俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
痛いだとか辛いだとかの負の感情を押しつぶしてくるかの如く、ツインテールへの熱い想いとそれに見合った力が心の底からめらめらと燃え上がってくる。
烈火のように燃え上がる闘志を胸にウインドセイバーの切っ先をボティスギルティに突きつける。
心は熱く、それでいて冷静さを忘れない。
「なぁーにが本当の戦いよぉッ!! 調子に乗ってくれちゃってぇッ!! あったまきちゃう!!」
そう言い終えた直後、ボティスギルティは一気に距離を詰めてはスラリと伸びた美脚を鞭のようにしならせながら、かかと落としの要領で振り下ろす。足に嵌められたハイヒールのヒール部分がまるで剣のような煌めきを放っていた。
女のようにしなやかにそれでいて男のように力強く。
ボティスギルティの高い技量によってただのハイヒールですらテイルギアの装甲をも容易に切り裂いてくる凶器になるのはわかっている。とてもじゃないが素手で受け止めるものじゃない。
だがそれは、あくまで俺が今までの俺のままであったらの話だ。
「ふんッ!!」
「うそん……!!」
追加装甲によってより強固になった左腕を盾にして受け止める。
ウインドセイバーではなく腕を盾に受け止めた事に驚愕を隠しきれないボティスギルティの隙を突くべく俺は左腕で脚を弾くと同時に間髪入れずウインドセイバーで一気に斬り上げる。
だが、そこは戦闘の達人ボティスギルティ。ウインドセイバーが肌を斬り裂くほんの数センチ、弾かれた脚の反動を活かしてバク転を行う事で回避してきやがった。
「甘いのよぉ~テイルバイオレットちゃん~」
「ああそうかい。でもよ、もう一本ありゃどうなるかな?」
「何ですって……!? ……ッ!?」
隙を生じぬ二段構え。
自由になった左腕はそのままフォースリヴォンに手を当てており、俺の手にはもう一本のウインドセイバーが握りしめられている。通常時では扱いきれないウインドセイバーの二刀流戦法もこのブレイブチェインに変身している時ならば可能となる。
気づくのが遅れたボティスギルティに俺は渾身の一太刀を浴びせる。
「イギャァァァッ!!」
派手なメイクで彩られたボティスギルティの顔面をウインドセイバーの刃が傷をつける。
エレメリアンなので血こそ出ちゃいないが、思わず流す涙によってそのメイクは再度ボロボロと崩れ、妖怪山姥に逆戻りだ。
「よ、よくも……アタチの顔を……!! 乙女にとって命ともいえる顔を……!!」
「オカマの癖に乙女だと? 笑わせんなよ」
「ムキーー!! 調子にのんじゃないわよぉー!!」
どこまでもハイテンションな奴だなと半分呆れる俺に向かって、ボティスギルティは飛び掛かる。
『来るわよ!!』
「わかってるっつーの!!」
「アタチ自慢のネイルアート!! そこらの武器とは訳が違うのよぉ!!」
手刀の数々が雨となって降り注ぐ。ボティスギルティの指先にはギャルのようにデコレーションされた長いネイルがあるので、ただの手刀とは訳が違う。
俺は二本のウインドセイバーで相殺すべく乱舞する。
刀とネイル、拮抗するはずのない二つの武器がぶつかり合う。
別にボティスギルティはネイルに特別な細工を施してなどいない。
至って普通の市販で売られているようなネイルだ。
それをウインドセイバーでぶつけて拮抗させるなんて凄まじい技量と言わざるを得ない。
なんて技量と気迫をしてやがると敵ながら天晴れと褒め称えたくなる。ちょっと五月蠅すぎるきもしない事もないが、こんな奴でも仲良くなればきっと毎日が楽しくなれるのではと思ってしまう。オカマの友がいたのなら入れ替わった当初の俺たち二人を支えてくれたのかも知れねぇしな。
だが、今は敵同士。
俺のツインテールを守る為にも全力を持ってコイツを斬る!!
「な、何よ!! 刀が赤く……!!」
段々とウインドセイバーの刃が赤熱化し始め、ウインドセイバーを振るう度に火の粉が舞い散り始める。
俺の中で燃えるツインテールへの想いが炎となってウインドセイバーに伝わり始めているんだ。
『和輝のツインテールが……燃えている』
「燃え上がれ!! 俺の想い!! 俺のツインテール!!」
ティアナが驚愕する中、俺の中での熱量は最高潮を達する。
コイツを倒して早くツインテールに触れたい、触れさせてやりたい。
爆裂した想いがウインドセイバーに熱い炎を灯す。
炎の剣となった二刀のウインドセイバーがボティスギルディのネイルを燃やし尽くし叩き斬る。
自慢のネイルを全て黒焦げにされたボティスギルティは防御する事も出来ずに炎の斬撃をその身で受ける。
「熱ぅぅぅぅぅぅぅッ!!」
「うるせぇ……なぁ!!」
熱々おでんを顔に当てられた時のリアクション芸人かとツッコミたくなる見事なリアクションで燃え上がるボティスギルティ。
勿論だが、ここで止める訳もなく、何度も何度もその体を叩き斬る。
「うらぁッ!! だらぁッ!!」
ブレイブチェインによって得た炎に元々持っている風の力が合わさり、炎の勢いは止まる事を知らない。みるみるうちにボティスギルティの肌は焼け焦げた斬撃の痕で埋め尽くされていく。
締めに二刀のウインドセイバーをクロスして振り下ろし、ボティスギルティをX
字に切り裂き吹き飛ばす。
『トドメよ和輝!!』
「おう!!」
トドメを刺すべく
「何度も何度も斬りやがってぇ!! オレはもう怒ったぞぉッ!!」
以前の戦いが頭の中でフラッシュバックする。
そうだ、奴にはまだ本気の力が残されている。
「う゛お゛お゛お゛お゛!! あ゛あ゛あ゛!!」
首から下の細みでしなやかな肉体がボディビルダー顔負けのマッチョな肉体へと変化していき、山姥のように崩れたメイクは悪鬼のような形相を思わせるメイクへ変貌していく。
初戦闘時に変化したボティスギルディの怒った姿。
あの姿には初戦で散々煮え湯を飲まされたが、今の俺ならば対抗できる。
ここからが本気の戦い、正真正銘のファイナルラウンドだ。
「行くぞぉ!! テイルバイオレットォ!!」
「望むところだぜ!! やってやるぜッ!!」
◇
テイルバイオレットとボティスギルティが激戦を繰り広げている頃。
「バイオレット、どうやら物にしたみたいね。これで心置きなく戦えるわ」
テイルブルームが戦っている場所にもしっかりと熱量が伝わって来るブレイブチェインの真っ赤な炎。
少し前まではテイルバイオレットを早く援護しなければと感じていたが、あの炎纏う深紅の姿をみれば、その不安は空の彼方へと吹き飛んでいくのがわかる。
今のテイルバイオレットならボティスギルティ相手に負けはしないとテイルブルームは戦闘員》の大群に集中した。
「ざっとあと50体って所かしら……」
500体にも及ぶおびただしい数の戦闘員も今ではもうその十分の一である50体に数を減らしている。
ようやく終わりが見えてきたとテイルブルームはニヤリと口角をあげる。
相も変わらず飛び掛かってくる戦闘員をグランアローで斬り裂くテイルブルームの脳裏には初戦から今日に至るまでの修行の日々が鮮明に思い出せれていく。
約一週間前、ボティスギルティとの戦いから回復を終えたテイルブルームこと山村華は日本に現存する中でもかなり数が少ない樹海に訪れていた。
元々、一対一の戦いでは過去の経験も相まって苦ではなかったが、初戦では通常よりも強化された戦闘員相手に手こずったが故に敗北する原因となっていた。
華は一体多の戦闘は経験がやや苦手だった。その中でも周囲に対して満遍なく集中できるという事が苦手であった。
故に行った一週間のサバイバル。
大自然の中に身を置きながらツインテールを雨や虫、動物といった外敵から守る。
昼間でも薄暗い森の中且つ、電気も何もない。
そんな過酷な環境でツインテールを維持しながら生き抜くのは至難の業。
しかし、華はやり遂げた。そしてまた一つ強くなったのだ。
テイルブルームはそんな思い出を振り返りながら属性力を高めていく。
「「「モケーー!!」」」
一体一体ではなく、残った全戦闘員が一斉に襲い掛かって来る。
戦闘員側もこれでトドメだと言わんばかりの圧。元々、この戦闘員はボティスギルディによって鍛え上げられた特別な個体たちなのでその力は通常の個体を遥か上を行っている。
だが、テイルブルームは怯むことなくグランアローを右手で水平に持ち、完全開放を行う。
「
グランアローの弧についているクリアグリーンの刃が巨大化し、グランアローは弓の形から薙刀へと形を変える。
大地のエネルギーが薙刀状のグランアローに収束していく。
そしてテイルブルームはエネルギーを充填し終えたグランアローを戦闘員の群れにではなく地面に目掛けて叩きこむ。
「タイタニッククラッシャー!!」
唸る剛腕と大地の薙刀。その二つが合わさった一撃が地面を叩く時に巻き起こる衝撃波は周囲を取り囲んでいた全戦闘員の体を粉微塵に打ち砕いていく。
連鎖的に起きる爆発が重なって大爆発が巻き起こる中、テイルブルームは力強くツインテールをたなびかせていた。
「ふう……ようやく終わったようね」
ボティスギルティとの決着もそう遠くないだろうし、そもそも正々堂々と真正面からぶつかり合っている二人の戦いを邪魔立てするわけにはいかない。
そう感じたテイルブルームはテイルバイオレットが勝つことを信じながら見守るのであった。
◇
「おらぁぁぁッ!!」
「ドォリャアア!!」
ボティスギルティの戦いは熾烈を極めていた。
剣と拳がぶつかり合っては炎が舞い散り、僅かながらも生えていた雑草が火元となって広範囲に燃え広がり始める。戦場となっているこの場が人気のない廃工場で心底良かったと思えてくる。
初戦同様に光速とも見間違える程に加速するボティスギルティの剛腕が、俺の顔面に向かって飛んできているのが辛うじて見えた。
「ッ!! この程度、喰らうもんかよ!!」
ツインテールが傷ついたらどうすんだよと二刀のウインドセイバーを重ね合い盾とする事でボティスギルティの拳を受け止める。
その衝撃は繰り出された時の速さも相まって凄まじく物であり、受け止めているというのに手から順に徐々にではあるが、ピリピリとした痛みと衝撃が全身に伝わって来る。
ブレイブチェインに強化しておきながらこのレベルなら通常の形態ではあっけなく吹き飛ばされていただろう。改めてこの力に感謝だ。
「お返しだボケェ!!」
ついさっきまでのくねくねしたオカマとは思えない程に鍛え抜かれバキバキに割れたボティスギルティの腹筋目掛けてウインドセイバーが横薙ぎで二連続で斬り抜ける。
シックスパックからエイトパックへと増やしてやったぜと意気込みながら、意気揚々と振り返るとそこには何もなかったかのように佇むボティスギルティの姿があった。
やはりだめかと何となく察していた展開に唾を吐きたくなる。
それにしてもこの感覚。いくらボティスギルティが本気モードと言っても、ここまで苦戦するものなのだろうか? ツインテールに対する炎はさらに燃え上がっているというのに、それに反比例するかのように力が落ち始めている。
ただただ疲れがたまってきたのだったらそれでいいのだが、何だか不安が波となって押し寄せてくる。
「なんだぁ? 随分と動きのキレが落ちてるぞテイルバイオレット……!! 疲れ始めたというのか? オレを失望させるなよ」
「けっ、刀の切れ味だけにってか? 座布団一枚くれてやるぜ此畜生」
失望と怒りに満ちた表情を浮かべるボティスギルティ。
つくづくオカマとは厄介な特徴を持っていると実感されられる。怒ると素が出て打って変わって男らしくなるそのギャップに知っていても驚かされるからだ。
「笑えない冗談だ!!」
怒りと共に繰り出される怒涛のラッシュが襲い掛かる。
女の武器であるネイルを活かした手刀ではなく、男の武器である腕力に物を言わせたやり方だ。
ウインドセイバーで受けきれる量ではないのは直ぐにわかったので、咄嗟にウインドセイバーを放り投げて腕で受け止める。
追加装甲の赤いアーマーが熱を帯びながら衝撃を吸収していく。
「くっそ……!!」
『和輝!! しっかりして!! どうしたのよ!!』
「うるっせ……!! わかってんだよ……!! でもな……」
ティアナの心配する声が聞こえてくる。
俺は自分自身の身に起きているある異変に気が付きそうになっていた。
「オカマラッシュゥゥゥ!!」
「がぁぁぁっ!!」
漢らしすぎる潔いネーミングセンスの必殺乱舞が炸裂し、俺は鉄屑の山目掛けて吹き飛ばされる。
ブレイブチェインの追加装甲が炎ではなく火花を散らし始めていやがる。
何とかツインテールが汚れないようにすることは出来たが、ダメージの方は深刻と言ってもいい。
そんな事を思いながら俺は汚れないようにツインテールを摘まみ上げた時、ようやくこの違和感に気が付いた。
「そうか……お前が言っていたのはこういう事だったのか……」
起き上がる俺の脳内に思い起こされるのは今朝ティアナが言った言葉。ツインテールになってしまうかもしれないといった物だった。
あの時は何をアホな事言ってんだこのツインテール馬鹿はと思っていたが、今なら何となくわかる気がする。
自分が自分でなくなるってのは言い得て妙だ。
ツインテールが好きになり過ぎて何だか俺じゃなくなっている気がする。
ブレイブチェインによって高まっていくツインテールへの想いが、俺が俺でなくなる不安を生み、それが原因で全力が出せなくなっているのがわかる。
装甲の火花も単にダメージを受け過ぎたからではない。俺が迷い始めたから不具合を起こし始めているんだ。
「まだ立つか……テイルバイオレット!! ならばこれだ!!」
ボティスギルティの姿がフッと消えて見えなくなり、風切り音がしたかと思うと俺は殴られた感触があった。
初戦でいいようにやられた高速戦術でトドメを刺すつもりのようだ。
そうとわかっていても俺は全力で迎え撃つことが出来そうにない。
これ以上、全力で戦えば俺は、ツインテール以外に興味を失いティアナを見てもツインテールにしか反応しなくなるんじゃ……と思い躊躇が生まれてしまう。
『和輝、聞いて……』
迷う俺にティアナの声が聞こえてくる。
俺はボティスギルティの攻撃を最低限の力で何とか防御しながら耳を澄ます。
『和輝は言ったよね。私がツインテールを求めて暴走するようなら全力で止めるって』
「ああ」
『だから私も和輝の身に何かが起きるようなら全力で止める。それが私たち、二人で一つのツインテールって事でしょ?』
「お前……!!」
『だからもう、これ以上縛らないで……。教えたでしょ? ツインテールは縛り過ぎたら髪が痛んじゃうって』
縛り過ぎないで……か。
どうやら俺はこの力に呑まれないようにする為にツインテールだけじゃなくて俺自身も縛るくらいになっちまっていたらしい。
ティアナの身体で過ごした毎日はツインテールを結ぶための毎日。決してツインテールを縛る為の毎日じゃない。
てかそもそも、俺にはティアナを始め、頼りなる仲間で溢れている。
入れ替わるなんて意味わかんねぇ状況になっても落ち着いて助けてくれた悠香さんに青葉さん、俺が音を上げた戦闘員たちを引き受けてくれた華先生。いつも通りに接してくれた匠。
こんな珍妙な出来事から助けてくれたんだ。きっとこれから俺の身に何が起きようともその時は仲間たちが何とかしてくれる。頼りなる
だから俺は今できることを全力で成し遂げる。
俺が今すべきなのは目の前の
「もっとだ……!! もっと……!! もっと!! 燃え上がれぇぇぇッ!!」
迷いを振り払った時、俺の身に力が溢れてくる。
傷つきくすみ始めていた装甲は再び深紅の輝きを取り戻す。
俺は全身から爆炎を放ち、ボティスギルティを吹き飛ばした。
瓦礫の中から立ち上がるボティスギルティは不敵な笑みを浮かべる。
「なるほど、ようやく元に戻ったか。そうでなくては本気で戦う意味がない」
「てめぇには謝らねぇといけねぇことばっかりだな。迷って悪かった。こっからが本当の戦いだ」
「ぬかせ!! もう終わりだ!! 喰らえテイルバイオレットォォォ!!」
再度、ボティスギルティの姿が見えなくなる。
いくら全力を解き放った状態とはいえ、このスピードで動く野郎を捉える事は無茶にも程があるってもんだぜ。
だが、俺にはこれを破るある秘策がある。
ティアナに言われた事を思い出し俺は目をつぶる。
「血迷ったかテイルバイオレット!!」
何も見えない状況の中で精神を統一させる。
今朝ティアナが言っていたように俺は目で見るのではなく、心で思い描くことだけを考える。
何も聞こえてこない明鏡止水の境地に達した時、俺は野郎に秘めるツインテール属性を感じ取り、ウインドセイバーを一本精製しては居合切りの要領で抜刀する。
「そこだぁぁぁ!!」
「何ィィィ!!」
目を開けた時、そこには深々とした斬り傷を負ったボティスギルティの姿があった。
今こそトドメをさすチャンスだとティアナに呼びかけると、再度精製したウインドセイバーを再び二刀流で構え直す。
「「
高まりに高まった俺とティアナ、二人の想いはテイルギアを通して重なり合い、より一層、強く熱く燃え上がる。
二本のウインドセイバーを持ちながら駆ける俺の周りに紫の風と赤の炎がそれぞれ吹き荒れ莫大なエネルギーを生み出す。
「男のように強く、女のように優しいオカマこそが!! 最強の属性であると示す為!! 男なのに男が好きといった悩みを抱える数多くの同胞を救う為!! オレは!! アタチは!! 負けられんのよぉぉぉ!!」
熱が入り過ぎて自らの想いを赤裸々に告白するボティスギルティ。
だが、だからといってここで負ける義理など万に一つもない。
俺は溢れ出るエネルギーをウインドセイバー二本それぞれに収束させると向かってくるボティスギルティを叩き斬る。
「俺だって負けられねぇんだよ!! この身体でいる限りな!! うおりゃあああッ!!」
「ッ!? テイルバイオレット。アータまさか……!?」
炎と風の二つの軌跡が空を斬り、必殺のブレイジングスライサーが炸裂。斬り裂かれたボティスギルディの全身が斬り裂かれた箇所を火種にして発火する。
「み、見事よぉ……テイルバイオレット。あなたも中々のオ……ヵ……」
ボティスギルティが言い終えることはなく、真っ赤に膨張しては弾けるように大爆発を引き起こす。何を言いたかったのかはわからないが、斬られる直前に何かに気づいたようだった。
「勝ったぜ……」
爆炎が消え、中に
テイルギアは霧のように消え去り変身が解けると、地面にへたり込む。
勿論、地面にツインテールの穂先が付かないように膝の上に置くことも忘れない。
俺は守りきれた喜びとブレイブチェインを物にした嬉しさの余り、声にならない叫びをあげた。
◇
「おめでとうー!!」
「おめでとう……」
100均で買った安物のクラッカーが弾けるとパンと音と共に紙吹雪がリビングに舞い散る。
テーブルの上のケーキには「祝ブレイブチェイン」とぎこちない腕で書かれたチョコレートの文字。
俺たち二人が帰って来るなり待っていたのは何かのパーティーかと錯覚するそれであり、悠香さんと青葉さん、そして匠が出迎えてくれた。
「ねぇ和輝、これって祝勝会って言うのかな?」
「さぁ……? 多分、誕生会の方なんじゃねぇの?」
首を傾げるティアナだが、俺には心当たりがあった。
俺は戦闘を終え帰路に就く際、悠香さんにブレイブチェインへの変身を物にしたと語ってしまったんだ。これはティアナによってブレイブチェインは俺のツインテールに対する気持ちが高まったから変身が可能になったと改めて教えられたことで何だか認められた気分で喜んでしまったのが原因だ。
にしても今は夜の7時。日が落ちて外がようやく暗くなる時間だ。
俺が報告したのは一時間前の6時だって言うのに随分と準備が早いなおい。
「いやー遂にテイルバイオレットにも新フォーム誕生とはなー。なぁなぁ変身してみせてくれよ~」
「てか、どうして匠がいんだよ」
「おいおい、このケーキ俺がバイト先からかっぱらって来てやったんだぜ? いいだろいてもよー」
「そうよ。このケーキはたっくんのおかげなんだから」
「強制的に連れて来た癖に……」
ああ、なるほどな。
失礼だけど、どおりで安物のケーキな訳だ。
サイズも小さいし、苺は一個しか乗ってないしで正直言って味気ない。夏から新しく始めたコンビニバイトでもらった廃棄商品って奴だろう。
消費期限が昨日になっているけど食ってもいいのかこれ?
てかそれよりも強制的に連れて来たってどういう意味だおい。
「本当の事言うと、バイト帰りに悠香さんに見つかっただけなんだけどな。何かお祝いでもと探してる悠香さんにバッタリと……」
「だろうな……」
ドンマイ匠と慰めながら俺たちはテーブルを囲む。
悠香さんが人数分のコーヒーを淹れてやってきた。
和やかな雰囲気のまま食べるケーキとコーヒーは思いのほか美味しい物だ。勿論、ちゃんとしたケーキやおやっさんの淹れるコーヒーなどとは数段落ちるがそれは言わないお約束って奴だ。
「そう言えば、いつになったら俺たち元に戻るんだ?」
「そう言えばそうよね……」
一息ついた時、ふと思った事が口に出てしまった。
ティアナはこの入れ替わりはブレイブチェインを物にするための試練のような物だと考察していたので、もしそれがそうならもう元に戻ってもいい頃だろう。
「別にあたしたちは何時までいても構わないわよ? ねぇ青ちゃん?」
「うん……。お楽しみがへったら悲しい……」
「そう言ってもよぉ……」
悠香さんたちはああは言ったが、出来るなら早いとこ元の身体に戻りたいと俺は思っている。
何時までもこのままじゃ将来的にはどうすりゃいいんだよ。
このままじゃ一生俺たちは一緒にいないといけなくなる。
学校を卒業して大人になってもこのままじゃティアナとその……結婚でもするしか……。あ、でも、それなら俺が女だから嫁になるって事だよな……
「何赤くなってんだ? もしかしていやらしい事でも考えたんじゃねーの? 例えばセッ――」
「な訳あるか!!」
「やめないかぁぁぁ!!」
怒りのままに匠の頬を平手打ちすると、匠は奇怪な叫び声を上げながら床の隅に積み上げられたゴミの山に顔から突っ込んでいった。
錐揉み回転の速度が明らかに常人がしていいものではなかったけど、何かとタフな匠のことだし多分大丈夫だろう。
「もう一度結びたいなぁ……。ッ!?」
吹っ飛んだ匠を尻目にティアナがポツリとそう漏らした時、ティアナの腕に嵌められたテイルブレスが眩き光を放ちリビングの中を光で満たす。
もしかしたらもしかするかもしれないと思った直後に俺は意識を失った。
「うーん……」
「ちょっと大丈夫? ティアちゃん?」
悠香さんの声が聞こえてくる。
その中で俺をティアナとして認識している事を知った事により俺の意識は急速に回復していく。
これはもしかするぜ。
「俺……」
「私……」
俺の目の前にはついこの間までお世話になっていたティアナの身体。
俺はおもむろに下半身に手を当てる。目の前のティアナらしき人物は胸……ではなく髪というよりツインテールに手を当てていた。
「「ある」」
直後、響き渡るのは嬉しさがこもった叫び声。
そう、俺とティアナはついに互いの身体が戻ってきたんだ。
何が何だかやっぱりわからないが、兎に角嬉しいことには変わりない。まぁ、ちょっとばっかしツインテールが名残惜しいけどよ。
「ええ……戻っちゃうのぉ」
喜び抱きしめあう俺たち二人を尻目に心底残念がる先輩方。
今まで世話になってなんだが、なんて失礼な人たちなんだ全く……。
「折角、和くんに女の気持ちよさを教えてあげようかと思っていたのに……」
「ティアナちゃんに男の以下略……」
「「結構だ(です)!!」
俺たち二人は互いに顔を真っ赤に染めながら声を大にして叫んだのだった。
◇
都内の某所の地下に存在する一軒のバー。
つい先日、ボティスギルティとバアルギルディが飲み明かしたバーにてバアルギルディは人間に扮したまま一人寂しくミルクを飲んでいた。
「やはり君がテイルバイオレットだったとはな……」
バアルギルディは一枚の写真をみながらポツリと声を漏らす。
グラスに注がれた真っ白なミルクをグイッと一気に飲み干した。
「必ず君をデレさせてみせる。ツンデレ属性の名に懸けてな」
写真に収めらているのはボティスギルディを撃破直後の地面にへたり込む和輝の姿。即ち、そこにはティアナの身体の状態の和輝が収められていたのだった。
次回、ようやくバアルギルディとの決着編に突入します。
ちなみにブレイブチェインに時間制限はないですが、通常よりも少しだけ負担が大きいという設定です。