俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第73話 デート再び?

 8月26日金曜日。

 世間一般にいる一部の学生たちが夏休みの宿題に追われ始めるこの時期に俺はティアナと久しぶりのデートに出かけることになった。

 本当なら今日は昼過ぎにティアナから宿題を写させてもらうはずだったんだが、当の本人が朝の二結山(ふたつみやま)幽霊調査の帰りにて急に今日遊びたいと言い出したから仕方なくこうなっている。

 

「お待たせー!!」

 

「遅ぇぞティアナ。約束の時間、何時だと思っていやがる」

 

 山帰りの為にいつもと違って起きているとは言え、本来なら朝に弱い俺が寝坊し遅刻してしまうのがお約束だったというのに今日に限ってはティアナの方が遅れやがった。

 時刻は正午過ぎの1時半。

 約束の時間は12時だったので時間にして約1時間半の遅刻になる。

 

「ごめんごめん。服選ぶのに迷っちゃって」

 

 そう言ったので見てみるとティアナは見慣れぬ服装に身を包んでいた。

 ひらひらとしたフリルが特徴の絵本のヒロインが着るような少し古臭いワンピース。あまりファッションとやらには詳しくないのでわからないが、恐らくこれは確かロリータファッションというやつだったはずだ。

 普段の動きやすさを優先するティアナの服装とは真逆をいく姿に俺は面食らう。

 

「あれ? もしかして似合ってない? 可愛いなと思ったのにな~」

 

「いや、そう言う訳じゃねぇんだが……」

 

 似合ってないかで言ったら別にそんな事はない。

 いつもより少し上結びのツインテールによく似合っている可愛らしい服装。年寄りがよくやる例えではあるがそれはまるでお人形さんのようだ。

 でも、俺からするとこれはティアナのイメージではない。

 ティアナと言えば熊すら素手でぶちのめすパワフルで勝気な少女であり、そんな中で時々見せる女の子っぽい所が可愛らしいのが俺のイメージだ。

 

「やっぱりお前……」

 

 一昨日の夜からそうだがこのティアナ、何かが変だ。俺の知っているティアナでは断じてない。

 そう俺の頭が警告音を鳴らす。

 だが、それと同時にこの少女は間違いなくティアナであるとも思えてしまう。

 俺には訳が分からなかった。

 

「何? あたし何か変かな?」

 

「いや、別に……そんな訳ないよな」

 

 これ以上変に勘ぐるのはやめよう。

 そう決心した俺はバイクに跨りエンジンをいれる。

 

「で? 今日は何処に行くよ? また遊園地か?」

 

「えーっとね……あたし的には何処でもいいけど……兎に角楽しい所に行きたい!!」

 

 と元気いっぱい子供のように言ったティアナであったが、その直後にティアナの腹がぐぅ~と大きく鳴る音が聞こえてくる。

 時刻的にももう昼過ぎだし腹が空くのは仕方ないか。

 

「とりあえず遊ぶ前に腹ごしらえとしゃれこもうぜ」

 

 うんうんと頷くティアナ。

 そんなティアナにヘルメットを着用させた俺はアクセルを全開にし、バイクを発進させる。

 とりあえず目指すは都内のビル街だ。

 おやっさんの飯を食う手もあるっちゃあるが、今日はデートらしくパーッと外食と行こうじゃねぇか。

 

「凄ーい!! こんなに速いんだー!!」

 

 バイクを運転している最中、後ろにいるティアナのしゃぐ声が聞こえてくる。

 それを聞いた俺は二結山(ふたつみやま)の帰りにバスや電車でのティアナのはしゃぎ倒していた姿を思い出す。

 今のもそうだがこういうのはまるでこういった物が初めての人のリアクションだ。

 やはり今のティアナは何かがおかしい。何かが違う。

 俺はよりその不信感を強め警戒していくのであった。

 

 

 

 

 鳴き続ける腹の虫の勢いがピークに達する昼の時刻。

 俺たちは目当ての目的地であるビル街に辿り着いた。

 バイクを駐車場に停めた後、デートらしいいい感じの雰囲気で飯を食べれるような場所がないかと歩きながら探すこと約10分。

 ようやく丁度いいおしゃれな雰囲気漂うイタリアンレストランを見つけたのでとりあえずそこに入る事になった。

 何でも本場のイタリアで修行を積んだシェフがいるらしい。

 

「いらっしゃいませ~!!」

 

 愛想のいい笑顔と共に出迎えてくれた店員さんに案内されたテーブル席。

 どうやら飯時と言う割には人が全然来ていねぇようだな。

 外の如何にもおしゃれで人気なレストランと言った雰囲気とは違い、店内は俺たち以外に客の影が見当たらない。

 やっべ…もしかして店間違えたかぁ?

 そう思いながらも俺は出された水でまずのどを潤してからメニュー表を開き料理を選ぶ。

 

「まぁやっぱパスタだよな」

 

 和食に白米、洋食にパン、中華に麺とするならやはり、イタリア料理と言えばパスタだろう。

 パスタと一口に言ってもその種類はかなり多いと聞く。

 俺はその中でも王道をいくスパゲッティが好みだ

 ボロネーゼにペペロンチーノ、カルボナーラにボンゴレビアンコ、ペスカトーレにアラビアータ、果てにはイカ墨と、スパゲッティといってもこれまたその種類は様々で、どのスパゲッティも美味そうだ。

 流石は本場イタリアで修行したシェフが店を出しているだけはある。

 さっきまでの不安はメニュー表に写された美味しそうな写真を見た事で払しょくされた。

 

「決めたぜ。俺はペペロンチーノとピザにする」

 

 俺の注文は決まったので今度はティアナが選ぶ番だ。

 ティアナにメニュー表を渡した俺は何を選ぶかを眺める事にする。

 

(ティアナは大食いだからな……)

 

 今日のデートは食事含めて全て俺が金を払う事になっているので、どんな高い物を食べるのかどれだけの量を食べるのかが俺からすれば気が気でない。

 もしかして全種類食べるとか言い出さねぇよな? なーんて流石にそれはないか。

 そう思いながら待つ事数十分。

 未だに決め切れていないティアナはどうやらどのスパゲッティにするかで迷っているようだった。

 

「ねぇ和輝くん……じゃなかった和輝」

 

「何だよ? まだ決めれてねぇのか?」

 

 メニュー表に写る数十種類のスパゲッティの写真を眺めて涎を垂らすティアナはこくりと頷く。

 

「こんな所でご飯食べるだなんて随分久しぶりで迷っちゃって……」

 

 よく言うぜ。定期的に一緒に飯食いに行ってる癖に。

 そうは思ったが、その言葉には重みのような物があった。

 誰かと食べる事自体をもう何年もしていないかのようなと言えばわかるだろうか。

 

「じゃあ好きなだけ食えばいいだろ。今日も俺の奢りなんだからよ」

 

 じれったくなりつい見栄張って言ってしまったその言葉。

 俺は慌てて口を塞ぐがティアナは聞き逃さなかった。

 

「いいの!? じゃあこの辺りの奴全部食べる!!」

 

「ぜ、全部!?」

 

 危惧していたことがまさか現実になるなんて……

 後悔してももう時既に遅かった。

 注文を聞きに来た店員さんにティアナは笑顔で全種類のスパゲッティを注文、店員さんは最初こそ少し驚いた様子ではあったが直ぐに笑顔になり注文を聞き届けてしまった。

 俺としてはちょっとでも引き留めて欲しかったんだが……

 

「お待たせいたしました。こちら先ずはボロネーゼです」

 

 数分後、これはコース料理か何かかおいとツッコミたくなるような言い方で一人前のボロネーゼがテーブルに運ばれてくる。

 ボロネーゼの香りの良いミートソースが食欲を程よく刺激してくるが、ここから先、第二第三のスパゲッティがテーブルに運ばれてくるのかと思うと胃が痛くて仕方ない。

 もう既に飯を楽しむとかその状態では断じてなかった。

 

「お待たせいたしました。ペペロンチーノです」

 

「どうしたの和輝。食べないの?」

 

 いつのまに手に入れたのかフォークではなく箸を使って美味しそうにスパゲッティを平らげていくティアナがそう尋ねてくる。

 俺は今にも死にそうな表情でそれに答える。

 

「俺に構うんじゃねぇよ……」

 

 さらば俺の財産……

 最近、ようやく貯金もたまって来たと思っていたのになぁ……

 女と付き合う事の難しさを俺はまた一つ身に染みたぜ。

 

「お待たせいたしました。ペスカトーレです」

 

「はーい!!」

 

 ティアナの元気のよい返事が店内に響き渡った。

 

 

 

 

「ごちそーさまでした!!」

 

 食事を終えイタリアンレストランから出るや否や、満面の笑みを浮かべたティアナが俺に感謝の言葉を述べてくれた。

 金額にして約2万とちょっと。

 一皿約1000円程度だと仮定するなら品数にして約20皿近く平らげた事になる。

 バイトしていない学生にとって昼の飯だけで2万の出費は痛いなんてもんじゃねぇ。

 

「どうしたの? 元気ないけど?」

 

「お前のせいじゃい!! この大食いツインテールゴリラ!!」

 

 まるで私のせいじゃありませんよ~といった雰囲気を出しているティアナだが、どう考えても俺の貯金がぶっ飛んだのはティアナの食欲のせいだ。

 あっけらかんと言ってくれた事もあり、つい語気を荒げてしまう。

 

「だって好きなだけ食べていいっていったから~」

 

「だからって全種類食う奴がどこにいるんだよ!! ちょっとは限度って物を知ってくれよ!!」

 

「ごめんごめん、今度からは気を付けるから~」

 

 本当かよおい……

 笑いながら言ってくれるティアナの姿を見ると本当かどうか怪しく見えてしまう。

 次も同じことやらかす可能性がある以上、次回はもっと安い店にしてやろう。

 

「にしてもよ……お前ってそんな遠慮なかったっけ?」

 

 さっきはティアナの食いっぷりに圧倒されていた為に不信感がなくなって気づかなかったが、ふと思い出してみるとティアナってこんなに遠慮しない性格だったっけかと思ってしまう。

 ティアナってもっと他人に遠慮しがちな性格だったはず……

 付き合い始めた事で角がとれて丸くなってきたと言えば聞こえはいいが、余りにも急すぎてやはり何かがおかしい。

 今のティアナはティアナであってティアナではない。

 

「そういやよ……昨日の夜もそうだぜ。お前みたいな中学で習うレベルの性知識の欠片もないような奴が、どうして赤ちゃんの作り方知ってんだよ。おかしいだろ? ああん?」

 

 ティアナの性知識の無さは異常と言ってもいい。

 以前、確認の為に聞いた時、赤ちゃんだって結婚すれば勝手に生まれるような物だと認識していたレベルだったはず。

 中学の保健体育の授業どうしてたんだよとか、生理とかの女の子の日はどう認識しているんだよとかツッコミたい所だらけのティアナの性知識の無さ。

 なのにこの目の前にいるティアナは昨日、俺に夜這いを仕掛けてきやがった。

 今更冷静になってみればおかしい所だらけだぜ。

 

「えーっとそれは……」

 

 余りにもわかりやすく動揺してみせるティアナらしき人物。

 これはもしかしなくてももしかするかもしれねぇ。

 少し尋問してみるとしよう。そうすれば今、ティアナの身に起きた何かがわかるかもしれねぇ。

 そう思った瞬間だった。

 ティアナの着ている服のポケットにしまわれていたエレメリアン探知用のレーダーからブザー音が聞こえてきた。

 

「チっ、エレメリアンの野郎……!! 空気ぐらい読みやがれってんだよ!!」

 

「何々!? 何なの!?」

 

 いつもなら直ぐに現場に向かおうとするティアナのはずが、今のティアナらしき人物はブザー音に驚いて慌てだすだけだ。

 これはもう答えと言ってもいい。

 だが、今は問いただすよりも先にエレメリアンを何とかしなければならねぇ。

 不思議な事にテイルブレス自体はちゃんとつけていやがるのは幸運だな。

 

「兎に角行くぞ!!」

 

「う、うん!!」

 

 ポケットからエレメリアン探知用レーダーを取り、居場所を確認した俺は華先生に連絡を入れた後、ティアナらしき人物の手を引く形で現場を目指し走り出した。

 

 

 

 

 ティアナらしき人物の手を引きながらビル街を駆け抜ける事数十分。

 俺たちはエレメリアンが出現したとされるビルに辿り着いた。

 このビルの中は、雑誌やテレビで何度か紹介されて有名になった女性用の服を専門とする洋服店が多く建ち並んでいやがったはず。

 となると今回のエレメリアンの属性は服装関係か。

 ここ最近見てないメジャーな属性が相手になるんじゃないかと思いながら気を引き締める。

 

「か、和輝くん……!! どうしたのよ急に……!!」

 

 ティアナの姿をしておきながらのこの発言。

 ティアナではないと自分から言っているようなものだ。

 だが、さっきからの様子を見るにエレメリアン側が俺を嵌める為にティアナを誘拐して化けているというわけではなさそうだ。

 

「って、んな事考えてる暇あっかよ!! とりあえず行くぞ!!」

 

「ええ!? だからどうしたって言うのよ!?」

 

 驚愕するティアナらしき人物の手を引っ張りながらビル内に突入し、レーダー頼りに階段を駆け上がる。

 上がる途中、何度か悲鳴を上げながら階段を降りて逃げる女性客とすれ違った。

 これはもしかして結構ヤバい属性の持ち主なのか?

 そう思わずにはいられねぇくらい必死な形相だった。

 

「「「きゃああああああああ!!」」」

 

 目的の階層に辿り着くや否や聞こえてくる絶叫。

 何事かと思いフロア全体を見渡すとスカート売り場にて、大量の女性客を涎を垂れ流しながら追い回す、腕を四つ生やした茶色いゴリラのようなエレメリアンの姿があった。

 

「何よ、あの怪物……!!」

 

 ティアナらしき人物はエレメリアンを見て足がすくんでしまっっていた。

 エレメリアンを知らない状態で初めて見ればある意味当然の反応だろう。

 まぁそれは兎も角、このエレメリアンが属性力を奪う為に女性客を追いかけまわしているとすればこれは不味い。

 俺は近くの試着室から取って来たハンガーをブーメランの要領で投げつける。

 

「待て待てー!! って、ふごぉっ!!」

 

 ハンガーは見事な弧を描きながらエレメリアンの後頭部にクリーンヒット。

 エレメリアンは間抜けな声を出しながらズッコケてしまい、これまた無様なヘッドスライディングをかましてくれた。

 

「な、何者だぁ? このグシオンギルディ様のお楽しみを邪魔するたぁ……」

 

 ハンガーが命中した箇所をさすりながらのっそりと起き上がろうとするグシオンギルディ。

 俺はさっきまで悲鳴を上げながら逃げ回っていた人達が下の階層に逃げていくを確認した後、グシオンギルディの前に立ち啖呵を切る。

 

「待ちやがれってんだよ。この四腕(よつうで)ゴリラ!!」

 

「に、人間だとぉ……!!」

 

 一見ただの人間にしか見えない俺の姿を見て怒りを露わにするグシオンギルディ。

 立ち上がったその迫力は空気が凍り付くかのようだ。

 

「人間如きが……この俺のお楽しみを……」

 

「属性力を奪う事をお楽しみってか。そんな事――」

 

「スカートめくりの楽しみを奪うとは!!」

 

「は?」

 

 さっきとは別の意味で凍り付く空気。

 あれ、もしかしてこのエレメリアン。まさかとは思うがさっき女性客を追い回していたのってスカートをめくる為……?

 俺は確認の為、グシオンギルディの属性を聞き出すべく語りかける。

 

「な、なぁ? お前の属性って……もしかして……」

 

「如何にも我が属性は洋袴属性(スカート)!! そして俺がこの世で最も愛する文化はスカートめくりだ!!」

 

「昭和の小学生男子かてめぇは!!」

 

 スカートめくりが趣味のエレメリアン。

 今時の小学生でもするか怪しい昭和文化趣味に俺は鋭いツッコミをぶつける。

 

「少年よ、スカートめくりは素晴らしいぞ。さぁ君も一緒にレッツスカートめくり」

 

「するか!!」

 

 俺が男であると見たグシオンギルディが勧誘して来やがったが、俺は即座にその提案を却下する。

 匠じゃあるめぇし、誰がエレメリアンと一緒にスカートめくりなどするものか。

 

「成程、貴様、男の癖にスカートめくりが嫌というか!!」

 

「当たり前だ!! 大体な、スカートめくりなんか古臭ぇ上にガキ臭ぇんだよ!!」

 

 スカートめくりが流行ったのいつの時代だよ。

 昔のアニメではスカートめくりのシーンがよく流れていたらしいが今じゃ規制の結果、そんなシーンは存在が許されていない。

 故に今の男子学生はスカートめくりなんてやらねぇんだなこれが。

 

「うるさいうるさい!! これだから最近の男子は嫌いなのだ!!」

 

 怒り心頭といった感じのグシオンギルディは肩から生えているもう二つの腕で俺を叩き潰そうと振り下ろしてくる。

 

「!?」

 

「和輝くん!! 危ない!!」

 

 反応が遅れてしまった俺を助けてくれたのはティアナ……ではなくティアナらしき謎の人物。

 あわやペシャンコになっちまう所をティアナらしき人物が横から飛び出してくれたおかげで何とかなった。

 

「おい!! 変身の仕方わかるか?」

 

「へ、変身?」

 

「ちッ!! やっぱりわからねぇか!!」

 

 何となくわかってはいたがこのティアナらしき人物、テイルブレスを持っていながら変身のへの字もわかっちゃいない。

 つまり今の俺は変身が出来ない。

 万事休すだぜ全く。

 

「邪魔をするな小娘。貴様の属性力はスカートをめくった後でじっくりと奪ってやるぞ」

 

 この期に及んでまだそんな事を言うか!!

 だが、この状況では俺に勝ち目は万が一つでもありはしない。

 せめて変身さえできれば……

 そう嘆く暇があるわけもなく、グシオンギルディはティアナらしき人物を俺の近くから離し気絶させると再度腕を握りしめ振り下ろしてくる。

 

「さらばだ少年!!」

 

 今度こそどうすることも出来ない俺は諦めて目をつぶろうとする。

 その時だった。

 

「させないわ!!」

 

 その声の主は緑の閃光と共に現れた。

 緑のツインテールを翻し、華麗な足技を使い油断しているグシオンギルディの頬を蹴り飛ばす。

 その一連の動作に無駄はなく優雅に揺れる花を連想させる。

 

「待たせたわね涼原くん橘さん!!」

 

「華先生!!」

 

 そう。我らが頼れる味方、テイルブルームが到着した。

 

「テイルブルームぅぅぅ……!!」

 

 大量のスカートが置かれた棚に激突したグシオンギルディが起き上がる。

 全身のいたる所に新品のスカートが引っかかっており随分と滑稽な姿だ。

 

「二人とも下がってて頂戴。あのエレメリアンは私が倒すわ」

 

「すまねぇ頼んだぜ!!」

 

 変身が出来ない今の俺じゃ足手まといにしかならない。

 それがわかっている俺は気絶しているティアナらしき人物を抱えると、邪魔にならないように距離を取る。

 頼んだぜ先生!! そんな変態野郎ブッ飛ばせ!!

 戦いを見守る俺は心の中でエールを送った。

 

「悪いけど、私の生徒には指一本触れさせやしないわ」

 

「ほう……テイルブルーム、貴様教師か」

 

 女性用洋服店のスカート売り場にて相まみえるテイルブルームとグシオンギルディ。

 互いに様子を伺いあう緊迫した空気は息苦しさを感じさせる。

 ついちょっと前までスカートめくりがどうとか言っていた雰囲気ではない。

 

「フフフ……」

 

 そんな緊迫した空気の中、テイルブルームが教師であると知るや否や笑い出すグシオンギルディ。

 何かを企んでいやがるのか……?

 それとも……

 

「な、何? 急に笑い出して……」

 

「おっとこれは失敬。長年の雪辱を晴らせる日が来たと思うと嬉しくてな」

 

「長年の雪辱ですって?」

 

 長年の雪辱が何のことかわからないテイルブルームが聞き返す。

 さっきのスカートめくりがどうとかのやり取りを知っている俺は何となく察してしまった。

 

「男子の夢であるスカートめくりを注意し続ける憎き相手である女教師。その女教師のスカートをめくれる日がそう!! 今日この日なのだ!!」

 

 やっぱそっちかよ!!

 さっきまでの緊迫した空気を返してくれと言わんばかりの言葉に俺はズッコケる。

 このグシオンギルディって奴、強面な見た目に反してかなりぶれない変態野郎だぜ。

 

「な、なに言っているの?」

 

 当たり前だが、テイルブルームは何のことやらさっぱりわかっていない。

 そんなテイルブルームを見て好機と捉えたグシオンギルディは両腕を前に出す。

 

「隙ありだ!! 喰らえい!!」

 

 突き出した両手の親指と人差し指で円を作り、そこからリング状の光線がテイルブルームの腰回りに向かって照射される。

 ハッと我に帰ったテイルブルームはグランアローを取り出し、その光線を切り裂こうとするが、立体映像に触るかのように光線はグランアローを透過し、そのまま腰回りに命中。命中したリング状の光線は収束し一つの形を形成する。

 

「な、何ですかこれは!!」

 

 俺の身に写ったテイルブルームの下半身はいつもと一味違っていた。

 本来ならば動きやすいように切り込みが入った深緑のロングスカートを履いているのだが今違う。ロングスカートは消え失せ、その代わりに花柄模様の見慣れないミニスカートをテイルブルームは履いていた。

 

「いいだろう? 我がプレゼントだ。受けとれい!!」

 

「いや、流石にこれは……」

 

 恥ずかしがるテイルブルーム。

 それもその筈、履かされたスカートはミニなんてもんじゃねぇくらいのベリーショートのミニスカート。

 20代女性が着るにはハードルが高すぎる代物だ。

 

「さてと……それでは遠慮なく」

 

 瞬間、グシオンギルディの姿が消えて見えなくなる。

 これは不味いと感じた時にはもう時すでに遅く、グシオンギルディはテイルブルームの背後に回っていた。

 

「ほれい、先ずは一回目だ!!」

 

 背後に回ったグシオンギルディのやる事と言ったらただ一つ。

 そう、スカートめくりである。

 

「きゃあああ!! 何するんですか!!」

 

 突然の奇行に悲鳴を上げるテイルブルームは反射的にスカートを抑える素振りをしてしまう。

 だがこれは奴の思うつぼだ。

 グシオンギルディはテンプレとも言えるその反応を楽しんでやがった。

 

「ハハハ!! まだまだいくぞ!!」

 

「させるもんですか!!」

 

 黙ってスカートをめくらせるわけにはいかないとばかりに手刀を見舞い反撃するテイルブルーム。

 だがグシオンギルディはその筋骨隆々の巨体を小さく屈めて回避行動を行うと、瞬時に両腕をテイルブルームのスカートに手をかける。

 

「隙ありィィ!!」

 

「きゃあああ!!」

 

 さっきは後ろからだったが今度は前からのスカートめくり。

 再度、悲鳴を上げるテイルブルームの目には薄っすらと涙があった。

 

「不味いぜコイツはよぉ……」

 

 華先生の実力ならあんなエレメリアンさっと倒してしまえると思っていたが、どうやらそれは不可能だったらしい。

 グシオンギルディの野郎……中々の強敵だぜ。

 まさかスカートめくりをしてメンタルに攻撃してくる奴だったとはな。

 

「はぁッ!! せやッ!!」

 

「当たらん当たらん。ほれほれい」

 

 今度はグランアローを使い反撃にでるテイルブルームだったが、グシオンギルディはそれら全てを容易く回避しては四方八方様々な角度からスカートをめくる。

 いつものテイルブルームからは想像もつかない大苦戦。

 このままじゃ敗北は必至だ。

 そんな中、俺はある事に気が付いた。

 

「テイルブルームの動きが鈍くなっている?」

 

 いつもと比べて動きにハリがないというか何というか。

 そう思ってしまう程にテイルブルームの動きはいつもより遅く固かった。

 これでは回避されスカートめくりを喰らってしまう訳だぜ。

 でも、どうして……

 何故なのかと考える事数分。俺はある結論に達した。

 

「まさか……パンチラを警戒しているのか?」

 

 テイルブルームがどれだけ戦いに身を置く戦士であろうと所詮はただの女性に過ぎない。とするならパンチラは無意識のうちに避けるのが当然の通り。

 履かされたあのミニスカート。

 少しでも激しく動くとスカートの下が見えてしまいそうになるあのスカート。

 あれを履かされた影響で無意識のうちに動きが鈍っているとするのなら……

 それを証明するかのようにテイルブルームはこの戦いで一度も足を使った攻撃をしていない。

 

「隙ありぃ!!」

 

「きゃあああ!!」

 

 もう何度目かわからない悲鳴が売り場に響き渡る。

 そして遂に心に限界が来たテイルブルームは涙を流してへたり込んでしまった。

 

「テイルブルーム、恐るすに足らず」

 

「うぅ……」

 

 テイルブルームが負けた。

 どんな姑息な手段とはいえ、テイルブルームを下した事には変わりない。

 俺はどうすればいいんだの気持ちでいっぱいになる。

 このままでは華先生のツインテール属性が奪われてしまうのは時間の問題だ。

 しかし、グシオンギルディは中々属性力を奪う素振りを見せず、遂には背を向けてしまった。

 

「今日は随分と楽しませてもらったぞ。今度はテイルバイオレットも連れてくるんだな!!」

 

 それは情けから来る物なのか、それとも感謝から来る物なのか。

 グシオンギルディはそう言い放つとその姿をくらませる。

 

「助かった……のか?」

 

 滅茶苦茶に荒らされた洋服店内にて俺はそう呟いた。

 

 

 

 

「大丈夫ですか華先生。いい加減泣き止んでくださいよ」

 

「だってぇ……」

 

 気絶しているティアナらしき人物を背負いつつ、俺は未だ涙を流し続ける華先生と共にビルから出ると路地裏に移動する。

 グシオンギルディの野郎はどうやら本当に帰ってくれたみたいだぜ。

 近くの自販機で缶コーヒーを購入した俺はホッと一息ついた。

 

「ねぇ涼原君、どうしてすぐに変身しなかったの?」

 

 華先生にそう尋ねられた俺は未だ気絶したままのティアナらしき人物に目を向ける。

 果たしてどう説明すればいいのやらと迷ってしまっていたその時、ティアナらしき人物が目を覚ました。

 

「ううん……? あれ? さっきの怪物は?」 

 

「ようやく起きたようだな」

 

「大丈夫、橘さん?」

 

 起き上がろうとするティアナらしき人物に近づこうとする華先生。

 だが、俺はスッと手で遮った。

 コイツには聞かなきゃならねぇ事があるからな。

 

「なぁ、お前一体何者だ?」

 

「ど、どういう意味? あたしはあたしだよ?」

 

 俺が聞きだした途端、びくついたティアナらしき人物は何とか平静を装いティアナのふりをしようとしてくるが、今更俺にそんな小細工通用しない。

 

「とぼけんなよ。お前はティアナの姿をしておきながらティアナじゃねぇ」

 

 そう言われたティアナらしき人物は黙り込む。

 何が何だかわかっていない華先生を無視して俺は続ける。

 

「俺にはわかるぜ。その身体は間違いなく本物だ。だが意識は違う。お前一体何者なんだ?」

 

 何者か知らねぇが観念しやがれってんだ。

 すると数秒の沈黙が流れた後、ティアナらしき人物は観念したかのような素振りを見せながら口を開いた。

 

「やっぱりバレちゃったか~。流石に彼氏君の目は欺けないよね~」

 

「当たり前だ。でお前は一体何なんだ」

 

 そして語りだすティアナの身体の意識を奪った犯人。

 その正体は何となく予想していた通りの物だった。

 

「あたしは(れい)。昨日、あなたたちが訪れた二結山(ふたつみやま)の幽霊よ」




原作でボツになった幽霊はメカクレツインテールらしいですけど、本作の幽霊はただのツインテール幽霊です。




キャラクター紹介16

 (れい)
 性別:女
 それ以外不明

 大昔に二結山(ふたつみやま)のある村で死んだツインテール少女の幽霊。
 好奇心旺盛かつ子供っぽい性格。
 この世に対する恨み言はもう既に存在していないが、それとは別に叶えたい願いがあって成仏出来ずにいる。
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