俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第64話 目覚めよ和輝

 カイムギルディを撃破した後、私は悠香さんと華先生と共に新聞部の部室へ急ぎ、明日開かれるとされる結婚式の対策会議を緊急で開くことになった。

 メンバーとしては新聞部テクノロジー担当の青葉さんは勿論の事、追加で呼んだ匠も来てくれたので私含めて計5人。

 その5人の内、式場などを含めた細かい情報をパソコンで検索中である青葉さんを除いた計4人が、長机を四角形状に並べそれぞれ向かい合うように座ってどうするかを議論開始。

 まとめ役である悠香さんは引っ張り出してきたホワイトボードに内容を書き込んでいく。

 

「先ずはおさらいするけど、時刻は明日の正午、細かい場所は今青ちゃんが調べているとして、後わかっているのは和くんが奴らに操れているって事くらいかしら?」

 

「はい。それであっていると思います」

 

 和輝がエレメリアン、それもあのバアルギルディと突然結婚するだなんてどう考えてもおかしい。ましてや事の内容的にお嫁さんなのは和輝の方だなんて意味が分からない。

 私はカイムギルディの言った事を一言一句思い出しつつ答えた。

 

「まぁ、確かにな。あいつがティアちゃんどころか俺たちを捨ててまでエレメリアン側につくなんて有り得ないぜ。それなら洗脳か何かされちまっているって考えるのが妥当って訳だ」

 

 洗脳。

 そのワードを聞いた私の心に不安と言う名の影が覆う。

 もし助け出したとしても元に戻せないようじゃそれはもう和輝ではないし、そんなの絶対に嫌。私が好きなのは意地っ張りでぶっきらぼうででも時々カッコいい和輝だもの。

 

「身も心も女にされちまって俺たちに牙をむくテイルバイオレットか……」

 

「たっくん、そこまでにしなさい。エロ本の見過ぎよ。そんな馬鹿な事あってたまるもんですか」

 

 嫌な妄想をする匠を窘める悠香さん。

 私としてもそうでありたいと思うし思いたい。

 

「大丈夫よティアちゃん」

 

「はい……」

 

「それよりも先生。過去にエレメリアンと戦った先生から見て今回のケースはどうお思いですか?」

 

「どうって言われても……私としてはエレメリアンが人に求婚するだなんて有り得ない事だと思っていたし……」

 

「というと?」

 

「いや、エレメリアンって人間の事を根本的にみれば属性力を持つ餌のような物だと認識しているのだろうと思っていたから」

 

 そう言えばそうよね。本来、エレメリアンって人間の持つ属性力を奪うのが目的のはず。なのに今回は和輝の属性力を奪うのではなく、和輝と結婚をするのが目的でわけがわからない。

 華先生が言うには魔法少女やってた時に戦っていたアルティメギルのエレメリアンは様々な変態的な要求こそすれど本当の意味で結婚したいだなんていいだす奴はおらず、皆一様に属性力を奪う為に戦う戦士だったとの事。

 いくらアルティデビルがアルティメギルとは違う集団だからといってもバアルギルディってもっと誇り高い奴だと思っていたけど今回のケースからするにそうじゃなかったのかな? 

 もしかしたら何らかの原因がバアルギルディを変えてしまったのではないのかとまで思うようになるが、結局のところ本当の事はバアルギルディのみぞ知る事なので私たちには全くもってわからない。

 そんな風に頭を悩ませている時だった。

 

「ねぇ見つかったよ……恐らくここが明日の式場だね……」

 

 その言葉を聞いた私含めて皆、我先にと青葉さんのパソコンに群がり始め、画面に映し出されている画像に食いついた。

 そこに映っているのは数年前に管理している神父が自殺していなくなり今は廃教会となっている古びた教会。

 結婚式をするにしては随分とお化けや幽霊の類でもでそうな嫌な雰囲気だけど、怪物そのものであるエレメリアンの彼らからすればそんなことは全く気にならないのでしょうね。

 

「さっき、数時間前にこの辺りで怪物を見たって人の声を見つけてね……。多分……恐らくだけど、下見にきたエレメリアンだと思う……」

 

「うへー気味悪ー。誰だよこんな場所で式あげようぜって言った奴は。俺ならこんな所で結婚式なんてあげたかねーぜ」

 

 皆の気持ちを代弁する匠。

 その後、話は何故こんな場所で結婚式をあげるのかといった内容の話題に移り変わる。

 アルティデビルの基地がどうなっているのかは見当もつかないけど、それでもこんな場所で結婚式をあげるよりかは基地で上げる方が万が一の邪魔が入らなくていいに決まっているし、その理由がもし、人類に対する見せしめのような物だとしても、こんな人が寄り付かない場所じゃ意味がない。

 何故この場所なのかについて青葉さんを加えて今度は5人全員が頭を悩ませる。

 そこで私は閃いた。

 

「もしかして和輝が嫌がったからとかじゃない? だって和輝って結構恥ずかしがり屋な所があるし」

 

 和輝の性格的にそんな風に大々的に結婚しますだなんて絶対に言わないし、嫌がると思う。

 そう自分の考えを言い終えた直後ハッと気が付いた。

 そういえば私、あの時、和輝の気持ちなんて何も考えずに告白しようとしていた。

 和輝の性格的にあんな人に見られてもおかしくない場所なんて嫌だったろうし、それにそもそも和輝はバアルギルディの事に何か悩んでいるようだったし……。

 お母さんの言葉も合わせて思えば思う程、私はとても独りよがりだったんだなと思い知らされる。いい恋人関係って互いの好きな所も嫌な所も尊重し合って成り立つ物なんだなってようやくわかった。

 

「ふーんなるほどね。つまり、アルティデビル側は何らかの理由があって基地では結婚式をあげたくないけど、和くんは目立つのが嫌だから、その折り合いをつけるにはここしかないって訳ね」

 

 頷く一同。

 そんな中、匠が私に話しかけてくる。

 

「なぁ、もしそれが本当だったらよ。和輝の奴、ちょっとは自我が残っているって事なんじゃねーの?」

 

「「「あ……!!」」」

 

 そう言えばそうだ。もし完全に操られているのだったらそんな風に我儘を言う事なんて出来やしないし、何もかもがバアルギルディの言う通りに事が進むはずよね。

 またしても私はハッとする。

 どうすれば和輝を助け出せれるのかわからず少し不安だったけど、何とか光が見えてきた。

 

「たっくんナイス。確かにその説は有り得るわね」

 

「でもどうやってこん中入るんすか? いくらあいつらが馬鹿だっつっても警備位置くでしょ」

 

 そういえば確かにそうよね。

 いくら奴らが目立たないような場所で式を挙げるにしても、警備位置くのは確実とみていい。

 そんな匠の疑問に答えるかのように青葉さんは何処から拾ってきたのか教会の見取り図と周辺の地理を纏めた画像をパソコンの画面一杯に表示する。

 

「侵入するのならこの裏口を使ったらどうかな……。この裏口は見取り図か何かでも見ない限りわからない秘密の出入り口になっているし……」

 

「さっすが青ちゃん。準備万端じゃない~。後は出席しているであろうエレメリアンたちについてだけど……そこは華先生にお願いします」

 

「わかったわ。何体でも相手してあげる」

 

 華先生の顔を見つめる悠香さんと直ぐに察して頷く華先生。

 その顔は全盛期である魔法少女だった頃以上に自信に満ち溢れた物であり、自分の生徒を救い出すという確かな気概を感じることが出来る。

 

「後はどうやって和くんにかかった催眠や洗脳を解くかだけど……」

 

 そう言うなり今度は私の顔をジッと見つめる悠香さん。

 私の顔やツインテールに何か変な物でもついているのかなと思い鏡を見てみるも特に変わった物は何もない。

 

「実はさっき思いついたんだけどティアちゃん、覚悟は程良いわね?」

 

「はい?」

 

 そのワードに筆舌し難い不安に駆られる私は思わず聞き返す。

 直後に聞く悠香さんの言葉は耳を疑う物だった。

 

 

 

 

 

 そして明日、運命の結婚式当日。

 

「さぁて……!! ぶち壊しにいくわよ!!」

 

 私たちは朝早くに学校に集結し、華先生が運転する車に乗り込み決戦の地である町はずれの教会へ向かった。

 

 

 

 

 教会内の新婦控室。

 ここではかつて数多の新婦たちがウエディングドレスという人生一度の晴れ姿へと変身を遂げてきた部屋。

 昨日までは幽霊でも出てくるんじゃないかと不安になるくらいには荒れ果てた惨状であったこの部屋もエレメリアン驚異の科学によって全盛期と同じ状態に再現されており、今はテイルバイオレットがその部屋を利用している。

 テイルバイオレットの着付けは花嫁衣装属性(ウエディングドレス)のエレメリアン、フルフルギルディが担当しており、その鮮やか且つ洗練された手さばきによって瞬く間にテイルバイオレットの着付けは完了した。

 

「これがあたし……?」

 

 テイルバイオレット専用に作られたウエディングドレスは高貴さを感じさせる薄紫色のレースの上に金色の刺繍が施されているのが特徴であり、テイルバイオレットのトレードマークとも言える青紫のツインテールと見事に調和して見事なな輝きを放っている。その輝く姿はアメジストをも凌駕するだろう。

 テイルバイオレットはウエディングドレスを着た自身の姿を大きな姿見にて確認し、そのあまりの美しさに圧倒され見惚れていた。

 

「はい。流石はテイルバイオレット様です。ウエディングドレスと共に輝いております。やはり私の見立ては間違いじゃなかった……!!」

 

 燃え盛る炎のような形をした尾が特徴の鹿獣人のエレメリアン、フルフルギルディはウエディングドレス姿のテイルバイオレットを見て嬉しさの余り感無量の涙をほろりと流す。 

 後は仕上げにベールダウンを行い、時間になったらチャペル内の祭壇前で待つ愛しき新郎、バアルギルディの下に行くだけである。

 

「おお、何ともお綺麗な姿じゃ……」

 

 テイルバイオレットのエスコート役を担当することになったアガレスギルディが新婦控室を覗きにやって来た。

 

「これはこれはアガレスギルディ。どうですか私の最高傑作は」 

 

「いやはや、流石はフルフルギルディ。何という腕じゃ。テイルバイオレット殿の魅力が溢れ出ておられる」

 

 胸を張り自慢するフルフルギルディと素直にその手腕を褒め称えるアガレスギルディ。

 その後程なくしてフルフルギルディは、チャペルでのリハーサルをする為にいち早く部屋を出て行った。

 

「うぅぅ……!!」

 

 嫁に出る娘の晴れ姿をみた親は涙するのが常識。

 アガレスギルディは本当の父親ではないのだが、歳のせいもあってか感動の涙を滝のように流し始めた。

 

「バカッ!! 泣くなよ恥ずかしい」

 

「すいませぬ、すいませぬ。このアガレスギルディ、エレメリアンとして生を受けてもう幾数年。こんな感動初めてなのじゃ」

 

「だからってよぉ」

 

 余りの泣きっぷりにこれには思わずタジタジなるテイルバイオレット。

 いい加減泣き止めよと強く言いたかったが、アガレスギルディの気持ちを察してグッとこらえる。

 

「こんな日がやって来るとは……長生きするもんじゃ」

 

「あははは……」

 

「してそう言えば、この際だから聞いてはおらなかった事を聞いてみたいのですじゃが……よろしいでしょうか?」

 

 ようやく泣き止んだと思ったら今度は何かを尋ねてくるアガレスギルディ。

 テイルバイオレットはやれやれと思いながらもアガレスギルディならいいかと二つ返事で了承する。

 

「その……テイルバイオレット殿はこれまで何度もバアルギルディ殿と戦っておられたのですよね? 今でこそ両想いとなっていますが、そうなった決め手となる出来事は何なのですかな?」

 

 つまりアガレスギルディは何故今まで戦いあっていたのに急に仲良くなったのかその理由が知りたいのだ。

 それを聞いたテイルバイオレットは何だそんな事かと気前よく答えだす。

 

「最初の頃はバアルギルディを嫌いだったんだけど、戦っていくうちに段々とそうじゃなくなってきてな。で、決め手になったのはあたしが本屋で本を探している時にバアルギルディとばったり出会ってそれで――」

 

 そこまで話した時、テイルバイオレットに異変が起きた。

 

「ッ……!!」

 

 頭の中で電流でも走ったかのような衝撃に見舞われ、頭を押さえてうずくまるテイルバイオレット。

 何か違う。

 こうじゃねぇ。

 こんなの自分ではないような気がしてならない。

 そんな疑念が頭の中で渦を巻くかのようにぐるぐると回りだす。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 昨日も同じような事があったなと思い出すアガレスギルディは必死になってテイルバイオレットに寄り添う。

 その甲斐あってか程なくしてテイルバイオレットは落ち着きを取り戻した。

 

「すまねぇ、アガレスギルディ」

 

「いえ何の何の」

 

 今のは何だったのだろうか。

 そう思いながらもテイルバイオレットとアガレスギルディは立ち上がりふと時計を見る。

 すると時計の針はもう直ぐで正午を指す頃であり、それに気づいたアガレスギルデはテイルバイオレットのベールダウンを行う。

 

(何か、何か大切な物を……あたしは……俺は……忘れているんじゃ……)

 

 テイルバイオレットは迷っていた。

 

 

 

 

 時刻は正午手前。

 会場の狭さ故にクジ引きにより出席することが許された数十名の選ばれしエレメリアンたちが、戦闘員(アルティロイド)たちが担当する受付で祝儀代わりのエロゲーや同人誌、お気に入りのフィギュアなどを渡して済ませ、続々と式場であるチャペルに入って来る。

 

『これよりバアルギルディとテイルバイオレットの結婚式を開始します』

 

 出席予定の全エレメリアンが指定された席に座った後、着付けだけでなく神父役としても選ばれたフルフルギルディがマイクを取ってそうアナウンス。

 するとさっきまでガヤガヤと喋っていたエレメリアンたちは皆一斉にしんと黙る。

 雰囲気はバッチリ、遂に結婚式が始まった。

 

『先ずは新郎、バアルギルディの入場です』

 

 そうアナウンスが流れたと思うと入口の扉が大きく開き、銀髪がトレードマークの人間態バアルギルディが気高い白鳥ような純白のタキシード姿で現れた。

 いつもと違うのはサングラスではなくエレメリアン態の時と同様の仮面をつけているくらいか。

 バアルギルディは祭壇までのバージンロードを一歩一歩今までの出来事を振り返りその全てを踏みしめながら歩いていく。

 

(この世界で君とであうあの日から今、思えば長いようで短いものだ。今日、全てが完成する)

 

 エレメリアンが人間に恋をする。それも敵であるツインテールの戦士に。

 そんな困難にも程がある高い壁をどのような経緯があるにせよそれを乗り越えてバアルギルディとテイルバイオレットは愛の下に結ばれる。

 普段はバアルギルディに対して別段友好な感情を抱いていないエレメリアンたちもこの偉業を成し遂げた事実には只々感服するしかなく。今はこうやって皆で結婚式を祝っている。

 新郎入場と共に立ち上がったエレメリアンたちは口々におめでとうと声を出しながら拍手で迎え入れた。

 

『では次に新婦、テイルバイオレットの入場です』

 

「「「「おおっ、何とお美しい」」」」

 

 バアルギルディに続いて今度は花嫁であるテイルバイオレットが豪華絢爛なウエディングドレスを身に纏い入場。ゲストのエレメリアンたちはその余りの美しさに思わず声を上げる。

 エスコート役であるアガレスギルディはまたしても号泣していたのは言うまでもない。

 

「おめでとう!! テイルバイオレット!!」

「花嫁姿も最高だぜ!!」

「流石は我ら、アルティデビルのアイドルだ!!」

「バアルギルディ×テイルバイオレット、俺たちにもう敵はいねぇ!!」

 

 バアルギルディの時とはまるで違う熱量で送られる歓迎の言葉が次々に投げかけられる。

 テイルバイオレットはその性格上、そんな言葉に顔を赤くし恥ずかしがりながらもゆっくりとバージンロードを歩き、愛する新郎バアルギルディの下に向かう。皆はそう思っていた。

 だが当のテイルバイオレットの様子は少し違っていた。

 

(あたしはバージンロード(この道)を本当に歩いていいのか?)

 

 これ以上は進んではいけない。

 ここから先に進めば、アイツと出会っても何も感じなくなってしまう。

 そう脳内に警告が出る。

 

 どうしてだ。どうしてそんな風に思うんだ。

 あたしはバアルギルディが好きでこの結婚式で結ばれるのもあたしが望んだものなのに。

 自分であって自分ではない、まるでもう一人の自分がいてそのもう一人の自分が警告を出しているんじゃないかと思ってしまうくらいには今のテイルバイオレットは矛盾する二つの道に悩み迷っていた。

 

「どうしたんだ?」

「まさか結婚が嫌になったとかか?」

「ここに来てか?」

 

 突如として立ち止まったテイルバイオレットを見て騒ぎ出すエレメリアンたち。

 その様子を見て表情を強張らせるバアルギルディ。

 アガレスギルディが声をかけた。

 

「どうしましたテイルバイオレット殿?」

 

「ッ!? ご、ごめん。何でもない……」

 

「そうですか。それは良かったのじゃ。ではささ、バアルギルディ殿の下へ」

 

 頭に流れる警告を振り切ったテイルバイオレットはゆっくり、またゆっくりとバージンロードを歩きだす。

 そして祭壇の下へ到着するや否や、エスコート役がアガレスギルディからバアルギルディへと入れ替わる。

 

「凄く綺麗だよ」

 

「う、うるさい……!!」

 

 小声で褒めるバアルギルディに対してテイルバイオレットは頬を赤く染める。

 それはまさにバアルギルディが夢見た光景だ。

 だがしかし、テイルバイオレットは未だ何か未練を残したままであった。

 

「揃いましたね。では今から誓の言葉を述べさせて頂きます」

 

 そこから述べられるのは結婚式でお約束となる定型文。

 と言っても所々がエレメリアン風にアレンジが効いた独特の物である。

 

「新郎バアルギルディ、あなたはアルティデビルの為、属性力を奪う時、ゲームやアニメ、二次元の世界で現を抜かす時、まだ見ぬツインテールの女神テイルレッドを愛でる時、それら全て含むいついかなる時においても新婦テイルバイオレットを愛すると誓いますか?」

 

「はい、誓います」

 

 一片の曇りもないとはまさにこの事か。

 バアルギルディはテイルバイオレットを愛するという事を堂々と誓った。

 大半のエレメリアンはきっとテイルレッドを愛でる時で脱落するに違いない。

 

「新婦テイルバイオレット、あなたは――」

 

 次は新婦であるテイルバイオレットの番である。

 先程とさして変わらない定型文を述べるフルフルギルディ。

 

「――いついかなる時でも新郎バアルギルディを愛すると誓いますか?」

 

「……ち、誓います」

 

 だが、先程同様に未だに結婚に迷っているテイルバイオレットはバアルギルディとは打って変わって俯き細々とした声であった。

 その様子に眉をひそめるバアルギルディ。

 またしても場内がざわつきそうになるが、進行のフルフルギルディは機転を利かせて結婚式のメインイベントへと移らせる。

 

「指輪の交換の前に少し早いですが、先に誓のキスを」

 

 誓いのキス。

 それは結婚式において花嫁と花婿が本当の意味で一つになることを表す最重要イベントである。このキスの下に一体いくつのカップルが結ばれていったのかは定かではない。

 バアルギルディは一瞬、たじろぐがゴクリと唾を飲み込んだ後にテイルバイオレットの顔にかかったベールを上げる。

 その様子に別の意味でどよめくエレメリアンたちであったが、直ぐにいつもの様子に戻り、ひゅーひゅーと口笛を鳴らす者まで現れ始める。

 そんな騒ぎの中だった。

 

 

 

「そこまでよ!!」

 

 突如、祭壇後ろのステンドグラスがバリンと音を立てて割れたかと思うと聞き覚えのある声をした者が、そのままステンドグラス全壊させるという随分とダイナミックな仕方で乱入してきた。

 皆一斉に声の方向に首を向ける。

 その先にいたのは緑のツインテールをなびかせる人類の希望たるもう一人の戦士。

 

「「「テイルブルーム!?」」」

 

 テイルブルームの存在に皆、驚きを隠せずにどよめきが走り、バアルギルディはすかさずテイルバイオレットの前に出る。

 テイルバイオレットは何が何だかわかっていない。

 

「な、何しに来やがった!?」

 

 ある一体のエレメリアンがそう問うとテイルブルームは堂々と答える。

 

「バイオレットは返してもらうわ!!」

 

 この結婚はお互いの同意の下であったはず。決して強要している訳じゃない。

 ならまさか、テイルブルームはこの結婚式に異議を唱える為にやって来たと言うのか!?

 もしやテイルブルームはテイルバイオレットに密かな恋心を抱いているのではないか? 男女の関係に疎いテイルブルームの事だし一理あるぞ!?

 バアルギルディを除いたエレメリアンたちの間でそんな頓珍漢な考えが浮かぶほどに混乱した場内でテイルブルームは駆け回る。

  

「者共であうのじゃ!! あんな奴にバアルギルディ殿とテイルバイオレット殿の邪魔をさせてはならぬ!!」

 

「「「おう!!」」」

 

 ここにいるのはバアルギルディやアガレスギルディを除いても総勢20名のエレメリアンたちであり、戦闘員に至ってはその倍以上。

 バアルギルディを除いた全エレメリアン及び戦闘員はテイルブルームを捕らえるべく動き出した。

 

「来たわね。後は任せるわよ!!」

 

 誰に向かって言ったのか、テイルブルームはそう言い残し場内から走り去る。そしてそれを追いかけるエレメリアンたち。

 がらんどうとなったチャペル内には何が何だかわからないでいるテイルバイオレットと神妙な顔つきのバアルギルディだけが残された。

 

 

 

 

「さて、では私たちは続きをしようではないか」

 

 テイルブルームの乱入に遭ったことでゲストや神父が消え去ったチャペル内にてバアルギルディは一先ず気を取り直して誓いのキスを再開しようとした。

 だがしかし、当のテイルバイオレットの顔は未だ迷っているようであり、とてもじゃないがキスをするような状態ではない。

 そんな様子にバアルギルディは薄っすらとした苛立ちを覚える。

 何故だ。どうして上手くいかない。後はキスをすることで全てが終わるというのに……

 バアルギルディは苛立ちを抑えると優し気な声色で話しかける。

 

「どうしたテイルバイオレット? 私とキスをするのが嫌かい? それとも私の事が嫌いかい?」

 

「ち、違ぇよ……!! そうじゃない……」

 

「ではどうしたと言うのだ? 何が君を止める? 言ってくれ」

 

「ち、違うんだ。何か、これ以上は本当に駄目な気がする。あたしが……俺でなくなっちまう気がするんだ」

 

「このまま私と結ばれ君は永遠に君として完成する。それの何がいけないんだ。それとも何か? まだ人間たちに未練があるのか?」

 

「違う……!! そうじゃない!! このまま結婚すればアイツが……」

 

 テイルバイオレットの脳裏に浮かぶのは赤紫のツインテールをしたあの勝気な美少女。

 一体誰なのか全くわからないというのに、彼女の存在が気になって仕方ない。

 それはバアルギルディもある意味同じであった。

 

「アイツとは何なのだ!! 何が君を引き留める!! 答えろテイルバイオレット!!」

 

 バアルギルディからすればテイルバイオレットと結ばれる事は夢にまで見た事故にこの結婚式は絶対に成功させたい物なのである。

 なのにここまで来て拒みだすテイルバイオレット。

 これでは何のためにわざわざプライドを折ってまで和輝を洗脳したのかわからない。

 尚も拒み続けるテイルバイオレットに対して遂に我慢の限界が来たバアルギルディは思わず手を上げようとしてしまう。

 結婚式という晴れやかなイベントに似合わぬ平手打ちが炸裂しようとしたその時だった。

 

「所詮、操って得た愛じゃ長くは続かない物なのよ」

 

「ッ!? 誰だ!?」

 

 テイルバイオレットとは違う女の子の声に驚くバアルギルディ。

 この声は一体誰なのだと辺りを見渡していると入口付近の陰から見覚えがある女の子が姿を現した。

 

「き、貴様は……もう一人のテイルバイオレット……!?」

 

 赤紫のツインテールをした貧乳の美少女。

 仮の名はティアナ。

 以前、バアルギルディはティアナと和輝が入れ替わっている際、テイルバイオレットの正体をティアナだと誤認したことがある。

 それ故にバアルギルディからすればティアナはもう一人のテイルバイオレットなのだ。

 

「和輝!! 助けに来たわよ!!」

 

「か、ず、き……?」

 

 その名を聞いたテイルバイオレットは頭を押さえてうずくまる。

 聞き馴染んだその名前に見覚えのあるティアナの姿。

 それは今まで忘れていたような何かに他ならない。

 あたしは……俺は……

 一体自分は女なのか男なのか。

 それすらも迷い悩むテイルバイオレット。

 それを見たバアルギルディはこのままでは不味いと察して動き出す。

 

「させんぞ……絶対に……絶対にさせるものか!!」

 

「それはこっちの台詞よ!! 絶対に和輝と結婚なんてさせるもんですか!!」

 

 堂々と啖呵を切るティアナを前にバアルギルディはその姿を人間態から元の姿であるエレメリアンの姿、通称素直になれぬ想いの結晶(バエル=ゼブブ)と呼ばれる形態へと変身する。

 そしてバアルギルディは手から光弾をティアナ目掛けて発射した。

 

「ッ!! なんて無茶苦茶なの……!!」

 

 つい先ほどまでエレメリアンが座っていたであろうゲスト用の席を盾にして逃げ回るティアナとそれを追って乱射し続けるバアルギルディ。

 職人の腕によって作られた彫刻及び丁寧に飾り付けをした見事な装飾が、まるで台風にでもあったかのように瞬く間に荒れ果てていく。

 遂には祝儀として贈られた無数のエロゲーや同人誌やフィギアまでも塵に帰っていくほどだ。

 そんな中でティアナは必死になって訴えかける。

 

「和輝!! あなたいつまで寝てるつまりなのよ!! いい加減目を覚ましなさいよ!!」

 

 尚も目覚めず頭を押さえうずくまっているテイルバイオレット。

 だがティアナは諦めない。

 その声が届くまで訴える。

 

「もしかして私が怒っていると思っているの? だったらごめんね和輝!! 一私の方こそ昨日は和輝が悩んでいるのにも気づけず自分の気持ちばかり伝えようとして!!」

 

「ちょこまかちょこまこと!! 何を言う!!」

 

 ティアナの声が未だ声が届かない中、怒り心頭のバアルギルディは光弾を発射し続ける。

 だが、その攻撃はティアナに掠りもしない。

 まるで何か見えない力に守られているかのようだ。

 

「でも……それでも!! 私は伝えたい!! だって私、和輝が……和輝の事が……!!」

 

(あたしが思うに和くんの催眠をとくにはティアちゃん、あなたの愛の気持ちを誰にも負けないくらいの勢いでぶつけるといいと思うの。具体的に言うならつまり、和くんに思いっきり告白すること)

 

 昨日の作戦会議にて悠香が言った提案を思い出すティアナ。

 持ち前の運動神経で紙一重で光弾を躱し、深呼吸。

 そして……

 

「私、和輝の事が大好きだから!! だから帰ってきて和輝ぃぃぃ!!」

 

 

 その直後、ティアナどころかチャペル内を丸々一つ覆いつくすんじゃないだろうかと思われる規模の光弾がティアナを襲った。

 

 

 

 

 あたしは……俺は……誰だ……?

 そもそもあたしは女なのか?

 それとも俺は男なのか?

 わかっているのはテイルバイオレットと呼ばれている事と今日、バアルギルディと結婚式を行う予定だったという事。

 後はそう……

 頭の中に映る謎のビジョン。

 赤紫のツインテールをした彼女が何だかとっても大切な存在だったような気がする事くらいか。

 

 思い出したい。

 あの子は何者なのか?

 あたしにとってとても大切な存在だった気がする。

 

(和輝!! あなたいつまで寝てるつまりなのよ!! いい加減目を覚ましなさいよ!!)

 

 声が聞こえて来た。

 一体和輝って誰の事だろう。

 聞き覚えがあるのに思い出せない。

 でも、もう少しで思い出せそうな気がする。

 そう、この名は俺が俺である証……。

 

(もしかして私が怒っていると思っているの?)

 

 怒っている?

 誰に? 俺にか?

 もしそうなら謝りたいけどどうやら違うみたいだ。

 

(だったらごめんね和輝!! 私の方こそ一昨日は和輝が悩んでいるのにも気づけず自分の気持ちばかり伝えようとして!!)

 

 違う。そうじゃない。

 悪いのは俺の方だ。

 ティアナは勇気を出してくれたっていうのに俺は……

 

(でも……それでも!! 私は伝えたい!!)

 

 俺なんて最低だ。

 なのにどうしてそこまで俺に声をかける。

 俺に何を伝えたいって言うんだ。

 

(だって私、和輝が……和輝の事が……!!)

 

 俺の事が……

 

(私、和輝の事が大好きだから!!)

 

 俺の事が好き?

 こんな俺なんかを?

 本当に本当なのかよ。

 一度は最低な振り方をしておいた俺の事をか?

 こんな俺でもいいっていうのかよ。

 

(だから帰ってきて和輝ぃぃぃ!!)

 

 そうかよ。

 だったら……俺も伝えなくちゃな。

 謝るのもそうだけどそれ以上にさ。

 俺の気持ちを……お前に……

 

 その瞬間ハッと目が覚める。

 そうだ俺は……俺は……!!

 

「ティアナァァァァ!!」

 

 目を覚まし全てを思い出して立ち上がった俺の目の前には今にも巨大な光弾をティアナ目掛けて発射しようとしているバアルギルディの姿。

 呪縛が解けたことにより俺はウエディングドレスを脱ぎ捨て駆ける。

 その時、腰にテイルドライバーが出現しているのが見えた。

 俺は腹の底から出すかのようにあの言葉を叫び走りだす。

 

「テイルオン!!」




この作品にもし18禁版があったのならif展開でメス堕ちした和輝ってのもあったんだろうなとふと思ったり思わなかったり……
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