俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第43話 動き出す邪悪

 時を少し巻き戻そう。

 これからの出来事は和輝たちがゼパルギルディとの一戦を終えて遊園地デートを再開していた時のことだ。

 

 アルティデビル基地内の最奥に存在するベリアルギルディの部屋。

 分厚い黒い扉に閉じられた部屋の中は何に使うのかもわからない機械が所狭しと乱雑に転がっている。その有様は研究に勤しむがあまり、掃除などといった私生活を疎かにする科学者の部屋そのものだ。おかしな点を挙げるとするなら部屋の隅に「腐女子との付き合い方」などと書かれている新品の本が積まれているくらいか。

 自らのことを天才と自称するベリアルギルディは部屋の奥で椅子にもたれかかりながら一枚の写真を眺め、思い出に浸っていた。

 

(ねぇベリアルギルディ君。ここはこうしたら上手くいくのじゃないかしら? ほらこうやって合体させれば……)

 

(ほう、なるほどな。その手があったか!! 流石はこのオレが認めるもう一人の天才だ。早速やってみよう!!)

 

 蘇る思い出はベリアルギルディが片想いしていた女性エレメリアンとの共同研究の一場面。

 何気ないあの時の日常はもう過去の物であり、二度と帰ってこない。切なさがベリアルギルディの胸の内を支配する。

 

「ああ……もう一度、君に会いたい。君でないとこのオレの天才的な会話に誰もついてくることが出来ないんだ。バアルギルディ含め周りのバカ共といるだけで虫唾が走る。やはり君でないと駄目なんだ。君こそがオレの隣に立つに相応しい」

 

 生まれついての天才は周囲の者との出来の違いを理解するとその場に馴染めなくなってしまうことが多い。ベリアルギルディも同様だったのだ。

 ベリアルギルディは過ぎ去りし思い出を回想しては頬を緩ませる。それはバアルギルディでさえも一度も見たことがない穏やかなものであった。

 

(ねぇダーリン?)

 

(やめてください!! 私は……!!)

 

 先程まで穏やかだったベリアルギルディの表情が突如として急変し、憤怒にまみれた物へと変貌を遂げる。

 何か余程嫌な事を思い出したのであろうと容易に察することができる。

 ベリアルギルディは怒りのままに机の上のボールペンをダーツのように壁に貼られたボロボロの写真に投げつけて突き刺す。

 

「ドラグギルディ如きに期待されていただけの貴様のような凡才以下のカスが……!! 何がダーリンだ……!! 本来、彼女にそう呼ばれていたのはオレであるはずなんだ!! 断じて認めるものか!!」

 

 何度も何度もボールペンを投げつけられた写真は虫にでも食われたのかと錯覚するほどに穴だらけのボロボロ。辛うじて写真に写っているエレメリアンが白鳥を思わせる若いエレメリアンだということだけがわかる。

 ベリアルギルディの記憶の中では旧アルティメギル基地内で恋人関係を否定する白鳥を模した一体のエレメリアンの姿が忌々しく蘇る。

 

「まんざらでもない癖にいっちょう前に否定などしやがって……!! 貴様如きがこのオレを見下しているんじゃあないんだよ!!」

 

 怒りが最高潮に達したベリアルギルディは光弾を写真に向かって放ち、写真は跡形もなく粉々に消滅した。

 そんな怒り心頭のベリアルギルディの部屋に訪問者がやってくる。

 ロックがかかっていなかった分厚い扉が重々しく開き、コンドルの翼を生やした犬のエレメリアン、グラシャラボラスギルディが恐る恐る入ってきた。

 

「き、来たぞ……。ベリアルギルディ。な、なにを怒っているんだ……?」

 

 グラシャラボラスギルディは他のエレメリアンと比べても少しばかり引っ込み思案な性格をしているエレメリアンだ。

 本来なら他のエレメリアンの自室になど決して行かない。ましてやベリアルギルディの部屋など誰も寄り付きたくない場所なのだ。だが、彼はやってきた。それはベリアルギルディがグラシャラボラスギルディを呼び寄せたことを示している。

 

「ふぅん、ようやくやってきたか。とりあえずは貴様程度がこのオレを呼ばれたことを光栄にでもおもっておけよ」

 

「う、うん」

 

 先日の大ホールでの一件を含め、グラシャラボラスギルディもベリアルギルディの他者を見下すこの態度については思うところは勿論存在するのだが、強くそれを言い返せないのが内気な彼らしい。

 

「んで……ベリアルギルディはどうして僕を呼んだの? 僕なんかよりもバアルギルディとかの方が凄いのに……」

 

 至極真っ当なグラシャラボラスギルディの疑問に対してベリアルギルディは鼻をフンとならし、答え始める。

 

「なぁに、貴様の持っている属性に少し興味があってな。その属性を持ってオレの実験の被験者となってほしいだけなのだよ」

 

 先日の大ホールでの騒ぎの後、ベリアルギルディはバアルギルディに実験の被験者を探すためにこの基地にいる全エレメリアンの属性をリストに纏めてもらっていた。

 その結果、傷跡属性(スカー)を持つグラシャラボラスギルディに白羽の矢が立ったのだ。

 

傷跡属性(スカー)。全く猟奇的で度し難い属性だ。怪我人属性(インジュリド)と何が違うのやら……」

 

 当の本人を前にしてベリアルギルディはこの言いようである。これには流石のグラシャラボラスギルディも黙っていられなくなる。自らが愛する属性を似て非なる物と同一視されることはオタク気質のエレメリアンが最も嫌うことの一つなのだ。

 

怪我人属性(インジュリド)と一緒にするな!! 僕の持つ傷跡属性(スカー)はな!! 包帯やギプスなんかで隠さずに傷を堂々と晒していることに意味があるんだ!! 傷を隠さないその勇ましさや気高さは他では語れない魅力なんだ!! それにな!! 刻み込まれた無数の傷跡からはその娘がどういった性格なのかやどういった歴史を辿ってきたを知ることにも繋がる素晴らしい属性なんだぞ!!」

 

 一息で熱く語り始めるグラシャラボラスギルディを見て流石のベリアルギルディもたじろいでしまう。

 

「わかったわかった。悪かったとでも言っておいてやるから、一先ず落ち着けグラシャラボラスギルディ。貴様がその属性に誇りを持っていることならよーくわかった」

 

 いつもと変わらない謝罪する者の態度とは到底思えない上から目線の謝罪ではあるが、一先ずグラシャラボラスギルディも矛を収める。

 いざという時は声を荒げると言えど、彼の性格は引っ込み思案なのは変わりないのだから。

 落ち着いたグラシャラボラスギルディはガラでもなく熱くなってしまったことを気恥ずかしさを覚え謝罪する。

 

「ご、ごめん。熱くなっちゃって……。それで……実験って一体……」

 

「ああ、そう言えばまだ言ってはいなかったな。貴様には私の発明のテストも兼ねて今から出撃してきてもらいたい」

 

「は、発明って……? それに今日はゼパルギルディが出撃しているはずだけど……」

 

「ゼパルギルディか……。ふぅん、奴程度の実力ならどうせ今頃やられているのがオチだろうよ。だから何も問題はない。それにオレの実験の為ならバアルギルディだって許可してくれるはずだ」

 

 あっさりとゼパルギルディの敗北を言い当てたベリアルギルディは散らかった机の上から濃色に染まった菱形の宝石を拾い上げるとグラシャラボラスギルディに投げ渡す。

 グラシャラボラスギルディはその宝石のような物体をまじまじと見つめる。それは色やエンブレムが刻まれていないことを除けば属性玉(エレメーラオーブ)に酷似していた。

 

「それを使えばどんな貧弱なエレメリアンでも強くなることが出来る。貴様らのような雑魚でもそれを使えばテイルバイオレット程度なら倒せるくらいにはなるだろう」

 

 相も変わらず雑魚呼ばわりな点はもうこの際は置いておく。ベリアルギルディ(こいつ)にこれ以上何を言っても無駄だとグラシャラボラスギルディは確信しているのもあるがそれよりも気になることがあった。

 

「も、もしかして……こ、これがあの噂に聞いてたベリアルギルディが追い求めていた兵器なの?」

 

 数日前からアルティデビル基地では、テイルバイオレットはおろかツインテイルズさえも勝つことが出来る兵器をベリアルギルディが追っているという話が噂として流れており、グラシャラボラスギルディも勿論知っていた。よってこの疑問は当然のものであった。

 だがベリアルギルディは首を横に振った。

 

「違うな。それは戦利品だ。貴様らが噂する物を手に入れた世界を物色している時に偶然見つけ、天才であるオレの手で改良を加えた物、その名を」

 

 グラシャラボラスギルディは息を呑む。

 

魔神の吐息(デモン・ブレス)。オレはそう名付けることにした」

 

魔神の吐息(デモン・ブレス)……」

 

 グラシャラボラスギルディは魔神の吐息(デモン・ブレス)を再び見つめる。

 吸い込まれそうになるくらいには魅惑的な輝きからは身の毛もよだつ魔性のオーラを感じる。

 これを使えばベリアルギルディの言う通り、きっと強くなれるだろう。だがしかし、それと引き換えにもっと大事な物も失うような予感すらも感じる。

 急激な力を得るには代償が付きまとう。それは一体何なのか……?

 

「実験の概要は以上だ。魔神の吐息(デモン・ブレス)を使いテイルバイオレットまたはテイルブルームと交戦し撃破する。なぁに心配などするなよ。使用すればこの部屋のパソコンにデータが送られる仕様になっているのだからな」

 

「わ、わかったよ、行ってくる……」

 

 性格故に断ることが出来なかったグラシャラボラスギルディは魔神の吐息(デモン・ブレス)を握りしめて部屋を後にし、出撃するために足を運ぶ。

 彼がどうなってしまうのかそれはベリアルギルディのみぞ知る事だ。

 

「君がいた世界、オレが求める物はそこに眠っていた。やはりこれは運命だ。君はこのオレ、ベリアルギルディと運命という赤い糸で繋がっているのだよ」

 

 一人になったベリアルギルディは再び写真を見つめポツリと呟いた。

 

「君が叶えられなかった野望はこのオレが叶えてやる。これはその第一歩だ。フフフフ、ハーハッハッハッハ!!」

 

 ベリアルギルディの高笑いが部屋中に響き渡った。

 

 

 

 

 日も暮れ始めたこともあり遊園地を後にした俺はティアナをある場所に連れて行こうとバイクを走らせていた。

 ある場所というのは俺たちのすんでる町から少しばかり外れた場所にある小さな山、その山の峠を越えた先にある高台だ。そこは何でも若者に人気のデートスポットらしい。

 昨日、寝ることが出来なかった俺は遊園地を出た後に行くことが可能なデートスポットを必死になって調べた結果、そこが見つかったんだ。

 時間的にも丁度いいと感じていたが、思わぬ横槍が入ってきやがった。

 

(チっ……!! どうして今日に限って二体目が来んだよ……!!)

 

 今まで一日に二体もエレメリアンが出てくることなんてなかったが、今日は違っており、昼間の遊園地でゼパルギルディとかいうエレメリアンを倒したのにまた別のエレメリアンが現れやがった。

 まぁ、いつまでも一日に多くて一体のペースで来てくれるわけがないとは思ってはいたが、いざその日が今日という日に来やがったことが堪らなく腹が立つ。

 

「まぁ、しゃーねーか。昼間みたいにサクッと倒せばいいんだからよ」

 

 ごちゃごちゃ文句を言っていても出てしまったものは仕方ない。それならば速攻でさっさとぶっ潰せばいい話だ。気持ちを前向きに切り替えて行こうじゃねぇか。

 それに昼間の野郎はあまりにも手応えがない相手だったから案外丁度いいかもしれねぇしよ。

 

 ティアナの指示を受けて進路を大きく変更し、俺たちが通ってきた道とは別の道に突入する。

 本来の道である綺麗に舗装された道ではなく、山の深い部分にある最低限の舗装しかされていない悪路は、オフロードバイクではない俺の中型バイクでは走るのがやや難しい。

 何とか停める場所を見つけた俺はバイクを停めて自らの足で走り出す。一応、ティアナには華先生に連絡を入れるようと言っておくのを忘れない。

 

 

 

「こんな所にでてくるなんて、どんな属性だよ。たっく……」

 

「山ガールとかじゃない?」

 

「かもしれねぇな。でもよ……もう日も暮れるっていうのに登山なんてちょっとおかしくねぇか? それにこの道、明らか一般的な登山道じゃないしよ」

 

「それもそうね」

 

 本来は誰も通らないであろう荒れた道を進むこと約10分。遂に目的の相手は見つかった。羽を生やした犬のエレメリアンが1人の登山客の女性を押し倒している。

 登山客の女性は動きやすそうな薄着と綺麗な褐色肌が特徴で、肌の見える箇所のいたるところに傷の跡がある。恐らくわざと危険な場所に赴くような人なのだろう。

 

「凄いよ……!! 君の体に刻み込まれた傷はなんて美しいんだ……!! これまで余程、危険な場所をくぐってきたんだね」

 

「ちょっと離して!! ヤダっ!! 舐めないでよ気持ち悪い!!」

 

 嫌がる女性を無理矢理掴んで離さない不審者同然のエレメリアン。ここまではいつも通りだが、このエレメリアンは女性の腕や脚の露出している部分を舐めまわし始めた。

 勿論だが、こんな気持ち悪い状況を見せつけられて動かない訳がない。

 ティアナと顔を見合わせ頷き合い俺は走り出す。

 

「何してんだぁ!! てめぇ!!」

 

 野郎は女性の肌を舐めまわすことに夢中になっており気づいていない。俺は腰に出現したテイルドライバーを起動させて変身。引きはがすために先ずは大声を出して俺の事を気づかせる。

 

「その人から離れろっつってんだよ!! このボケェ!!」

 

「げぇっ!? き、来た……!! テイルバイオレット……!!」

 

 さっきまで舐めまわすことに夢中になっていたエレメリアンも俺の登場に気づくとすぐさま舐めるのを止め、押し倒していた女性を解放し距離を取るように逃げやがった。随分と臆病な奴なのが直ぐに理解できる。

 被害に遭っていた女性の方は解放されるや否や、俺やティアナの事も見ずに一目散に山道を降りて行った。余程気持ち悪かったのだろうなと容易に想像つく。確かにあれは気持ち悪い。

 

「てめぇ……!! 俺の大事な時間を邪魔するだけで飽き足らず、随分と気持ち悪りぃことしやがって……!! そんなに舐めたいならよ。思う存分、地面を舐めさせてやるぜ」

 

「べ、別に僕は何でも舐めるのが趣味じゃないんだ。ただ……あの子の体に刻まれた傷跡が凄く美しくてつい……抑えきれなくなって……」

 

 傷が美しいか。なるほどなこの野郎の属性は怪我人とかその辺りか。

 

「それで許される訳ねぇだろ。大体な、人の怪我を喜ぶようなてめぇみたいな根暗野郎は何やらかすかわからねぇ以上はぶっ潰すのが相場ってもんだ」

 

『偏見が過ぎるかもしれないけど、和輝の言う通り、こういうのっていつか大変な事をやらかすのよね』

 

 このエレメリアン。見た所、おどおどしていて気弱そうなのがわかるが、こういうのに限っていざ感情が爆発した時が怖いんだ。ようするに普段大人しい奴ほど怒ったら怖いって奴だ。

 俺はフォースリヴォンに触れてウインドセイバーを作り出すと切っ先をエレメリアンに向けた。

 

「どうせてめぇの属性は怪我人とか、人の不幸を喜ぶ最低な属性だろ」

 

「僕は怪我に喜んでいるんじゃない!! 僕の属性は傷跡属性(スカー)。生きていく上で逃れることが出来ない体に刻み込まれた傷跡を愛しているんだ!!」

 

「そんなのどうでもいいっつーの!!」

 

 エレメリアンが言い終える前に俺の先制攻撃である跳び蹴りが炸裂する。

 不意に蹴り飛ばされたことで碌な戦闘態勢に入れていないエレメリアンにウインドセイバーの斬撃が襲い掛かる。

 

「傷がそんなに好きなんだったらよ、自分の体の傷でも見てんだな!!」

 

 縦に横に斜めに乱れるようにウインドセイバーの刃がエレメリアンの体を斬り裂き、お望みの傷を作り出していく。

 

「も、もとより僕は戦うつもりで来たんだ。こうなったらやってやる……!!」

 

 流石にいつまでも攻撃を受けているばかりではないエレメリアンも反撃の為に斧を取り出して振りかかるが、昼間のゼパルギルディ同様に素人同然の大ぶりの攻撃であり、この程度なら難なくいなす事が可能だ。

 軸をずらし回避した俺は膝蹴りをエレメリアンの胴体に叩き込む。

 

「おらよ!!」

 

「ごはぁ……!!」

 

 腰を丸め九の時になって倒れ込むエレメリアン。

 俺はそんな状況でも容赦せずに倒れ込むエレメリアンをサッカーボールのように全力で蹴っ飛ばす。

 

『随分とあっけないわね』

 

 ティアナが拍子抜けするのもわかるくらいにはこのエレメリアンは弱い。これじゃ昼間のゼパルギルディとかいう野郎とどっこいどっこいの弱さだ。寧ろ、無駄に威勢だけは良かったゼパルギルディの方がましだぜ。

 

「このぉ……!!」

 

 立ち上がったエレメリアンはやけになったのか無茶苦茶の斧を振るって突進してきやがった。

 だが、焦ることはない。俺はウインドセイバーで斧を受け止める抑え込む。エレメリアンはこうも簡単に受け止められるとは思っても見なかったようで酷く動揺してしまい隙が生まれる。俺はその隙をつきウインドセイバーの柄でエレメリアンの斧を握っている手を思いっきり叩く。するとエレメリアンは斧を落として慌てだす。俺はそんなエレメリアンをウインドセイバーを逆袈裟の要領で大きく斬り裂きながら吹っ飛ばした。

 

「やっぱり僕じゃ勝てないのかぁ……」

 

 吹っ飛ばされたエレメリアンは実力の差を感じてなのか、膝をつき泣き言を漏らし始める。

 これじゃ勝負はもうついたも同然だ。

 

『和輝。これじゃもうどっちが悪者かわからないわね……』

 

「だからって見逃す理由にはならねぇだろ」

 

 確かにティアナの言う通りではあるけどよ。こいつだってやられるのを覚悟して挑んできていやがんだ。ブッ倒すしか他ないぜ。

 

『そんなのわかってるわよ……。でも何か嫌な予感がするの』

 

 嫌な予感? 俺にはそれがさっぱりわからない。俺はさっさとこの野郎をブッ倒してティアナとのデートを再開したくてしょうがないんだ。

 俺はトドメを刺すべくウインドセイバーを構え、完全開放(ブレイクレリーズ)すべくティアナに声をかけようとしたその時だった。

 

「こうなった以上覚悟を決めるよ。僕だって……グラシャラボラスギルディにだって意地があるんだ!!」

 

 犬のエレメリアン、グラシャラボラスギルディは意を決して表情が懐から濃色の宝石を取り出した。

 禍々しく光るその宝石はどこかしら属性玉(エレメーラオーブ)に酷似しているが、属性玉(エレメーラオーブ)とは似ても似つかない不気味な光を発しておいやがる。もしかして、これがティアナが感じた嫌な予感の正体……!!

 

魔神の吐息(デモン・ブレス)よ!! 僕に力を!!」

 

 魔神の吐息(デモン・ブレス)と名付けられているその禍々しい宝石を胸に差し込むグラシャラボラスギルディ。全身が必殺技を喰らった直後のように激しく放電し始める。

 

「うおおおおオオオオオオッ!!!」

 

 魔神の吐息(デモン・ブレス)を使った代償なのか、グラシャラボラスギルディの声がどんどん苦しそうに変化していく。いや、声だけじゃない。姿かたちもみるみるうちに変化していやがる。背中に生えていた翼は黒く染まり肥大化、全身を覆っていた犬の毛皮が荒ぶるように逆立ち、瞳の中のハイライトが消え失せた。

 

「キ、キリキズ……!! サシキズ……!! カスリキズゥゥゥゥゥ!!!」

 

 口調からしてグラシャラボラスギルディの意識はもう存在していないことがわかる。まるで暴れることしか出来ない狂戦士(バーサーカー)だ。

 変化したグラシャラボラスギルディは周囲の木々をなぎ倒し暴れはじめる。

 

「何無差別に暴れてんだ!! やめろ!!」

 

 理性を失いただ暴れるだけの存在になり果てたグラシャラボラスギルディを見てゾッとする。ここがもしも人が密集するような街中だったら危険すぎる。以前戦ったプルソンギルディも巨大化能力で街中で暴れやがったが、この野郎はプルソンギルディと違ってただ本能で暴れているのがより危険性を跳ね上げている。

 俺はウインドセイバーを握りしめ飛び掛かるが、暴走するグラシャラボラスギルディは強化された剛腕を振るい俺の事をふっ飛ばす。

 

「ウオオオオオオオ!! カミキズゥゥゥ!!」

 

「クッソ、いくぞティアナ!!」

 

『わかったわ。受け取って和輝!!』

 

 このままじゃ駄目だと確信した俺はウインドセイバーを完全開放(ブレイクレリーズ)させて斬りかかる。ティアナの属性力でブーストした嵐の必殺剣。今の俺たちが出せる最高火力。

 暴走するグラシャラボラスギルディを止めるにはこれしかないと感じて繰り出した必殺技、強化ストームスライサーは暴走するグラシャラボラスギルディの皮膚を深く斬り裂くが、奴は全く意を返さない。寧ろ、自らの体に刻まれた傷が発光しより属性力が高まっていくのがわかる。

 

「化け物かよ……!!」

 

『嘘でしょ……!! 何なのあれ……!!』

 

 暴走するグラシャラボラスギルディの力はどんどん膨れ上がっていく。劈く咆哮だけで木々が切り刻まれ大きな傷を生んでいくのが見えた。こんなのがもし人に当たったら傷が残るとかそんなレベルでは絶対に済まない。

 焦りだけが心を支配する。テイルギアに守られている俺はともかく生身のティアナが危険だ。離れてこそいるがいつティアナに攻撃が届くかわからない。

 こうなったらやるしかない。

 

「こっちだバケモン!! こっちに来やがれ!!」

 

『和輝!!』

 

 グラシャラボラスギルディの注意がにティアナに向かないようにウインドセイバーを振るって斬撃波を飛ばして気を引く。狙い通り俺の方に注意がいったので、俺は全力でティアナがいる方向とは別の方向へ走り出す。

 早くこの危険な奴をティアナから少しでも離したかった。その一心で俺は駆け出す。

 

「ティアナは華先生が来るまでじっとしてろ!! この野郎は俺が引き付ける!!」

 

『無茶よ!!』

 

「やるっきゃねぇんだよ!!」

 

 俺への注意を引かせるために斬撃波を絶えずに飛ばし続けながら少しでも遠くに遠くにと山の中を駆け抜ける。追って来るグラシャラボラスギルディは周囲を斬り裂く咆哮をあげながら木々を乱暴になぎ倒していく。

 

「ヤケドォォォォォ!!」

 

「なっ……!! 炎だと!!」

 

 追って来るグラシャラボラスギルディが俺に向かって火炎弾を飛ばしてきた。

 下炎手に避ければ山火事につながってしまうのではと感じたので迎撃のために足を止めてウインドセイバーで火炎弾を受け止めた。

 爆炎が俺の全身を襲い、俺は爆発の衝撃で大きく吹っ飛ばされる。

 

「ぐはぁ……!! なんつー威力だよ……」

 

 俺を守ってくれているテイルギアが悲鳴を上げているのがよくわかる。これ以上、一発でも喰らったらヤバい。

 ただティアナから引き離そうと必死で、体とテイルギアに鞭を打ち走り出す。

 数秒後、そんな俺の目の前に絶望は現れた。一心不乱に走る内にいつの間にか断崖絶壁の崖に追い込まれてしまった。

 

「クッソ……!! ここまでかよ……!!」

 

 崖の下には麓まで流れている急流の川が見える。

 ティアナがいた地点からはだいぶ引きはがしたし、一か八か飛び込むか……? いや、もし俺を逃したとわかったら今度こそティアナを狙い始めるんじゃ……!!

 

「キリキズゥゥゥゥゥ!!」

 

 飛び込むかどうかを迷っている俺の背後からグラシャラボラスギルディの咆哮が衝撃波となって襲い掛かる。ハッとして防御しようとするが、間に合わないし耐えられない。

 崖から吹き飛ばされる俺の目に映ったのは容量を超えた攻撃を喰らった為に砕け散るように消滅するテイルギアと女から元の男に戻る俺の体。

 

「和輝ぃぃぃぃぃ!!」

 

 崖から吹っ飛ばされる俺の耳に最後に聞こえたのは意中の相棒が敗北を察して遠くから叫ぶ声だけだった。

 そこで俺の意識は暗転した。




遂に動き出すベリアルギルディの野望。はたして暴走するグラシャラボラスギルディをどう止めるのか? そして和輝の運命やいかに?
次回 『和輝、死す』

和輝「勝手に殺すんじゃねぇ!!」



はい。勿論嘘です。少しふざけました。
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