俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
「マジで……?」
「マジだ」
数秒の沈黙を終えてからでた一言はそれだった。それほどにさっきの一言は衝撃的だった。
まさかティアナの名前はおやっさんが決めた仮の名だったなんて……
「ところで和輝、お前はどこで知り合ったんだ?」
「俺は3日前に落とし物を拾って……それよりもおやっさんの方は!?」
「俺がティアナちゃんと出会ったのは3月の終わりくらいだったな」」
おやっさんはティアナと出会った時を思い出しながら語り始めた。
「あの日、もう7時も過ぎて俺は片付けをしていたんだ。厨房で片付けの途中、ドアの開く音が聞こえてな。最初は閉店の看板に気づかなかったお客さんかと思ったら様子が違っていてな、気になって見に行ったらそこには、それはもう酷くボロボロな服を着たやつれた少女が倒れていたんだ」
ボロボロってことはエレメリアンと戦っていたってことか? それとも異世界からきたときの衝撃でか?
俺がそんなことを考えている間もおやっさんは語る。
「見たところ服はボロボロだが怪我はしてない、だがそれよりとても腹が減っているように見えてな。 とりあえず飯を食わせながら話を聞くことにしたんだよ。 話を聞いてみれば自分の名前や家族のことがわからないって言ってな、幸い日常生活を送ることはできそうだし、とりあえず記憶が回復するまで三食飯付き住み込みで雇うことにしたって訳だ」
そういう時はまず警察やらに頼って探してもらうもんなんだが、記憶が回復するまで泊めておくって……おやっさんらしいっちゃらしいな。
「んでさ……ティアナって名前はどこからでたんだよ?」
「あ~それなは……」
名前の由来が気になりったので聞いてみる。するとおやっさんはさっきよりも真剣な表情をしながら喋りだした。
「あの子、赤紫色の珍しい髪色してるだろ」
「うん」
確かに凄く珍しい髪をしている。ツインテールがよく似合っている。
「アニメから出てきたみたいな可愛い顔してるだろ」
「うん」
確かに性格は少しキツイが顔はスゲー可愛い。胸は貧相だけど……
「昔、俺が中学生頃にハマったアニメにティアナってキャラがいてな」
「うん?」
あれ……これってもしかして……
「そのキャラにあやかってティアナって呼ぶようにしたんだよ」
やっぱりか。
聞いてみて損した気分だ。おやっさんがいい年こいてアニメは毎日欠かさず見ているオタクだってことを完全に忘れていた……まさかティアナって名前が中学生時代のアニメの推しキャラだったなんて……アニメキャラっぽい名前だと思っていたらマジでアニメキャラからとられていたなんてな……
「なんでそうなるんだよ!!」
ツッコまずにはいられなかった。いい年こいた大人が何してるんだ。
「いや、普通子供が生まれたら名前はアニメキャラ由来にしたくなるだろ!?」
「したくなるかよ!! 普通!! 大体、ティアナはあんたの子じゃないだろ!!」
「うるさい!! 独身生活46年、子供という存在から最も遠かった男の気持ちがわかるか!?」
「はぁ!? 知りたかねぇよ!! そんなもの!!」
キラキラネームが増える理由がわかった気がする。小さい頃から慕っていたおやっさんがいつまでも結婚できない理由がわかった気がした。
「
「そんな名前つける親がいるか!! 大体、それ男用の名前だろ!!」
「うるさいわね……さっきから二人で何話しているのよ……」
「「いえ!!何も!!」」
ティアナが厨房に入ってきたのでおやっさんとの会話を急いで中断する。話していた内容だけに聞かれていたらとても不味い。
「あ、そう……あ、正樹さんお客さんが来てるわよ。ホットコーヒーと卵サンドね」
「はい!! 只今!!」
そう言うとおやっさんは急いで厨房から出て行った。とりあえずこの空間から早いとこ脱出したかった俺も続いて出て行った。
「?」
首を傾げるティアナを置いて……
◇
午後3時20分。店内は再び俺とティアナ、おやっさんの三人だけになっていた。
そんな中俺は当初の目的である昼食を摂っていた。
「ごちそうさまでした」
やっぱりおやっさんの飯は格別美味い。暫く来ていない間にまた腕を上げたのではないのか? あまりの旨さに5分も経たずに完食してしまった。おかわりこみで。
「流石だな……もう完食してやがる。お前、本当に味わって喰っているんだろうな?」
「当たり前だぜ。おやっさんの飯を超える飯はない。俺が保証する」
こうみえて俺はかなりの早食いだ。早食いは太るとか言われるが、生憎俺の体形は肥満とは程遠い。まぁこれは日頃からよく運動もしているのもあるが。
「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか!! よし!! 久しぶりに来たサービスだ!!」
おやっさんは上機嫌にそう言うと俺の前にホットコーヒーの入ったカップを置いた。このコーヒー、いつも飲んでいたものとは香りが全く違う。なんというか凄く上品な香りってかんじ。
「香りが違うけど、どしたの? これ?」
「いつもとは違う豆を仕入れたんだよ。サービスだから気にすんな」
そう言い残しておやっさんは厨房に戻ってしまった。
「ありがとよ」
おやっさんのサービスに感謝しつつ飲んでみたがこれは旨い。気持ちが凄くホットする。ホットコーヒーだけにな。
「和輝あなた今、つまんないギャグ考えたでしょ」
ギクッ!! いつの間にかティアナが隣の席に座っていた。てかなんでティアナは俺の心を読めるんだよ……確かにつまんないけどさ……
「和輝――」
ティアナが急に真剣な顔して俺を見つめて話しかけてきた。一体全体どうしたんだろうか? 思い当たる節が全くない。
「あなたなんで来なかったのよ」
「来なかったって……もしかして先日戦ったあの場所にか?」
3日前に俺が今度回収しに行こうって言ったことか……さっきから機嫌が悪いのはこのことか!?
「そうよ……あなたでしょ。今度って言ったの」
「いや行ったぞ。 来なかったのはティアナのほうだろ?」
「朝から行ったわよ!! 昼過ぎても来なかったのは和輝のほうでしょ!!」
「いや、午前は学校があってだな……」
「あ、」
ティアナの奴、俺が学生ってこと知らなかったのかよ……まぁ言ってないけどさ……でもあの時制服着てたし普通、わかるだろ!?
「ごめんなさい」
相変わらず自分の非を認めて謝るのは凄く早いよな。いいことなんだろうけどさ……
「別に怒ってないけどさ。それよりティアナ、属性玉って何に使うんだ?」
「本来、テイルギアには
「だけど?」
「先日、あなたが変身した姿にはついていなかったわ」
「おい!! なら別に急いで回収しないといけない訳じゃねぇじゃん!!」
何故、あの時あんなにも急かしたんだよ……ティアナに対する文句がどんどん頭の中に溢れてくる。
「念のためよ!! 念のため!!」
「んで回収したのかよ……」
「したわよ」
そう言うとティアナはズボンのポケットに手を入れ何かを取り出した。それは薄緑色に光る菱形の石だった。これが属性玉ってやつか。
〈
触ると固有名詞が頭に流れ込んできた。ティアナは俺が触り終わるのを見ると再びポケットの中に回収する。
「すっげぇな……そういやテイルドライバーは!? お前のテイルブレスに吸い込まれてその後どうなったんだよ!?」
「これね」
そう言うとテイルブレスをかざすと紫の光が目の前に集まり形を作っていく。そうこれだ……俺をあの時、女に変えエレメリアンと戦う力をくれた神秘の道具テイルドライバー。
すぐさま腰に装着し、あの時のように変身を試みる。
「テイルオン」
やはりというか駄目だった。うんともすんとも言わない。
「やっぱりね……」
「……」
なにが違うんだ。あの時は確かに変身できたんだ。もしかしてあれか? 俺が女になることを心の奥底で拒んでいるからか?できるなら男のまま変身したいけどさ……
俺がそうこう考えている間にティアナがテイルドライバーを回収したのか、もうどこにも見当たらなかった。
「わかったでしょ。男にテイルギアが動かせるなんて、やっぱり無理だったのよ。あの時はまぐれだったってこと」
「なんだよ、お前だって変身できなかったろ。俺と同じじゃねぇか」
言われたい放題は悔しいので少し言い返したがそれが良くなかった。みるみるとティアナの表情が暗くなっていくのがわかる。あれ? もしかして気にしていた……?
地雷を踏んでしまったことに後悔するが遅かった。沈黙がこの場を支配する。
気まずい……俺が撒いた種なんだがこの雰囲気、凄く気まずい……
「気にしていたならごめ――」
まず謝ろうそう思い行動に移そうとしたその時、ティアナのポケットからブザー音が聞こえてきた。その音はまるでなにか危険を知らせるかのような音だった。ティアナはそれを聞くと立ち上がり、大急ぎで店の外に出て行った。
「まさか……!?」
もしかして今のブザー、エレメリアンを感知したとかじゃないよな……もしそうだったならティアナのことだ……変身できなくとも戦おうとするだろう。
「おやっさん!! お代はカウンターに置いておくから!!」
そう言い俺は大急ぎでティアナを追いかけるために外に出た。
「おーい和輝!! 釣り忘れているぞ!!」
俺が外に出て10分後、店内はおやっさんの声が響いた。
◇
「どこ行くんだよ!!」
ティアナの足は速い、だがバイクを使っていたので追いつくことは造作もなかった。
「和輝……あなたには関係ないわ……」
言うと思ったよ……
そう言い終わるとティアナは黙って駆け出そうとした。
「エレメリアンか」
「そうよ……でも変身できないあなたにはもう関係ないわ」
呼び止めるため声をかけるが、しかしティアナは振り向かない。
「ティアナ、お前……記憶がないんだろ」
今度はさっきと違い、足を止め俺の方を振り向いてくれた。
「正樹さんから聞いたのね……」
「まあな」
「そうよ……私は自分の名前も家族も覚えていないわ……私が覚えているのはエレメリアンのこと、テイルギアのこと、私自身ツインテールが好きということ、そしてそれを守る為にこことは違う場所で戦っていたこと、それだけよ」
「……」
改めて本人から聞くと言葉がでなくなる。見知らぬ場所で自分自身の使命以外覚えていないという状況。
こういう時はどうすればいいんだ……
ティアナは再び走りだそうとしたが咄嗟に声がでた。
「なんで戦おうとするんだよ……お前、変身できないんじゃないのか?」
「確かに今の私にテイルブレスは動いてくれないわ……でも、それでも!! 私に残されているのはツインテールを守る為、みんなの好きを守る為、戦うツインテールの戦士だったってことだけなの!!」
わかっていた。そんなことわかっていた。ティアナが戦おうとする理由は記憶を取り戻す為でもあることを。自分自身に残された僅かの記憶と使命を頼りに生きていることを。
「あなたにもわかるでしょ? 自分の好きなものを愛せなくなる悲しみが……だから変身できなくてもやるしかないのよ!!」
「なら俺も……付き合う。知っているのに知らないふりなんて…俺にはできねぇよ」
「あなただって変身できないでしょ……前回のは奇跡だったのよ……」
確かにあれは奇跡かまぐれだったのかもしれない。あの時、変身解除した俺がもう一度変身することができなかったのが何よりの証拠だ。でも……
「でもさ……もう一回奇跡がおきるかもしれないぜ。俺にはそんな気がするんだ」
「そんな気がするってあなたね……」
ティアナの表情からして少し呆れているようだった。だけど俺にはわかる。理屈なんかじゃない自分自身の感覚でわかるんだ。今度こそ必ず……
「それにさ……俺だってツインテールが大好きだ。どこの誰かも知らない怪物どもに俺の大好きなツインテールが奪われるなんて……そんなの絶対に嫌だ」
「和輝……あなた」
俺はヘルメットを投げた。少し不意を突いた感じにはなったが、ティアナはしっかりとそれをキャッチした。
「現場に行くにしてもコイツを使ったほうが早いだろ?」
相変わらず俺に呆れている様子だったが、さっきまでと違い暗さは感じなかった。ティアナはヘルメットを被り、俺の後ろに跨る。
「ここから約2キロ先の公園よ」
ティアナはレーダーらしきものを見ながら俺に指示を出してきた。
「お前、そんな距離を走って行こうとしたのかよ!?」
「ごちゃごちゃ言ってないで早く行くわよ!!」
さっきまでのテンションはどこいったんだ……
まぁでもティアナの声はとても嬉しそうに聞こえた。
「了解。んじゃあとばすぜ!! しっかりと掴まってろよ!!」
速度制限ギリギリの速度でバイクを走らせた。
ティアナ、さっきはごめんな……