俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第63話 俺、結婚します。

 夏休み前までなら和輝を起こす為に何度も来ていたので何てことなかったって言うのに、やはり昨日の喧嘩は随分尾を引いているという事が実感できる。

 『涼原』、その名字が刻まれた表札を前にして私は今、過去今までにないくらいには緊張していた。

 今にも逃げ出したくなる威圧感はまるでファンタジーにおける魔王の城のよう。

 だけど、私はここで逃げだしはしない。

 ここで逃げたらもう和輝と仲直りが出来ないかもしれないからだ。

 

「大丈夫よ私、きっと仲直りできる。できるんだから」

 

 自分自身に言い聞かせるかのように独り言を発した後、気持ちを落ち着かせる為に深呼吸。そして遂に私は意を決してインターホンを鳴らす。

 ピンポーンとお馴染みのチャイム音が鳴る中で私の心臓は破裂するんじゃないかと錯覚するくらいの勢いで鼓動する。

 だけど、いくら待っても返事が来ず、返って来るのは静寂だけ。

 

「留守って事はないよね?」

 

 そう口では言いながらも実は和輝が怒って私なんかとは会いたくないんじゃと思っているんじゃないかと良くない妄想をしてしまう私がいた。

 どうか杞憂で終わって欲しいと思いながらも焦る私はもう一度インターホンを鳴らす。だけど返ってきたのはチャイム音からの静寂。

 焦る気持ちがトップスピードで加速し始める。

 

「……」

 

 その後、焦りが最高潮に達した私は自分でも何を思ってかはわからない程にインターホンを連打し始めた。

 どう考えても迷惑だし、おかしな人物だと疑われてもおかしくない。

 だけど私は和輝に会いたい一心で無我夢中でインターホンを鳴らし続けた。

 するとどうしたことか。

 ドタドタと家の中から音がしたと思えばその次の瞬間、玄関の扉が勢いよく開かれた。

 

「なんだいなんだい!! さっきからうるっさいんだよ!! こんのぉドアホがぁッ!!!!」

 

 怒り心頭といった具合で家から飛び出してきたのは白髪の髪を頭の後ろでお団子状に丸めて束ねた70代位のおばあちゃん。

 山姥かその類の妖怪ですら恐れるであろうその鬼のような形相を目にした私はハッと我に帰り、すぐさま頭を下げる。

 

「ごめんなさい!! 悪気はなかったんです!!」

 

「あのねぇ!! ごめんですんだらって……あんた……」

 

 このまま怒られるんだろうなと思っておもわず目を閉じた私だったけど、何時まで経っても何も言われないので恐る恐る目を開けておばあちゃんの様子を伺ってみる。

 するとさっきまでの怒りは何処へやらといった雰囲気であり、どうしてかはわからないけどホッと一安心して胸を撫で下ろす。

 そしてそれと同時にさっきはまるで気づかなかった事がわかってくる。

 

「あれ? このおばあちゃん……」

 

「やっぱり。あの時のお嬢ちゃんじゃないか」

 

 何処かで見た事ある顔だなと思った私はおばあちゃんの優し気な声を聞いて完全に思い出す。

 このおばあちゃん、昔和輝に対して悩んでいる時に相談に乗って助けてくれたおばあちゃんだ。

 そう言えばこの家って和輝の家だから、もしかしてこのおばあちゃんが和輝のおばあちゃんだって言うの!?

 今更だけど和輝っておばあちゃんと二人暮らしだった事をすっかり忘れていた。しかもそのおばあちゃんがあの時のおばあちゃんだなんて。

 驚く私の頭の中にこのおばあちゃんと出会った日の事が鮮明に蘇り始め、その中のある一言が思い浮かぶ。

 

(あたしの見立てじゃその男の子はあんたに惚れてるよ)

 

 あの時は私を励ます為だと思った言葉だったけど、日頃から一緒にいる事が多い実の家族であるおばあちゃんからの言葉となると意味がすっかり変わって来る。

 もしかして和輝っておばあちゃんには私の事が好きって言った事があるんじゃ……

 自分でもわかるくらい真っ赤になった私を見て面白そうに笑ったおばあちゃんはにこやかに告げる。

 

「まぁなんだ、折角来てくれたんだしちょいと上がっていきな。ちょいと喋ろうじゃないか」

 

 とても言葉を話せる状態じゃなかった私は黙って頷き、おばあちゃんの後についていくように家の中に上がっていく。

 見慣れた玄関は兎も角、それ以降は全くと言っていい程に新鮮な和輝の家。

 廊下を通り抜けた先にある居間はとても綺麗に片付けられており、どっかの誰かさん家とは比べようがないくらいピカピカだ。

 私は案内されるがままにソファに座り、おばあちゃんは私の座った位置の向かいになるように座布団を敷くと、ピシッと背筋一つ曲げずに正座した。

 

「で、今日はどうしたんだい? さっきのあの様子じゃ何か大変な事でもあるんだろ?」

 

「う、うん……実は……」

 

 和輝ととある些細な事が原因で喧嘩しちゃったんですと具体的な所はぼかしながらではあるけど、事の発端となる事件をおばあちゃんに話した。

 それを聞いたおばあちゃんの反応はあのバカ孫と声に出すくらいには和輝の対応について怒っているようだった。

 すかさず私は和輝のフォローに入る。

 

「元はと言えば私が……」

 

「いいんだよティアナちゃん。いいかい? どんな理由があったとしても男が女を泣かす理由にはならないのさ」

 

 そんな風に私のフォローは即座に一蹴されてしまった時、私はある事に気が付いた。

 

「あれ? 私、名前まだ……」

 

「ああ名前なら知ってるよ。何てったってあのバカ孫はいつものその名を口にしているからねぇ。口を開けばティアナがどうとかティアナとああだとか五月蠅いよなんのって」

 

「和輝が!? 私の事を!?」

 

 驚いた。まさか和輝はそんな風にいつも私の事を口にしていたなんて。

 さっき思い出したおばあちゃんの言葉といい、今の事といい、やっぱり和輝は素直じゃなさすぎるだけで本当に私の事が好きなんじゃないかと思い始めてくる。

 

「おっと、口が滑り過ぎたようだね。これ以上あまり喋るとあのバカ孫は五月蠅いんだよ」

 

 ケラケラと笑うおばあちゃんの真っ白い歯からはとても健康に生きて来たんだなと直ぐにわかる。

 私も和輝と一緒にどんな歳になってもこのくらい元気でいたい。

 一瞬、そう思ってしまい何だか恥ずかしくなる。

 私はそれを誤魔化すようにおばあちゃんにそもそもの要件を伝える。

 

「その……和輝は今、いますか?」

 

 それを聞いたおばあちゃんは少し残念そうな表情になる。

 私は何だか嫌な予感がした。

 

「それがね、あのバカ孫ったら昨日から何の連絡もよこさず帰ってこないんだよ。いつもならどんな時でも連絡してくるくらい五月蠅いって言うのにねぇ」

 

 おばあちゃん曰く、和輝はいつも決まった時間になっても家にいない場合は一々『ご飯はちゃんとバランス良く食べたか?』とか『風呂には入ったか?』とかのメールを送って来るらしい。

 いくらおばあちゃんッ子でもこれは流石にとちょっと引きそうになってしまう。だって先週までの悠香さん家で一緒だった時も隠れてずっとメールしていたなんてねぇ。

 まぁそれでも、和輝に対する気持ちは変わりはしない。というか今は和輝の安否が気になる。昨日、和輝と別れた後、エレメリアンの出現した上に謎の寒気がしたし……

 

「!?」

 

 心配を浮かべる私の耳にエレメリアン出現のブザー音が聞こえてくる。

 もしかして和輝がいなくなったのと関わりがあるとか以前にエレメリアン出現を見逃す理由はない。

 先生に知らせる為にも早く向かわなくちゃ。

 

「すいません。急用が出来ちゃったので……」

 

「そうかい。何かやらなくちゃいけないみたいだね。なら最後に一つだけいいかい?」 

 

 急いで出て行こうとする私の事をおばあちゃんは呼び止めた。

 

「和輝はバカでヘタレで意地っ張りなろくでもない奴だけど、それでもいいって言うならどうぞこれからもよろしく頼むよ」

 

「はい。こちらこそよろしくお願いします!!」

 

 口では言いたい放題ボロクソに言ってはいるけど、このおばあちゃんはとても和輝の事を愛しているんだなとちゃんと伝わって来る。でなきゃこんなにも深く頭なんて下げない。

 そんなおばあちゃんに対して元気よく返事した私はそのまま見送られながら暑い日差しの下を駆け出した。

 

 

 

 

 華先生と合流した私はエレメリアンの出現ポイントまで全速力で駆ける。

 今日は珍しいことに悠香さんも一緒だった。

 何でも今日は午後から予定なしなのでたまにはついていってみるのもいいかなとの事。

 一応、念のために和輝の行方を悠香さんと華先生にも聞いてみたけど二人とも何もわからないらしい。

 

「大丈夫よ。和くんの事だしまた直ぐにでもフラッと帰って来るわ」

 

「そうだといいんですけど、なんか嫌な予感がするんです。和輝の身に何か大変な事が起きているんじゃないかって」

 

「そう……」

 

 そうこうしている内にレーダーが指定した目的地にやって来た。

 オタクで溢れる電気街の外れ、このエリアは悠香さんが言うには先の電気街以上に人を選ぶマニアックな商品がひっそりと売られている所謂穴場スポットって言う場所らしい。さらに言えばなんでもこの辺りは特殊な趣味嗜好を持つ人たちで溢れかえるある意味エレメリアンにとってこれほどまでにない程の絶好の狩場なんだって。

 私としては古本屋や古CD屋程度ならまだわかるんだけど、明らかに何に使うかわからないようなガラクタが売られている店が度々見かけるの気になってしょうがない。

 華先生にあれは何ですかって聞いてみても本人は私と同じで全くわかっていないようだし、悠香さんに至ってはティアちゃんには青ちゃんやあたしみたいに汚れて欲しくないから教えないと言ってきた。

 汚れるってどういう意味なんだろう? 別に服やツインテールが汚れそうな汚い物じゃなさそうだけど。

 

 そんな風に頭に?を浮かべエレメリアンを探すこと数分。

 「首輪専門店」というペット道具専門店とは何処か雰囲気が違った明らかにいわくつきの店の中で物色し続けている鶫の頭を持った鳥のエレメリアンの姿があった。

 丁度いいことにその店の店主は寝ていてほぼセルフレジと化していて、尚且つ周辺は殆どが閉店してしまった様子でありシャッターが閉じられている。幸いエレメリアンはこちらには気が付いていないようだし周辺の避難を行うにはまたとないチャンスともいえる。

 私は悠香さんと辺り一帯の避難を行うべく走り出す。

 と言っても人は数人、それも大半が間違えてこの辺りに迷い込んでしまった人たちらしく避難は直ぐに終わった。

 

「あれ? 華先生はどこに?」

 

 エレメリアンと戦うなら今がチャンスですと伝えようとしたんだけど、肝心の華先生の姿が見えない。

 悠香さんに聞いてもさぁ? としか返ってこないので全く何処に行っちゃったんだろう。

 

「ほぅ……明日の結婚祝いを買いに来ただけだというのにこれはいいツインテールにポニーテールだな」

 

 結婚祝いがどうとか言っていた気がするけど、それと首輪って何が関係あるんだろう? 指輪ならわかるんだけど……

 買い物を終えたエレメリアンがのっそりと店から出て来るなり私たちを見てそう言った。

 

「これは是非とも我が首輪をつけてもらいたいものだ。グヘヘヘ」

 

 え、もしかして首輪って犬につける物じゃなくて人につけるタイプの物って事なの?

 でもだとしたら変態というより猟奇犯罪者よね。

 一体どんな属性なのよとツッコミをいれたいのは山々だけど、私も悠香さんも今は戦う術を持ち合わせていないので今は後ろに下がるしか出来ない。

 そんな私たちを見てエレメリアンは口から涎を垂らしながら寄って来る。

 

「一応聞くけど、あなたの属性、首輪属性(チョーカー)とかじゃないわよね?」

 

「ほう。そこのポニーテールは俺たちエレメリアンの事や属性力を知っているのか……。なるほど、道理でそこのツインテールからはツインテール属性がまるで感じられん訳だ」

 

 怖じ気ずに属性力が何かを聞き出そうとする悠香さん。

 それに対して面白そうに笑みを浮かべるエレメリアンはペラペラと上機嫌になって喋りだす。

 

「左様、俺の属性は首輪属性(カラー)。少女の首に巻かれた犬の首輪を好む物だ。チョーカーなんぞのおもちゃとは訳が違う」

 

 嘘でしょ。マジで猟奇犯罪者じゃない。

 驚愕する私とは違って悠香さんは酷く落ち着いており、冷静に解説を続ける。

 

「つまりSMプレイの中でも首輪プレイが好きなエレメリアンってことね」

 

「わかってるじゃないか。なら話は早いな。この俺お手製の首輪に巻かれるがいいそこのポニーテールよ。そして子犬のようにキャンキャンと鳴いて俺を満たさせろ」

 

 いつになく下劣な要求をするエレメリアンはゲスな妄想を浮かべてはニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべてにじり寄ってくる。

 それに対して冷や汗を流しながら下がり続ける私たち。

 スピードを上げれば直ぐにでも捕まえられるって言うのにエレメリアンは遊んでいる気分なのか、中々急ぐ素振りを見せない。

 このままでは不味いと判断した私たちは一目散に逃げる事を選択。

 エレメリアンから背を向けては路地に逃げ込んだ。

 しかし……

 

「ッ……!! 行き止まり……みたいね」

 

「グヘヘヘ、逃げても無駄だぜ……!! お嬢ちゃん方」

 

 逃げ切れるわけもなく私たちは路地の行き止まりに直ぐに追い詰められてしまった。

 このまま属性力を奪われた後、奴に首輪をつけられ好き放題にされてしまう。

 まだ和輝と和解できていないって言うのにそんなの冗談じゃない。

 だけど、万事休す。このままじゃ何もできない。

 そう思った時だった。

 

「待ちなさいエレメリアン!! これ以上近づいたらこの私が許さないわ!!」

 

「な、何者!?」

 

 天高く空から聞こえてくる声に狼狽え周囲を見渡すエレメリアン。

 私たちはこの声の主が誰か知っているので半分呆れながら周囲を見渡した。

 すると見つかった。

 雑居ビルのアンテナの上に腕を組みつま先立ちで佇む緑のツインテール戦士の姿を。

 

「やっと来た……」

 

「ほんっと遅いんだから……」

 

「母なる大自然の力を持つ緑のツインテール戦士、テイルブルーム!! これ以上、私の生徒には指一本たりとも触れさせはしないわ!!」

 

 自信満々に口上を述べるテイルブルームの姿は最近ずっと切羽詰まっていたケースが殆どだったせいでようやく言えたことによる喜びで満ち溢れているようにも見えた。

 そのせいで無駄にピンチになった私たちの反応はえらく冷やかな物であり、相手側であるエレメリアンだけが何だとぉ!? とノリよく返してくれている。

 

 全く……どうして華先生はいつもこうなんだろとため息がでる。

 思い返して見ればテイルブルームが登場する時ってギリギリのピンチだし、いつも高い所から現れている。別にヒーローオタクって訳じゃないくせに……

 まぁ多分、昔からの癖なんでしょうね。

 華先生といえば昔の魔法少女時代の時、魔法少女オタクのエレメリアンに戦いの仕方とついでに色々とお約束という物を教わっている訳だし、それに変な所だけ真面目でストイックだからそれを今も律儀に守っているんだと思う。

 だからって時と場合は考えてくださいよ。

 ここまで言っておいてなんだけど、私個人としては口上や必殺技名を叫ぶのも別にいいと思う。要するにもっと柔軟性のある対応をしてほしいって事。

 

「我が名はカイムギルディ!! いざ尋常に勝負だテイルブルーム!!」

 

「望むところよ!!」

 

 私が悠香さんと華先生について文句を言いあっていたうちに戦いは始まってしまっていた。

 先に仕掛けたのはカイムギルディ。

 カイムギルディは背中の翼を羽ばたかせて空に舞い上がったと思うと即座に方向を転換、テイルブルーム目掛けて急降下攻撃を繰り出していた。

 だけど、テイルブルームは眉一つ動かさない程の冷静さでその急降下攻撃を避け、避け際にグランアローでカイムギルディの片翼を切り裂き、そのまま斬り落とした。

 

「ぐおおお!! 我が翼が!!」

 

 苦痛に顔を歪めたカイムギルディが距離をとっては傷口を抑えてうずくまる。

 たった一撃だっていうのにもう勝負はついたも同然の光景に私は驚きを隠せない。

 流石はテイルブルーム、実力だけならブレイブチェイン状態のテイルバイオレットにも勝るとも劣らないだけはあるわね。

 

「もう勝負はついたみたいですね」

 

「いや、何かおかしいわ……」

 

 隣で戦いを見つめる悠香さんは余りにも呆気ないカイムギルディの様子に疑問を抱いていた。

 まさかとは思ってカイムギルディを見てみるとその顔が一瞬だけだけど二ヤリと喜びで歪んだのが見えた。

 

「テイルブルームよ!! 貴様のような豊満な胸を持つ者にこそこの首輪は似合うのだ!!」

 

「首輪……ですって?」

 

「喰らえい!! 我が愛の結婚首輪(エンゲージリング)を!!」

 

 突如起き上がったカイムギルディは何処から取り出したのかいつの間にか手にした鎖のリードが付いた緑の首輪を輪投げの要領でテイルブルームの首目掛けて投擲した。

 余りに一瞬の出来事だったせいなのかテイルブルームは避ける事が出来ず、無残にもその首にはカイムギルディが投げた首輪が装着されてしまった。

 

「「先生!!」」

 

「くッ……!! こんな首輪……!!」

 

 首輪に繋がられたこのままではとてもじゃないけどまともに戦う事なんて出来やしない。

 テイルブルームは力任せに鎖状のリードを引きちぎろうとするけどビクともしていない。

 そんな様子にご満悦のカイムギルディは高笑いを上げながらリードを引っ張るとテイルブルームは体勢を崩して転んでしまう。

 

「はっはっはっはっは!! 引きちぎれるとは思わない事だなテイルブルーム!! 我が愛の首輪は何者にも破れんのだ!!」

 

「力が……抜ける!?」

 

 どうやらあの首輪には装着した者から力を奪う機能が搭載されているっていうの!? 道理でテイルブルームが何もできないわけじゃない。

 力任せにテイルブルームを引きずり回すカイムギルディを見た私は、何も出来ない無力な自分を呪った。

 

(テイルブルームじゃなくてテイルバイオレットだったなら私の属性力を送ることであんな首輪なんか……!!)

 

 和輝は一体何処にいっちゃったのよ……

 そう空を仰いでみるも状況は一向に好転しない。

 頼みのテイルブルームは乱暴な飼い主に振り回される犬のような扱いをされており、今にも倒れそうだった。

 

「フッ、これで明日の結婚式で仲間に自慢できる良い犬が手に入ったわ。待っていろバアルギルディとテイルバイオレット。お前たちの愛の門出、このカイムギルディが祝ってやろう」

 

 上機嫌でそう漏らすカイムギルディ。

 その中に出てきたテイルバイオレットというワードを私は聞き逃さなかった。

 

「ちょっとまって!! 今、テイルバイオレットって言わなかった!?」

 

「うん? 何だ小娘」

 

「答えなさい!! 今、テイルバイオレットって言ったわよね!! それにテイルバイオレットとバアルギルディの愛の門出ってどういう意味よ!!」

 

 さっきから時折言っている結婚というワードが余計に私を焦らせる。

 もしかしなくて……そんな馬鹿な事があっていいわけが無い。

 そんな焦る私とは対照的に余裕たっぷりのカイムギルディは上機嫌に答え始めた。

 

「聞いて驚け人間よ。我らがアルティデビルのリーダーバアルギルディと貴様ら人類の希望の片翼であるテイルバイオレット、その二人が愛の下に結婚するのだ!!」

 

「「ええええええええええええええ!?」」

 

 今日一番の声量となる叫びが路地内で木霊する。

 テイルバイオレットが……和輝が……エレメリアンと結婚!?

 そそそそそんなの……

 

「嘘よ!! そんなの嘘よ!! テイルバイオレットがあんたたちエレメリアンと結婚するなんて!!」

 

「悪いが嘘ではない。テイルバイオレットは本心からそれを喜んでいるのだ」

 

 確かにカイムギルディは嘘を言っているようには見えない。 

 でもだからと言ってあの和輝がエレメリアンと結婚を承諾するとは思えない。

 しかも話の内容的に相手はあのバアルギルディでお嫁さんなのは和輝方じゃない。こんなの絶対に操られているに決まっている。そうに違いない。

 

「本当か知りたければ明日の正午、町はずれの教会に行ってみるんだな。まぁ、この場から逃げ切れたらの話だがなぁ!!」

 

 明日の正午、町はずれの教会。

 カイムギルディがうっかり滑らせた口から出たワードは即座に頭の中にメモするとして確かにこの状況をどうやって切り抜けるべきだろうか。頼みのテイルブルームは今にも倒れそうだし……

 どうすればと悩むその時、首輪に繋がられていて力が奪われている筈のテイルブルームがゆっくり立ち上がった。

 

「貴様、まだ立てたのか!?」

 

「結婚ですって……」

 

 ゆっくりゆらゆらと立ち上がるテイルブルームの表情は前髪に隠れてよくわからない。

 そんな状態でうわ言のように呟くテイルブルームの姿にはどことなく既視感があった。

 

「は、はい?」

 

「テイルバイオレット、いや、涼原君の年齢はまだ16。まだ結婚できる歳じゃありません!!」

 

「はぁぁぁ!?」

 

 テイルブルームが怒っているのは何となく察することが出来たんだけど、まさかその理由がこれとはね。

 この言い方じゃまるで18歳なら別にいいみたいじゃないの。

 先生の怒りのツボって何処かおかしい気がしない事もない。

 

「ってちょっとまて!! テイルバイオレットは女の子だから日本の法律では……」

 

 狼狽えながらも何とか冷静さを取り戻すカイムギルディ。

 そんな中でテイルブルームは怒りのままに鎖状のリード引きちぎろうとする。

 

「ば、馬鹿め。怒ったところで……」

 

「生徒のためならこんな首輪一つ……!!」

 

 全身の力を漲らせるテイルブルーム。

 そしてついに……

 

「はぁッ!!」

 

「何ぃ!! 馬鹿なぁ!!」

 

 フラグ回収お疲れ様ですと言いたくなるくらいの見事すぎるカイムギルディのフラグ建築をテイルブルームは即座に答えてくれた。

 さっきまでの苦戦は何だったのと思うくらいにあっさりと、まるで細い糸でもひきちぎったかのようにバラバラになったリードとそれと同時に消滅する首輪。

 慌てたカイムギルディは逃走しようとするが、テイルブルームは壁のように立ちふさがる。

 手にしたグランアローは既に完全開放(ブレイクレリーズ)が済んでいていつでも必殺技を放つことが出来ていた。

 

「私の生徒に結婚を強要なんて絶対に許しません!!」

 

「ま、待て!! 別に我々は結婚を強要したわけではない……!! それに結婚相手は俺では……」

 

「問答無用!! ブルームツインシュート!!」

 

 生徒を想う先生の怒りを形にした必殺の矢は慌てふためくカイムギルディの腹部を貫き、そして大爆散。薄暗い路地裏を明るく照らした。

 正直、今回のエレメリアンはいつになく下劣な奴だったけど、喋らなくていいのにうっかり明日の結婚式の事を漏らしたりと私からしたらありがたい事も多く、何はともあれおかげで和輝への手がかりを掴む事ができたし一応感謝の一つはしておこう。

 後は明日、どうやって和輝を救出するかだけど、それは悠香さんたちと後で作戦を練ればいい。

 

「待っててね和輝、絶対に助けるから」

 

 絶対に助け出す。エレメリアンなんかに和輝を奪われてたまるもんですか。だって私はまだ、和輝から本当の気持ちを聞いていないんだもの。

 決意を胸に空を仰いだ私は和輝の無事を祈った。

 

 

 

 

 一方、ここはアルティデビル基地内にあるテイルバイオレット専用の部屋。急遽用意されたが故にこの部屋には女の子らしいインテリアは特に存在してはおらず、あるのはベットと小さな本棚と今さっき運び込まれた姿見だけだ。

 大ホールにて何度も何度も厚かましいお願いを聞き入れては引っ張りだこになっていたテイルバイオレットは酷く疲れ果てた様子でベットで横になった。

 それから数分後、テイルバイオレットは深くため息をついた。

 

「はぁ……」

 

 明日の正午、テイルバイオレットは結婚する。相手はあのバアルギルディ。

 このため息は所謂マリッジブルーという奴なのだろうか? それとも……?

 テイルバイオレットは何故ため息が出るのかわからなかった。何か大切な事を忘れているような気がする。

 

「ため息なんてつかれてどうされましたかなテイルバイオレット殿?」

 

「あんたはアガレスギルディ……!?」

 

「はい、私目は老婆属性(オールドウーマン)のアガレスギルディ。バアルギルディ殿の相談相手をしておりまするしがない年寄りでございます」

 

 テイルバイオレットの様子を見に来たアガレスギルディが部屋に入って来た。

 最初こそ警戒心を露わにしていたテイルバイオレットだったが、実に低姿勢なアガレスギルディの態度を見てその考えを改める。

 このエレメリアンはさっきまでの下品な連中とは全然違う。

 この胸の内に秘める想いを吐露してもいいかもしれない。

 

「なぁ、アガレスギルディ。俺……じゃなかったあたし、バアルギルディと本当に結婚してもいいのかな?」

 

「はい?」

 

「何かこれ以上進んだらもう戻れないような気がするんだ。その……何か大切な物が失ってしまうような……」

 

 バアルギルディは好きだ。愛しているといってもいい。彼の為ならたとえ人類を敵対しエレメリアン側につくのも悪くない。

 だけど、どこかひっかかる。

 何か大切な物を忘れているような気がする。

 その事をアガレスギルディに伝えるテイルバイオレット。

 そんな彼女の脳裏に一人の女の子のビジョンが浮かんだ。

 

(――!! ――!!)

 

 貧相な胸以外は完璧ともいえる赤紫の髪を持つ美少女が誰かの名を呼んでいる。テイルバイオレットにはその名とその少女を思い起こそうとするたびに頭に痛みが走りうずくまる。

 

「ッ……!?」

 

「テイルバイオレット殿!? 大丈夫ですか!?」

 

 明日の結婚式まで残った時間はあと僅か……。




結婚式をぶち壊しに行くシチュってファンタジー系ラブコメではよく見かける気がします。
まぁ、本作は主人公とヒロインの立場が逆なんですけど……
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