俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第60話 運命の時

 逃げ帰ってきたバアルギルディは基地に着くなり、先程みた真実を思い出す。

 今まで何度も何度も顔を合わせてきた愛しき存在テイルバイオレットの正体が男だった。生意気で男勝りだが、時折見せる確かな可愛さを持ったあのテイルバイオレットが男だった。名も知らぬ誰かに恋しているのにそのツンデレな性格故に思い伝えられずもじもじしていたテイルバイオレットが男だった。

 

「うっ……!!」

 

 バアルギルディはその余りの衝撃に嘔吐しかけるが、寸での所で手で抑え込むことに成功する。

 しかし、体は実に素直だった。

 吐き気こそ抑え込んだが全身のいたる所がびくびくと震えている。まるでさっき見た現実は幻であり私は何も見ていないと逃避しようとしているかのようだ。

 次にバアルギルディが取った行動は改めてさっき見た物が現実かどうかを確かめるべく頬をつねる事だった。

 しかし、返ってきたのは痛みだけ。

 本来ならちくっとした小さな痛みであるそれは今のバアルギルディにとっては一流のプロボクサーのボディブローが腹にクリーンヒットした時以上に効果がある。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!」

 

 今日一番の絶叫が周囲に響き渡る。

 これが愛する存在が実は男でしたと知ってしまった衝撃なのか。

 

「ツンデレを愛する者でありながら、男のツンデレを見抜けぬとは……」

 

 いや、それだけではなかった。

 バアルギルディは自身の不甲斐なさにも衝撃を受けていたのだ。

 ライバル系のキャラクターにありがちの男性的ツンデレを女性的ツンデレだと認識してしまい見抜けなかったのはツンデレを愛する者にとって一生の不覚といっていい。

 バアルギルディには男を愛でる趣味はない。

 ツンデレキャラは女だけでいいと考える程なのだ。

 

「ぐぁぁぁぁ……って、ん? ちょっと待て……」

 

 ひとしきり絶望し終えたバアルギルディはふと冷静になって考え始める。

 テイルバイオレットが男であるなら、先日見た赤紫のツインテールをした女の子は誰なのか。ボティスギルティを撃破し疲れ切ったテイルバイオレットが変身を解除した姿は紛れもなく女の子であったはずだ。

 影武者説、妹説、見間違い説、そのどれもがしっくりとこない。

 テイルバイオレットの事を最も愛しているからこそわかる。あれはどちらも確かにテイルバイオレットだった。

 だからこそあの娘は何者なのかわからなかった。

 

「な、何者なのだ……テイルバイオレット……」

 

 答えが出ず謎が深まる所か、ちょっとした恐怖すらも感じ始めるバアルギルディ。

 このままでは埒が明かない。

 そう判断したバアルギルディはふらふらとよろめきながら自室を目指す。

 

「やっぱりテイルバイオレットにはチャイナドレス一択だ」

 

「何を言うか、テイルバイオレットのようなやんちゃ娘だからこそロリータファッションが似合うのでないか」

 

「おうッ……!!」

 

 その道中、多くの同胞がテイルバイオレットについて自身の属性を交えて語り合っており、その会話を聞く度にバアルギルディは実は男なんだと思い出して嘔吐しかける。

 中には先日バアルギルディが撮影してきたあの謎の少女をフィギュアとして製作している者もおり、そんな者に対してバアルギルディはただただ心の中ですまないと謝罪を述べ続けるしかなかった。

 バアルギルディはこの時ばかりは自室を遠くにしてしまった事を後悔した。

 

「やっとついた……」

 

「おや?」

 

 ようやく自室の目の前に辿りつたその時、バアルギルディの背後からしわがれた声が聞こえて来たので振り返るとそこにはアガレスギルディの姿があった。

 

「バアルギルディ殿ではありませぬか。いつの間にか帰っておられたのですな」

 

「ア、アガレスギルディ……!?」

 

 動揺がバレれば何があったのかを問いただされ、ポロっとさっき見た衝撃の真実を口走りかねない。

 その事だけはしてはいけない。

 何故ならこの真実が基地内で広まれば大惨事になるのは目に見えているからと思ったからだ。

 きっとある者は怒りで暴れ狂い基地内を破壊し、ある者は悲しみで嘆き続け、ある者は今までの自らの行いを振り返り恥ずかしさの余り死んでしまうかもしれない。

 

「今日はいかなる収穫がありましたかな? 皆もテイルバイオレットについての新しき情報を欲しがっておりますぞ」

 

 バアルギルディは慎重に言葉を選びながらアガレスギルディから逃げようと試みる。

 

「そ、それがだな……その……なんだ。今日は……」

 

 言葉が詰まる。

 どうすればこの場を乗り越える事が出来るのだと頭脳をフル回転させるが何も思いつかない。

 このまま逃げる選択をすれば何か感づかれる可能性がある。だからといって何もなかったと答えるのも不自然だ。

 

「そう言えば今日はテイルバイオレットに告白するとおっしゃっておりましたな。このアガレスギルディ、その結果を知りとうございますのじゃが」

 

「うっ……!!」

 

 三度吐きそうになるを我慢するバアルギルディ。

 タイムマシンがもしもあるのなら過去の自分を殴りつけたい。

 当たり前だが告白もクソもない。

 

「ま、まさかフラれたのですか……?」

 

 バアルギルディの様子がおかしいと気づいたアガレスギルディ。

 バアルギルディはそれを好機と見るや否や無言で首を縦にふった。

 

「そ、それはお気の毒に……」

 

「すまない、今は一人にしてくれないか……」

 

 必死に演技するバアルギルディえを見てすっかり信じ切ってしまったアガレスギルディはこの事を口外しない事を誓った後去っていった。

 バアルギルディはアガレスギルディが見えなくなるや否や自室に飛び込み鍵をかける。

 その眼には涙が溢れていた。

 

「フッ、そうか。私は失恋したのだな……」

 

 自室の壁一面に貼り付けられたテイルバイオレットの写真とイラストが目に入る度に涙が溢れてくる。

 初恋の相手がまさか男。知らなかったとはいえ辛いことには変わりない。今じゃテイルバイオレットをどうやって直視すればいいのかすらわからない。

 今は亡きグレモリーギルディならばこの自分自身の姿を見ればさぞかし愉悦感に浸っていれただろうと思ったバアルギルディは自虐的に笑い涙を拭う。

 

 ひとしきり涙を流し終えたバアルギルディは壁に貼り付けれた写真とイラストを丁寧に一枚ずつ剝がし始めるとダンボール箱の中に丁寧に折りたたんで収納していく。

 それはまるで今までの思い出を忘れようとしているようだった。

 バアルギルディの手が本棚に差し掛かり同人誌を処分しそうになったそんな時、バアルギルディはふとある事を思い出した。

 

「少年……」

 

 本屋で出会ったあの少年。確か名前は涼原和輝。

 彼は私以上にテイルバイオレットを知り尽くし、まさに友と呼べる程に心通わした存在だった。

 その正体がまさかテイルバイオレットだった。

 あの出会いは偶然かそれとも運命なのか。

 バアルギルディは神をいたずらに翻弄されたのだなと悟り再び涙を流す。

 

「君がもし女の子であれば、どれだけ嬉しかったか」

 

 あの短時間であそこまで心を通じ合えたんだ。きっと互いに正体を知らぬままこのまま過ごしていればもっとより深い仲にでもなれただろう。そしてもし、あの少年が少年ではなく少女であったのならそのまま恋仲に発展する事だってあったはずだ。

 そんな叶いもしない幻想に思いを馳せた時、背後から声が聞こえて来た。

 

「随分と無様ななりじゃあないか。あのバアルギルディがめそめそ涙を流しているとはなぁ」

 

「だ、誰だ!?」

 

 バアルギルディが振りむくとそこには邪悪な笑みを浮かべるベリアルギルディが立っており、バアルギルディ目掛けて、魔神の吐息(デモン・ブレス)に更なる改良を加えた物を投げつけた。

 余りに突然の出来事故に普段なら反応できるはずのバアルギルディは反応できず、魔神の吐息(デモン・ブレス)はバアルギルディに命中し体内に溶けるように入り込んでいった。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォッ!!」

 

 テイルバイオレットの笑顔が描かれた同人誌を手で握りつぶしながら咆哮をあげるバアルギルディ。

 その様を見てベリアルギルディは満足気に呟く。

 

「さぁバアルギルディ、オレの為、最後の役に立ってもらうぞ」

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 吐いたため息は目の前に広がる白い天井にとけるように消えていく。

 俺は今、自宅のベットにて手を後ろに組んだ状態で寝転がり天井を眺めていた。

 自宅だという事もあり当たり前だがティアナをはじめとした他の連中は周りに誰もおらず俺一人だ。

 聞こえてくる音はリビングでばあちゃんが見ているテレビの雑音と俺の目の前で回る扇風機が音くらいで、五月蠅すぎるわけでもなくかと言って静か過ぎるわけでもなく一人でボーっとするには丁度いい騒がしさだ。

 俺は扇風機の風にさらされながら昨日の事を振り返っていた。

 

「バアルギルディ……」

 

 まさかあの男の正体がバアルギルディだったなんてな……

 バアルギルディといえば俺にとってはある種の因縁がある相手だ。

 今まで何度も対峙しては仕留めきれず撤退されたり、もしくは逆に見逃されて悔しい思いをする事があったりと、奴との関係は宿敵ともライバルとも言える奇妙な関係と言ってもいい。

 俺はそんなバアルギルディを前にどうすればいいか迷ってしまった。

 変身前とはいえ心を通じ合えたんだ。情の一つや二つ湧くに決まっている。

 多分、唯乃さんっていうエレメリアンでありながら人と分かり合えた存在を知っていたのも原因の一つだろうな。

 まぁ兎に角、俺は情をかけたが故にバアルギルディに敗北する寸前まで追い込まれちまったって訳だ。

 結局あの時は俺の正体を知ったバアルギルディ側が酷く狼狽え撤退をしてくれたから何とかなったけど、次にバアルギルディと対峙する時、俺はどうすればいいかまだはっきり決めれていない。

 倒すべきかそれとも和解の道を探すか。

 どっちを望んでいるのかすらもわからないんだ。

 

「駄目だ。このまんまじゃ埒が明かねぇ」

 

 誰にか相談しようにも事が事なので話すに話せない。

 でもだからといってこのまま一人でボーっとしていても答えは見えてこない。

 

「場所変えっか……」

 

 気分を変えるにはまず場所を変えてみよう。外は暑いがこのまま家でくすぶるよりかはマシだ。

 そう思った俺は立ち上がる。

 幸い着替えは既に済ませているので後は外に出てバイクの発進させるだけだ。

 

「なんだい和輝。どこかにでかけるのかい?」

 

「まぁな。って、俺がいないと寂しいとか言うつもりかよばあちゃん」

 

「な訳あるかい。若いんだからさっさと外で汗流しながら走り回ってきなって思っただけだよ」

 

「あ、そう。んじゃまぁ俺行ってくるわ」

 

 いつも通りばあちゃんと互いに憎まれ口を叩きあった俺は玄関を抜けて家の外に出るなりガレージに停めてあるバイクの下に向かう。

 そのままバイクに跨りアクセルを入れた俺はとりあえず学校に行って新聞部の部室にでも行ってみようかとバイクを走らせるであった。

 

 

 

 

 バイクを駐車場に停め、そのまま一直線に旧部室棟の最奥へ。

 程なくして新聞部部室の目の前に辿り着いたが、何やら中が騒がしい。いつもなら聞こえてこないような怒声が聞こえてくる。

 華先生も悠香さんも青葉さんも怒るような人柄じゃないしそれならば一体誰がこんなに騒いでいるんだと思いながらドアを軽くノックした後、部室内へお邪魔する。

 すると見えたのは奥のパソコン地帯にて四苦八苦しながらゲームをプレイする華先生とその横で大声でダメだしを行う匠と小声でぼやく青葉さんの姿があった。

 なるほどな。聞こえて来た怒声の元は(コイツ)からだったのか。

 そんな風に部屋の入口で納得している俺に気づいたのか、ソファで耳かきをしていた悠香さんが声をかけてくる。

 

「あら、おはよう和くん。どうしたの?」

 

「うっす。いやまぁ、特に理由って言う程の事はないんですけど……暇だったものでつい……」

 

 いくら暇だからといって所属してもない部活に顔を出すってどうなんだって思わなくもないが、悠香さんは特に気にしていない様子だった。

 まぁ、匠がいる時点で今更ではあるしな。

 

「昨日は大変だったみたいね、あたしからすれば和くんが無事で何よりよ」

 

「そいつはどうも……って、それよりも……あれ、何やってるんですか? ゲームですよね?」

 

「あ、やっぱ気になるよね~」

 

 ニヤニヤとした笑みを浮かべる悠香さん。

 その直後、またして匠の怒声が響き渡る。その内容は何回その選択肢を選べば気が済むんだ的なニュアンスの物だ。

 

「んだよ匠の野郎……」

 

「これな~んだ?」

 

 もう少しボリューム下げやがれと注意してやろうかと思った矢先、それを遮るかのように悠香さんが一つのゲームのケースを見せてきた。

 

「はい?」

 

 パッケージに描かれているのは一昔前のアニメでよくあった目が大きくくりくりといった特徴的なパースで描かれた可愛らしき美少女たち。

 隅っこの方に18禁と注意書きがされたそれは誰がそう見てもエロゲーと答える物だろうなと認識した。

 

「ただの恋愛系ゲームですよね」

 

「そそ。ちょっとエッチなシーンがあるだけの何の変哲もない普通のゲーム」

 

「おいおいいいんですか? 先生にそんな物やらせても」

 

「大丈夫よ、結構マイルドな奴だから」

 

 だからといって大丈夫って訳じゃないだろとツッコミたくなるが、これ以上言っても意味がなさそうなのでやめだ。どうせこの部活に一般的な常識は無駄だからな。

 にしてもこの部活、いくら活動内容が学校の宣伝として大きな意味があるからつってもよ、流石に自由過ぎるぜ。校則なんかありゃしねぇ。

 てかそもそも、エロゲーが学校の部室にある事には驚かない自分がいる事の方が問題な気がしてならない。

 

 毒されている現状に危機感を覚える俺ではあったが、未だに何故華先生がプレイしているのだろうかはまだ疑問のままだった事を思い出す。

 そんな俺を見透かしたかのように悠香さんは続けた。

 

「昨日、和くんがバアルギルディと戦ってる時ね、どうやらこんなことがあったみたいなの……」

 

 

 

 

 和輝がバアルギルディに対して苦戦していた頃、テイルブルームはベレトギルディと戦っていた。場所は和輝たちとは少し離れた観覧車の麓にある庭園。

 テイルブルームの得意とする戦闘スタイルはテイルバイオレットとは違って防御重視のカウンター戦法。故に自分から積極的に攻めるような行動はとらない。

 ベレトギルディもこれといった攻撃を仕掛けないのでこのまま膠着状態が続くと思われた時、ベレトギルディが声をかけていた。

 

「貴様、さっきの自分が言った言葉覚えているか?」

 

「自分が言った言葉?」

 

「恋の一つや二つ。そう言ったな」

 

「そ、それは……」

 

 テイルブルームの目が泳ぎ始めた。

 それもそのはず。テイルブルーム、いや山村華は22となっている身でありながら未だ青春だの恋だのという物に何一つピンと来ていないからだ。

 内心焦っているのがバレバレな様子ではあるが、自信満々にそうですと宣言するテイルブルームにベレトギルディは再度問う。

 

「ならば問おう!! 貴様ならこの時どうする?」

 

 ベレトギルディが手を空に翳すと、突如としてプロジェクターに映し出されたかのような映像が空をバックに現れる。

 

『うーん、彼女に何をプレゼントしてあげればいいのかな?』

 

 その映像はテイルブルームの脳裏に苦い黒歴史を思い出させる物、何時ぞやのグレモリーギルディの騒ぎの際に悠香たちにプレイさせられたゲームと同じジャンルと思われしき物であった。

 違う点を挙げるなら選択制ではなく言葉でそのまま入力するような点か。

 攻略対象と思われる彼女のデータが上から流れる滝のようにズラッと提示されていった。

 

「さぁ答えろ!! 貴様なら一体何をプレゼントする? ラブマスターたる私に答えを示せ!!」

 

「ふっ、なんだ。そんな簡単な問題なのね」

 

「何!?」

 

 どういう事だ。ベレトギルディは焦った。

 テイルブルームといえば見た目こそ抜群のスタイル、抜群の美貌、抜群のツインテールと三拍子揃っているのに、それを台無しにするくらい恋愛事に疎いというのは自慢のラブセンサーが教えてくれている。なのにこの態度は何なのだ。もしかしたらテイルブルームは意外とできるやつなのかもしれないとでも言うのか? 現にテイルブルームは攻略対象である彼女のデータを一つも見ていない。これはまさか……

 もしかしたら自分の判断が間違っていたのではと冷や汗を流すベレトギルディ。

 もしそうならラブマスターなどという称号が自称に過ぎない事がバレるどころか、ハーレム容認派になんて馬鹿にされるかわからない。

 

「答えは……」

 

「答えは……?」

 

 ベレトギルディはゴクリと唾を飲み込んだ。

 そして運命のその瞬間がやって来た。

 

「ずばりお金!! 現金をそのまま渡して好きな物を買わせてあげる事が答えよ!!」

 

 自信満々にその豊かな胸を張って答えるテイルブルーム。

 その様子に思わずベレトギルディは顔から地面に盛大にズッコケた。

 

「な、なんだその答えは!! 今時、鈍感主人公でもそんな事せんぞ!!」

 

 え? 何か変な事いったかしらといった感じのテイルブルームは真剣そのものであった。最良の答えもそれであると信じている。

 当たり前だが、空に映される画面には×マークがでかでかと映し出された。

 

「嘘!? そんな筈ないわ!!」

 

「そんなはずあるわ!! 馬鹿たれい!!」

 

 テイルブルームの名誉のために言っておくが、彼女は至って真面目である。

 真面目に答えてこれなのである。

 

「も、もう一問よ!! 今度こそ正解してみせるわ!!」

 

 悔しさからもう一問を要求するテイルブルームに対してベレトギルディは難易度を多少落とした問題を提示するがしかし、その結果は散々。

 それが何度も何度も続いたという。

 

「何故わからない!? 貴様本当に生きた人間か!?」

 

「も、もういいです!! こ、こんな問題答えられなくても、あなたを倒すことはできます!!」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

完全開放(ブレイクレリーズ)!!」

 

「え!? ちょっとタンマ!!」

 

 涙目になりながらグランアローを完全開放させたテイルブルームは矢を引き絞り、慌てて逃げ出すベレトギルディ。

 だがしかし、一手遅かったと言うしかない。

 放たれた必殺の矢は逃げようとするベレトギルディの背中から貫き、そのまま空中に映し出せれる『ゲームオーバー』の文字もろとも貫通したのだった。

 

 

 

 

「……てな事があったらしいのよ」

 

「バカじゃねぇの」

 

 ただ一言、ツッコミはそれで十分だ。

 俺がバアルギルディ相手に悩みながらボコボコにされている時に何やっているんだと寧ろ怒りが沸いてくる。さっきは五月蠅い匠に対して怒りが沸いたが今は華先生に対してだぜ全くよ。

 

「まぁ要するに先生は特訓しているって訳。面白かったわよ~。先生が泣きながら青ちゃんに飛びつく様は」

 

 悠香さんが意外とSっ気が強いって事はさておき、華先生の変にストイックな所は良いのか悪いのかよくわからないな。そういやティアナが言ってたけどよ、ボティスギルディに敗北した時なんて特訓の為に一週間近く山籠りしてたらしいじゃねぇか。こりゃ重症だわ。

 華先生の醜態を見続けていたそんな時、匠の怒声が再び響き渡る。

 

「華先生!! いくらこの子が本命じゃないからってタイプじゃないし君には興味が無いってズバっと言い切る選択肢選んでどうすんすか!! これじゃこの子が可哀想でしょうが!!」

 

「だ、だって……一番キッパリと断っていたんだもん……」

 

 どうやら匠の奴は華先生が本命じゃない子から告白された際の対応の仕方について物申しているようだな。

 半泣きになる華先生の哀れな事この上ないぜ。

 そんな華先生にゲームを知り尽くしているであろう青葉さんが説明し始める。

 

「確かにキッパリと伝えるのは大事……。でもこの子は本命の子の大親友だし、このままじゃその子からの評価も下がっちゃう……。ここはオブラートに断る選択肢が正解のルート……」

 

 なるほどな。

 ためになるようでならない説明どうもありがとう青葉さん。

 でも、肝心の華先生はあまり理解していなさそうなのが残念だな。

 

「あ、そうそう。そういえばティアちゃんはどうしたの? 和くん一人だなんて随分珍しいじゃない」

 

 悠香さんにそう言われた俺は心に棘がチクリと刺さったような感覚を覚える。

 正直な話、俺はティアナを避けている。事実、昨日バアルギルディ戦を終えて以降、これといった会話を交えていない。

 理由としては勿論、ティアナ側が俺を避けていたからってのもあるけど、それ以上に昨日のバアルギルディとの一件が大きい。昨日負けた原因がバアルギルディを倒すかどうか迷ったからだなんて言えるはずもないんだ。

 

「まぁ、その……たまにはアイツなしもありかなって……」

 

「そう。わかったわ」

 

 余りにも淡泊な返しを見るに何だか見透かされているような気がしてならない。

 背筋がぶるっと震える。

 その直後、またしても華先生が選択肢を間違えたのか匠の怒声が鳴り響く。それに釣られて笑う悠香さんを見た俺は助かったと心の中で深く安堵した。

 

 

 

 

 あれからしばらくの間、悠香さんと談笑しながら華先生の醜態を眺め続けいた俺だったが、スマホに一通のメールが届いていた事に気が付いた。

 メールの差出人はティアナ。

 何でも直で話したいことがあるから今すぐ会いたいとのことだ。

 正直迷った。今のティアナを避けようとしている俺じゃどんな態度を取るかわからないからだ。

 そんな俺だったが悠香さんの説得もありとりあえずいく事に決めた。

 待ち合わせ場所は何時ぞやのグレモリーギルディとの戦いの舞台となった春日川大橋付近の水辺公園。ここからそう遠くないし今から急げば直ぐに辿り着ける。

 

 そして今現在、俺はバイクに乗って学校から家までの道を走行中。道交法ギリギリの速度を維持しながら春日川大橋に差し掛かった。

 

「そういや前もこんな事あったよな……」

 

 この橋の下にある公園で起きたグレモリーギルディとの戦い。

 言ってしまえばその時も今と同じくティアナとの仲があまり良くなかったなとしみじみ感じる。幸いなのは今起きているティアナとの溝はあの時よりかは遥かに小さいって事だ。

 まぁ、問題なのはバアルギルディの件をどうするかなんだがな。

 

「俺はどうすりゃいいのかねぇ……」

 

 ティアナに何を言われるのか、そして俺はそれ聞いてどんな風に反応をしてしまうのかが怖かった。

 そんな俺の目は公園のベンチで座って待つティアナの姿を捉えた。

 橋を渡り切ってから川沿いの道路脇にバイクを停車。階段を降りてティアナの下へと急ぐ。

 

「待たせたみたい……だな」

 

「ううん、全然」

 

 風に揺れるティアナのツインテールに目を奪われそうになる。やっぱりティアナのツインテールは誰の物よりも可愛く優雅でそれでいて力強い。

 見惚れている事を察されたくない俺は急いで話を切り出す。

 

「で、話って何だよ。さっさと言えよな」

 

「う、うん、そうよね。実は昨日の事なんだけど……」

 

 ギクリ。

 汗が背中から滝のように流れ始める。

 そんな筈ねぇとは思うが、もしかしてバアルギルディとの事がバレたとでもいうのかよ。もしそうなら俺はなんて言い訳すればいいんだ。正直にバアルギルディに情を抱いてしまったから戦えなかったなんて言える筈がねぇぜ。

 

「昨日の和輝いつもと変だったよね。それの原因って私にあると思うの……」

 

 は? 

 何だかティアナは盛大に勘違いしているようだ。

 訂正したい気持ちもあるが、余りにも真剣に話すティアナの口を遮る事は俺には出来なかった。

 

「テイルバイオレットって私たちの気持ちが一つになってようやく力を発揮できるわけでしょ。だったら昨日、和輝が力を出せなかったのは私の心が揺れていたからだと思うの。だから和輝は力を最大限出せなかった」

 

「お、おう」

 

「だから決めたの。今ここでハッキリさせようって」

 

 デジャヴというか何というか、何だか嫌な予感がしてきた。

 そんな事お構いなしにティアナは続ける。

 

「和輝、あなたは昨日のエレメリアンに想い人がいるって言われていたよね」

 

「……」

 

「ねぇ和輝、私の事……その……」

 

 ゴクリと唾が飲み込む音と心臓がバクバクなる音がハッキリと聞こえてくる。

 

「その……好き……ですか?」




華先生って鈍感とかいうレベルじゃない気がしてきた。

さて、二人の仲はどうなるのか? 
次回はさらなる急展開を予定しています。
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