俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第54話 悩みと焦り

 ツインテール……。

 

 ツインテール……!!

 

 ああ、ツインテール!!

 

 ツインテールが結べなくなってもう一週間。

 お願いツインテールの女神様。

 私にもう一度、ツインテールを結ばせてください。

 私自身の髪で……私自身の身体で……でないと私……

 

 

 

 

 

「っておい!! 聞いてるのかよ!! もしもーし!!」

 

「もしもーし……」

 

 声が聞こえて来たと思うと私の意識は急速に覚醒する。

 ここは確か新聞部部室で、今は夏休みが始まってから6日後の午前10時。目の前には和輝がいて、部室奥では青葉さんがカタカタとキーボードを高速で動かしながら私を見ていた。

 今の今まで考え事に耽るまで、和輝と一緒に何をして何を考えていたのかがわからなかった。

 

「ふぇ!? か、和輝? あれ私何してたんだっけ?」

 

「何じゃねぇーよ……!! ボティスギルディの野郎に勝つための作戦会議だろ? 何寝ぼけてんだよ!!」

 

「ご、ごめん……」

 

 徐々にではあるけど思い出していく今日の出来事。

 夏休みに入っても私たちの身体に起きたこの珍妙な現象は未だ終わる目途が見えず、この生活に慣れ始めた辺り。

 そして今は、夏休みの日課となりつつあるボティスギルディ対策の作戦会議の途中だった。

 

「クッソ……!! あの赤い姿にさえなれればあんなホモ野郎、じゃなかったカマ野郎なんざに負けはしねぇのによ……!!」

 

 和輝の言っている赤い姿というのはグラシャラボラスギルディ戦で変化したテイルバイオレットのもう一つの形態の事だ。

 まるでテイルレッドを思わせる赤い姿をしたテイルバイオレット。その力は計り知れない。魔神の吐息(デモン・ブレス)で暴走し強くなったグラシャラボラスギルディを圧倒するその力の底知れなさは見ていただけの私でもわかった。あの力を自由自在に使いこなし引き出すことが出来れば、ボティスギルディはおろかあのバアルギルディにすらも勝てるかもしれない。

 でも、肝心となるあの赤い姿にはあの時以来変身出来ていないし、そもそも、変身する為の条件すらもわかっていない。テイルドライバーの起動条件をあれやこれや考えていた時の事を思い出す。

 

「てか華先生は何処行ったんだよ!! 最近、全く見てねぇぞ!! どうなってんだこんな時に!!」

 

 ボティスギルディに負けたあの日から華先生を私たちは見ていない。

 何度スマホで連絡しても圏外の二文字しか出てこないからだ。

 

「修行……だってさ……」

 

「バトル漫画の主人公か!!」

 

 奥から青葉さんが「修行してきます」の書置きを投げ渡してきた。

 それを見た和輝の鋭いツッコミが飛ぶ。

 一度の敗北で圏外になるような遠い場所に修行に出かけるなんて、真面目すぎるというか何というか、直ぐにでも襲って来ていたらどうするつもりだったのかが謎でしかない。

 

「あーもう!! どうすんだよぉ!! こんなじゃまた負けちまうじゃねぇか!!」

 

「どしたの……? そんなに焦って……」

 

「そりゃあ焦るだろ青葉さん!! 完敗したんだぜ!! か、ん、ぱ、い!!」

 

 確かに和輝の気持ちもわかる。

 いくら怒っていたとはいえ、ボティスギルディは魔神の吐息(デモン・ブレス)無しで和輝と華先生を圧倒した。今まで、どんなエレメリアンでも互角以上に立ちまわっていた華先生がああもボコボコにされたのはショックが大きい。

 でも、だからといって焦っても何も変わらない。そんな事、和輝もわかってる筈なのに……

 

「とりあえず落ち着こ、ね? 最近、焦ってばっかりで変よ」

 

「わーってるよ。んなこと……」

 

「焦っても勝てないよ……」

 

「だーかーら!! わーてっるての!!」

 

 思い返して見れば最近、和輝はちょっとピリピリしていた。

 何となくだけど、その原因がボティスギルディに敗北したからじゃないと思えてくる。もっと別の何かが和輝を焦らせている。

 そんな気がしてならない。

 

「てかよ、ティアナお前さ……俺もどうかと思うけどよ、お前の方こそどうしちまったんだ?」

 

「な、何が?」

 

「何がじゃねぇーよ。さっきもそうだけどよ。ここ最近、よく上の空になっているじゃねぇか。どうかしちまったんじゃねぇのかって疑ってんだよ」

 

 和輝に指摘されてハッとする。

 そう言われれば自分でもそんな感じがしてやまないくらいには最近、ボーっとし過ぎている。

 夏バテとかじゃないのはわかるけど、何が原因なんだろう。

 強かったボティスギルディを倒す為にも今はシャキッとしないといけない時期だっていうのに……

 

「もしかして……ツインテール不足なんじゃないの……」

 

「青葉さん、んな馬鹿な。入れ替わってから今日にいたるまで毎日毎日、俺はこいつにツインテールを触らせてあげているんですよ? そんな筈がないでしょ」

 

 確かに和輝のいう通り、私はほぼずっと和輝のツインテールを触り続けている。ツインテール成分が不足しているなんて有り得ない。

 でも、ここ最近はどれだけ和輝のツインテールを触れても満たされない虚無感を感じていた。

 もしかしたらそれが原因なのかもしれない。

 

「なぁティアナ?」

 

「う、うん」

 

 入れ替わった当初はツインテールが近くにないと落ち着かなかったのに、今では触れていないと落ち着かない。

 そして今度は……ツインテールに触れていても落ち着かなくなり始めている。

 その現実が恐ろしくなってくる。

 このままツインテールに飢えていけばどうなるんだろうという不安が生まれる。

 

 もしかしたら見境なくツインテールを求め始めるんじゃ……

 それだけは絶対に避けないといけない。そんな自分自身の属性力に正直になり過ぎたら敵対しているエレメリアンとなんら変わらなくなる。

 有り得ないはずなのにエレメリアンにでもなっちゃうような気がしてしまった自分が怖くなって仕方なくなってしまう。

 

「てかそもそも何時になったら元の身体に戻れんだよー!!」

 

 和輝の悲痛な叫びが部室内に響き渡った時、図書室に過去の資料を取りに行っていた悠香さんが帰ってきた。ドアを開けた事で、熱気がもわっと入って来る。

 

「もう和くん~なにかりかりしてるのよ~。それにティアちゃんも暗い顔しないの~」

 

「悠香さん……」

 

「お帰り悠香……。早かったね……」

 

「まぁね、意外と早く見つかったの……ってそれよりも何なのこの空気。辛気臭いったらありゃしないわよ全く。何があったの?」

 

 そう言われると何だか謝りたくなってしまう。

 実際、和輝は苛立ちを私は不安を隠しきれていないせいで部室内の空気は良くないのはわかっているんだけど……。

 青葉さんから事の流れを聞いた悠香さんは何か考え、そして思いついた。

 

「よしっ!! じゃあ今から気分転換にちょっと出かけましょ。そうだ!! 和くんとティアちゃんの新しい服でも買いに行かない? 丁度、あたしも買いたい服があるのよね~」

 

「悠香さん何言ってるですか。そんな暇は――」

 

「なぁに~。何時までもパパや青ちゃんのお下がりばかり来てるつもり~? そんなの認めないわよ~」

 

「あのなぁ悠香さん……」

 

 和輝は嫌そうに顔を歪めているが、実際問題、いつまで経ってもお下がりを着続けていても何だか申し訳なくなってくるし丁度いいかもしれない。

 学校内でなら制服で問題ないけど、家着を何時までも借りてばっかりは流石にね。

 

「私は悠香さんに賛成します。男物の服を買うのもいい機会だと思うし」

 

「でしょでしょ。流石はティアちゃん」

 

「えぇ……マジかよティアナ。てか元に戻った時どうすんだよ」

 

「そんなの元に戻ってから考えればいいでしょ。さてとそうと決まれば善は急げ!! 青ちゃんも用意なさい、直ぐにでも出かけるわよ~」

 

 用意と言ってもただ財布があるかどうかを確認するだけでしかなく、確認を終えた私たちは悠香さんに連れられる形で部室を後にした。

 

 

 

 

 蝉の鳴き声が響き渡る夏の炎天下。

 もうすっかり慣れた電車を利用した俺たちが悠香さんに連れられてやってきた場所は学校から二駅ほど離れた位置にあるショッピングモールだった。

 このショッピングモールはテナントの数が300店舗以上も存在する、日本全国で見ても大型の部類に位置するショッピングモール。フードコートは勿論の事、映画館やゲームセンターまで何でもござれ。よく匠と映画を見にきたりしたのを思い出す。

 

 今、俺の目の前には様々な服や雑貨がおしゃれに展示された店舗がズラリと並んでいやがる。

 男の状態では絶対に縁がないような場所だ。その結果、景色の全てが新鮮に感じれた。

 にしても悠香さん。ストレス発散の為に服を買いに行こうって言いだすなんて、やっぱし今時の女の子なんだな。

 

「ティアちゃんは兎も角として和くん、もしかして初めて?」

 

「まぁ、そうだけどよ……」

 

「じゃあ丁度いいわね。今時女子の買い物の凄さ見せてあげるんだから」

 

「お、おう。お手柔らかに頼むぜ……」

 

 先ず最初に向かったのは老若男女問わず多くの人が利用しているであろうショッピングモール内随一の大型店へ足を運んだ。

 服を買うって言っても俺が女子向けの服を選ぶなんて出来やしないし、逆もまた然り、ティアナが男向けの服を選ぶことなんて出来やしない。

 その為、俺たちは俺とティアナ、悠香さんと青葉さんに分かれて服を選ぶことにした。

 俺がティアナの服を選び、ティアナが俺の服を選ぶ。着用するのは相手側なので、ある程度のオーダーは聞くのが条件だ。

 

「ちょっと和輝。もしかしてとは思うけど、同じ奴何着も買うつもり?」

 

「そうだけど……何か悪いかよ……」

 

「いや……別に……」

 

 ファッション誌なんて見た事ないくらいファッションに疎い俺からすれば同じ服を何着も買うなんてよくあることだ。

 私服なんて別にバリエーションが無くても俺は問題ない。夏なら上はポロシャツ、下は夏用のジーンズでも選んでおけばいいからな。

 

「ねぇ和輝? どっちの方がツインテールに合うかしら? こっちかな?」

 

「さぁな、俺にはさっぱりわかんねぇよ。お前が着て欲しいと思った方で良い」

 

 ティアナが着る分が終われば、今度は俺が着る服をティアナが選ぶ番だ。

 ティアナは俺と違って数種類の服を上下ともに選び出しては、そこから俺のリクエストに沿った物をチョイスしてくれる。

 俺からすれば派手な服じゃないのと、涼しければ何でもいい。

 

 

「二人ともお待たせー。ちょっと買い過ぎちゃった」

 

「お、重い……」

 

 その後、試着を終え購入した俺たちが待つこと30分弱、ようやく買い物を終えた悠香さんたちと合流した。悠香さんは俺たちの服の倍以上の服を紙袋に詰めて持っており、その量に思わず俺もティアナも引いてしまう。

 悠香さんが片付けが出来ない訳が形となって存在していた。

 

「よしッ。じゃあ次はメインイベントにでも行きますか」

 

「「メインイベント?」」

 

 俺とティアナは頭を傾げた。

 メインイベントとは何なのか? 

 わからないが何となくついていく事にしたのだが……

 

「ここって……」

 

「そう。夏と言えばやっぱり水着よね~」

 

 悠香さんに連れられた場所は女子用の水着が何着も展示された女子用水着専門の店だった。

 男だけで行けば間違いなく変態呼ばわりされるであろうこの店舗を目にした時は嫌な予感がしていたが、まさか本当に来ることになっちまうとはな。

 正直、ここだけは絶対に入りたくない。

 そう思って黙って逃げようとする俺の腕を掴む物がいた。

 

「逃がさない……」

 

「放せ青葉さん!! これ以上は男のプライドに関わる!! 放しやがれこん畜生!!」

 

 店の前で大声をあげる俺は何も知らない周囲から見れば笑いの種でしかないのだが、俺からすればそんなことどうでもいいくらい必死だった。

 ティアナが選んだ服を試着するのも結構メンタルにきたって言うのに、水着なんて着たらもうもたないだろう。

 

「悠香さん!! 水着は流石に……」

 

「そうだティアナ!! もっと言ってやれ!!」

 

「五月蠅い……」

 

 俺の気持ちを察したのか、それとも単に自分が恥ずかしかったのかどうかはわからないが、ティアナが悠香さんに抗議を入れ始める。

 青葉さんに拘束されている俺はそれを応援するしか出来ない。

 クソッ、どうしていつもは非力な筈の青葉さんの癖に……どっからこんなパワーが出てんだよ!!

 振りほどけない自分自身がもどかしい。

 

「いい? ティアちゃん。これはねあなたの為でもあるのよ」

 

「私の為?」

 

 そう言うと悠香さんはティアナに内緒話を仕掛け始めた為、それ以降の会話が聞こえなくなる。 

 何がティアナの為か知らねぇが、俺はティアナが駄目と言うのを信じているぜ。

 

「これで和くんが選んだ水着はつまり、和くんがティアちゃんに着て欲しい水着ってことじゃない? もし身体が元に戻ったらその水着を着てアタックするの。そしたらイチコロよ」

 

「で、でも……私、胸小っちゃいから似合う水着なんて……」

 

「大丈夫よ和くんを信じなさい。きっといい水着を選んでくれるわ!!」

 

「そ……そうですよね!!」

 

「そう、その意気よ。だからちょっと待っててくれるかしら?」

 

「はい!!」

 

 俺の耳に聞こえて来たのはティアナがはきはきと悠香さんに返事をしている声だった。

 俺はその時点で嫌な予感が現実となった事を察してしまった。

 嘘だと言ってくれ……この身体はお前の物なんだぞ、考えなおしてくれよ頼むぜ……

 

「さーて!! 許可も貰った事だし、行くわよ水着選び!!」

 

「おーう……!!」

 

「は!! な!! せ!!」

 

 奮闘虚しく俺はこの身体に似合う水着を選ぶことになった。

 最初こそ真面目に選んでいたのだが、段々と何が俺に似合うのかではしゃぎだす二人の先輩方。

 

「ねぇねぇ青ちゃん!! これとか似合うんじゃない?」

 

「それよりもこっち……!!」

 

 着せ替え人形で遊ぶかの如く、俺に様々な水着を着せては脱がせ着せては脱がせを繰り返していく。

 勿論、抵抗はちゃんとしてはいるが、ティアナの身体()という最高の玩具を目の前にしたこの二人から抵抗しきって逃げるなんてとてもじゃないが出来やしない。

 

「意外とこういうのとかもいいんじゃない?」

 

「際どい……」

 

 オーソドックスなビキニ状の水着やワンピース状の水着はまだ比較的マシだったのだが、着せ替え遊びはどんどんエスカレートしていき、しまいにはマイクロビキニにレオタードと言ったエロティックな物まで選び出す。

 恥ずかしさの余り、顔を真っ赤にして試着室で悶絶する俺の情けない姿たるや、とてもじゃないがティアナには見せられない。

 

「今度はこれよ!!」

 

「その次はこっち……!!」

 

「どうして俺がこんな目に合わなくちゃいけねぇんだよーー!!」

 

 俺の悲痛な叫びは試着室の中で無常にも消えていく。

 こんなの俺にとって未来永劫記憶の中で嫌すぎる思い出となっていつまでも残り続ける黒歴史となるのだろう。

 

 数分後、ようやく買い物もとい着せ替え遊びから解放されて店から出るとそこには幼女のツインテールを見て今にも飛びつきそうなティアナの姿があった。

 必死に抑え込もうとしてはいるが、挙動が明らかに健常者のそれではなく、男である俺の身体なのも相まって幼女趣味の不審者にしか見えなかった。

 

「お前はお前で何してんじゃボケェェーー!!」

 

 

 

 

 既に太陽も落ちた夜。

 ここは都内の某所の地下に存在する一軒のバー。

 ビルとビルに挟まれた場所に入口が存在するこの店舗の中身は、80~90年代を思わせるややレトロチックな作りとなっており、その独特な雰囲気が昔懐かしさを思わせると一部の熱狂的な客に支持される知る人ぞ知る名店である。

 今日も店内はバーテンダーの店主がシェイカーを振るう音と雰囲気に合うしっとりとしたジャズの音色が心地の良い空間を作り出していた。

 だが、ここ最近はいつもと少し違っていた。

 

「マスタぁ〜、いつもの頂戴ぃ~」

 

 店内の雰囲気をぶち壊しかねない気持ちの悪い女言葉が男性の物と思わしき声色から発せられる。

 だが、問題なのはそこではない。

 カウンターに座っているその姿が問題なのだ。

 

 派手過ぎるくらいけばけばしいメイクをしているのは首から上が蛇となっている怪物(エレメリアン)、ボティスギルディ。

 つい先日、テイルバイオレットとテイルブルームを二人同時に蹴散らしたアルティデビルの中でも一二を争う武闘派エレメリアンだ。

 そんな彼……いや、彼女が何故、ここにいるのか? 

 別段この店は彼女が求める同性愛者属性(トランスジェンダー)で溢れるオカマバーではなく至って普通のバーである。まぁ結論から言うと彼女はエレメリアンでありながらお酒が好きだったというただそれだけの理由である。今の彼女は属性力を集めて目的の人物の確保といった使命など無しに気ままに人間社会を謳歌している最中なのである。

 

 店主はそんなボティスギルディの異質すぎる見た目に何も言わずに注文を淡々とこなす。

 オレンジ色が特徴的なカクテルがそっとボティスギルディの前に置かれた。

 その時、店内に別の客が入ってきた。その人物は銀髪とサングラスが特徴の高身長の男であり、真っすぐと迷いなくボティスギルディの隣に腰を下ろす。

 

「マスター、私にも彼女と一緒の物を」

 

「あらアータは……」

 

「おっと隣に座るのは不味かったかな? ボティスギルディ?」

 

「別にアタチは全っ然カマわないわよぉ、バアルギルディぃ~」

 

 ボティスギルディの言った通り、この男の正体はアルティデビルの実質的なトップであるエレメリアン、バアルギルディ。

 この姿は彼の特殊能力の一つである変身能力を活かした姿であり、そのクオリティはかなりまじまじと見ない限りは偽物であると見抜く事は出来ないレベルの物だ。完全な人間となっているフェニックスギルディのような例外を除けば、エレメリアンの人間態としては彼以上の物は存在しない。

 

「で、そんな姿してどうしたのよぉ? 何も言わずに急に出て行ったものだからアガレスギルディが心配していたわよぉ?」

 

「ふっ、そうか。それはすまなかったな」

 

 バアルギルディはリーダーである立場が故に、出撃したエレメリアンがサボらないように監視し時には警告する役割を担っている。だから別に他の一般エレメリアンと違って独断で出撃することが出来ているのだが、今回ばかりは誰にも何も言わずに基地から出て行っていたのだ。

 それには理由があった。

 

「まぁ、少し気になってしまう事があってな……それはどうしても私自身の目で確かめたいことだったのだよ」

 

「ふーん、それって一体何かしらぁ? 教えて頂戴よぉ。教えてくれたら今日の飲み代はアタチがだして、あ、げ、る」

 

「……ふっ、君には敵わないな。いいだろう、特別に教えてあげよう」

 

 少しの沈黙の果て、バアルギルディは答えだす。

 

「私は今、人間社会に潜伏することでテイルバイオレットの正体を追っているのだよ。厳密に言えば変身前のテイルバイオレットの性別をだがね」

 

「あらぁそんな事なのね。ワクワクして少し損しちゃった。もしかしたらベリアルギルディの求めるある物に関連かと思っちゃったじゃないの~」

 

 バシッとバアルギルディの肩を叩くボティスギルティ。

 会話の内容と言い、失礼極まりないような言動に見えるがバアルギルディは別段怒っておらずそのまま続ける。

 

「すまないな、ベリアルギルディの言っているある物に関しては私でさ殆ど知らないのだ。っとそれよりも今度は私が質問してもいいかな?」

 

「バッチオッケ~よぉ~」

 

 ウザいくらいのテンションでサムズアップするボティスギルティはカクテルを喉に運ぶ。

 一方、バアルギルディはカクテルの入ったグラスを揺すりながら口を開く。

 

「君は見たのか? テイルバイオレットの正体を? 見たのなら少しだけヒントをくれ」

 

「ヒント? そうねぇ? いうなればアタチと似たような存在って事かしら」

 

「な、何? それはつまりオカマって事なのか……?」

 

 顔が真っ青に染まりつつあるバアルギルディ。もしこれが嘘でないのなら泡噴いてぶっ倒れるのではないのだろうか。

 

「違うわよぉ~ 似たようなって言ったでしょぉ~」

 

 バアルギルディの変わりようにケラケラと笑うボティスギルティ。

 その言い方からしてオカマではないと一安心するバアルギルディの姿はボティスギルディに更なる笑いを誘う。

 

「まぁそろそろ遊ぶのも辞めようと思っていたし、明日にでもアタチがテイルバイオレットの正体を見せてあげるわぁ。その時までお楽しみにしなさいよぉ」

 

「おっと、そう簡単に行くかはわからないぞ。私の勘はテイルバイオレットが君に勝つと訴えているからな。テイルバイオレットを倒すのは私しか有り得ないと言っているかのようだ」

 

「ふぅん、あっそ。ならそうならないように油断せずに気を付ける事にするわ」

 

 少しムッとしたボティスギルディはカクテルを一気に飲み干す。

 バアルギルディは未だにグラスを口につけずに揺すり続けている。

 

「じゃあそろそろアタチは帰るわぁ。今日は一緒に飲めて楽しかったわよぉ、また明日飲めるならもう一度飲みましょ。次はオカマバーにでも連れて行って、あ、げ、る」

 

「ああ、その時が来るのなら楽しみにしておこう」

 

 全て飲み切ったボティスギルディは二人分のお代を店主に渡すとそのまま店を後にした。

 良くも悪くも騒がしいボティスギルティが消えた事で店内はバアルギルディと店主の二人きりになり、再びしっとりとしたジャズの音が聞こえはじめる。

 そんな中、バアルギルディはあるお願いをすべく店主に声をかける。

 

「すまないマスター。申し訳ないのだがこれとミルクを交換してはくれないだろうか? 同胞の前で少しカッコつけてしまったのだが、私は飲めそうにない」

 

 バアルギルディは酒が飲めなかった。

 

 

 

 

 窓は閉め切っているというのに蝉の鳴き声がうるさくて仕方ない。

 夏休みの朝はいつもこうだ。学校に縛られずに存分に眠る事が可能だって言うのにぐっすりと眠り切ることが出来ずに起きてしまう。

 まぁ、今回に至ってはそれだけが理由って訳じゃないんだけどな。

 

 目を覚ました俺は隣でぐっすり眠っているティアナを起こさずにそーっと部屋を後にする。

 入れ替わってもう一週間。

 もうすっかり女の体に慣れちまった。

 今じゃブラジャーをつける事に抵抗もないし、手こずることなど全くない。その他、髪の手入れや日々ツインテールで生活する上での注意点、女としての過ごし方と今じゃ意識せずに出来てしまう。

 だけど、まだ一人で出来ていない事が一つだけある。

 

「さてと、今日こそはやってやる……」

 

 洗面所の鏡に映ったツインテールをしていないティアナの身体(俺の姿)を見たことで気合を入れ直し、リボンを手に取る。

 そう、俺が出来ていないのはツインテールを結ぶことだ。

 俺は入れ替わってから今日に至るまで、未だに一人でツインテールが結べておらず、いつもいつも失敗してはティアナに結んでもらうのがお約束となっている。

 この身体と入れ替わったからにはアイツのツインテールくらい一人で再現して結べるようにならないと示しがつかねぇ。俺はティアナの記憶の一部を見たことで決意したんだ。だから今日こそは俺一人で結んでやる。

 そう意気込んだ俺は髪を二つに分けて結んでいく。のだが……

 

「ダーッ!! 駄目だ駄目だ!! これじゃ駄目だって何度言えばわかんだよ!! 俺のバカ野郎!!」

 

 いつも通り、今日も完成したのはツインテールと呼ぶのに程遠い物だった。左右のバランス以前に何もかもがツインテールと呼ぶに値しない残念過ぎる出来栄え。

 何も進歩していないそれを見て、悔しさ以上に怒りがこみ上がって来る。

 どんなに下手くそでもどんなにぎこちなくてもいいからと思っていても、ここまで何も進歩なしだと流石に馬鹿とか下手くそ以前の問題だ。このままじゃ何時まで経ってもティアナが結ぶツインテールには追い付かねぇ。

 昨日、ティアナや青葉さんに焦っていると指摘されたが、その理由はボティスギルディではなくこっちが原因となっていた。

 

「ふぁ~、おっはよ~和くん。今日は一段と早いわね~」

 

 対照的な明るい声が聞こえて来たので振り返ると薄いピンクのネグリジェを着た悠香さんが欠伸混じりの朝の挨拶を交わしてきていた。

 俺はおはようと返しておく。

 程なくして悠香さんの顔から眠気が消え、シャキッとしたキレの良い顔へ変化する。まるで休息モードから仕事モードへ切り替えたようにも見える。

 

「昨日はどうだった? いい気分転換になったかしら?」

 

「全っ然。寧ろあんたたちがはしゃいだせいで余計に疲れが増えた気もするぜ」

 

「ふーん、それはよかったわ。じゃあ今度行くときはもっとはしゃいであげる」

 

 いきなり昨日の事をからかわれたので、それに相応しい皮肉を飛ばしてみるも、悠香さんにはまるで効果なく、笑顔のまま更なるからかいで返された。

 ばあちゃん同様、この人には絶対に敵わないんだなと思い知らされる。

 悠香さんはヘアゴムを手に取ると鏡を見ずに髪を結び始める。

 

「ふふ~ん♪」

 

 鼻歌混じりながら指を器用に動かす悠香さんは長い髪の毛を一つの束に纏めて結ぶ。

 ものの数十秒で見事なポニーテールが出来上がった。

 俺は完成したポニーテールの美しさ、そしてその手際の良さに目を奪われる。ツインテールとポニーテールの難易度の違いを差っ引いても悠香さんの手際は控えめに言って見事としか言いようがない。正に達人レベルの鮮やかな物だった。

 

「コツが知りたかったらその道の専門家に聞くことね。最もあたしはポニーテール専門だけど」

 

 着替え以外の朝の用意を済ませた悠香さんの去り際の一言はそれだった。

 その道の専門家というのが誰なのかなんて見当はついている。

 だけど、何となく言い出しづらい。気恥ずかしさと悔しさが入り混じった複雑な気持ちだ。

 

「意地ばっか張ってると何時までも何も見えてこないわよ~」

 

 俺の心を見透かしたかのような一言が悠香さんの部屋から聞こえてくる。

 でも、だからといってどう聞けばいいんだよと頭を抱えてしまう。

 そしてティアナが起床する時間となり洗面所にやって来た。

 

「おはよう和輝」




私の好きなシチュエーションの一つにTSした男性が色々と着せ替えさせられ恥じらうという物があります。
今回は本来予定になかったけど、思いついたので入れてみました。
あと、凄くどうでもいいですけど私は酒が飲めません。
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