俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
暑かった夏が過ぎてようやく秋の涼しさを感じられるようになり、人間を含めた生きとし生けるものたち全てはいずれ来るであろう冬に備え始めるようになったそんな頃。
アルティデビルの秘密基地にあるいつもの大ホールでは季節外れの熱気に包まれていた。
こうなったのも大ホールのエアコンが故障したとかや、何か強烈なブームが巻き起こっただとかではなく、今日この日、基地にいる全エレメリアンが大ホールに招集されただけの事である。
普段は大ホールに顔を出さずに自室に閉じこもっている奴らも強制的に集められたが為にいつもは程よくスペースの空いた空間がぎちぎちと押し合い詰め込まれているその様はむさ苦しい上に暑苦しいと言わざる得ないのだ。
「なぁ、どうして俺らは呼び出されたんだ?」
とある一体のエレメリアンが隣に座るエレメリアンにそう尋ねるが、首を傾げられるだけであり、何故こうなったのかはピンと来ない。
そんな中、大ホールの入口の扉が開き、外の涼し気な空気と共に現リーダーベリアルギルディがむさ苦しい空気で充満する大ホール内に姿を見せる。
そう、今日彼らを招集したのはベリアルギルディだ。
「ベリアルギルディ……!! おい、まさか……!?」
「まさか……? そんなに慌ててどうしたんだよ」
「馬鹿、知らんのか。十数日前、ベリアルギルディの野郎がこの世界から撤退するとか言いやがったんだぞ」
「真か!?」
時を遡る事、十数日前。和輝たちがリーンのSOSを聞き、異世界へ旅立った際の事。
ベリアルギルディは今滞在するこの世界から目的である究極にも匹敵する強力なツインテール属性の持ち主が消失した事を察知し、侵略価値がなくなったとしてこの世界から撤退すると言い始めたのだ。
その時はフォラスギルディが何とか言いくるめて事無きを得たのだが、あれからもう随分と時間が経った事もあり、遂にその時がやってきたのかもしれない。
ベリアルギルディはアルティデビルのリーダー故に最終的な方針は彼の判断に委ねられてしまうのだ。
「諸君、今日集まって貰ったのは他でもない。重大な発表があるのだよ」
大ホール中央に登壇したベリアルギルディの声が響く。
同時に多くのエレメリアンたちは遂にこの日が来てしまったかと諦めてしまう。
旗揚げして初めての侵略が失敗。
それはプライド高いアルティデビルのエレメリアンたちの心を砕くには十分すぎるのだ。
「我々、アルティデビルは――」
諦めて顔を俯けるエレメリアンたち。
このまま生き恥晒して生きていくのかと覚悟したその時、ベリアルギルディの声が響く。
「引き続き、この世界を侵略することにした!!」
「「「「え!?」」」」
それは思いもよらぬ言葉であり、多くのエレメリアンたちは聞き間違いかと疑ったほどの物であった。
ざわざわとどよめき走る大ホール。
一体、何が起きたのかまるでわからない。
どんな心変わりがあればあの頑固で意地っ張りなベリアルギルディがこうなるのかと思うエレメリアンたち。
そんな光景を見たせいかベリアルギルディは口を開く。
「諸君らの一部は知っているかもしれないが、つい十数日前、我々がいるこの世界から我らが目的とするツインテール属性の持ち主が消失していた。だがしかし!! フォラスギルディが撃破された報告と同時にそのツインテール属性の持ち主の反応が再び蘇ったのだ!!」
それは数日前の事。
フォラスギルディが撃破されたとアガレスギルディから報告を受けたベリアルギルディはならばとばかりに早々とこの世界から撤退するつもりであった。
だがしかし、その時、アガレスギルディがフォラスギルディ撃破と同時に目的のツインテール属性の持ち主の反応が再び現れたと報告をした事で今に至るのだ。
「よってだ!! 我らアルティデビルは引き続きこの世界を侵略対象とみなす!! 異論はあるまいな!! ええ!!」
「「「「オオーーーーッ!!!」」」」
大ホールにいる全エレメリアンが同意する。
今、アルティデビルは嘗てない程に一致団結し盛り上がりを見せている。
「バアルギルディ殿……アルティデビルはまだまだ大丈夫のようですじゃ……」
このまま上手くいけばアルティデビルは安泰だろうと大ホールの隅でそっと見守るアガレスギルディは今は亡きバアルギルディに向かってそう呟いた。
「尤も、これからはこのオレ、ベリアルギルディ様が出撃する奴を選定することにしたがな」
盛り上がる中で発せられたその一言。
それはこの盛り上がりに水を差すには十分すぎる一撃。
さっきまではベリアルギルディバンザーイとまで言われていたのに一瞬の内にそれはブーイングへと変わる。
だが当の本人にはどこ吹く風。
全く気にせずに誰か立候補する者はいないのかと全員に問いかける。
「「「「……」」」」
結果はこの様。誰もが立候補したがらない。
一応、彼らの名誉のためにも言っておくが、これは別に怖じ気づいたからだかではなく、誰がベリアルギルディの言う通りになってやるものかというプライドから来るちょっとした反抗だ。
同じことをしていたと仮定しても、前リーダーであるバアルギルディならばこうはならなかっただろうと断言できる光景である。
「誰もいないのか!! このオレを満足させる者は!!」
そんな彼らの心理に気が付かずただ怯えていると思い苛立つベリアルギルディ。
対する他のエレメリアンたちはお前が行けよと押し付け合う始末であり、中々話が進まない。
そんな状況が数分続いた後、大ホールの隅で手を上げる者が現れた。
「僕でよければ……」
おどおどしたその様子からはとてもじゃないが実力者とは思えない。
だけど他に名乗りを上げる者がいない以上、彼に任せるしかないと半ばヤケクソで承認するベリアルギルディ。
「いいか、貴様の目的はこの世界で我々の目的とするツインテール属性の持ち主を探し当てることだ。それが果たされるのであれば手段は問わんし、何をやっても構わん」
「わ、わかった」
頷いたそのエレメリアンの覇気は無いに等しい。
それを見ていたアガレスギルディたち他のエレメリアンは思う。
果たしてコイツで大丈夫なのかと。
「おっと忘れ物だ、受け取れ!!」
何かを思い出した様子のベリアルギルディがとある物を投げ渡し、それを受け取るエレメリアン。
受け取ったそれは濃色に染まった菱形の石。またの名を
それは使用者の属性力を暴走させて強大な力を発揮させるまさに悪魔の兵器であり、今は亡きバアルギルディが使用を禁じた物。不幸な事にこの道具を使用すれば自我が無くなりただ属性力を喰らうだけのケダモノと化すという事を今いる誰もが知ってはいなかった。
「ありがとう……じゃあ行ってくるよ」
「ああ、期待している」
邪悪な笑みを浮かべるベリアルギルディ。
それに気づかずに
◇
ある日の晩。
私は夢を見ていた。
いや、夢というのは少し語弊があるかもしれない。
今私が体験しているのは、失った記憶を再現した世界に入り込むという少々というかかなり変わった体験。まだ和輝と恋人関係になる前に起きた和輝との大喧嘩以来の出来事ね。
「アドレシェンツァ……久しぶりね……」
私は目の前にある喫茶店『アドレシェンツァ』を前にふと呟く。
ここは元々私がいた世界における私の住んでいた場所、即ち私の実家。
今現実で住ませてもらっている喫茶店『アラームクロック』が同じ喫茶店な事を考えると何とも奇妙な偶然だなとは私も思う。尤も、どっちの方がコーヒーや料理の味がいいかだなんて、そんな事を比べるのは流石にナンセンスが過ぎる。
私はそのまま「Closed」の札が下がったドアを開き、店内に入る。
「ただいま」
もう一度言うけどここはあくまで私の失った記憶を再現した世界であり、本物ではない。
だけど、この心の底から落ち着ける独特の雰囲気を前にしてはその言葉が出てこない筈が無かった。
「返事はこない……か」
朧気ではあるけど、私の記憶通りでは、アドレシェンツァと言えば常日頃から変ではあるが優しく親し気なお客さんでごった返しになっており、学校などから帰ってきたらよくお帰りと挨拶してくれた筈。
まぁ時々……というか結構頻繁に何処かの国の偉い人達がそれはそれは凄い物をあげますって言って来たっけ。その時は丁重に断るのが大変だったけど、今となってはそれすらも恋しく感じてしまう。
酷く静かなアドレシェンツァの雰囲気には少し寂しさを覚える私だけど、私の目的は別にある。
「お母さん? いるんでしょ?」
がらんどうの店内でそう声をかける。
そう、私の目的はもう一度でいいからお母さんに会う事。
本物ではなく私の記憶を再現しただけのただの幻想だけど、その幻想のおかげで私は今現在、和輝と一緒に日々時を過ごす事が出来ている。
だから私はもう一度この世界に来れたら、幻想でもいいからお母さんにお礼を言いたかった。
「何? そう言わなくてもあたしはここにいるわよ」
声が聞こえたと同時に店の奥から出てくる女性。
相変わらず顔は濃霧のようなもやに覆われていて具体的な顔はわからないけど、その濃紺の髪とそれを綺麗にまとめた美しいツインテールははっきりとわかる。
間違いない。この人物こそ私のお母さん。私がこの世に生を受けて初めて見たツインテールの持ち主だ。
私はお母さんの胸に飛び込んだ。
「ちょ、ちょっと!? 何よ急に!?」
飛び込んでおいてなんだけどお母さんの胸は決して柔らかいとは言えず、寧ろ鉄壁のように固いとも言えるくらいだ。
でも、その温かさだけはとてもじゃないけど他の追随を許さないと私は思っている。
幼い頃から味わってきた母の胸。
私の記憶からこの幻想的な夢世界は作られているがためにこの再現度は完璧と言ってもいい。
「ねぇお母さん、私やったよ。ついにやったんだよ」
「やったって何?」
「好きな人とね――」
「え!? 何まさかあんた!? その歳で!?」
私が言い終わるよりも前に何かを察したのか酷く取り乱し始めるお母さん。
しきりに小声でこの子もうそんな歳になったの!? だなんて言っている。
そんなに取り乱すような事言ってないような気がするんだけどどうなんだろう?
正直言って何故だかわからない。
「その歳? ねぇお母さん、何言っているの?」
「だ、だから……その……あ、あれでしょ……」
「いや、私はただ…好きな人と付き合う事になったよって事言いたかっただけなんだけど……」
それを聞くなり頬を赤く染めるお母さん。
もし顔がちゃんと見えているのならきっと目は点になっているに違いない。
「なんだ~それだけだったのね。もう驚かせないでよ」
「それだけって酷くない!? というかそれ以外に何かあるの!?」
何処からかいらない茶々が飛んできそうなお母さんの発言にはとりあえずツッコんでおくことにする。
その後、私はこれ以上何かあるのかを聞こうとするけどお母さんは別に何もないとはぐらかされた。
「まぁでも、良かったわね」
「うん。お母さんのおかげだよ」
「何言ってるのよ、あたしは何もしてないわよ」
謙遜して見せるお母さんだけど私からすればお母さんの後押しがなかったら今ここに私は笑顔でいられなかったと思うから感謝してもしきれない。
「にしても遂にあんたも彼氏持ちか~。あたしなんてあんなに時間かかったのにな~」
「でも今じゃお父さんとラブラブだよね」
「そうね……」
かすかに残った私の記憶の中では、お母さんとお父さんは私の前では喧嘩一つもしないくらいには仲が良かった。特にお父さんは仕事か何かで家を空ける時いっつも行ってきますのキスをお母さんのツインテールにしていたくらいであり、その事をつい最近思い出した私はいつか和輝とそうなればいいのにななんて思ってしまうくらい。
そんな風にお父さんとお母さんのラブラブっぷりを思い浮かべながらお母さんを見ているその時、私はふとある事に気が付いた。
「ねぇお母さん? 私たち最近ここ以外でも会わなかったっけ?」
なんで自分でもそんな事聞いたのかわからない。
お母さんはこの幻想的な夢世界を除けば私が元々いた世界に今もいる筈だからつい最近会うだなんて絶対にありえない。
なのに私はそう思ってしまった。
つい最近、お母さん……いや、それだけじゃない。私はお父さんとも会っているような気がするし、さらに言えば今みたいにお母さんと色々な事を語り合ったような気がする。
「あんた、変な事聞くわね。あたしはずっとここにいるじゃない」
「そ、そうだけど……」
何か引っかかる。
私は確かに現実世界でもつい最近、お母さんとお父さんに出会っているはず。
でも、その確信には根拠と言った物は存在していないが故に何が何だか自分でも訳がわからなくなってくる。
「ううん。やっぱりいい。ごめんね、変な事聞いて」
何か気まずい空気になってしまったので私はこの幻想的な夢世界からさようならするべく意識を集中する。
段々と意識が遠のいていくそんな中、お母さんは私に語り掛ける。
「もう行くのね……まぁ、また何かあったらその時はいらっしゃい」
「うん、そうする」
「じゃあ頑張りなさいよ――」
「――
意識が途切れるその瞬間、最後に聞こえたその名前。
それは正しく私の忘れた自分自身の名前だった。
◇
「
とある昼下がりのアラームクロック。
今日の日替わりランチを食べ終え、後はコーヒーでも飲みながらゆっくりでもしようかと思っていた頃、突然ティアナから話があると言われたので聞いてみたらそれはもう衝撃的な話だった。
内容は昨日の晩に見た夢の事についてであり、何でもティアナはその夢の中で母親と出会って去り際に自身の名前を告げられたのだという。
ティアナが前々から夢で自身の失った記憶の手がかりを掴んでいっている事は把握していたし、別にそれを嘘だとかそんな筈ないと否定するつもりはない。それにそのおかげでも何でも、ティアナが自分の記憶を取り戻す事自体は良い事だと俺は思っている。
だけど、その思い出した名前ってのがまた衝撃的だったんだ。
「うん。お母さんは確かにそう言ったし、私もその名前が自分の名前だって実感があるの」
「マジかよ……」
本人がこう言っている以上、信じざる得ない。
総愛、それがティアナの本名。
ずっとティアナとばっかり呼んでいた事もあり、あまり実感はわいてこないがそれはティアナも同じ気持ちだろう。
「ねぇ和輝? 覚えてる? リーンたちの世界で出会った総二さんたちの事」
「ああ覚えているさ。だからこうやって衝撃受けてんだろ」
総愛、言ってしまえばそれはちょっと珍しいが何てことない名前だ。別に衝撃を受けるような名前ではないだろう。
だけど俺はその名前を聞いた時、ある人物の言ったとある名前が引っかかったんだ。
その人物及びその名前というのは数週間前、俺たちと一緒にメフィストギルディ及びサタンギルディと戦った異世界の戦士にして赤き英雄、テイルレッドこと観束総二と彼との会話で出てきた未来からやってきたとされる娘、
同じ発音の名前同士がいるだなんて生きてりゃそこまで珍しい事じゃないのはわかってはいるんだが、どうもただの偶然とは思えない。
それに――
「確か言ってたわよね? その双愛って娘、私にそっくりだって」
「ああ、言ってたな」
俺は実際に双愛って娘がどんな姿をしているのを総二さんに見せてもらっているので知っているが、それはもうそっくりそのままと言ってもいいくらいだったぜ。
違うのは髪色及び髪にメッシュを入れている事と胸がちゃんと発育しているかの有無くらいだ。
「ねぇ、これってさ……ただの偶然なのかな?」
「さぁわかんねぇ。でも何かあるのは事実だ」
名前といい容姿といいテイルブレスの事といい、ティアナの存在自体に謎が多すぎる。
一体全体、ティアナは何者でどんな存在なんだ?
ティアナの事を愛してるって気持ちは今も変わらないが少し不安だ。
「なぁ? そういやよ、夢の中では母親と出会っているんだろ?」
「うん、それが?」
「いや、顔はどんなだったんだろうなって思ってさ」
何でもいいから手かがりが欲しい。
そう思った俺はティアナにそう尋ねてみた。
だがティアナは首を横に振る。
「ごめんなさい、それが顔まではよくわからないの。何かモザイクのような物が常に覆っていて……」
「そうか……」
「でも、ツインテールは見事だったわ。あんな見事なツインテールはそうそう会える物じゃない。あれはお母さんだけの物」
ツインテールねぇ……
本来ならそれは凄い手がかりになるはずなのだろうが、どうもツインテールってのは俺の周りに溢れすぎているが故に手がかりとしてはだいぶ弱い部類に入っている。
なんか他に手がかりあればな……
「ッ!? そういや……!!」
「どうしたの和輝?」
「いや、それがよ。前にお前と身体が入れ替わった時にな。俺、実は夢でお前の過去って奴を見ているんだよ」
「何それ!? 初耳なんだけど!?」
そりゃあそうよ、だって忘れてたんだもん。ってのは言ったら怒られそうなのであえて言わない。
まぁ何にせよ、俺は一度ティアナの過去を見ているんだ。
「だいぶ前の事だからあんまし覚えてねぇんだがよ、確か色々とハチャメチャな日常風景だった事とお前のツインテール好きは父親譲りだって事は覚えているぜ」
「何よそれ、全然手がかりにならないじゃない」
さっきとは対照的に露骨にガッカリして見せるティアナ。
だってしょうがないだろ。確かあの時、俺はどうやればツインテールを上手く結べるかで四苦八苦していたし、それに今は忘れちまったけど、確かあの夢の最後の光景はそれまでの些細な出来事が吹っ飛ぶくらいには強烈だったんだ。
「せめてあん時の事が思い出せたらなぁ……」
夢の最後にみた光景。
ボロボロになった街の中で変身したティアナとぶつかっていたエレメリアンではない謎の人物。
その謎の人物自体の姿も何処かで見たことがあるような気がするんだが、あんましピンと来ない上に何故か思い出せないときた。
クッソ……これさえわかればティアナの記憶を取り戻す鍵になったっていうのに……!!
過去に戻れるのならあの時の俺に会って夢で見た光景をメモするなり、すぐティアナに話すなりしやがれって言ってやりたいぜ全く。
「お前たち、随分と悩んでいるようだがどうしたんだ?」
うーんと顎に手を当ててまで悩む俺たちを見かねてか、おやっさんが厨房の奥から顔を出してきた。
三人寄れば文殊の知恵とは言うが、おやっさんは何も知らない一般人故にティアナの過去関連は話すことが出来ない。
おやっさんには悪いがここは断っておくとしよう。
「いや、別に何でもねぇよ」
「そうなの、ごめんなさい正樹さん」
「そうか……ならいいんだが」
話に入れなくて何処かガッカリした様子を見せるおやっさんを見て何処か申し訳なくなる。
いっその事のおやっさんにテイルバイオレットやエレメリアンの事を話してみてはどうだろうかとは思うが、おやっさんを変に巻き込むわけにはいかないのでそれはやっぱりなしだ。
「ま、悩んだ時はリフレッシュするに限るぞ。ほれ」
そう言っておやっさんはコーヒーの入ったカップを二つ、俺とティアナの前に出してくれた。
おやっさん特製ブレンドのいい香りが鼻をくすぐってくる。
「ああ、サンキューおやっさん」
「ありがと正樹さん」
お礼を述べられたおやっさんは照れながら良いってことよと笑みを浮かべる。
俺たちはそんなおやっさんを眺めながらコーヒーカップを口にする。
そんな時、店のドアが開く音がした。
「いらっしゃい……ってあんたは!?」
入店してきた人物を見て酷く驚いた様子のおやっさん。
俺とティアナは何事だと思い振り返る。
そこにはいたのは長いブロンド髪のツインテールが特徴の美少女であり、俺とティアナも知っている人物。
嘗て俺が助けた近年のアイドル業界を代表する彼女の名は――
「「夢宮ヒカリ!?」」
◇
「まずはお久しぶりです!! 和輝さん!!」
「お、おう。久しぶり……」
店の一番奥にあるテーブル席。
そこでは私を押しのけて和輝の隣に座った夢宮ヒカリは、そのまま和輝に抱きつき寄り付いており、当の私はその光景を額に青筋を浮かべながら睨むように見ている。
全く……大事な話があるからわざわざ奥に移動したのにさっきから和輝にベタベタするばっかりじゃない。
怒っちゃ駄目なのはわかっているのに怒りが沸々と湧き上がって来る。
「な、なぁ、ヒカリはどうしてここがわかったんだ?」
どうしてアラームクロックに私たちがいるという事がわかったのかが疑問に思った和輝が夢宮ヒカリに向かってそう尋ねる。
正直、それ以外にも聞かなきゃならない事はいっぱいあると思うけど、これに関しては私も知りたいのであえてツッコまないようにする。
「そりゃあ勿論、和輝さんを想うわたしの気持ちがここに導いてくれた……ってのは冗談で本当の理由はヒ・ミ・ツ♡」
何この無駄にイラっとくる冗談。
それに何なの!? 秘密って!! それくらいちゃんと言いなさいよ!!
より一層、怒りの炎を燃え上がらせる私。
対する夢宮ヒカリはなおも和輝に対するスキンシップを敢行する。
「それはそうと和輝さん、今度の新曲は和輝さんをイメージした曲なのでぜひ聞いてくださいね」
「お、おう……」
以前の迷える彼女とはまるで違うその雰囲気。元々こんな性格だったのかについては定かではないけど、今の彼女はムカつくけどある意味生き生きとしている。
一方、和輝は和輝で夢宮ヒカリ相手にタジタジの様子であり、私はそんな和輝を見てより強い怒りを覚え始める。
私という彼女がいながらあなたって人は……!! ちょっとはガツンと言いなさいよ!!
昂る気持ちを何とか抑えながらも私は和輝にアイコンタクトを取る。
(あなた早くその女を引きはがしなさいよ……!! さもないと私が力づくで何とかするわよ)
(ストップストップ!! 待て待て待て!! それは不味いだろ!!)
夢宮ヒカリに抱きつかれたままの和輝は首をブンブンと振るう。
どうやら和輝は暴力はいけないと訴えているみたいね。
私としてはだったら早く何とかしなさいよと思ってしまうけど。
「和輝も隅に置けんな~。まさかあの夢宮ヒカリとこんなに仲が良いとはな~」
修羅場全開な私たちの様子を見た正樹さんがポツリとそう呟いた。
それを聞いた私は正樹さんを睨みつける。
「正樹さんは関わらないで……!!」
「は、はい……!!」
威圧した事もあり、正樹さんは逃げるように厨房に走り去っていく。
ちなみにこの間もずっと夢宮ヒカリは和輝にイチャイチャくっついており、一向に本題へ行こうとしていない。
「なぁ、そろそろ本題に……」
「和輝さん、これライブのチケットです。これがあればわたしの事が特等席で見れますよ」
最早わざとやっている素振りすらも見せる夢宮ヒカリ。
もう我慢できない……!!
痺れを切らした私はテーブルをバンと叩き言い放つ。
「ちょっと!! さっきから何なのよ!! 要件があるならさっさと言いなさい!!」
「「!?」」
勢い余ってテーブルにヒビを入れてしまったせいかビクつく二人。
これには流石の夢宮ヒカリも和輝に抱きつくのを辞めざる得ないようね。
「ご、ごめんなさい……つ、つい……」
「はいはい、それで……要件って何?」
気を取り直してどんな要件があって私たちの下にやってきたのかを尋ねる。
果たしてどんな要件なのかしら……
少なくとも何かあまり良くない事ではないとは思う。
「実は私、またエレメリアンに狙われているんです……」
真剣な表情で夢宮ヒカリはそう語った。
肝心な所を覚えていなかったりとご都合主義満載ですいません。
一応、ティアナの記憶に関してはもう少しで解明する予定にしていますので……