俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
今年も本作品をよろしくお願いいたします。
むか~しむかし。
日本の山奥にあるとある村にそれはそれは可愛い女の子が住んでいました。
その女の子は誰よりも元気で誰よりも明るく誰よりも優しくそして誰よりも自分のお気に入りの髪型であるツインテールを愛していました。
「おはようさん。今日もその髪型かい?」
「うん!! いいでしょ?」
「ああ。ようにおうとる良い髪形じゃ」
「へへ~ん」
村で一番の可愛さを持ったその子は村中の人気者で、その子の笑顔にみんなが励まされてきました。
そんなありふれた毎日が過ぎたある日の事です。
平和だったこの村にある事件が起きたのです。
「今日からこの村の領地は我が主の物となった!! 以後これからこの村は我らの監視下に置かれる!!」
この村の存在を知った地元の殿様が沢山のお侍さんを連れてやってきたのです。
動物を狩る事こそあれど人間と戦った事がない程に今まで平和だった村の住人たちは、戦うことなくお侍さんたちの支配を受け入れるしかありませんでした。
それからというものこの村の雰囲気は以前の平和で穏やかな物から変わってしまいました。
乱暴なお侍さんたちが好き勝手荒らしまわる中、男たちは村から逃げる事も許されずに日々課せられる仕事を淡々と繰り返し続け、若くて美人な女性はお侍さんたちのストレスの捌け口として身体を好き勝手に使われてしまうそんな残酷な毎日。
それはあのツインテールの女の子も例外ではありませんでした。
「げへへ、今日も気持ち良かったぜ」
「あ、ありがとうございます……」
村全体に活気を与えていたあの笑顔は何処へやら。
今日も今日とて下品なお侍さんたちの相手をしては心身ともにやつれていくあの女の子。
そうやって絶望的な毎日が過ぎていくそんなある日。
お侍さんたちの主である殿様が久方ぶりにこの村にやって来たのです。
「いいか? お前はこの村の女で一番可愛い。よって、今日の夜はお前が主様のお相手をしろ。いいか? くれぐれも主様の機嫌を損ねるんじゃないぞ」
「はい……わかりました……」
殿様のお相手に選ばれたのは勿論、村一番の可愛さをもつあのツインテールの女の子でした。
少しでも機嫌を悪くさせたら命はない。
女の子は生きる為に作り笑いを浮かべながら必死にお相手を務めました。
そのご奉仕に満足気な殿様は満面の笑みを浮かべながらもふとこう呟きました。
「女。余は大変満足じゃ。だがその髪型だけは異国の香りがしてどうも気に食わん。今すぐ切ってまいれ」
どれだけ身体が汚されてもいい。どれだけ心を侵されてもいい。
それでもこのツインテールさえあれば生きていける。
髪を切る事はツインテールを愛するその女の子にとってただ殺される以上に残酷な所業の一つでした。
「い、嫌です……」
「ん? 今何と言った?」
「嫌だといったんです!! この髪だけは……!! この髪型だけは絶対に失わさせない!!」
女の子は感情を爆発させ断固として拒否を宣言しました。
ですがそんな事をしてタダで済むわけがございません。
反発的なその態度に怒り狂った殿様は家来に命じました。
「今すぐこの者を斬り捨てろ!!」
こうなってしまった以上は誰も彼女を助けることは出来ません。
女の子は抵抗することも出来ずにあっけなく刀の斬撃をその身に受けます。
享年約14歳。村一番の可愛さを持っていたあの女の子は死んでしまいました。
「余に逆らった罰じゃ」
死してなお怒りが収まらない殿様は物言わぬ死体となった彼女の頭を掴むと手持ちの小刀でその髪の毛をざっくざっくと切り落としてしまいます。
そして生前を思うと余りにも無残な毛無しの女の子の死体が出来上がました。
その無様な姿に満足した殿様が大きな声で笑ったその時でした。
「ゆる……さ……ない……」
「ん? 何じゃ? 誰か何か言ったか?」
首をブンブンと振る家来たち。
不思議に思った殿様の耳に再度声が聞こえてきます。
「あなただけは……絶対に許さない……」
よく聞くとその声はさっき殺した筈の女の子の物でした。
もしかして恨みの余り幽霊となってしまったのか?
霊という存在に恐怖で顔が引きつる殿様はパニックになりながら屋敷を飛び出し村から逃げ出そうとします。
しかし……
「何故じゃ!? 何故開かぬ!!」
屋敷唯一の出口がうんともすんとも言いません。
まるで何か不思議な力でもかかっているのかと思ってしまうくらいです。
事の重大さに気づいた家来たちも殿様の為に動きますがビクともしません。
そんな中、一人の家来が灯がともった蝋燭を倒してしまいました。
「何じゃ!? 今度は何じゃ!?」
殿様の叫び声が木霊する中、倒れた蝋燭の火は一気に燃え広がり、屋敷全体を飲み込んでいきます。
逃げようにも屋敷から出れない殿様と家来たちは慌てふためきますがどうしようもありません。
大きくなった炎は殺されてしまったあの子の怒りを表すかのように強く燃えひろがり、遂には殿様たちを丸ごと飲み込んでしまいました。
それから数ヶ月後。
殿様がいなくなった事でお侍さんたちの支配から解放され平和になった村でしたが、ある不思議な事が起こります。
それは住人たちが丹精込めて育てた食物がみんな突然枯れてしまったということです。
どれだけ頑張ってもどれだけ数を作っても突然枯れてしまう怪現象を見たある人は言いました。
「これは祟りだ。あの子の祟りだ」
このままでは折角平和になったのに村が滅びかねない。
そう判断した村の住人たちはこの祟りを鎮めるべく、ツインテール姿をしたお地蔵様を祀ったお堂をお屋敷があった場所に拵えました。
すると以前のように食物がきちんと育つようになりました。
それからというものこの村がある山は
◇
「おい堀井……俺たちもしかしてよ」
「うるさいぞ涼原……!! それに堀井先生だ……!!」
辺り一面が木々で埋まった山道の中、先頭で地図を持つ堀井の足が止まった。
これはもしかしなくても相当ヤバい事態になっていると頭が警告を鳴らし始めたので、俺は堀井に声をかけたがどう見ても問題ないようには見えない。
このまま堀井に任せたままじゃ不味い。そう判断した俺は徐にスマホを取り出しマップを開くが、残念な事に出てくるのは圏外の二文字だけだ。
「ねぇ和輝? これってやっぱりアレよね?」
スマホの画面を見て不安になったティアナが顔を青ざめながら言った。
悔しいが俺は頷くしか出来ない。
「先輩、堀井にガツンと何か言ってやってくださいよー」
「そうは言ってもねぇ……」
「兄さん……!! 堀井先生の事が信用できないんですか……!!」
一行における最年少、美希ちゃんが実の兄である匠に対して声を荒げるが、いつもと違って心なしか覇気がない。
俺や匠と違って頭のいい美希ちゃんの事だ。
薄々この状況に勘づいているのだろう。
「ほ、ほら先生……!! こんな兄に何か言ってやってください……!! 私たちは大丈夫だ決して迷子何かにはなってないって……」
美希ちゃんのそれはきっと藁にも縋るような思いだったのだろうな。
だがしかし、そんな美希ちゃんの思いとは裏腹に堀井の表情は明らかに普通じゃない。例えるなら今にも泣きだしそうな華先生って所だろう。
「みんな……!! すまない……!!」
美希ちゃんの言葉に耐え切れなくなったのか、堀井は俺たちに向かってそれはそれは見事な土下座をしてきた。
いつもの情けない堀井の姿を見ている俺や匠からすれば、今の堀井の姿はこの上なく似合っているだなんて今の状況では口を避けても言えやしない。
だって俺たちよぉ……
「遭難してしまいました……」
今にも泣きだしそうな中で捻りだした堀井の声が辺り一帯に木霊する。
どうしてこんな事になってしまったのか。
話は昨日に遡る。
「いらっしゃいませ……って悠香さんに匠じゃない」
それは夏休みも残り一週間となったある日の事だった。
エレメリアンが出現しない以上は特にやることもなくいつも通りアラームクロック店内のカウンター席に座ってコーヒーを飲みながらティアナと喋っていた時、匠が悠香さんを引き連れて店にやってきた。
一人で来るならまだしも二人一緒に来るだなんて何かあるな。
そう俺の第六感が告げたので何故来たのかを尋ねてみると、何でも悠香さんが言うには夏明けの大特集に向けてとびきりのネタを仕入れないといけないらしく、俺やティアナにも手伝ってほしいとの事だった。
「で、とびきりのネタって一体何なんだよ悠香さん?」
「先輩、俺も気になるっす」
「匠、あんた知らないのに手伝うつもりだったの……」
匠の奴、いくらお前が夏休み期間中は新聞部のお手伝いのバイトをしている関係上断れないとは言っても、それくらいは知っておけよ……
俺もティアナも匠の馬鹿さ加減には呆れるしかない。
「和くんよくぞ言ってくれましたこれ見てよこれ」
待ってましたとばかりにスマホを開き俺たち三人に見せてきたのは、とある動画サイトに残っていたライブ配信のアーカイブ映像。
何々? 心霊スポット
内容は
最初こそよくあるしょうもないパターンだなと思って見ていたらいつの間にか画面が暗転、動画主の悲鳴がけたたましく響いたと思うとそこでアーカイブ映像は終わってしまった。
「どうどう気になるでしょ?
目をキラキラさせながら俺とティアナに聞いてくる悠香さん。
確かに怪奇現象調査は夏休みのいいネタになるだろう。
だが俺とティアナの反応はいたって冷やかな物だった。
「悠香さんには悪ぃが俺はパス」
「私も」
「「ええ!? どうして!?」
俺たちが二つ返事で了承してくれるとでも思っていたのか、大袈裟に驚いてみせる悠香さんと匠。
ティアナは兎も角、俺がこう言ったのには訳があった。
「だってよぉ、これってどうせただのデマ動画だろ?」
そう。俺にはさっきの動画がどこかきな臭く感じてしまっていたんだ。
ロマンがないなと言われれば否定できないが、俺はオカルトの類を信じた事は一度もない。言っておくがエレメリアンや属性力とかはオカルトではないのでノーカンだ。
余りにも直球過ぎるストレートパンチを喰らった悠香さんはいつもの余裕を失ってしまう。
気の毒だがこればかりは譲れない。絶対に行くものか。
「第一、幽霊やら祟りやらがこの情報社会にあるわけないでしょ。いたら会ってみたいもんだぜ」
「何よ~。夢がないわね~。あら、もしかして本当は怖いだけじゃないの~」
「そんな見え透いた挑発に乗る俺じゃねぇっつーの」
「ちぇッ、バレちゃったか……」
当たり前だ。安い挑発なんてあんたの常套手段の一つでしょうが。
おどけながら舌を出す悠香さんを俺はジト目で睨んで威嚇する。
「おいおい堅いこと言うなよ~。行こうぜ~、どうせ暇なんだろー?」
「それは……そうだけどよぉ……」
クッソ……!! 匠の野郎……!!
どうせ暇と言われてしまったが、そればかりは否定することは出来ない。
匠のカウンターパンチにぐらついてしまう俺だったが、ここにきてティアナが助け舟を出した。
「悠香さんには悪いですけど、私も和輝の意見に賛成です。それにもし私たちがその
そう言えばそうだ。いくらテイルバイオレットの力を使えば日本中何処へだって向かう事が出来る言っても、だからといって余りに離れていた場合はそれ相応の時間がかかってその間被害者が増えちまう。今の所、奴らは俺たちがいる町からそこまで離れた場所に出現した事がないので、余程の事がない限り、この町から離れないべきだ。
ナイスだぜティアナ!!
声は口に出さず俺は無言のままティアナに向かってサムズアップを送る。
「それにそもそも和輝は暇じゃありません。和輝にはやるべきことが沢山残っているんです」
「は? ちょっと待てティアナ」
勝ちを確信し余裕ぶっていた俺であったがティアナのその言葉を聞いて思わず固まってしまう。
何かこれは嫌な予感がするぜ。
その予感は直ぐに当たる事になる。
「さっき言ったのにもう忘れたの?」
「お、おう」
「何々何が残っているの?」
「ったく、しょうがないないんだから。いいですか悠香さん。和輝には夏休みの宿題がまだ殆ど残っているんです」
ぐうの音も出ないその一言は悠香さんを黙らせるには効果抜群であった。
ちなみに俺は俺で嫌なものを思い出したと頭を抱えてしまっている。
そういや、今日の今まで宿題なんて一つもやってこなかったぜ。
チラリと匠をみてみると奴も同じように頭を抱えていた。
「だから他をあたってください。この後も手伝いが終わり次第、私が見てあげないといけないので」
何が悲しくて夏休み最後の一週間を宿題に明け暮れなくちゃならねぇんだよ。まぁでも、しょうもない心霊スポット調査よりかはまだマシか。
「そう……。じゃあ他の人にあたるとするわ」
流石の悠香さんも学業が関わっているときたら何も言い返せねぇようだ。
いつもは見せないようなしょんぼりとした姿を見せる悠香さんに対し、俺自身は変な場所に連れて行かれなくて済んだと胸を撫で下ろす。
これでもう一安心。そう思った瞬間だった。
「折角、ツインテールの幽霊が出るって噂だったのに……」
匠を引き連れ帰ろうとする悠香さんがボソッと呟いたその一言。
その言葉を聞いたティアナの目が輝き始めたのを俺は見逃さない。
おいおい……これはもしかしなくてももしかするぞおい。
「待ってください悠香さん!! ツインテールの幽霊ってそれは一体どういう事ですか!?」
だーっ!! やっぱりな!! そんな気がしたぜ!!
案の定ティアナはツインテールと聞いて勢いよく飛びついた。
その瞬間、悠香さんの口元が二ヤリと歪んだように見えた。
「気になる? 気になるわよね~? でも……ティアちゃんには愛しの和くんとのお勉強会が残っているのよね~? それがある限り――」
「中止にします!! 宿題なんて後で私の全部写せばすぐ終わりますし!!」
「それは駄目だろおい!!」
あまりにも早い即答っぷりについツッコんでしまった。全く……このツインテール馬鹿は……。
てか悠香さん、あんたはこうなるのを全部読んでいたとでもいうのか。
このままでは不味い予感がするので俺は迎撃にうつるとしよう。
「おいティアナ!! そもそもエレメリアンの方はどうすんだよ!! 俺たちは余程の事がねぇ限りこの町にいるべきじゃねぇのかよ!!」
「何言ってるのよ、ツインテールの幽霊は余程の事でしょ?」
「違うわバカタレ!!」
なーにあっけらかんと言ってやがるんですかね~コイツは!!
怒りを通り越して呆れてしまうぜ全く……
「あー和くん?」
「何だよ、悠香さん。今取り込み中だぜ」
「それについてはもう解決してるから大丈夫よ」
「はぁ!?」
詳しくは当日になったら教えてくれると言う悠香さん。
一体何をどうすれば解決できるって言うんだよ。俺にはまるでわからない。
どこでもドアとかみたいなワープ装置が実際にあるって言うのなら話は別だが、そんな物がこの世に存在している筈がねぇし……
まぁでも悠香さんの自信満々な態度を見るに何かあるのだろう。
何故だか信じずにはいられないのが悔しい。
「そ、そうだ!! おいティアナ!! 店の手伝いはどうすんだよ!! 最近、忙しいんだろ? だったらお前は呑気に幽霊探ししてる暇ねぇんじゃねぇのかよ」
追い詰められた俺は苦し紛れの一言を口にする。
すると今度は別の所から俺にトドメを刺しに来た。
「いいじゃないか~幽霊探しだなんて。行っておいでよ、俺もお前らくらいの歳の頃はよくペットにする為に探しに行ったもんだぜ」
「おやっさん!! あんたな~!!」
幽霊をペットにするとか何とかのクッソどうでもいいおやっさんの昔話は置いておくとして、あんた一体いつから聞いていたんだよ。てか邪魔すんじゃねぇ!! このままじゃ俺が……!!
もう打つ手がない俺はただ手を合わせ神様に祈るしか出来ない。
だが勿論、そんな祈りが届くはずもなく……
「決定ね。じゃあまた明日」
「はい!!」
結局、俺は悠香さんたちの幽霊探しに付き合わされることになった。
そして次の日――
「よし!! これで全員ね!!」
「いいかみんなー!! 今日一日中はこの堀井先生の言う事をちゃんと聞いて安全第一に怪我無く帰れるように頑張っていこう!!」
「わかりましたです!!」
「「待て待て待てい!! 何でお前らがいるんだよ!!」」
待ち合わせ場所である駅前の噴水広場に集まった俺と匠は、堀井と美希ちゃんという予想だにしていないメンバーについて声を荒げた。
てか青葉さんと華先生はどこだよ。
何故、あの人たちがいなくてコイツらがいんだよ。
「だって仕方ないでしょ~いくら新聞部でも遠出には先生の付き添いは必須なんだもの~」
「それはわかるけどよ!! じゃあどうして堀井なんだよ!! 華先生はどうした!? 顧問だろ!?」
「あーそれはね――」
「山村先生が俺に代わって欲しいと言ってくださったんだ。理由はわからんが何でも今日お前たちが出かける代わりに残らくちゃならないらしい。後、堀井と呼ぶな、堀井先生と呼べ」
成程、つまり華先生は俺たちが出かけている間、エレメリアンが出てきた場合の処理を担当するってことか。昨日、悠香さんの言っていた事の意味がわかったぜ。
まぁでも、それなら普通は顧問である華先生が出かけて俺たちが残るべきだろとは思う。
ないとは思うが万が一俺たちがエレメリアンと出くわした時はどうするんだよおい。
「本当はただ幽霊が怖くてしょうがないからなんだけどね」
不思議に思ってた俺に真実を耳打ちしてくれた悠香さん。
帰ったらオカルトグッズを大量にお土産として華先生にくれてやると俺は決意した。
「だったら先輩、美希はどうしているんすか? コイツまだ中学生っすよ」
「そんなの兄さんが他の人に迷惑かけてないか心配だから決まっているじゃないですか!! 大体兄さんはいっつもいっつも私の事をまだ中学生って馬鹿にして……!!」
「誤解だ誤解!! 別に馬鹿にしてる訳じゃ……!!」
「言っておくですけど私は兄さんよりも勉強だってスポーツだって……それにさっき聞きましたよ!! 兄さんあなた堀井先生に対して――」
「ストップストップ!! こんな所にまで来て説教はやめてくれーー!!」
といういつも通りの光景を見た後に俺たちは堀井先頭の下、目的地である
山の麓につくまでは何ともなかったが、問題は山道に入ってからだった。
堀井の奴、今の今まで全く気づかなかったがコイツ方向音痴だったんだ。さらに追い打ちをかけるように堀井の奴、華先生に頼み事されて有頂天になっていたというのもあってか無駄に張り切っていやがった。
そしてその結果が……
「遭難してしまいました……じゃねぇよおい!!」
「本当に申し訳ない……!!」
この様である。
俺たち一行はすでに幽霊探しどころではなく、生きて帰れるかどうかの瀬戸際に立たされていた。
◇
あれから何時間経ったんだろ?
堀井先生の遭難宣言からかなり時間が経ったけど、私たちは未だに元の山道に出られずに山の中を歩き回り続けていた。
本当だったら今頃、私はツインテールの幽霊にご対面出来ていた筈なのに……
堀井先生に先頭を任せたのは私たちでもあるからあまりとやかく言うつもりはないけど、それでも文句の一つや二つ言いたくなってしまう。
「すまない……!! 俺のせいでみんなに迷惑かけてしまって……!! 俺は……俺は……教師失格だーーーー!!!」
「だーーッ!! うるっせぇんだよ!! 騒ぐ暇あんのかああん!?」
暑苦しく嘆く堀井先生に和輝が怒号を飛ばし拳を振り上げる。
流石に殴るまではいかなかったけど和輝の怒りは相当な物だった。
「先輩~俺らどうなっちまうんすか?」
「そうなんですよねぇ……遭難だけに」
悠香さん、そんな寒いギャグ言っている場合じゃないでしょ。
心の中でツッコミを送る。
「俺嫌っすよ。童貞卒業も出来ずにこんな山道で野垂れ死ぬなんて」
「兄さん!! 女性相手に対して何てこと言っているんですか!! 私、妹として恥ずかしいです!!」
赤面しながら匠を りつける美希ちゃんとその様子をスマホでしきりに録画している悠香さん。
私としては童貞という言葉の意味が何となく卑猥な言葉ってことはわかるど結局の所はあまりよくわかっていないので頭を傾げるばかり。
童貞とかそのあたりのワードについて今度調べてみようかなと思いつつも、頭の片隅でそんなこと調べてはいけないと教え込まれた記憶の陰がチラついてくる。お父さんやお母さんではない誰か別の人物。それが思い出せそうで思い出せない。
「おーいティアナ!! 何ボーっとしているんだよ。さっさといくぞ」
「あ、うん」
少し考え過ぎていたのかいつの間にか私は、一行の最後尾である堀井先生よりも後ろの場所で突っ立っていた。
いけないいけない。こんな山の中ではぐれるだなんて自殺行為もいいところだわ。
私は少し駆け足で後を追う。
「ごめん和輝……!!」
「おう。てかそれよりもお前、何か考え事でもしてたのか? 様子が変だったが……」
「あーそれはね――」
「おいみんなー!! こっちの茂みから音がしたぞー!! もしかしたら他の登山客かもしれねー!! 行ってみるー!!」
私と和輝の話を遮るかのように匠の声が響いた直後、私は近くで倒れている注意看板を見て何か嫌な予感を感じとってしまった。
そして聞こえてくる匠の悲鳴。
その声を聞いた私たちは皆一目散に匠の入った茂みの中に足を踏み入れる。
するとそこには大きな大きな茶色の塊である熊が匠の目の前に迫っていた。
「これはくまったわね……」
「そんな事言っている場合じゃないでしょ!! 助けてくださいよ!!」
「バカ野郎!! 騒ぐんじゃねぇ!!」
「そうですよ!! こういう時は黙って後退するんです!!」
「お前ら、んなこと言ったってよー!!」
泣きべそかいて騒ぎ散らしている匠にそんな判断は出来やしない。
これじゃ襲われるのは時間の問題ね。
「こ、こ、ここは俺が囮に――」
勇気を振り絞り囮を買って出ようとする堀井先生を私は手でスッと止める。
どうやらここは私の出番のようね。
「ここは私に任せてください。あれくらいのサイズの熊なんて別にどうって事ありません」
「な、何を言っているんだ!?」
「ティアナ、お前……まさか……!?」
和輝は私が何をしたいのかを察したのか止めようとする堀井先生を逆に引き留める。
私は熊と匠の間に割り込むように堂々と入っていく。
「なーんだ。近くで見ると意外と小さいのね」
「ティアちゃん? ななな何言ってんの?」
「いいから見てて」
熊は立ち上がり、その目がキラリと光ったと同時にその太い腕を振りあげ振り下ろす。
みんなから見ればそれは空気を切り裂くかのような凄いスピードに見えるかもしれないけど、私から見ればこんなの蚊が止まっちゃうくらいの遅さにしか見えなかった。
「遅い!!」
「「「よ、避けたー!?」」」
体を屈ませる事で容易く回避に成功。今度はこっちの番。
私は拳を握りしめ熊の懐に潜り込むと脇腹目掛けて鋭い正拳突きを見舞う。
拳が入ったと同時に木々は揺れ辺りに静寂が訪れる。
そして……
「はい、いっちょあがりっと」
ドシーンと大きな音を鳴らしながら熊は白目をむいて気絶し倒れてしまった。
殺さないように加減するのは難しかったけど、上手くできたみたいで少しホッとする。
「お母さんならもっと手早く仕留めるんだけど、私もまだまだね」
「ティアちゃん? あんた何言ってんの……!?」
「そ、そうだぞ橘……!!」
「凄すぎるです……」
ドン引きしている様子の匠と堀井先生と美希ちゃん。
私としてはそんなに変な事したつもりないんだけど、どうしてそんなに引いているのだろう。
熊を気絶させるなんてそんなに難しい事じゃないし……
「和くん、もっと鍛えた方がいいんじゃない?」
「俺もそう思った所ですよ」
和輝と悠香さんに至っては何かブツブツ話しているし一体どうしたんだろう。
ただ熊を気絶させただけだというのに何か変よね。
そんなみんなの態度に頭を傾げているそんな時だった。
(こっちにおいで……)
突然、頭の中に響くかのように聞こえて来たのは私たちの誰でもない女の子の声。
一体誰なの? と周囲を見渡すがそれらしき影は見当たらず声は一層響いてくる。
どうやらこの声は私以外には聞こえていないみたいね。
それを認識した途端、私の頭は段々と真っ白にクリアになっていく。
(おいで……おいで……おいで……おいで……)
「はい……」
私を誘うその声に導かれるように、私の脚は勝手に動き出した。
「今度はどうしたんだよ!! おいティアナ!!」
どうしたんだろう?
私自身も何故だか止めることが出来ない。
ふわふわとした気分の中、私はみんなを置いて全速力で駆け出した。
一度はやりたかった夏の怪奇シリーズ(投稿時期は真冬)。
当分の間は火曜日更新で書いていきたいと思います。