俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
髪の洗い方から始まり、髪の乾かし方にツインテールの結び方、締めに日々生活する上でのツインテールに対する注意点と、それら全てが休む間もなく矢継ぎ早にティアナに教え込まれた。
元々の身体であれば、髪を洗うのも髪を乾かすのもあそこまで時間をかけることなんてなかった。ましてやシャンプーの後にリンスをしたり、髪を乾かすのに自然乾燥ではなくわざわざドライヤーを使って乾かすだなんて俺からすれば生まれて初めての経験だった。
そしてその中で俺が最も苦戦したのが、ツインテールの結ぶことであった。
ティアナの身体でツインテールを結ぶには長くボリュームのある髪をバランスよく二つに分けてリボンで結んでいくしかない。
始める前こそツインテールを結ぶなんて大した事じゃないだろと高を括っていたが、それは過ちだったと早々に気づかされた。
いざやってみると髪が長すぎて全然上手く纏まらないし、ヘアゴムではなくリボンを使って髪を結ぶだなんて難易度が高すぎる。そもそも、自分自身の髪を結ぶこと自体が初の試みである俺からすれば鏡を見ながらバランスよく二つに分ける事すら上手くいってくれなかった。
悪戦苦闘しながらも何とか結び終えたツインテールはバランスが悪く、左右非対称の物となっており納得のいくものにはならなかった。
その後何度やっても変わらなかったので結局は最終的に我慢できなくなったティアナが強制的に結ぶ形で俺の人生初のツインテール結びは幕を閉じた。
正直、この時の俺としては結べなかった悔しさよりも、もう今日は結ばなくていいといった解放感の方が強かった。それくらいにはツインテールを結ぶことは難しかったんだ。
その後、ばあちゃんやおやっさんにそれぞれ当分の間、先輩の家に泊まると連絡を入れ、今後の対策を青葉さんも交えて四人で話し合いながら夕食を取る。
全てを終え、疲弊した俺がベットで横になれたのは時計の針が9時を少し過ぎたあたりだった。
「くー……」
真っ暗な部屋の中、隣からティアナの寝息が聞こえてくる。
家に来たばかりの時は一緒の部屋で寝るなんて恥ずかしいと駄々をこねたものの、いざこうやって一緒のベットで寝てみるとあまり恥ずかしさを感じない。その理由としては多分、ティアナの身体が俺の身体になっているからだろう。
見た目こそ慣れ親しんだ俺の身体なのに仕草はティアナな為、違和感が凄すぎる。
「はぁ……疲れた……」
今日一日中の疲れが全身にドカッとなだれ込んでくる。
いつもならまだ起きている時間だって言うのにもう起きる気力がわいてこない。早いとこぐっすり眠りたいもんだ。
だが、そんな願いとは逆に中々寝付けずにいた。
明日からの事が不安でしょうがないんだ。
「俺、どうすんだろ……一生このままなのかな」
もう何度目かわからない不安を声に出して漏らす。
悠香さんは夏休み期間中はこの家で面倒を見てくれるとは言ってくれた。それまでには俺たちの人格と身体を元に戻る方法を見つけないといけない。勿論、悠香さんの事だし夏休み期間が終わってもこのままなら何か新しい対策を考えてくれるだろう。でもだからといって呑気にダラダラ過ごす訳にはいかないんだ。
何かないのかと今日の出来事を振り返ってみた。
「バアルギルディと戦った後、部室で入れ替わって、それから……」
電車内で視線を感じすぎ恥ずかしさの余りにツインテールを解こうとした事、髪の洗い方やツインテールで過ごす上での注意点などを教わる時に何度も怒られた事、そしてツインテールが好きな癖にツインテールを結べなかった事。
駄目だ。振り返っても思い出せるのは苦い物ばかりだ。
いつの間にか俺はこのまま元に戻らないんじゃないかという不安よりも、明日からツインテールをしたままでちゃんと生活できるのかどうかの方が不安になってしまっていた。
「こんなんじゃツインテールを守る者として失格もいい所だぜ。なぁ? ティアナ」
「くー……」
当たり前だが、返事はこない。
不安で寝れない俺と対照的にティアナはすやすやと心地の良い寝顔を浮かべていた。
「こんな状況だっていうのに、よくもまぁそう呑気に寝れるもんだぜ」
今でこそ、深い眠りについているティアナだが、寝る直前、俺がツインテールを解いたのを見て滅茶苦茶残念がっていたのを思い出す。
確かにツインテールは素晴らしい髪型だと俺も思うけど、だからといってどこをどうすればそこまでツインテールに駆り立てられるのかがいまいちわからない。ツインテールをした奴を見たいって言うのはわかるがツインテールに触れたいとかツインテールが解かれるのが嫌だとかは流石にどうかと思う。
「ほんっと、どうすりゃそこまで好きになれるんだよ……」
ティアナがツインテールを好きになった理由は今でも考える。
今度聞いてみるのもありかもしれない。
ちらりと寝ているティアナを見てみた。
「俺って寝てる時あんな面になんだな……って、ん? ちょっと待て、なにか光ったか?」
ティアナの腕辺りでぼんやりと何かが光ったのを確認した。
上半身を起こし、光っている何かを確認すべくティアナの腕を持つ。
光源の正体、それはティアナが肌身離さず着けている紫のブレスレット、テイルブレス。元々はティアナの変身アイテムだったらしいが、この世界に来てからは何故か変身が不可能になり、今じゃテイルドライバー呼び出し装置と化している。
ティアナを起こさないようにそーっとテイルブレスを取り外し、テイルブレスを眺めて見る。
特にこれといった派手な装飾はないが、近未来的なスッキリしたデザインは十二分に男心をくすぐってくる。これを製作した奴はヒーロー物をよく理解しているとみた。
「で、コイツはなんで光ってんだよ?」
テイルブレスに刻まれたツインテール属性のマークがぼんやりと光を放ち続けている様をまじまじと見続けてみるも、俺にはテイルブレスがどんな仕組みでできているかわからないので、何故光っているのかさっぱりわからない。
てか今更だけど、この入れ替わり騒動の発端はテイルブレスの光を浴びた事なんだよな。
ティアナはテイルブレス自体は故障している訳ではないと思うとは言っていたけど、元々の用途である変身アイテムとしてもまともに機能していない事からしてやっぱりどこかしらが壊れているんじゃないかと思ってしまう。別にティアナの言う事を信じていない訳じゃないけどよ、壊れてこうなった以外に説明がつかない。
まぁ、だからといって闇雲にテイルブレスを弄って完全に壊してしまった場合のリスクを考えると今はそっとしておくのがいいのかもしれない。
案外、ちょっと時間が経てば元に戻るかもしれねぇし。
おもむろにテイルブレスを腕に着けてみる。
特に理由はない。強いて言えばつけて見たくなったって所か。
ティアナと出会った当初、テイルブレスをつけて変身を試みたがあえなく失敗した事を思い出す。
「ッ!?」
腕につけて眺めていると突如としてテイルブレスから発せられる光の光量が増し始める。
ティアナを起こそうとするも強烈な眠気が俺を襲う。
もしかしたら元の身体に戻れるんじゃないかという淡い期待を寄せながら俺は光に飲み込まれ意識を失った。
◇
霧で覆われた幻想的且つ不思議な空間にて俺の意識は覚醒する。
ここは何処だ? 俺はどうなったのだろうか?
わかる事はここがティアナと一緒に寝ていた悠香さん家の寝室ではないって事だけだ。ベットもタンスも何もない。この空間にあるのは一面覆いつくす濃い霧だけだ。隣を見ても俺以外に誰もいない。
グラシャラボラスギルディに敗北した際に見ていた悪夢を思い出す。
(何処だよここは……。てかティアナのままじゃねぇか)
全身を見渡してみても、あるのは意識を失う直前となんら変わらないティアナの身体。ただ不思議なのは服装が青葉さんお下がりのパジャマではなく、双神高等学校の制服となっていて尚且つ腕にテイルブレスがついている事だ。
まさかとは思い、髪の毛を触れてみる。
予想通り俺の髪型はツインテールになっていた。
意識を失う前は寝る為にツインテールを解いていたって言うのにこれはどういう状況だ。
(なるほどな、これは夢ってわけか)
この幻想的な空間にたった一人だけ、しかも服装が寝る直前の物ではなく俺にとって最も馴染み深い制服だ。もしかしなくてもこれは夢だと理解できる。
意識を持ちながら見る夢、つまりこれはいわゆる明晰夢って奴だろうか。
(だけど夢の中くらい元の身体に戻してくれてもいいじゃねぇかよ)
夢の中でもティアナのままな事に不満を覚えた俺はブツブツ文句を言いながら霧の中を歩き続ける。
夢の世界で特に行く当てもないがこのまま目覚めるまでじっとしておくのもつまらない。それに何だか、テイルブレスがこのまま先に進めと言っているような気もしてくる。
テイルブレスに導かれるまま俺は歩く。
すると徐々に霧が晴れ始め、俺の目の前には幾つもの家が建ち並ぶ住宅街に広がっていた。
(何処だよ……? ここは……?)
地元一帯で知らない場所はないと胸を張れるくらい自信がある俺がさっぱりわからない風景。
夢なんだし何処かわからないのは当然と言えば当然なんだが、この風景からは空想の物とはとてもじゃないが思えないくらいにはリアリティに溢れている。まるで本当に実在しているような気がしてならねぇんだ。
何処かはわからないが、テイルブレスはまだ先に進めと訴えかけているような気がするので、気を取り直して再び歩き出す。
その途中で幾つかの人とすれ違ったが誰も俺に気づいている様子がない。それどころか触れようとしても立体映像に触れたみたいにするりとすり抜けてしまう。何だか幽霊になった気分だ。これがもし夢でないのなら俺は大きなショックを受けていただろうな。
その後、歩く内にこの夢の世界の時刻が朝なのがわかった。
そして、ある建物の前で足がピタリと止まった。何となくテイルブレスもこの建物で良いと言ってくれているような気がする。
まるでこの中に何かあると言っているみたいだ。
(アドレシェンツァ……?)
見た所、この建物は喫茶店のようだな。
入口のドアには「Closed」の看板が掛けられているが、今の俺には関係ない。
触れようにもすり抜けて掴めなかった為、そのままドアをすり抜けて店内に入る。
中に入った事でわかったのはアラームクロックと近い構造をしているって事だ。恐らく、この奥あるいは上階に住居スペースがあるんだろうな。
(なかなか良い雰囲気じゃねぇの)
全体的な感想としてはかなりいい感じだ。
喫茶店というよりかは老人ホームや食堂といった雰囲気がピッタリなアラームクロックとは違って、こちらの雰囲気は例えるならみんなの秘密基地とか憩いの場とかそんな感じだろうか。
(で、ここに何の意味が――)
「おかあさん、おとうさんー!! はやくはやくー!!」
店の奥から元気よく女の子が走ってきた。
いつもならチラリと見て、直ぐに興味を失うであろう子供の姿に俺の目は釘づけになる。
(あれ……、もしかしてティアナか?)
赤紫の髪にツインテール、その子供の姿は今の俺の身体を5歳ほどに幼くした物、つまり幼くしたティアナその者だった。
他人の空似という可能性を完全に捨てきれた訳ではないが、ティアナのツインテールを近くで何度も見続けた俺にはわかる。
あの子はティアナの幼少期の姿だ。
となるとこれは明晰夢なんじゃなく、ティアナの記憶を再現したものを俺は見ているのかもしれねぇ。
テイルブレスが導いてくれたのもこれなら合点が行く。
「捕まえましたよぉ!! もう離しません!!」
(だ、誰だ!? ってなんつーおっぱい!?)
どこからともなく急に現れ幼いティアナを抱きしめたそれは、この世の物とは思えない美貌を持った銀髪碧眼の女性。
科学者を想起させる白衣の下には胸元を強調するかのような薄手の服。そこから見えるのは華先生をも軽く凌駕するけしからんサイズのおっぱい。
巨乳好きって訳じゃないないが、俺だって男だ。その胸には思わず目を奪われる。
バスト三桁は軽く超えているんじゃないかと思うと興奮が隠せなくなる。
髪型こそツインテールではないが、ティアナにはない男のロマンがその女性にはある。
「さぁ、――ちゃん。今日はお母さんじゃなくてお姉ちゃんと一緒に遊びましょうねぇ。げへへへへへへへへへへ」
内容からしておっぱい美女は今ティアナの本当の名前を口にしたのだろうが、その部分だけラジオにかかるノイズのような音でかき消され聞こえなかった。
もしかしたらティアナの本名がわかるのではと少し期待したのだが、これは少し残念だ。
てかそれにしてもよ、このおっぱい美女、気持ち悪い笑みを浮かべ更に涎まで垂らしてティアナに抱きつきやがるせいで、これじゃ子供好きというよりもまるで危ない系のロリコン変質者だぜ。
見た目こそ完璧なのに言動が残念極まっていやがる。
俺の中でその人物の呼び名がおっぱい美女からおっぱい変質者にランクダウンが決定した。
「ほーらどうです? ムチムチバインバインのおっぱいは気持ちいいでしょう? お母さんでは味わえませんよぉ」
(おいティアナ、その場所変われ)
魅惑のおっぱいで抱擁される幼いティアナを見て思わず声が出てしまう。
幸い、今の俺は幽霊のような物なので気づかれる心配はないが、これがもし現在のティアナに見られていたらどんな目に合うかわからないだろう。
「おねぇちゃん、くるしいよぉ」
「そーんな筈はありません。あんなまな板未満のお母さんに抱きしめられるよりかはずっと気持ちいい筈です」
おっぱい変質者の発言からしてティアナの母親はどうやら貧乳らしい。それもかなりの絶壁との事だ。
一般的には、子供を産むと母乳をあげる為に母親の胸は大きく成長するらしいが、どうやらティアナの母親はその一般的な事を無視してしまったのだろう。
「こらトゥアール!! 過度なスキンシップは禁止と言ってるでしょうがー!!」
「ぎゃあああああああああッ!!」
(今度は何だよ!?)
幼いティアナがおっぱい変質者から離れようとした際に生まれた一瞬の隙。
突如として風切り音が鳴ったと思うと、おっぱい変質者もといトゥアールと呼ばれた女性はツインテールをした何者かに蹴り飛ばされる。蹴り飛ばされた時の速さは人間の目で追うのが困難で、気づいた時には店内の天井を突き破りそのまま空に輝く星となっていた。
俺にはこの光景が理解できなかった。
人一人を難なく蹴り飛ばし空の彼方に吹き飛ばすなんて常人にはそう簡単に出来る筈がない。こんな事普通、テイルギアでも纏わなきゃあり得ない。
開いた口が塞がらないまま、俺は蹴り飛ばした人物に目を向ける。
その人物は紺色の長い髪をリボンを使ってツインテールに纏めた若い女性。
トゥアールとかいうおっぱい変質者の物と比べると涙が出てくるくらいに貧相な体系が、成長した現代のティアナと酷似している。
目元の辺りもどことなくティアナに似ているし、怒った時の雰囲気といい、この人物こそがティアナの母親だと一発でわかる。
「大丈夫? トゥアールに変な事されてない?」
(いやいや、どう見てもあんたの方がやってる事ヤベェって……)
幼いティアナを抱きかかえ大丈夫かと尋ねるティアナの母親だが、誰がどう見ても最終的に一番の被害者となったのは蹴り飛ばされたトゥアールだろう。
娘を不審者から守る為とはいえ無茶苦茶しすぎだ。母は強しって言葉にも限度があんだろ。あれじゃあのトゥアールとかいう変質者の命はねぇ。
俺もああはなりたくないので、これから現実世界でティアナをからかう時は程ほどにしておこうと肝に銘じる事にする。
「ううん。べつに」
「本当の事言いなさい。トゥアールの事なんだからあんな事やこんな事だって……」
(いや、どんな事だよおい)
「おい愛香、またやったのか……今週もう五度目だぞ。――も見ているんだし、真似したらどうするんだよ……」
騒ぎを聞きつけたのか、店の奥から赤髪の男性がため息をつきながらやって来た。
恐らくこの人物がティアナの父親なのだろう。母親の方とは違って温厚な雰囲気で溢れてる。きっと学生時代は喧嘩とは無縁の生活だったんだろうな。
奥さんが人一人を星に変えたのに驚いていない所を見るに今さっきの出来事はこの家ではよくある事なのだろうが、俺からすれば理解できない。
「そーじ……だってトゥアールがぁ~」
「そうですよ!! もっと言ってやってください総二様。このままでは愛香さんの真似して、――ちゃんまで蛮族に育ってしまいます!!」
「何ですってぇ?」
「ぎゃああ!! ギブ!! ギブ!!」
いつから喫茶店は審判のいないプロレス会場になったんだ。
いつの間にか復活していたトゥアール相手にガチガチのヘッドロックをかますティアナの母親を見て、またもや俺の目が点になる。
ついさっき蹴り飛ばされた割には怪我一つ見えないトゥアールの異能生存体っぷりとかもうどうでもいい。これは何だ。普通の家庭ってこういう物なのか?
「みてみておとうさーん。どう? きょうのツインテール」
「ああ、今日もばっちりいいツインテールだ!!」
プロレスと言う名の一方的な虐殺には見向きもせず、幼いティアナは父親にツインテールの出来を尋ねており、父親は頭を撫でながら
娘の髪型を喜んでいるのは父親ならよくある事なのだろうけど、その対象がツインテールに限定されている気がしてならない。
ティアナのツインテール属性は父親譲りなのかもしれない。
(そういや、愛香に総二にトゥアールって名前よ。どっかで聞いた気がするんだが……)
この三人の名を俺は何処かで聞いた気がするが、何処で聞いたのかがさっぱりわからない。
ティアナがいた世界と俺がいる世界は違うから知らない筈なのに何故か引っかかるんだ。
思い出そうと努力するも全く出てこない自分自身に腹が立つ。
「皆さん、おはようございますわ」
「全く……お前たちはいつまで経っても相変わらずのようだな」
入口に設置されているカウベルが鳴ったので、振り返るとそこには金髪を和服姿に似合うように下結びのツインテールにした女性が傍らにメイドさんを一人連れて立っていた。
トゥアールには及ばないが二人とも中々のサイズの胸をお持ちだ。
この場の巨乳率を鑑みるとティアナ親娘が実に不憫だ。
それにしてもこのメイドさんの方から年を誤魔化そうとしている雰囲気がバリバリ漂ってくるのは気のせいか? 主人とは反対の上結びツインテールがそう錯覚させるのか?
多分、ティアナの両親二人ともがかなり若いのも影響しているのかもしれない。
(にしてもよ……ツインテールばっかだな……)
トゥアールを除いた全女性陣がツインテールをしている。
しかも全てのツインテールがキラキラ輝いて見える。このツインテールは只者じゃねぇ。ツインテールに未熟な俺でもわかる。
こんな家庭に生まれたティアナが羨ましいとそう思ってしまった。
「さて、慧理那たちも来た事だし、そろそろ向かうとするか」
「ねぇトゥアール、イースナたちは?」
「仕事が終わってから向かうとさっき連絡貰いましたよ」
「久しぶりですわね。みんなでピクニックなんて」
どうやらこの日はピクニックらしい。どおりで幼いティアナがはしゃいでいた訳だ。
幼いティアナは父親に肩車をしてもらいながら店内から出て行ってしまった。
流石にこれ以上追いかける気にはならなかった俺は皆が出て行ってしまった後、店内に一人取り残される。
(あれがティアナの家族か……)
トゥアールや慧理那と呼ばれていた人たちの関係や、色々とぶっ飛んだ言動は少しばかり気にはなるが、何だかんだいい家庭風景なんじゃないかと思ってしまう。
皆がツインテールをしている家庭。
全員のツインテールが生き生きとしており、ティアナがツインテールに憧れを持つようになるのも頷ける。
テイルブレスが俺に見せたかったのはこれだったのかもしれない。
(ティアナの身体と入れ替わった以上はツインテールを守り、ツインテールを結ばなくちゃな。じゃねぇとあの人たちに顔向けできねぇ)
そうと決まれば現実に戻ってツインテールを結ぶ練習でもしてやるぜ。
最初はどんなにぎこちなくたっていいんだ。何度もやればきっとティアナのツインテールを再現できるようになる。
とりあえずの目標はそこからだ。
(さて、どうやって現実に戻ろうか……。ッ!?)
テイルブレスがまたもや眩き光を放ち、周囲の風景を変化させていく。
これで帰れるのかと思い安堵していたが、徐々に変わっていく風景の様子を見たことで不安に変えていく。
俺が立っていた場所はさっきまでいたアドレシェンツァがある街とは全く違う街中だった。
(今度は何処だよ……てか何だよ……これ……)
太陽が雲に遮られ暗く淀んだ空の下。
あちこちの建物から黒煙が上がり、酷く倒壊している。
まるで戦争でもあったのかと思ってしまう酷い惨状に思わず絶句した。
(まさか……エレメリアンか!?)
ここはティアナの記憶の世界。ならエレメリアンがいたって何ら不思議じゃない。
だけど引っかかる。確かにエレメリアンの中には暴走していたグラシャラボラスギルディをはじめとした危険な奴は多いが、ここまで酷く暴れた必要があるのか?
戦いの余波なんかじゃない明らか故意に破壊した痕跡を見て俺の疑問は加速する。
「やっと見つけたわ!! どうして……どうしてこんな事を!!」
(ティアナか!?)
声をした方向に首を向けるとそこにはテイルバイオレットの物と酷似した赤紫の装甲を身に纏う、さっき見たときよりも遥かに成長したティアナの姿があった。
あの姿こそ本来出来た筈のティアナの変身した姿。テイルバイオレットが青紫色ならばティアナのは、自身の髪色に合わせた赤紫色の戦士。
より鮮やかになった赤紫のツインテールを翻し、変身したティアナは何者かに叫んでいる。
俺はその視線を追い、言葉を失った。
(嘘だろ……? あれってよ……)
瓦礫の山の上からティアナを見下していたのは血のような赤い装甲を身に纏った赤髪ツインテールの幼き戦士。
あれはもしかして……
記憶の中にある印象とは全く異なる狂暴且つ残虐な笑みを浮かべたその戦士は身の丈以上の大きな剣をティアナに向かって乱暴に突き出し駆ける。
赤のツインテールと赤紫のツインテール。二つの力がぶつかり合い凄まじい衝撃を生んだ。
その場面をもって俺の意識は途絶えたのだった。
◇
記憶の世界から現実へ帰った頃の時刻は午前2時。
悠香さん家で目覚めた俺は隣で寝ているティアナと身体が入れ替わったままなのを見たことで、まずは現実に帰ってこれた事に深く安堵する。
「はぁはぁ……今の……」
ティアナの記憶を再現した世界。
今のがもし正しいのなら、ティアナがいた世界を襲い、ティアナが俺が住む世界にやって来る要因となったのはあの戦士。
かつてアルティメギルと戦い、全平行世界を救った筈の英雄。
そんな筈はないと思ってもあの姿、あのツインテールは間違いない。
「テイルレッドだと……?」
原作キャラのその後についてはかなりオリジナル強めですけどいかがでしょうか。
そして和輝が見たティアナがいた世界で起きた事、それは……