俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
時は少し遡って和輝が家を出て学校へ向かっている頃、ティアナはランチタイムでの忙しさから解放され休憩がてらベットで横になり、そしてそのまま夢を見ていた。
(またこの感じ……でもちょっと違うみたいね)
夢である事を理解しながら夢を見続けるといった現象に対してティアナは今に至るまでこれまで何度も体験してきてはその度に自身の失われた記憶について少しずつ思い出してきた。
だが今回は少し違っていた。何故なら今まで体験してきた記憶の世界ではティアナはその当時の自分自身に憑依する形で体験してきたからだ。今のティアナの姿は眠る直前の服装をしており、今までと随分違っていた。
ティアナは歩いた。
今回の夢の世界は真っ白く何もない空間ではあるが、このまま立ち止まっていても何の意味もないと感じたからだ。
そしてあてもなく歩き続けているといつの間にか周囲に色が付き始め、見渡すとそこはアラームクロックとはまた別の喫茶店の店内になっていた。そしてキッチンに一つの人影が見えた。
(綺麗なツインテール……)
その人影は遠目からでもわかる特徴的な髪型、すなわちツインテールをした女性であった。
ツインテール好きのティアナが見惚れる程の見事なツインテール。まるで何年もその髪型を維持し続けたかのように見える。
ティアナはその影に向かって歩き続けた。すると徐々に影に色が付き始めどういった人物かがはっきりとわかるようになってくる。
顔こそ濃霧のようなもやがかかっているが故にわからないが、濃紺の髪を白いリボンでツインテールに結んだエプロン姿の女性であり、胸元が男かと間違える程にえらく貧相な点がティアナ自身を彷彿とさせる。
ティアナはその人物が誰なのかと察すると同時に走り出した。
「お母さん!!」
ティアナは驚いた。
夢の中で声が出た事にではない。会いたくても会えない母親に会う事が出来たことにだ。
ティアナは母親の背中から飛びついた。
まるで現実かと錯覚するかのような感触にまたしても驚きを隠せない。
これは本当に夢なのかわからなくなってくる。
「ちょっとそーじ……!! 急に抱きつかないでよ……あたしにも準備ってものが……って何だ、――じゃない」
「お母さん!! お母さん!!」
「ちょっとくすぐったいじゃない……!! 一体どうしたのよ……!!」
抱きついた際の反応の薄さからしてどうやら母親の方はティアナがいなくなっている事を知らないもしくは知る前の状態のようだ。
母親の方は最初こそ娘の急な甘えっぷりに戸惑っている様子ではあったが、母親としての勘が働いたのかゆっくりとツインテールを撫で始める。
すると徐々に徐々にティアナは落ち着きを取り戻していくのであった。
「ごめんなさいお母さん……」
「別にいいわよ。飛びついた相手があたしで良かったわ。でもだからって間違えても外でツインテールを見ても飛びついちゃ駄目よ。あんたって変にお父さんに似てるから心配だわ」
夢の中とはいえ、こうやって母と会話するのなんていつぶりだろうか。
ティアナは嬉しさの余りに涙を流し、それを見た母親は何かを察したのか話を聞くべくティアナを席へ座るように促した。
「で、何かあったんでしょ? お母さんで良かったら相談に乗るわ」
その時、ティアナは迷った。
正直、和輝との関係について相談したかったが、夢の中で再現された母親に言ってもいい物なのかと。
そうこれは夢だ。現実ではないのだ。
「はぁ……おばあちゃんがいつも言ってるでしょ。
孫も生まれたことだし隠居でもするわと言いながらもいつも店内に顔出しては、母親が対応できない中二病患者のお客さんの相手をする元気一杯の祖母の顔をティアナは思い出す。
そうだここなら思いっきり話していいんだと不思議な安心感が生まれた。
「実は……私ね好きな人が出来たの……。でね、その人とは一緒にベットで寝たりもしたんだけど、いまいち関係が進まなくって……。ねぇお母さん、どうすれば告白ってできるの?」
ティアナは不安だった。
昨日戦った際、ベレトギルディが言った和輝の想い人がもし自分でないだとするにならば一体誰なのか。それを確かめる為にもやはり告白して確かめる他ない。だが、もし想い人が自分でないのならと思うと怖くて告白することが出来なかった。
ティアナの悩みを聞いた母親は少し難しそうな表情を一瞬浮かべた。
まるで自分にも心当たりがあるかのようだった。
「そっか。あんたももうそんな年頃か……。若い頃のあたしそっくりね」
「え!? お母さんにも心当たりがあるの?」
「ま、まぁね……」
ばつが悪そうに顔を背ける母の姿に一瞬大丈夫かと不安になるティアナ。
そんなティアナに向かって母親は自分自身の経験を語り始める。
「お母さんね、あんたぐらいの年になるよりもずっと前、それこそ小学生になる前からお父さんに恋してたの。でも、お父さんって知っての通りツインテールばっかりでしょ。だから全然幼馴染の関係から抜け出せなくて……」
今思えばもっと早くに告白しても良かったかなとまで漏らす母の姿にティアナは当たり前ではあるが強い親近感を覚えた。
「それで……どうしたの? どうやってお母さんはお父さんに告白できたの?」
「そうね、親友の助けがあったからかな……」
その時の母の表情は嬉しそうでもあり悲しそうでもあった。
何だかこれ以上はあまり踏み込んではいけないような気がしたティアナは慌てて話を逸らす。
「そっか。じゃあ、私ってお母さん似なんだね」
「ツインテールに関してだけはお父さん譲りよ。ほんっとどうしてこうなっちゃたのかしら」
呆れてやれやれといった母の姿にティアナは苦笑いを浮かべるしか出来ない。
でも何だか嬉しそうにも見えた。
「兎に角、あんたに好きな人が出来たようでお母さん嬉しいわ。まぁ、お母さんが言えた事じゃないけど、いつかは勇気を出して言わなくちゃ何も変わらないし、早いとこ言った方がいいわよ。それに早くいわないとお母さんみたいに恋のライバルが沢山出来て困っちゃうわよ」
恋のライバルと言われてティアナはテイルバイオレット応援アイドルを自称する夢宮ヒカリの顔を思い出す。
今でこそティアナの方が距離も近いが、今後どうなるかわかったものじゃない。
それにもしかしたら他の女子も和輝の事を好きになるかもしれない。
「やっぱりそうだよね。ありがとうお母さん」
今でこそ幸せではあるが自分自身それで辛い想いをしたというのが痛い程伝わってきたティアナは母の言葉を噛みしめる。
一生和輝とこのままの関係でいるのではなくもっとステップアップした関係になりたい。そうするにはやはり告白して和輝の気持ちを聞くしかない。
そう決意すると同時にティアナは夢の世界から帰ってきた。
「ありがとうお母さん。私、頑張ってみる」
ツインテールを結び直したティアナは正樹に出かけてくると告げるとある目的地に向かって駆け出した。
そこは初めて恋心を理解した思い出の場所だ。
そこに和輝を呼び出したティアナは勇気を振り絞り告げる。
「好き……ですか?」
◇
ティアナに呼び出された俺を待っていたのは衝撃的な言葉だった。
まるで今この瞬間が時が止まってしまったかのようだ。
照り付ける日差しの暑さすらも感じなくなっている俺は冷静さを必死に保ちながら聞き返す。
「な、なんつったんだ……お前……」
俺の心臓の鼓動は今、最高潮を迎えており、バクバク音がまるでドラムが鳴り響いているかの如く聞こえてくる。
聞き間違いじゃないよなと思ってしまう心とそんな筈ないと思ってしまう二つの心がせめぎ合う。
「だ、だから……その……」
ティアナもまた、俺と同じように興奮しているように見えた。
何かを伝えようにも声が小さくてもじもじしているせいか中々聞こえてこない。
そんなティアナは勇気を振り絞って再び声を出す。
「和輝は私の事、どう思っているのかな……って」
「俺がお前の事を……」
「好きかそれとも嫌いかってこと……」
聞き間違えじゃなかった。いや、最初から何を言っていたかなんてわかっていた。でも、その意味がわかっているからこそ俺は聞き返してしまった。
もし、そうじゃなかったらと場合、俺自身どんな脳味噌してんだよツッコまずにはいられないからな。
「そ、そんなの別にどっちでもいいだろ……お、俺がど、どう思ってようがよ……てかどうしてそういう流れになんだよ……」
「だって……和輝、私の事が好きでも何でもないってみんなに言ったって聞いたから……それで……」
「あ……!!」
ティアナと入れ替わっていた頃だっけか。
確かティアナの中身が俺であることを知らない女子連中に俺の事をどう思っているかどうかを聞かれたことがあったな。でその時俺は別に何とも思ってもないとか何とか言ったはず……
つい言ってしまったことがこうやって自分自身に跳ね返ってくるだなんて、口は禍の元とはよく言ったもんだとつくづく実感できる。
もしタイムマシンがあるなら過去に戻ってやり直したい。
まぁ、過ぎてしまった事はどうにもならないのでそれはさておき、俺はこの感情をどうすればいいのかわからなかった。
正しい対応をするのならはっきりと本当の事を伝えるのがいいんだろうけど、俺の心はこの期に及んでまだ恥ずかしさから伝えるべきではないと警告を飛ばしてくる。
この絶好のチャンスを前にしてどうすればいいのかわからなかった。
「じょ、冗談だったりからかっているんだったらよ……そ、その……や、やめてくれ!! 迷惑なんだよこんな時に!!」
「冗談でもからかっているわけでもない!! それに私はこんな時だからこそ本気で聞いているの!! だから答えてよ!!」
「う、うっせぇ!! なんでお前なんかに言わなくちゃならねぇんだよ!!」
クソ……やっぱり俺は駄目だ。駄目な男だ。
結局素直になれず、こんな風になっちまう。ティアナが本気で俺に聞いているのなんてわかっている筈なのによ……。
「何でって……和輝は嫌いなの!? 本当の事言って私が傷つくのが嫌だから言えないって言うの!?」
「誰がお前の事が嫌いとか言ったんだよ!! そんな事誰も言ってねぇだろうが!! てか大体お前はいっつもそうだ!! 自分の言い分だけを押し通そうとしやがって!!」
「そんな事してないじゃない!! いっつもいっつも和輝の方が我儘ばっかり言って私の事困らせて!!」
涙目になりながら感情をありのままにぶつけてくるティアナに対して罪悪感を覚えながらも俺はただ言い返すしか出来なかった。
何でいつもこうなっちまうんだろう。
俺は酷く後悔する。恐らくティアナもそんな事思ってもない筈なのに、どうしていつもこうやって喧嘩になっちまう事にだ。
「俺がいないと何もできねぇ癖に!! この貧乳ツインテール!!」
「何ですって……!! 私がいなかったらツインテールの一つも結べなかった癖に!!」
「何だとこら!! 俺が誰のために結ぼうとしたのか忘れたのかよ!!」
「ってそういえば私が貧乳だってきにしてるからってパッド付きの水着渡したわよね。許さないんだから!!」
「あれはお前が人前で辛い思いをしなくてもいいようになぁ!!」
「そんなの余計なお世話よ!!」
俺の貧乳発言を皮切りにやれ服のセンスがなかっただの、あの時ずっと寝相が悪かっただの、風呂場で体触り過ぎだっただのついこないだまで入れ替わっていた際の不満中心に互いの不平不満をめい一杯ぶつけ合う。
ティアナと出会ってから今に至るまで何度このやり取りを行ったのか? それすらもわからなくなるほどに興奮していた。
「何でいつもそうなのよ!! 何でいつもこうなるのよ!!」
「うっせぇ!! 俺が聞きてぇぐらいだ!! どうしてこうなっちまうんだよ!!」
互いにヒートアップする俺たちの言葉は次第にエスカレートしていき、さっきまでの青春感じさせる甘酸っぱい空間とは無縁の物となっていた。
例えるなら修羅場かそれとも荒れ果てた戦場か。
通行人の大半が俺たちの惨状をみるや早足でその場を立ち去っていく。
だというのに俺たちは何事もなく喧嘩を続けていた。
(私、こんな事が言いたいんじゃないのに……!!)
(くっそ……どうしてこうなっちまうんだよ……!! こんな事……!!)
「「このバカぁッ!!!」」
内に秘める思いとは正反対の言葉が今日一番の声量で互いにぶつかり合う。
俺もティアナ、いやそれどころか他の誰もが望んでいないこの戦いに早く終止符が打てればなとまでと思った矢先、遂にティアナが動いた。
否、終わらせに入った。
「もういい!! もういいわよ!! 和輝になんて……和輝なんて……!! 大っ嫌い!!」
その言葉を聞いた途端、しんと辺り一面が静まり返る。
川の流れのせせらぎや、通り過ぎる通行人たちの会話、橋の上を走り去る車たちの雑音のその全てが俺には全く聞こえなかった。
まるで時でも止まったんじゃないかとも思える中、俺は怒りの感情に身を任せて言葉を放つ。
「ああそうかよ!! だったら俺もお前なんか大っ嫌いだ!!」
ある意味ここが最後のチャンスだったのかもしれない。
ここでもし、本当の気持ちを伝えることが出来たのなら何かが変わっていたのかもしれない。
なのに俺という奴は最後まで素直になることが出来なかった。
最後まで俺は大馬鹿野郎だった。
「そうよね……、やっぱりそうなんだよね……」
顔を俯けるティアナの目からチラリと涙が一筋、地面に向かって流れ落ちていくのが見えた。
泣いている。ティアナは今、泣いている。
そう思った時にはもう時すでに遅く、後悔しても何も意味がなかった。
「じゃあね。和輝……」
ティアナは頬に伝う涙を手で拭うとたった一言、それだけを言ってそのまま風のようにこの場から走り去ってしまった。
去っていく後ろ姿に手を伸ばすももう届かない。
ティアナがもう見えなくなった頃、俺は川に向かって大声で叫んだ。
「俺のバカヤロー!!」
徐々に沈み始める夕日は何も語りはせず、川と俺を茜色で染めていった。
◇
ティアナと別れて数時間経ちもう日も暮れかけて頃、さっきまでちらほらいた通行人たちもめっきりみなくなってしまっていた。
そんな中、俺はただベンチで項垂れながら座り込んでは何一つ変わらない川の流れを見つめるばかりだった。
度々スマホが震えてはその相手がティアナなのではと期待して覗いて見るも、相手はおやっさんや悠香さんといった違う人物ばかりでその度に酷く落ち込んでしまう。
「最低だ……俺。最低最悪のろくでなしだ……」
俺はただただ後悔の念に苛まれていた。
ティアナの悲しんでいる姿、そして涙。それら全てが俺を締め付け俺の事を責め立てる。だが、それは当然の事だろう。だって悪いのは全部俺だからだ。ティアナはあんなにも真剣に聞いてくれていたって言うのに、俺は……俺は……
(いいか和輝。男たるもの決して女を泣かせんじゃねぇぞ)
ふと思い出した死んだじいちゃんの言葉が胸に突き刺さる。
俺は改めて自分が最低な野郎だって思い知らされた。
「くっそ……」
もう、何をする気もわかなかった。
いっそこの川に飛び込んで二度と浮かび上がらなければいいのにとも思ってしまう。そうすれば楽になれるだろう。
だけど、そんな事しても楽になるのは俺だけだ。ティアナは何も楽にならないし、寧ろアイツの性格的に余計に自分の事を責め立てるかもしれない。
俺はどうすればいいんだ。
何もわからない。
「こん畜生!! どうすりゃ……どうすりゃ良いいんだよー!!」
今更だが、テイルバイオレットはどうすればいいんだろう。
この状態じゃ変身なんて絶対に出来やしない。さっきの事含めて俺が謝るしかないんだ。でも、どうやって謝ればいいんだろう。
ティアナの事、バアルギルディの事、テイルバイオレットの事、それら全てが俺の頭にのしかかってきやがる。
一高校生に対処できる範囲を遥かに超えた悩みに頭がパンクしそうなる。
そんな時、さっきのティアナの言葉が頭の中でリピートして流れてくる。
(好き……ですか?)
「好きに……好きに決まってんだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
もう手遅れなのはわかってる。
でも、それでも今は叫ばずにはいられなかった。
そんな時だった。
背後で翼がバサバサと羽ばたく音が聞こえて来た。
「ようやく見つけたぞ。我が愛しき戦士よ……」
ハッとして振りかえってみると街灯の上から見下ろす白い悪魔の姿を確認。
白づくめで仮面をつけたエレメリアン。
そう、それはバアルギルディだった。
「バアルギルディ……!!」
問題のエレメリアンであるバアルギルディの姿を見てどうすればいいのか迷い始める。俺はバアルギルディ相手にどうすればいいのだろうか?
てかちょっと待て。この状況もしかして非常に不味いかもしれねぇ。
何故ならバアルギルディは昨日こそ動揺して帰ってくれたが、今日に限ってはそうはいかないだろうからな。もしかしたら失恋のショックで俺を狙ってきたのかもしれねぇし。
それにさっきも言ったが今の俺とティアナの仲じゃテイルバイオレットに変身するだなんて逆立ちしたっても無理な話だ。それにそもそもティアナはここにはいない。
この状況、絶体絶命だ。
「ん? てか、お前……なんか変じゃねぇか……?」
何だろう。何というか今のバアルギルディは何かが変だ。
街灯の上から俺の目の前に降りてきたバアルギルディの様子は何かにとり憑かれているかのようで生気がまるでない。
操り人形とまではいかないにしても明らかに様子がおかしいのはわかる。例えるならそう、
「私の事を心配してくれているのか。フッ、ありがたいことだな」
「いや、別に心配はしてないんだが……」
「だがしかし、心配してほしくなど全くないと言わせてもらおう!! 私は至って正常だ!!」
あーそうですか、そうですか。
さっきは様子がおかしいと思ってしまったが、今の感じからしてどうやら俺の勘違いだったのかもしれない。
そんなバアルギルディの態度に安心した俺だったが、直ぐにそれは撤回せねばならないと気づかされる。
「さて……そろそろ目的を果たすとするか」
「目的……だと?」
やはりバアルギルディは失恋の悔しさを俺にぶつけに来たのではと思い、俺は少しばかり身構える。
そんな俺にバアルギルディは手をかざした。
「さぁ、私の望むべき君の真の姿へ戻るがいい」
バアルギルディの手から白い光の粒子がシャワーのように俺に降り注ぐ。
余りに咄嗟の出来事だった故に俺は回避しようにも回避することが出来ずにその光のシャワーを全身で浴びてしまう。
光のシャワーがより強く勢いを増すごとに俺の意識は徐々に遠ざかりそうになっていく。
俺は意識だけは失うまいと必死になって耐え、そして耐えきったのだが……
「な……何だと!?」
光のシャワーを浴び終えた俺の体はいつの間にか途轍もない変化を迎えていた。
ついさっきまでの男のごつごつとした物とは違うしなやかで柔らかい指と腕にやや控えめなサイズの胸、細く引き締まった腰回りと脚。そしてそれらがスクール水着を連想させるぴっちりとした紫のインナースーツに覆われ、尚且つ腕部や脚部を始め肩や腰にはメカニカルな青紫の装甲。トドメに俺の視界の両端で揺れている青紫のツインテール。
変身アイテムであるテイルドライバーこそ巻かれていないがこの姿はまさしく……
「やはり、君はその姿こそが真の姿なのだよ。涼原和輝。いや、テイルバイオレット!!」
俺はテイルバイオレットになっていた。
「俺をこの姿に変えて何が目的だ!! 答えろバアルギルディ!!」
訳がわからなかった。
どうして俺はテイルバイオレットになれているんだ。
どうして奴は俺をテイルバイオレットにしたんだ。
全く持って理解不能。もし俺に復讐がしたいのなら俺を変身させる必要なんてないからだ。
「何故かって……? そんな事決まっているだろう? 君を愛しているからだ!!」
瞬間、バアルギルディの手から光弾が俺に向かって発射される。
今度は喰らうまいと俺は体を右に動かして回避に成功した。
「あっぶねぇ……!! 何しやがる!!」
動いてみてわかった事だが、確かにこの姿はテイルバイオレットだ。
ティアナと共に変身している時ほどではないが力が湧き上がって来る。
後残念なことと言えばフォースリヴォンが機能していないことくらいだがこの程度なら少しは戦えるだろう。
「少し手荒だが、許してくれよ。これも君を我が愛の巣へ連れて帰る為なのだ」
「誰がお前なんかに!!」
狙いは俺。
しかも目的は属性力を奪う為ではなく連れ帰るのが目的。
連れ帰られた後、あんな事やこんな事など何させられるかわからねぇ以上は捕まる訳にはいかねぇ。幸い、奴は俺を変身した状態で捕まえたい様子だし、ここはいっちょこの力でやり合い、隙を見て逃げるしかない。
そう決めた俺はバアルギルディに向かっていった。
◇
和輝と別れた私はアラームクロックに着くなりそのまま何も言わず部屋へと直行しベットに飛び込んだ。
正樹さんは酷く心配しているようだったけど、今の私には説明できるほど落ち着いてられなかった。
「和輝のバカ……」
涙をこらえようとしても涙は目からポロポロと零れ落ちてくる。
そしてそれ以上に胸が引き裂かれそうな感触が私を襲う。
恋心を自覚している分、グレモリーギルディの幻術に引っかかった時以上に痛く苦しい。
これが失恋の痛みって奴なのね……
私は哀しみを誤魔化すその一心で枕を思いっきり抱きしめる。
ぎゅうぎゅうと抱きしめられた枕が悲鳴を上げる。
これがもし喋れたとするのなら早く解放してくれと言うでしょうけど、今の私にはこうしてなきゃ落ち着いてられなかった。
結果、いざ解放してみ枕は見るも無残な程にひしゃげていた。
「私、どうすれば良かったんだろう……」
どうして和輝を前にしたらあんな風になっちゃうんだろう。
本当は喧嘩なんてしたくないのに……
(ティアナぁぁぁ!!)
そんな事を考えている時だった。
不意に何処かで和輝が私を呼んでいるような気がした。
「和輝……」
ハッとした私は窓を開けて空を見る。
もう外は随分暮れていて茜色に染まっている。
そんな中で私は確かに和輝の叫びを聞いた。
するとどうだろう。ポケットに入れているエレメリアン探知機がけたたましいブザー音を発し始めた。
「もしかして和輝……!!」
和輝がエレメリアンに襲われているんじゃ。
嫌なビジョンが脳裏に浮かび上がる。
私は今さっきいた場所に戻るべきじゃないかと思い駆け出そうとしたけど、それと同時にさっきの出来事が思い出してしまう。
(だったら俺もお前なんか大っ嫌いだ!!)
そうだ。和輝はもう私なんか求めてないよね。
そもそも最初に大っ嫌いなんて言ったのは私なんだし。
この時ばかりは私にとって元気の証であるツインテールも鏡の中で沈んでいるように見えた。
◇
沈みゆく夕日が照らす中、俺は地に伏せ倒れ込んでいた。
「終わりだなテイルバイオレット」
「クッソ……」
わかってはいたが、このテイルギアはあくまでバアルギルディが再現した物でしかなく、本物とは雲泥の差。ウインドセイバーやブレイブチェインの有無だとかは関係などなかった。
俺は傷一つ付ける事叶わず圧倒されてしまった。
「うぅ……」
「では連れて帰るとするか」
力尽き気絶する俺がその直前に見たのは倒れた俺をお姫様抱っこするバアルギルディの姿。
なんて無様な姿だよと悪態突きたくなるが、そんな事すら叶わない。
もう限界だ。
(すまねぇ……ティアナ……)
もう二度と会えないかもしれない最愛の彼女に向けて心の中で謝りを入れた後、俺の意識は闇に落ちた。
今回は書いてて結構キツかったです。
まぁ、ハッピーエンドには頑張ってするつもりなので……