俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
意識して書き始めたつもりじゃないんですけど。
終業式を明日に控えた一学期最後の日、テスト休みが明けた俺と匠を待っていたのテストの返却もこれで最後。
去年までならどうせ赤点だろうと諦めを通り越し、虚無の感情を持つに至る俺たちだったが、今回は違う。
授業終了のチャイムが鳴り、先生が教室から出て行くとニヤニヤとした笑顔を浮かべた匠がやって来る。
「で? どうだった?」
「フッフッフ……!! じゃじゃーん!! 34点だぜー!!」
答案用紙に書かれた34点の文字を見た瞬間、心の中で勝ちを確信する。
だが、ここで直ぐ喜んでも面白くない。少し勿体ぶってやる。
「ふーん……なるほどなぁ」
「おいおい、早く見せろよ。あっ、もしかして赤点でも取ったか―? ええ?」
「けっ、な訳ねぇだろ!! 喰らえおらぁ!!」
「な、なにー!? 38点だー!?」
「しゃあっ!! 俺の勝ちぃ!!」
今回は事前に堀井がこのままでは留年の可能性があると釘を刺されていたので、ティアナの手助けを借りてしっかりと勉強に励んでいたのが功を奏し、点数を競い合う余裕まで持てた。
まぁ、一日目の数学でサイコロ鉛筆に頼る事になるアクシデントこそあったが、結果としてそれがそれ以降のテストはそうはなるまいと気合を入れ直すことに繋がったし、事情を察した華先生の温情で数学も赤点回避できたし、結果オーライという奴だぜ。
「もう、レベルが低いんだから……。あれだけやって結局、赤点ギリギリじゃない」
「喜んでるとこに水差すんじゃねぇよ。別にいいじゃねぇか……」
34点と38点、傍から見ればどこに喜ぶ要素があるのか全く理解できない赤点ギリギリの低い点数で一喜一憂しあう俺たち二人にティアナは呆れて苦言を呈してきた。
俺達からすればこのテスト結果により、高校入学以来初の全科目赤点回避したことになるんだし、少しばかり興奮しても別に悪くはないだろと思ってしまう。
「そういや、匠よ。負け越した方は何でも言うこと聞くんだったよなぁ?」
「げっ!? それは……」
途端、黙り込み青ざめる匠。
今回テスト、テスト結果の勝ち数を争っていたのを忘れてもらっちゃ困るぜ。昨日までの時点でまさかの同数だったがこれで終わりだ。
「今日は確かお前バイトだったよな? だったら明日から一週間、毎日梅屋のラーメン奢れよな」
「嘘だろ~!? 明日、ヒカリちゃんの新曲がでるっていうのにそれはないぜ」
「何言ってんだ。言い出しっぺはお前だろが」
「それもそうだけど……」
「ふーん、じゃあ私もお言葉に甘えようかな~」
「ええ!? それは流石に……」
今月ピンチだからと不服そうに声を漏らす匠なんぞに俺もティアナも一切気にしない。
何故なら今回の功績者は勉強を教えてくれたティアナ何だし、一緒に奢るのが筋ってもんだぜ。てか、負けた奴がいつまでもグチグチ言うんじゃねぇ。
「そういや、ティアナの点数はいくつだよ? 確か合計点は学年トップだったんだろ?」
ヒカリちゃんごめんと涙を浮かべ天井を仰ぐ匠を放置し、ティアナに点数を聞いてみた。
ティアナは成績上位者なので掲示板に順位と名前が張り出されたが、正確な点数は記載されていないので少し気になった。
成績上位者のテスト結果を尋ねるなんて、今までで初めての経験だ。
「はい、どうぞ」
「何々……って、100点じゃねぇか!!」
ある程度予想着いてはいたが、それでもやっぱりすげぇ。丸がこんなにも多い答案用紙を見るなんて小学生の頃以来だぜ。
てかティアナって、普段どうせ考えていることなんてツインテールばっかりの癖にどうしてこんなに勉強できんだよ。
俺がティアナの答案用紙を見て目を丸くしているそんな時だった。
ティアナのポケットに仕込まれたエレメリアン探知用のレーダーがマナーモードと言うこともあってか音もなく激しく震えだしていた。
「和輝。エレメリアンが出たわ」
「だと思ったぜ。たっく……」
「それもかなり強い反応よ」
「てことはまたは
先日のグラシャラボラスギルディ戦が頭に過る。
ティアナのおかげもあって何とかトラウマは乗り越えることが出来たが、
「とりあえず早く行きましょ。別に相手が
「まぁ……そうだよな。とりあえず当たって砕けろだ。おい匠、堀井の奴には適当に誤魔化しておいてくれ」
砕けちゃ駄目でしょと苦笑いを浮かべるティアナ、俺はとりあえず、次の授業の担当である堀井を誤魔化すように匠に頼む。別に学校を途中で抜け出すなどいつもの事だけど、堀井にはテストで釘指されていたこともあって何かと面倒だ。
すると匠の奴、さっき決まったラーメンの件をチャラにしてくれたら聞いてやると言い出しやがった。
まぁ別に半分冗談だったわけだし、それに応じてから俺とティアナは教室から出て行った。
「おはよう、みんな!! テストはどうだった? 特に涼原と川本……って涼原は何処行ったんだー!!」
和輝とティアナの二人が教室から抜け出してから数分後、チャイムが鳴ると同時に堀井が教室内に入ってきた。
「いや~っすね~。あの二人は……」
「ん、二人? あっ!? 橘もいないじゃないか!! どうなってるんだ川本!!」
「あ、やっべ……!?」
和輝とティアナがいないことに気づいた堀井を匠が誤魔化そうとしている最中、和輝を嫌う男子は嫉妬の表情を浮かべ、ティアナと仲が良い女子はあらぬ想像を膨らませ興奮し始める。
何も知らぬ者からすれば今日もまた平和なのである。
◇
人気のない採石場のど真ん中に仁王立ちしていたのは、裸の上に季節外れの白いファーコートに身を包む変態ファッションが目立つ、舞踏会でつける仮面を被ったエレメリアン。
威風堂々と全開されている胸元から見える地肌は相当鍛えているんだろうと察せられる程にムキムキ且つ、夏の日差しに当たってテカテカと光っていて、そっちの方向を連想させる。
故散臭い仮面といい、変態仮面と呼ぶに相応しい。どうせこいつも性癖拗らせた変態なんだし別に間違いじゃないだろ。
採石場中央から少し離れた大きな岩陰にティアナを待機させた俺は変身してエレメリアンと向かい合う。
すると仮面のエレメリアンは聞き覚えのある声を高らかに張り上げた。
「待ちかねたぞ!! 我が愛しき宿敵、テイルバイオレットよ!!」
「ん……? この声にこの喋り方……てめぇまさか……?」
「フッ……、やはりわかってしまったか、そう!! 私の名前はバアルギルディ!! この新たなる形態は君のおかげで得ることが出来た。その名も
以前の異形感丸出しの姿から一転して人を模したと姿となったバアルギルディ。
心なしか、姿だけじゃなく性格も変化しているような気がする。前までのバアルギルディってもっとこう……何というか強そうだったと言うか……
『そう言えば新しいバアルギルディを見ていなかったのって和輝だけだったね』
「いやさ……あんな変態仮面みてぇな姿になっているとは思わねぇじゃん」
本人は俺のおかげでこの姿を得たとか言っているが、特に俺自身何かした記憶はない。
てか、バアルギルディと俺が最後に対峙したのってフェネクスギルディ戦の時以来なんだよな。つまりかれこれ約二か月近く会ってないって訳、記憶が曖昧な筈だぜ。
「こうやって向かい合うと思い出すな。君と初めて出会った日から今まで何度も戦いあった、懐かしき記憶が」
「なーに、記憶を模造してんだよ。てめぇと会うのはこれで三回目だし、戦ったのは最初の一回だけだろおい」
「ああ……思い出すぞ。私がテイルブルーム相手にピンチになった時、バアルギルディを倒すのはあたしだと助けに現れてくれたことを……」
『そんなことしてない、してない』
思わずティアナもツッコミに参加してくれるくらいに頓珍漢な模造した思い出を語るバアルギルディ。
野郎からしたら俺の一人称が「俺」じゃなくて「あたし」になっているくらいの記憶改変は最早、蚊が肩に止まったレベルの些細な事なのだろう。
このままツッコミを続けるのも何か癪なので、とりあえず蹴っ飛ばすべく、接近して回し蹴りを見舞う。
「だからよ……!! んな記憶ねぇっつーの!!」
「おっと危ない」
風を斬り裂くほどの速度で放つ俺の蹴りを涼しい表情でバアルギルディは避けやがった。
「相変わらず我慢できない性分なのだな。だが、そういう部分もまた愛おしい……!!」
「何が愛おしいだ!! この変態仮面が!! てめぇなんか俺は好きでも何でもねぇぜ!!」
如何にも余裕といったバアルギルディの態度が俺の火に油を注ぐ。
ヒートアップしたことでより激しくなった攻撃の数々がバアルギルディを襲うが、これもヒラリと躱され、しまいには右の拳が受け止められた。
「やはり君のツンは素晴らしい。だが君との戦いも今日のこれで最後になると思うと、悲しく感じてしまうな……」
悠々と片手で俺の拳を受け止めたバアルギルディはそうポツリと呟いた。
俺はその言葉からバアルギルディはついに本気で俺を倒そうとしているのだと確信し、体勢を整えるべく急いで手を振りほどいて距離を取り様子を伺う。
「フッ……聞こえてしまったか。ならば話は早いな。そう……今日は君と決着をつけるべく私はこの地に舞い降りた」
初めから何となくそんな気がしていたが、やはりそうか。いつかバアルギルディとは決着つけねぇとなとは思ってはいたが、まさか今日か。
遂に来た運命の日に覚悟を決めようと気合を入れ直す。
「さぁ早く、あの赤い姿になりたまえ。あの姿こそ、私の全力を相手するに相応しい姿だ」
「なっ!?」
まさか先日の戦いが見られているとは思ってもみなかった為に酷く動揺してしまった。
確かに俺はあの赤い力によってグラシャラボラスギルディを倒すことが出来た。あの姿でならバアルギルディとも対等以上に戦えるだろう。だが、俺もティアナも結局、あれが何だったのかがわからないのが現状だ。
「とぼけても無駄だぞテイルバイオレット。君が先日、グラシャラボラスギルディを赤い姿で葬ったのは私にはお見通しなのだからな」
早くあの姿になれと催促するバアルギルディ。だけど、なりたくてもなれないのでどうしようもない。
クッソ……なれるならさっさとなってるっつーの……!!
「おいティアナ、テイルブレスは何か反応したか? あの時みたいにやってみろよ」
『さっきからやってるわよ……!! けど、うんともすんとも言ってくれないんだから』
俺はバアルギルディに聞こえぬようにティアナに呼びかけたが、結果は芳しくない。
採石場にてバアルギルディと無言で向かい合うという気まずい時間が経過していく。
「まさかとは思うが……変身できないのか?」
やっぱしバレるか……。
だが、だからといってそれを喋るわけにはいかない。こういう時程ポーカーフェイスを崩すな。
「そ、そうか……」
だが、流石のバアルギルディでも気づいてしまった。
バアルギルディは声がわかりやすくトーンダウンし、しょぼくれた様子を見せる。それはまるで楽しみにしていた遠足が雨天中止になって残念がる小学生のようだ。
さっきは俺と決着をつけるのが悲しいとも言っていやがったが、ここまで残念がっている所をみると、本質的にはやはり、強者との戦いを望む武人肌なのだと再確認させられる。
思い返して見れば、こんな人がいない場所に現れたのは、誰にも邪魔されない一対一を求めていたのもあると思うが、それ以前に周囲に出来る限り関係のない被害を出したくない思いの表れなのかもしれねぇ。
敵であるはずなのにバアルギルディの事を少し見直してしまう。
「ならば私と君の力の差は圧倒的だな。今この場で君を倒して属性力を奪うのは簡単というわけだ」
仮面の下でバアルギルディの目が光ったのが見えた。俺はごくりと唾を飲む。
どうする? このまま戦い続けるか? やるしかねぇのか?
近づこうとゆっくり歩みを進めるバアルギルディに対してウインドセイバーを構える。あともう少し近づけば手の届く距離というのにバアルギルディは足を止めた。
「フッ……だが、それでは意味がないな」
「何だと?」
「今日の所は見逃してあげようと言っているのだ。早くこの場から去るがいい」
さっきの評価は前言撤回するぜ。確かに今のままじゃ勝ち目はねぇだろうけどよ。だからって見下すんじゃねぇ。
バアルギルディ自身は悪意などない通常運転なのだろうが、その言葉は俺を焚きつけるのには十分なほどの材料となった。
「てめぇ……!! 随分と言ってくれんじゃねぇか……!!」
『ちょっと和輝、落ち着いて!!』
ティアナの制止を振り切りウインドセイバーを手に取ると、怒りに任せ、背を向けたバアルギルディに飛び掛かる。
そんな俺の不意打ちをバアルギルディは呼んでいたかのように背中の羽を手のようにして器用に受け止めると、冷淡な口調で告げる。
「一つ忠告しておこう。怒りに身を任せても何も意味はないぞ。それとも何か? 圧倒的過ぎる実力を持つ私に逃げずに立ち向かう事を勇気ある行動だとでも言いたいのか? 言っておくがそれは無謀だ。勇気と無謀は似て非なる物だぞテイルバイオレット」
「だからって何もしないでいるのかよ。悪ぃが俺は逃げないって決めたんだよ!! 負けるかもしれなくても戦ってやる!!」
「残念だ……」
バアルギルディはそう一言呟く俺を解放すると、全身から衝撃波を放ち、俺を弾き飛ばす。
咄嗟にウインドセイバーを盾にしたが、その威力は絶大だ。盾になったウインドセイバーの刀身はべっきりと折れた上にフォトンアブソーバーを貫通して俺にダメージを与えてきやがった。
グラシャラボラスギルディ以上の圧倒的過ぎる力の差をこうも容易く見せつけられたようで悔しさがこみあげてくる。
「君がグラシャラボラスギルディにやられながら立ち向かっていたあの時、私は君から素晴らしいツインテール属性を感じた。好きな物を奪われぬように勇気を振り絞るその雄姿からだ」
「グチグチとうるっせぇんだよ!! 俺はな――」
起き上がり反撃を仕掛けようとしたが、バアルギルディにはしっかりと読まれていた。
いつの間にか、バアルギルディは俺の目の前に現れ、握りしめた短剣の切っ先をフォースリヴォンに向けていた。
「怒りの余り、ツインテールの守りを疎かにするとはな……」
ティアナが言っていた。テイルギアを維持してるのはツインテールで他ならない。よってフォースリヴォンが破壊され、ツインテールがほどけてしまえば変身は解けてしまう。つまり、言ってしまえば今のバアルギルディの行動は喉元に剣を突き付けるのと同義だ。
だが、それ以上に俺の精神的ショックは相当な物だった。
俺はついこの間、ツインテールを守って見せると誓った。なのに俺は自らの怒りに任せたせいでツインテールを危険に晒した。危険に晒したのがティアナのツインテールじゃなくて俺自身のツインテールだとかそんなの関係ない。
自分自身の命を守れない奴が誰かの命を守るなんて無理と理屈は同じ。自分自身のツインテールが守れない奴が誰かのツインテールなんか守れない。
「言っておくがテイルブルームなら反応できていたぞ」
テイルブルームなら反応できていたの一言が余計に俺の心を抉る。華先生にも追いつてやると誓った直後にこれとはな。
俺は地面にへたり込み、バアルギルディは剣を収める。
「いいかテイルバイオレット。私が再び現れるのは君があの赤い力を自在に操れるようになった時だ。その時までは私は一切の手出しをしない事を誓おう」
全てにおいて完敗したと悟った俺のせい信者変身を維持してるのがやっとだ。
さっきのように飛びかかかる力はもう残っていないので、バアルギルディが去ろうとしているのを見ていることしか出来ない。
「少しアドバイス……というより私の勘なのだが、あの赤い力を使いこなしたければもっとツインテールの事をよく知り、ツインテールをもっと学びたまえ」
そう言い残し、バアルギルディは飛び去ってしまった。
その後、採石場には俺の悔しさの籠った叫びが木霊した。
◇
その日の放課後。午前中、テスト結果に浮かれて上機嫌だった俺はどこへやら。今の俺はバアルギルディに実力面でも精神面でも完敗を喫した為に超不機嫌だ。
そんな俺は気分転換がてら新聞部にティアナと共にやって来ていた。
明日で終業式だと言うのに新聞部はいつも通りといった様子。悠香さんは取材と言って外に出て、青葉さんが部室の奥でパソコンと睨めっこで顧問の華先生は明日の終業式についての会議。因みに匠はバイトでいない。
「クッソーー!! バアルギルディの野郎!! 強いからって言いたい放題言いやがって!! 今度会ったらぜってぇブッ倒す!!」
「ほんと飽きないね……。来てからずっと、同じことの繰り返しだよ……」
ソファで寝転びながら悔しさを爆発する俺の耳に呆れる青葉さんの声が部室の奥から聞こえてくる。
部員でもないのにやってきて、ずっと叫びっぱなしなんて迷惑なのはわかっているけど、エレメリアン関連の事をこうやって声を大にして叫ぶ場所なんてここくらいしかない。
それをわかってくれているのか、青葉さんも特にこれ以上は言っていない。
「クッソ……。で、さっきからティアナは何黙ってんだよ」
「ん? あ、ごめん和輝」
バアルギルディとの戦いを終えて、学校に帰ってきた時からティアナはずっと何かを考え込んでいた。俺が声をかけたり、授業中に先生がティアナをあててもまるで上の空。
余程、何か大事な事でも考え込んでいるのかもしれないから今まで黙っていたけど、流石にそろそろ指摘させて貰うぜ。これがもし、ツインテールについてとかだったらブチキレるかもしれないけどな。
「実はね……、バアルギルディの言葉も一理あるかなって思っちゃってね」
「はぁ……? 何言ってんだお前?」
ティアナが何を言っているのか全くもって理解できない。
あんな
それくらいに今の俺はバアルギルディの言葉の全てが突き刺さっていた。
「バアルギルディ言ってたでしょ。和輝はツインテールをもっと知るべきだって」
「そういや、そんなことも言ってたけど……それが一体、何に繋がるっていうんだよ」
するとティアナはテイルブレスをまじまじと見つめながら口を開く。
「私ね、あの赤い力を使う為にはツインテールに対する強い気持ちが一つだと思うの。グラシャラボラスギルディと戦っていたあの時、私も和輝も必死だった。でも今回のバアルギルディとの戦いや普段の和輝はそうじゃなかった。だから――」
「だから何も反応しなかった。でもよ、結局それが一体どうすればバアルギルディの言葉が正しいに繋がるっていうんだよ」
「もう、せっかちなんだから。話は最後まで聞く。いい? あの時と同じくらいツインテールに対する強い気持ちを持つにはまず、ツインテールをもっと知ることから始めないといけないと思うの。だって和輝ってツインテールについて何も知らないでしょ?」
そう言われると言葉が詰まる。
確かに俺はツインテールについてほとんど知らない。何故その髪型がツインテールと言われるようになったのかやツインテールの種類についてと、ツインテールをした女の子が好きと公言しておきながらツインテールについては素人同然だ。
「でもよ、だからってそんなことして何とかなるものかよ?」
「和輝、テイルギアってのは想いで動かすものなのよ。体を鍛えるのも大事ではあるけど、こっちの方が効果あるわ絶対に」
そう言われると確かにそうだ。テイルギアを動かすのに必要な属性力は体を鍛えて高める物じゃない。よりその物を好きになることが大事なんだ。
「でもなぁ……」
心では理解できても、体が容易くうんそうですねと言ってくれる訳じゃない。特に俺の性分だと尚更だ。バアルギルディの助言だけは聞きたくないと意地が出る。
そんな煮え切らない俺の態度にティアナは徐々にではあるが怒りを募らせていたのに気づかなかった。
「そんなのってねぇ……!! いい? 和輝は知らないでしょうけど、ツインテールを維持するってとても大変なことなのよ!! そんなことも知らないでいつもいつも変身して!! ツインテールに失礼よ!!」
「っ!! んなの……わかるわけないだろ!! 俺はお前と違って男だ。男の俺がツインテールを普段から結ぶわけないだろ!! わからなくて当たり前だ!!」
「だから!! そういう所含めて学びましょって言っているのがどうしてわからないのよ!!」
「はぁ? じゃああれか、お前は俺にツインテールを結べってか? 無理に決まってんだろ!! 髪伸ばすにしても何日、いや何年かかんだよ!! 無茶言うな!!」
「だーかーら!! そうじゃなくって!!」
こうなってしまったら和輝もティアナも止まらない。
俗に言う所のケンカップルといった関係に近いこの二人の間ではよくあることなのだ。
「はぁ……始まった……」
どうしてこうなってしまうのかと半ば呆れながら青葉はキーボードを叩き続ける。
別に僕が止める事じゃないし、寧ろこのレベルの喧嘩ならグレモリーギルディの時とは違って平和だねと青葉は思った。
その証拠なのか、数分経つと急にピタッと声が聞こえなくなり、シーンと静まり返っていた。
「って……寝てるし……」
どうなったのかふと気になった青葉が目をやると、和輝はスヤスヤと気持ちの良い寝顔を浮かべながらソファで横になり、ティアナは涎を垂らしながらテーブルに向かってうつ伏せていた。
そんな様子に呆れた青葉は好物の苺ミルクを口に含むと再びパソコンと向かい合った。
◇
(うぅ……。どうしたのだろう。体がだるくて気持ち悪い。まるで俺が俺じゃねぇみたいだぜ)
ティアナと口論になってからの記憶がはっきりしない。
(途中、急にテイルブレスが光ってそれから一気に眠気が……)
そこまで思い出した辺りで俺の意識は覚醒する。
テーブルにうつ伏せとなっていった顔を起こし、涎を拭って立ち上がる。
すると俺の目の前には奇妙な光景が広がっていた。
「な、なんで俺が寝てんだよ……」
俺の視界にはソファではスヤスヤと丸まって眠る俺が写っていた。
そう言えば何だか変だ。いつもより目線が小さくて胸や股間に違和感がある。まるでテイルバイオレットに変身している時のようだ。
てかちょっと待て? 今誰が喋った? ティアナの声に聞こえたんだが。
「うぅ……。って……私……?」
徐々に違和感の真相に辿り着きそうになっていた時だった。
ゆっくりと目の前で寝ていた俺の姿をした何かが目を覚ました。
そして、俺はその真相に気づいた。
「ま、まさか……俺……」
今、喋ったことでそれは確信に変わる。
急いで俺はガラス棚に反射する自分自身の姿を確認、同時に目の前にいる俺の姿をした何かも違和感に気づいたのか、落ちていた手鏡を拾って姿を見始めた。
確認し終えた俺たちは互いに向かい合った。
「おい、これって……!?」
「私たち……!?」
「「入れ替わって(る!?)んじゃねぇかぁぁっ!!」
はい、というわけで今回は入れ替わり回です。
TS作品好きとして、いつか変身前でも女のままで四苦八苦する展開を書きたかったので今回でようやくです。