俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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今回からまた日常回です。


第90話 ツインテール体育祭

 これは和輝たちが別世界にてサタンギルディ及びメフィストギルディと激戦を繰り広げていた時の事。

 

 ここは次元と次元の狭間、人間では観測することなど出来ぬ神秘の空間に存在するアルティデビルの秘密基地のいつもの大ホール。

 時間で言えば直近に出撃した爪属性(ネイル)のウァレフォルギルディが撃破されたとの報告を受けた時だった。

 

「何? またしてもやられたと言うのか……!!」

 

「は、はい……」

 

 委縮するアガレスギルディ。

 相手は当然、現アルティデビルのリーダーであるベリアルギルディだ。

 プライドの高いベリアルギルディは毎度毎度の敗北に随分とご立腹のようであり、その苛立ちはこの大ホールに集まっている他のエレメリアンたちにもしっかりと伝わってきている。

 ピリピリした空間の中ではいつもの馬鹿騒ぎもし辛いものであるが故にこの日は一段と静かであった。

 

「全く、何をやっているんだ貴様ら!!」

 

 大ホールにてベリアルギルディの怒鳴り声が響き渡る。

 それを聞いてビクつく一部のエレメリアンたち。

 彼らは皆思った。

 バアルギルディがリーダーの座についていた時はこうでなかったと。

 

「貴様らはこのままでいいのか!! このままバアルギルディの敵を討てぬままでいいのか!!」

 

 そう言われてしまえば一部のプライドの高いエレメリアンたちはムッと怒りを露わにするが、彼らもまた、怯えてビクつくエレメリアン同様に何も答えない。

 言っておくが彼らのようなプライドの高いエレメリアンは皆が俺ならば私ならば自分ならばと、この状況を打開できると信じている。だが、だからといってこのままベリアルギルディのいう通りに動くというのも何処か癪だと感じる者も多いのが現状だった。

 ベリアルギルディに足りない物、それは圧倒的なカリスマ性だ。

 

「この腰抜け共が!!」

 

 それに気づかぬベリアルギルディは黙り切った空間により一層怒りを表した。

 だが、彼らは何も答えない。

 

(クソ……このままではいつまで経ってもオレの目的である復讐の計画が……)

 

 ベリアルギルディの真の目的、それは無属性(ゼロ)と呼ばれし禁じられた属性玉(エレメーラオーブ)を用いて愛しきマイエンジェルとやらを倒した者たちへ復讐を遂げる事であり、そのためには究極のツインテールに匹敵する強力なツインテール属性の持ち主を手に入れなければならないのだ。

 だが、このままではその目的は果たせそうにない。

 心の中で焦るベリアルギルディの耳に更なる追い打ちが来る。

 

「その……もう一つご報告がありますのじゃが……」

 

「なんだ!! 言ってみろアガレスギルディ!!」

 

「その……つい先ほど、この世界から我々の目的としている究極のツインテールに匹敵するツインテール属性の持ち主の反応が消失しましたのじゃ」

 

「何だと……!?」

 

 究極のツインテールに匹敵するツインテール属性の持ち主、それに該当しうる人物である和輝とティアナと華の三人は実はこの時、リーンの助けを聞いて一時的に異世界へと旅立っていたのだが、それを知らぬベリアルギルディは突然の消失の驚きを隠せない。

 

(クソ……!! このままでは何の為にこの世界にいるのかわからないじゃあないか……!!)

 

 苦虫を嚙み潰したような表情を見せるベリアルギルディ。

 そして数分の沈黙の果て、ベリアルギルディはある重大な決断をする。

 

「早急にこの世界から撤退する」

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 それは沈黙で包まれていた大ホール内にどよめきを起こすには十分すぎた。

 

「何だと!? それは真か!?」

「このまま何も出来ずに撤退だと!?」

「馬鹿な!! 有り得ん!! そんな生き恥を晒すと言うのか!?」

 

 騒ぎ出すエレメリアンたち。

 それはさっきまでベリアルギルディに怯えていたエレメリアンたちも同様の反応だ。

 彼らは皆、このまま何も出来ずに撤退することが我慢ならない。

 

「ベリアルギルディ!! 貴様正気か!?」

「撤退するのならば貴様だけにしろ!!」

「そうだそうだ!! 俺たちは残ってでもこの世界を侵略してみせるぞ」

 

 彼らは皆、口々に文句を口にするが、ベリアルギルディは何一つ気にしてなどいない。

 ベリアルギルディからすれば何の用もないこの世界で長居する方が問題なのだ。

 

「五月蠅いぞ貴様ら!! オレ様が撤退と言ったら撤退なのだ!! わかったか!!」

 

 誰よりもプライドが高く、オレ様さえいれば何も問題ないとすらも思っているベリアルギルディだが、彼とて他に利用できる者がいないのでは何も出来ないとわかっている。

 だからこそ皆を撤退させようとするのだが、誰一人としていう事を聞かない。

 苛立つベリアルギルディは遂に実力行使に打って出ようとする。

 まさに一色即発。和輝たちの知らぬ間に勝手にアルティデビル崩壊の危機に瀕するという最悪の状況。

 そんな状況に待ったを掛けるエレメリアンが一人いた。

 

「待ってくださいベリアルギルディ様」

 

 おとぎ話に出てくる伯爵のような出で立ちをした蝙蝠のエレメリアン。

 名をフォラスギルディ。

 うやうやしくお辞儀をしてみせる彼が突如として仲裁に入った。

 

「何だ貴様、貴様もオレに指図するのか?」

 

「いえいえ、滅相もございません。私は撤退に賛成でございます」

 

「ほう」

 

 それを聞いた他のエレメリアンたちが文句を飛ばそうとする。

 しかし、フォラスギルディはそれを制止する。

 そして彼はベリアルギルディにこう進言する。

 

「ですが、ベリアルギルディ様、私めはこの世界にまだ侵略価値が残っているとそう思っております。なので撤退する前に私めにどうか出撃させてはくれませぬか? 撤退するかどうか決めるのは私めの成果を見てからにしていただきたいのです」

 

「何だと? オレに待てというのか?」

 

「はい、リミットとしてはこれから約2週間。それが終わり次第、この世界から撤退する。いかがでしょう?」

 

 そんなに待っていられるかと声を荒げそうになるベリアルギルディだったが、その瞬間ふと我に帰る。

 このまま意固地になっていては何も解決しない。

 このあたりの要求で妥協すべきなのではないかと。

 

「チッ……!! いいだろう。だが2週間だ。それ以上は待っていられん。皆もそれでいいか!!」

 

 不満気ではあるが頷く一同。

 それを見たフォラスギルディはニタリと笑うと大ホールを後にしたのだった。

 

 

 

 

 まだまだ暑い青空の下、パァン!! と気持ちのいいスターターピストルの音が鳴り響き、多くの生徒たちがゴールを表す白いテープ目掛けて気持ちのいい汗を振りまきながら疾走する。

 今日は10月1日、双神高等学校の体育祭。

 双神高等学校の全学科それぞれのクラスがクラスごとにチームとなり、学年の垣根を超えた全チームと競技ごとの点数を取り合うという至ってオーソドックスな形式であり、全員参加且つ得点に影響しない徒競走を除けば皆が自分のクラスの為に作戦を立てたりしながら頑張るというもの。

 基本的に競技への参加権は一人につき何度でも存在している為、運動が得意な奴は引っ張りだこにされる故に今日という日ほど、運動部所属生徒が重宝される日はないと言える。

 そして現在、この日最初の競技で前哨戦となる徒競走が行われている。

 さっきも言ったがこの競技は全員参加且つ得点に影響しない数少ない競技。

 言ってしまえばこれはある意味平和な競技だ。

 だが、ここで最もいい記録を出した者は最後に勝利チームとは別に表彰される最優秀特別賞にグッと近づく事が出来る為、誰一人として手を抜く事はない。ここで勝てばある意味一人勝ちだ。

 尤も――

 

「涼原!! 川本!! どこいったーー!!!」

 

 俺と匠はいつも通り、サボっているのだがな。

 

 

 

 

「堀井の奴、相変わらず元気だね~」

 

「だな。ま、でも頭の方は回らねぇみてぇだがな」

 

 今日ばかりは出入り禁止となっているいつもの屋上にてくつろぐ俺たち。

 グラウンドでは次の番に走る筈の俺と匠を探して堀井が駆け回っている。

 俺たちが禁止となっている屋上にいるとは知らずに客席までくまなく探しては見つけられずにいる堀井の姿は何というか滑稽としか言いようがない。

 人はアレを馬鹿正直というんだぜ。

 

『え~っと、次に走る筈でした涼原和輝君と川本匠君ですが、疾走ならぬ失踪してしまったとの事です』

 

 放送席からのアナウンスが駄洒落混じりに聞こえてくる。

 グラウンドで悔しがる堀井をよそに俺たちはそれを聞いて逃げ切ったぜとばかりに腕を組み合う。

 これで後はどれだけサボろうが何も言われないって訳だ。安心してサボりに集中できるぜ。

 俺は購買部で購入したポテチを開け、匠と一緒にそれをつまみながらグラウンドの様子を見下ろす。

 するとトラックに向かうティアナの姿があった。

 

「おい、次は嫁さんの登場じゃん。応援してやれよー」

 

「馬鹿ッ、まだ嫁じゃねぇよ!!」

 

「ぐふッ!!」

 

 いじる匠に拳骨を一発。

 尤も、まだと言っているあたり俺もまんざらでもないっちゃないんだがな。

 ま、そんな事はさておき、トラックに並ぶティアナのあの姿、お決まりの白い体操服に黒いハーフパンツ、俺たちクラスのカラーである紫色の鉢巻き、それはそれは遠くからでもわかるほどに可愛いものだぜ。

 何つってもティアナのシンボルであるツインテールが素晴らしいのなんの。総二さん程じゃねぇが、ティアナのツインテールが喜んでいるのは俺でもハッキリとわかる。

 運動が得意なティアナからすれば今日という日は最高の日なのだろうな。

 

『何と言っても次に注目すべきは二年生の橘ティアナさん。彼女は突如転校してくるや否や学業において本学校で成績一位を叩きだし、それでありながら容姿も端麗でなんとアンケートによると本学校№1美少女の座を射止めたとの事。しかもしかもスポーツの方もかなりの物と聞いています!! 果たして三冠達成なるのでしょうか!!』

 

 放送席からの陽気なアナウンスが聞こえてくる。

 余程、注目の選手扱いなのかティアナに対する声は普段より勢いがいい。

 まぁ実際、ティアナは学業もスポーツも両方万能なスーパー転校生なので仕方ないっちゃ仕方ない。

 にしてもティアナが№1美少女か……

 いつの間にそんなアンケートがあったんだって言うのは置いておいて、俺としては嬉しい反面、付き合っている以上少し恥ずかしい。

 

『あと、皆さんご存知でしょうけど、彼女はなんとあの校内随一の不良生徒、涼原和輝君とお付き合いをしているとの事です!!』

 

「ぐああああああああっ!!」

 

 公開処刑とはまさにこの事か。

 学生のみならばいざ知らず、まさか多くの親が見に来ている中でこんな辱めを受けるなんて思ってもみなかった俺は口から凄まじい量の吐瀉物を吐き散らす。

 何つーか生徒用の観客席に居なくて良かったぜ。

 もしいたら今以上に恥ずかしくて暴走しちまう所だった。

 そんな俺とは違い、ティアナの方は顔こそ真っ赤にしていたが難なく一位をもぎ取っていった。

 

「ぎゃははははは!! 最高だぜ和輝!!」

 

「匠この野郎!! 笑ってんじゃねぇ!!」

 

「ぎゃんッ!!」

 

 ムカついたので匠を殴り飛ばす。

 おおよそ人が出してはいけない音を立てながら匠は床に激突。

 俺はそれを見て少しスカッとするが、何分先程の衝撃が凄まじすぎてダメージが凄い。

 その後、そんな俺らとは関係なく徒競走は無事終了し、競技の方はチーム戦メインの方へと進行していく。

 綱引きなどを始めとした定番中の定番の競技たちが何一つとしてこれといったハプニングもなく進んでいく。

 だけどそんな中、俺たちはある事に気が付いた。

 

「なぁ、またティアナ出場してないか?」

 

「うん、俺も思った」

 

 徒競走から今に至る全競技、見間違いでなければティアナの奴、全部に出場してやがる。

 いやま、確かに参加権は一人につき何度でも使用する事が出来るんだが、だからといっても全部に出場する奴が何処にいるんだよ。いくら何でもスタミナが続きゃしないだろ。

 そうツッコミたくなる状況だが、我がクラスのティアナ登板は止まる所を知らない。

 まさかとは思うが、俺のクラスの作戦ってスポーツ万能なティアナを全競技に出してゴリ押しするって奴なんじゃねぇの……?

 最強のスポーツ女子一人に頼った物理的にというか体力的に有り得ないそんな作戦。

 だがその結果、見せられているのはティアナの勝利する姿ばかり。

 作戦は間違いなく成功と言わざる得ない。

 無双するティアナの姿がまた一つグラウンドで彩られる。

 

『圧倒的ッ!! 圧倒的です!! 流石は本校最強のツインテール女子こと橘ティアナさん。未だ負けを知らぬその姿はかの有名なテイルバイオレットの如し!! 強い!! 強すぎるぅぅぅ!!』

 

 当初はまたティアナかと食傷気味になっていた放送席だったが、ティアナの持つツインテール属性だからなせる業なのか、いつの間にかティアナの連勝記録更新に一喜一憂するようになっており、遂には連勝記録を表すプラカードまで作られるようになっている。

 その盛り上がりは観客席にいる保護者たちも一緒だ。

 皆が我が子の応援を忘れてティアナの応援をしている。

 

「すっげぇ……流石だぜ」

 

「おい、みろよ和輝。また勝ったぞ」

 

 現在、種目は騎馬戦。数人の生徒が馬役となり、その上に乗った騎手役が敵の騎手の頭に巻いた鉢巻きを奪い合うという競技。

 我が学校では男女別とか関係なしに容赦なく行われるその仁義なき戦いにおいてもなお、ティアナの強さは圧倒的だった。

 ティアナを騎手とした我がクラスのチームは開戦を表すスターターピストルの音が聞こえたと同時に手当たり次第に突撃、それに応えるかのようにティアナは向かってくる敵をバッタバッタと薙ぎ払っていく。

 遂には敵同士が結託し、4対1という絶望的な状況下に追い込まれてしまったが、ティアナはそれを難なく捌ききった。

 そしてそこからはただの蹂躙。もはや敵なしとばかりに我がクラスは圧倒的な勝利を収めていた。

 何つーか敵が可哀想になるレベルだぜ。

 

「これで何勝目だよ……」

 

 連勝に沸く下の奴らとは違い、うんざりし始める俺と匠。

 これで騎馬戦もティアナの勝ち。

 そう思った直後、待ったをかける者たちが現れた。

 

『おーっとここでサプライズです!! なんとなんと橘ティアナさんの無双を止めるべく先生チームが名乗りを上げました!!』

 

 円で囲まれた戦場の中に突如として先生チームとされる騎馬が登場。

 俺と匠はその騎手役に目を奪われる

 

「「華先生!?」」

 

 運動系の科目を扱う屈強な男性教員たちの馬。

 その上にいたのはまさかまさかの華先生だった。

 こういう事には参加しそうにないまさかの人物の登場に誰もが驚きを隠せない。

 

『なんとなんと!! 乗っているのは数学の山村先生だ!!』

 

 客席では数学の女教師程度じゃティアナの相手にはならないだろうという楽勝ムードが漂い始める。

 だけど俺や匠は知っている。

 華先生はそんじょそこらの人よりも強い。

 なんてったって華先生はあのテイルブルームだ。

 

「華先生……!! まさかこんな形とはいえ華先生と戦える日が来るなんてね」

 

 いつになく真剣な様子でにらみ合う両者。

 さっきまでとはあまりに違う空気に周囲で見ている人々は思わず皆が黙り込む。

 これはもしかしてもしかするぜ……

 

「ずっとずっと華先生とは戦って見たかったんですよ」

 

「そう。なら橘さん、全力でかかっていらっしゃい」

 

「望むところよ!!」

 

 そしてぶつかり合う騎馬たち。

 生徒側は既に一度戦いを終えているというのにその迫力は先生側の引けを取らない。騎手役であるティアナと華先生はそれに応えるかのように騎馬戦とは思えない程のスピーディーな攻防をみせ始める。

 

『凄い!! 凄すぎます!! なんてスピード!! なんてパワー!! 私の目には今、二人の動きが残像となって見えております!!』

 

 アナウンスの通り、二人の動きは残像を見せるレベルに達している。

 互いの鉢巻きを狙うには速すぎる攻防。

 余りにも別次元過ぎて華先生を甘く見ていた観客たちは言葉を失った。

 

「流石に……!! 強い……!!」

 

「橘さんこそ!!」

 

 怒涛の攻めを見せ、反撃の機会を与えさせないようにするティアナチームだが、華先生チーム……というより華先生はいつも通りにエレメリアンを相手どるかのように見事な捌きでティアナの攻めを受け流す。

 その動きはまるで騎馬戦における百戦錬磨の達人の域に達している。流石だ。

 これではティアナに打つ手がない。

 だがしかし、ティアナもまた、カウンター気味に放たれる華先生の手を必要最小限の動きで回避し、何度も何度も苛烈な攻めに転じている。

 

「す、すげぇ……」

「これって騎馬戦だよな?」

「何者なんだ二人とも……」

 

 二人の勝負に釘付けになる観客たち。

 果たしてどっちが勝つのか。

 勝敗を決めうるであろうその瞬間は突然訪れた。

 

「ああ……!! ごめん、ティアナちゃん!!」

 

 なんとティアナ側の馬役をしていた男子生徒が体勢を崩しちまったんだ。

 連戦を終えた上での人外めいた攻防を支えてきたんだ無理はない。

 何とか崩れる事は避けてはいるが、それも最早時間の問題。

 ティアナの敗北は必然となっていた。

 

「くッ……!!」

 

 もはやここまでかと諦めの表情を見せるティアナ。

 観客たちも華先生チームの勝利を信じ始める。

 その時だった。

 

「ティアナーーー!!! 諦めんじゃねぇーーーー!!!」

 

 グラウンドに響き渡る俺の声。

 俺はいつのまにか立ち上がり大声でティアナを応援していた。

 

「和輝……!!」

 

 正直、何故突然こんな事をしたのかは俺でもわからない。気づいた時、体はひとりでに動いていた。

 皆が何処から聞こえたんだとキョロキョロし始めるそんな中、ティアナの目には輝きが取り戻される。

 

「そうね……!! 諦めてなんかいられない!!」

 

 そこからは一瞬だった。

 鉄壁と思われる華先生の防御をティアナの怒涛の攻めが上回り始め、そして一瞬の隙を突く形でティアナは華先生の緑の鉢巻きをもぎ取って見せたんだ。

 勝負が決すると同時に倒れ込む両者の騎馬。

 最初は無事なのかどうかがわからず困惑する観客たちであったが、次第に起き上がり始める生徒及び教師を見た事で割れんばかりの拍手が巻き起こる。

 だがしかし、ティアナは未だ起き上がれていない。

 俺は急いで階段を駆け下り屋上から下に着くと、グラウンドへ駆け込み倒れてるティアナに駆け寄った。

 

「ティアナ!! 大丈夫か!!」

 

「和輝……今までどこ行ってたのよ」

 

「いいだろ別に、それよりも大丈夫か?」

 

「うん、大丈夫。ありがと和輝」

 

「馬鹿、無理し過ぎなんだよ」

 

『おーっとここで白馬の王子ならぬ愛しの涼原和輝君の登場だぁーーー!?』

 

 突然の俺の登場に先程までの拍手は何処へやらとばかりに冷やかし始める生徒たち。

 顔を真っ赤にしたくなるそんな中、俺は疲れて動けない様子であるティアナを抱っこし、早足でグラウンドを後にするのだった。

 

 

 

 

 午後15時半。

 つい先程、最終種目であるリレーが終わり、体育祭は閉会式を迎え、特にこれといったハプニングが起きる事なく無事終了することが出来た。

 俺、ティアナ、匠の三人は教室でのホームルームを終えた後、悠香さんに新聞部に来るようにと言われたこともあり、新聞部を目指して歩いていた。

 

「はぁ……あと、もう少しで優勝できたのに」

 

 隣を歩くティアナが結果に悔しがる。

 それもそのはず、俺たちのクラスは惜しくも準優勝。

 最初はあれほどリードしていたというのに何故こうなったのかというと、チームの要であるティアナが騎馬戦で全力を使い果たしてしまい、それ以降の競技にでれなくなってしまったからだ。さらに言えば最終戦のリレーで最下位を取ってしまった事も大きいかもしれない。

 まぁ何にせよ、ティアナたちのような真面目に体育祭を取り組んでいた連中からすればさぞ悔しいことだろう。

 

「でもいいじゃねぇか。お前はお前で最優秀特別賞貰ったんだからよ」

 

「そりゃあそれは嬉しいけど……やっぱりどうせならチームで優勝したいじゃない」

 

「ふーん、わかんねぇな、なぁ? 匠」

 

 ハナから勝ち負けに拘らずにサボっていた俺たちには理解できない。

 どうしてそこまでして勝ちたいのかねぇ。別に何か貰えるわけでもねぇんだしさ。

 匠は俺の言葉にうんうんと頷いた。

 

「あんたたちねぇ……」

 

 呆れるティアナ。

 多分こればっかりは一生理解し合う事は出来ないだろう。

 そして、そうこうしているうちに俺たちは新聞部に辿り着く。

 ガラガラと扉を開けて中を覗くとそこには、忙しそうにパソコンと睨めっこしている悠香さんと青葉さんの二人の姿があった。

 

「おっ、やっと来た」

 

「うーっす、やっと来ましたよー」

 

 こちらに気づいた様子の悠香さんは椅子から立ち上がるや否や部室中央のソファに腰掛け俺たちを手招きする。

 どうやら何かあるみたいだな。

 俺たちは反対側のソファに腰掛ける。

 

「先ずは、今日の体育祭お疲れ様。準優勝おめでとー」

 

「そいつはどうもです。つっても俺や匠はずっとサボってたから何もしてないんですけどね」

 

「何言ってるのよー。カッコよかったわよーほら」

 

 そう言うや否や悠香さんはカメラで撮った写真を見せつけてくる。

 そこには騎馬戦終了後、動けないでいるティアナをお姫様抱っこで運ぶ俺が写っていた。

 

「げ……いつの間に……!?」

 

 顔を真っ赤にして驚く俺とティアナに対して悠香さんは、体育祭の記事を書くために今日一日中カメラを回していたと告白。

 俺はしまったと頭を抱えた。

 

「先輩、もしかしてこれトップニュースにするつもりすか?」

 

「たっくん正解!! この写真は明後日の一面を甘酸っぱく飾って貰うつもりなの」

 

 な、なんだと……!?

 つまりあの恥ずかしい出来事が記事となりネットという海に放たれると言うのかよ……

 ついやってしまった事とは言え、こればかりは止めて欲しい。

 こんなの生き恥晒すようなもんじゃねぇか。

 

「ストップ、ストップ、悠香さんそれだけはやめてくれ!!」

 

「そ、そうですよ!! こんなのよりもっと他にいい記事がある筈ですよ!!」

 

 何としてもそればかりは止めさせなければと必死の形相で止めにかかる俺とティアナ。

 悠香さんと匠は対照的にゲラゲラ笑っていやがる。

 そしてひとしきり笑い終えた悠香さんは涼しい顔である一枚のチラシを取り出した。

 

「じゃあさ、交換条件と言ったら何だけど、ここの取材にいってきてくれないかしら?」

 

 しゅ、取材? じゃあもしかして今日俺たちを呼んだのはその為なのか?

 俺とティアナと匠はその取り出されたチラシを凝視する。

 そこには「人形の館」と書かれた最近オープンしたばかりの人形専門のおしゃれなショップが紹介されていた。

 

「いやーここね、町はずれでいつのまにかオープンしてたお店なんだけど、なんか変な噂があるのよねー」

 

「変な噂? 何すかそれ?」

 

 不思議がり尋ねる匠。

 悠香さんは頷き語りだす。

 

「何でもね、女性がこのお店に行くと帰り道に神隠しにあっちゃうんだとか。実際にこのお店に行ってきたとされる女性たちの一部が現在、行方不明になっているみたいだし」

 

「神隠し? 行方不明? どういう事だよおい」

 

 突然出てきたそのワード、それに対し妙に引っかかりを覚えた俺は詳しく問いただす。

 すると悠香さんはもしかするとそのお店にエレメリアンが絡んでいるんじゃないかと言い出した。

 

「でね、あたしたちじゃ万が一の事があるし、それに今あたしたち体育祭の記事を書くのに忙しいから和くんたちに調査してきてほしいなと思ったの」

 

「成程な……」

 

 そういうことだったのか。

 それなら確かに俺たちが直接出向いて調査するに限るな。

 でも、これって本当にエレメリアンの仕業なのか?

 奴らの目的は人々から属性力を奪う事であって人を攫う事じゃない筈。もしかしたらこの事件は悠香さんのただの思い過ごしって線もあるじゃねぇか。

 まぇでも、何か事件が起きている以上、俺たちが出向くしかなさそうではある。

 

「どうするティアナ?」

 

「そりゃあ勿論、行ってみるわ。エレメリアンがこんな事するとは思えないけど、だからといって見逃す訳にはいかないものね」

 

「だよな」

 

 頷き合う俺とティアナ。

 交渉は無事成立だ。

 早速、俺たちは明日の日曜日に調査に向かうべく集合時間や持ち物など決めていく。

 そんな中で匠が声をかけてきた。

 

「なぁ、暇だし俺も行っていいか? 明日はバイトも何もねーからよ」

 

 匠も参加かぁ……

 もしもの事があると危険なので一瞬、どうしようかと悩んだが、さっき聞いた噂によると被害者は皆が女性だったということもあり、男である匠なら恐らく大丈夫だろうと結論づける。

 結果、明日の調査は俺、ティアナ、匠の三人で向かう事になったのだった。




体育祭にエレメリアンが……!! ってのも考えたんですけど何かありきたりだし尺が短いなと思いボツに。
その結果、元々別で考えていたエピソードと統合することになりました。
因みに作者である私は運動が苦手中の苦手です。
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