俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第92話 兄としての使命

 太陽が暮れかかる夕方の時刻。

 和輝、ティアナと共に人形の館を調査しに行っていた匠が家の前に帰って来た。

 着くや否や、匠はスマホを取り和輝たちにこちらは何も変な事はなかったと連絡、同じように和輝たちも特に何も起きなかったとの返事が来る。

 

「何もなし……か」

 

 端的に言えば今日の調査は失敗。噂通りならば今日行った誰か(と言っても男は除外なので実質ティアナ一人)の身に神隠しが起きてしまうはずなのだが、全く持ってそんな事が起きなかったとの事だ。

 噂がただの噂であるならそれでいいのだが、今日実際に人形の館を見て回った感想としてはやはり胡散臭くて怪しいという物であったが為に疑惑はまだ完全に晴れていない。

 これは引き続き調査の必要があるんじゃないか。

 そう結論を出した匠たちは、連絡を取り合うのを終了。

 スマホを閉じた匠は家の玄関を見ると大きなため息を吐いた。

 

「美希、許してくれるかな……」

 

 匠は思い出す。

 今日の調査中、偶然ばったり人形の館にて美希と遭遇してしまった。その時、匠は美希に危険が及ぶ可能性があると感じたがために帰らせようとしたのだが、詳しい事情を話せなかったが為に美希を怒らせ口論に発展してしまい、最終的に暴力を振るって怒鳴るという事をしてしまった。

 元から兄として失格レベルの事をしており、それを理解しながらも罪悪感を抱かない匠ではあるが、今日のやってしまった事はそんな匠ですらもやってしまったと後悔するほどに兄失格の行いだ。

 匠は自らを戒めるが様に頬を思いっきり叩く。

 

「痛って~!!」

 

 赤く腫れあがる匠の頬。

 でもだからと言ってスッキリするような事でない。

 加減していたが為に別に何ともなかったとはいえ、美希が喰らった方のダメージは自分にやったそれの何倍、いや何十倍なのだからとわかっているからだ。

 やはりここは言い訳などせずに誠心誠意謝るしかない。

 そう覚悟を決めた匠は今にも崩れそうな階段を上り、アパートの二階に上がると深呼吸をした後に勢いよくドアを開ける。

 

「美希……!! さっきはすまん!! ……ってあれ?」

 

 恐る恐る目を開けてみると、そこには何のことかわからずにポカーンと匠を見つめる匠の両親と双子の弟である陸斗と海斗と後は美希よりさらに下の妹である優希のみ。

 肝心の美希が何処にもいない。

 

「あれ? 美希は?」

 

「「ねーちゃんならまだかえってないよ」」

 

 陸斗と海斗が口をそろえてそう言った。

 おいおいマジかよと頭を抱えそうになる匠。

 その瞬間、匠は美希が今日落としてしまった人形、ミキちゃんが手元にあることを思い出す。

 

「まさか……!!」

 

 嫌な予感を感じ取った匠は何も言わずに家を飛び出し、もと来た道を全速力で駆け出した。

 

 

 

 

 これは和輝たちが人形の館を出て少し経った頃、和輝たちと入れ違いとなる形で美希は人形の館に戻って来た。

 だがしかし、美希が人形の館に辿りついた頃には表に出ている看板は既にCLOSEDと表記された物へと代わっており、今日の営業は終了した事を表していた。

 

「閉まっちゃってるです……」

 

 落胆する美希。

 このままではミキちゃんを無くしたまま家に帰らねばならなくなってしまう。

 そうなってしまえば兄である匠との仲直りに支障が出るんじゃないかと美希は思ってしまっているが故に諦めきる事が出来ない。

 美希は人形の館の前でどうすればいいのか右往左往し始めた。

 

「困ったです……」

 

 お店の人に訳を話せば特別に入れてくれるのではないか?

 いやいや、もう閉店してしまった以上、そんな迷惑をかける事は出来ない。

 あれでもないこれでもないと美希は悩む。

 そんな中、美希は人形の館の入口である扉がひとりでに開いたのを見てしまった。

 

「背に腹は代えられないです」

 

 どんな理由であれ閉店した店内に無断で侵入する事自体が犯罪行為であるというのは、美希も理解しているのだが、開いた扉から発せられる魔力のような力に惹かれてしまう。

 心の中でごめんなさいと謝りを入れた後、美希は恐る恐る店内に入る。

 

「なんか不気味です……」

 

 既に営業時間を終えているが故に店内は暗く、それでいて陳列された人形たちは今にも動き出しそうなおどろおどろしさを放っている。

 昼間に中をチラッと見たときとはまた違う不気味な雰囲気に美希はすっかり怯えてしまっていた。

 

「ミキー、どこですかー?」

 

 呼んで出てくる物じゃないのはわかっているがついつい声にだして呼んでしまう。

 美希は人形だらけの店内で目的の人形であるミキちゃんを探して動き回る。

 しかし、いくら探せど全く持って見つかる気配がない。

 似たような人形はあれどどれもが違う人形だ。

 もしかして、ここにはないのではないかと思い始める美希。

 段々と怖さが増してきた気もするのでここは一旦店をでよう。

 そう思った美希の背後に昼間和輝たちの前に現れたあの男が現れた。

 

「何か探し物ですかな?」

 

「!?」

 

 突如声をかけられたので驚き腰を抜かす美希であったが、その男が昼間に出会ったこの店の店主であるとわかったと同時に勝手に侵入した事を謝らなくてはいけないという焦りが生まれる。

 

「す、すいませんです!! 少し開いていたものでつい……」

 

 美希は急いで頭を下げた。

 店主である男の方はそんな美希を見つめながらも張り付いた笑顔を浮かべる。

 

「落ち着いて落ち着いて、別に怒っていませんよ。それよりもどうしました?」

 

「それが実はですね――」

 

 自分が昼間、人形の修復を依頼しに来た事とその時に持ってきた人形を置き忘れて帰ってしまったんじゃないのかという事を伝える美希。

 店主である男は成程成程とその笑顔のまま頷いた。

 

「成程、そういう事でしたか。でしたら私についてきてください。もしかしたら店の奥に修理した物があるかもしれません」

 

 そう言い店の奥まで案内しようと男は美希に声をかける。

 美希は二つ返事でついていこうとするのだが、その瞬間、何だが寒気のような物を感じ取った。

 この男、何か変であると。

 

「……」

 

「どうしました? あなたの求める物は奥にございますよ?」

 

「い、いや……や、やっぱり遠慮するです」

 

 男の発する得体の知れない恐ろしさを察し、身の危険を感じ取った美希は一刻も早く、この店から出なければと男にその事を悟られぬように店の出口へ駆け足で向かう。

 あともう少し、もう少しでこのおどろおどろしい店内から抜ける事が出来る。

 そう思いながら出入口である扉に手をかけた美希。

 だがしかし、男は美希に追いつくと扉にかけた腕を掴んだ。

 

「……!?」

 

「折角の獲物、逃がすとお思いですか?」

 

 張り付いた笑顔のままそう語る男の恐ろしさと不気味さ。

 ここにきて最初にひとりでに入口の扉が開いたのは全部罠だったと気づいた美希であったがもう遅い、美希の腕は男に掴まれているがために逃げる事がもうできない。

 男はそんな美希を引きずるかのように店の奥へ奥へと引っ張っていく。

 

「放すです!! 一体、何が目的ですか!! 誘拐ですか!! 残念のですけど、私の家は身代金を払える程裕福じゃないです!!」

 

 きゃんきゃんと大きな声を上げながら抵抗する美希であったが、男の力はそのやせ細った体格からは想像もつかない程に強く、抵抗虚しく店の奥まで連れてこられてしまった。

 

「こ、ここは……!?」

 

 店の奥にある部屋、そこに連れてこられた美希が見たのはおびただしい数の球体関節人形が飾られた棚であった。

 どれもこれもが生きているんじゃないかと錯覚する程に精巧な作りであり、男の雰囲気と相まってとても不気味だ。

 

「素晴らしいでしょう? 私の作品は?」

 

「す、素晴らしくなんかないです!! それよりも早く解放するです!!」

 

 なおも抵抗する美希。

 そんな美希を見つめながら男は告げる。

 

「その態度、そのツインテールとその容姿、やはり素晴らしい。我が作品の一つにするに素晴らしいですよ」

 

「我が作品の一つ……? 何を言っているんですか……!?」

 

 もしかしてこの人形って……まさか……

 いやいや、そんな筈はない。そんなバカげた事が出来る筈が無い。

 頭の中ではその言葉がどういう意味なのかわかりながらも美希はその考えを否定すべく聞き返す。

 すると男は棚から一体の人形を取り出すとその人形を美希の耳に近づけた。

 

「タ、タス……ケテ……」

 

「しゃ、喋った!?」

 

 美希の耳に聞こえて来たのは無機質ではあったが確かに人形から発せられている声であった。

 驚きのあまり腰の抜かす美希。

 そんな美希に対し、男はその人形を頬ずりしながら語り始める。

 

「ここにあるのは元々はあなたと同じ人間だった者たちの成れの果て。皆、あなたと同じように罠にかかり、私の下へとやってきてはツインテール属性を残して人形へとなってくれた方たちばかり。そして、あなたはそんな我が作品に加わる選ばれし者の一人だ」

 

 そう言い終えた直後、男の姿がみるみるうちに変化。

 蝙蝠のバケモノへとその姿を変える。

 

「ば、バケモノ……!!」

 

「バケモノだなんて失礼ですね。私の名はフォラスギルディ、球体関節属性(ボールジョイント)人形属性(ドール)を愛するエレメリアン。もっとも私が好きなのは人形を抱いた少女ではなく人形になった少女なのですけどね」

 

 もしかしなくてもこの怪物はテイルバイオレットが倒しているとされるあの怪物の仲間なのではないか。とすると兄さんはその事を知ってて私を追い返したのでは……

 今日起きた事の経緯を全て察した美希。

 だがまずはとりあえず逃げなければと一目散に駆け出し始める。

 しかし、ここまで来て逃がすフォラスギルディではない。

 一瞬の内に美希は壁端へと追い込まれてしまう。

 

「安心してください。あなたのツインテール属性を頂いた後はそれはそれは綺麗な人形へと変えて差し上げますとも」

 

 怪物に襲われた者はツインテールが結べない体になってしまうとテレビで見た事がある美希は、先程この怪物が自慢した人形の中にツインテールがいなかった訳が何となくであるがわかった。

 皆、ツインテール属性とやらを奪われ、ツインテールに出来ない体にされた後に人形にされたんだ。そうに違いない。

 そうわかった美希であるが、だからどうしたのだという話だ。

 フォラスギルディは属性力を奪う銀の輪を出現させると美希へと狙いをすます。

 

「では頂きますね」

 

 死刑宣告にも似たその言葉。

 美希の脳裏に走馬灯のように浮かぶのはだらしない兄の姿。

 このまま兄と仲直り出来ずに私は物言わぬ人形にされてしまうのか。

 そう諦めかけたその時――

 

「待ちやがれエレメリアン!! 俺の妹に手を出すんじゃねー!!」

 

 店の入り口である扉がバンと開き現れたのは美希の兄、匠。

 匠はそのまま、何事だと呆気に取られているフォラスギルディの前に立つ。

 

「に、兄さん……!!」

 

「このバッカ野郎……!! だから言っただろうが……!!」

 

「ご、ごめんなさいです……!!」

 

 いくら精神年齢が大人びているとはいえ、美希もまだ子供。

 絶体絶命の危機に兄が助けに来てくれたとあらばこらえられる筈もない。

 感極まった美希は大粒の涙を流しながら匠に抱きついた。

 

「バカ!! 泣くな!!」

 

「な、泣いてないです……!!」

 

 そうは言ってはいるがどう見ても号泣している美希。

 そんな二人の様子を冷やかな視線で見つめる者がいる事を忘れてはいけない。

 

「ふん、誰かと思えば昼間のお客様ですか」

 

 驚かせやがってとばかりに鼻を鳴らすフォラスギルディ。

 対する匠はその言葉を聞いてフォラスギルディの正体に勘づいた。

 

「へー成程な、やっぱしお前がこの店の店主だったってわけか」

 

「そうですが、何か?」

 

「通りで怪しかった訳だぜ!!」

 

 そう言うや否や、フォラスギルディに向かって飛び掛かる匠。

 妹を狙って以上、タダではすまさねーぞとばかりに拳を振るう。

 がしかし、匠の拳はいとも簡単に受け止められてしまった。

 

「くッ……!!」

 

「ただの人間の如きがこの私に勝てるとでも?」

 

 フォラスギルディはそのまま力一杯匠を投げ飛ばす。 

 投げ飛ばされた匠は人形が陳列された棚に勢いよく激突し、苦悶の声を漏らす。

 

「がぁッ!!」

 

「兄さん!!」

 

 駆け寄る美希。

 対する匠は幸いなことにまだピンピンしており、立ち上がると即座に美希を下がらせ前に立つ。

 だけど、その顔はとてもじゃないがいい物とは言えない。

 

「まだ立ちますか。そのまま寝ていればいいものの」

 

「うるっせー!! 妹がいんのにこんな所でくたばれるかってんだ」

 

 口では強気にそう言ってはいるものの内心どうすればいいのかわからない。

 戦う術を持たないただの人間である俺がエレメリアンと真っ向からやり合って勝つだなんてそんなのハッキリいって無理に等しい。こうなるなら和輝たちに連絡しておくべきだったぜ。

 そうやって後悔するがもう遅い。

 もはや、どうやって美希を逃がすかを考える状況だ。

 しかし、いい案は何も思いつかない。

 

「今ならあなたは見逃してあげましょう。だからそこをどきなさい」

 

「誰がどくかよ。妹には手出しさせないって言ってんだろ」

 

 フォラスギルディの最終勧告を無視する匠。

 そんな匠を見てフォラスギルディはため息を吐く。

 

「全く、妹属性(リトルシスター)ですか……。そんな属性に何の価値があるというんです」

 

 フォラスギルディは属性でしか物事を考えれない。

 故に匠が何故、美希をそこまでして守ろうとしているのかが理解できないし、理解できたとしてもそれは妹属性(リトルシスター)を愛しているからとしか思えない。

 そんなフォラスギルディの何気ない一言は匠を大きく奮い立たせる。

 

「おい、お前……!!」

 

「はい?」

 

「妹を守るのはな……!! 別に好きだからとかじゃねーんだよ。そりゃあ昔は可愛かったよ、でも今じゃ一々うるさいしウザいし面倒だし、親からは兄だからと言って理不尽に怒られるし、時には小遣いは減らされるしでもう散々だ……。でもな……!!」

 

 妹や弟が沢山いて嫌な事なんて数えきれない程ある事を匠は知っている。

 でも……!! 

 それでも……!!

 

「俺はコイツの兄貴なんだ……!! 兄貴なんだから妹や弟を命がけで守るのは当然のことだろうが!!」

 

 好きだからとかじゃ決してなく、ただ妹よりも早く生まれたから。

 それだけの理由ではあるが、命を懸けるのに迷いはない。

 それこそが匠の兄としての誇りであり信念なのだ。

 

「あ、そうですか。なら言っておきますけど、私は男を人形にする趣味は無いので悪しからず」

 

 まるでわからないといった様子のフォラスギルディ。

 だがその顔にはハッキリと怒りを感じられる。

 フォラスギルディはまず匠を抹殺すべく右手に光弾を作り上げじりじりと詰め寄って行く。

 

「成程な、じゃあ行方不明になった奴らはみんなお前によって人形に変えられたって訳かよ」

 

 フォラスギルディの言葉から行方不明者が何処にいるかを掴んだ匠。

 だが、それを知った所で今更何になるとばかりにフォラスギルディは匠を追い詰めるそんな時だった。

 

 

 

 

 

「おらぁぁぁぁッ!!!」

 

 けたたましいバイクの爆音が外から聞こえたと思えば、館の入口である扉が勢いよく突き破られ二人乗りの紫紺のバイクが参上した。

 突然の出来事に目が点になるフォラスギルディ。

 逆に匠はその乱入者を見てニヤリと笑う。

 

「おせーんだよ!! 和輝!!」

 

 

 

 

 面倒なのでバイクでそのまま人形の館に突っ込むという暴挙をかました俺たちは、すぐさまボロボロになっている匠を下がらせ前に立つ。

 匠の様子から察するにどうやら間一髪って所だったらしく、間に合った事にホッとするぜ。

 

「今度は一体、何なんです!!」

 

 聞こえてくるエレメリアンのヒステリックな絶叫。

 声質からしてこのエレメリアンが昼間の店主であると理解する。

 

「和輝さんにティアナさん……!?」

 

 聞き覚えのある幼い声。

 振り向くとそこには匠の背に隠れるようにしている美希ちゃんの姿があった。

 成程、詳しい事情はわからねぇが、どうやら美希ちゃんはこのエレメリアンに狙われていたみたいで、匠はそれを守る為に奮闘していたって訳か。

 

「驚かせやがって……!! ただの人間風情が……!!」

 

「早く逃げてくださいです!! 相手はあの怪物です!!」

 

 怒り心頭といった様子のエレメリアンと俺たちを心配してそう声をかけてくれる美希ちゃん。

 だが、その心配は無用だ。

 俺たちはこいつらエレメリアンを倒す為に来たんだからな。

 

「心配すんな、後は俺たちに任せな」

 

「そうよ、私たちに任せなさい」

 

 その瞬間、ティアナのテイルブレスが光り、テイルドライバーが俺の腰に装着。

 まさかと焦り始めるエレメリアンだがもう遅いぜ。

 俺はテイルドライバー側面のスイッチを押し込みながら叫び変身する。

 

「テイルオン!!」

 

 暗い店内の中、爆裂する青紫の光が眩く照らす。

 メカニカルな装甲を身に纏った青紫のツインテール少女、テイルバイオレットが今その姿を現した。

 

「テイルバイオレット……!!」

 

「和輝さんがテイルバイオレットになったです!?」

 

 エレメリアンと美希ちゃんがその変身に驚愕する。

 本来ならエレメリアンは兎も角、むやみやたらに他人に変身している所は見せちゃ駄目なんだが、状況が状況なのと相手が美希ちゃんだという事もあり、今回は仕方ない。

 まぁそれよりも、今はこのエレメリアンをブッ倒す事が先決だぜ。

 

「ティアナ!! 匠と美希ちゃんは頼んだ!!」

 

「OK!! そっちは任せるわよ」

 

 駆け出した俺は、未だ呆気に取られている様子であるエレメリアン相手に一発、拳を叩きこむ。

 

「ぐぬっ……!!」

 

 不意の一撃によろめくエレメリアン。

 俺はそれに構う事なく怒涛の連続攻撃を敢行。

 顔、胸、腹、鳩尾、容赦のない拳の嵐がエレメリアンを痛めつけていく。

 

「ちぃッ……!!」

 

 エレメリアンの野郎は反撃とばかりに腕を振るう。

 が、そんな苦し紛れの攻撃は俺には届かない。

 余裕で受け止めた俺はガラ空きになったエレメリアンの腹部目掛けて肘を思いっきり突き刺してやる。

 その威力は声にもならない悲鳴を上げるほどだ。

 腹部を押さえてうずくまるエレメリアンに容赦なく追撃の蹴りをお見舞いし、店の外へとふっ飛ばした。

 

 

 

 

 もう日が落ち、暗くなった店外。

 テイルバイオレットとエレメリアンの戦いは、テイルバイオレットの圧倒といった形で進んでおり、全くもって負ける様子がない。

 だけど念のためという事もある。

 匠と美希ちゃんは何かやることがあるらしいので、私は外に出てその戦いを見守っている。

 

「おらぁッ!!」

 

「ぐにゅッ!!」

 

 テイルバイオレット、渾身の右ストレートがエレメリアンの顔面に直撃。

 間抜けな声と共に大きく吹き飛ばされ、街路樹に叩きつけられた。

 

「く……!! や、やるな……!!」

 

「はぁ? てめぇが弱いだけだろ」

 

 そう吐き捨てるテイルバイオレット。

 実際、あのエレメリアン(確か名前は匠曰くフォラスギルディ)は全然強くない。

 その強さを例えるなら異世界で戦った武装戦闘員(アーマードアルティロイド)とどっこいどっこいか寧ろそれ以下。

 異世界で更なる経験を積み、より強くなった和輝にかなう筈が無い。

 だけど、フォラスギルディはまだ勝負を捨てたようには見えない。

 それが酷く不気味だ。

 

「そらよぉッ!!」

 

「ぐぼぁッ!!」

 

 それに気づいているのかいないのか、テイルバイオレットは攻撃の手を緩めない。

 何度目かの攻撃の後、テイルバイオレットはフォースリヴォンに手を当てウインドセイバーを召喚し構えた。

 この流れは勝負を決める流れ。

 完全開放(ブレイクレリーズ)し、必殺のストームブレイクを放なたんとするテイルバイオレット。

 だが、その瞬間、フォラスギルディが待ったをかける。

 

「待ちなさいテイルバイオレット。行方不明になった者がどうなってもいいのですか?」

 

「何だと……!?」

 

 そう言われては止まらざる得ない。

 テイルバイオレットは攻撃を一時中断。

 それを見てフォラスギルディは勝ち誇るかのように笑みを浮かべる。

 

「あなたはまだ言ってませんでしたね。私、球体関節属性(ボールジョイント)人形属性(ドール)を愛しておりましてその……人間を人形に変える能力を持っているのです」

 

「何だと!?」

 

 人間を人形に……ってまさか!!

 行方不明になった人達は皆コイツに人形にされたという事実を知り驚愕する私たち。

 そんな私たちに向かってフォラスギルディは不敵に笑う。

 

「もう何が言いたいかおわかりですね? もし、私をここで倒したら行方不明になった人達がどうなるか……」

 

 狡猾なフォラスギルディは人質がどうなってもいいのかと私たちに脅しをかけてきた。

 これには流石のテイルバイオレットも攻撃を止めしかなく、フォラスギルディの反撃が始まってしまう。

 

「くッ……!!」

 

「フッフッフ、天下のテイルバイオレットもこうなってしまっては大した事ありませんねぇ?」

 

 先程までの痛みを返すかのように痛めつけるフォラスギルディ。

 なんて卑怯なのとは思うけど、人質がいる以上、手出しが出来ないのがもどかしい。

 そしてあらかた痛めつけ終え、テイルギアがボロボロになったのを見て満足したのか、フォラスギルディは倒れたテイルバイオレットに手をかざす。

 

「あなたは特別です。ツインテールを奪わないまま人形に変えて差し上げましょう」

 

 かざした手のひらに邪悪な光が集まっていく。

 あの光がテイルバイオレットに直撃したその時、テイルバイオレット……いや、和輝は店の中で展示されていた球体関節人形たちと同じように物言わぬ姿になってしまう。

 愛しの和輝が人形になるだなんて……それだけは絶対に嫌。

 だけど、人質がいる限りどうすることもできない。

 誰か助けてと祈るしか出来ないそんな時、店の中から大きな袋を持った匠が飛び出してきた。

 

「おい和輝!!」

 

「匠!?」

 

「心配すんな!! 人形になった人達はみんな俺と美希で回収してやったぜ!!」

 

 そう言い、匠と美希ちゃんはその手に持った大きな袋を見せびらかす。

 それはまさしく行方不明になり人形へと変えられた人々が詰められた袋。

 それを見たテイルバイオレットは匠に笑みを返すとフォラスギルディを蹴り飛ばし窮地を脱する。

 これには今まで自信満々であったフォラスギルディも焦らざる得ない。

 

「う、う……!!」

 

「さっきはよくもやってくれたな。今度はこっちの番だぜ……!!」

 

 人質はもういないが故に静かに怒りを燃え上がらせるテイルバイオレット。

 対するフォラスギルディは一目散に逃げだした。

 私はめい一杯のツインテール属性をテイルブレスを通じて送り込む。

 

「「完全開放(ブレイクレリーズ)!!」」

 

 巻き起こる紫の旋風。

 それらは強烈なエネルギーとなり、テイルバイオレットの両足へと収束。

 テイルバイオレットは勢いよく駆け出し暗い夜空へ跳躍し必殺の体勢を取る。

 

「おらぁぁぁぁッ!!!」

 

「ぎゃああああああ!!」

 

 必殺の蹴撃、強化ストームストライクは背を向け逃げるフォラスギルディに見事直撃し、暗い夜の下を明るい爆炎が眩く照らしたのだった。。

 

 

 

 

 事件は無事、収束した。

 人形されていた人々はフォラスギルディが撃破されると同時に光を放ちながら元の人間へと戻った。幸いなのは人形されていた間の記憶が抜け落ちており、何が起きていたのかまるでわかっていないということくらいだろうか。

 行方不明になった人達が皆、去ったのを確認した俺たちは夜空の下、帰路につく。

 

「なぁ? そういや、何で俺や美希が人形の館にいるってわかったんだ?」

 

 帰り際、そう尋ねてくる匠。

 それに対してティアナが口を開く。

 

「なーに簡単な事よ。エレメリアン探知用のレーダーとずっと睨めっこしてたら人形の館からエレメリアンの反応が確認できた。それだけの事よ」

 

 にしてはグットタイミング過ぎないかと驚く匠だが、それは俺も同じ気持ちだぜ。

 匠が人質を解放してくれなきゃ俺やティアナは今頃どうなっていたか……

 俺も匠には感謝してもしきれない。

 

「あ、そうだ。おい美希」

 

「どうしたですか? 兄さん?」

 

「落とし物だ、ほれい」

 

 匠は美希ちゃんに昼間見たあのボロボロの人形を渡す。

 美希ちゃんはそれを恥ずかしそうに受け取り、顔を赤く染める。

 

「もう落とすなよ」

 

「はい……です」

 

 何というかこの兄妹、少し見ないうちに雰囲気が変わった気がする。

 特に美希ちゃんはいつもの匠に対するトゲトゲした態度が感じ取れない。

 

「よし、これにて一件落着だな。明日の体育祭の記事に怯えずに済むぜ」

 

 何気なく言ったその一言。

 美希ちゃんはそれを聞き逃さなかった。

 

「体育祭? そう言えば兄さん、体育祭の結果はどうだったんです? 徒競走、ちゃんと出たんですよね?」

 

「え……それはその……」

 

 匠の挙動不審な態度を見て勘づく美希ちゃん。

 あ、これもしかするともしかするやつだ。

 

「兄さん!! もしかしてまたサボったんですか!!」

 

「ギクッ!! そ、そんな事……」

 

「やっぱりサボったんですね!! どうしてですか!! 年に一度の大切な体育祭ですよ!! 今年こそサボらないって約束したじゃないですか!! 大体、兄さんはいつもいつも――」

 

「やっぱりこうなるのかよー!! 勘弁してくれー!!」

 

 匠の悲痛な声が夜空に響き渡るのであった。




特殊性癖のエレメリアンだっていてもおかしくないんじゃないかと思い、フォラスギルディの属性を設定しました。
球体関節人形……いいですよね。
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