俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第69話 笑顔と涙のコミックマーケット

「こんな所でなぁにしているんだぁ? ザガンギルディ?」

 

「だ、誰だ!?」

 

 和輝と別れた直後のザガンギルディの耳に響く悪魔の声。

 自らをエレメリアンだと知っているという事実に困惑し驚くザガンギルディが振り向いた先に立っていたのはコミケの場に居るなどと予想だにしなかった人物。

 黒を基調としたレザージャケットを羽織った全身黒ずくめのエレメリアン。頭に生えた角や顔つきのそれは悪魔を思わせる山羊の如し。

 

「べ、ベリアルギルディか……!?」

 

「ほう、この天才ベリアルギルディの名を覚えていたか」

 

 ザガンギルディの記憶に残っているベリアルギルディと言えば毎日研究室という自室にこもってはツインテール戦士を倒す為の兵器を研究しているというどちらかと言えばインドアなタイプ。どう考えても人が密集するコミケなどには顔を出すようなタイプではない。

 それにそもそもベリアルギルディと言えば堅物なイメージが付きまとうエレメリアンであり、同人誌を見たりするようにも見えない。

 

「何故、ここに……まさか!? 拙者を追って……!?」

 

 裏切者には死あるのみ。

 如何にもベリアルギルディが言いそうな言葉だ。

 そう思ったザガンギルディは慌てて着こんでいるテイルバイオレットの着ぐるみを脱ぎ捨て構える。

 だがしかし、ベリアルギルディの真意は違った。

 

「驕れるなよ。貴様程度の雑兵をこのオレのような天才がわざわざ相手をするとでも?」

 

「な、なら何故ここにいる!? コミケ(ここ)はみんなの笑顔が溢れる大切な場、お前とは無関係の筈!!」

 

「言ってくれるじゃあないか。このオレにはコミケを楽しむ資格がないとでも? これをみろよ」

 

 そう言ったベリアルギルディは一冊の本を提示する。

 そこにはベリアルギルディと思わしき一体のエレメリアンと人魚のようなエレメリアンがイチャイチャしているだけの何処に需要があるのかまるでわからない内容が詰まっていた。

 

「まぁ、本命はちょいと探し物をしにきたに過ぎない。これは飽くまでたまには気晴らしにと探し物ついでに作った物だ」

 

「そうか……。 ん? 探し物だと?」

 

 探し物。

 そのキーワードを元に頭を回転させるザガンギルディはアルティデビルがこの世界で探すある者を思いつかせる。

 

「まさか、この会場にいるのか? 究極のツインテールに匹敵する強大なツインテール属性の持ち主が」

 

「さぁな? だがここまでの規模のイベントはそうそうない。故にいてもおかしくはないという事だ」

 

 和輝たちがコミケに行けばエレメリアンが現れるのではないかと推理したようにベリアルギルディもまた、コミケに行けば探し求める強大なツインテール属性の持ち主が現れるのではないかと推理したのだ。

 そいつはオレの研究を完成させるために必要な最後の1ピースと続けるベリアルギルディ。

 その時、ザガンギルディの脳内にティアナの顔が浮かんだ。

 

(和輝の彼女であるあの少女、もしやとは思ったがまさか……!?)

 

「ほう、心当たりがあるようだなぁ?」

 

「しまった……!?」

 

 探し求めるその人物がティアナなのではと気が付いたザガンギルディの仕草を見逃すベリアルギルディではない。

 ベリアルギルディはその人物が何処にいるのかを聞き出そうと迫り始める。

 

「言え。そいつは何処に居る!!」

 

「言わん!! 人間でありながら拙者を受け入れてくれたみんなの為にも、この命、尽き果ててでも!! 絶対にお前なんぞにいうものか!!」

 

 非力ながらも断固として拒否するザガンギルディ。

 これがもしバアルギルディ相手ならその覚悟に免じて見逃していただろう。

 だが相手が悪かった。

 

「そうか。なら死よりも重い罰をくれてやる」

 

 そう言うなりベリアルギルディは懐からある一つの石のような物を取り出しザガンギルディ目掛けて投げつける。

 余りにも唐突過ぎたその行動にザガンギルディは反応できなかった。

 

「うおぉォォォ!? せ、拙者にナ、何ヲしたぁぁぁァァァ!?」

 

 身長と体重は大きく増加しまるで魔人のようにみるみると姿が変わっていくザガンギルディ。

 それ見てベリアルギルディは薄ら笑いを浮かばせる。

 

「なぁに新型の魔神の吐息(デモン・ブレス)だ」

 

 投げつけたのは今まであらゆるエレメリアンを暴走させてきた悪魔の道具である魔神の吐息(デモン・ブレス)。それも今回のはバアルギルディに使用したデータを元に再び調整し直した代物。

 ザガンギルディに抵抗できる術はなかった。

 

「さぁ行け、貴様自身の手でこの会場の笑顔を全て奪い尽くせ!!」

 

「や、ヤメロォォォォォォォォ!!」

 

 ザガンギルディの悲痛な叫びが木霊すると同時にその意識は闇へ堕ちたのだった。

 

 

 

 

 ザガンギルディとの話し合いを終えた俺がサークルスペースに帰ってきてみればそこは午前中と同じかそれ以上の大盛況を迎えていた。恐らく、売り子であるティアナのツインテール属性がより人を惹きつけているのだろう。

 

「おかえり和輝。何話してたの?」

 

「別に……大したことじゃねぇよ」

 

「そう。それにしては何かいいことあったみたいに見えるけど?」

 

「そ、そうか?」

 

 慌ててスマホを取り出し表情をチェック。

 だが、そこに映っているいるのはいつもの不愛想な俺の顔。

 とてもじゃないがニヤついている顔つきではない。

 一体、ティアナには何が見えたのだろうか?

 

「ちょっと二人とも。今忙しいんだから手伝うなら手伝ってよ」

 

 おっといけねぇ。こんな馬鹿馬鹿しいことしているんじゃなかったぜ。

 滝に叱られた俺は目の前に広がる行列を見たことで意識を切り替える。

 ここからはちゃんと手伝わなくっちゃな。

 

「ねぇ涼原君、ザガン君は何処に行ったの?」

 

「あ?」

 

 ティアナを見習いながら料金と商品である同人誌を受け渡す俺の耳に滝の声が聞こえてくる。

 どうやら滝はザガンギルディの奴が心配らしい。

 俺としては休憩がてらどっかそこらで道草食ってんだろと思い答えるが、滝曰くザガンギルディの真面目な性格上、そんな事は有り得ないとの事。

 まぁ、確かにそう言われればアイツの性格上有り得ねぇな。

 じゃあ一体何処に?

 この行列を捌いたら探しに行ってやるかと思った直後だった。

 

『東ホールにて怪物が出現しました。イベント参加者の皆さまは慌てず騒がず速やかに避難してください。繰り返します、イベント参加者の皆さまは慌てず騒がず速やかに避難してください』

 

 通常の館内放送とは明らかに違う焦ったテンションとトーンで語られる内容はエレメリアンがついにこのコミケに現れたというものらしい。

 皆がざわつき始める中、俺とティアナは顔を見合わせ頷き合う。

 

「悪ィ滝、俺ら行かなくちゃいけないみたいだ」

 

「行くって何処に!? まさか怪物の所に!? 危ないよ!! いくら君たちがテイルバイオレットの知り合いだからってさ!!」

 

 その直後、東ホールの方角から人々の泣き叫ぶ悲鳴とエレメリアンの暴れる声が聞こえてくる。

 それを聞いてパニックになる周囲の人たち。

 何も知らない滝も同様であった。

 

「ほら聞こえるでしょ!? 危ないからここはテイルバイオレットたちに任せるしかないよ!!」

 

 滝の言い分は痛い程わかる。

 何も知らない一般人から見れば当然の反応だ。

 だがここで引き下がっては沢山の人々の属性力が奪われてしまう。

 

「滝、何も言わず俺を信じてくれ。頼む」

 

 何故かなんて理由は話せない。だから俺はこうやってただ訴えかけるしかできない。

 最初こそ断固として譲らない滝であったが、ティアナも加わりお願いする事で何とか了承してくれることになった。

 

「わかったよ。でも二人とも気を付けてね」

 

「おう。お前こそ気をつけろよ」

 

 ガッチリと握手をした後、俺とティアナは避難する人々とは逆方向の東ホールを目指し走る。

 そして何とか辿り着いた東ホールでは衝撃的な光景が広がっていた。

 

「何だよ……これ……」

 

「酷い……」

 

 属性力を奪う為とは到底思えない程に無茶苦茶に荒らされた東ホールの惨状。エレメリアンによってズタズタに引き裂かれた同人誌やポスターが逃げる人々に踏み潰されたであろう姿はただただ痛々しい。間隔ごとに綺麗に並べられたおびただしい数の机も今じゃガラクタの山と化している。

 まるでただ暴れまわりたかっただけのようにも見えるその凄惨な現場では逃げ遅れた人々の一部が属性力を奪われた影響で気絶し倒れていた。

 

「エガオヲ!! モットエガオヲ!!」

 

 隣のホールからエレメリアンの暴れる声が聞こえてくる。

 何があったのか知らねぇがどうやら相手は既に魔神の吐息(デモン・ブレス)を使って暴走しているようだ。

 暴走を止める為にも俺たちは即座に隣のホールへ急行。

 そこで暴れるエレメリアンの姿を見て俺たちは言葉を失った。

 

「おいあれって……」

 

「ザガンギルディ……?」

 

 大口を開けて逃げ遅れた人たちから属性力を吸い込み奪い暴れるエレメリアンの姿を一言で表すのならそれはファンタジーで出てくるミノタウロスの化け物。

 体長約4、5メートルのその姿はどう見てもザガンギルディが巨大化し変化したようにしか見えない。

 あの温和なザガンギルディが何故?

 困惑する俺の耳にスマホからの着信音が聞こえてくる。

 

『涼原君、大変だ!!』

 

「どうした滝!?」

 

『ザガン君が何処にもいないんだ!!』

 

「何ィ!?」

 

 となるとやっぱりあれは正真正銘、ザガンギルディだとでも言うのか……

 何故こうなる。どうしてこうなる。

 困惑は絶望に変わり、俺は立ち尽くす。

 

「どうやら本性を現したみたいのようね和輝」

 

 先程ザガンギルディと交流し奴の真意を知った俺や元々交流が長かった滝とは違うティアナは直ぐに現実を受け入れると酷く冷静に状況を分析し始め告げた。

 その発言は俺には我慢できなかった。

 

「違う!! アイツは!! ザガンギルディは!! そんな奴じゃねぇ!!」

 

「ちょっと何よ和輝……!!」

 

 そう言われて俺はハッと我に帰る。

 つい熱くなっちまったと後悔し反省する。

 ティアナはザガンギルディと特にこれと言った交流がないんだから当たり前じゃねぇか。

 

「とりあえずアイツを抑えるぞ!!」

 

「わ、わかったわ」

 

 テイルブレスから出現した光がテイルドライバーとなり腰に巻かれたのを確認した俺は暴走するザガンギルディを止めるべく走り出し叫ぶ!!

 

「テイルオン!!」

 

 

 

 

「ウォォォォォォォ!!」

 

 俺という標的を見つけたザガンギルディは一直線に突進をしてくる。その様はまるで牛というよりも重機関車が突っ込んでくるような迫力があり、生身では当然として変身したこの状態でもただでは済まないかもしれない。

 

「止まれぇぇぇぇッ!!」

 

 だからといって回避するなどという択はない。

 4、5メートル級の巨体を俺は真正面から相撲で力士同士がぶつかりあうかのように抑え込もうとする。

 ぶつかった最初の一瞬こそ止まるような気がしたが、そんな事はやはりなく。俺はじりじりと押され始める。

 

「こん畜生がぁぁぁ!!」

 

「ウォ!?」

 

 身に纏うテイルギアが悲鳴を上げはじめ、抑え込むのにも限界を感じた俺は咄嗟に体を捻り、突進の勢いを活かして一本背負いの要領で投げ飛ばす。

 投げ飛ばされたザガンギルディはホールの床に叩きつけられ、ホール全体を大きく揺らした。

 

『和輝!!』

 

「わーってるよ!!」 

 

 ホール内でいつまでも暴れられると建物自体が崩れ、中にまだ取り残された人たちに危険が生じると考えた俺は暴れ狂うザガンギルディを外へ叩きだすべく全力で蹴り飛ばす。

 少々荒っぽいがザガンギルディの目を覚まさせるにはこっちの方が都合がいい。

 ザガンギルディの巨体はホールの壁をぶち破り、屋外へと飛び出していく。

 幸いなことに屋外の方は殆ど避難は完了しており、遠くの方は兎も角、近くに人の影は見当たらない。

 

「ウガァァァァァァッ!!」

 

「クッソ……やっぱり駄目か……」

 

 瓦礫の山から起き上がるザガンギルディの様子はまるで変わっておらず暴走している状態のままだ。

 半分わかってちゃいたがやっぱしこんな方法じゃ正気に戻すことは出来ない。

 一体どうすれば元に戻せる? 

 前日のバアルギルディ戦の事を振り返るが何も思いつかない。

 あの時は無我夢中過ぎてどうしてバアルギルディが正気に戻ったのかも理解していない。ただ何となくここでトドメを刺してはいけないと感じただけなんだ……

 

『和輝!! 危ない!!』

 

 ティアナからその声が聞こえて来た俺はハッと我に帰るが遅かった。

 既にザガンギルディは俺の目の前で手を振りかざしており、指先の爪がギラギラと眩い光を発している。

 

「グルァァァァ!!」

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

 ザガンギルディの爪で切り裂かれた弾き飛ばされた俺はフォトンアブソーバーが限界値を達している事を知りながら屋外の地面に叩きつけられる。

 戦い始めてまだ数分も経ってないというのにもう限界が来ているなんてな……

 テイルギアは心で動かす武器。それが数分も経たずに限界を迎える程に弱体化しているという事は俺自身が戦う事を迷っているに他ならない。

 

(ありがとうテイルバイオレット……いや、和輝)

 

「クッソ……」

 

 暴れ狂うザガンギルディを見れば見るほどさっきの話してた最中の事を思い出して力が鈍っちまう。

 このままじゃ駄目なのはわかっているのによ……

 膝に手を当てながら何とか立ち上がるも、ザガンギルディは既に俺の真正面まで接近しておりとてもじゃないが対応できそうにない。

 

『和輝!!』

 

 ティアナの悲鳴がテイルブレスを通して聞こえてくるそんな絶体絶命の状況下であるその瞬間だった。

 

「シュート!!」

 

「グォァァァァァァ!?」

 

 聞き覚えのある声と同時に一筋の光の矢が俺にトドメを刺そうとするザガンギルディの腹部を射抜いた。

 これにはたまらず腹部を抑え込み痛みの感情を露わにするザガンギルディ。

 俺は声の方角に目を向ける。

 その方向にはグランアローを構え悠然とツインテールをなびかせて立つテイルブルームの姿があった。

 

『どうやら間に合ったみてーだな!!』

 

『ごめんね和くん。ちょっと避難活動に時間かかっちゃった』

 

 ティアナのテイルブレスを通じて匠と悠香さんの声が耳に聞こえてくる。

 どうやらテイルブルーム及び匠たちは周辺の避難を手伝っていたらしく戦いに遅れたようだ。

 

「ここからはこのテイルブルームも相手になるわ」

 

「ウォォォォォォ!!」

 

 不意に矢で射抜かれた上、手で挑発するテイルブルームを見た事もあり、ザガンギルディはターゲットを俺からテイルブルームへと変更して襲い掛かる。

 勢いよく突進するザガンギルディに対して不動の構えを見せるテイルブルームはその勢いをヒラリとなびく髪のように受け流してカウンター気味に手刀を見舞う。

 余りの威力に崩れ落ちるザガンギルディ。

 すかさずテイルブルームの猛攻が始まった。

 

「はぁッ!! せいやッ!!」

 

 手刀や蹴りが倒れ込むザガンギルディの体を鋭く抉り大きく傷をつけていく。

 途中、何度か反撃とばかりにザガンギルディも攻撃をしようとするが、歴戦の勇士であるテイルブルームに通用するはずもなく掠りもせずに逆にカウンターを何度ももらっていく。

 

「グォォォォォ……」

 

 戦うことに迷う俺とは違って流石はテイルブルームだ。いとも簡単に暴れ狂うザガンギルディを無力化してしまっている。

 このままだと勝つのは容易い。

 皆が勝利を確信するそんな中、だが俺の心には新しい懸念材料が生まれてしまっていた。

 

完全開放(ブレイクレリーズ)!!」

 

 既に反撃する気力をも失せ動きを止めたザガンギルディに対して必殺の構えを取り始めるテイルブルーム。

 やっぱりそうなっちまうよなぁ……!!

 その瞬間、俺の体は傷ついているのにも関わらず素早く動き始めていた。

 

「ブルームツインシュー……」

 

「ちょっと待ったぁぁぁぁ!!」

 

 今まさにトドメの矢を放とうとするテイルブルームと倒れ込むザガンギルディの間に割って入る俺。

 何が何だかわかっていない様子のテイルブルームは驚きながらもとりあえず必殺技を中断した。

 

『和輝!?』

 

『何やってんだよー!! 折角先生がトドメさすって時に!!』

 

『そうよ和くん!! 一体どうしたの!?』

 

 何とか間に合ったと安堵する一方で仲間達からの非難の声が聞こえてくる。

 傍から見れば暴れ狂うエレメリアンを庇っているようにしか見えないので当たり前だ。

 そんな俺に対して冷静さを取り戻したテイルブルームは再び必殺の構えを取りながら冷淡につげる。

 

「どきなさいバイオレット。そのエレメリアンはここで倒さなくちゃいけないのよ。あなたもわかっているでしょう?」

 

「ああ確かに先生の言う通りだ。だが俺はここをどくつもりはねぇ。こいつだけは……俺のダチだけは……絶対にやらせねぇ!!」

 

 絶対にザガンギルディを殺させはしない。

 その決意をもって立つと自然に力が湧き上がって来る。

 今の俺に迷いはない。例えそれが同じツインテール戦士であるテイルブルームと敵対することになってもだ。 

 一触即発の雰囲気に周囲が耐えれなくなるであろうその時だった。

 

「おいおいおいおいおい。こんな時に仲間割れかぁ?」

 

 ホールの屋上付近から声がしたかと思い振り向くとそこには、山羊の角が目立つ如何にも悪魔といった風貌の黒いエレメリアンが邪悪な笑みを浮かべながら立っていた。

 俺は直感した。この野郎がザガンギルディを暴走させた張本人だという事を。

 

「てめぇ!! 一体何者だ!! ザガンギルディの奴に何しやがった!!」

 

「バイオレット、それはどういう事!? もしかしてこのエレメリアン……」

 

「ほぉ……随分と勘がいいな貴様」

 

 やはりか……

 そう言うなりホール屋上から降り立つ黒いエレメリアン。

 その随分と偉そうな態度が余計に癇に障る。

 

「先ずは初めましてといこうか。俺の名はベリアルギルディ。アルティデビルの真のリーダーにしてこの世のエレメリアン全ての頂点に立つ至高の天才だ」

 

 俺は今までアルティデビルのリーダーはバアルギルディだと思っていた。だがこのベリアルギルディは自分こそがアルティデビルの真のリーダーだと言っている。

 嘘か本当かどうかや自分の事を至高の天才などと称している点はどうかと思うが、その邪悪なオーラはバアルギルディのそれとは比べ物にならない。

 

「とまぁ、そんな事より、随分と痛めつけてくれたようだなぁ。オレとマイエンジェルの愛の研究成果をここまでやってくれるとは……心外だよ」

 

「ッ!! まさかてめぇが魔神の吐息(デモン・ブレス)を作ったのか……!! てめぇのせいでザガンギルディは……!!」

 

「あのバカがいけないのだよ。オレの思い通りにならないからなぁ!!」

 

「許さねぇ!!」

 

 ザガンギルディがバカだと?

 真面目で少し不器用だけど優しい自己犠牲の精神に溢れたあのザガンギルディがバカだと……!!

 ザガンギルディをおかしくした張本人がベリアルギルディだとわかった瞬間、俺はベリアルギルディをぶん殴るべく衝動のままに駆け出した。

 コイツだけは絶対に許さねぇ!!

 

「ほう。中々の気迫。それでいてツインテールは全く乱れていない。凡才にしてはよくやる。だが……!!」

 

 誰が凡才だ……!! 

 怒りのままにぶん殴るべく拳を突き出す。だがベリアルギルディは何事もなかったかのようにその拳を片手で受け止めた。

 いくら完全開放していないとは言え、全力を籠めて殴ったっていうのにこうもあっさりと受け止められたことに俺は驚きを隠せない。

 

「わかったか? これが貴様とオレの格の違いだ。貴様のような凡才の拳ではこのオレを傷つける事は出来ないのだよ!!」

 

 俺はベリアルギルディの手から放たれた衝撃波で吹き飛ばされる。

 すかさずテイルブルームがベリアルギルディを狙いグランアローを引き絞るが、ベリアルギルディは懐から取り出した魔神の吐息(デモン・ブレス)と思わしき宝石を倒れ込むザガンギルディ目掛けて投げつけた。

 

「悪いがこれ以上、戦うつもりはなくてな。精々、貴様らはそこの役立たずの脱走者と仲良く戯れるんだな。ハーハッハッハッハッハ!!」

 

 その高笑いと同時にベリアルギルディの姿は消え、テイルブルームの放った矢は空を切る。

 クッソ、逃げられた。

 悔しむ俺たちであったが、その背後でザガンギルディが再び動き出し暴れ出す音が聞こえハッと我に帰る。

 

「なぁ先生。あいつは俺が止める。だから手を出さないでくれ頼む」

 

 迷いがなくなったと言えば嘘になる。

 今だってザガンギルディを元の姿に戻してやりたい気持ちでいっぱいだ。

 でも、これ以上ベリアルギルディのせいで暴れ苦しむザガンギルディの姿を見ていられねぇ。それならいっそ、この手で息の根止めてやる。

 その決意が伝わったのかテイルブルームは黙って身を引いてくれた。

 

「行くぞティアナ!! ブレイブチェインだ!!」

 

『わ、わかったわ!!』

 

 俺の体を勇気の赤い炎が包み込み、追加装甲(テイルアーマー)を形成、瞬時にブレイブチェインへと変身を完了させる。

 変身完了と同時に俺はザガンギルディを止めるべく勢いよく駆け出し、二刀のウインドセイバーを振り下ろした。

 

 

 

 

「うぉりゃぁぁぁ!!」

 

 ブレイブチェインへの強化変身によって完全にパワーバランスが逆転した事で、さっきまでは苦戦していた筈のザガンギルディの攻撃はまるで通用せずにウインドセイバーで斬り裂いていく。

 流石はブレイブチェインの力だと感心したくなるが今はそんな状況下ではない。

 この力は俺がザガンギルディを倒す気持ちの表れなのだから。

 

「グォォッ!!」

 

「だぁらッ!!」

 

「ウグォォ!?」

 

 苦し紛れに振り下ろされるザガンギルディの巨木のような腕を潜り抜け、懐に潜り込んだ俺はザガンギルディの顎目掛けて頭突きを喰らわせる。

 それによって体勢が崩れた所でウインドセイバーを乱舞。

 仕上げとばかりに大きく空中へと跳んだ俺はザガンギルディの頭部に生えている牛の角を回し蹴りでへし折った。

 

「……ウゥゥゥゥ」

 

 地面に転がるように倒れ込むザガンギルディ。

 グロッキー状態のザガンギルディはもう暴れる気力は殆ど残っていないだろう。

 もう勝負はついたような物だ。

 後は必殺技を叩きこむだけで全てが終わる。

 

『和輝、大丈夫?』

 

「ああ、いくぜ」

 

『わかったわ……』

 

 ごめんな滝と心の中で謝りを告げた後、俺の体はティアナから送られてくる属性力で満たされる。

 俺は二刀のウインドセイバーを手に取り構え、周囲に炎と風を巻き起こす。

 心なしかいつもよりも火力も風力も下がっている気がするが、今のザガンギルディを倒すのに支障はないだろう。

 

完全開放(ブレイクレリーズ)!!」

 

 完全開放と同時に走り出し、周囲に巻き上がる炎と風のエネルギーをそれぞれのウインドセイバーに収束させて振り下ろす。

 

「これでトドメだぁぁぁッ!!」

 

 その叫びは本当に叫びたかった一言だったのだろうか。

 俺は悲しみと苦しみを押し殺しザガンギルディへブレイジングスライサーを叩きこむ。

 必殺技を喰らったことでザガンギルディの体は真っ赤に膨張を始め、大爆発までのカウントダウンが始まった。

 これで終わり。

 そう思った俺はザガンギルディが吹き飛ぶ瞬間を見たくないが為に背を向ける。

 その時だった。

 

「ア、リガ……ㇳ……」

 

 片言ではあったが確かに聞こえたのはザガンギルディの声だった。

 俺は咄嗟に振り向くももう既に限界を迎えたザガンギルディの体は全身のスパークと共に大爆発を巻き起こす。

 そして取り込まれていた属性力が大空に舞い上がりコミケ会場一帯へと雪のように降り注がれていく。

 

「お前、まさか最後に意識を……」

 

 結局、倒すことでしか救う事が出来なかった。

 その悔しさが洪水のようにこみ上げてくる。

 一体、どうすれば本当の意味でザガンギルディを救う事が出来たんだろうか?

 

「クソッたれがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 俺の叫びはコミケ会場一帯に響き渡った。

 

 

 

 

 次の日、雨が降る中、俺はティアナを連れずに一人で滝の家に訪れていた。

 本当ならば今日は昨日同様にコミケ会場に足を運んでいる筈なのだが、昨日の大騒ぎで会場の一部及び参加者に被害があった為に二日目以降のコミケは中止となっている。

 コミケが中止になった筈なのに何故俺が滝の家に来たのかというと、ザガンギルディがいなくなった後の滝の様子を確認する為だ。

 正体を隠している都合上助けきれなくてごめんと謝る事が出来ないが何もしないでそのまま疎遠になるのも気が引けてしまうしな。

 ザガンギルディが居た時とは違ってチャイムが鳴ると同時に応答してくれた。

 

「やぁ、いらっしゃい……」

 

 玄関で俺を出迎えてくれた滝の表情が暗い。

 俺はそんな滝を見て申し訳なくなってしまう。

 

「すまねぇな。無理言って来ちまって」

 

「そ、そんな事ないよ。自分一人では本も全部整理できないし……」

 

 自分一人か……

 その言葉が胸にチクりと突き刺さる。

 居間に上がるとそこではついこないだまで誰かもう一人いたのだろうという形跡が残されていた。

 その時、丁度ついていたテレビに流れている報道バラエティ番組が昨日のコミケでの騒ぎを取り上げはじめた。

 やれ追い詰められるテイルバイオレットにドキドキしただの、やれ赤いテイルバイオレットがカッコ可愛いだの相変わらず好き勝手に感想を述べあうコメンテーターたち。

 そんな中、一人のコメンテーターがザガンギルディに対して非難するような発言を行った。多くの人が楽しむこんなイベントで無茶苦茶に暴れまわるなんて最低な怪物だだと。

 仕方ないにせよ俺はその言葉に深い憤りを覚えてしまう。

 

「なぁ、お前はどう思うよ? ザガンギルディについて」

 

「自分は……何か訳があったんだと思う事にする。だって、本当のザガン君は優しい奴だったから……」

 

「そう……だよな」

 

 外の雨が一層激しく降り始めた。




これからも暗いオチになる話は度々あると思いますがそういう時は原作を読んで笑ってください。
次回は31日大晦日に更新を予定しています。
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