俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
「どこだ!! テイルバイオレット!! でてこい!!」
現場には、鳥の羽をした黒い犬のエレメリアンが怒り狂った様子で俺のことを探しているようだった。
出現場所はビル群の中、一際目立つ多目的アリーナの真ん前だ。午後に何かのイベントがあるらしく、アリーナの前は行列をつくっていたであろう人達で溢れかえっていた。皆、突如出現したエレメリアンに恐怖し現場はパニック状態だ。
「あいつ、俺のこと探していやがるのか……!?」
「あの荒れよう只事じゃないことは確かね……」
幸い奴はまだ人々に直接被害を与えるようなことは行ってはいないがあの様子では長くはもたないだろう。奴が痺れを切らして属性力奪取のために暴れ出したら不味い。
「俺の名はマルコシアスギルディ!! テイルバイオレット!! 出てきて俺と正々堂々戦え!! 出てこぬのならここにいる者どもの属性力を奪いつくすぞ!!」」
あの野郎……!! 好き勝手言いやがって……!! 何が正々堂々だ……ここにいる人たちみんな人質みたいなものじゃねぇか!!
「クッソ……どこかないのかよ!? 変身できるような場所は!?」
俺たちは逃げ惑う人々を押しのけながら人目につかずに変身できるような場所を探していた。
緊急事態とはいえ人目のつくような場所で変身すれば正体がバレてしまう。何度も言ったがそれだけは絶対に避けなくてはならない。
「和輝!! あそこ!!」
ティアナが指さしたアリーナ近くの建物の陰に入る。そしてこの場に逃げ込んできた人がいないかどうかを確認する。ありがたいことに俺たち以外誰もおらず絶好の変身スポットのようだ。
「いないようだな……よし! いくぜ!! ティアナ!!」
「わかってるわよ!!」
ティアナのテイルブレスから光が放出された。光は俺の腰に集まり形をつくっていく。
前回と同じように俺たちは心を合わせ、集中する。
「テイルオ――」
「お前ら!? 何してんだ!?」
急いで俺たちの後を追ってきたであろう匠が苦しそうな息を吐きながらやってきた。
◇
突然現れた匠に驚きながら慌てて変身を中止する。
「匠、お前!?」
匠は息を整えるといつも通りの軽い雰囲気で喋りだした。
「びっくりしたぜ。急に二人で走り出したお前らを追ってみたら何だ!? 昨日でたのと同じ奴が怪物がいるじゃねぇか!……それでお前らはこんなとこで何してんだ?」
確かに急に走りだしてるのはおかしいし、気になって追ってくるのはわかる。
しかし、俺たちは急いでいるんだよ……!! 今回のエレメリアンは明らかに昨日の奴と比べて狂暴だ。早く行かなきゃ手遅れになるかもしれない。
「あ~もう!! 俺とティアナは大丈夫だ!! だからお前はさっさと逃げろ!!」
焦っている為いつも以上に口が回らない。すると匠は何かがわかったように自信満々に声を上げた。
「そうか……!! わかったぞ、お前!! さては昨日でたツインテールの美少女をこの目で見ようって算段だな。昔から好きだもんな~ツインテール」
頓珍漢なことを早口でまくしたてられた。本人は自信満々だが的を外しているなんてレベルではない。焦ってることも手伝ってドンドンとイライラが溜まっていく。
「そうならそうと言ってくれよな~確かにここなら安全に応援できそうだしな~俺も付き合わせてもらうぜ? 別にいいだろ?」
今まさに多くの罪もない人達がエレメリアンの被害を受けるかもしれないって状況だっていうのに……こいつは……!!
「あなたね……!!」
今まで黙っていたティアナも眉間にしわを寄せ怒りを露わにする。ティアナは記憶を失ってから唯一残されたエレメリアンから属性力を守るという使命で動いているんだ。馬鹿にしたともとれる匠の発言に我慢できなかったのだろう。
「こないようだなテイルバイオレット!!」
抑えきれなくなったマルコシアスギルディの声が聞こえてきた。
俺たち全員は様子を陰から伺った。するとマルコシアスギルディは逃げ遅れたツインテールの少女を捕まえて見せしめのように空に向かって見せつけているようだった。
「おいおい、何するつもりなんだよ……」
これには流石の匠もさっきのようなふざけた様子ではなくなっていた。
「まだ来ないか……ならまず1人目だ!!」
そう言うと捕まえた少女の体に金属の輪が放つ。
昨日と同じだった。金属の輪を通り抜けた少女の髪はほどけツインテールは儚く消えていった。そして属性力を奪われた少女は気を失った。
直接見るのは二度目だがやはり気分のいいものではない。
「なんだ~ツインテールをほどくだけかよ~ビックリしたぜ。てっきりあの子を殺すもんかと……」
匠はなにも知らない一般人だからこんな風に言えるんだ。頭では理解できても怒りが沸々とわいてくる。
「あの怪物が言うにはテイルバイオレットって名前なんだよな? 全然来ないじゃん」
その言葉を聞き俺の我慢は限界に達した。
俺は黙ってテイルドライバーを構え直す。
「和輝!! あなた、変身する気!?」
そんな俺をティアナは制止しようとする。
「俺はもう我慢できねぇ!! いつまでもこんなとこでジッとしてたら犠牲者が増えるだけだ!! ティアナ!! 行くぞ!!」
もうこれ以上、匠がいるからといって変身しないなんて俺にはできない。俺の必死の想いが伝わったのかティアナは静かに頷いてくれた。
「何、言ってんだよ……!? てかそのベルトは――」
「テイルオン!!」
困惑する匠の目の前で俺は青紫の光に包み込まれ、噂の彼女であるテイルバイオレットへの変身が完了する。
「お前……!?」
状況を呑み込めていない様子の匠を無視し、俺はエレメリアン向かって飛び出した。
◇
「待たせたな!! この野郎!!」
マルコシアスギルディの目の前に着陸する。
マルコシアスギルディはようやく現れたかと言いたげの雰囲気のまま戦闘態勢に入った。
こちらも遅れてはいない、ウインドセイバーを構え奴との間合いをはかる。
「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」
逃げ惑っていた人たちが俺の姿を見て歓声を上げる。噂のスーパーヒロインが平和を脅かす怪物の前に現れたんだ。その安心感ったらそれはそれはもの凄いだろう。
逃げ惑っていた人たちは皆、逃げるのを止めて俺の姿を見ていた。中にはケータイやスマホで写真をとる者もいる。先程までの絶望的だった空気がまるで嘘のようだった。
「あれが噂の……!!」
「可愛い~!!」
「頑張って~!!」
声援ともとれる言葉が集中している俺の耳に入って来る。
その言葉を聞いて俺は複雑な気分だった。安心してくれるのはいい。だが流石に気が緩み過ぎではないか? 一応、俺が戦っている相手は人類に仇なす怪物なんだぞ…………
『和輝!! 集中しなさい!!』
おっといけねぇ……危うく集中をきらすところだったぜ。
周囲の声をシャットアウトし再び、目の前の相手に集中し直した。
「では俺からだッ!!」
マルコシアスギルディの鋭い爪が俺の体を抉ろうと振り下ろされる。しかし、そう易々と攻撃を貰う俺ではない。咄嗟にウインドセイバーを斜めに構えて攻撃を受け止める。
「ほう?」
「……クッ!!」
刃と爪が激突し激しい火花を散らす。
互いの力は完全に互角だった。
「脇がお留守だぞ!! テイルバイオレット!!」
ハッとするがもう遅かった。マルコシアスギルディの左の爪ががら空きだった俺の右側面を抉り勢いよく吹き飛ばす。
『大丈――』
『どうなってんだよ!? これ!?』
ティアナの心配する声と、何が起きたかが理解できず困惑している匠の声が聞こえてきた。
匠はティアナに向かって話しているんだろうけど声が大きすぎて俺の耳にも入って来る。その声の大きさはティアナの声をかき消してしまうほどだ。
「うっせぇなぁ全く」
再び、立ち上がりウインドセイバーを構え直す。
まだ勝負は始まったばかりだ。負けるものか……!!
「なあにまだまだ俺はピンピンしてるぜ」
余裕綽々といった感じで返事しておくものの状況は…………少し不味い。
実力は奴の方が一枚上手だろう。
「この程度で俺が負けるだと……バアルギルディめ馬鹿にしやがって」
あの野郎なめやがって……!!
完全に舐められている。奴は勝利したも同然の表情だ。
どうする……
「いや、まてよ……」
奴は今、勝利を確信している。それならなだ勝機はある……!!
「これしかない!!」
ウインドセイバーを奴の上半身に向けて我武者羅に振るう。
その太刀筋は荒く、とてもじゃないが美しいとは言えない。
マルコシアスギルディは鼻をフンと鳴らし余裕綽々といった感じでウインドセイバーを躱していく。
「やはりこんなものか!! いくらアルティメギルを滅ぼしたツインテイルズと似た装備をしていようが所詮、人間!! この俺に敵う筈など!!」
マルコシアスギルディはウインドセイバーの刀身を手で受け止め握りしめた。
勝ち誇る奴の顔が視界に入った……今、奴はは油断している。
そう今がチャンスだ!!
「かかったな!!」
我武者羅に振るっているように見せかけてチャンスを伺っていたんだが、よくこの策が通ったものだ。奴が慢心していなければバレていただろう。
そして今現在マルコシアスギルディの注意はウインドセイバーに向けている。つまり足元が完全にお留守だ。
ウインドセイバーを手放すと俺は素早く体勢を低くし足元にむけてローキックを放った。
「なんだと!?」
予想だにしていない一撃。マルコシアスギルディの意表を突くにはもってこいの攻撃だった。
マルコシアスギルディは体勢を崩して握りしめていたウインドセイバーを手放した。その隙を見逃す訳がない。俺は空中に飛び上がりウインドセイバーを握り直して素早く構える。そのまま落下の勢いに任せながらマルコシアスギルディを切り裂いた。
「馬鹿なぁ……!」
「まだまだぁ!!」
手痛い一撃を貰いよろめくマルコシアスギルディ目掛けて追撃を行う。ウインドセイバーが描く紫の斬撃が次々と奴の体を傷つけていく。
「こいつでッ!!」
ダメ押しの中段蹴りが炸裂し大きく吹き飛ばす。
勝負の結果は誰が見ても明らかだ。マルコシアスギルディの敗因は自分自身の慢心と俺に対する油断。
紫の風がウインドセイバーに集まり眩い光を放つ。
光輝くウインドセイバーを構え、縦に振るう。
振るわれたウインドセイバーから紫の斬撃波が飛び、マルコシアスギルディを襲った。
「バカなぁぁぁぁ!!」
必殺の斬撃波〈ストームブレイク〉が炸裂しマルコシアスギルディを切り裂く
筈だった。
◇
「だから言っただろ。今の君では勝てないと……」
「てめぇは……バアルギルディ……!!」
苦虫を嚙み潰したような顔でバアルギルディを睨む。
バアルギルディは昨日の戦いで逃がした因縁の相手だ。
「名前を覚えていてくれるとは光栄だな、流石は――」
「何故、俺を助けた!! 答えろ!!」
マルコシアスギルディが抗議の声を上げる。
様子をみるに二人の仲は良くないとみえる。
「私としては君のことを助けようと思ったわけじゃないさ。あくまで私は、優秀な戦士の命を救ったほうが今後のためになると思っただけだ」
バアルギルディは淡々と訳を語る。
なんだろうか……今の台詞はちょっとツンデレっぽいなと思う。本人にその気はないんだろうけど……
「今回は君の負けだ。撤退するぞ」
やはりというかまた逃げるつもりか……だが……二度も逃がしてなるものか!!
奴の顔面に拳を叩きつけるべく俺は飛び出した。
「すまない、今日は戦う気分ではないんだ」
バアルギルディの手から放たれる光弾が俺を襲う。
昨日食らった物と比べれば威力は低い。しかし、マルコシアスギルディと一戦交えた今の状態では受けきるので精一杯だった。
「さ、早く奪った属性力を解放したまえ」
「いや、それは出来ん」
敗者の証として奪った属性力の解放を迫るバアルギルディの命令をマルコシアスギルディは真っ向から拒否した。
「この野郎……まさか……!!」
戦いに負けても奪った属性力を解放せずに逃走を選択する。悪の怪物としては当然と言えば、当然の行為だ。昨日の出来事もあり、エレメリアンというのは武人肌が多いと思ってはいたが……コイツは…………
「テイルバイオレット!! 明日、決着をつけよう!! これは言わば人質いや属性質だ!!」
属性質だと!? この野郎、俺が勝負に怖気づいて逃げるとでも思っていやがるのか!? そんなことする訳がない。属性質なんて馬鹿なこと絶対にさせねぇ!!
「俺は逃げない!! だから――」
「いや、この属性力は明日、俺に勝つことができたらだ!!」
マルコシアスギルディは意地でも自分の意見を曲げる気はないようだった。バアルギルディはやれやれとした雰囲気で俺に向かって手をかざす。
「逃がすか!!」
しかし、現実は非情であった。二体のエレメリアンを爆風が覆い、見えなくなる。爆風が晴れた時には奴ら二体の姿はどこにもなかった。
「怪物を追い払ってくれたぞ!!」
「「「やったわ!!」」」
「「「ありがとう!! テイルバイオレット!!」」」
戦闘を見ていた多くの人々が歓声をあげる。彼らからしたら俺、テイルバイオレットは怪物の侵略を見事に退けたのだ。本当の結果がどうなっているのか知らずに…………
『和輝――』
人々の歓声とティアナからの声、その両方とも俺の耳には入ってくることはなかった。俺は意識した訳でもなくただ真っすぐ今回、属性力を奪われた少女の下に急ぐ。
少女は未だ気を失っていた。落ちていたリボンを拾い、ツインテールを結んであげようと髪を掬う。その瞬間、俺の体に異変が起きて体がピクリとも動かなくなる。
「これが属性力を失うということ……なのかよ」
属性力を失い、ツインテールを結ぶことが出来なくなる。その現実を目の当たりにして言葉を失う。
言葉では聞いていたが、まさか……ここまで……
◇
あの後、多くの人々に囲まれて随分ともみくちゃにされた。戦闘の後の疲労よりも、属性力を取り返すことができなかった事実が重くのしかかったことで脱出するのに苦労した。
「ティアナちゃんから聞いたぜ、あんな怪物を追っ払っちまうなんてな!! お前すげえよ!」
ティアナと匠の下に戻り、変身を解除した俺への第一声はそれだった。
永遠と続く質問攻めにティアナは折れたのだろう。変身した直後の驚いていた匠の姿は何処にもいない。
「お前ほどのツインテール馬鹿になると美少女に変身出来ちまうなんて、少し羨ましいぜ」
匠はいつも通り明るく話しかけてくるが、その明るさが今の俺に突き刺さる。ティアナの方は俺の空気を察したのか喋りかけてこない。
「俺も美少女になりてぇな~テイルバイオレットな~んて格好いいじゃねぇかよ」
楽天的な匠の言葉に怒りすら覚えてくる。ここまで空気の読めない奴とは思っていなかった。
「……和輝……今日のことは私のせいよ、私が正体がバレることに怯えすぎたから……」
ティアナが申し訳なさそうに言ってくれるが、今回は俺の責任だ。昨日、バアルギルディを仕留めていれば……匠の前で変身することを早く決心していれば……後悔は尽きない。
「なーに辛気臭い顔してんだよ、明日倒せばいいんだろ? お前なら簡単だって、な?」
尚も続く明るく喋りかける匠の言葉に我慢ができなかった。匠はいつも通り明るい空気を作ろうとしていたのだろう。しかし、それは逆効果だった。
拳を力強く握りしめ、匠の顔を目掛けて繰り出すと鈍い音が辺りに響いた。
「なんだよ……一体!?」
「お前のせいだろうが!! お前が邪魔しなけりゃ……あの子は……」
匠に非はない。そんなことはわかっている。だけど…………
「和輝!!」
ティアナに取り押さえられた。ティアナは華奢な体格の割に力は強い。興奮状態の俺は身動き一つとれなかった。
「なんだよ!! たかがツインテール一つでキレちゃってさ!! ツインテール馬鹿の考えることはやっぱし違うな!!」
「なんだと!! てめぇ!!」
「和輝、やめなさい!!」
ティアナに取り押さえ殴ることができなかった俺は遂にあの言葉を言ってしまう。
「てめぇなんて……親友でもなんでもねぇ!! 二度と目の前に……現れんじゃねぇ!!」
言ってしまった。十年近くつるんでいた幼馴染に対する絶交宣言。言った後に後悔するがもう遅い。
「そうですか!! ならお前は精々、彼女に慰めてもらいな!!」
興奮状態の匠は頬を抑えながらその場を去っていった。
残された俺たちは一言も喋ることはなかった。
原作と打って変わって暗い展開が多い気がします。これからもこういう展開は多いかもしれませんがそれでも読んで頂けると嬉しいです。
キャラクター紹介3
テイルバイオレット
身長:160cm
体重:48g
B80・W56・H80
武器:風の刀ウインドセイバー
必殺技:ストームスライサー、ストームブレイク、他
涼原和輝がテイルドライバーで変身した姿。
風を操る。
本来ならテイルギアを使用することほどのツインテール属性を持っていない和輝が変身しているため、テイルレッドなどと比べてテイルバイオレット本来の戦闘力は大きく劣っているが、ティアナのツインテール属性を貰うことで格上のエレメリアンたちと渡り合うことができる。