俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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先に言っておく!! ホラーは書けません……


第72話 真夏の夜の狂乱

 空が夕焼けに染まりだしもう日も暮れようかといった時刻の二結山(ふたつみやま)。俺たち幽霊探しツアー御一行は突如として走り出したティアナを追って山道を走り回っていた。

 

「おいティアナ!! 何処へ行くってんだよ!! おーい!!」

 

「そうよティアちゃん!! 流石に危険よ、戻ってきなさーい!!」

 

「一人では危険ですー!!」

 

「待て橘ー!! 先生やみんなの言う事を聞けーい!!」

 

 図らずも遭難してしまった以上、山の中で一人で動き回るのは危険でしかない。ましてやもう直ぐで暗くなる時刻だ。いくらティアナ自身が生身で熊を倒せるといっても限度がある。

 そんな事はティアナ自身もよくわかっている筈だっていうのにアイツは止まる事を知らないで走り続けていやがる。

 クッソ……!! 一体何がどうなってやがんだよ!!

 

「……」

 

 制止も聞かずに走り続けるティアナを追いかける事数十分。

 重い荷物を持って走り続けた事もあり、もう既にみんなスタミナ切れ寸前で心臓がバクバクと鼓動を鳴らして止まらない。

 そんな状況下の中、悠香さんが俺に話しかけてくる。

 

「もしかしてだけど……!! 今のティアちゃんは幽霊に憑かれているとかじゃ……!!」

 

「はぁ!? そんな訳が……!!」

 

 その時、ふと走り出す直前のティアナの様子を思い出す。

 熊を倒した直後は別に何ともなかったが、それから少し経った時、アイツの目から光が消えてたような……

 オカルトは否定するのが俺の常であるが、今のティアナのおかしな様子を見ていると段々そんな気がしてならなくなってくるぜ。

 そう思った直後だった。先頭を走るティアナの足が不意に止まった。

 

「ストップ!! ストッーーーーーープ!!」

 

 俺たち一行は加速する勢いを殺すべく、踵で地面を抉り急停止するが、慣性が強すぎるのか勢いが殺しきれずティアナを追い抜いてしまう。

 まぁ何にせよ、何とかティアナには追いつくことが出来たぜ。

 

「あれ? ここは? ってみんなどうしたの?」

 

「お前な……!!」

 

 何も覚えていないかのようにきょとんとした表情で見つめてくるティアナ。

 俺はそんなティアナを見て少しばかり怒りがこみ上げてくる。

 誰のせいだと思っていやがる。そう怒鳴ってやろうかと思った矢先、悠香さんが驚きの声を上げた。

 

「ちょっと待って!? あれってアレじゃない!?」

 

 アレって何だよ。そう思いながらも悠香さんが指をさした方向を見ると、そこには林の中に佇む古びたお堂の姿があった。

 間違いない。

 あれは俺たちが目的としているツインテールの幽霊が出るっていう噂のお堂じゃないか。

 

「となると向こう側には……!! やっぱり!!」

 

 何かを閃いたのか堀井が走り出したので追いかけてみると、林の奥を抜けた先には程よく整備された開けた山道があった。

 これはもしかしなくても本来通るべき山道だろう。

 

「これで俺たち遭難せずに済むって事だな!!」

 

「やったです!!」

 

「バンザーイ!!」

 

 喜びの余り抱きしめ合う堀井と美希ちゃんと匠。

 多分、アイツらの頭の中にはこの遭難騒動の発端が誰かなのかは既に消えているのだろう。

 全く、おめでたい奴らだぜ。

 

「ねぇ和輝? 何がどうなっているのかわからないんだけど?」

 

「お前……マジで言ってんのか?」

 

「うん」

 

 首を縦に振るティアナ。

 理由がどうあれティアナの奇行のおかげで遭難を回避できた以上、さっき程は怒りがこみ上げてこない。

 寧ろ、本当に何もわかっていない様子を見て俺は不思議さを感じてしまう。

 

「さて、もう暗くなったところだし残念だが今日は帰るとするか!!」

 

「堀井に賛成ー!!」「賛成ですー!!」

 

 笑顔で腕を突き上げる川本兄妹。

 そのまま堀井先頭の下、ルンルン気分で下り道を進もうとした時だった。

 

「何言ってるのよ。ここからが本番でしょ?」

 

 幽霊探しの発起人である悠香さんの待ったが入った。

 まさか今から調査するつもりなのか?

 あっけらかんと言ってのけるその姿を見て嫌な予感を感じる中、川本兄妹と堀井が抗議の声を上げる。

 

「何言ってるんすか!! 今日はもう帰るっすよ!!」

 

「そうです!! 先輩さんには悪いですけど兄に賛成です!!」

 

「そうだぞ片霧!! ここは帰ろう!! もうこれ以上暗くなっては下山は危険すぎるし今日は引き時だ」

 

 堀井の言い分は教師として最もな意見だ。これ以上、山に長居しては危険以外の何物でもない。

 だというのに悠香さんは一向に折れるつもりはない様子。

 危険な事はわかっている筈なのに何故そこまで出来るのか不思議でならない。

 

「じゃあ先輩には悪いっすけど、俺たちは降りるっすよ」

 

「そうです。今日は誘って頂きありがとうございましたです」

 

 川本兄妹は尚も折れない悠香さんを見て流石に諦めてしまったのか、先に帰ろうと下山道に足を向ける。

 当然、堀井はみんなで一緒に帰るべきだと行こうとする川本兄妹を止めようとし、俺とティアナはどうしようかと悩み始める。

 このまま帰るべきか? それとも残って調査を続けるべきか。

 俺個人としては帰りたいが何か気になる点がある以上、スッキリさせたいとも思う。

 

「さて……もうそろそろかしら?」

 

 腕時計と空に浮かぶ雲の様子を見て悠香さんがそう呟く。

 何か打つ手でも用意してあるのかと思ったその時、空がゴロゴロと音を鳴らしぽつりぽつりと水滴が落ちる音が聞こえてくる。

 

「雨……!?」

 

 そう認知したも束の間、一瞬の内に雨の勢いが強まり水滴という水滴が滝のように降り注ぐ豪雨へと切り替わり、轟く雷鳴が響き渡る。

 山の天気は変わりやすいとはよく言うがここまで急に変わる物なのかよ……!!

 こんな雨が降るだなんてある一人を除いては誰も予期していなかったがため、携帯用の折りたたみ傘なんて代物は何処にもない。さらに言えばこの辺りはあのお堂を除いては雨風をしのげるような場所は何処にもなかった。

 

「こんな雨の中、傘も持たずに暗い山道を下山だなんて危険よねー? さーてどうしましょう? 答えは簡単だと思うけどー?」

 

「片霧ー!! 謀ったなー!!」

 

「何の事ですかね先生? 兎に角、今はお堂の中に避難するべきじゃなくて?」

 

 今日のこの日にしようと言ったのも、人一倍大きなバックを背負ってやってきたのも全部悠香さんだ。つまり悠香さんは元からお堂の中で一夜を過ごす為に天気をも今日の計画の一部に組み込んでみんなを逃がさないようにしていたって訳じゃねぇか。山で一夜過ごす前提だったからか、通りで遭難したと言っても焦っていなかった訳だぜ。

 全て悠香さんの手の平で動かされていたとわかり悔しむ俺たちだったが、今はそれどころじゃない。

 雨風しのぐべく全員我先にと、扉を開けてお堂の中に上がり込んだ。

 

「ふぅー、間一髪って所ね」

 

「どの口が言ってるんすか!!」

 

 びしょびしょになった髪を拭いながら晴れやかな笑みを浮かべる悠香さんとそれにツッコむ匠。

 これで匠も悠香さんに従うのは懲りた事だろう。

 

「意外と中は広いのね……!!」

 

「そうみたいだな……」

 

 俺たち6人全員が上がりこんでもまだ余裕がある広さは道場か何かを彷彿とさせる。

 まるで中で一休みする前提みたいな作りのお堂だ。

 お堂内の中央にある台座には目当てである幽霊を祀るツインテール姿の女の子を模した地蔵がちょこんと座っては柔和な笑みを浮かべている。

 昔に作られたにしては随分と綺麗な上結びのツインテールだ。

 

「ツインテールのお地蔵さん……」

 

「どうしたティアナ?」

 

「何かこのツインテール、寂しくて悲しそうな気がする」

 

 興味津々といった具合に地蔵に近づいたティアナはそう口にした。

 俺としては普段、祟りやら幽霊やら存在していないと思ってはいるがこの独特な雰囲気の前にはそんな事口が裂けても言えそうにない。

 戦国時代かそこらに作られた割には埃一つなく綺麗なもんだなと感心する中、悠香さんがバックの中からゴソゴソとデジタルカメラとそれを支える三脚をいくつか取り出し、それぞれを地蔵の前横後ろにスタンバイしていた。

 

「スイッチオン。これでよしっと」

 

「悠香さん、もしかして一晩中撮るつもりかよ」

 

「何よ、当たり前でしょ」

 

 そりゃあそうだ。だって元々俺たちは幽霊がいるか以前にこのお堂で起きた心霊現象を調査しにやってきたんだからな。

 でも、何か引っかかる。こんな事していいのかってな。

 

「なーに? 今更怖がってるつもり?」

 

「な訳ねぇだろ!! 別に怖くなんか……!!」

 

「じゃあ別にいいじゃないの~」

 

 そうあっさりと言い放った悠香さんは入口付近で未だ騒ぐ堀井たちの下へ行ってしまった。

 俺はツインテールの地蔵をジッと見つめてみる。

 何というかティアナの言った事の意味が少しばかりわかったような気がしてならなかった。

 

 

 

 

 その夜、時刻で言えば20時を過ぎたあたり。

 悠香さんが持ってきていた携帯用の照明のおかげでうっすらとではあるが明るいお堂の中と違って、外はすっかり暗闇で染まっており、雨が降る音が未だにざーざーと聞こえてくる。

 悠香さんはしきりにカメラをチェック、それ以外の者は俺含めて全員が悠香さんが支給してくれた人数分のお菓子を片手に談笑にふけっていた。

 

「でさー俺はこう思う訳よ、もしかしたら俺がモテモテだった世界線もあったんじゃないかって」

 

 自信満々に語る匠。

 今現在の話題は昨日放送されたアニメについて。

 その内容というのを大雑把に言えば平行世界を舞台にした男女の恋愛物。モテない男とその男にそっくりなモテモテの男の住む世界が入れ替わってしまったが故に発生するドタバタ恋愛が売りの最近流行りのオリジナルアニメだ。

 俺としてはサブヒロインであるツインテールの女の子がテイルバイオレットを元にしたキャラクターという事もあって注目している。

 

「なぁ? みんなもそう思うだろ?」

 

「「「「ないない(です)」」」」

 

 一斉に首を振る俺たち4人。

 いくらもしもの平行世界が存在していたとしても、匠がモテモテな世界など想像がつかないから当たり前だ。

 

「そんな事いうなよ~俺にだって夢ぐらい見させてくれよ~」

 

「夢見る以前に日頃の行いを正さない限り、兄さんに春はやってこないです」

 

 情けない兄に呆れつつ釘をさす美希ちゃん。

 その一言には兄である匠を除いた全員が頷いた。

 

「美希~お前な~」

 

「川本、妹さんの言う通りだ。お前はまず日頃の行動を何とかしたらしたらどうだ。例えばまず宿題や課題はきっちり提出日までに終わらせるとかだな……」

 

「そんな事でモテるなら世話ないぜ……」

 

「そんな事とは何だ。そんな事とは。いいか? 何事もキッチリと期限以内に用事を済ませるキッチリした男こそがモテるというものだぞ」

 

「堀井に言われてもなぁ~」

 

 ぷっ

 匠の痛烈なカウンターパンチに俺は思わず笑いそうになってしまう。

 何を隠そうこの堀井龍之介28歳。コイツは年齢=独身且つ女性との交際経験が未だ0というある意味素晴らしい経歴の持ち主だからだ。

 

「そんな事ないぞ!! 俺だってな……!! いつかは山村先生と……!!」

 

「無理無理。あの人、恋愛に興味ないから」

 

 遠くの方で悠香さんが無言で頷き、俺とティアナも後に続く。

 

「いやいやいやそんな事はないぞ。何故なら今日俺がここにいるのは山村先生が俺を頼ってくれたからな訳であってな……」

 

「ただ単に使いやすかっただけでしょ。堀井って美人に煽てれば何でもやってくれそうな面してるしな」

 

「兄さんが言えたことですか」

 

 醜い男の争いに呆れる美希ちゃんが匠には聞こえぬ小声で呟き、それに気づかない匠は尚も堀井に対する攻撃を続ける。

 

「諦めて認めろよ。お前は一生独身且つ童貞のままですってな」

 

「そんな事は……そんな事は……俺だっていつかは……!!」

 

「だからいつかっていつだよ。そう言い続けてはや28歳。このままじゃもう直ぐ魔法使いだな~」

 

 鬱憤を晴らすべく怒涛の攻めを展開する匠とタジタジになる堀井。

 にしてもモテない男同士の低レベルな争いは実に悲しい物だなと心から感じるぜ。

 俺もティアナと付き合い始める前はあっち側だったのかと思うとホッとする。

 

「ねぇ和輝? 魔法使いになるってどういう事? あと前から聞こうと思っていたんだけど童貞ってどういう意味?」

 

「え……!?」

 

 高みの見物をして愉悦感に浸っていた事に対する罰が当たるかのようにティアナが俺に質問をしてきた。

 答えるにしてもちょっと際どいネタだし……果たしてどう誤魔化せばいいか……

 中々に難しい質問故に俺はどうすればいいかさっぱりわからない。

 

「そ、それはだな……」

 

「それは?」

 

「……」

 

 これらを説明するとなると色々そのあたりの性知識についてもある程度は説明しなくちゃならなくなる。

 それは即ち、ティアナの子供のような純粋で清らかな心が、俺のような黒く濁り切ってしまった心になる事を指すって事だ。

 ティアナは性知識に疎い。もしれが親の教育の一環でこうなったのならば俺が教えるのはナンセンスにも程がある。いつかティアナの親と会った時にティアナが大人になっていたら俺は親に合わせる顔がないぜ。

 顔を赤くし考える事数分。

 俺はある作戦を閃いた。

 

「それよりもティアナ。お前、今日のツインテールは一段と綺麗だな」

 

 伝家の宝刀、秘技話題逸らし。

 バツが悪くなった時は昔からこの手に限る。

 まぁ、ばあちゃんには全くと言っていい程通じなかったけどよ……

 

「そ、そう? 和輝に言われるとすっごく嬉しい……」

 

 ツインテールを撫でながら照れるティアナ。

 デレデレなその様子から察するにさっきの話題なんてもう頭に残っていないようだ。

 俺としては作戦成功で嬉しい反面、柄にもなくカッコつけて言ってしまったばっかりに少し恥ずかしいぜ全く。

 

「おい見たかよ堀井」

 

「ああ見た」

 

 さっきまでは匠と堀井が騒いでいた事もあって五月蠅かったのに、今はやけに静かになったな。

 そう思って匠と堀井がいる方向へ首を向けると、そこには俺とティアナの様子を目を血走らて見つめる二人の姿があった。

 俺の勘ではこれは不味い事になるぞ……

 そう判断するのが少し遅かった。

 

「お前ーー!! 何見せつけちゃってくれてんだよー!!」

 

「そうだぞ川本の言う通りだ!! 俺たちが悲しき戦争をしている時にお前という奴は!!」

 

「誤解だ誤解!! これには事情があってな!!」

 

「「問答無用じゃーー!!」」

 

 俺目掛けて仲良く飛び掛かって来る匠と堀井。

 匠だろうが堀井だろうがいつもなら返り討ちにすべくぶっ飛ばしてやる俺ではあるが、この時ばかりは二人がかりということもあってか流石に反撃しようにも上手くはいかない。

 

「馬鹿!! やめろ二人とも!!」

 

「「非リア充の恨みだーー!! 爆発しやがれーー!!」」

 

 

 

 

 

 

「ねぇ? たっくんと堀井先生はどしちゃったの? 後、そこでデレデレしてるティアちゃん」

 

「さぁ? ティアナさんは兎も角、馬鹿な男たちの考えはわからないです」

 

 冷やかな視線を送る美希と何が何だかあまりよくわかっていない悠香。

 そんな悠香と美希はとりあえずそっとしておこうと決め、暴れる彼らを放置してお菓子を口に運ぶ。

 

(あの人たち、面白いなぁ……)

 

 ツインテール地蔵の上の天井、丁度悠香がセッティングしたカメラの死角となる場所。

 悠香たち彼女らの知らぬ所でツインテールの女の子の形をした白い影が和輝らの騒がしい様子を羨ましそうに眺めていた。

 

(特にあの和輝っていうムスッとした男の子)

 

 白い影は匠らにタコ殴りにされている和輝を見てそう微笑むと未だにデレデレした様子のティアナに顔を向ける。

 

(連れてくるだけじゃつまらないし、ちょっとだけ入っちゃおっと……!!)

 

 その白い影はそう口にするなり、デレ状態で隙だらけなティアナの身体の中に重なり溶け込むように入りこむ。

 

「……」

 

「ティアちゃん? 大丈夫?」

 

「……ああ!! 大丈夫大丈夫!!」

 

 ティアナの身体に何者かが入り込んだ事についてはこの場にいる誰もが知らぬことであった。

 

 

 

 

「「すー……」」

 

「「ぐぉ~~……」」

 

 夜も更け就寝の時間となった事もあり、お堂内はすっかり静寂に包まれた。

 俺はついさっき匠と堀井によって腫れてしまった箇所を抑えながらごろりと横になる。

 当たり前だが布団やら枕やらといった贅沢な物はない。

 今晩は床にごろ寝が基本だ。

 まぁ、と言ってもティアナ、美希ちゃん、悠香さんの女性陣は、悠香さんが予め持ってきていた寝袋を使っているんだけどな。

 悠香さんの奴、こうなる事を予測していた癖に男連中の分は持ってこなかったらしい。今日は野宿でもするからの一言でも言っておいてくれれば俺としてはありがたかったんだけどよ。

 

「にしてもあのバカ二人……特に匠の野郎……!! 本気で殴りやがって……!!」

 

 堀井の方は教師という立場をある程度わきまえているからそこまで大したものじゃなかったけどよ、匠は別だ。日頃モテない悲しみを全力で俺にぶつけてきやがった。

 隅の方で体を丸めてすやすやと眠っている匠を睨みつける。

 朝起きたらどんな目に合わせてやろうか。

 そう思いながら俺は目をつぶろうとするが中々寝付けない。

 

「てかみんなよく寝れるよな……」

 

 明かりが消えた事で暗闇に包まれたお堂の中は、そりゃあもう雰囲気たっぷりだ。 

 如何にも幽霊が出ますよって感じと言えば伝わるだろうか。

 普段、オカルト全否定の俺ですらこれには思わず寝る気にならねぇ。

 

「さてどうしたものか……ん?」

 

 ふとお堂内を見渡した時だった。

 暗闇の中で誰かが俺のいる方向へ近づいてくるのが見えた。

 誰だ? こんな時間に?

 そう思ったのも束の間。謎の誰かは俺の隣に腰を下ろす。

 

「お前は……ティアナか……?」

 

 暗闇の中、俺の隣にやってきたのはティアナだった。

 暗闇にも目が慣れて来たのでよく見ると、ティアナのツインテールはいつと違って上結びでで結ばれており印象が異なってみえる。

 

「どうしたんだ? そのツインテール?」

 

 何処かで見たようなツインテールの形に俺は思わず声をだす。

 たかがツインテール、されどツインテールだからな。

 

「ねぇ和輝くん? だよね?」

 

「ああ……そうだが……どうした?」

 

 何つーかこのティアナ、いつもと違う。

 髪型だけの話じゃない。雰囲気の話だ。何つーか普段の少しトゲトゲした部分がごっそり消えて、いつもより子供っぽくしたような感じがする。

 それに俺の事を和輝くんって……いつもは呼び捨てなのに。

 

「お前……何が――」

 

 昼間、ここに来るまでの様子のおかしかったティアナを思い出した俺は何か変な事でもあったのかと問いただそうとした。

 がしかしその直後、ティアナは持ってきた寝袋を指さす。

 

「ねぇ? 一緒に入らない?」

 

「いいいいいいいいいい一緒に!?」

 

 本来一人用の寝袋の中に二人以上が入るようにするには、互いの体を重なるようにして出来る限り面積を減らす必要がある。それ即ち、抱きしめ合って寝るという事だ。

 いくら俺たちが付き合っている且つ一緒の布団で寝たことがあったといっても流石に寝袋の中で抱きしめ合って寝るだなんて事はしたことがない。

 果たしてこんな事していいのか?

 提案した当の本人はやる気満々なのか俺の返事を待たずに寝袋を広げ中に入ると俺に向かって手招きをかけてくる。

 俺は過去一番の葛藤に悩まされる。

 

(こんな機会もう二度と来ない……覚悟を決めろ!! やるなら今しかないんだぞ!!)

 

(でもよ……それは流石にどうなんだ……? せめて俺たち以外に誰もいないような場所でするべきじゃ……)

 

 一緒に寝たいと思う欲望とそれを自制しようとする心がぶつかり合う。

 それはまさに光と闇の戦い。永遠に続く宿命のバトル。

 俺が決めなければこのまま拮抗したままだ。

 果たして俺が出す答えは……

 

「ええいこうなったらどうにでもなれい!!」

 

 俺は俺自身の欲望を解放する!!

 自制しようとする心を振り切った俺は顔を真っ赤に染めながらティアナがすでに入っている寝袋の中に勢いよくお邪魔する。

 

「せ、狭ぇ……」

 

 わかっていたが流石に窮屈と言わざる得ない。

 でも、なんだこの気持ち。凄くポカポカして温けぇ。

 互いの身体を密着しているからのせいだけではない謎の温かみが俺の全身を包み込む。

 

「どう和輝くん? 温かい?」

 

「お、おう……!!」

 

「良かった……」

 

 間近で微笑むティアナの顔はまさに天使のようだ。

 あまりに可愛すぎてこのままじゃ朝まで体がもたない。

 そっぽを向こうにも向きようがないので俺自身は軽いパニック状態に陥ってしまう。

 ティアナの奴はそんな俺の様子が可笑しいのかクスクスと笑っている。

 

「和輝くんってやっぱり面白い……」

 

「そ、そうか?」

 

 俺のどこが面白いのかは正直わからない。

 でもティアナが喜んでいるなら俺としては本望に近い。

 後はこの昂る気持ちをどう抑えるかだ。

 上半身では心臓がバクバクと音を鳴らし、下半身では息子がスタンドアップするこの俺の体。

 色んな意味で危険なのに最後の理性だけは失ってはならない。

 

「ねぇ和輝くん?」

 

「な、なんだ?」

 

「あたし……やりたいことがあるんだ」

 

「やりたいこと?」

 

 火照る体を鎮めようとする中、ティアナが話しかけてくる。

 やりたい事が何かは知らねぇが俺がお前の為に出来ることなら何でもやるぜ。

 そう思った直後、ティアナはとんでもない事を口にする。

 

「和輝くんと赤ちゃん作りたいな……」

 

「あああああああああ赤ちゃん!?」

 

 それってつまりここで俺に童貞を捨てろって事か!?

 余りにも衝撃的な発言に流石の俺も正気を取り戻す。

 これは流石に不味い!!

 

「バ、バカ!! 何言ってんだよ!! 意味わかってんのか!?」

 

「それぐらいわかってるよ? こういう事でしょ?」

 

 そういうなりティアナは俺の下半身の息子に手を触れる。

 あまりに手慣れたその手つきはとてもじゃないがエロ知識に疎いティアナの物とは思えない。

 俺はパニックになりながらも何とかその手を払う。

 

「何してんだよ!!」

 

「何ってあたしたちって付き合ってるんでしょ? じゃあいいじゃん」

 

「よくねぇよ!! ここ何処だと思ってんだ!!」

 

 そうだここは仮にも幽霊がでるかもしれない場所だ。

 しかも話によればその幽霊は結構悲しい末路を辿った女の子の霊のはず。

 そんな場所でこうやって寝ているってだけでも失礼極まりないっていうのに、子作りだなんて……

 最早失礼とか罰当たりとかそんなレベルじゃ断じてない。

 

「あたし的には寧ろ全然いいけど?」

 

「お前が良くても幽霊に失礼だろうが!!」

 

 このままでは何されるかわからないし俺自身も勢いあまって何するかわかったもんじゃない。

 そう判断した俺は寝袋の中から飛び出した。

 

「ちょっと……!! 和輝くん~!!」

 

「もう知らん!! 今日は一人で寝る!!」

 

 寝袋の中から帰還した俺はティアナが今いる場所の真反対に位置する場所に避難し横になり目を閉じる。

 

「もうちょっとだけならいいよね」

 

 暗闇の中、ティアナらしき影がそう呟いたように聞こえた。

 

 

 

 

「おはようさん」

 

「おはようございますです!!」

 

「おはよーっす」

 

「おっはよ~」

 

 日が上り朝になった事で明るくなったお堂内にて皆続々と起き始める。

 俺は真っ赤に充血した目を擦りながら起きてくる他の連中に挨拶を送る。

 

「おはよう……」

 

「どしたの和くん? 目、真っ赤だけど……」

 

 結局、あの後ティアナがいつ俺の事を襲ってくるのか気が気でなかった為に一睡も出来なかった。

 俺はその事を悠香さんに話すことなく反対側で眠っている様子のティアナに目を向ける。

 

「すー……」

 

 クッソ……当の本人は未だにスヤスヤと眠っているいやがるぜ。

 ぱっと見、天使のような寝顔だが昨日の出来事を知っている俺からすれば恐怖しか湧いてこないぜ全く。

 

「……ん? おはよう……和輝くん……」

 

「お、おう。おはよう……」

 

 眼を擦りながら起き上がるティアナ。

 俺としては昨日の事を覚えているか不安なのでここは一度聞いてみる事にする。

 

「な、なあ? 昨日の夜の事覚えているか?」

 

「ああ、子作りの――」

 

「だーっ!! それ以上言うなー!!」

 

 クソッたれ覚えていやがった。

 俺は大慌てでティアナの口を塞ぐが時すでに遅し。

 美希ちゃんと堀井が何かあったのかと気になってこっちにやってきた。

 

「和輝さん? 一体どうしたんですか?」

 

「そうだぞ。朝から叫んで一体どうしたんだ?」

 

「ななな何でもねぇよ!! あっちいけ!!」

 

「そ、そうか。ならいいんだが……」

 

 堀井と美希ちゃんが去ったのを確認した俺はティアナに昨日の事は誰にも言うなと釘をさす。

 

「いいか!! 昨日の事は絶対に言うなよ!! 絶対だぞ!!」

 

「わかったわかった」

 

 口ではそう言っても顔はいたずらっ子のように笑うティアナ。

 やっぱり何か変だ。いつものティアナじゃない。

 てか冷静なってみれば昨日から何かおかしい。

 俺の知ってるティアナはあんなに露骨に俺を誘わない。

 

「お前……やっぱり――」

 

「ちょっとーー!! みんな来てーー!!」

 

 ティアナに昨日から様子が変だが何かあったのか? と問いただそうとした丁度その頃、悠香さんはセットしたカメラを全部確かめており、何かを見つけたのか派手目に驚いていた。

 

「これ見てよこれ!! これって幽霊に見えない?」

 

 皆一斉に悠香さんの持つカメラを覗き込む。

 だがそこには何も映っておらず真っ暗な中で微笑み続けるツインテールの地蔵だけが微笑み続けている。

 

「何もないっすよ……」

 

「そんな事ないわ!! これってつまり……!!」

 

 尚も熱弁する悠香さんだが、映像として何も映っていないことには変わりなく、対応するみんなの態度も徐々に冷やかな物になっていく。

 幽霊なんていない。悠香さんはそれを認めたくないようだった。

 

「ねぇ和輝くん? 和輝くんは幽霊はいると思う?」

 

「さぁな……でも、いるかもしれねぇ……そんな気がする」

 

 ティアナに問われた俺はそう答えた。

 だが何故、そう答えたのか。それは自分でもわからない。

 その答えを聞いたティアナはフフッと笑ったように見えた。




因みに今回のエピソードの元ネタは原作でボツになった話だったりします。
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