「んだよ、おやっさん。用があるならここじゃなくてもいいじゃねぇか」
暖簾をくぐった先に広がる一人用のこじんまりとした厨房は外に負けないくらいの熱気に溢れていた。今日の日替わりランチは油を使う天丼だし当然と言えば当然なんだが、こんなにも暑いとは思ってもみなかったぜ。
「お前のためを思って、場所を変えてやったんだぞ。ちょっとくらい感謝しろよ~」
「いいから。で? 結局何なんだよ? 何か俺に秘密で渡したいものとかでもあんのかよ?」
「おっ、勘が良いな。正解だぞ。ほれ」
おやっさんがポケットから取り出し俺に渡した物、それは都心遊園地の一日無料チケットが二枚だった。多分、見たとこ気前のいい常連さんから頂いた代物だろう。丁度、近くの商店街でクジ引きしていたし間違いない。
なるほどな。これで気晴らしに行って来いって訳か。全くありがたい話だぜ。
ん? 二枚? これってもしかしてペアチケット?
「善は急げだ。明日にでもティアナちゃんと二人で行ってこい。ティアナちゃんには明日は休んでいいと言っておいてやるからよ」
おやっさんの意図を理解した途端、俺の全身は厨房の熱気以上に熱く赤く染まっていく。
つ、つ、つ、つまり、俺がティアナをデートに誘えって言ってやがるのか? おやっさんは!?
「い、いらねぇよ!! 誰がティアナとデートなんか……!!」
「あれぇ? 誰もデートに行ってこいなんて言ってないぞぉ~? テスト勉強手伝ってくれた礼も兼ねて連れていってやってほしかっただけなんだけどなぁ~?」
「こ、こんのぉ……一生独身クソ親父ィ……!!」
「おっともう返却はきかないぜ。そいつはお前んだ。まっ最終的な使い方は好きにしな」
ニタニタした笑顔を浮かべるおやっさんに厨房を追い出される。後で覚えとけよ。ぜってぇ……!! ぶん殴る……!!
復讐の決意を固める俺は厨房を追い出されるなり、丁度注文を取ってきたと思われるティアナと鉢合わせた。
「なによ和輝。どうしたの?」
「い、いや……あの……その……」
ヤべぇ。どうやって誤魔化せばいいのかまるでわからねぇ。心臓の音がバクバクなっているのがわかるぜ。このまま破裂するかもしれねぇ……!!
「ティアナちゃん~!! 和輝がお外で話したいことがあるらしいぞ~!! 休憩がてらちょっと聞いてやってくれ~!!」
しどろもどろになる俺の背後から聞こえてきたのは、逃げ場を封じるおやっさんの声だった。
一方のティアナは?を浮かべているが、おやっさんに言われた以上はもう逃げられないだろう。こうなったら覚悟きめるっきゃねぇ!!
覚悟を決めた俺は無言でティアナを外へ引っ張り連れ出す。
照りつく暑さも五月蠅いセミの鳴き声もどちらも全く感じない。それくらいに俺は今を集中しているんだ。
「何? どうしたの?」
「えっと……その……」
覚悟は決めたつもりなのに口は俺の意思に反して上手く動いてくれない。
汗がダラダラ流れ始める。それは暑いからじゃない。どういえばわからずに過ぎていく何もない静かな時間に焦りを感じているからだ。
きょとんと見つめるティアナの視線が眩しくて胸に突き刺さる。
(そ、そうだ……!!)
焦る俺の脳裏にさっきのおやっさんとのやり取りが蘇り、一筋の光を見出した。
「こないだのテストさ……。その……俺や匠のこと手伝ってくれたよな……」
「今更それがどうかしたの?」
ティアナの顔を直視することが出来ない俺はそっぽを向きながら、ティアナにさっきおやっさんから貰った遊園地のチケットを一枚だけを乱暴に突き出した。
「な、なに? それ? チケット……?」
「だ、だから…………だから……!!」
緊張は今、最高潮に達した。きっと全身の血液が沸騰しているだろうし、体温が38度を優に超えているだろう。このままじゃどうにかなっちまう。
早くこの場から離れたくて必死だった。
「だから明日!! 一緒に行こうぜって言ってんだよ!! わかったか!! 寝坊すんじゃねぇぞ!!」
万年、寝坊癖がついている俺が言えたことじゃないのはわかっているが、そうとしか口は動かなかった。
ティアナにチケットを受け取らせると俺は急いで停めてあるバイクに直行し、エンジンをかける。
恥ずかしさが限界を振り切った俺は自分でもびっくりするくらいの素早さでバイクを発進させるのだった。
◇
乱暴にチケットを渡した和輝はそそくさにバイクに乗ってどっかに行っちゃった。
正樹さんが和輝が話があると言われた時は、最近の和輝はバアルギルディの事でまた深く悩んでいるみたいだったし、話もそれについてなのかなと一瞬思ってしまったけど和輝の様子からしてそれは全く違ったの。
ちょっとくしゃくしゃになっちゃったチケットを広げて何のチケットかを確かめる。これは遊園地の一日無料の招待券ね。
「え……!? これって……もしかして……!!」
聞き取り辛かったけど、確か和輝は明日一緒に行こうぜって言って渡してきた。それってやっぱり私を遊園地デートに誘ってくれたってこと!?
話の意図がわかると同時に熱くなっていく私の体とツインテール。さっきまで感じていた夏の暑さが嘘のように感じられるくらいに熱を帯びてくるのがわかるの。
僅かに残った理性がこのまま外にいるのは危ないと危険信号を飛ばしてくれたので、興奮する心を必死に抑えて店内に戻る。
「おめでとう~!! ティアナちゃん~!!」
「楽しんでおいで~!!」
事の様子を窓越しで見ていた常連さんたちが口笛や拍手とともに私の事を迎えてくれた。
祝福してくれるのはありがたいんだけど、興奮を抑え込もうとしていたのにこれじゃ台無し。でもやっぱり嬉しいかな。
私は正樹さんの元に向かうべく厨房に駆け込んだ。
「ねぇねぇ!! 正樹さん!! 明日……!!」
「わかってるわかってる。明日は休んでくれていいから存分に楽しんできな。俺は土産話を楽しみにしてるからな」
正樹さんから優しい言葉を貰い、私の嬉しさは最高潮に達する。
明日は和輝と遊園地でデート。こんなに嬉しかったのは初めてツインテールを結んでもらった時以来な気がする。
「いや~やっぱり若いって素晴らしいですなぁ」
「わしらももう一度あんな風に青春したいですなぁ」
盛り上がる常連さんの会話を横に通り過ぎる私は急いでトイレに駆け込み、鏡を前にしてツインテールを結び直す。
嬉しくて舞い上がるのはいいけど、明日の為にもツインテールはしっかり結ばないといけない。ツインテールの乱れは心の乱れって誰かが言ってた気もする。
折角のデートなんだからいつも以上にキチンと完璧なツインテールを結ばなくちゃ……!!
「いよっしゃぁぁぁ!!!!」
夏空に俺の魂の雄たけびが消えていく。
おやっさんにはあんな風に言っちまったが正直な所、凄く嬉しかったしありがたかった。
16年生きてきて人生初、念願のデート。しかも相手はティアナ。絶対に満足させなきゃいけない。
バアルギルディのことは大事だが、今は明日のデートのことだけに集中したい。明日だけは頼むからエレメリアンは出てくんじゃねぇぞと願いを込めて勢いよくアクセルを入れて走り出した。
新しい敵の登場に既存の敵の強化。となると次は……?
そろそろテイルバイオレットにも大きな変化があるかもしれません。
キャラクター紹介13
ベリアルギルディ
身長:223cm
体重:170kg
属性力:
バアルギルディの旧友であり、アルティデビル発足の原因を作ったエレメリアン。常に他者を見下した態度が鼻につくが、頭脳と強さの両方ともに天才を名乗るにふさわしい高い能力を持っている。
過去にアルティメギル科学班のある人物と関わりを持っており、その人物に恋心を抱いていたらしい。
実はバアルギルディにも隠してある真の目的を持っており……