俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第77話 最高のパートナー

 午後8時。本日もマスコミの大群からようやく解放された悠香がやっとこさ自宅のマンションに帰って来た。

 悠香は鞄を放り投げ、制服をだらしなく脱ぎ捨てるとお気に入りの部屋着にすぐさま着替えを済ませ、隣で青葉が住んでいる部屋に行って大声で青葉の名を叫んだ。

 

「青ちゃん、たっだいま~!!」

 

 一応は他人の家なのだが、長年付き合っている悠香からすれば青葉の家は最早自分の家のようなものだ。

 親がそれぞれ仕事の都合で日本にいない二人だからこそともいえる。

 

「あれ? 青ちゃんいる?」

 

 どうしたことだろう?

 いつもならハイテンション過ぎる悠香のただいまが室内に響き渡った直後に青葉のローテンションなおかえりが返ってくるはずなのに今日はその返事が来ない。

 それに違和感を覚えた悠香はもしかして青葉がいないのではないかと思ったが、リビングを超えた奥にある青葉の自室にはしっかりと青葉がパソコンを前に張り付いていた。

 

「な~んだ、しっかりいるじゃないの」

 

「ッ!? ゆ、悠香……!!」

 

 親に隠れてゲームをしていたのがバレたかのような驚いた素振りを見せる青葉。

 別段、そこまで驚かせるような事はしていないでしょと悠香は思った。

 

「どしたの青ちゃん?」

 

「な、なんにも……ない」

 

 目線を逸らしぼそぼそと喋る青葉を見逃す悠香ではない。

 悠香はもしかして青葉の身に何か起きたのではないのかと心配になり、つい声を荒げてしまう。

 

「嘘をつかないで青ちゃん!! 何か……何かあったんでしょ!?」

 

「……」

 

 だが青葉は何も答えない。

 ただ首をブンブンと横にふるだけだ。

 これには流石の悠香もどうしていいか参ってしまう。

 そんな中、偶然、悠香の脳裏に藤倉の顔が浮かんだ。

 

「ッ!! もしかして、藤倉(アイツ)のせい!?」

 

 そう言った瞬間、ビクリと体を震わせた青葉。

 そのわかりやすすぎるリアクション。この反応は間違いない。

 悠香は思った。あたしがいない間に藤倉(アイツ)は青ちゃんに何かを吹き込んだんだと。

 

「ねぇ青ちゃん!! 藤倉(アイツ)に何を言われたの!? 教えてよ!! ねぇ!?」

 

「……なんでも……ない」

 

「嘘!! 絶対嘘よ!! じゃなかったら青ちゃんそんなに辛そうな顔しないもん!! 言ってよ!! どんなに辛い事でも相談に乗るから!!」

 

「だから……何でもない……」

 

「青ちゃん!!」

 

 次第に強くなっていく悠香の声。

 それに対して尚を静かに悠香を拒否し続ける青葉。

 悠香からすれば最愛の友人である青葉が心配で心配でたまらなかった。

 そしてそれは皮肉にも青葉も同じだった。

 

「もしかして……テイルバイオレットの情報を藤倉(アイツ)に売ってしまったの? だからそんなに後ろめたい雰囲気なんじゃ……」

 

「……!?」

 

 ある意味、悠香の一言は的を得ていた。

 より一層、挙動不審に陥る青葉を見て悠香は確信する。

 

「ねぇ青ちゃん!? あんな奴にテイルバイオレットの情報を渡したの!? 言ったわよね!? それだけはしちゃいけないって!! どうなの!! 答えてよ!! 言わなきゃ何もわからないのよ!!」

 

 ヒートアップし過ぎた悠香は肩を揺さぶり怒涛の言葉で青葉を問い詰める。

 しかし、そんな悠香に対して青葉は静かにそれでいてはっきりと告げる。

 

「出て行って……」

 

「え……!? 今なんて……」

 

「出て行ってって言ったんだよ!!」

 

 物静かで喋るのが苦手な青葉からは想像もつかないような荒っぽい言葉がその口から飛び出した。

 それを聞いてショックで呆然となる悠香。

 そんな悠香を青葉は黙って自室から追い出すと自室に鍵をかけ一人寂しく涙を流す。

 

(言えない……。ぼくには言えないんだ……。ぼくには悠香の夢がかかっているんだ……)

 

 藤倉が言った約束の日まで後……

 

 

 

 

 とある土曜の正午。

 俺、ティアナ、匠の三人組は話があるから集まって欲しいと悠香さんに言われたので、都内某所のハンバーガーショップに集まっていた。

 お昼時という事もあり、座る席とテーブルを確保するのには少々骨が折れたが、何とか四人満足に座れる席とテーブルを見つけ確保することが出来た。

 そして現在俺たち三人は、まだ来ていない悠香さんを待ちながらそれぞれが注文したハンバーガーに舌鼓を打っている際中だ。

 

「なぁお二人さん、悠香先輩はよー、一体俺らにどんな話があるんだと思う?」

 

 一番格安のチキンバーガーを口いっぱいに頬張る匠が俺とティアナに尋ねる。

 

「さぁな。俺が知るかよ……」

 

 好物であるテリヤキバーガーを一気に食べ終えた俺がそう答える。

 

「あれじゃない? 藤倉とかいう人に何か嫌がらせでも受けてないかとかじゃないの?」

 

 すると今度は、メガバーガーなる通常の三倍の大きさのハンバーガーを半分食べ終えたティアナがこうじゃないのかと言ってきた。

 俺と匠はそれを聞いて成程と手を叩く。

 

「でもよー。お前らお二人さんは何かされたか?」

 

「いんや」

 

「私も特には」

 

 揃って首を横に振る俺とティアナ。

 すると匠の奴はだよなーと言いながらチキンバーガーを一気に呑み込んだ。

 

「じゃあ何だ? 悠香さんは何しに俺らを集めたんだ?」

 

「もしかして……これから何かされるかもしれないって警告しに来るんじゃ……」

 

「いや、もしかしたら俺たちが何か喋ってないかどうかを尋問しに来るんじゃねーの?」

 

「「いや、それはない」」

 

 変身者である俺やティアナがテイルバイオレットの情報を売る訳ねぇだろ。

 見事すぎるダブルツッコミが匠に炸裂した。

 

「じゃあ何だよーどんな話があるっていうんだよー」

 

「知るか!! もうちょいで来るんだろうし、ちったぁ黙って待っとけ」

 

 匠の頭を叩いて黙らせた俺はコーラを飲みながら悠香さんを待つ。

 そしてそれから数十分経った頃、いつもとはどこか様子の違う落ち込んだ悠香さんが俺たちの前に現れた。

 

「みんな……遅れてごめん……」

 

 今にも泣き出しそうなというより今まで泣いていたんじゃないかと思わせる腫れてぼったりした目、いつものハイテンションな雰囲気とはまるで似合わない地味な服装。そして何よりも悠香さんのアイデンティティの一つとも言えるあの見事なポニーテールが水が無くなり萎れた植物のように元気がない。

 

「ど、どうしたんすか先輩!?」

 

「そうですよ!? 一体何があったんですか!?」

 

「まさか藤倉の野郎があんたに何か!!」

 

 その余りの変わりように驚き心配する俺たち三人。

 すると悠香さんは大声で叫び出す。

 

「あたし……青ちゃんに嫌われちゃったのー!!」

 

 土曜の昼と言う事もあり様々な客で賑わい騒がしかった店内が静まり返る。

 その不味い状況に気が付いた俺たち三人は、俺と匠が悠香さんの口を塞ぎながら座らせ、ティアナが周囲のお客さんに頭を下げた。

 

「先輩!! ストップストップ!! 一体何があったんすか!!」

 

「そうだぜ悠香さん、あんたらしくない。華先生じゃねぇんだから少しは落ち着いてくれ」

 

「ご、ごめん」

 

 悠香さんと言えば溢れ出るそのカリスマ性で俺たち引っ張っていく自信に満ち溢れたリーダーだと思っていたが、ハッキリ言って今の悠香さんからはとてもそうには見えない。

 まさか青葉さんに嫌われただけでこうなっちまうとはな……

 でも、一体何があったんだ?

 泣きじゃくる悠香さんを落ち着かせた俺たちはゆっくりと何があったのかを聞いた。

 

「実はね――」

 

 事の発端は昨日。

 何でもマスコミたちからの取材を終えた悠香さんが家に帰って来るなり、様子がおかしい青葉さんを見つけたらしい。

 で、悠香さんは何があったのかを青葉さんに聞こうとしたが結局、青葉さんは何も答えてくれず、その後追い出されてしまったとの事だった。

 

「成程なぁ……」

 

「話ってそういう……」

 

「ごめんねみんな……こんな情けない先輩で……」

 

「大丈夫っすよ先輩!! だから元気出してくださいっす!!」

 

 落ち込み泣きながらも謝る悠香さんを匠の奴が必死にフォロー。

 悠香さんは少しではあるが落ち着きを取り戻す。

 そしてそれを見たティアナが優しく声をかける。

 

「ねぇ悠香さん? 多分、ですけど……青葉さんは悠香さんの事を嫌いだとは思っていないと思いますよ」

 

「ほ、本当!? ティアちゃん!?」

 

「は、はい……!! 何というかその……青葉さんは悠香さんに心配かけたくないだけだと思うんです。大好きな人の事を思うばかりについ荒っぽい態度を取ってしまうだなんてそんな人、どっかの誰かさんも同じだったですし」

 

 ちらりと俺を見るティアナ。

 俺はつい顔を逸らしてしまう。

 

「だから……もう一度、話し合ってみたらいいんじゃないですか? お互いの心の中に溜め込んだ何かを全部ハッキリとぶつけ合えばきっと仲直り出来る筈です。だって二人は最高のパートナー同士なんでしょ?」

 

「そ、そうね……ありがとうティアちゃん」

 

 ティアナの言葉を聞き、涙を流すをやめた悠香さんは、一度髪を解いた後、即座に髪をポニーテールに結び直す。

 それはまさしく片霧悠香の復活を表していた。

 

「みんな……ありがとう!! あたしやってみるわ!!」

 

「そうっすよ!! その意気っす!!」

 

 匠と一緒に元気に笑う悠香さん。

 俺はそれを見てポツリ呟く。

 

「にしても悠香さんにもあんな一面があるとはな……」

 

 今までどんな事でも諦めない自信満々の完璧超人だと思っていた悠香さんだったが、根はやっぱり年相応の女の子なんだなと再認識させられた。

 

 

 

 

 とあるマンションの303号室にあるカーテンとカーテンの隙間から夕日が差し込む薄暗い部屋。

 その部屋の片隅でうずくまるようにして沈み込んでいる少女がいた。

 彼女の名は神外青葉。

 双神高等学校新聞部のテクノロジーを担当する副部長にして部長、片霧悠香の右腕であり幼い頃からの大親友……なのだが、先日とある一件が青葉と悠香の関係に溝を作ってしまった。

 その結果、あの日以降、青葉は食事も睡眠もとらずにずっと部屋の片隅に閉じこもってしまっていたのだ。

 

「悠香……」

 

 その名をポツリと呟く青葉だったが、即座にその呟きを否定するかのように首をブンブンと振る。

 何故なら先日、その当の本人である悠香を青葉は拒絶してしまったからだ。

 悠香に悪気があった訳ではなく、ただ自分の事を心配しているだけだったことなど青葉はわかっているので余計に罪悪感が青葉を襲う。

 青葉の精神状態は限界に差し掛かっていた。

 

 ピンポーン!!

 

 インターホンのチャイムが大きな音で鳴った。

 

(誰……?)

 

 誰が来たのだろうかと青葉は思ったが、今の青葉の精神状態でまともな応対が出来る筈もなく、鳴り響くチャイムを無視して黙ってうずくまる。

 すると今度はガチャリと鍵が開けられドアが開く音が聞こえてくる。

 

(もしかして悠香……?)

 

 この家の鍵を持っているのは家の主である青葉とその両親、そして青葉の両親から特別に許可をもらい鍵をいただいている悠香だ。

 両親の場合は帰って来る時に何か連絡を入れるのが特徴なので、今入ってきたのは悠香だと青葉は推理した。

 

「青ちゃん? いる?」

 

 青葉が今閉じこもっている部屋の外から悠香の声がした。

 青葉はその優し気な声に心地よさを覚え、部屋から飛び出そうとしたが、先日の一件で悠香を拒絶してしまった事と藤倉に言われた脅しの事を思い出して再びうずくまる。

 

「悠香……何しに来たの……!!」

 

 か細く、それでいてハッキリと、青葉は部屋の外にいる悠香に声をぶつける。

 すると悠香の足音が部屋の前までやって来るのが聞こえてくる。

 

「やっぱり……そこにいたのね」

 

「出て行ってっていっただろ!! どうしてまた来たんだよ!!」

 

 本当はこんな事言いたくない。でも、こうするしか方法がない。

 青葉は、母親を拒絶する反抗期の娘かの如く、悠香に対して強い言葉を浴びせた。

 悠香はいつも大人ぶって強がっているが、その実、まだまだ精神面には不安定な所があり、いつもはそれを見せないようにしているだけだという事を青葉は知っていた。

 だからこのように強く拒絶すれば、折れて帰ってくれると信じていた。

 

(ごめん……悠香……)

 

 再び元の静けさを取り戻そうとする中、青葉は悠香に対する謝罪を述べる。

 だが、部屋の外から悠香の声が聞こえてくる。

 

「ごめんね青ちゃん。でも……あたし、逃げない。何があっても出て行かない」

 

 その力強い宣言を聞いて青葉は驚いた。

 まさかあの悠香がまた一つ成長したと言う事に。

 

「ゆ、悠香……」

 

「ねぇ青ちゃん? 一体、あの日に何があったの? あたしで良ければ教えて頂戴? ね?」

 

 先日のように熱くならず優しさを残した声色のまま聞いてくる悠香。

 だが、青葉の心は動かない。

 いや、動けないといった方が正しいのかもしれない。

 それだけ藤倉の脅しは青葉に対して効果抜群の物であったのだ。

 

「そっか……じゃあ別に言わなくてもいいよ。あたし、青ちゃんが自分で言ってくれるまで待つって決めたから」

 

 その言葉を聞き、遂に諦めてくれたのかと青葉は思ったがどうやらそうではないらしい。

 部屋の外にいる悠香は部屋の入口であるドアにもたれ掛かるように座り込むと、部屋の中の青葉に静かに話しかけ始める。

 

「ねぇ青ちゃん? 青ちゃんはあたしのこと好き? それとも嫌い?」

 

 部屋の外から聞こえてくる突然の問い。

 それを聞いた青葉は数秒の沈黙の後、ゆっくりと口を開く。

 

「好き……」

 

「そっか……あたしも」

 

 その返答に確かな手ごたえを感じる悠香。

 言っておくが悠香の尋ねた好きとはLOVEではなくLIKEのことである。

 

「あたしたちが初めて出会った日の事って青ちゃん覚えてる?」

 

「うん……」

 

「あの時は驚かせてごめんね~。急にあたしの夢を手伝ってください!! だなんてさ……」

 

「うん……びっくりした……」

 

 小学二年の春、今と変わらぬ元気さを見せる悠香が初めて青葉の前に現れた時の第一声がそれであったとそれぞれ振り返る。

 今思えばなんて破天荒な第一声だっただろうか。

 

「あたし、昔から機械が苦手でね。今でこそ青ちゃんの教えのおかげでスマホとかレベルなら操作できるようになったけど、青ちゃんに出会うまではパパによくカメラとかの機械を勝手に触って壊すなって叱られたのよね~」

 

「その時の悠香はまだ5歳とか6歳……。仕方ない……」

 

「でも青ちゃんは小さい頃から機械の扱いに慣れてたんでしょ?」

 

「ぼくはお兄ちゃんの影響……」

 

「そっか。初めて知ったわ」

 

 長年付き合って今年でもう10年となるのにまだ新しい発見が出てくる。

 その事実に喜ぶ悠香は話を続ける。

 

「話を戻すけど、小さい頃のあたしは思ったの。このまま大人になったらどうしようって。これからは携帯電話やらパソコンやらの時代なのに機械音痴のままじゃ一流のジャーナリストになれないってね」

 

「考えすぎ……」

 

 呆れ気味に話す青葉。

 それを聞いて悠香はフフッと笑う。

 

「そうね、今思うとあの頃のあたしは少し考え過ぎていたわ。でも、そのおかげで青ちゃんとこうして仲良くなれたんだから結果オーライって奴よ」

 

「そうね……」

 

 悠香の笑う声につられて青葉も自然と笑顔になる。

 それを感じとる悠香は尚も続ける。

 

「ねぇ、青ちゃん。今更だけど、今のあたしの夢って何かわかる?」

 

「少しでも早く世界一のジャーナリストになってこの世のありとあらゆる真実をみんなに届ける事……でしょ?」

 

 自信満々と答える青葉。

 だが悠香の答えは少し違った物だった。

 

「少し違うかな~。厳密にはあたしたち二人で世界一のジャーナリストになる事。互いが互いを助け合いどんな困難にもめげない最高のパートナー。あたしは青ちゃんとそんな関係になりたい」

 

 悠香の夢はぼくの夢。悠香の手伝いが出来ればどんな扱いでもいい。

 そう感じていた青葉だったからこそ、その言葉には驚かされた。

 

「悠香……」

 

「だから青ちゃん。苦しんでいるならあたしに何でも言って。だってあたしたち二人は最高のパートナーでしょ?」

 

 その優し気な言葉を聞いたことで、今の今まで青葉の堰き止められていた心のダムは一気に決壊。

 そして次の瞬間、青葉は部屋のドアを開け、部屋の外で待っていた悠香に抱きついた。

 悠香はそんな青葉に驚きながらも優しく抱きしめる。

 

「大丈夫。大丈夫よ青ちゃん」

 

「ありがとう悠香……。ぼく……ぼくね……」

 

 青葉は悠香の胸元で心の底から泣いた。

 そして、ひとしきり泣いた後に先日の藤倉とのやり取りを一言一句悠香に伝えた。

 

「そっか……。もう大丈夫よ。あたしに少し考えがあるの」

 

「考え……?」

 

 自信満々と答える悠香に?する青葉。

 そんな青葉を見た悠香はある物を大急ぎで作れないかとお願いする。

 青葉は二つ返事でそのお願いを聞き届けた。

 

「よーし!! 藤倉(アイツ)をギャフンと言わせるわよ~!!」

 

 声高らかに宣言する悠香。

 逆襲の日は近い。

 

 

 

 

 月曜日の放課後。遂に訪れた約束の日。

 学校の裏にある小さな公園では、無精ひげともじゃもじゃヘアーが特徴の男、藤倉が年甲斐もなくブランコを濃いで遊んでいた。

 

「おっせぇなぁ……まさか、来ないってわけじゃないよなぁ?」

 

 もしこのまま来ないのならその時はすぐにでも奴らの将来を終わらせてやる。

 そう考える藤倉。

 本来、いくら大きなコネがあろうとも一少年少女の将来を奪う事など出来やしないのだが、藤倉にはその大きなコネ以上の効力を発揮する弱みと言った物を幾つも握りしめているが故にそれが可能なのだ。

 

「いっその事、来ようが来まいが関係なく終わらせるってのもありだな」

 

 他人の人生の命運を自分の手で握り支配しているこの感覚。

 それがたまらなく心地いいからこそ藤倉はこの職業を選び続けているのである。そこには一片たりとも正義や真実だとかのくだらない言葉は存在していない。

 藤倉は絶望に歪む悠香らも表情を思い浮かべながらブランコを漕ぎ、青葉がやってくるのを今か今かと待った。

 

 そして待つこと数十分。

 公園の入り口におどおどと怯えた様子の青葉が現れた。

 

「青葉ちゃ~ん。やっと来てくれたのか、待ちくたびれたよ~」

 

 軽い調子で声をかけた藤倉はブランコから飛び降りると青葉に近づいていく。

 

「一応聞くけど、約束の物、持ってきてくれたよね?」

 

 約束の物……それは以前、悠香たちがテイルバイオレットに直接取材した際の動画データの事だ。

 藤倉の目的はその動画データを手に入れ、そのデータを元にテイルバイオレットの正体を特定及びテイルバイオレットのゴシップ記事を作成して世間一般のテイルバイオレットの人気及び評判を地に落とすことである。

 

「うん……」

 

 不気味なほど優しく声をかけた藤倉に対して青葉は静かにそう答え頷いた。

 瞬間、顔の表情が邪悪な笑みで歪む藤倉。

 

「それは良かった。じゃあ約束通り、そのデータを僕にくれないかな?」

 

 おどけた調子で手を差し出す藤倉。

 それを見て青葉をおずおずと制服のポケットからUSBメモリを取り出す。

 藤倉はそのUSBメモリをふんだくるようにして奪い取った。

 

「やったぞ……!! 遂にやった……!! これでテイルバイオレットの命運も僕の物だ……!!」

 

 テイルバイオレットが自分の記事で破滅していく無様な姿。

 藤倉はそう言った先の未来を思い浮かべては笑いが止まらない。

 

(さてと、後はこの二人の未来を破滅させてから、ゆっくりと動画を拝見させてもらいますかねぇ……)

 

 ひとしきり笑い終えた藤倉はそう心の中で告げると、そそくさにその場を去ろうとする。

 そんな藤倉であったが、公園から出る直前にある考えを思いつき青葉の下へ戻って来た。

 

「折角だし、今ここで君の手でこのデータをダウンロードしてもらおうかな」

 

 悪趣味な男である藤倉はテイルバイオレットを破滅に導く為の最初の引導を青葉に渡させようと戻って来たのだ。

 断ることが出来ない青葉は黙って頷く。

 藤倉は鞄の中から普段から仕事で愛用しているノートパソコンを取り出すとさっき奪い取ったUSBメモリを青葉に渡し、それを挿すように促す。

 青葉は黙ってそのUSBをノートパソコンに挿しこんだ。

 

「ねぇ? どうせなら君、僕の下に来ないかい? あんな小娘の下じゃなくてさ、僕と一緒に色々な有名人を破滅させていくんだ。楽しいよ?」

 

「……」

 

「チっ……これだから最近のガキは可愛げがない」

 

 そうこうしている内にダウンロードが完了。

 USBに収められていた一本の動画データが藤倉の手に渡った。

 藤倉は確認も兼ねて今ダウンロードした動画ファイルを開くべくカーソルを操作する。

 

(これで終わりだテイルバイオレット……!! 俺の手で破滅するがいい!!)

 

 心の中で勝利宣言をした藤倉が動画ファイルを開き、動画を再生する。

 そこにはテイルバイオレットの重要な秘密が収められている……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ざんね~んでした~!! あなたみたいなろくでなしに渡すデータなんてこの世の何処にもありませ~ん!!』

 

 動画に映っているのは変顔で煽る悠香だった。

 何処を見てもテイルバイオレットの姿はない。

 

「な、なんだ……!! なんなんだこれは!!」

 

 思わず画面を破壊してしまうかの如く怒り狂う藤倉。

 そんな藤倉に対して動画の中の悠香は笑いながら告げる。

 

『怒っている所、悪いけど、この動画には青ちゃんお手製のコンピューターウイルスが仕込まれているので数秒も経てばお使いのパソコンはお陀仏で~す!!』

 

「な、何!?」

 

 その瞬間、画面が一瞬暗転したかと思うと仕込まれていたウイルスがパソコン内のデータを破壊し始めた。

 藤倉は動画を即座にストップさせてパソコン内にある他の大事なデータを一つ一つ確認しつつウイルスを対処すべく動く。

 がしかし、パソコンを含めた機械の扱いで青葉の右に出る者などそう簡単には存在しない。

 徐々に徐々にではあるが、藤倉の健闘虚しくウイルスはパソコン内を蹂躙していく。

 

「止まれ!! 止まれ!! クッソ!!」

 

 藤倉のパソコンにはまだ世間に出さずに温めているスキャンダルの証拠となるデータや弱みとして握っている様々な企業の不祥事の証拠が沢山眠っているのだが、それら全てが儚く消えていく。

 他者を信用しない性格である藤倉は公表する時を除いてデータを他のUSBに移すと言った事をしてこなかった。

 それがあだとなった。

 

「お、俺の栄光が……俺の宝が……」

 

 ものの数分でパソコン内に収められていたデータは全て消え去った。

 絶望に暮れる藤倉の手からパソコンが落ち、地面に激突して外見すらも無残な姿へと変貌した。

 

「このガキ……!!」

 

 我に帰った藤倉は自分をはめた青葉を睨みつけると怒りの余り飛び掛かる。

 だがその瞬間、二人の少年が青葉の下へ現れると逆に藤倉を蹴り飛ばす。

 

「おっさん、暴力はよくねーぜ!!」

 

「どの口が言ってんだよ……全く」

 

「正当防衛だしいいんじゃないの?」

 

 現れたのは匠と和輝。遅れてティアナもやって来る。

 三人はいざという時に備えて公園の木の陰に隠れていたのだ。

 思わぬ援軍にたじろぐ藤倉。

 そんな中、さらなる声が聞こえてくる。

 

「もう終わりよ藤倉!! あんたの邪な企みもここまでなんだから!!」

 

 振り返るとそこに立っていたのは悠香だった。

 ここにきて冷静になった藤倉は悟った。

 俺は一杯食わされたのだと。

 

「クッソ……!! ガキどもの分際で……!!」

 

 こうなってしまってはもう勝ち目はない。

 だが、この期に及んで藤倉はまだ諦めていなかった。

 

「お前ら……!! こんなことしてどうなるかわかっているのか!! 特に悠香!! お前の将来は俺が握っているんだぞ!!」

 

 脅しをかける藤倉。

 だが、ここまで来てそんな程度の脅しに屈する悠香たちではない。

 悠香は深呼吸をした後に声高らかに宣言する。

 

「あたしたちの未来はあんたなんかに邪魔させない!! やれるものならやってみなさい!!」

 

「な、何だと……!?」

 

 自分の持つコネや弱みを使えば何時だって悠香たちの将来を妨害できる。

 そう信じていた藤倉だったが、悠香には通用しなかった。

 これには藤倉も動揺を隠せない。

 

「それに言っておくけど、さっきの一部始終は録画させて貰ったから学生に暴力ふるわれただなんて安っい手は通用しないわよ」

 

 もとより学校内では指折りの不良として警察のお世話になってきた和輝と匠からすればそんな事は大した事ではないのだが、それすらもトドメを刺す悠香。

 完敗だ。

 それを悟った藤倉は使い物にならなくなったパソコンを見捨てて一目散に逃げだした。

 

「明日来やがれー!! このクソ野郎ー!!」

 

「それを言うなら一昨日来やがれでしょ」

 

 匠の間違いにツッコむティアナ。

 それをきっかけに悠香たちは心の底から笑ったのだった。

 

 

 

 

 藤倉を撃退した日の帰り道。

 俺はティアナ、匠、悠香さん、青葉さんと共に夕暮れに染まる通学路をバイクを押しながら歩いていた。

 

「なぁ? 悠香さん?」

 

「何? 和くん?」

 

「今年、あんたら結局、どうするんだ? 就職するのかそれとも進学するのか……」

 

 藤倉があのまま黙って引き下がるとは思えなかった俺は悠香さんに今後どうするのかを尋ねた。

 すると悠香さんはハッキリと強い口調で答える。

 

「あたしね、会社を立ち上げようと思うの。ネットでの活動を専門にした情報発信会社をね」

 

「「「会社!?」」」

 

 俺とティアナと匠の三人は驚きの余り声を上げる。

 当たり前だ。高校を卒業したまだ成人にもなれていない俺たちのようなガキにそんな事不可能に近いからだ。

 だが、悠香さんはやる気だった。

 

「何よ、何事もやってみなくちゃわからないのよ」

 

「いやそうだけど……青葉さんはどう思うんだよ」

 

 悠香さんの相方である青葉さんにそう尋ねる。

 すると青葉さんは笑顔で答える。

 

「ぼくは……悠香を信じる。だって……ぼくたちは最高のパートナーだから……」

 

 その言葉を聞いた俺はティアナと一緒に誓う。

 俺たちも負けていられないなってな。




たまには戦闘せずに終わるエピソードがあってもいいと思うんですがどうでしょうか?
次回は原作5巻のような劇場版風のエピソードにするつもりです。
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