俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
ここで見逃して欲しくば俺とティアナをお前たちのサークルに参加させコミケに連れていく事と、滝とザガンギルディに言った後、俺とティアナは二人の様子を観察することになった。
もしここで少しでも不自然な所があれば即刻ブッ飛ばすつもりなんだが……
「ザガン君、ここはこの色を使ってほしいんだ」
「了解了解。拙者にお任せを」
あれからかなりの時間が経ったが、今の所は特に問題なしというか寧ろ二人の仲は慣れ親しんだ幼馴染同士を思わせるかのように仲が良かった。
波長が合う者同士の友情というのは長年の友情をも超えるのか……
笑いあいながら絵を描く二人が少し羨ましい。
「ねぇ和輝、どうして私たちをそのコミケってのに参加させるように言ったの?」
少し悲しくなっていた時、ティアナがふと声をかけてきた。そう言えばティアナにはほぼ何も言わずに独断で条件を出していたのでその疑問はごもっともか。
因みにティアナはコミケという物がどういう物かがあまりよくわかってないらしい。ただ何か引っ掛かる所があるらしいから多分記憶喪失の際に忘れてしまっているだけなのだろう。
「それはな、あの野郎を監視するためだよ」
「監視ってザガンギルディの様子をって事?」
「ああそうさ。それにな、言っておくがコミケってのは日本で最もすげぇオタクのイベントなんだぜ」
「なるほどね。そんな人の集まるイベントに参加させてもし本性を表したら大変って事だから当日私たちが近くで監視する」
「そういう事だ」
俺にはそいつの目を見て嘘と真実を見抜く特技があるって事もあるにはあるが、正直それ以上にザガンギルディの言葉に嘘はないと信じてやりたい。
それくらい奴と滝は仲が良い。
「でも、ある意味好都合かもね」
「何がだ?」
「いや、そんなに大きなイベントならザガンギルディ以外に他のエレメリアンも集まってくるかもしれないじゃない」
「まぁ確かにな」
コミケ、正式名称コミックマーケット。それは日本最大規模の同人誌即売会にしてオタクたちの戦場であり楽園。つまりそれは属性力の宝庫である事を意味してるようなものじゃねぇか。
そんな場にエレメリアンが出現しないという確信はないし、寧ろエレメリアンが沢山集まってくる可能性の方が高い。
俺は気づいていなかったが、コミケを守るという意味では今回の条件は好都合だったかもしれないな。
——ぐぅ〜
「!?」
突然、誰かの腹が鳴く大きな音が聞こえてきた。
確かに時間は夕飯時を大きく過ぎているが俺じゃない。ティアナも首をブンブン振って否定する。となると後は……
「はっはっは。腹の虫が鳴いたようだな龍一」
「ご、ごめん。今いいとこなのに……」
「何気にするな。待っていろ。今、龍一の大好きなカレーライスを作ってやる」
申し訳なさそうにする滝だったがザガンギルディはそんな滝を気遣ってかは知らないが大らかな笑い声をあげ、さらにカレーライスを作ってやるとまで言い出した。
明らかに今まで会って来たエレメリアンとは違う行動に俺たちが驚く中、滝は締切まで時間が勿体ないから別にいいよと言った。がしかし、ザガンギルディは力強い言葉でそれを否定する。
「いいや駄目だ。拙者と違って龍一は人間だ。空腹では力出ずに辛くなってしまう」
「でもそれは自分が我慢すれば……」
「拙者にはこの作品を通じて皆に笑顔を届けたい。がそれ以上に龍一、拙者は君に笑顔になってほしいのだ。それにこの作品は拙者たち二人……いや、ここにいる全員が完璧な状態で作り上げる。そうであろう?」
たかが飯の一つで何を大袈裟な。
まぁでも、滝を諭すザガンギルディを見てたらとてもじゃないが悪い奴には見えない。
外の気温に負けない熱い友情ってのが伝わって来る。
「あのエレメリアン……ううん。ザガンギルディっていい奴なのかもね」
「だな」
ザガンギルディの熱い想いはティアナにも伝わっていたみたいだ。
俺は小さく頷いた。
「守ろうぜ。俺たち二人で絶対に」
「うん、そうね。私たち二人で」
エレメリアンなんぞにコミケを台無しにしてたまるものか。
ザガンギルディの言葉に触発された俺たちはその決意を胸にする。
まずその為にも今日は帰るまでザガンギルディの様子確認兼コミケの手伝いだ。
「そこのお二人も拙者のカレー、いかがかな?」
「食べてきなよ。ザガン君のカレーって本当に美味しいからさ」
褒めるな褒めるなと照れながら笑うザガンギルディとそれにつられて笑う滝。
こんな仲のいい漫才を見せられてては断るに断れない。
俺たち二人は喜んでいただくことにした。
◇
8月もいよいよ中旬へと入った頃、待ちまった日本最大のオタクイベント、コミックマーケット通称コミケの開催日が遂にやって来た。
俺とティアナはバイクで向かい、現地で滝とザガンギルディの二人と合流する手はずになっている。
バイクを飛ばすこと数時間、目的地である巨大建造物が見えてくると同時に段々と見えてくる圧倒的な人の海。
見渡す限り人だらけってもんじゃないその圧巻の光景にティアナは言葉を失っていた。
「な、何なのよこれ……始まるまでまだかなりあるわよ!?」
去年既に経験している俺からすればこの反応は既に通った道だ。
俺も匠も度肝抜かされたもんだぜ。
驚愕するティアナをよそに俺はバイクを何処かに停める所がないかを探す。会場内の駐車場は事前申請していないと使えないが故の措置だ。
探し始めてから数十分、会場近辺の有料駐車場を見て回るが何処も既に先客で埋め尽くされており、既に戦いは始まっていやがるって事が嫌という程わからされた。結局、俺が止めた場所は会場の最寄り駅を少し過ぎた所。これなら電車使った方がましだったかもしれねぇ。
まぁ兎に角、ここからは待ち合わせ場所である入場口手前まで歩いて目指すとしよう。
道中に遭遇する数多くのイベント参加者と思われる人及びコスプレイヤーさんを横切り、最寄り駅の出口付近を超え、そこから溢れ出てくる人の流れに乗っかって歩こうとした丁度その時だった。
後ろから聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「おッ!! 見覚えのある夫婦発見~!!」
「匠!? 何でお前が!?」
「新聞部のバイトはどうしたのよ!?」
振り返ってみたらそこには俺たちを見つけはしゃぐ匠の姿が。
匠は新聞部のバイトで部室に幽閉されている筈と俺とティアナは思い驚きの声を上げる。
するとさらに聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「ジャッジャジャ~ン!! あたしたちもいるよ~!!」
「って悠香さんに華先生まで!!」
匠の背中の陰からひょっこりと顔を出してきた悠香さんと後ろからトボトボと今にも泣きそうな顔で追っかけて来た華先生。
コミケに興味がありそうな匠や取材に来てそうな悠香さんは兎も角、どうして華先生までこんな縁がなさそうな所に……
予想だにしていない展開の連続に俺もティアナもただ驚くしか出来ない。
「いや~偶然ってあるものね~」
うんうんと頷く匠と悠香さんだったが俺は全くわけがわからない。
辛うじて匠と悠香さんはコミケの取材に来たって事くらいは何となくわかるけど……
「あの……悠香さんがいるって事はつまり、コミケを取材しに来たってわかるけど、どうして華先生まで?」
涙を流しているせいで碌に答えられないであろう華先生に代わって悠香さんが答え始める。
「いや、実はね。華先生が言うには昔、コミケ会場がエレメリアンに襲われたらしいのよ。で、それを未然に防ぐためにあたしたちの付き添いで会場までやってきたって事」
はーん、成程。つまりティアナの推理はほぼ当たっているって訳か。
でも何故そんなに落ち込んでいるんだよ
華先生が来た理由はわかったけど、どうしてそんな状態なのかはまた別の話だ。
俺は悠香さんに再度問い詰め、悠香さんは少し困り果てながらも答えようとする。すると……
「これを見てよ!!」
突然、華先生はコミケのイベントカタログを大きく見せつけて来た。
何々? どうやら今日参加するサークルが描いたカット絵が掲載されているようだが……
「テイルバイオレットが多いわね……」
「だな……」
本来、その年に流行したアニメやゲーム、漫画のキャラクターの絵が沢山掲載され実写の人物を元にした絵など特撮キャラの一部を除いたらあまり多くないのが普通の筈。だというのに今年のコミケは一味違っていた。
数十ページとまではいかないが数ページほどの絵がテイルバイオレットで埋まっていたんだ。
最大のジャンルとまではあと一歩行かなかったにせよこれはハッキリ言って異常と言わざるえねぇ。
ある程度予想はしていたがこれは流石に驚いたぜ。
でもあれ? 何か忘れているような……
「私が……テイルブルームの絵が一枚もないのよ!!」
「「あー成程……」」
華先生の嘆き声を聞いて俺もティアナもハッキリと理解した。
華先生は自分を元にした作品がないことに嘆いているんだ。
ここで絵がない=本がないのもある意味同じだしな。
「しゃーないじゃないっすか。先生が活動再開し始めたのは6月の初め。差し替えの締め切りはもうとっくに過ぎちゃってますもん」
「でも……」
コミケの仕組みに妙に詳しい匠が華先生を慰める。
だけど華先生は未だに納得がいってない様子で地面にへたり込んだ。
全くこの泣き虫な大人は……
「大丈夫ですよ華先生。ここに来るまでにテイルブルームのコスプレをしている人を何人か見つけましたから」
「ホント!?」
ティアナの慰めを受けてガバっと立ち上がる華先生。
てか、そういや何人か見かけていたな。
俺もティアナに便乗して励ましの言葉をかけることにする。
するとたちまち華先生は泣き止み元気を取り戻した。
「片霧さん!! 取材するならまずコスプレイヤーさんたちからにしましょう!! ね!!」
「はいはい、わかったわかったから」
悠香さんに圧をかける華先生を見ているとこれじゃまるでどっちが同伴に来ているのかわかりゃしねぇ。
かくして俺とティアナは悠香さんたちと共に会場へ向かうことになった。
その道中、特にこれといったハプニングもなかったものの、やはりというか大勢で歩くとある程度時間はかかるもので、目的地には辿り着くことができたが約束の時間からは少し遅れてしまっていた。
「涼原君、遅いよ~」
「悪ぃ悪ぃ。バイク置き場が中々見つからなくってよ」
ティアナと揃って滝に謝りをいれる。
俺たちが遅れることがある程度わかっていたのか滝もそこまで怒ってはおらず、俺とティアナの分のチケットを渡してきた。
「って滝じゃねーか!! 久しぶりだなおい!!」
「川本君!! 久しぶり!!」
匠が声をかけたことにより、久々の再会を果たす滝と匠。
俺含めて中学時代いつもの三人が勢ぞろいだ。
懐かしさが溢れてくる。
「おい滝、後で見に行くからよ。安くしとけよ~」
「う~ん。それは困るなぁ~」
「ケチ臭いこと言うなよ~お前と俺の仲だろ~?」
匠の奴、何値切ろうとしてんだ。いくらお前でも一人だけ特別扱いするわけねぇだろ。てかそもそもお前は悠香さんの手伝いで来ている事を忘れるな。
ガツンと言ってやろうかと思った矢先、悠香さんが動き出す。
「は~い、感動の再会もそこまで。サークル参加者でもないあたしたちがいたら邪魔になるからそろそろ行くわよ~」
「痛い痛いっす!! わかったからやめてくださいっす先輩!!」
なおもごね続けた匠の耳を引っ張りながら悠香さんは去ってしまった。
華先生と匠、二人の子共を連れていく様はまるで若いお母さんのようだ。
俺たちはそんな風景に笑いながら入場し、ザガンギルディの待つサークルスペースに向かう。
「おお~すげぇなこりゃあ」
辿り着いたサークルスペースでは既に搬入及びディスプレイ含めたそれらの準備は完璧に済まされていた。
滝曰く今から一時間前にザガンギルディと共に済ませたらしい。
これじゃ何のために俺たちは手伝いに来たのやら。
「あれ? そのザガンギルディは一体どこいったの?」
「ザガン君なら」
ティアナの問いかけに滝は壁にもたれ掛かっているゆるキャラのようにデフォルメされたテイルバイオレットの着ぐるみを指さした。
見事な完成度だなと思ってたそれはスッと立ち上がり中から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「拙者ならここだ。何分、元の姿では騒ぎが起きかねないのでな」
「お、おう。考えたな……」
成程な。確かに着ぐるみのアクターとしてなら異形のエレメリアンでも会場内に入る事は難しくない。
これにはティアナも思わずやるわねと声を出していた。
「というわけで売り子ならザガン君がやるみたいだし、自分はサークル責任者として席を離れるわけにいかないから二人は開場後、好きに見て回ればいいと思うよ」
そう滝に提案されたのだが正直、反応に困る。
果たして搬入作業もスペースの準備も何もしていない俺たちだけがコミケを満喫してもいい物だろうか?
当初の目的をすっかり忘れた俺たちはどうしようかと悩む。
「やっぱり私たちだけが楽しむのは申し訳ないと思うんだけど……」
滝と付き合いが長い俺よりも付き合いの短いティアナが遠慮するのは当然の事だった。
すると今度はザガンギルディが動いた
「何心配するな。龍一は兎も角、拙者はここで今まで我らみんなで作り上げた成果を売り、買っていただいた者達に笑顔になってもらう事こそがこのコミケでの楽しみなのだ。気にすることはない」
ほぼ滝とザガンギルディの二人で作りあげたと言ってもいいテイルバイオレットの同人誌をみんなで作り上げたとザガンギルディは言った。
ただ見張っていただけに近い俺らを含めて……
俺にはこの言葉が心に大きく響いた。
「そうだよ橘さん。ザガン君の言う通り、自分たちはここで買っていってくれた人の笑顔を見れれば十分だよ」
「そ、そういうのなら」
二人の説得を受けてティアナもようやく折れたのであった。
◇
開場と共に入口から人々が続々とホール内に入り、それぞれ思い思いのサークルへと足を運び始める。
そんな人がごった返す状況の中、俺はティアナと共にテイルバイオレットに関する作品を取り扱っているサークルが多いゾーンを歩き回る。
見た所、テイルバイオレットを扱っているサークルはイベントカタログの通りかなりの数が存在しており、辺り一面テイルバイオレットだらけ。
その絵柄やタッチは少女漫画風であったりデフォルメチックであったり劇画調であったりと様々だが、やはりというか王道であるオーソドックスなアニメ調のイラストが一番多い。
仮にも実在する存在をここまで見事に描き切れるとは俺も驚きだ。
滝にも言えるが日本のオタク、恐るべし……
「ねぇ和輝? 和輝は何か買うつもりなの?」
「え? ああ、まあな」
特に何も決めていなかった俺は曖昧な返事をする。
一応、財布の中にはある程度の資金は入れてきてはいるものの買う本は慎重に選ばないといけない。何事も資金は有限だからな。
コミケ初参加のティアナに先輩風を少し吹かせつつ俺は先導する。
「あれとか見てみるか」
丁度、目の前に大きな列を作っているサークルを発見。
俺はティアナと揃って行列の中に加わった。
売り子さんが捌ききれない程に人が多くてどんな作品なのかはあまり見えないがこれほどまでの人気を誇るサークルだ。さぞかしいい作品なのだろうと期待できる。
イベントカタログを見ればいい物なのに行列を信頼した俺は確認を怠ってしまう。それが間違いだった。
「ゲェッ……!!」
思わず声が出るその表紙の内容は、とても言葉で言えない卑猥な物をテイルバイオレットが味わっているという余りにどぎつい18禁物だった。
念のためを思い中身もチェック。
おぉ……。
予想はしてはいたが、この作品での
「何々? 和輝ばっかりじゃなくて私にも見せなさいよ」
「絶対にNO!!」
エロ知識に疎いティアナにこんな物を見せてしまえばきっと汚れてしまう。
そんな事がもしあったら、挨拶もしていないまだ見ぬティアナの両親に顔向けできねぇ。
俺は強い言葉でティアナがこの同人誌を見ることを阻止。
すっと500円玉をサークル主に渡すと同時に本をあらかじめ持ってきておいた手さげ袋の中にしまい込み、何もわかっていないティアナの背中を押してサークルを後にする。
「どうしたのよそんなに慌てて」
「いいかティアナ、世の中にはまだ知らなくてもいいことは山ほどあるんだぜ」
「?」
何が何だかわかっていない様子のティアナ。
俺はさっき買ってしまった本の内容を思い出しては俯き深いため息をついた。
てかバアルギルディの部屋でみた18禁物もそうだけどよ。全く、どうして実在するヒーローであるテイルバイオレットを絵の中だけとは言えあんな事が出来るんだ。まぁ確かに、変身した俺の姿は超絶カッコ可愛い美少女戦士だけどよぉ。それをあんな風にしておかずにするのはどうかと思うぜ……
いくら何でももうちょっと俺に対する敬意を持って描いてほしいと人類……というかオタクの性欲に軽く絶望する。
俺は何のためにこのコミケを守ろうとしているのかがわからなくなりかけてしまう程だ。
「なぁティアナ……次は何処にいくよ……」
疲れ果てた俺は俯きながら次に何処行くかをティアナに聞いてみる。
一応今度はさっきのような事にならぬようにイベントカタログでサークルのチェックは怠らないようにしよう。
そう決心して待っているも一向にティアナの声が聞こえてこない。
どうしたのだろうと思って顔を上げて見ると目の前の人混みの中でテイルバイオレットのコスプレをした小さな女の子が泣いており、ティアナはその子に話しかけていた。
「どうしたんだよそのガキンチョ」
「ねぇ聞いてよ。この子、ママとはぐれて迷子なんだって」
「迷子だぁ?」
女の子は涙をボロボロと流しながら頷いた。
さてこの状況どうしたものか……
ガキを相手にするのは苦手だぜ全く。
「向こうも探しているだろうし、私たちも探しましょうよ」
そう言うなり、女の子をあやす為に手で抱きかかえるティアナ。
たっくしょうがねぇ。ここはいっちょ探してやるとするか。テイルバイオレットのコスプレもしてくれているしな。
特に深く考えもせずにティアナの意見に乗っかることにした。
「おい、お前のママは一体どんな面してんだ?」
「もっと優しく言いなさいよ」
「ったく……わーったよ」
それから俺たちは少女の言葉を頼りに人の流れを掻き分けながら探し回る。
だがしかし、少女を探す親は一向に見つからない。
「くっそ、何処だよ……!! 人が多すぎてわかりゃしねぇぜ……!!」
「ママ……」
「だぁーっ、泣くんじゃねぇ!!」
「もう和輝!!」
コミケの参加人数は文字通り桁が違う。
そんな混雑した会場の中で人とはぐれそれを見つける事の難しさを甘く見過ぎていた。冷静に考えてみればこんなの25メートルプールに落ちた一円玉を探すのと同じくらいの難易度じゃねぇか。
このままあてもなく探し回っていてもキリがない事に気が付いた俺たちは一旦、俺たちのサークルがあるブースへと戻ることになった。
「おかえり二人とも……ってどうしたのその子!?」
丁度ひと段落終えた様子の滝は出迎えるなり、ティアナが抱きかかえる少女を見て目を見開く。
俺たちはとりあえず訳を話し、こういった場合はどうすればいいのかと指示を仰いだ。
「どうするもこうするもこういう場合はスタッフさんに任せれば迷子放送くらいしてくれると思うよ」
流石コミケ常連の滝だ。瞬時にどうすればいいのかを答えてくれる。
俺たちが滝の指示通りにイベントスタッフを探そうと動き出そうとするその時だった。
「待たれよ。ここは拙者に任せてもらえぬだろうか?」
突然、座り込み休んでいたテイルバイオレットの着ぐるみがスッと立ち上がると中からザガンギルディの声が聞こえてきた。
何かわからねぇがどうやら策があるらしい。
ザガンギルディは両耳に手を当てるような仕草を着ぐるみを着たまま行い周囲をきょろきょろと見渡し始める。
「聞こえる……!! 少女を探す母親の声が……!! こっちだ!!」
何かが聞こえた様子のザガンギルディが着ぐるみ姿のまま動き始めたので俺たちはその後を追いかける。
「おい!! どうしてわかんだよ!!」
「拙者は以前、人の泣き声と笑い声を聞き分ける修行を行った事があってな。それ故に人一倍耳がいいのだ!!」
笑い声を聞き分ける修行って一体何なんだ。戦闘において何の役にたつんだよ……
思わずそうツッコミたくなるエレメリアン特有の意味不明な修行内容。だが人探しというこの場においてはそれがまさか有効活用されている。
ザガンギルディの先導を受けながら人混みを掻き分け進む事数十分。
抜けた先でイベントスタッフに話しかけているテイルブルームのコスプレをした若い女性を見つけた。
「ママ!!」
母親を見つけた事で少女の涙は引っ込み笑顔が帰って来る。
俺たちは少女の母親の下へ向かい、事情を説明しつつ少女を母親の下へと返してあげた。
「うちの子を見つけて保護していただき、どうもありがとうございました」
「おねえちゃん、おにいちゃん、ママを見つけてくれてありがとー!!」
別に大した事してねぇよと少しカッコつけながらその場を後にする。
何はともあれ無事見つかって良かったと俺たちは心から安堵したのだった。
◇
時刻は昼過ぎを迎え、コミケ一日目もいよいよ後半戦へ突入といった具合の中、俺はザガンギルディに話があるからティアナと売り子を交代してくれと言い、ザガンギルディもそれに了承してくれた。
そんな訳で現在、俺は会場外にある人通りが比較的少ないエリアでザガンギルディと隣同士地べたに座りこみながらペットボトルに入った水を飲んでいた。
もっともザガンギルディは騒ぎを起こさないようにずっと着ぐるみを着こんだままなので、傍から見れば俺はテイルバイオレットの着ぐるみと一緒に座り込んでいるという何とも言えないシュールな空気が漂っている。
「ふーっ、生き返ったぜ」
「で? 話とは何なのだ?」
水を飲み終えたのを確認し終えたザガンギルディが声をかけてくる。
ザガンギルディからすれば何故呼び出されたのかわかっていないので当たり前だ。
「なぁに大したことじゃねぇよ。さっきはありがとうなって言いたかっただけさ」
「なんだそんな事か。何、拙者は当然の事をしたまでだ。礼には及ばない」
謙遜するザガンギルディは用が済んだのならと会場内に戻ろうとする。
「なぁ、あんたは本当に属性力を奪うつもりはないのか?」
そんなザガンギルディに俺は問いかけた。
出会ってから今日までコイツが悪い奴じゃないのはもうわかっている。だがそれはそれとして聞きたい事があったんだ。
ザガンギルディは立ち止まった。
「あんた言ったよな? 滝に飯はちゃんと食べろって。それってあんた自身にも言えることじゃないのか?」
「というと?」
「あんたはエレメリアンだ。エレメリアンは人は飯を食わなきゃ生きていけないのと同様に属性力を奪わなきゃ生きていけない。そうだろ?」
ザガンギルディを見張り始めて今日まで一度も属性力を奪う及び属性力の摂取をしている様子はなかった。
それってつまり人で言う所の何も食っていないのと同義なんじゃないか。
さっきの迷子少女の笑顔なんて思わず奪いたくなるほどだったのにただ見つめ続けているだけだったし。
ザガンギルディは着ぐるみの中でフフッと笑うなり振り向いた。
「流石はテイルバイオレット……という事か」
「ッ!? 気づいてやがったのか」
その衝撃に思わず身構えてしまう。
だがザガンギルディは対照的に座り込み始めた。
まるで敵意の欠片も見えないその行動に俺は拍子抜けしてしまう。
「テイルバイオレット……君の言う通り、このまま属性力を奪わなければいつか拙者は消滅してしまうだろう。だがそれでいいんだ」
静かにそれでいて力強く答えるザガンギルディ。
それはつまり、自らは死んでもいいという意味に他なかった。
「死ぬのが怖くないのか? このままいけばそう遠くない未来に死んでしまうんだろ!?」
ガラにもなくつい興奮してしまった俺はつい着ぐるみを強く揺らしてしまう。
そんな興奮する俺とは対照的なザガンギルディはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「拙者は死ぬことなど怖くない。寧ろ、拙者が属性力を奪った事で大好きな笑顔を見れなくなる方が怖いくらいだ」
そう言われてしまえば何も言えなくなる。
コイツは本当の意味で笑顔を愛しているんだとわからされた。
「じゃあどうしてアルティデビルに入ったんだよ」
「ただ何となくといった具合だ。だが君と仲間が戦い続けるのを見ていくうちに次第に考えが変わっていってな」
「そうか……」
そこまで話した後、俺自身どうにかしてザガンギルディを属性力に頼らずに生き長らえさせることが出来るかと考えるようになっていた。コイツはこのまま滝と一緒にいつまでも楽しくやっていて欲しいんだ。
そんな俺はある人物を思い出した。
「なぁザガンギルディ。俺の知り合いにさ、エレメリアンだったのに人間になった人がいるんだぜ」
「それは真か!?」
その名は結翼唯乃。
以前、俺たちをフェネクスギルディから助けてくれた不死鳥の戦士。
彼女は元々、フェニックスギルディという名のエレメリアンでしかなかったようだが、何かに辿り着くことで人間へと変わったらしい。
ザガンギルディに唯乃さんの事を話した所、心なしか着ぐるみの瞳が輝いているように見えた。
「詳しい方法とやらはわからねぇが、もし人間になれるなら属性力もそんな着ぐるみもいらなくなるのにな」
「違いない。是非ともなってみたいものだ」
「大丈夫。お前ならなれるさ。お前のようなエレメリアンならな」
「そうかありがとうテイルバイオレット……いや、和輝」
ここまで言っておいてなんだが少し恥ずかしくなってしまった。
このままここに居続けていると今度は何言うかわかったもんじゃねぇので俺は一足先に会場内に戻ることにする。
「じゃあまた後でな」
そう言って俺は会場内に戻っていったのだった。
◇
「人間か……」
一人残されたザガンギルディはふと呟いた。
大好きな笑顔の為なら死んでもいいと思っていたのにそれを回避できるかもしれない希望が降って来たのだ。
方法こそわからないが喜びが溢れてくる。
これでもう属性力を奪わずに生きていけるのだと。
「おやおや、たしか貴様はザガンギルディだったかぁ?」
生きる希望を見つけたザガンギルディの背後に悪魔が迫っていた。
本エピソードは次回で完結です。
キャラクター紹介15
性別:男
年齢:16歳
誕生日:12月8日
身長:157cm
体重:46g
和輝と匠の中学時代の同級生かつ親友。
自他ともに認める立派なオタクであり、コミケに初めて行ったのは小学校低学年。
性格は大人しく、絵を描くのが得意。
人を見る目がある人物である。
ザガンギルディ
身長:203㎝
体重:145㎏
属性力:笑顔属性
アルティデビルを脱走してきた心優しきエレメリアン。
戦いを好まず、属性力を奪うのも嫌だというなどエレメリアンの中ではかなりの異端児。
和輝との会話で生きる希望を見つけるが……