俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第44話 恐怖

(ここは……どこだ……?)

(俺の身に何があって、どうなっちまったんだ……?)

 

 周囲を見渡してもただ何もない真っ暗な闇で埋め尽くされた空間の中。

 ここはどこだと尋ねても誰も答えてはくれない。勿論だが、俺はどのような経緯を経てこんな場所に立っているのか全く覚えていない。

 ただただ困惑し立ち竦んでいる俺。そんな中、視界の隅ではらりと鮮やかな青紫の髪の毛が揺れているのを確認した。

 

(こいつは……もしかして……!!)

 

 手から腕、そして胸へと順に体の全身隅々を見渡していき、俺の疑念は確信に変わっていく。

 男のごつごつとした物とは違うしなやかで柔らかい指と腕、ティアナ程ではない標準よりもやや控えめなサイズの胸、細く引き締まった腰回りと脚。それらがスクール水着を連想させるぴっちりとした紫のインナースーツに覆われ、腕部や脚部を始め肩や腰には子供が喜びそうなメカニカルな青紫の装甲が存在している。さらに腰にはこれらを維持する変身ベルトのおまけつき。

 極めつけは視界の端で揺れている左右対称の二つの髪の束、これは俺の髪型がツインテールであることを示している。

 これらの事から連想できる答えは1つしかねぇ。

 

(どうして俺は変身してんだ? どうして俺はテイルバイオレットになっているんだ?)

 

 男から女になった上でさらに変身した俺の姿、その名もテイルバイオレット。属性力(エレメーラ)を力に変えるテイルギアを操る戦士の姿だ。

 本来ならば属性力(エレメーラ)の足りない俺が変身するには、俺以上の属性力を持ちながら何故か変身できない相棒のティアナと心を一つに合わせる必要がある。

 だがこの場は他に誰もおらず、俺しかいない。

 本来ならばこうやって変身できている筈がないんだ。

 その筈なのに俺は今こうやってツインテールを結ぶ女となり、青紫のテイルギアを纏っている。

 これは一体全体どういうことだ? 全くわけがわからない。

 

(あれは……)

 

 途端、視界前方の闇が生き物のように蠢き歪み始め、まるで何かを形作るように三つの姿に変化していく。

 一つ目は背中に二対の大きな翼を持ち、全身という全身が燃え上がる蒼炎を纏う金色のエレメリアン、フェネクスギルディ。

 二つ目は百獣の王者ライオンを思わせる見事な鬣をなびかせる頭部を持ち、今まで見たどのエレメリアンよりも屈強な肉体を有するエレメリアン、プルソンギルディ。

 三つ目は細く引き締まった蛙の顔を持ち、背中に蜘蛛の脚を四つ、合計八本の手足を有するこれまで戦ったエレメリアンの中でも別格の覇気を持つエレメリアン、バアルギルディ。

 

(フェネクスギルディ、プルソンギルディ、バアルギルディ。何故、こいつらが……!?)

 

 フェネクスギルディは唯乃さんことテイルフェニックスと協力することで、プルソンギルディは華先生ことテイルブルームが……。それにバアルギルディは先生と戦うことで進化して俺が知っている姿とは違うはずだ。

 

(俺一人でこいつらは……ってまさか!?)

 

 困惑する俺はこの三体のエレメリアンにある共通点を見つける。

 こいつらは全員、俺一人ではまず勝てない相手だ。属性力(エレメーラ)、戦闘能力、特殊能力、どれをとっても万に一つも勝ち目がない。

 ティアナが力を貸してくれなければバアルギルディとの初戦で俺は属性力を奪われていたし、唯乃さんの力がなければフェネクスギルディとの初戦で俺は死んでいたかもしれないし、プルソンギルディ戦も華先生が覚醒しなければ俺は大変なことになっていた。

 理解すればするほど俺はただ運が良かっただけなんだと気づかされる。

 遊園地でもそうだ。ゼパルギルディが極端に弱かったから何とかなっただけ。てか、今まで出会ってきたエレメリアンたち全て、グレモリー、シトリー、シャックス、マルコシアス、アンドラスも全部、運が良かっただけ。

 俺みたいな大した属性力を持たない半端者じゃ何も出来ない。他人のツインテール属性はおろか、俺自身すらも守れやしないんだ。

 

(無理だ……!! 俺じゃ無理だ……!!)

 

 気づくと同時にそれはどうしようもない恐怖となって俺の心を包み込む。

 今までエレメリアンと対峙できていたのが嘘みたいだ。今は直ぐにでも逃げ出したい。でも足はすくんで動いてくれない。

 竦む俺を目の前にしてバアル、フェネクス、プルソンが溶け合うように混ざり合い、姿を変える。

 全身の毛を逆立たせたハイライトのない瞳を持つ暴走状態の犬のエレメリアン、グラシャラボラスギルディ。

 

(そうだ……!! 俺はあの時……!!)

 

 全てを思い出した。

 俺はティアナを連れ遊園地を出た後、あるデートスポット向かっていた。そして、俺たちの行く先でグラシャラボラスギルディが出現し交戦、最初こそ優勢だったが、魔神の吐息(デモン・ブレス)とかいうアイテムを使われ形勢逆転。俺は崖から叩き落されたんだ……!!

 いつもいつも気持ち悪くて馬鹿な言動から油断していたが、こいつらエレメリアンは人知を超えた怪物なんだと改めて理解させられた。

 魔神の吐息(デモン・ブレス)を使ったその姿こそ奴らの真の実力なんだと。

 

(ウオオオオオオオ!!)

 

(やめろ……!! 来るな……!! 来るんじゃねぇ!! う、うあああああああ!!)

 

 グラシャラボラスギルディは俺を飲み込もうと大きな口を開けて近づいてくる。俺はやめてくれと叫ぶしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うああああああああ!! って……ここは……?」

 

 見知らぬ白い天井と白い壁、そしてこの清潔感溢れる綺麗なベット。隣を向くと点滴のチューブが俺の腕にまで垂れている。

 もしかしてと思い、体を見ると俺の体は女ではなく元の男になっており、薄い水色の病衣を着ている。

 そう、俺は病院のベットで寝ていたんだ。

 

「夢か……」

 

 安堵する俺はふと考える。

 もしや、グラシャラボラスギルディに負けて崖から落ちた俺は、誰かに助けられこの病院に連れてきてもらっていたのか?

 グラシャラボラスギルディの攻撃を受けきれず、崖上から吹っ飛ばされたことは覚えているが、それ以降は全く覚えていない。

 そういえば、崖の下には麓まで流れる大きな川があった事を思い出す。もしかして川に落ちることで俺は助かったのかと考えていた時、病室のドアががらがらと開き、見覚えのある顔が現れた。

 

「おっ、やっと目覚めたか和輝」

 

「おやっさん……」

 

「全く、お前も悪運の強いやつだよ。いくらあの山の頂上から見る夜空が綺麗だからって、夜になろうとしているのにあんな装備で登ろうなんてな」

 

 どうやらおやっさんは俺とティアナが遊園地から帰った後に山を登ろうとしたと思い込んでいるみたいだな。

 あんな装備というのは決してテイルギアを指している訳じゃない。

 恐らくおやっさんは俺の服装の事を指している。だってあの時の俺の服装はとてもじゃないが山を登るに相応しくないもんな。

 

「お前を助けてくれた登山客に感謝しろよ。偶然、川の下流に引っかかっているお前を見つけてくれたんだ。一歩遅かったら今頃、死んでたかもしれないんだぞ」

 

「そうだったのか……」

 

「それとティアナちゃんにも感謝しろよ」

 

 おやっさんの言葉を聞いて思い出す。

 そうだ。あの時、勝てないと悟った俺は、暴れまわるグラシャラボラスギルディを少しでもティアナから引き離そうと逃げ回ったんだ。

 結局、俺は崖から落ちてグラシャラボラスギルディのターゲットから逃れている。ならティアナが危ねぇ!!

 

「ティアナは……!! ティアナは無事なのかよ!!」

 

 鬼気迫る俺はおやっさんに問い詰める。

 おやっさんは涼しい顔をしながら俺の隣を指さした。

 俺の隣、点滴が置かれている方とは丁度反対側、小さな椅子に座り壁にもたれかかりながらすやすやと眠るティアナの姿があった。

 

「ずっとお前の事心配してたんだ。大声出すんじゃないぞ。起こしちまうからな」

 

 ティアナが無事だと知り、俺は安堵の胸を撫で下ろす。

 グラシャラボラスギルディの事は俺が倒れた後で華先生が何とかしたのかもしれねぇな。

 

「とりあえず、文子さんには当分の間は入院するとは伝えてあるから安心しておくんだな」

 

「ありがとう……おやっさん」

 

「だ~か~ら感謝は俺じゃなくて、一日中ずっとそばで見てくれたティアナちゃんやお前を発見してくれた人達にするんだよ。わかったか?」

 

「お、おう」

 

「それでよしっと。一先ず俺はお前が目を覚ましたと伝えに言ってくるわ」

 

 病院の人達やばあちゃん、俺が目を覚ましたことを伝えるべき相手は沢山いる。おやっさんは最後に「無事でよかった」と言い残して病室から出て行った。

 あの後、何があったか詳しくわからないが、とりあえず俺もティアナも二人とも無事ということにホッと一息つきながらベットに寝転がった。

 

「あれから丸一日、目を覚まさなかったって訳か」

 

 時計が示す時刻は夜の8時40分。

 戦いがあったのが昨日の7時過ぎだと仮定すると俺はたった一日で目を覚ましたことになる。

 早急に発見され無事だったこと含めて全くだが、俺は運がいいぜ。

 体のあちこちはまだ酷く痛むが、多少の運動程度なら支障はない。これなら来週末の終業式までには学校に復帰することは容易いだろうな。

 幸い、今週はまだテスト休みが残っているしよ。

 

「ティアナ……」

 

 すやすやと気持ちのいい寝息を立てながら穏やかに眠るティアナを見て俺は起きたらなんて声をかければいいんだろうと思ってしまう。

 俺が不甲斐ないばっかりに危険な目ばかり合わせちまう。

 折角の二人きりのデートだったっていうのによ……

 

「ん……和輝……?」

 

 ティアナの目がゆっくりと開き始めた。

 まだうとうとしている様子ではあったが、やっと俺が目を覚ましたことを知ってか、ティアナの顔は徐々にシャキッとした物に変わっていく。

 完全に目を覚ましたティアナはベットから半身立てている俺に勢いよく突っ込んできた。

 

「和輝!! もう心配したんだから!!」

 

「テ、ティアナ……!! ば、馬鹿ッ……!! 抱きつくんじゃねぇ……!!」

 

 体が熱い。

 決してティアナの抱擁が力強すぎて傷が再び熱を持ち始めた訳じゃない。

 この熱さは恥ずかしさと嬉しさが混ざり合った複雑な奴だ。

 

「……い、痛いだろ!! さっさとどけよ!! おい!!」

 

「あ、ごめん和輝。つい……」

 

 痛いという嘘もあってかティアナはやっと俺から離れてくれた。

 あのままずっと抱きつかれてちゃ俺の心臓が持たないぜ。

 ティアナが離れた後も心臓はバクバクと音を派手に鳴らしているのがわかるしよ。

 

「まぁ、その……なんだ。ずっと……ついていてくれたんだよな。……ありがとう」

 

「いいの。だって和輝は私の事を思って囮になってくれたんでしょ。だから私がついてあげるのは当然なんだから」

 

「そうか……すまねぇ」

 

 ティアナ本人は求めていないみたいだが、俺はこうやって謝ることしか出来ない。

 さっきの夢で実感した。俺は一人じゃ何も出来やしないんだから。

 

「あれ? 正樹さんは? 一緒にいたはずなんだけど……」

 

「ああ、おやっさんなら俺が目を覚ましたのを伝えにいったぜ」

 

「そっか。それもそうね」

 

 ご丁寧に個室の病室を割り振ってくれたこともあり、気兼ねなくティアナと喋ることが出来る。

 これが他の患者と同室ならこんな時間にお喋りなんて迷惑だからな。

 そんな背景もあり、俺はティアナに最も大事な事を尋ねる。

 

「なぁティアナ。グラシャラボラスギルディの野郎はどうなったんだ? やっぱり華先生が倒してくれたのか?」

 

「ううん。華先生が到着したのは全てが終わった後だったわ」

 

「じゃあ誰が野郎を止めたんだよ。……っ!! もしかして、野郎はどっかに逃げちまったのか!?」

 

 俺を倒したグラシャラボラスギルディは華先生が到着するまでにあの場を離脱していたとするならそれは不味いなんて騒ぎじゃねぇ。 

 あの野郎は周囲の全てを傷つける暴走状態にあるんだ。もし人が多い都市部に降りてきたら大惨事どころじゃすまねぇ。最悪の場合は死者がでちまうかも……!!

 

 不安に駆られ焦る俺を宥めるかのようにティアナは首を横に振った。

 じゃあ一体、誰があの野郎を止めたっていうんだよと疑問を浮かべる俺に対してのティアナの答えは想像を超えた物だった。

 

「バアルギルディよ。姿は変わっていたけどあの迫力にあの属性力、間違いないわ」

 

「バアルギルディだと!? あいつら仲間なんだろ? どういうことだ?」

 

 理解が追いつかない。

 前に一度、奴はフェネクスギルディを粛清と称して俺に弱点を教えてくれてはしたが、あれはフェネクスギルディの度が過ぎる行動が原因だ。

 グラシャラボラスギルディは暴走こそしていたが、あれは飽くまで魔神の吐息(デモン・ブレス)が引き起こした事。その魔神の吐息(デモン・ブレス)は明らかに仲間から貰った物くせぇし、それだったら何かおかしい。

 まるでアルティデビル内でバアルギルディとは別のエレメリアンが動きだしているみたいじゃねぇか。

 

「バアルギルディは一瞬で暴走するグラシャラボラスギルディを拘束して一緒に消えてしまったの。私もどういう訳かさっぱりわからないわ」

 

「そうか……」

 

 奴らの中で何が起きているんだ。

 それにまだグラシャラボラスギルディは生きていやがるのか……。

 

(あんな化け物とまた戦うかもしれないのかよ……)

 

 そう思うと俺の体は震えだして止まらなくなった。

 別に病室内の冷房が効きすぎていて寒いという訳ではない。その答えは俺が一番わかっている。

 震えをティアナに悟られぬように慌ててシーツの中に潜り込む。

 

「悪いがティアナはもう帰ってくれないか。俺、疲れたんだ」

 

「そ、そうよね。じゃあまた明日くるから」

 

 部屋を出る支度をするティアナに「ありがとうな」と一言だけ言い終えた俺はベットで横になり目を閉じた。

 

 

 

 

 アルティデビル基地内の居住スペース。

 それぞれの部屋から入りきらずにはみ出たエロゲーの箱が通路の隅に所狭しと積まれており、視線の行き場を難儀させる。

 そんな通路を通り抜け目的地を目指すエレメリアン、バアルギルディ。

 彼の目は新作エロゲーを丁寧に開封する時と同じくらいには真剣な物であった。

 

「バアルギルディ? こんなところにどうしたんだよ。お前の部屋はもうとっくに通り過ぎちまってるぞ」

 

「そんなことは百も承知だ。私は今、ベリアルギルディに話があるのだよ」

 

 エロゲーの山を整理していた一体のエレメリアンが不審に思い、バアルギルディに声をかける。がしかし、バアルギルディは立ち止まることなく歩みを進める。

 その様子を見ていた他のエレメリアンたちは何か大変なことがあったのかと勘ぐってしまう。

 ここにいる者の中でグラシャラボラスギルディの件を知っているのはバアルギルディしかいなかった。

 

「ベリアルギルディ。君に対して少し話がある。入らせてもらうぞ」

 

 通路の最奥に存在する分厚い黒の扉。

 バアルギルディはたどり着くと同時に大きく扉をノックした。別に扉にロックがかかっていないことなど古くからの友であるバアルギルディは知ってはいるが、そこはやはり親しき中にも礼儀ありというやつである。

 数秒の静かさの後、扉がひとりでにゆっくりと開き、部屋の様子が明らかになる。

 整理整頓とは程遠い散らかった部屋。

 ベリアルギルディは奥でパソコンの画面にかじりついていた。余程夢中なのか部屋に入ってきたバアルギルディに目を合わせない。

 

「バアルギルディ一体何の用だ。悪いがオレは忙しいのでな。手短に簡潔に頼むぞ」

 

「ああわかった。なら単刀直入に言わさせてもらおう。グラシャラボラスギルディが昨日、無断で出撃し、変わり果てた姿で暴れまわっていた。君はその原因となる何かをした。そうなのだろ?」

 

「……」

 

 ベリアルギルディは何も答えない。カタカタとパソコンのキーを叩く音だけが部屋に響く。

 バアルギルディは改めて口を開く。

 

「私はどんな手段であれ、属性力を奪うためなら寛容しよう。だが、昨日のグラシャラボラスギルディの暴れ方、あれは認めることはできん」

 

「……」

 

「信念も理性もなにもなく、ただ本能のままに暴れてはそれは獣でしかない。彼はそんな奴ではなかった。大人しさの中に誰よりも強い信念を持っていた。彼がそうなったのも君が実験と称して何かをしたと私の勘が告げている」

 

「……」

 

「確かに君に皆を導いて欲しいとは言ったが、あんな風にしろとは言ってはいない。我々は仲間だ、友だ。決して君の実験材料なんかじゃない」

 

「……なるほど理解した。で、話はそれだけか?」

 

「なッ……!?」

 

 遂に開かれたベリアルギルディの口から発せられた言葉はバアルギルディの顔を驚愕と怒りに染め上げる。

 歯牙にもかけないベリアルギルディの言い方は温厚な筈のバアルギルディをも怒らせるのには十分であった。

 

「君はあの日、誓ったはずだ!! アルティメギルが崩壊したことで不安に駆られる同胞を救うために第二のアルティメギルを私たちが率先して作ると!!」

 

「それを達成するにはツインテイルズを含めた数多くのツインテール戦士を倒し、オレ達の力を散り散りになった残党に見せつける必要があると言ったはずだが? 確かにグラシャラボラスギルディがああなったのはオレが原因だ。だがそれはアルティデビルを第二のアルティメギルとする為に必要な尊い犠牲なんだよ」

 

 根が科学者であるベリアルギルディの発言は至って合理的だ。

 発展の為に何かを犠牲にするのはこれまでの発展を重ねてきた人類が物語っている。動物に植物、そして多くの罪のない人の命が積み重なって今があるのだ。

 

「確かに君の言うことは正しい。だが……!! 私は我慢できん!!」

 

 バアルギルディとて馬鹿じゃない。ベリアルギルディの言い分も理解している。

 しかし、彼はツンデレを愛するエレメリアン。言葉ではわかっていても体は言うことが効かなくなるのであった。

 言葉で言い表せぬ感情に支配されるバアルギルディを見て、ベリアルギルディは諦めるかのようにため息をつく。

 

「わかったよ……。魔神の吐息(デモン・ブレス)の使用は今後控え、暴走しないように調整し直そう。それでいいんだろ?」

 

「ああ……頼む」

 

 理解してくれたのかと安堵するバアルギルディは、これ以上いても邪魔になるかもしれないので部屋を後にしようとする。

 そんなバアルギルディは去り際にふと思っている事を口にした。

 

「ベリアルギルディ。最後に一ついいか? 君の言う、その魔神の吐息(デモン・ブレス)とやらがツインテイルズなどに勝つために必要な君が求めていたものなのか?」

 

「グラシャラボラスギルディにも言ったが、魔神の吐息(デモン・ブレス)ではない。オレが探していた物はもっと別の物だ。もっとも……力を急激に高めるといった点は同じだがな」

 

「別の物……? 力を高める? それは一体……?」

 

「ふぅん、それについてはまた後で話してやる。また後でな……」

 

「そうか、わかった。今日は邪魔をしてすまなかったな」

 

 ベリアルギルディの含みのある笑みを背にバアルギルディは静かに部屋を後にし、ふと思う。

 

(テイルバイオレット、まさかとは思うが君はグラシャラボラスギルディにやられてしまったのか?)

 

 バアルギルディが現場に到着した時、既にテイルバイオレットはやられて少し後だった為に直接その目で敗北を確認したわけではない。

 だがバアルギルディは持ち前の優れた勘で敗北を感じ取っていたのだ。

 

(もし、そうだとするのならば昔の私ならば失意の底に沈んでいただろう。だが今の私は違う。君が再び立ち上がるのを私は信じているぞ)

 

 

 

 

 和輝が目覚めた日から一日経ち、次の日が来た。

 昨日までの事もあり、疲れていたのかいつもよりかなり遅い午前10時前に起きてしまった私は真っ先に洗面所に向かうとツインテールを結び、出かける準備を整える。

 

「これでよしっ」

 

 左右のバランスが完璧に調和した私のツインテールが鏡に映る。

 出かける準備を終えた私は正樹さんが作ってくれていた朝ごはんのベーコンエッグをトーストと一緒に口に放り込み、急いで食べ終える。

 面会は11時からで病院まで徒歩で40分くらいはかかってしまうから今から行けば丁度いい時間だと思う。

 私は店内でコーヒーを淹れている正樹さんに行ってきますを言ってから病院へ急ぐ。

 

「和輝、起きてるかな」

 

 病院までの道のりでふと考える。

 やっぱり病院だし規則正しい生活をしているのかな? でも診察は午後かららしいし、朝が苦手な和輝ならまだ寝ていてもなんら不思議じゃない。

 その時は起こさなくちゃねと決意する私の脳裏に昨日の帰り際の出来事が蘇った。

 

 昨日の帰り際、和輝は何かに酷く怯えている風に見えた。あの時、いつもと大きく様子が違ったからすぐに気が付いたけど結局、言い出せなかった。

 意識が戻っていない時の和輝の表情がうなされているように見えた事といい、何か和輝がとても苦しんでいる。そんな予感がする。

 

「涼原さんの面会ですね?」

 

「はい」

 

 病院についた私は面会の手続きを済ませ、和輝がいる病室へ足を運ぶ。

 病室のドアをノックしても返事がこない。まさかと思い、ドアを開け、ベットを見るとだらしい寝相で爆睡している和輝がいた。

 そんな気がしていたと呆れながらカーテンを全開にし部屋のドアを閉める。

 

「全く……何時だと思っているの!! 早く起きなさーい!!」

 

 他の患者さんの迷惑にならないように和輝の耳元で声をだす。

 少々手荒すぎるかもしれないけど、こんな時間になってもまだ寝てる和輝が悪い。

 

「うっせーな!! 何しやがる!!」

 

 飛び起きた和輝の様子を見るにもうほとんど怪我の具合は大丈夫みたい。

 一時はどうなるかと思って不安だったけど一安心。これなら多分、直ぐに退院できるかもね。

 

「こんないい天気なんだから早く起きなさいって言ってるの」

 

「だからって強制的に起こす奴がいるか馬鹿」

 

 カーテンを開いたことで差し込まれる日差しが眩しいのかシーツを陰に隠れる和輝が文句を垂れる。

 実は今日、私も寝坊していたことは和輝には秘密。

 

「テスト平均点以下の和輝にだけは馬鹿って言われたくないわよ。次に馬鹿って言ったらもう見舞いに来てあげないんだから」

 

「へぇ、じゃあお前のことをツインテール馬鹿って言ったら?」

 

「それは許す」

 

「ぷっ、なんだそれ」

 

 それから和輝と二人きりで言葉を交わしていく。

 遊園地でもそうだったけど、いざ二人きりでいざ話をするとなると丁度いい話題が中々見つからず、上手く話が続かない。

 昨日の様子からして、もしかして和輝はエレメリアンに恐怖を抱いているかもしれない。そう考えるとエレメリアン関係の話題は絶対に逸らすべきよね。

 エレメリアン関連の話題を避けながら会話を続けていく。初めは今日もいい天気だねレベルの他愛もない世間話だったけど、いつの間にか話題はツインテールについて話していた。

 

「ねぇ和輝、やっぱり私たちってツインテールの持つ力をまだほんのこれっぽちしか出せていないと思うの」

 

「ティアナってツインテール関連の話をする時意味わかんねぇ事いいだすよな」

 

「そ、そう?」

 

 ツインテールに関する話題なら和輝と話が合うと思っていたら甘かった。和輝の顔は驚きを通り越して少し引いている。

 思わずこんなのじゃ駄目だと落ち込んでしまう。

 ツインテールは大好きだし、ツインテールについて沢山語りたい。でも和輝に変に思われて嫌われたくはない。この二つの気持ちがせめぎ合う。

 相手と自分、二つのバランスが同じなのはツインテールも恋も同じなのに、やっぱり恋は難しい。

 

「じゃ、じゃあ――」

 

 何とか他の話を考え思いついた時だった。

 ポケットに入れているエレメリアン探知のレーダーからブザー音が聞こえてくる。

 手に取り場所を確認。どうやらここからそう遠くない場所のようね。

 

「和輝……っ!?」

 

 いつもの癖で和輝に呼びかけようとした時、和輝の様子がおかしい事に気が付いた。

 

「はぁ……はぁ……!!」

 

 呼吸がどんどん荒くなり、体が震えだしている。 

 やっぱり、これは間違いない。先日の出来事を経て和輝はエレメリアンに恐怖を覚えている。

 つまり和輝は戦うことができない。

 

 一先ず、エレメリアンは華先生に連絡を取り対処をまかせる事にするけど……

 

「うあああああ!!」

 

「和輝、しっかりして!! 和輝!!」

 

 恐怖で震えあがる和輝を前に私は何も出来ない。

 それが悔しかった。




和輝って結構、豆腐メンタルだなと書いてて思います。
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