俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第45話 ティアナの決意

『もしもし、橘さん? 今さっき出現したエレメリアンはやっつけたわよ』

 

 エレメリアン出現を受けた華先生が倒しに向かってから程なくして、私のスマホに着信が入った。病室からでた着信を受け取った私の耳に入ってきたのは撃破したとの声だった。

 

「そうですか。華先生、ありがとうございます」

 

『いいのよ。これも先生のやるべき事なのだから』

 

 やっぱり、華先生は強い。

 エレメリアン出現からまだ5分も経っていないのがその証拠。移動時間を抜いて戦闘時間のみなら多分、2分程度かもしれない。

 

『今回のエレメリアンはグラシャラボラスギルディとは違ったわ。魔神の吐息(デモン・ブレス)というのも使っては来なかったし……』

 

 今回出現したエレメリアンはグラシャラボラスギルディとは違ったみたい。

 正直、いくら先生が強いと言っても暴走状態のグラシャラボラスギルディを倒せるかはかなり難しいと思う。

 それくらいにはあのグラシャラボラスギルディは強かった。いや、あのエレメリアンの力じゃない。グラシャラボラスギルディが使った道具(アイテム)魔神の吐息(デモン・ブレス)がもたらす力は途轍もないものだった。

 

『ねぇ、涼原君の具合はどうなの? さっきの連絡からしてかなり危ないみたいだけど』

 

 ある程度の事情を察している華先生が和輝の状態を気になるのは当然の事よね。

 私はドアの隙間からベット上の和輝の様子をこっそり伺う。和輝はシーツにくるまり横になっていた。

 

「今は落ち着いています。でも、当分の間は華先生に任せるしかないと思います」

 

『……そう。なら伝えておいてくれるかしら? 涼原君に今はしっかりと休むように、その間は先生一人で頑張っちゃうってね』

 

「はい……。色々ありがとうございます」

 

 華先生との通話を終え病室内に戻ろうとした際、スマホの画面に反射する私の顔が誰が見てもすぐにわかるくらいには暗く沈んだ物になっていた。

 私まで暗いんじゃ駄目と感じたこともあり、両頬を叩いてシャキッと気持ちを切り替えドアを開く。

 

「ねぇ和輝――」

 

「華先生、もう倒しちまったのかよ……」

 

「う、うん」

 

 私が病室内に戻って来るなり、和輝は上半身を起こして私が言い終える前に割り込んで尋ねてきた。

 当たり前だけど和輝は数分前までの雰囲気とは打って変わって暗い。和輝の性格からして本当の事を言ってもより自分を責めて暗くなるのはわかっていたけど、嘘をつく理由にはならなかった。

 

「やっぱり……先生はすげぇよ。俺なんかとは全然違ぇ……」

 

「和輝……」

 

「ティアナ、俺はもう駄目かもしれねぇ。見ての通り、俺は奴ら(エレメリアン)が怖くて怖くて仕方ねぇんだ」

 

 グラシャラボラスギルディに敗北したことが和輝にとって大きなトラウマになっている。それくらいには怖かったんだと思う。甘く見ていた敵の突然の変貌と死の恐怖が。

 今までどんな強敵を前にしても立ち向かっていた勇気は微塵も感じなくなっていた。

 

「もう俺は戦えない……一緒にいても足手まといだ」

 

「そ、そんなことは……!! 」

 

 ここで私がそれを肯定したらもう和輝は立ち上がれない。

 そう感じた私は全力でそれを否定しようと試みた。けどそれは逆効果だった。

 

「そんなことあるもんかよ!! どうせ俺なんか今までただ運が良かっただけなんだよ!! フェネクスギルディの時だって、プルソンギルディの時だって、俺は一人じゃただやられるだけだった。こんな俺がいてもみんなの属性力どころか……お前までも守れねぇ……」

 

 和輝の奥底に今までずっと眠っていたコンプレックス含めて全てが爆発した。

 私が思っている以上に和輝は深刻な状態だった。

 

「今日、改めてわかったぜ。俺は戦う勇気すらもてないクソダセェ臆病者だってな……」

 

 どう声をかけてあげればわからない。

 こういう時、どうやって励ましてあげればいいのかがわからない。

 

「ごめん……。もう帰ってくれ……」

 

「和輝……」

 

 私がいてもどうしてあげることも出来ない。悔しいけど、このままいても和輝はもっと自分を責めて苦しむだけ。

 私は和輝の言う通り、病室をでた。

 

(こういう時、どうすればいいの? どうすれば和輝の力になれるの……!?)

 

 病室を出た私はただ立ち尽くすしかなかった。

 

 

 

 

(俺は……何が出来んだよ……。俺は……何がしてぇんだよ……。ティアナに迷惑ばっかかけておいて、恐怖を感じ、戦えなくなったのも俺のせいなのによ……)

 

 夢の中、俺は昨日の出来事を振り返っていた。

 昨日、折角ティアナが昼間っから見舞いに来てくれたっていうのに、俺はあいつの優しさを無視して追い出しちまった。

 

 原因は全て俺にある。

 ティアナが来てから少しした時、エレメリアンが近くに出現しそれを知らせるブザー音がなったその時だった。

 俺の脳裏に先日のグラシャラボラスギルディの時のことが蘇ってきやがったんだ。途端、俺の体はどうしよもない恐怖心に包まれた。

 全身のいたる所に寒気が走り、震えという震えが止まらなくなる。動悸が激しくなり、呼吸が荒れ始める。

 怖い。怖くて怖くてたまらない。

 もし、出現したエレメリアンがグラシャラボラスギルディだったら……

 もし、出現したエレメリアンが魔神の吐息(デモン・ブレス)を使い、強くなってしまったら……

 そしてもし、その戦いで俺自身の命を落としてしまったら……

 

 そう思うと俺は動くことが出来なかった。

 ティアナの前で恥ずかしかった。情けなかった。みっともなかった。

 でも俺は動けなかった。勇気が出なかった。

 戦う勇気が……立ち向かう勇気が……

 

 

 

 

 

「先輩!! これってもしかしなくてももしかするんじゃないっすか!?」

 

「もう……騒がない……。こういう時は焦らず冷静に……」

 

 たっく……一体誰だよ? うるせぇな……!!

 夢の中で自問自答を繰り返す俺の耳に外の声が聞こえてきた。

 昨日の診察結果から退院は明後日、つまり明日になると決まったからまだここは病室のはずだ。個室だから静かなはずなのに何やら凄く騒がしい。もしかしたら昨日のティアナみたいに見舞いで誰か来てるっていうのか?

 

「うぅん……たっく誰だよ……」

 

 ベットから身を起こし、病室内の状況を確かめる。

 まだはっきりと覚醒しきれていない俺の目に飛び込んできたのは色々と酷い物だった。

 

 病室の角にある小さなテーブルの上に置かれたノートパソコン。その画面にはアニメ調の可愛らしい女の子が写っている。

 そこまではまだいい。だがそこから先が色々と問題だ。女の子の全身が肌色一色のかなり危ない姿をしてやがる。さらに駄目押しとばかりに本来は見てはいけない筈の部分が露わになり、白いカルピスのような何かのおまけつき。

 もうわかるだろう。つまる所、エロゲーで一番大事な〇〇シーンが起きたばかりの俺の目に飛び込んできやがった。

 処女属性(バージン)のヴィネギルディが発狂し兼ねない光景だ。

 

「んな所で何してんだ!! てめぇら!!」

 

 イヤホンを耳につけたままパソコンの画面にかじりつく匠と黙々とマウスを操作する青葉さんの二人に怒鳴りつける。

 悠香さん無しにこんな所で何やってんだよ。

 

「おっ、やっと起きたじゃん。元気そうでけっこーけっこー」

 

「おはよう……和輝君……」

 

「あ、おはようございます……じゃねぇよ!! 何やってんだよ!! こんな所でよ!! てかもう2時じゃねぇか!!」

 

 時計に表示された時刻はぴったり1時55分。流石に寝すぎたと少しばかり後悔する。

 

「何って、ゲームに決まってんじゃん。そうっすよね? 青葉先輩?」

 

「うん……普通のエロゲー」

 

 病室内でゲームを絶対にしてはいけない決まりはない。手術に怯え不安がっている子供を勇気づける為にゲームをプレゼントする医者だってこの世にはいるかもしれねぇしな。

 だが、それは飽くまで健全な全年齢対象のゲームに限られるってもんだ。誰が病室でエロゲーしていいと言ったよ。いるならぶん殴ってやる。

 

「普通もクソもへったくれもあるかっつーの!! エロを抜けエロを!!」

 

 あっけらかんと言ってのけた匠と青葉さんに怒りが沸々と湧いてくる。

 俺はまだ治りきっていない体を強引に起こし、大声で怒鳴りつけた。すると匠の奴が口元に指をあてる静かにしろのジェスチャーをかましてきやがる。

 

「おい馬鹿!! 静かにしろよ。折角、迷惑にならないようにイヤホンしてんのによー」

 

「うんうん……匠君の言う通り。病院内はお静かに……」

 

 匠はいつものことだと置いておくとして、青葉さん、あんたははっ倒すぞ。マジで。

 

「イヤホンしてるから大丈夫……じゃねぇんだよ!!」

 

 匠の耳からイヤホンを分捕り、耳に当ててみると聞いてるこっちが恥ずかしくなっちまうくらいのいやらしい声が聞こえてきやがる。

 声優さんの演技があまりにも迫真すぎるんだ、これが。

 

「ばっか野郎が!! はよやめろっつってんだよ!!」

 

 あまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にした状態でパソコンの電源ボタンを力一杯押し込む。

 結果、画面が何も映っていない真っ黒に染まり、匠と青葉さんの顔が残念そうに歪む。

 多分、このパソコンが青葉さんの私物だと思うのでこれで済ましてやる、これがもし匠の私物だったのなら俺は容赦なく破壊しているだろうぜ。

 

「こっからすげーいい展開だっていうのになー」

 

「ほんとだよ……」

 

「あのなぁ、おまえら……!!」

 

 未練がましくジト目で睨む青葉さんと笑顔でおちゃらける匠にもう一発怒鳴ろうとした時だった。病室のドアが勢いよく開けられ、元気のいい声が聞こえてくる。

 

「おっはよ~和くん~!! 元気~?」

 

 いつも通りお馴染みの活気のいいポニーテールを揺らす悠香さんが部屋に入ってきた。

 そういや、匠はともかく青葉さんがいるのに悠香が来てないわけないよなと納得してしまう。

 

「まぁ、元気っちゃ元気ですよ。一応はですけど……」

 

「そう、ならよかったわ」

 

 悠香さんにこう言ってしまってはいるが、肉体的には元気でも精神的には元気とは到底言えない。

 臆病な自分を必死に隠そうとしているだけにすぎないんだ。

 悟られてはいけない。そう思っていても顔や態度に薄っすらと出てしまう。匠くらいなら誤魔化せるかもしれないが、悠香さんは無理だろうな。多分、バレてる。

 またしても暗くなりかけた時、再びドアはガラリと開き、身長120台の小さな女の子が上結びのツインテールをぷりぷりと揺らしながら入ってきた。

 

「やっと追いついたですよ、兄さん!!」

 

「げげッ!! 美希じゃねーか!! どうしてここに!?」

 

「お母さんが用意してくれた見舞いの品物を持って行かないからです!! お見舞いに手ぶらだなんて、いつもお世話になっている和輝さんに失礼です!!」

 

 そう言うと美希ちゃんは手提げかばんから土産の売店で人気の焼き菓子を取り出し、ベットの上に置いてくれた。

 わざわざお見舞いの品を持ってきてくれたのは嬉しいけど、別になくても俺は全然かまわないんだがな……

 

「別にいいじゃんかよーー。ほら、こういうのって気持ちが大事っていうだろーーー!!」

 

「駄目です!! 日頃お世話になっているんですから、こういう時ぐらいちゃんとするんです!!」

 

 身長差40cmもある小さい妹からガミガミ怒られている匠は哀愁が漂い過ぎている。

 別にそこまで怒らなくてもいいじゃんと匠の助け舟を出してやりたいが、美希ちゃんの迫力があまりにも強烈すぎて口を挟むことが出来ない。

 

「まさかたっくんにこんな立派な妹さんがいたとはね……」

 

「だらしないお兄ちゃんを叱りつけるしっかり者の妹……いい……」

 

「あれ? もしかして青ちゃん、妹好きだったりする?」

 

 無言でサムズアップを返す青葉さん。美希ちゃんを見る目からストーカー特有のヤバそうな雰囲気を纏っているような気がしてならない。

 

「ちょっと待つです!! これはなんなのですか!! こんな破廉恥なゲームを病院に持ってくるなんてどうかしてるです!! そもそもこれは未成年の兄さんが触れていい物じゃないですよ!!」

 

「いや、それは青葉先輩が……お見舞いにって……」  

 

「問答無用です!! いいですか!! 人のせいにするなんて人として最低な行為です!!」

 

 エロゲーのパッケージを取り上げられ問い詰められた匠は今回の主犯をサラッと暴露するが、美希ちゃんには効果がまるでなく、寧ろ逆効果のようだ。

 少し理不尽な気もするが、エロゲーをこんな所でプレイしていやがったので同情はしない。

 思う存分こらしめてやってくれと心の中でエールを送った。

 

「大体、兄さんはですね――」

 

「もう許してくれよ~~~!!」

 

 それから数十分間、美希ちゃんのお説教は続き、それらが終わった頃にはもうすぐ診察が控えていることもあり面会時間は終了、悠香さんと青葉さんと美希ちゃん、あと匠は病室から出て行くのであった。

 

「お騒がせしましたです。ほら行くですよ、兄さん」

 

「美希~~」

 

「じゃあね~和くん~」

 

「それ置いておくから……」

 

 出て行くとき匠の奴が美希ちゃんにずるずる引きずられていたのがすげぇ印象的だった。

 

「てか置いてくなっつーの……」

 

 俺の手元には美希ちゃんが持ってきてくれた焼き菓子と青葉さんが持ってきたエロゲーとノートパソコンが残されていた。

 

 

 

 

 和輝が入院している病院から出て、徒歩5分も満たない距離にある小さな公園。

 今日は土曜日ということもあってか、公園内は汗まみれになりながら元気よく走り回る子供で溢れかえっている。

 そんな中、面会を終えた4人の内、遊具で子供たちと戯れている美希を除いた他3人は各々ベンチに座るなどして和輝の様子について振り返っていた。

 

「意外とあいつ何ともなさそうっすね。ティアナちゃんが言うもんだからどんなものかと思っちまったっすけど」

 

「何ともないならそれでいいんだけどね……」

 

 エレメリアン関係では部外者である美希を除く3人は昨日までの出来事を既に知っていた。

 和輝がグラシャラボラスギルディに敗北し、その結果、戦うことに多大な恐怖を感じるようになってしまった事を。

 今回の見舞いは電話越しで事情を聴いた悠香がとりあえず様子を見てみようと提案したものだった。

 

「あたしの見立てだと和くんが負ったトラウマはかなり深いと思うわ。それもかなりの物よ」

 

「まぁ、しゃーねっすよね。あいつ、死にかけた訳ですし……」

 

「死の恐怖……か……」

 

「それもあると思うけど、やっぱり、今まで何とかなっていたのがならなかったというのも大きいと思うわ。今まで本当にヤバいとき唯乃ちゃんや華先生に助けられていたけど、今回は誰も助けもなかったから自分自身の力不足を痛感しすぎているのかもね。前からそうだったけど和くん、結構打たれ弱い部分があるし」

 

 和輝は本当に辛いことがあると一人で抱え込む性格である。

 その性格が今回の遠因にもなっていたことを悠香は見抜いていた。

 

「結局、僕らは見守るだけ……。後はティアナちゃんに任せるしかないね……」

 

「そうね青ちゃん。あの二人にとってこれを乗り越えることが出来れば、きっともっと成長できる気がする。だから今は信じるしかないわね」

 

「あいつらにとって今回の出来事は大きな壁って訳っすか……」

 

 ここにいる皆、気持ちは同じだ。

 友が苦しんでいるなら支えてあげてやりたい。だが、今回の件は和輝一人の問題ではないと感じていた。

 これから和輝はもっと多くの壁にぶつかっていく。そんな時、和輝を一番に支えるのはここにいる三人ではない。それは和輝を密かに想っているティアナの役目なのだと。

 基本的には干渉せずに見守るのは、ここにいる三人が和輝とティアナ、互いに惹かれているのを知っているが故であった。

 

「そういうことよ」

 

「皆さんーー!! 何話してるんですー?」

 

 子供たちと遊具で遊んでいた美希が三人の元へ帰ってくるなり何を話していたのかを聞いてきた。美希はテイルバイオレットの正体を知らない一般人であるため無理はない。

 

「何でもねーよ。お子様はあっちいってろよ。俺らは大人な会話をしてんのよ」

 

「心外です!! 兄さんだけにはお子様呼ばわりされたくないです!!」

 

「確かにね。たっくんに言う権利ないわ」

 

「……うん」

 

「先輩方!? そりゃあないっすよーー!?」

 

 うんうんと頷いてくれた二人の先輩女子にご満悦な美希とは逆に匠は嘆きの声を上げるのであった。

 

 

 

 

『さっき見てきたけど和くんは多分大丈夫よ。いつもの和くんだったわ』

 

「ありがとうございます……」

 

『あたしたちのやれることはもうないし、後はティアちゃんに任せるわ。和くんの事頼んだわよ』

 

 和輝のお見舞いに行くついでにその様子を見てきてほしいと悠香さんに頼んでいた結果が返ってきた。

 昨日のように自分を責めて苦しんでいないか不安だったけど、大丈夫だったみたい。

 そこは一安心。でも……

 

「私は何をしてあげればいいんだろ……」

 

 通話を終えた私は昨日と同じく立ち尽くしていた。

 悠香さんに任せると言われた手前、こういう時はやっぱり私が何とかしてあげないといけないんだけど、何をしてあげればいいのかわからない。

 以前もこれに似たような事があったのを思い出す。

 和輝がテイルバイオレットとして戦い始めてまだ間もない時、私はただ見ているだけで何か出来ないのかと焦っていた。

 あの時は謎の声が私に何をすれば教えてくれたけど、あの時以来、あの声は聞こえてこない。

 

「和輝……」

 

 アラームクロックのランチタイムが終わり、手伝いから解放された私の足は自然と和輝がいる病院に向かっていた。

 いつの間にか目の前に見える大きな病院。あともう少しで和輝がいる病室に辿り着ける。でも、足は病院の入口で止まってしまった。

 理由はわかってる。このまま行っても和輝をまた苦しめるだけと心の中で理解しているから。

 

「おや? あんたはあんときの……」

 

 どうしようかと入口で右往左往している私は病院から出てきた快活そうなおばあちゃんと目が合った。

 

「あの時のおばあちゃん……!!」

 

 このおばあちゃんのことははっきりと覚えている。グレモリーギルディの策略で和輝と大喧嘩している時に出会い、私に恋をしていることを教えて仲直りする要因を作ってくれた。

 

「久しぶりだねぇ。どうだい仲直りは上手くいったのかい?」

 

「う、うん。あの時はありがとうございました」

 

「そりゃあ良かったよ。でも、また酷い顔だよあんた。どうだいまた話の一つや二つでも聞いてやろうあかい?」

 

 相変わらず、このおばあちゃんは和輝とよく似て口が悪い。けど、何だか凄く暖かい。

 私はおばあちゃんの提案を飲み、おばあちゃんに連れられる形で病院からでてすぐの公園にあるベンチに腰掛ける。

 

「どっこいしょ。全く……世話の焼かせる孫だよ。折角、着替え持ってってやったのに、パソコンに夢中になってて全然気づきゃしないんだから」

 

「へぇ、お孫さんも入院しているんだ……」

 

「あんな馬鹿にはいい薬だよ。まぁ、でもこうやってあんたとまた会えて嬉しいから結果オーライって奴だよ。で、本題に入るけどあんた何を悩んでんだい?」

 

 おばあちゃんは本題である私の悩みについて尋ねてきた。

 私は暗い気持ちを押し殺し、静かに口を開く。

 

「前に喧嘩してた男の子が今、とても苦しんでいるんです。こういうの心に負ったトラウマって言うのかな……。そのせいで今まで何事もなくできていた事が出来なくなっちゃっていて……。しかもその事で自分の事を責めて……」

 

「なるほどね。あんたはその子に何がしてあげればいいのかって悩んでるわけだ」

 

「う、うん……」

 

 まだ全部言った訳でもないのに、おばあちゃんはずばり私の悩みを言い当て、そしてゆっくりと力強く悩みに対しての回答をくれる。

 

「別に特別何かをしてあげれなくてもいいんだよ」

 

 その答えに私はあっけにとられた。

 何もしなくていい? そう言ったの? このおばあちゃんは?

 私が求めていた答えとはまるで違う為に驚いているとおばあちゃんはその意味を教えてくれる。

 

「いいかい? 好きな子がもし悩み苦しんでいるならね。特別何かをしてやる必要なんてないんだよ。大事なのはただ傍にいてあげる事。どんなに拒否されても傍にいてあげることが大事なんだ」

 

「ただ傍にいてあげること……。で、でも、おばあちゃん。そっとしておくのも大事だって……」

 

 納得した直後、私の脳裏に以前このおばあちゃんくれたアドバイスが蘇ってきた。

 以前とはまるで正反対の助言。何がどう違うんだろう。

 

「そうだね。確かに男っていう生き物は時には一人そっとしておくのも大事さ。でもね、時には傍にいてあげることも大事なんだよ。男っていうのは本当に辛いときは誰かが傍にいてやらなくちゃいけないもんなのさ」

 

 要するにそっとしておくのと傍にいてあげることは使い分けってことなのかな?

 ツインテールで例えると結び目を上にするか下にするかはその日の気分や状況に応じて変えるのと同じってことかな? 流石にちょっとちがうかな?

 何度も思うけど、恋をするってやっぱり難しい。

 

「こんなに言っちまったけどね。まっ、結局大事なのはハート(ここ)だよ。どれだけその子を想ってやれるかなのさ」

 

 自分の胸を親指で指指すおばあちゃんからは本来の年齢をまるで感じさせない元気さに溢れていた。その姿をみていると不思議と元気が湧いてくる。

 ありがとうございますと感謝を述べる私の顔にもう暗さなんて微塵もない。鏡を見なくてもそれがわかる。だって私のツインテールが喜んでいるのがわかるんだもの。

 憑き物が落ち晴れやかな私の顔を見たおばあちゃんは満足そうな笑みを浮かべ、シャキッとベンチから立ち上がる。

 

「大丈夫さ。あんたの好きな子はそんなやわじゃない。きっと立ち上がる。あたしにはわかるよ」

 

「うん……!!」

 

 立ち去ろうと公園の出口に向かうおばあちゃんは以前と同じように思い出したかのように振り返った。

 

「帰る前に最後に一つアドバイスをやるよ。いいかい? もし、それでもその子に何かしてあげたいと思うのならその子が喜ぶようなことをしてあげればいいのさ。それは別に何でもいいんだよ。大事なのは……」

 

ハート(ここ)でしょ?」

 

 おばあちゃんが言い終える前に私は自分の胸を指をさす。

 それを見たおばあちゃんはにっこり笑い、サムズアップ。そして風のように去ってしまった。

 

「ありがとう。おばあちゃん」

 

 何か悩むたびに助言をくれるあのおばあちゃんには一体何度、お礼を言えばわからない。あのおばあちゃんのおかげで私はようやく答えを見つけることができた。

 機会があればあのおばあちゃんのお孫さんがどんな人なのか見てみたい。何だか、和輝とよく似ているような気がする。

 

 決意を新たにした私は病院へと足を急がせる。

 どんなことがあっても、どんなに拒否されても、私は和輝が苦しんでいるのなら傍にいてあげる。そう決めたんだから。




私自身、おばあちゃん子なのもあって、重要な場面で出番が多かったりします。
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