俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第76話 夢という名の罠

 藤倉の野郎が新聞部にやってきたその日の夕方。

 今後の対策(といっても基本は何されても無視するだが)についてみんなと話し終えた俺はティアナと共に下校。

 幸いな事に下校中にエレメリアンが出てくるような問題もなく、無事ティアナをアラームクロックに送り届けることが出来た。

 

「じゃあまた明日な」

 

「うん、ありがと和輝」

 

 いつも通りのやり取りをした後、俺はそのままバイクを自宅への方向へと向けアクセルをいれようとする。

 するとその時だった。

 アラームクロック入口のドアが開いたと思うと中からおやっさんが飛び出してきた。

 

「おい和輝!! 大変だ!! テレビを見て見ろ!!」

 

 おやっさんの慌てぶりから見て何やら大変な事が起きたらしい。

 今朝、教室で起きた騒ぎの事もあり、何となく何が起きたのか察した俺は、慌ててバイクを降りるとアラームクロックの中に駆け込み、カウンターに置かれているタブレットに映されたテレビ映像を見る。

 そこには予想していた通りの映像が映っていた。

 

『テイルバイオレットは悪か正義か!! 徹底討論!!』

 

 夕方に全国放送されるニュースバラエティー番組。

 そこには藤倉の野郎が今朝流したテイルバイオレットは怪物共の仲間であるという内容の記事について、それが信用できるかそれとも否かについての話題が取り上げられていた。

 俺とティアナはその映像を見てため息を吐く。

 

「やっぱりか……」

 

 今まで世間を騒がせ続けたスーパーヒロインが実は悪の手先なんじゃないかだなんてそれはもう話題性たっぷりだ。どんなテレビ局だって取り上げたいにきまっている。

 だがそれにしても今朝流れたニュースだというのに随分と早いな。

 恐らく、藤倉の野郎が事前に根回ししていたのだろう。

 

『例えテイルバイオレットが怪物たちと仲間じゃないにしても、テイルバイオレットがいるせいで怪物たちがやって来るんじゃないか。私はそう思っています』

 

 出演者の一人が痛い所を突いてきた。

 ライブに行けばライブ会場に、公園に行けば公園に、確かに今まで何度かアルティデビルの野郎どもは俺たちがいる場所の近くにやって来た。少なくともバイクで行ける範囲内の距離であり、海外などといったケースは存在しなかった。

 でも、それはただの偶然だ。俺は奴らの仲間じゃない。

 

「鶏が先か卵が先かって奴ね」

 

 ティアナが難しい言葉を口にする。

 意味合いからしてどっちが先なのかって奴だろうか。

 まぁ何にせよ、この考えが広まり、テイルバイオレットの活動を反対する奴が出てこない事を祈るしかない。

 

『では果たしてテイルバイオレットは人類の味方なんでしょうか。皆さんはどう思いますか?』

 

「なぁ、おやっさんはどう思う?」

 

「うん? テイルバイオレットについてか?」

 

 その後も続く、今朝の出来事がフラッシュバックするかのような内容の数々。

 それに耐えれなくなった俺は一緒に画面を見ていたおやっさんにふと尋ねてみた。

 おやっさんには正体を隠している都合上、今までどう思っているかなんて聞いたことがなかったが故に心がドキドキする。

 

「当たり前だが、俺はテイルバイオレットを信じているぞ。なんせテイルバイオレットちゃんは弟分みたいに可愛いからな」

 

 そ、そうか……!!

 最後の一言は余計ではあったが、やはりおやっさんは俺たちの味方なようだと知り俺は安心したぜ。

 

「ありがとなおやっさん」

 

「いいって事よ。それにな和輝、悪と戦うヒロインたるものいつかはこういう今まで守っていた人たちが敵になるシチュエーションってのが来るってもんだぞ」

 

「そ、そういうものかぁ?」

 

 相変わらずの特撮やアニメで得た知識で俺を励ましにかかるおやっさん。

 現実と空想は違うんだぞと言ってやりたい物だが、今日は見逃してやるぜ。

 

「最後は今まで批判していた側の人たちが改心してくれるさ。きっとな」

 

「だといいんだけどね」

 

 ティアナが浮かない表情でそう口にする。

 それほどまでにあの藤倉とかいう野郎が改心するとは思えなかったんだ。

 

 

 

 

 翌日、俺とティアナがいつも通りにバイクで登校し、学校の正門を抜けた直後だった。 

 見えてきたのは何故か玄関前の校庭で立ち止まる大量の生徒たち。皆が皆、同じ方向にある何かを見たり写真に撮ったりと足を止めており、このままでは校舎の中に入る事が出来ない。

 コミケの時ほどではないにせよ、その圧倒的な人の海を見た俺たち二人は言葉を失った。

 

「な、何が起きているんだ……?」

 

 あまりの人の量故にこのままでは校舎内で何が起きているかがさっぱりわからない。

 唯一わかるのは何か事件か何かが起きたという事ぐらいだ。

 

「大変だ!! 大変だ!! おい和輝!! ティアナちゃん!!」

 

 さてどうしようかと思った直後、人混みの中から掻き分けるように匠の奴が顔を出し現れた。

 どうやら匠は何が起きたのか知っているようだ。

 

「マスコミどもが……マスコミどもが押し寄せてきやがった!!」

 

「「はぁ!?」」

 

 驚く俺たちに対して兎に角来てくれと言われたので、俺はやむなくバイクを校庭に停めてそのまま匠に連れられるかのように人混みの中を掻き分け進む。

 そしてようやく人だかりから抜ける事が出来た俺たちの目の前には衝撃的な光景が広がっていた。

 

「テイルバイオレット!! テイルバイオレットはどこですか!!」

 

「取材を!! 取材をお願いします!!」

 

「テイルバイオレットは人類の味方なんですよね!?」

 

 テレビのニュースや会見で出てくるようなリポーターやカメラマン、記者たちといったマスコミたちが正面玄関ホールを埋め尽くすかのような圧倒的な量で一斉に押しかけ埋め尽くしている。

 しかもその大人数は皆が皆、テイルバイオレットがこの学校にいると何処からかの情報を得てやってきたようだ。

 昨日の藤倉の野郎が流したニュースの事もあり、加熱するマスコミたちにまたしても俺たちは言葉を失った。

 

「この学校にテイルバイオレットが在籍しているというのは本当ですか!?」

 

「答えてください!! どうなんですか!!」

 

「落ち着いて!! 落ち着いてください!!」

 

 マスコミの勢いを止めようとする堀井含めた教師たちであったが、マスコミの勢いと量は教師たちのそれとは一線を画すものであり、玄関ホールで足止めするのが精いっぱいのようであった。

 先人を切っていた堀井がマスコミの波に飲まれて消えていった。

 

「な、なぁ? どうしてこうなったんだ?」

 

「多分……恐らくは……」

 

「藤倉の野郎か……!!」

 

 何となくだが俺は確信した。

 恐らく、この騒ぎは全部、藤倉の野郎の仕業に違いない。

 大方、この学校にテイルバイオレットがいると確証もないのにテレビ局や新聞社に情報を送りこう騒ぎになるように仕向けたのだろう。肝心の藤倉本人が見当たらないのはその為だ。

 とすると昨日流したあのニュースはこのための布石だって言う事か。

 昨日の出来事に引き続きますます怒りがこみ上げてくる。

 

「で、どうするよこれ。このままじゃ学校どころじゃねぇぜ」

 

 このまま騒がれ続けたら午前の授業に支障が出ちまうのは明白だ。

 少しありがたい気もするが、このままずっとマスコミ共にいられるのは流石に気が滅入るし、いざエレメリアンが出現した時が大変だ。

 

「授業がなくなるのははありがたいんだけどな……」

 

「匠、何か言ったか?」

 

「いえ何も!?」

 

 一瞬、匠の奴が授業が無くなってありがたいとか何とかほざいたような気がしたがまぁいいだろう。

 今はこの騒ぎをどう収めるかが先決だぜ。

 

「兎に角、今は悠香さんに相談しましょ。このままじゃ埒が明かないわ」

 

 ティアナがそう提案したので俺たちは新聞部目指して動きだそうとしたその時だった。

 

「全く……うるさいわね……!! あなたたちの目的はあたしでしょ!!」

 

 聞き覚えのある声が玄関ホールに響き渡る。

 俺たちやマスコミは一斉にその方向に振り向いた。

 するとそこには威風堂々と立ち構える悠香さんの姿があった。

 

「「悠香さん!!」」「先輩!!」

 

 直後、俺たちの声はマスコミたちの声にかき消される。

 マスコミたちが一斉に悠香さんに向かって行ったからだ。

 

「片霧悠香さん!! あなたはテイルバイオレットについて以前、インタビュー動画を上げましたよね!! テイルバイオレットとはどういった関係なんですか!?」

 

「テイルバイオレットは人類の味方でいいんですか!?」

 

「この学校にテイルバイオレットがいると言うのは本当ですか!?」

 

 カメラのフラッシュが大量に焚かれる中、悠香さんに対して矢継ぎ早に質問を浴びせるマスコミたち。

 それに対して悠香さんは臆することなく一つ一つ答えを出していく。

 

「テイルバイオレットとは以前助けてもらっただけの友達です!! あたしは彼女の正体は知らないしこの学校にはいません!! 後、テイルバイオレットは人類の味方です!! 怪物たちの仲間なんかじゃ決してありません!!」

 

 この慣れていると言わんばかりの対応力。冷静に、それでいて鮮やかに、悠香さんはマスコミたちを捌いていく。

 そして悠香さんはこれ以上の取材はまた後日、正式な手続きをしてからお願いしますとトドメを刺し、その回答を受けたマスコミは一人、また一人と数を減らしていく。

 そして数十分後、玄関ホールにマスコミたちの姿は綺麗さっぱりいなくなった。

 

「す、すげぇ……」

 

「流石ね……」

 

「だな……」

 

 悠香さんが来ていなかったら一体全体どうなっていたのか。きっと一日中、マスコミが校内をうろついていたであろう事は想像に難くない。

 そうなればもし、エレメリアンが出現した時に学校を抜ける事ができなくなっていただろう。

 俺たちはただただ悠香さんに感謝するしかない。

 

「片霧さん!! だ、大丈夫ですか!?」

 

「そ、そうだぞ片霧!! 大丈夫か!?」

 

「大丈夫大丈夫、平気ですよ」

 

 華先生や堀井といった教師が心配して駆け付けるのに対して悠香さんは何事もなかったかのよう平然とそう答える。

 俺はその姿を見てまた一つこの人は凄いと感じるのだった。

 

 

 

 

 マスコミたちがやって来るという騒動からもう約一週間が経った。

 あれ以降も藤倉の野郎が起こしたと見られる嫌がらせのような物は何度もあったにはあったのだが、その度に悠香さんが何事もなかったかのように解決していった為、今の所、特に何もない学生生活及びテイルバイオレットの活動が出来ている。

 あれだけ広まりかけていたテイルバイオレットの批判的な意見も今じゃすっかり廃れてしまっており、俺としてはホッとしている。

 

「はぁ……」

 

 そして現在。

 放課後、エレメリアンも出現せず暇になったので新聞部にやってきた俺とティアナ。どうやら今日も悠香さんは藤倉の野郎が仕掛けたテイルバイオレットのデマ記事及び先日やってきたマスコミの対処に動いているらしく、部室には青葉さんと匠しかいない。

 部室のソファに座るなり、隣のティアナがため息を吐いた。

 

「どうしよう……ツイツイ書いちゃった……」

 

「進路希望でツインテール。お前らしいっちゃらしいが、それはねぇよな」

 

 何故ティアナがため息を吐いているのかを知っている俺は呆れながら言う。

 事の発端は今日最後の授業となったロングホームルームでの進路希望調査のアンケート。来年始まる大学受験へ向けて頑張らないといけない高校二年生にとっては重大過ぎるアンケートだ。

 俺含めて皆がそれぞれ、思い思いの将来を思い浮かべながら志望する高校を書き出していくそんな中で、唯一この世界出身ではないティアナは適当な進路を書くつもりがうっかりツインテールとだけ書いて提出してしまった訳だ。

 結果、学年トップの成績をもつ筈のティアナは進路指導を担当する堀井に名指しで呼び出しを喰らい、ふざけるんじゃないとこっぴどく叱られてしまったんだ。

 

「だって……将来の夢の事とかを考えていたら自然とツインテールが出てきたんだもん……」

 

「普通、自然とツインテールなんて出てこねぇよ。全く、お前のツインテール脳っぷりは……」

 

「うるさい!! うるさい!! いい和輝? ツインテール戦士たるもの常日頃からツインテールを夢想するのは当然の事なの!!」

 

「あ、そうですか……じゃあ俺はまだまだって事だな」

 

 いくら俺が未熟なツインテール戦士と言ってもその領域は別次元過ぎる気がする。

 果たして常日頃からツインテールを考えているツインテール戦士はティアナ以外にいるのだろうか。

 

「俺はやっぱりお似合いだなーって思ったけどなー」

 

 向かい側のソファでだらける匠が笑いながらそう呟いた。

 

「おい匠、それどういう意味だよ」

 

「だってそうだろ? 思い出して見ろよ。お前、二年上がって初の授業でなんて言ってたっけ?」

 

 その瞬間、俺は棚の奥にこっそり隠していた黒歴史ノートを引っ張り出されたかのように恥ずかしさで顔が真っ赤になる。

 いくらあの時、寝ぼけていたとは言えこればかりはティアナに聞かせる訳にはいかない。

 

「確か……俺のツインテールは……」

 

「それ以上は言わさねぇ!! 喰らえ匠!!」

 

「おぐわぁっ!!」

 

 俺はテーブルの上にある何に使うかよくわからない機械を手に取ると匠目掛けて一直線に投擲し命中。

 すると匠は素っ頓狂な叫び声と共に宙を舞い棚に激突。

 棚に収められていた資料が雪崩のように匠に降り注いだ。

 

「た、助けて……」

 

「やなこった。そこで反省しておきな」

 

 助けを求める匠に俺はそう吐き捨てる。

 人の恥ずかしい過去をバラそうとした罪は重いんだ。

 寧ろこれくらいで許してやる俺の寛大な心に感謝するんだな。

 

「そういや、青葉さん。あんたらの進路って大丈夫なのか?」

 

「そう言えばそうね。青葉さんと悠香さんは今年受験なのよね。私たちもしかしてお邪魔かしら」

 

 忘れていたが悠香さんと青葉さんは高校三年生。つまり受験生だ。

 今日も今日とて部活に励み受験生の素振りが一切見えない二人に疑問を抱いた俺とティアナは青葉さんにそう尋ねた。

 

「別に気にしなくていいよ……。ぼくも悠香も大丈夫だから……」

 

 もし俺たちエレメリアン退治に協力する為に受験勉強を疎かにしているのなら俺たちとしては申し訳が立たない。

 そう思っていたのだが、思いのほか青葉さんは涼しい顔でそう答えてくれた。

 一体何が大丈夫なのだろう?

 皆目見当もつかない。

 

「そもそも青葉先輩と悠香先輩の将来の夢ってなんなんすか? やっぱり今まで通りの新聞記者っすか?」

 

 資料の山から復活した匠がそう尋ねた。

 すると青葉さんはパソコンの画面から目を逸らし天井を眺めながら呟く。

 

「ぼくの夢は悠香の夢……。悠香の夢は少しでも早く世界一のジャーナリストになってこの世のありとあらゆる真実をみんなに届ける事……。ぼくはその手伝いがしたい……」

 

「やっぱそうすか……」

 

「ねぇ青葉さん? ちょっといいですか?」

 

 今度はティアナが青葉さんに尋ね始めるべく手を上げた。

 青葉さんは黙って頷いた。

 

「いつも思うんですけどどうして青葉さんはそんなに悠香さんに尽くそうとするんですか? さっきの夢もそう。ただ幼馴染で仲が良いからでは説明がつかないと思うんですけど……」

 

 確かに青葉さんって悠香さんに尽くしてばかりだよな。別に悠香さんが強制している訳じゃないのにいっつも言う事聞いて指示通りに動いて……

 ティアナの質問をきいて俺もそうだなと頷いた。

 

「君たち二人と一緒だよ……」

 

 青葉さんは俺とティアナを見つめてそう言った。

 俺たちはその意味がよくわからない。

 その時、俺には青葉さんの顔が赤くなっているような気がした。

 

 

 

 

 大通り沿いに存在しているお洒落な喫茶店のテーブル席、そこでは忌々しそうにパソコンの画面を睨みつける藤倉の姿があった。

 現在、藤倉が見ているのはテイルバイオレットの事を援護する記事。

 それは紛れもなく悠香が世間に与えた影響が表れていた。

 

「チっ……調子に乗りやがって……あの(アマ)……」

 

 舌打ちをしながら記事を眺めイライラを募らせる藤倉。

 当然だ。あれだけ自分が世間に与えたテイルバイオレットを不審がらせるように仕向けさせる情報工作がたった一人の女、それも自分よりもはるか年下の子共に打ち破られているのだ。

 悔しいと同時に彼女に対する強い劣等感が藤倉を強く苛つかせる。

 

(何かないのか……テイルバイオレットを陥れる為の策は……)

 

 もじゃもじゃ頭を掻きむしりながら考えるが中々いい案が浮かんでこない。

 今のご時世、余程の説得力がないとどれだけ嘘を書いた所で見破られると言う事は長年こういった仕事をやっている経験上、痛い程よくわかっている。

 

(やはりテイルバイオレットの正体を掴むしかないか……)

 

 結局はそこに辿り着く藤倉なのだが、テイルバイオレットの正体を掴むだなんてまるで雲を掴むかのような話だ。

 闇雲にテイルバイオレットの跡を追っていては、とてもじゃないが現実的ではない。となると結局、悠香たちの持つテイルバイオレットに関する資料が必要になるのだが、それはそれで今のままじゃどんな嫌がらせをしたところで彼女たちが口を割るとは思えない。

 

(せめて何かアイツらの弱みさえ握れれば……)

 

 ふと藤倉の脳裏に浮かんだのは悠香の友人である青葉の姿。

 悠香が無理ならその友人を狙えばいいという至極真っ当且つ卑怯な策だが、肝心の弱みが見つからない。

 それだけ青葉は普段の学生生活に問題がない普通の少女なのだ。

 わかっているのは住所と家族構成程度。

 

(いっそ誘拐でもするか? いやいや駄目だ!! それじゃあ捕まってしまうじゃないか)

 

 悠香も青葉も家に親がいないのは知っているので、誘拐するなりして脅すのは簡単だがそれでは自分が犯罪者になって捕まってしまう。

 それだけは勘弁願いたい。

 そう思ったその時だった。

 

「ねぇ、今日の進路希望のアンケート。なんて書いた?」

 

 それは近くの席で進路について悩む学生たちの会話。

 それを聞いた藤倉はある事を閃くとスマホを手に取りある場所に連絡を取る。

 

「なぁもしもし、俺だ藤倉だが、ちょっと聞きたい事があるんだが――」

 

 数分後、電話をする前とは明らかに違う雰囲気を纏う藤倉が邪悪な笑みを浮かべ喫茶店を後にするのだった。

 

 

 

 

 もう日も暮れ始めた時刻。

 青葉は残暑に苦戦しつつも一人黙って自宅であるマンションまで歩いていた。

 いつもなら隣に必ず悠香がいるのだが、マスコミたちが押し寄せてきたあの日以降、悠香は夜遅くまでマスコミたちの取材を受けているので今日も青葉は帰り道一人なのだ。

 

(悠香、大丈夫かな……)

 

 あの悠香の事だ。何があっても大丈夫だろう。

 だがそう思っていても心配は尽きないものだ。

 青葉は藤倉を呪った。

 あの男さえいなければ今日も隣には悠香がいてくれたのにと。

 

(悠香……)

 

 ふと青葉は悠香と初めて会った日の事を思い出す。

 それは小学2年の春だった。

 友達がおらず教室内で孤立していた青葉の下に親の都合で転校してきた悠香が現れたのだ。

 悠香は転校生の最初の挨拶でいきなり「この中で機械に強い人はいませんか!! いたらあたしの夢を手伝ってください!!」と堂々とクラスのみんなに向かって尋ね、青葉のみがおずおずと手を挙げる。それは青葉にとって運命の出会いであった。

 最初こそ衝突はあったが、時間をかけるごとに段々と仲良くなる悠香と青葉。

 あの出会いから約10年経った現在、青葉にとって悠香は最高の相棒(パートナー)以上の存在になっていたのだ。

 

「悠香……早く帰ってきて……」

 

「おやおや……今日は一人のようだな、お嬢ちゃん?」

 

 悠香の帰りを祈る青葉の背後から急に聞き覚えの声が聞こえて来た。

 青葉が振り向くとそこには、もじゃもじゃ髪に無精ひげが特徴の男、藤倉が立っていた。

 青葉は立ち止まると警戒心を露わにし藤倉を睨みつける。

 

「お前、ぼくに何の用……」

 

「そりゃあ当然、教えて欲しい事があるから来たに決まっているじゃないか」

 

 やはりそれが狙いか。

 青葉はそれを知るなり、キッパリと言い返す。

 

「悪いけど、ぼくがあんたに教えることは何もないよ……」

 

「それ相応の額を払うと言ってもかい?」

 

「当たり前だろ……」

 

 藤倉が自分以外の誰かを狙う事ぐらいわかっていた悠香は、予め全員に何が起きても絶対にテイルバイオレットの情報を藤倉に売るなと言っておいていた。それが例え、どれだけお金をつぎ込まれようがだ。

 お金に弱い匠ならまだしも、悠香との約束を死んでも守ろうとする青葉にその程度の誘惑にのるわけがなかった。

 

「お~お~そいつは手厳しいね~」

 

 強く睨みつける青葉に対してやけに余裕と言った様子の藤倉は軽い言葉で残念がる。

 それを見た青葉はより一層警戒心強めた。

 

(この男、何かある……。でなければこんな態度を取るようには思えない……)

 

 このまま逃げるのが先決か?

 それとも誰かに助けを求めるべきか?

 悩む青葉だったが、前者は青葉の運動神経からして無理で、後者は助けを求める相手が近くにいない。

 現状、強がってはいるが青葉にとって絶体絶命のピンチには変わりなかった。

 

「じゃあさ、ちょっとした取引でもしないかい?」

 

 どうしようかと悩む青葉に藤倉は不意に取引をしようなどと声をかける。

 当然だが、青葉はそんな戯言に耳を貸そうとはしなかった。

 

「取引……? 何を言っているの……? そんなのぼくが受けるわけ――」

 

「へー。じゃあ悠香ちゃんの将来がどうなってもいいんだ?」

 

「ッ!? どういう事……!?」

 

 悠香の将来。そう言われて驚かない青葉ではない。

 青葉はその言葉の意味を藤倉に問うた。

 その様を見た藤倉は楽しそうに笑い答え始める。

 

「確か君たち、高校を卒業したらある新聞会社に就職するつもりなんだよね~?」

 

「ど、どうしてそれを……!?」

 

 悠香たちの夢である一流のジャーナリストとして活躍するには本来、大学を卒業し新聞会社などに就職して経験を重ねた後に独立する事がまず一般的だ。勿論、その事は悠香たちも知っており、本当なら今年は大学の受験の為に部活動を抑えるつもりであった。

 だが、今年の春、とある新聞会社からあるメッセージが届いた。

 何でも君たちの高いスキルをぜひとも我が会社で活かして欲しいので、本来大学生限定な所を特別に、就職試験を受ける事が出来るように権利をあげるとの事。

 その願ったり叶ったりな提案をすぐさま受け入れた悠香たちだからこそ、今年も部活動に専念する事ができていたのだ。

 

「いや~実はね、僕の知り合いの中には新聞会社で採用担当を任されている奴が沢山いるんだよ。その中の一人から少し教えてもらっちゃったんだ~」

 

「……」

 

 意気揚々と何故分かったのかに対するタネを語る藤倉に対して青葉は、次に何を要求してくるのかをわかっているが故にただ黙る事しか出来ない。

 

「もうわかるよね~? 僕が何を言っているのかがさ~」

 

「……」

 

 尚も黙り続ける青葉。

 藤倉は勝利を確信しながら要求を述べる。

 

「テイルバイオレットを取材した時の動画のデータがまだ残っているだろ? 僕はそれが欲しいんだよね~」

 

 よこさなければ君たち二人の将来は永久に来ない。

 例えそれが、今年の就職を蹴って進学の道に進もうとしても次も同じように就職できないように妨害してやると言っているも同義だ。

 青葉は迷った。

 このままでは悠香の夢が叶わないかもしれないからだ。

 

(ぼくの夢は悠香の夢……。ぼくの夢は悠香の夢……。ぼくの夢は……)

 

「まぁ、僕も鬼じゃない。猶予をあげよう。そうだな……三日後月曜の夕方、学校の裏でも待っていてあげるか。勿論、それまでに決まったのなら連絡よろしく」

 

 タイムリミットは三日後。それまでに答えを出さなければ一生、二人が夢を叶えれないようにしてやる。

 そう宣言した藤倉は連絡先が書かれた紙を残して去っていく。

 

「ぼくはどうしたら……」 

 

 青葉は今、人生最大の窮地に立たされていた。




初期案では藤倉はもっとクソ野郎になる予定でしたが、解決できなくなる恐れがあったのでこのような結果になりました。
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