俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
このままのペースだと100話余裕で超えそう……
夕方になった事で会社帰りのサラリーマンたちや学校帰りの学生たちでごった返す駅のホーム。
俺、ティアナ、悠香さん、青葉さんの四人が改札口をくぐった直後に電車はホームに到着したらしく、時間的に考えて今にも出発しそうだ。俺たち四人はホームへの階段を大急ぎで駆け上がる。
そもそも何故、今までバイク通学を続けていた俺が突然電車を利用することになったのか、別にバイクが動かなくなったとかそんなのじゃない。てかそもそも学校から俺ん家まで電車を使うまでもない。
今現在、俺は俺であって俺じゃないからだ。
俺はティアナとなり、ティアナは俺となる。つまる所、俺とティアナの身体が入れ替わっちまった。そんで入れ替わっちまった俺たちはその事実を隠すべく悠香さんの家に向かっているって訳だ。
因みに青葉さんは悠香さんと同じマンションに住んでいるんだとよ。
「もう駄目……、みんなは僕の屍を……」
「ふざけてないで青ちゃんダッシュ!! ここを踏ん張ったらアレが待ってるのよ!!」
運動不足の青葉さんが力尽きそうになるが、悠香さんの一括を受けた事で瞳の中に炎を灯し、立ち上がる。
「うおおおお……!!」
「「速ッ!?」」
さっきまでとは打って変わって加速する青葉さんは俺や悠香さんを抜き去り、先頭を走っていたティアナすらも追い越して、四人の中で最も早くホームに辿り着き電車内に入る。
俺たちも青葉さんに続くべく階段を駆け上がる。
間一髪、ドアが閉まる寸前ギリギリに俺たちも電車内に滑り込んだ。
冷房が効いていることもあってか外よりかは涼しいものの、乗客が多い為に別の意味で暑苦しい。
「よしっ何とか間に合ったな」
「はぁはぁ、青ちゃん速すぎよって……燃え尽きてるし……」
座席端に設置されているポールにもたれ掛かるようにして青葉さんは白く燃え尽きていた。普段運動していない癖に全力だした無理がたたったのだろうな。
てか、どうして俺たちは走ったのだろうか? 別に急がなくても次の電車は10分も待てば来たっていうのによ。
まぁ、何にせよ間に合った事には変わりねぇか。
悠香さんは青葉さんの隣に立って介抱してるので、残った俺たち二人はとりあえず座ろうと席を探そうとする。だが電車内は満員電車とはいかなくてもそこそこに混んでいる為、座れる席なんてもう残っていない。
それならば吊革にでも掴もうと考えたが、この車両は隣に女性専用の物が存在することもあってか吊革の大半が男性向けに高い位置に設置されていやがる。さらに俺本来の身体とティアナの身体では身長差からくる違和感によって普段と勝手が異なる為に吊革を掴むのがかなり難しい。
そんな中で俺は何とか比較的低い位置に垂れている吊革を発見し、それを掴んだ。
「あぁ疲れた……」
ティアナの身体は筋肉質という訳じゃないんだが、その華奢な見た目とは裏腹にかなりしっかりしており、階段を駆け上がったぐらいじゃ息切れ一つおきやしない。俺が疲れたのは肉体的な話ではなく、精神的な話だ。
「どうしたのよ。そんなに疲れたの?」
「たっく……ほとんどお前のせいだっつーの……」
ティアナはきょとんとしていやがるが、俺は学校で起きた事を絶対に忘れない、いや忘れたくても忘れられない。
学校のトイレ内でティアナに座ってする方法と立ってする方法の両方をレクチャーするなんてよ……
(おい馬鹿!! 飛び散らねぇようにちゃんと押さえろ!!)
(だってぇ、さっき触るなっていったじゃん……!!)
(トイレの時は触っていいに決まってんだろ!!)
駄目だ。その時の事が蘇って来て頭が痛い。
傍から見れば馬鹿馬鹿しく見えるかもしれねぇが、その時の俺たちは必死だったんだ。
これからもティアナに色々教えないといけないと思うと俺は大きなため息をつく。
「はぁ、俺たちどうなっちまうだろうな」
「早く元に戻れたらいいのにね」
どうせティアナは早く元の体に戻ってツインテールを結びたいとか思ってんだろうなと考えている間も電車はガタンゴトンと音を立てながら走り続ける。
ようやく落ち着いてきたと感じたそんな時、俺はあることに気が付いた。
「……」
「……」
「今度はどうしたの?」
「いや、別に……」
気のせいかもしれないが電車内での乗客たちの何人かが俺に向かってチラチラと視線を飛ばしているような気がする。
気づかれぬように目だけをキョロキョロと動かして周りを見渡してみると、確認できただけでも5、6人程度の乗客が俺に向かって視線を飛ばしていた。
もしかして俺とティアナが入れ替わっている事に気づいたっていうのか?
そんな筈ないと思っても不安は募っていく。
「……って、おい。また握ってるぞ」
「あ……」
「ったく……まぁ別に電車乗ってる間なら構わねぇけどよ」
もしかしたら痴漢って線もあるんじゃないかと更なる警戒をする俺をよそにティアナはまたもや俺の髪……いや、俺のツインテールを握っていやがった。入れ替わってからまだ半日も経ってないのにもう既に三回目となるこの奇行にため息をつきそうになったその時、俺はハッとあることに気が付いた。
俺はさっき乗客の視線が俺に向かっていると思った。今現在俺の身体であるティアナの容姿は胸が無いことを除けば美少女だし当然だと。だが、その答えは正解しているようで少し違う。厳密には皆の視線はツインテールといった髪型部分に集中しているんだ。
ツインテールって髪型はテイルバイオレットやテイルブルームの影響もあって幾分知名度を増すことが出来た髪型だが、世間一般からしたら未だにツインテールは小学生以下の女子がする髪型として認知されており、まだまだマイナーな髪型の一つだ。
俺は毎日ティアナと行動していた為にツインテールの希少性に気が付かなった。
「ねぇ見て、あの子ツインテールだよ。もしかしてテイルバイオレットの真似かな?」
「由紀ってテイルバイオレットの事ほんと好きだよね~」
次の駅に到着し、新たに乗り込んできた女子高生の二人組が俺の事を見て会話に花を咲かせていた。
別に当の本人たちは周囲に聞こえるくらいの大声で話している訳じゃないんだが、神経を研ぎ澄ましていた俺には会話の内容が筒抜けだった。
「あたしもしちゃおっかな~」
「やめてよ恥ずかしい。子供じゃないんだから」
悪気はないんだろうが、何だか俺まで恥ずかしくなってきた。
テイルバイオレットに変身している時は曲がりなりにもヒーローとして振舞っているので、恥ずかしくても注目されるなんて当然の事だと思えば割り切れた。だが日常生活においてここまで周囲からの視線が集まるのは恥ずかしい事この上ない。
少しばかり過敏になりすぎているのもわかっている。だけど、今の俺の身体はティアナと入れ替わっているんだ。入れ替わっている事を隠さないといけない事とこの身体に慣れていない事による不安故についつい過敏なってしまう。
次の駅に到着すると俺への視線はさらに増加した。
「なぁあの子……」
「すっげぇな」
悠香さんが言うには学校の最寄駅から出て四駅らしいからこの空間から解放されるまであと二駅。
それまで俺は耐えられるだろうか? いや、ここで耐えてもこの視線が無くなる訳じゃない。これからティアナの身体でツインテールを結び続ける限り、好奇の目に晒されるのは確実だ。
おもむろにツインテールを結ぶリボンに手をかけそうになる。
(……ッ!! 俺の馬鹿野郎!! 何やってんだよ!!)
寸での所で思いとどまった俺は、注目に耐え切れずにツインテールを解こうとした弱い自分自身に心の中で喝を入れる。
この程度耐え切れないようじゃティアナと共にツインテールを守る資格なんてない。そう言い聞かせて何とか踏ん張る事にする。
(なぁ、お前っていつもこんな風に注目されてきたのか?)
考えてみれば、エレメリアンが現れる前はもっと多くの奴らから好奇の目で見られていたんだよな。それなら、エレメリアン襲撃以前からツインテールを結び続けていた人達って、今の俺以上に
幸せそうにツインテールを優しく握るティアナを見て、俺は無性に聞きたくなった。
◇
「飛び出して来たものの……」
テイルバイオレットの正体が男であるかもしれない噂を聞いた事で、居ても立っても居られなくなり基地から飛び出してきてしまったバアルギルディ。
バアルギルディは今、高層ビルの屋上から夕日に照らされるビル街を見渡しながら途方に暮れていた。
「いったい……一体、私はどうすればいいのだーー!!」
今からでも下に降りて人々を襲えばテイルバイオレットと対峙することなど容易いが、今のバアルギルディにテイルバイオレットと面と向かう自信はない。
今までエレメリアンとして生きてきたこの一生の中で、今こそが最も崖っぷちに追い込まれたと言ってもいい。そうバアルギルディは感じていた。
言っておくがバアルギルディは強い、アルティデビル内でも一二を争う程の実力者だ。さらに今のバアルギルディはテイルブルームとの戦いを経て
だが、どれだけ強くても結局の所、バアルギルディはエレメリアンという種の枠組みに収まる生命体。
初恋の相手に対して「君、実は男?」と尋ねる勇気は湧きやしない。
「そうだ……!! イメージだ。まずこういう時は頭の中でイメージをしするのだ……」
10秒もあれば頭の中で好みのシチュエーションのエロゲーシナリオを作る事ができ、尚且つそれを自信満々に語ることが出来ると豪語するバアルギルディにイメージできぬ物などない。
自らを落ち着かせるかのように言い聞かせたバアルギルディは目を閉じて全神経を集中させる。
学園青春ドラマの一風景のように制服姿のバアルギルディが同じく制服姿のテイルバイオレットを廊下で話しかける様がイメージされる。
(テ、テイルバイオレット……!!)
(な、何だよ、バアルギルディ!? な、なんか、よ、用か……!?)
(そ、その……周りの者達が……君の事をお、お、お、男だと言っていたんだ。それは……)
(なんだそんな事か。そうだぜあたし……いや、俺は男だ!!)
(な、何ィィっ!! そんな馬鹿な!!)
(ならその証拠だ。これを見ろバアルギルディ!!)
(ぎゃあああ!! そんなモノを私に見せないでくれぇぇぇッ!!」
この世の物とは思えない絶叫を発しながらバアルギルディは床をゴロゴロと転がり悶絶する。
その情けない醜態を見ても、彼がアルティデビルの中でトップクラスの実力者とは到底思えないだろう。
「ち、違う!! 今のただのイメージ……!! イメージなのだ!!」
ハッと我に帰ったバアルギルディはさっきまで頭に思い浮かべていたのはただの
しかし、落ち着いた所で悩みの種が消えたわけではない。
予知にも似たバアルギルディ自慢の勘も今回ばかりはうんともすんとも言ってくれず役に立ってくれないのだ。不安は募り続ける。
「どうすればいいのだ……!! 一体私はどうすれば……!!」
結局、これの堂々巡り。
噂がただのデマであると信じることも、それを確かめる勇気を振り絞ることも出来やしない。
「ハッ!! そうだ……!!」
瞬間、バアルギルディに電流が走った。
確かめたくても面と向かう事が出来ない現状を打破する策をバアルギルディは思いついたのだ。
「この手があった……!! この手を使えばテイルバイオレットの正体を確かめることが出来る……!!」
いつも通りの覇気を取り戻したバアルギルディはビルの屋上から飛び出すと、人の群れの中に溶け込むように消えて行った。
◇
「悠香さん、まだ着かねぇのかよ」
「もうすぐよティアちゃん――じゃなかった和くん」
「暑い……やっぱもう駄目……」
「ちょっと青葉さん!! いつまで言ってるんですか!!」
視線が気になって恥ずかしかったとはいえ、冷房が効いていたおかげで涼しかった電車内が恋しくなっちまうくらいの暑い夏の夕日を浴びながら、俺たち四人は悠香さんの自宅まで歩みを進める。
駅に向かう時もそうだったが今日は本当に暑い。家は駅から徒歩10分と言っていたが、こうも暑いと一分一秒ですら辛くて仕方ない。慣れている筈の青葉さんは駅を出てから早々にリタイヤを宣言し続けている。多分あれで6回目だったかな。
「はいはい到着~到着~」
「つ、着いた……」
駅から出て歩くこと丁度10分、悠香さん及び青葉さんの自宅である10階建てマンションに辿り着いた。悠香さんと青葉さん、二人のテンションの差が激しい。
オートロックを開けた後、管理人室を横に通り過ぎてエレベーターへ。
悠香さんの部屋は302号室で青葉さんはその隣の303号室。幼馴染とは知っていたが、ここまで家が近いとは流石に思っても見なかった。
「じゃあちょっとだけ待っててね。用意してくるから」
「じゃあ悠香、僕はまた後で……」
「おけおけ、またね青ちゃん」
掃除でもするのか俺とティアナを部屋の外で少しだけ待っててとお願いする悠香さんと後で来ると言い残して一先ず別れることになった青葉さん。何でも後で夏の特大号に向けての打ち合わせをやるとか何とかだそうだ。
てか、ちょっと待て。悠香さんって掃除が大の苦手だったよな確か……
「たっだいま~」
悠香さんの家族は父親が一人で、尚且つその父親はフリーのジャーナリストとして日本中だけでなく世界中をも年中飛び回っている。当たり前だが、ただいまに対して返事が来るわけがない。
「なんかよ、寂しいよな。悠香さんの家、離婚してんだっけか」
「うん……そうだったはず」
本人の前ではあまり口に出せないが、悠香さんの親はもう随分も前に離婚してしまったとのことだ。青葉さんが少しだけ話してくれた内容によると、悠香さんの母親は家庭を顧みずに各地を飛び回る親父さんと徐々にすれ違っていき離婚してしまったとの事だ。好きな事と家庭を両立するのはやっぱり難しいとわかる。
悠香さんは好きな事を追いかける親父さんに憧れていたから母親と別れる選択をしたとの事だけど、本当の所はどう思っているんだろうか。悠香さんって華先生を含めても精神的には一番成熟しているとは思うけど、やっぱり寂しいのかもしれない。
「家族……か」
「ティアナ、お前……」
考えてみれば俺の両親は既に亡くなっていて会えないし、ティアナの両親はこっちの世界に来てしまった影響で会えないんだよな。ある意味では俺たち三人は似ているのかもしれねぇな。
「準備完了!! どうぞどうぞ我が家へ」
暗い雰囲気を切り裂くかのように部屋のドアが勢いよく開かれ、テンションマックスの悠香さんが俺たち二人を歓迎してくれた。
「「お、お邪魔します……」」
「部屋ならパパの部屋使って頂戴。あ、別に心配しなくていいわよ。資料などは資料室にある保管されているし、パパったらベットとタンス以外に碌な物おいてないから意外と綺麗だから」
「了解……ってちょい待ち!! 俺とティアナは相部屋なのかよ!!」
「じゃ、じゃあ夜は和輝とい、い、一緒って事……!?」
「あれ? 不服かしら?」
身体が入れ替わっているから出来る限り傍にいないといけないのはまだわかる。ティアナが俺の身体を使って他人のツインテールをうっかり触らないように止める必要があるからな。
だが、だからといって俺とティアナが一緒の部屋で一緒のベットで寝なくちゃいけない理由が何処にあるって言うんだよ!!
俺は自分でもわかるくらいに顔を真っ赤にして抗議する。互いの身体が入れ替わっちまったこんな状況だからこそちゃんとすべきだと俺は主張した。
「でも聞いたわよ。あなたたち病院のベットで一緒に寝たんでしょ~」
「ゲッ!! 何故それを……!!」
どこから漏れたんだその情報。喋った覚えもないのに既に知られているなんて何て情報網だよ。流石は新聞部部長。末恐ろしい。
「それに~あたしの部屋は青ちゃんと一緒に寝ることになってるし~リビングは散らかっててデリケートなティアちゃんの身体で寝たら悪影響が出ちゃうんじゃない~? 女の髪の毛って結構繊細なのよ~」
悠香さんの野郎……。ティアナの身体を実質人質に扱いにして来やがった。
こう言われると俺はぐぅの音もでない。後はティアナが何か言ってくれることに期待するしかねぇ。
さっきから何かを考え込んでいるティアナに目を向ける。
「そ、そうね悠香さん。私、和輝と一緒の部屋でいい」
「ティアナ!?」
「私ね、こうやって身体が入れ替わった以上、和輝にツインテールを維持する大変さを教えていきたいと思っているの。それなら、朝昼晩も一緒の部屋の方が都合いいと思わない?」
「嘘つけ!! どうせツインテールが近くにいないと落ち着かないだけだろ!!」
「それもあるけど……」
「あるのかよ!!」
暇さえあれば俺の
だが、もう逃げ場はないようだ。悠香さんもティアナもその気だし、これはつまり郷に入っては郷に従えってやつなのだろう多分。
「だーっもうわかったよ!! 一緒に寝ればいいんだろ!!」
満面の笑みでサムズアップを返す悠香さんが腹立たしい。
こんな事になるならおやっさんに話せばよかったとつくづく後悔するのだった。
◇
「着替えは青ちゃんのお下がり用意したからそれ着てね~」
「あいよ」
俺は今、汗でベトベトした体を流すべくシャワーに入る予定だ。
洗面所に一人きりになった俺は制服のボタンを一つ一つ外していく。女子制服のボタンを外すなんて世の男子高校生からすれば喉から手が出るほど遭遇したいシチュエーションだろう。
だが、悲しきことに俺は何にも嬉しくない。寧ろ恥ずかしさと後ろめたさが強くてまともに鏡を見ることが出来ない。
「って、こんなぺちゃパイに恥ずかしがってどうすんだよ」
恐る恐る目を開け鏡を見てみると色気もクソもない平らな胸がみすぼらしく存在していた。ブラジャーがずり落ちないように必死にしがみついている様は思わず涙を誘う。
どんな血を受けついだらここまで貧相な胸に育つのだろうか俺は聞きたい。
「でもよ流石にこっちは……」
目がいったのは下半身の大事な部分を守る下着。
これを脱げば女の子の生のアレが見えるのだろうと思うと気になって仕方ない。
シャワーを浴びるには全部脱ぐっきゃないのだが、それでも流石にこれは男としてどうなんだ。ティアナには俺のアソコに手を出すなと言った手前、どうしても躊躇してしまう。
決断の時が迫り、ゴクリと唾を飲み込んでしまう。
その時だった。
「だーれがぺちゃパイですってぇ……?」
「――!?」
背後から物凄い殺気を感じたので振り返ると青筋を浮かべながらも笑顔でいるティアナが腕を組み立っていた。
身体は馴染み深い俺な筈なのに恐ろしさが段違いだ。人格が違うだけでここまで印象が異なる物なのかとつい感心してしまう。
俺は何もしていないと弁明しようとするが、そこで大事な事に気が付いた。
「ってちょっと待て!! どうしてお前がいんだよ!! 今からシャワー浴びんだぞ、早く出てけ!!」
危ねぇ危ねぇ。あまりの衝撃でつい忘れそうになってしまったが、俺は今からシャワーを浴びるんだ。身体が入れ替わっているとはいえ一緒に入るのは論外だぜ。
俺はティアナを洗面所から追い出すべく声を張り上げる。
「和輝こそどうして私を放ってシャワー浴びようとしてんのよ!! さっきの事忘れたの!?」
「さっきの事?」
「言ったでしょツインテールの手入れの仕方を教えるって」
そう言われるとそんな事言っていたような気がしてくる。
でもだからって一緒に風呂ってどうなんだよ。それはもう一緒に寝るなんてレベルを超えてんだろおい。
「いい? 悠香さんも言っていたけど女の体ってとてもデリケートなの。特に髪はツインテールは命なの!!」
「で、でもよ……」
「それにその身体は私の物なのよ!! もし元に戻った時に髪が痛んでいたら許さないんだから!!」
「わ、わかりました……」
余りの剣幕に思わず敬語を発してしまう。
確かにティアナのいう事は正しいので何も言えない。こうなったら状況が状況だから仕方ないと腹をくくるっきゃねぇ。
「じゃ、じゃあ……早くお前も脱げよ。その……後ろ向いておいてやるからよ……」
「う、うん」
何だろう。こういうのって普通、逆じゃないのか。人格的な意味ではあってるんだろうけど、肉体的な意味では真逆なので何だか色々シュールだ。
てか、これが俺たち初めての一緒の風呂か。どうせ入るなら普通に入りたかった。
あまり広くない洗面所にて互いに背を向けて服を脱ぎ裸の姿を晒し合う。
当たり前だが、裸と言っても俺は胸から、ティアナは腰にそれぞれタオルを巻いて大事な所を隠している。最低限これくらいはしないと精神が持たない。
起伏が無さ過ぎてタオルを巻くのが難しいとか言ったら殺されるんじゃないかと思いながら風呂場に入ろうとした時、大事な事を思い出した。
「おっといけねぇ。こいつも外さねぇとな」
鏡を見ながらツインテールを結んでいたリボンを手にかけて解いていく。
解き終わり髪を下ろしたティアナの身体は初めて見る為新鮮その物。膝の位置を超えて床につくんじゃなかろうかとも思える髪の長さにただただ驚かされる。
「ああ……ツインテールが」
「んでお前は残念がってんだよ……」
ツインテールを解いた途端、露骨にテンションが下がるティアナにはツッコまずにはいられない。
「だってツインテールが……」
「だってもあるかよ、解かねぇと洗えないだろ。てか何だよ、ツインテールの手入れを教えるんじゃなかったのか? ええ?」
「そうだけど……でもちょっとくらい躊躇したっていいじゃない」
このツインテール馬鹿はもしかしていっつも風呂に入る前にツインテールを解こうかそれとも解かないでいるべきかと葛藤しているのかと勘ぐってしまう。
わざわざツインテールを解くのに時間をかけてどうすんだよ。時は金なりって言うだろ。勿体ないじゃねぇか。
「面倒くせぇな……ならとっとと入り終えてまた結べばいいだろうが……」
そう言い残してティアナよりも先に風呂場に入る。
バスチェアに座り巻いていたタオルを取ると、シャワーヘッドから流れ出るお湯で汗を流す。汗だくでベトベトした体に暖かいお湯が気持ちいい。
俺はそのまま悠香さんの親父さんが使っていたであろうシャンプーに手にかける。
「ちょっと待って!! そのシャンプーは駄目!!」
遅れて入ってきたティアナは開口一番に俺のシャワーにダメ出しをかます。
どうやら男向けのシャンプーはダメらしい。まぁ、考えてみれば当然か。
ティアナの指示に従い、悠香さんが普段使っているであろう女物シャンプーを手に取った。こればかりはついいつもの癖で女物シャンプーを避けてしまった俺が悪いので何も反論せずに従う。
のだが……
「洗い方が雑!! もっと丁寧に!!」
「まだ先の方が洗いきれてない!! やり直し!!」
「シャンプーの次はリンスもする!!」
風呂場に飛び交うティアナの怒号。
何かする度に怒られるのはキツイがこれも俺が悪いので言い返せない。
「つ、疲れた……」
ようやく全身を洗い終え風呂場から出た俺は思わず足ふきマットの上にへたり込む。
髪を洗うのにあんなに時間をかけたのは生きてて初めての気分だ。アレとかアソコとかもうどうでもいいくらいには神経を使わされたぜ。
もう限界だ。そのままベットにダイブしたい。
「何してるの!! 次は髪の乾かし方よ!!」
「おいおい……勘弁してくれよぉ……」
まだまだ終わりそうにない。乾かした後は結び方とかもこの調子でされるのだろうか。
注目といい手入れといいツインテールって大変以外の何物でもない。ティアナが言ってた言葉の意味が少しだけわかったような気がした。
和輝が風呂場にてティアナの指導を受けている頃、悠香の部屋にて。
「どう……? 僕が用意したカメラの調子は……」
「バッチグーよ青ちゃん!! 二人のイチャイチャ具合がほらばっちり!!」
和輝とティアナを家に入れる前、悠香は青葉から提供された小型カメラを家の至る所に配置した。それは風呂場も例外ではない。
二人の様子はカメラを通して悠香のパソコンに映し出されるのであった。
電車内での出来事について補足ですけど、和輝たちが暮らす世界は12年前の出来事によってツインテール属性が他の世界に比べてかなり広がり辛いようになっていたりするので、こういった現象が起きちゃってたりします。