俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
1話目を書いていた時は千字でもひいひい言っていたのに自分でもびっくりです。
「ついたぜティアナ。つっても開園時間にはまだちっとばかし時間があるみたいだけどよ」
「こんなに早いのも和輝が寝坊しかなかったおかげね」
夏の平日の朝、午前8時を少し過ぎたあたり。俺はティアナと共に遊園地にやってきた。そう、今日は待ちに待ったテスト休みを活かしたティアナと二人きりでの初遊園地デートなんだ。
バイクを駐車場に停めた俺たち二人は入園口に向かう。到着した入園口はまだ開園前且つ平日だっていうのに人の数は数えられないほどに多く、既に長蛇の列を作っていやがる。夏の気温と人ごみの熱量が合わさって滅茶苦茶暑苦しい。
汗がダラダラと垂れてくる中、俺たちは最後尾に並ぶ。
「てかよティアナ。俺が寝坊すると思っていたのかよ。言い出しっぺが寝坊なんかできるわけねぇだろ」
「でも和輝、普段はいっつも寝坊してるじゃない。私が毎日毎日起こしてあげてなかったら今頃和輝、遅刻のし過ぎで留年してたかもしれないのよ」
「あのなぁ、俺だってやろうと思えれば出来んだよ。早起きの一つや二つは朝飯前。何なら終業式の日は俺が起こしに行ってやるよ」
普段起こしてもらっている癖に生意気にこんな風に言ってはいるが、今日の所は本当は良く眠れなかったが正しい。
遠足の前日にワクワクし過ぎて寝れなくなっちまうなんて小学生や幼稚園児くらいのガキの頃ならよくある事だが、まさかこの年になって同じようになっちまうなんて思いしなかった。
正直、寝てなさ過ぎてかなり眠い。
「それならいいけどね」
クスリと微笑んだティアナに目が奪われ、眠気は一気に彼方へ吹っ飛んでいった。
デートってこともあって意識し過ぎているのかもしれないが、今日のティアナはいつもの倍以上に可愛く感じる。ぱっと見の服装は普段と大して変わらないのにだ。
「どうしたの? そんなにジロジロ見て。もしかして……」
「い、いや……!! 別に見てねぇよ……!!」
「……そう」
「……その……暑いな」
「そ、そうね……」
ヤバい。まだデートは始まったばかりだっていうのに会話が続かないし話題がない。今が特にやることもない待ち時間というのもあるが、それでもいくら何でも黙り込むにはいささか早すぎるってもんだ。
普段は特に何も考えずに会話を続けることが出来ていたっていうのにいざデートとなると緊張が勝ってしまい生まれるこの沈黙が気まずい。
いつもは何を喋っていたかを思い出そうとするが、出てくる話題はエレメリアン関連がほとんどだ。エレメリアン関連と言えば出てくるのはバアルギルディのことしかない。そんなのを話し出したら、多分……ていうかきっと、別の意味で空気がぶち壊されるのは目に見える。今日ばっかりはそういう暗い話はきれいさっぱり忘れてこの二人きりの時間を楽しんでいきたい。だからこそ今日はエレメリアン関連の話題はなしだ。
「クッソ……まだかよ」
やっぱし、気まずすぎる。今までエレメリアン関連以外では特にこれといった話をしていなかったことを激しく後悔する。共通する趣味か何かでもあればいいんだが、これが意外とないんだ。ツインテールが好きって事は同じなんだが、如何せんティアナの好きは俺の好きを遥かに超えた物のせいもあって何だか喋りづらい話題だ
あー。こんなになるんだったらばあちゃんにもっと色々聞いておけばよかった。
後悔する中、ティアナが恐る恐る口を開く。気まずいのはティアナも同じだったようだ。
「ね、ねぇ和輝……!! その、今日の私ね。ちょっといつもよりも気合を入れてみたんだけどどうかな?」
「気合を入れた所だぁ……?」
ばあちゃんが言っていた。女っていうのは些細な変化でも気づいてくれることがとても嬉しいってな。だからと言っても不意打ちにも程がある。
俺はティアナの全身を注意深くまじまじと見つめるが何もわからない。精々、アラームクロックでは基本的につけっぱなしのエプロンがないくらいか?
「さっきもしかしたら気づいたのかなって思ったけど……わからなかったかな……?」
「す、すまねぇ……」
「ベ、別に謝らなくたっていいの……!! やっぱり私じゃまだまだってだけだから。もっとツインテールに磨きをかけて和輝もすぐに気づけるくらいにならなきゃね……!!」
「へ……? ツインテール?」
もしかして、ティアナが気合を入れたのって服装とかじゃなくてツインテールの事か!?
確かに言われてみれば、いつもよりもツインテールの結び方がしっかりしていているような気がする……多分。
結局の所はよくわからないが、何だか緊張が良い感じにほぐれてくれた気がした。ホッと安心すると同時に笑いがこみ上がってくる。
「ぷっ……ははははは!!」
「どうしたの和輝!?」
「別に大したことじゃねぇよ。ただやっぱりティアナはティアナなんだなって思ってさ」
服装とかよりも髪型。それもツインテールの細かな結び方について気合を入れたなんて言ってくれる女の子は世界のどこ行ってもティアナしかいないだろう。それを改めて感じることが出来た。
そうこうしている内にお待ちかねの開園時間がやってきた。続々と人々が入園していくのを見て俺は心を躍らせた。
「なぁ、最初は何乗るよ。お前が決めていいぜ」
「そうね……じゃあやっぱり定番のジェットコースターとかかな」
「ぜってぇ言うと思ったぜ。ティアナって胸に違わず、結構男っぽいもんな」
「ちょっと和輝!! それはどういう意味よ!!」
流れるようにティアナの胸をからかった俺は入園と同時に逃げるために駆け出した。
「冗談だっつーの!!」
「こらー!! 待ちなさいー!! 和輝ー!!」
気にしてる部分をからかうのは男としてどうかとは思うが、緊張しまくって気まずくなるよりかはよっぽどマシ……なのかもしれない。
冗談とはいえすまなかったと心の中で謝罪を入れながらジェットコースターの場所まで全速力で走った。
◇
単にジェットコースターと言っても一種類ではなく、高さに優れるものや最高速度に優れるものなど特徴は多岐にわたる。
俺はその幾つものジェットコースターから始まり、フリーフォールにウォータースライダー、回転ブランコ、果てにお化け屋敷と遊園地内にある全ての絶叫系アトラクションを順番に巡った。
無料招待券に列を無視することが出来る待ち時間無しの特典がついていたおかげで、本来は一日かけて巡る終える所を何とか半日以内に巡り終えることが出来たのは幸運だったのかもしれない。まぁ、そのせいで早々に体力と精神が限界を迎えつつあるのがある意味不幸だったわけだ。
ピンピンしているティアナと正反対のグロッキー状態になっていた俺は腕時計の針が昼過ぎの時刻を指しているのを確認し昼食にしないかと提案した。
その提案は無事受け入れられることが出来たおかげで今現在、俺は遊園地内のフードコートにて椅子にもたれてかかりながら束の間の休息を堪能していた。おかげ様で多少は気分も良くなった。ちなみにティアナは二人分の飯を買いにテーブルを離れている。何を持ってきてくれるかは完全にティアナのおまかせだが、仕方ない。グロッキー状態の俺には二人分の金を渡すくらいのことしか出来なかった。
「もう……もっとしっかりしなさいよ。男なのにだらしないんだから」
トレイに二人分のカレーライスを乗せてティアナが戻ってきた。カレー特有の香ばしいスパイスの匂いが俺の食欲を刺激し蘇らせてくれる。
気力が若干復活したので少しばかりティアナに文句を言ってみる。
「あのなぁ……絶叫系全部って朝っぱらからハイカロリー過ぎんだよ。何も全部行くこたぁねぇじゃねぇかよ……」
「私の胸をからかった罰よ。むしろこのくらいで許してあげるんだから喜びなさいよね」
「うっ……」
ティアナにそう言われると流石に言い返せない。いくら気まずかったとはいえ、ティアナの胸をいじったのは事実なんだしよ。でもよ……まだ根に持っていたのかよ。寧ろそっちの驚きの方が強いぜ。
「本当だったら今頃空の彼方にブッ飛ばしていたんだから」
「マ、マジ?」
さらっと人殺し宣言を言われたように感じて血の気が引く。ブッ飛ばすという言葉が決してハッタリや比喩なんかじゃないのはこの俺がよーく知っている。ティアナはその華奢な見た目からは想像つかないくらい怪力を持っていやがるからな。金属バットやちゃぶ台程度を真っ二つにへし折るなんて当たり前だし、本気出せばもっとヤバい。一体どんな風に育ったらこうなんだよとツッコまずにはいられない。
てか、もしかしたらティアナって
ありもしないことに震えあがり戦慄する俺を見て意地悪そうに笑みを浮かべるティアナはさながら小悪魔のようだ。
「もう冗談よ。冗談。本気で殴っていいのはあの人だけって教わっているんだから」
「冗談かよ。たっく、びっくりさせんなっつーの……!! うん? てかあの人って誰だよ?」
恐らくだが、今ティアナは無意識で口にしたんだと思う。その証拠にティアナはあの人が誰かと指摘された後で誰だったかなと頭を捻っている。これも記憶喪失の弊害って訳か。
「まぁ、その誰かが誰だったのか含めて早く思い出せるといいな」
「うん……そうよね。早く思い出せればいいのにね」
湿っぽい話は一旦終わらせてカレーを食べ始める。遊園地内の食事って大体値段だけが高くて味は今一な物が多いと思っていたが、これが中々美味しいときやがった。まぁ、おやっさんが作る特製カレーよりかは落ちるけどよ。
完食寸前までスプーンを動かしていた時だった。俺はふとあることを思い出した。
「そういや、ティアナってカレー好きだよな。今日もカレーだしよ」
「カレーが好きっていうより……カレーを食べていると記憶を思い出すことが出来るんじゃないかな……って無意識に思っちゃってるからかな」
「ふーん。んじゃあよ、もしかしてお前の実家ってカレー屋でもやってたのかもってことか?」
「そんな安直な物じゃないとは思うけど……」
確かにティアナが実はカレー屋の娘ってのは安直し過ぎる気もする。何故ならカレーなんてかなりありふれた料理だ。家庭料理を除いてもカレーならファミレスって選択肢もあるし、何なら喫茶店でも定番メニューとしてよく見かけるからな。
ティアナは苦笑いを返してくれているが、やはり辛そうだ。折角の二人きりのデートなんだ。辛い思いをさせちゃいけねぇ。今日これからはティアナの記憶関連も話題にあげるのは無しだ。
「俺から話題ふっておいてなんだが、この話も終わりにしようぜ。それよりもこの後どこ行くよ。絶叫系は全部制覇したんだし、今度はゆっくり楽しめるとこ行こうぜ」
「それだったらこれ見ましょうよ。さっき運んでる時に見つけたの」
ティアナに見せられたのは午後から始まるヒーローショーのチラシだった。内容はまさかのテイルバイオレットのショー。テイルバイオレットを題材にした物なんて今の世の中じゃありふれていやがるからもう慣れている。
この前にテイルバイオレットやテイルブルームのなりきり玩具がでるって匠に言われた時はひっくり返りそうになったけど、華先生曰く12年前もこんなだったらしい。12年前はそれ自体がアルティメギルの作戦だったようだが、アルティデビルの奴らはそんなに深く考えてないだろうから別段そこまで深刻になるようなことじゃない。
てかよ、それにしてもこういう時の著作権? とか肖像権? とやらはどうなってんだ。俺、馬鹿であんまし詳しくねぇからわからねぇけどよ。
「ねぇねぇ、和輝も気になるでしょ?」
「まぁ、気になるっちゃなるけどさぁ……その何つーかさぁ……」
「口コミではここのヒーローショーって結構クオリティ高いんだって。早く行かないと席無くなっちゃうかもしれないみたいよ」
正直な話、俺自身が題材になっているヒーローショーなんて恥ずかしいからあまり行きたくないが、ネットの情報を見てティアナの奴は行く気満々になっている以上は行くしかない。
多分だけど、ティアナの奴はヒーローショーの内容じゃなくて、どうせテイルバイオレットのツインテールの再現の方が楽しみなんだろうけどな。
「行くのはわかったけどよ。だからって何も急ぐこたぁねぇだろ。今日は本来平日なんだし、真ん中くらいの席なら空いてるだろ」
「でもどうせなら前の方で見たくない? そっちの方がツインテールもより見えるわけだし」
「ティアナの事だし、どうせそんなこったろうなと思ったぜ。たっく、しょうがねぇな。わーったよ」
ティアナに急かされた俺はカレーを口いっぱいにかきこんだ。
◇
「なんじゃこりゃ……すっげぇ人数」
目当てのヒーローショーもといテイルバイオレットショーが行われる屋外ステージにやってきた俺とティアナはその観客の多さに度肝抜かされた。
本当に今日は平日か? 実は俺たちが知らないだけで祝日だったんじゃないのか? と思ってしまう。俺たちと同じテスト休みがある高校生や時間に自由な大学生、有給休暇で来ているであろう中年のオタク集団以外にもちゃんと本来のメインターゲットである幼稚園児くらいのガキも親同伴でかなりの人数いるのが余計に俺を惑わせやがるんだ。
「私たち2人並んで座れる席、あそこしかないね」
「みたいだな」
ティアナが指差した席はステージから最も離れた席と席の列の最後尾。一応、2人横に並んでじゃないのなら前の方にも幾つか席は残ってはいるが、そこまでして見るような物でもねぇ。
結局、俺たちはその席に座った。ここからならステージ上よりも今か今かと待ち侘びる他の観客たちの様子の方がよく見えるぜ。
「ねぇねぇママー。まだかなー」「もうすぐだから待ってなさい」
「そろそろ時間だ。こーへい氏、カメラの準備は出来てるか?」「出来てるよ。いつでも大丈夫だ」
母親にまだ始まらないのかとワクワクしながら尋ねる子供と、ショーの内容をビデオカメラで録画しようと必死に準備する中年オタク集団。
それぞれ年齢も楽しみ方も様々だが、心の底からこのショーを楽しみにしているのがわかる。
嫌々だった俺もその様子に触発されたせいで段々と楽しみになってくる。
「なーんだ。あんなこと言ってた割に和輝も結局楽しみに待ってるじゃないの」
「こうなったらどれだけちゃんと再現できてるのか見せてもらおうじゃねぇのってな」
腕を組みながら待っているとほどなくしてステージの舞台袖から司会のお姉さんが出てきて、会場の全員に向かって元気のいい挨拶を行う。
『会場のみんなー!! こんにちわー!!』
「「「「こんにちわーー!!」」」」
司会のお姉さんに負けないくらい元気いっぱいにガキどもは挨拶を返す。所々におおよそ年相応とは思えない野太い声を含まれていた気がするが気にしない。
「何よ。司会もツインテールにしなさいよ」
隣のティアナは司会のお姉さんの髪型に不満を漏らす。気持ちはわからなくもないけど、そこまで気にするようなところじゃないだろとは思う。
そうこうしてる内にも司会のお姉さんはショーの注意事項を子供に教えたりとしっかりと進行させていく。そしてショーの舞台設定を話始めようとした時だった。厳つさに溢れるまさしく悪役怪人といった声が聞こえてきた。
「この会場にいる良い子の諸君!! この会場は
禍々しい赤い鎧を着こんだ怪人がステージ中央に現れる。舞台袖からキチンと現れたのではなく、ステージ外からそれも客席を飛び越えて突如乱入してきたように見えたが、これもそういった演出なのだろうと納得する。
それよりもこの怪人のスーツの方が凄い。本物と見間違うくらいに精巧にできたそれは今まで何体ものエレメリアンを屠ってきた俺の目を誤魔化せるくらいだ。鎧の隙間から見える皮膚なんてまるで生きているみたいだ。
「ゆけい!!
「「「モケ―!!!」」」
完璧すぎるエレメリアンの再現だけではなく、戦闘員まで完全再現とはこれは恐れ入った。すげぇよ奇怪な叫び声まで完璧すぎるぜ。クオリティ高いとは聞いてはいたが、ここまでとはな。この調子じゃ俺の再現も機会が出来るってもんだぜ。
だが何故だろうか? こんなにも迫真の演技の隣で司会のお姉さんは急にオロオロと慌て始めた。まるで想定外の事態が起きているように見える。
「ねぇ和輝……これ見て……」
「ん? エレメリアンの探知機じゃねぇか。ってこれ……」
ティアナの持っているエレメリアンの探知機。正確にはエレメリアンの感情が高ぶった時などに観測させる属性力を探知する物らしいがこの際どうでもいい。探知機の反応はステージ上を指していた。それはつまり……
「本物かよ!!」
完璧すぎるとは思ったがまさか本物が乱入してるとは思わねぇだろ普通。だって戦闘員の奴ら、ガキを連れて行くのにわざわざ親御さんに許可貰う為に丁寧にお辞儀していやがんだしよ……
「どうする和輝?」
「どうするもこうするもブッ倒すしかないだろ。幸い今はこの事実を知っているのは俺たちやショーの人たちだけだが、いつバレてパニックになるかわからねぇしな。クッソ……!! だけどどうすんだよ。どうすりゃ穏便にすませられんだよ」
こんな所でパニックになったら危険なのもあるが、それ以前にパニックになった拍子で今日これからが全て台無しになる方が俺は嫌だった。
「それだったらショーに見立てて倒せばいいんじゃない?」
「は? どういうことだ?」
「まだ気づかれてないんだし、それならいっそショーだと思わせればいいのよ。無茶かもしれないけどやってみる価値はあると思う」
確かに名案だが、それつまり俺が最も苦手な恥ずかしい作戦だ。ただでさえ俺は恥ずかしさから必殺技名を言ったりといったカッコつける行為が苦手なのにその作戦は生き地獄でしかない。
沈黙を貫こうとしたが、俺の目には慌てながらも真実を告げようとしている司会のお姉さんや舞台裏の人達が見えた。早くしなきゃ今日のこれからが台無だと思うとこんなつまらないプライドなんざくそくらえだ。
覚悟を決めた俺は他の人の見えないように物影に隠れティアナから渡されたテイルドライバーでテイルバイオレットに変身した。
「そこまでだてめぇら!! 会場のみんなは俺が守る!!」
「何!? 来たかテイルバイオレット!!」
変身完了した俺は普段は絶対にしないカッコつけた啖呵を切り、バレないように席と席の間を通ってステージに上る。
正直、既に別の意味で地獄だ。帰りたい。
「ほ、本物!?」
ステージに上がると同時に司会のお姉さんがうっかり素のリアクションをみせる。
とりあえず司会のお姉さんには俺の意図を耳打ちで伝える。最初は困惑している様子ではあったが、次第に飲み込めてくれたのかしっかりと頷き、インカムを使って他のスタッフにも作戦を伝えてくれた。観客たちは俺の登場に目が奪われているようなので全くバレていない。
「すっげぇな今日のショー。昨日なんかよりもクオリティ高ぇぞ」
当たり前だ、なんせ本物なんだからよと観客の感想に心の中でツッコミを入れる。
作戦を理解してくれた音響スタッフがヒロイックな戦闘用のBGMを流し始めたことで雰囲気は抜群、興奮は最高潮に。俺はステージ上でゼパルギルディと対峙する。
あくまでもショーだと思わせるためにもいつものように全力でぶつかってステージを破壊するようなことはダメだ。それにとりあえずはステージの端っこで捕まっているガキどもの救出もしなくちゃいけねぇ。
「ゆけい戦闘員たちよ!! テイルバイオレットから属性力を奪うのだ!!」
「望むところだ!! やってみろ!!」
戦闘員如きなら対して力を入れなくても余裕だ。群がって来る数人の戦闘員をバッタバッタとパンチとキックで舞台袖まで吹っ飛ばしていく。観客からバレないようにするためにいつも以上につかれる戦い方をこなしていく。
「みんなー!! 邪魔になるからお姉さんの所に来てー!!」
ゼパルギルディや戦闘員が俺に気を取られている内に司会のお姉さんがガキどもの救出を担当してくれる。さっきまでのうろたえている姿は何処に行ったのかと思わせるベテランの貫禄がそこにあった。
ガキどもがいなくなってくれたおかげで俺も少しばかし全力で戦闘員をブッ飛ばす。救出完了からものの数秒で戦闘員はステージ上にいなくなり、舞台袖で静かに消滅していく。
今更だけど空気読み過ぎてないかコイツら。
「ぬうう……戦闘員がこうもあっさりと。それに我が愛しの子供たちまで……!! この後に一緒になって遊園地内を回る我が計画が……!!」
「ガキどもに馴れ馴れしく連れまわそうとしてんじゃねぇよ。この変態不審者野郎が」
ステージ上に残っているのは俺とゼパルギルディの二人だけ。
俺はゼパルギルディに近づき、いつもの通りのラフファイトを仕掛ける。
「うおらぁ!!」
型もクソもないパンチが、乱暴なヤクザキックがゼパルギルディの体を打ちのめしていく。それに比べてゼパルギルディの反撃は見た目だけで力が全く入ってなく防御も回避もせずに余裕で受け止めることができる。バレないように手の抜いているというのに戦いはドンドン一方的に傾いていった。
ここに来て俺はようやく気付いた。このゼパルギルディ、とんでもなく弱い。多分、今までのエレメリアンで最弱だ。
「何だよ案外楽勝じゃねぇか」
軽口を叩く余裕さえも生まれ、さらに一方的な展開に入っていく。勝利を確信しトドメを刺そうとしたそんな中、ティアナの声がテイルギアを通して聞こえてきた。
『不味いわ和輝。余りにも一方的過ぎて観客が不審に思い始めてる』
嘘だろぉ……。確かおやっさんもヒーローショーと言えばピンチから声援を貰って逆転する展開が多いとか何とか昔言ってくれていたけどさぁ……。もしかしてわざと手を抜いてそれまで再現しなくちゃ駄目なのかよ……。
「このぉ……!! 俺は愛する子供たちにも負けられないのだぁ……!!」
はぁ……とため息をつく俺に向かってゼパルギルディは突っ込んでくると今まで同様の見た目だけのパンチを繰り出す。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
「あれ? 効いたのか?」
正直、痛くも痒くもないんだが、この空気じゃやらないといけないみたいだし仕方ない。我ながら惚れ惚れする迫真の演技でわざと吹っ飛びゼパルギルディの攻撃を続々と貰っていく。
当の本人にしかわからない茶番がステージ上で繰り広げられる。
「今わかったぞバアルギルディ。俺もこの戦いを経て成長しているのだな。アルティデビル最弱と言われた俺が今、テイルバイオレットを打ち倒す所を見るがいい!!」
調子乗りやがってこのアホがぁ……!!
早くこの茶番を終わらせたい俺は観客にバレないように司会のお姉さんにガンを飛ばす。司会のお姉さんは慌ててステージに上ると観客に向かって声をかける。
『みんなー!! テイルバイオレットがピンチになっちゃた!! お姉さんと一緒に応援してあげてー!!』
「「「がんばえー!!」」」「「「頑張ってー!!」」」
少し舌足らずなガキの応援と野太くて気持ち悪いおっさんの応援が聞こえてくる。
応援を受けてヒーローが立ち上がる。本来なら凄く熱い展開なのだろうけど、実際は八百長もいい所のなのが悲しくなる。
こんな恥ずかしいだけの茶番さっさと終わらせよう。そう決意した俺は素早く立ち上がり、ゼパルギルディを蹴っ飛ばす。
「なっ!?」
「これで終わりだ!!」
反撃を貰い動揺するゼパルギルディにトドメを刺すべく、腕の装甲を少しだけ
「な、なんと……!! やはり俺では勝てなかったのか……!! すまない……!! 子供たちよ……!!」
新必殺技ストームスマッシュ(手加減)を受けたゼパルギルディはよろめきながら舞台袖に引っ込み、観客に見えない場所で静かに爆散した。
全く……空気を読んでないのか読んでるのかわからない奴らだ。
全てを解決した俺は早々にステージを後にしようとする。しかし、ティアナの声が俺を阻んだ。
『和輝、ヒーローショーってのは最後に応援ありがとうでしめるのが一般的らしいわよ』
え……。それまでやらないといけないのかよ……
チラッと客席を見たらガキどもの視線とオタクどものカメラが俺を眩しく見つめている。司会のお姉さんは苦笑いをしながら手を合わせてお願いしているのも見える。
クソがぁ……やるしかないのかよぉ……
「はぁ……たっく……。みんなー!! 応援ありがとうー!! 今日はみんなと戦えて俺も楽しかったぜー!!」
顔から火が出るほど恥ずかった。こんなに白々しいありがとうは多分、他に存在しないだろう。
手を振り言い終えた俺はそそくさに舞台袖に引っ込むと感謝してくれるスタッフを掻き分けながら裏口からこっそり出て行った。
てか今更だけど……あんなに弱いんだったら別にバレても大した騒ぎにならなかっただろ絶対。
バアルギルディの事もあって警戒し過ぎたことが、ある意味裏目に出たと気づいたがもう遅かった。
◇
「今日はお疲れ様。昼間は災難だったね」
「全くだ……。あんなの二度とごめんだぜ」
日が落ち始める夕方。私は今、和輝のバイクに乗って帰路についていた。
昼間のヒーローショーの出来事は和輝には可哀想ではあるけど、私としては少し面白かった。あの後の和輝はその記憶をなくそうと再び絶叫マシンを巡りだしていたのも余計に可笑しかった。
「意外と似合っていたわよ」
「たっく……からかってんじゃねぇよバーカ」
和輝をこうやってからかうのは楽しい。和輝も私の胸のことを時々からかってくるからお相子様よね。
そうやっている内にふと変なことに気が付く。今、走っている道が行きの道とはまるで違う。景色もいつの間にかビルは消えていて、前方には小さな山が見える。
「ねぇそう言えば何処に向かってるの?」
「秘密。お前に見せたい場所があんだよ。黙ってついて来い」
見せたいもの……そう言われて期待しない人などいない。
私としては一番見たいものはやっぱりツインテールだけど多分違う。でも和輝が連れて行ってくれるんだし、この際なんでもいい。
期待に胸を躍らせている時だった。ポケットに入ってるエレメリアンの探知用のレーダーから音が聞こえてきた。
「和輝、エレメリアンが出たわ」
「マジかよ……。一日二体も出てくんじゃねぇつーの。まぁ、しゃーねーか。昼間みたいにサクッと倒せばいいんだからよ」
意気揚々とハンドルを切り、私たちはエレメリアン出現ポイントへ目的地を変更する。
この時の私たちは昼間に遊園地で出てきたゼパルギルディが弱かったこともあり、油断していた。
まさかあんなことになるなんて……
今回の話、初期案では原作9巻よろしく匠、悠香、華先生などの他レギュラー陣が二人のデートの様子をストーキングする予定でしたが、色々諸事象が重なりなくなくボツになりました。