俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
これからは体調に気を付けて出来る限り毎週更新をしていきたいと思います。
和輝と身体が入れ替わる事件が発生した日から一夜明けた翌朝、悠香さん家の雰囲気に慣れ切っていない私はおぼろげに目を覚ました。
私は起床すると寝る前に下ろした髪をツインテールに結ぶのが、朝起きてからまず行ういつもの日課。スムーズにツインテールを結べるように寝る際は傍らにリボンを置いておくのも忘れない。
でも、今の身体ではツインテールを結べない。
ツイ、いつもの癖でリボンを探して結ぼうとしちゃったけど、今の身体では結ぶことが出来ないと思い出す。
「そう……だよね」
わかっていた筈なのにやっぱりこの感覚だけは慣れない。
一夜を開けた事でより辛くなってくる。
ツインテールは私が生まれてから今に至るまでいつもしていた髪型だ。ツインテールは最早私の一部と言ってもいい。
だけど、今はそのツインテールを結ぶことが出来ない。
これがもし、ツインテール属性を奪われた事により結べなくなったのなら、辛さよりも喪失感、もしくは何も感じなくなっているのかもしれない。でも、私はツインテール属性をそのままにツインテールが結べなくなった。
なまじ私のツインテール属性が高過ぎるせいか、胸が張り裂けそうな気分に陥ってしまう。
「和輝……って、あれ?」
寝ているであろう和輝の髪をツインテールに結んで気持ちを落ち着かせようとしたけど、隣で寝ている筈の和輝の姿は何処にも見当たらなかった。
部屋にはベットとタンスくらいしか物が置いていないから、見当たらないってことはもう既に和輝は起きている事になる。
時刻はまだ7時を10分超えた辺り。
朝に弱くお寝坊な和輝にしては早い過ぎる起床に驚きながら部屋を出て洗面所に向かう。
「あーもう!! どうして上手くいかねぇんだよ!!」
「和輝? どうしたの?」
「見てわかんねぇかよ。ツインテールを結ぶ真っ最中だ」
昨日ある程度掃除した為、基本散らかっている悠香さん家の中では数少ない綺麗な場所となった洗面所にてパジャマ姿の和輝が鏡を前に悪戦苦闘していた。
本人はツインテールを結んでいると言っているけど、力が入り過ぎてるあの様子じゃとてもじゃないけどツインテールは結べない。
「……ッ!!」
「もう、じれったいんだから。ほら貸して結んであげるから」
「いいって別に。俺一人ででも出来るっつーの」
私の手を撥ね退けた和輝は思い通りにならない事に多少イライラしながらも何とか結び終える。
けれどその出来栄えはお世辞にも良い物とはいえない物だった。
左右の房の長さも結び目の位置も全く異なる出来栄えは昨日とまるで変わらない。いや、心なしか昨日よりも酷くなっているような気もする。
「クッソ……」
「ほら言わんこっちゃない。それじゃ駄目って何度言えば――」
「まだまだぁッ!!」
ムキになった和輝は、髪を結んでは解く、解いては結ぶを何度も何度も繰り返す。
その気概だけは認めるけど、それじゃ納得がいくツインテールは結べない。
挑戦回数が増える度に深刻化する劣化っぷりには思わず和輝もがっくり肩を落とし始めている。
「はい、わかったら大人しく貸しなさいよ。結んであげるから」
「ちくしょう……」
「はいはい」
このままでは何も変わらない事を悟った和輝は渋々といった形で私にリボンを渡してくる。
受け取った後、そのまま慣れた手つきでするするとツインテールを結んでいくそんな中、不意に和輝は私に声をかけてきた。
「なぁ……テイルレッドについて何か知ってる事はねぇか?」
「何よ。藪から棒に」
「……別に、何となくだよ。一度会ってみてぇなぁ~程度のな」
そうは言ってはいるけど鏡に反射する和輝の表情は真剣そのもの。まるでテイルレッドに関わる何かがこの入れ替わる騒動を解決する鍵みたいな感じがする。
だけど、そう言われても私がテイルレッドについて知っている事は何もない。
記憶の失う前ならもしかして何か知っている事があったのかもしれないけど、生憎今の私にテイルレッドと聞いてもアルティメギルを打ち倒したツインテイルズのリーダーといったことくらいしか知らない。
というか寧ろ、私だって知りたいくらいよ。以前、映像だけとは言え、テイルレッドを見たとき何というか凄い安心感があったというか。あんな風になりたいという憧れを抱いたというか……
テイルレッドほどのツインテールを見たのにあの時、綺麗だとか以前にそんな何とも言えない感情が沸き上がったのを思い出す。
「ううん……特にないかな? さてっと、はい完成」
思い出す片手間で髪を結んでいたので、いつもよりはかなり時間がかかってしまった。
まぁでも、誰に見せても恥ずかしくない良いツインテールが出来上がったのには変わらない。
「嘘だろ……!! はっえ……!!」
「まぁね、慣れてるし」
「いやいやいや、明らかに2分も経ってねぇんだが!?」
「何言ってるのよ、ツインテールを結ぶのに2分もかけるようじゃまだまだ半人前よ」
和輝は何を驚いているのだろうか。この程度の速度じゃまだまだ遅すぎると思うんだけど、何かおかしいのかな?
「やべぇ、心が折れそうだ……。すまねぇティアナ……」
「ちょっと!? 和輝!?」
手と膝を床につき、絶望に打ちひしがれる和輝。
未だ一人で結べていない和輝にとって「まだまだ半人前」といったワードはちょっと配慮が無さ過ぎたのかもしれない。
私はツインテールが床につかぬように持ち上げながら和輝を励ますことにした。
「大丈夫よ!! 私だって3歳まで一人で結べなかったんだから!!」
「そうか、俺は3歳児以下って訳か……」
「あ……」
私の馬鹿!! 傷口を塩を塗るようなこと言ってどうするのよ!!
励まそうとしてもいい言葉が出てこない。こういった時どうすればいいのだろうかわからない自分自身に腹が立ってくる。
そんな時、背後から声が聞こえてきた。
「あのー? 二人とも?」
「「はい?」」
背後から聞こえてきた声に対して私と和輝は同じタイミングで振り向いた。
そこには通学準備を整えた悠香さんが立っていた。
「イチャイチャするのもいいけど、そろそろ急がないと電車間に合わないわよ」
「「イチャイチャって、あ……!!」」
いつもならまだこの時間でも余裕があるのですっかり忘れていたけど、今日の通学はバイクじゃなくて電車を使うんだった。
昨日の夜、悠香さんにそのことを注意してもらったはずなのに、このままじゃ終業式に遅刻する事になっちゃう。
「鍵はここに置いておくから、ちゃんと閉めてから出てよね~。じゃあそういう事で~!!」
悠香さんは書類まみれの台に鍵を置き、戸締りを促すとそのまま出発してしまった。
「……。って、和輝!! 急ぐわよ!!」
「んなこと、わーってるつーの!!」
悠香さんが出て行き、扉がバタンと音を鳴らして一呼吸ついた後、私と和輝は大慌てで準備し駅へ急ぐのだった。
◇
「な、何だったのよ……あれ」
「何って……満員電車だろうが……」
「わかってるわよ……そんなこと」
私が生まれてから初めて味わった朝の満員電車。
冷房が無意味と化すくらいに人で溢れかえった電車内の暑苦しさと言ったら昨日味わった夕方の満員電車と比べるなんておこがましいレベルだった。恐ろしいとは聞いてはいたけど、あそこまでの物とはね。あれじゃ最早一種の修行よ。
私は和輝のツインテールを触れることで乗り越えたけど、逆に言えば和輝が近くにいないと危なかった事になるわね。
そんなこんなで生徒賑わう朝の校門に辿り着いた。
遅刻こそしなかったのは安心だけど、ここからは人の目がより一層激しくなる。あまり派手に目立つような事だけはしてはいけないわね。
挨拶を行っている堀井先生を見かけたので挨拶しながら校門をくぐろうとした。
「おはようございます」
「おう、おはよう!! って涼原!! 珍しいな、お前が真っ先に挨拶するなんて。バイクにも乗ってないようだし、今日は何かあったのか?」
(おい馬鹿……!!)
いっけない。普段の和輝は堀井先生に挨拶を強要されて渋々応じるんだった。
私の脇腹を小突いた和輝は堀井先生に愛想笑いを浮かべながらそそくさとこの場を後にするべく、私を引っ張っていった。
和輝たちが去った後、いつもと違う様子に首を傾げる堀井。
そんな堀井に挨拶が聞こえてくる。
「おはようございます。堀井先生」
「あ、おはようございます……って山村先生!! おはようございます!! 今日も一段と綺麗ですね〜じゃなかったいい天気ですね〜」
挨拶をしてくれたのが、華だと認識した途端に態度が切り替わる堀井。それが何を意味してるかなど、鈍感な華は気づきやしない。
「それはどうも……。でどうしたんですか? 何か考え事しているみたいでしたけど……」
「いや~それがですね。涼原の奴が変なんですよ」
「変?」
「バイク通学も辞めているし、挨拶はするしで、まるで生まれ変わったみたいなんですよ」
(あーそういうことですか)
事情を察した華は苦笑いを浮かべる。
そんな華とは違って堀井の方は嬉しそうにテンションがみるみる上がっていく。
「もしかしたら、僕の想いが通じてくれたって事ですかね!! それならば教師としてこんなに嬉しいことはありませんよ!! 苦節15ヶ月。長かった!! 長かったぞ~!!」
感極まって涙を滝のように流し始める堀井の様を見た華はその暑苦しさ故に額から汗をダラダラと流すのであった。
校門にてちょっとしたハプニングこそあれど何とか学校に到着した私と和輝の額から汗がダラダラと垂れてくる。でも、この汗は暑いからだけじゃない。これからの事を考えると緊張してしまうが故の汗だ。
抜けている堀井先生は何とかなったけどクラスのみんなはそうはいかないわよね。
和輝は先程の件もあってか私を多目的トイレに連れ込んだ。
「ふー。さてと、こっからが本番だぜ。いいか? さっきみたいな事は絶対に無しだからな」
「うん、わかってる。さっきはごめんね」
「よし。んじゃここからは聞かれちゃ不味いし、互いに男言葉と女言葉も入れ替えていくぜ」
「そうね、そうしましょ」
私たち二人が入れ替わっているのを知っているのは華先生と悠香さんと青葉さん。後々匠には伝えるとしても、基本的にはこの事は極秘。知られるわけにはいかない。
つまり今日だけは私は普段の和輝のふりをして、和輝は普段の私のふりをしないといけないって事なの。
今はトイレだから周りに生徒が多くないから何とかなっているけど、こんな会話は絶対に聞かれちゃ駄目って訳。
互いに深呼吸をした後に和輝が先陣を切るべく喋りだす。
「よし……!! 行きましょう和輝……!!(やっぱクソ恥ずいんだが!?)」
恥ずかしさこそ見え隠れしているものの、覚悟を決めた和輝の私のふりは意外と様になっている。
昨日まではあんなにもごねていた和輝が恥ずかしさと戦っている姿に触発された私も和輝になりきるべく声をだす。
「おう!! 俺も気合十分だぜ!!(どうかな?)」
「お前……」
急に大声を出した為なのか私を見るなり苦笑いを浮かべる和輝。
どうしたのだろう? 意外と上手くできたつもりなんだけど。
「もしかしてよ、俺ってそんなに熱血漢に見えるのかよ」
「う、うん。少なくともクールとは程遠いと思うけど」
「マ、マジか……」
前もそうだったけど、和輝って自分の事をクールな性格だと勘違いしているよね。
素直になれないぶっきらぼうではあるけど、根本的にはクールとは程遠い熱血漢だし。
それに何か変にカッコつけようとした時に限って失敗しているというか、少なくともクールでカッコいいタイプでは断じてないと思う。
「まぁいいや、とりあえず行くぞ……じゃなかった。行くわよ」
「うん……じゃなかった。おう」
意を決してトイレから出た私たち二人はいつもの教室を目指す。
私たち二人は学校ではいつも二人一緒にいるような物なので、朝から二人でくっついて歩いていても特に何も言われないし、注目もされないのはこんな状況における唯一の救いだった。
「おはよう、橘さん」
(ほら和輝!!)
「お、おはよう……」
教室に入ると友達の水嶋さんが話しかけてきたので応対させるも、何故か和輝は名前がわからないでいたので、水嶋さんが去ってからヒソヒソ声で聞いてきた。
(なぁ誰だっけ……?)
(水嶋さんよ!! どうしてクラスメイトの名前がわからないのよ!!)
このままで大丈夫なのか不安になってくる。
怪しまれないか不安だったけど、水嶋さんは特に気にしてはいなかったので今回は何とかなったけど、このままじゃいつバレそうになるかわからない。
「よーっす!! お二人さん!! 一学期最後の日も夫婦揃って登校とはまったく羨ましいぜー!!」
背後から五月蠅い声が聞こえてきたので振り向くと汗だくの匠が暑さをまるで感じさせない陽気な雰囲気でやってきていた。
匠には悪いけど、イライラとした怒りが募ってしまう。
夫婦って茶化されるのも普段なら嬉しく思うのに、今日は目立ちたくないからそんな風に茶化すのはやめて欲しい。
「こんのぉ、匠!! こっちこい……!!」
「あれ? どしたのティアちゃん……って痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」
同じ気分なのか和輝はイライラした様子で匠の耳を引っ張りながら教室隅まで引っ張っていく。
匠には悪いけど少しスカッとしてしまう自分がいた。
◇
体育館にて終業式を終え、教室に戻ってこれたのは午前10時半を少し過ぎた頃だった。
長々とした話に疲れを覚えていた私は満員電車の時と同様に和輝のツインテールを触れる事でツインテール成分を補給することで何とか耐え抜いたのだった。
この学校では整列する時、クラスごとなら別にどんな順番でも構わないのが功を奏したと言ってもいい。
それにしてもどうして始業式や終業式での校長先生や理事長先生の話って長いのだろう?
わかっているような事も無駄に遠回りに話すせいで時間がかかってしょうがない。一応は先生で頭も悪くない訳だし、こういうのは簡潔に話すべきだと思う。
僅かに残っている記憶の中にはある人物にその事が疑問で誰かにどうしてなのか? と尋ねたことがある。
その時、なんて言っていたかしら……?
「おい!! ティアナじゃなかった和輝!! ホームルーム終わったし、さっさと部室に行くぞ」
「あ……」
どうやら少しウトウトとしてしまっていたみたい。
朝からのドタバタ騒ぎの疲労と記憶についての考えていた事の二つが重なった影響か、もしくは
時刻は11時30分、机の前にはぷりぷりとした表情で怒る私の身体をした和輝が立っていた。
一つの仕草に反応するかのように揺れ動くツインテールがとても可愛い。
中身が和輝で見た目は私自身なのにツイそう思ってしまう。
「どうせあれだろ。ツインテールの事でも考えていたんだろ」
「そんな事は……」
ないと言い切りそうになったが、頭の中の何かが待ったをかける。
もしかして思い浮かべようとしていた人物はツインテールだったのかもしれない。出なきゃそう思うはずがないはず絶対に。
「やっぱ違うよな~。真のツインテール馬鹿ってのはよ~」
「んだと匠ぃ? 何が言いてぇんだぁ? ああん?」
「いやいや、俺はその身体がそんな事言ってるのが懐かしく思っただけだぜ。別にお前を蔑むつもりはねーって」
私と和輝が入れ替わっているというのにさも当たり前かのようにいつも通りの会話を行う和輝と匠だけど、周囲のクラスメイト達のほとんどはもう帰宅しており、残っている者は夏休みの予定を話し合ったりで忙しいようで私たちの方に気が付いていない。
「おいおいどうするよまだ原稿できてないんでしょ」
「わかってますよ。今必死になって書いてる最中なんです!!」
「今年行われる夏のテイルバイオレット&テイルブルーム祭りは絶対に我らも参加せねばならぬのだぞ」
「だからわかってるって!!」
教室の隅で固まっていたオタクグループが教室を去り際にコミケどうするかと話し合っているのが見て聞こえてきた。何でも今年のコミケは「夏のテイルバイオレット&テイルブルーム祭り」とかいう催しがあるらしい。
ツインテール祭りなら喜んで参加するんだけどなぁ。
というかコミケって何?
「さてと馬鹿するのは程々にしてそろそろ部室にいくぞ」
「そうだな。おーい和ちゃん? 行くぞー」
誰が和ちゃんよ。悠香さんじゃないんだから。
いつの間にか最後の一組となっていた私たち三人が教室から出て行こうとした時だった。
教室のドアが大きな音を鳴らし開かれる。誰かが忘れ物でも取りに来たのかと思ったが、それは違った。
教室の入口には満面の笑みを浮かべた堀井先生が大量のプリントを両手で抱え込むように持って立っていた。
「よぉし、間に合ったみたいだな」
「「「はい?」」」
「涼原、川本!! お前たち!! 今から俺からの特別補習を始めるぞ!!」
「「はぁぁ!?」」
和輝と匠の今学期最後となる嘆き声が教室に木霊した。
正直な話、私としては当然だとは思う。確かに急ではあるけど、和輝と匠の定期試験の結果は赤点こそ回避しているもののとてもじゃないけど褒められた物じゃなかったしね。
「じゃあ頑張ってね。私は外で待っていてあげるから……」
「おいおい、涼原。何逃げようとしているんだ。いくらお前が生まれ変わってくれたからと言ってもこればかりは逃がすことは出来ん」
「へ?」
堀井先生に腕を掴まれてからようやく気が付いた。
そうだ、今の和輝は私なんだ。つまりこの補習は和輝が受けるんじゃなくて私が受ける事になっているんだという事。
「じゃあよ、堀井。俺は……」
「ん? 随分と乱暴な口調するじゃないか橘。まぁ一応言っておくがお前の成績は学内トップだから補習はないぞ。やりたいというなら別だがな」
「いえいえ、結構です!! じゃあ二人とも頑張ってくれよな。外で待ってっからよ」」
「和輝ぃ……!!」「お前、この野郎……!!」
るんるん気分で教室の外へと出て行く和輝の後ろ姿を恨めしそうな視線で見送る私と匠。
私も匠も堀井先生に二人の身体が入れ替わっているんですと声を大にして叫びたい所だけど、そんな事言える訳もないし、これじゃ逃げ場がない。
「よーし始めるぞ。今日はテスト範囲のみに絞っているからな。出来た方から持ってきなさい」
「はい……」「へーい……」
私と匠は二人仲良く隣り合わせで席に座る。
堀井先生がプリントの束を半分に分けて配ってくれた。
ざっと見て量はプリント10枚ぶんって所だった。
(いいわ。こうなったら直ぐにでも終わらせてやるわよ。覚悟しなさい!!)
学内トップの学力を見せてやる。
その気概でプリントに手を伸ばしたのだった。
◇
「長くねぇか?」
教室に外、廊下の窓際でもたれかかる俺はそうポツリと呟いた。
本来ならば、この補習は俺が受けるはずだった事なのではあるが、今の俺はティアナと身体が入れ替わっているお陰で堀井の補習を回避することが出来た。俺としては不幸中の幸いといってもいいが、ティアナからすれば踏んだり蹴ったりもいいとこだろう。
まぁ堀井も言っていたが、ティアナは学年トップの成績を持っているんだ。数分も経てば直ぐにでも出てくるだろう。
……とそう踏んでいたのだが、全然終わる予感がしない。
「あいつ、何かあったのか?」
腹が減ってはいるが、それは補習を受けている二人も同じなので俺だけ飯とはいけないのも中々歯がゆくて辛い。
おもむろに廊下側の窓から教室を除いて見るが、匠はともかくティアナも頭を抱えていた。
「もしかしてよ、あいつツインテールが近くにないとああなっちまうとかじゃねぇよな?」
そんな馬鹿な事があってたまるかと声を大にして言いたいが、入れ替わってからのティアナの奇行を見ているとそうは言い切れないのが恐ろしい所だ。
そんなにもツインテールが必要なのかよ。
いくら常日頃からツインテールをし続けていたと言っても、いざツインテールにできなくなるとああもポンコツと化すのには頭を抱えざるえないぜ全く。
「ただ待ってるのも暇だしツインテールを結ぶ練習でもすっかな」
このまま一人で待っていても暇でしかない。学生なんだし、時間は有意義に使うべきだ。
俺は女子用トイレに向かった。
ここから多目的トイレは少し遠いし、今の時間なら女子トイレに誰もいないと思っての判断だ。
もし誰かいたとしても、今の俺は心はともかく身体は女子なので問題はない。入りづらいってのはとは勿論あるが、いつもの調子で男子トイレに入ってしまうと何かあった時に言いわけできないので今回ばかりは特別と我慢する。
「よしっと、誰もいねぇ――」
「ああ!! いたいた。橘さーん」
「はい?」
俺が女子トイレに入るのを待っていたかのように現れた女子三人組。
一人は確か朝声をかけてきた水嶋さん、もう一人は確か俺のクラスで委員長やってる奴だっけか。最後の一人は……すまんわからねぇ。
何つーか物凄く平凡な顔してるっつーか、失礼だが詰まる所モブ顔なんだわ最後の一人はよ。
「ねぇねぇ!! ついに告白したの!?」
「今朝の様子からしてやっぱりそうなんでしょ!?」
「やっぱり昨日、涼原君と一緒にサボった時にしたんだよね!?」
矢継ぎ早に繰り出される質問には当然だが心当たりがないし、理解が追いつかない。
あまりの勢いに壁際まで追い詰められた俺は必死に説明を求める。
「まてまてまて!! どうしたんだよ!!」
「待ても何も、告白したのかって聞いてるの!!」
「私たちみんな応援してるんだからね!!」
ヤベェ。こういう時、どうすれば逃がしてくれるんだろうか。
迂闊な事言ってしまえばティアナに迷惑掛かるしよ。
てか、別にティアナに好きだとか言われた事ねぇし、多分勘違いだろう。いや、そうじゃないと何か俺が鈍感クソ野郎に見えてきて嫌だし、何よりツインテールも結べないような俺なんかじゃな……
「別に……」
「「「別に……?」」」
「告白なんてしてない!! そもそも好きでも何でもない!!」
「「「……」」」
こうなったら一か八か、いつもの調子で反論してみた。
本当なら好きですの一言も言いたかったが、素直になり切れない俺の悪いところが出てしまった。
予想外の言葉に静まり返る女子トイレ。その空気はとてもじゃないが気まずい。
「そうなんだ……ごめんね変な事聞いちゃって……」
「お、おう……」
さっきまでの勢いは何処へやら、目当ての商品を買えなかった者のように沈み込むとそれぞれ女子トイレから出ていった。
俺は危機を脱したと安堵していたが、この時の発言が後に起きる大きな事件の原因の一つになるだなんてまだ知る由もなかった。
一方、ティアナの方はというと……
「全然わからない……」
既に解いている筈の期末テストの問題を見ても何も頭に浮かばない。
ツインテールが近くにない事による集中力の低下が原因となっている事はティアナ自身も知らぬことであった。
勘違いとすれ違いはお約束。