俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
シェイカーを振るう音とBGMとして流れるジャズの音色が程よく調和する。
ここは都内某所の地下に存在する一軒のバー。
以前、和輝とティアナの身体が入れ替わってしまった際に出てきた強敵、ボティスギルティをも愛用していた事があるほどの名店であるが、基本的には立地の関係もあってか常連の客しか賑わっておらず、所謂知る人ぞ知る名店となっている。
そんな常連しかいないノスタルジックな店内に今日は珍しくマスターが知らぬ顔がやってきた。
「マスター。適当に一つ」
旅行用と思われる大きなショルダーバッグを床に置き一言。
その人物は無精ひげが目立つ20代後半もしくは30代前半と思われる若い男であった。
荷物の大きさから見てこの辺りに住んでいる者のようには到底見えない。
「あんた……見ない顔だね。旅行者かい……?」
マスターは男の注文を聞くや否や慣れた手つきでシェイカーを振るってカクテルを作り、男に提供すると同時にそう男に尋ねた。
尋ねられた男はフッと笑い答える。
「仕事の都合でね。昨日までここ数年間は海外の方に行っていたんですよ。
「さぁ……? 悪いけど知らないね」
「そうですか。僕もまだまだって事ですか」
藤倉は口ではそうは言っているものの、別段そこまで残念がっているような素振りを見せずにカクテルに口をつけた。
はて? 藤倉幹太?
一方、マスターはその聞き覚えのない名前に頭を捻る。
「失礼だがご職業は? もしかしてその手の道では有名な方なのかい?」
藤倉にそう尋ねるマスター。
藤倉はそれを聞くや否や待ってましたかとばかりに口を開く。
「しがないフリーのジャーナリストですよ」
「ジャーナリスト……ねぇ?」
「こう見えても僕の書く記事は結構人気なんですけどね……」
自虐的にそう呟く藤倉を見てマスターはすまなかったと即座に謝りを入れると同時にカクテルを一杯サービスする。
お客様にはどんな事があっても上機嫌で店を出て行ってほしいと考えるマスターのサービス精神溢れる行動である。
だがしかし、藤倉はまるでその行動を予測していたかのようにほくそ笑んだ。
「さて、話は変わるがマスター。この写真を見てどう思う?」
藤倉はサービスされたカクテルを一頻り飲み干すとマスターに向かって一枚の写真を提示する。
それは藤倉の知り合いであるとある新聞会社の編集長から頂いた写真であり、そこには青紫のツインテールをたなびかせエレメリアンに立ち向かっている最中のテイルバイオレットが写っていた。
「テイルバイオレットだね。よく撮れてて可愛いじゃないか。それがどうしたんだい?」
テイルバイオレットが現れて今日に至るまで約半年間。
テイルバイオレット及びテイルブルームと
今更それがどうしたというのか?
マスターは気になった。
「いや、マスターはテイルバイオレットを見てどう思っているかを知りたくてね」
「どう思っているか……?」
「そう、例えばその存在が胡散臭いとか……鬱陶しいとか」
可愛いか格好いいかではなく、胡散臭い鬱陶しいと言ったネガティブなワードを例に出す藤倉にマスターは顔をしかめた。
「あんた……」
「冗談ですよ。冗談」
ハハハと笑いながら藤倉はそう答えるがマスターの態度は軟化してはいない。
普段守られている側は我々だというのになんだこの態度は。
いくら昨日まで海外にいてテイルバイオレット達の活躍を見たことがないとは言え冗談が過ぎる。
「あんた……何が目的だい?」
先程語ったフリーのジャーナリストと言ったワードがマスターの頭の中に引っかかる。
もしかしてこの藤倉という男の目的はまさか……
藤倉はそんなマスターの態度を見ると胡散臭い笑みを浮かべ答える。
「そうですね。ハッキリと申し上げるとするならそう……テイルバイオレットの正体を知ってその正体を公表しその地位を失墜させること……ですかね」
やはりか。この発言は明らかに冗談ではない。
そう思ったマスターは怒りを必死に抑えながら藤倉に問い詰める。
「どうしてそんな事をする? そんなくだらない事がジャーナリストの仕事か?」
「どうしてって……そんなの決まっているじゃないですか。胡散臭いからですよ」
「胡散臭い? 何処かだ?」
胡散臭い。
先程も言ったこのワードの意味がわからないマスター。
何がどう胡散臭いと言うんだ。確かにテイルバイオレットやテイルブルームの存在は常識から逸脱し過ぎているが、実際にこの世に確かに存在している我々を怪物達から守る正義のヒロイン。
実際に会って何故我々を助けるのかを聞いた訳ではないが、その行動に胡散臭い要素などないと判断しているマスター。
それに対して藤倉はこう語る。
「考えてみてもくださいよ。あの怪物たちはツインテールを狙っていて、それらから守る正義の使者もまたツインテールなんですよ。つまり、テイルバイオレットらが勝てば勝つほどツインテールの人気は上がり、怪物どもがより一層襲来してくるって訳だ」
確かに怪物たちから手っ取り早く狙われないように対策するにはツインテールにしない事が一番だが、実際はテイルバイオレットらの活躍を見てツインテールにする人達は徐々に増えている。
もしテイルバイオレットらが怪物たちとグルで普段の戦いが茶番だとするのなら……
詰まる所、この藤倉という男はマッチポンプを疑っていたのだ。
「テイルバイオレットが戦う度に人々は彼女に魅せられ深入りしていく。そんなの洗脳を変わらないんですよ」
そう言われてしまうとマスターは何も言い返せない。
ぐうの音の出ない真実を叩きつけられて呆然としてしまう。
そんな様子を面白そうに見つめる藤倉はカクテル一杯分のお代をカウンターに置くとショルダーバッグを肩にかけて店内を後にした。
「まぁ……本音を言うとそんなことはどうでもいいんだがな」
バーから出た藤倉はそうポツリを呟く。
藤倉幹太。この男、本当の事を言うとマッチポンプだとか洗脳だとかはこれっぽちも興味がない。真実がそうであればテイルバイオレットらを失墜させるのに都合がいいなと考えている程度である。
そう。この藤倉という男はジャーナリストという立場を利用して誰かの地位を失墜させて楽しむことに生きがいを感じる所謂マスゴミと呼ばれる悪質な者達の中でも最も質が悪い男であった。
「さて……ネタの手がかりは何処にあるかな……お?」
テイルバイオレットをネットの正体を探るべく検索にかける藤倉の目にある動画が目に留まった。
藤倉はその動画を投稿した人物の名を見てほくそ笑むのだった。
◇
ピピピッ!! ピピピッ!!
「うるせぇ……なぁ……!!」
寝ぼけまなこを擦りながら起床した俺は、未だにけたたましく鳴り響く目覚まし時計に手を伸ばしてはスイッチを乱暴に叩いて沈黙させる。
時間にして7時と30分を過ぎた辺り。
昨日までならもう一度布団の中に潜り込んで眠りにつくのだが、今日からはそれは出来ない。
何故なら今日は9月1日。二学期の始まりの日だ。
「はぁ……」
ため息を吐きながらパジャマから制服に着替えた俺は部屋を出て、リビングをこえてキッチンに向かい、到着するなりトーストをトースターにセット。
出来上がるまで時間が少しあるのでその間はリビングでテレビでも見ておくとしようか。
「おや? 何だい随分と早いじゃないか」
「今日から学校。てかばあちゃんこそ早いなおい」
テレビの電源を入れようとしたその時、リビングのドアが開きばあちゃんが起きてやってきた。
朝に弱い者の集団である涼原家では随分と珍しい光景だ。
俺は相も変らぬ態度のばあちゃんに挨拶を返しつつテレビの電源を入れた。
『うおらぁぁぁッ!!』
入れた直後にテレビから聞こえてきたのはテイルバイオレットの裂帛の叫び。
どうやら昨日の戦いのVTR映像が朝のワイドショーで取り上げられているようだ。
画面の中の俺は必殺の蹴撃、ストームストライクでライオンのようなエレメリアン、マルバスギルディを貫いていた。
『バアルギルディーー!! む、無念ーー!!』
マルバスギルディの断末魔を聞いて俺はハッと思い出す。
昨日、マルバスギルディは終始俺の事をバアルギルディの仇だか何だと言って襲い掛かって来やがった。最初は何かの冗談か勘違いかと思い、俺は別にバアルギルディをやってなんかいないと言ったが奴は信じてはくれなかった。
結局、今流れているVTR映像の通り俺はマルバスギルディを爆散させたのだがどうも引っかかる。
「バアルギルディ……」
バアルギルディと言えば長きにわたる戦いの果てに奇妙な友情のような関係を結んだエレメリアン。
ツンデレ属性を愛する正々堂々とした奴だ。
そんなバアルギルディを俺が倒したとマルバスギルディは言った。
俺とティアナが付き合う事になったあの日、俺は確かに暴走するバアルギルディをエモーショナルチェインの力を持ってブッ飛ばしこそしたが、別に倒してはいない。あの時はちゃんとした決着は次の機会にと勝負を流した筈。
なのに昨日のあの反応。
これはバアルギルディの身に何かおきたとしか言いようがない。
「無事でいてくれよ……」
本来、敵エレメリアンである筈のバアルギルディの安否を祈るだなんておかしなことなのだが、俺はそんな事を気にもしてなかった。
そうだ。今度エレメリアンが現れた時に聞いてみるのもいいかもしれねぇな……
「ちょっと和輝?」
「なんだよばあちゃん。今考え事してんだよ。後にしてくれ」
「ああそうかい。だったら遅刻してもあたしゃ知らないよ」
え!?
まさかと思いふと時計を確認すると時刻はもう8時を過ぎており、このままゆっくり朝の支度をいていてはいくらバイクを使おうが間に合わない時刻になっていた。
これは不味いぜ。このままじゃ新学期早々遅刻だ。
「和輝ー!! まだ寝てるなら早く起きなさーい!! 遅刻するわよー!!」
「ほれ、可愛い可愛いお嫁さんがやって来たよ」
焦り始めた直後に外から聞こえてくるティアナの声。
それを聞いてばあちゃんは意地悪そうに笑いだす。
俺は黒焦げになったトーストを口に咥え鞄を肩にかけると急いで駆け出した。
「クッソ……いってきます!!」
「いってらっしゃい。気を付けるんだよ」
「わーってるつーの!!」
急ぐ俺は玄関から外へと勢いよく飛び出した。
◇
「で、バアルギルディの事を考えていたら遅刻しそうになっていた。そういう事?」
「まぁそうなるな」
何とか新学期早々遅刻という醜態を回避した俺は、ティアナと共に教室までの長い廊下を歩く。夏休みという長い期間休みがあった事もあり、この久しぶりの感覚には少しもウンザリ感じない。
そして今現在、俺はティアナに何故遅刻しそうになったのかを聞かれている所だ。
「全く、しっかりしなさいよね。私やおばあちゃんがいなかったら今頃遅刻よ」
「んな事わーってるよ。感謝してる」
ティアナがいなかった去年は匠と一緒に遅刻の常習犯だったなとしみじみと感じるぜ。本当、今年に入って色々な事が変わった気がする。
「でも、ほんっと和輝はバアルギルディだけには甘いわよね。他のエレメリアン相手には殆ど容赦しないのに」
「べ、別にそんな事ねぇよ……!!」
これだけは首をブンブン振って否定するが、本音を言うと確かに俺はバアルギルディに対してだけは少し甘いと思う。
やはり、一度戦い関係なく心を通じ合わせたという事がデカいのだろうな。
ティアナはそんな俺の様子を見てニヤニヤと笑みを浮かべる。
「な、何だよ。何見てんだよ」
「いや、流石は素直になれないツンデレ属性の持ち主だな~って思っただけ」
「ち、違ぇよ馬鹿!! そんなんじゃねぇんだよ!! バアルギルディはその……あれだ。俺が倒すべき因縁の相手だから、俺と関係ない場所でくたばって欲しくない。それだけだ!!」
「ふ~ん。あっそう」
顔を真っ赤にしながら必死に俺は否定したが、ティアナはそんなのどこ吹く風と聞き流していた。
この野郎、馬鹿にしやがって……!!
俺はそんなティアナの態度にムキになってさらに大きく声を張り上げようとする。
その時だった。
「和輝!! ティアナちゃん!! 事件だ事件だ!!」
丁度、教室の前に出た瞬間、教室の中から俺たち二人の姿を捕捉した匠が飛び出してきた。
何だ何だ。何が事件だ。
俺は今、ティアナと取り込み中だぜ。
「うるせぇな。何だよ、宿題でも忘れちまったのか? それともやってないから急いで写させてくれってか?」
「いやまぁ……それもあるんだけど……それよりもこれ見てくれ!!」
どうせ宿題関連の事で騒いでいるとは思っていたがどうやらそれだけじゃないらしい。
匠はズボンからスマホを取り出すと大手情報週刊誌が運営しているネットニュースのある記事を俺たち二人に見せて来た。
「何々? テイルバイオレットは……」
「侵略者の仲間……ですって!?」
そこに書かれていた記事の内容を要約するとこうだ。
テイルバイオレット及びテイルブルームは侵略者である怪物達から我々を守っているように見えるがそれは真っ赤な嘘で全ては奴らの作戦である。テイルバイオレットたちは実は裏で怪物達と繋がっており、怪物達が求めるツインテールをより幅広く流行させるためだけに毎回戦っているのだ。そして、ツインテールが流行しきった時、彼女らは我々人類に牙をむくであろうから気をつけた方がいい。
「「これは一体どういう事だ(よ)!!」」
余りにも衝撃的な記事の内容に俺とティアナは思わず声を張り上げる。
一見ただの陰謀論を記事にしただけのように見えるが、書かれている内容は、以前華先生が語ったアルティメギルが過去に行った作戦の事について限りなく的を得ている為、反論しようにも言葉が上手くでてこない。
そしてそれ以上にこんな風に俺たちの活動を否定的に見ているような輩がいると言う事実が何よりもショックだった。
「し、知るかよ!! 今朝、気づいたらこんな記事が出回っていたんだぜ!? 俺だってわけわかんねーよ!!」
匠も今まで一緒にエレメリアンの脅威から人々を守るために協力してきてくれた事もあってか、このようなテイルバイオレットを陥れるような記事に軽いパニックになっている。
一体誰だ? 何の目的でこんな記事を書く?
それらの事を確かめようにも記事には記者の名前一つ書かれていないので何の手がかりもなかった。
「クッソ……!! 好き放題書きやがって!!」
ぶつけようがない怒りとこんな事を書くような輩までいやがるという絶望感と哀しみが俺たちを襲う。
俺は、今まで何度かテレビで特集されチヤホヤされる事について少し恥ずかしいとも思いながらも悪い気はしなかったし、コミケで俺を題材にしたエロ同人を見つけた時は最初こそガッカリしたが今じゃそれも許せるようになった。何故ならそこには形こそあれだが俺たちの活動を応援しようとしているという気持ちが伝わって来たからだ。
でも、この記事は違う。まるで俺たちに何か恨みでもあるかのような感じだ。
「それでよー。俺は放課後、悠香先輩にこの記事とこの記事を書いた奴について相談してみるつもりなんだが、お二人さんはどうする?」
匠がそう言って俺たちに提案してきた。
俺とティアナからすればこの提案を拒否する理由がない。
正直、今すぐにでも相談に行きたいくらいだぜ。
俺たち二人は黙って首を縦に振った。
「了解。じゃあ放課後、昼飯食べ次第新聞部に集合な」
「おう」「ええ」
とりあえずの対処法は決まった。
後は悠香さんに任せるとしよう。
そう結論づけた俺たちは教室内に入る。
すると中では先程の俺たち同様にちょっとした騒ぎになっていた。
「俺たちは前々から胡散臭いと思ってたんだよな~」
「お前ら!! こんな記事を信じるかよ!!」
「ああそうさ。てかお前らオタク集団こそ早く目を覚ました方がいいぜ」
「「「な、なんだとぉ!?」」」
いつもテイルバイオレットの活躍を見ては一喜一憂するオタク集団とそのオタク集団の事が嫌いなクラスメイトの集まりが、それぞれさっき匠に見せられた記事の内容を信じるか否かで争う姿。
何というか言葉に出来ないこの虚しさ。
俺はコミケの時以上に一体何のために戦っていたんだと思ってしまいそうになってしまった。
◇
始業式にて校長や生徒会長の長々しい話を聞き終え、その後教室にて行われた担任による新学期最初のホームルームでは、先の始業式程ではないが長々しい話が俺たちを襲った。
「ほんと……どうしてこうみんな話を長くしたがるかね」
放課後となり、食堂で買ったサンドイッチ片手で頬張りながら新聞部を目指す俺とティアナ。
先のホームルームでは担任にバレないように欠伸して過ごしていた俺はそうぼやいた。
「年を取るにつれ話は長くなるものなのよきっと」
「そう言うもんかねぇ……」
こういった他愛もない会話を続けている内に目的地である旧部室棟の入口にようやく辿り着いた。食堂と
ホームルーム中に早弁していた為に一足早く向かっていた匠は恐らくもうついているだろう。
俺たちは新聞部の部室目指して廊下の角を曲がる。
するとその瞬間、廊下中に響き渡るような大きな声が聞こえて来た。
「よくのこのことあたしの前に顔出せたわね!! この最低最悪のろくでなし!!」
この大声……悠香さんの声だ。
一体何が起きているんだ!?
俺とティアナは顔を合わせ頷き合うと新聞部目指して走り出し、旧部室棟の一番端、新聞部部室前に辿り着いた。
「ろくでなしって……随分と酷い言い方だなぁ。君と僕の仲だろう?」
誰だこの声?
新聞部の前に着くと同時に聞こえてくるのは聞き覚えの無い男の声。
優し気な声色からは敵意のような物は見えないが、何だろうか嫌な感じがする。
俺たち二人は、新聞部のドアを開けずに部屋の外から話声を聞いて、中の様子を伺う事にした。
「な~にが君と僕の仲よ!! あんたみたいな最低な奴、あたしは絶対に許さないんだから!!」
「そんな事言うなよぉ~。昔の事やお父さんの事は謝るからさぁ」
「そんな態度を取っても無駄よ!! あんたの考えは全部お見通し、どうせあたしからテイルバイオレットの情報を盗み取ろうとしているだけでしょ!!」
「盗み取るって心外だなぁ。僕は少し話を聞きたいだけさ。一ジャーナリストとしてね」
ヒートアップし続ける悠香さんの声。
普段とのギャップに俺もティアナも面食らう。
後、どうやらこの謎の男はテイルバイオレットの情報が欲しいようだ。
「あんたみたいな奴がジャーナリストですって!? ふざけるのも大概にしなさいよ!! この面汚し!! あんたなんかに渡す情報は一片たりともありはしないんだから!!」
その直後、部室のドアが開き、追い出されるかのように中から無精ひげを生やした20代後半もしくは30代前半らしき男が出てきた。
その男は一瞬、俺たち二人の姿を見て睨むような素振りを見せたので、俺はティアナを庇うように前に出て睨み返す。すると男は慌てて目を逸らすと部室棟の出口へ向かって歩いて行った。
「何だったんだ? あの野郎?」
「さぁ? でも、良い人ではないって事は確かね」
殆どわからないが、あの男は悠香さんに滅茶苦茶嫌われるような事をしでかした野郎で且つ碌な人物ではない事はさっきの話声からわかる。
俺たち二人はその事含めて悠香さんに話を聞くべく部室内に入る。
すると中では悠香さんと青葉さん、そして匠が黙々と何かを探して床をはいずり回っていた。
「悠香さん、あんた何してるん――」
「しーっ!! 声を出さないで。恐らく盗聴されてるわ」
と、盗聴だって!?
一体誰がそんな事をと思った直後に俺はさっきの男を思い出す。
まさかあの野郎、目当ての情報を面と向かって手に入れられなかったから盗聴器を部屋にしこんで帰ったっていうのか!?
俺もティアナもそう聞かされては黙って盗聴器探しに参加。
日頃、華先生が片付けてくれているおかげもあって以前に比べれば綺麗な部室内ではあるが、それでもまだ完全に綺麗とは言い難いが為に盗聴器探しは困難を極める。
そんな中で探すこと5分。
巧みがソファの背もたれの端で見慣れぬ小さな機械が書類に隠れている事に気が付いた。
「ありましたぜ先輩!!」
「でかしたわ!! 粉々に踏み潰して頂戴!!」
「あいあいさー!!」
見事、匠の活躍で盗聴器は粉々に砕け散った。
その後、俺たちは念のためにまだ盗聴器がないかを捜索したが、それ以上は何も出てこなかった。
これでようやく一安心。
俺はソファでホッと一息つきつつ、さっきの男について何者かを悠香さんに問う。
「さっきのあの野郎。一体、何者なんですか?」
「アイツは
悠香さんは怒りを抑え込みながら何とか平静を保ち、そう答えた。
余程、あの藤倉とかいう野郎に恨みがあるらしいな。
「あの野郎は自分の事、ジャーナリストって言ってたっすけど……」
今度は匠がそう尋ねる。
どうやら匠もあの藤倉とかいう野郎については何も知らないようだ。
「いい? たっくん。あたしの中でジャーナリストってのは誰かの為に真実を伝える為に活動する者達の事を指すの。例えその真実が残酷で誰かを悲しませるような事であってもみんなに真実を伝えたいという思いからなる仕事なの。でもね……」
自分の中でのジャーナリストとは何なのかを熱く語る悠香さんだったが、途中で言葉が詰まり、顔に怒りを滲ませた。
「
そんなヤバい奴がテイルバイオレットの情報を欲しがっている。
となるとこれはもしかして、今朝出回っていたあのネットニュースと何か関係があるのでは?
そう思った俺は今朝のニュース記事を悠香さんに見せてみた。
「これ今朝話題になっていたんだけどよ。この記事書いたのって……」
「十中八九、
「やっぱりか……」
悠香さんが言うには藤倉の野郎は、テイルバイオレットの正体を知る事でその正体を世間に公表し、その上でテイルバイオレットがアルティデビルとグルであるという偽の記事を拡散してテイルバイオレットの地位を陥れようとしているとの事。
あと、今日、藤倉の野郎がここにやってきたのは以前、俺が初めて悠香さんたちと出会った際に撮ったテイルバイオレットへのインタビュー動画を見た事で何かを掴めるかと思って来たらしい。
あの動画を見てまさかこんな奴が俺の正体を掴もうとやって来るだなんて思いもしなかった。
「クッソ……やってくれるじゃねぇか……!!」
今朝のニュース記事を書いたのは何か俺たちに恨みでもある奴なのかと思っていたが、まさかただ楽しむ為だけに書いていた愉快犯だったとはな。
話を聞けば聞くほど俺は怒りを滲ませた。
「ねぇ? 悠香さん? 藤倉って男とは何か別に深い関係でもあるんですか? いくら何でも恨み過ぎな気がして……」
確かにそうだ。いくら悠香さんの信念が藤倉の野郎の信念と相反するからといっても流石に恨み過ぎだ。それに藤倉の野郎は僕と君の仲だなんて言っていやがったし……
ティアナがそう尋ねると悠香さんは苦虫を嚙み潰したような表情を見せながら答えだす。
「
成程。つまり藤倉の野郎とは昔馴染みの顔って訳だ。
悠香さんが藤倉の野郎を恨む理由もわかったぜ。
「いい? みんな?
今度の敵はエレメリアンではなく、血の通った生きている人間だ。
悠香さんの注意喚起にここにいるみんなは一斉に頷いた。
「ねぇねぇ何の話? 夏休みの思い出? 先生にも教えて頂戴よ」
直後、空気を読まずに入って来た華先生にみなズッコケるのであった。
今回登場の新キャラ、藤倉はちょっと胸糞悪い奴かもしれませんのでご注意を。
キャラクター紹介17
性別:男
年齢:33歳
誕生日:3月31日
身長:184cm
体重:71g
自らの地位を利用して他者を陥れ、その様子を見て楽しむ卑劣漢。
ついこの間までは悠香の父を追って海外に出ていたが、テイルバイオレットたちの活躍を知って帰国。
現在はテイルバイオレットの正体を知りその立場を失墜させる事を目的に動く。