俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第94話 アイドル密着24時

「エレメリアンに狙われてるだぁ?」

 

「はい。なので和輝さんに守ってもらいたくて……」

 

 とある休日、俺たちの下に突如現れたトップアイドルの夢宮ヒカリことヒカリ。

 何やら俺たちに用があってきたとの事ではあったがその用ってのがまさかエレメリアン関係、それもまたエレメリアンに狙われているから助けて欲しいという事だとは思ってもみなかった。

 俺自身、エレメリアンに二度も狙われるというどちらかというと珍しいケースに驚きを隠せない。

 確か前の事件は今年の5月頃だっけか。あん時のヒカリは、急激に変化する環境にこのままでいいのかと悩んでいる際中であり、アイドルオタクの気持ち悪い変態エレメリアンに絡まれていたっけな……

 今度もあの時と同じレベルの変態野郎だと思うとうんざりするぜ。

 

「となるとまたアイドル関係の属性か……」

 

「いえ、多分違うと思います」

 

 え? 狙われているって事はつまりアイドルか何かに関わる属性のエレメリアンじゃねぇのか?

 はっきりとは言い難いがどちらかというと違うと断言するヒカリに俺やティアナは頭に?を浮かばざる得ない。

 

「実は今回はちょっと訳ありで……」

 

「訳あり?」

 

「はい、実はそもそも狙われているっていうのも少し語弊があるというか……」

 

 どういう事だよおい。

 そんな反応を見せる俺たちにヒカリは語る。

 事の始まりはほんの数日前、テレビ局でゲストとして番組に出演することになった時の事らしい。

 なんでもその時、いつも通り用意を終えたヒカリがスタジオへと足を運んでいた時、使われていないスタジオから聞き覚えの無い声が聞こえて来たとのこと。

 時間にも余裕があったので少し気になったヒカリはちょっとした好奇心から除いて見た。するとそこに広がっていたのはエレメリアンが何やらコソコソと戦闘員たちに指示をしている光景。

 驚いたヒカリは思わず声を出してしまい、エレメリアンに気づかれてしまったとの事だ。

 

「その時は追ってこなかったし、襲ってもこなかったんですけど、それ以来、色々な場所で常に視線を感じるんです。まるでわたしを襲うチャンスを伺っているみたいな感じがするんです」

 

 成程、そういう訳か……

 つまり、今回のエレメリアンはテレビ局で何かを企んでおり、ヒカリはその様子を見てしまったがために狙われているって話か。

 

「ねぇ? 一応聞くけど、その視線ってただのストーカーって線はないわよね? 私的にあなたの考え過ぎって可能性もあるんじゃないかと思っているんだけど」

 

「そ、それは……」

 

 先程からヒカリに対してあまりいい感情を抱いていない様子であるティアナがヒカリに対して少し棘のある言い方でそう尋ね、対するヒカリは断言できずに口ごもってしまった。

 まぁ確かにその可能性は否定できないが、流石にその態度と言い方はどうなんだと思う。

 

「おい、ティアナ。その言い方はないだろ。それに万が一、エレメリアンの仕業じゃなかったとしてもストーカー被害にあってるなら助けてやるのが筋ってもんじゃねぇのかよ」

 

「何言ってるの? 私たちはあくまでもエレメリアン専門であって警察じゃないのよ。ただのストーカー被害なら管轄外だわ」

 

「お前なぁ……」

 

「何、文句あるの?」

 

 お、おう。そんなに俺を睨むなよ。

 何つーか今日のティアナはご機嫌斜めって感じだな。

 これはあまり手を出さない方がいい気がするぜ。

 

「ま、いいわ。それにしてもテレビ局で何を企んでいたのかしら?」

 

 飽きたのかどうか知らないが、突如話題を変えたティアナは顎に手を当ててエレメリアンが何を企んでいるのかを考え込み始めた。

 これに関しては俺も少し引っかかっていたので丁度いい。話題転換にのるとしよう。

 さて一体全体、奴らはテレビ局で何をしようとしていやがったんだ?

 何となくであるが、アルティデビル全体に何か大きな変化があったのではと思わざる得ない。

 やはり、これもバアルギルディがいなくなった影響なのか?

 考えても答えは出てきそうにない。

 

「クッソ……やっぱし、考えても埒が明かねぇか。まぁ兎に角、俺に任せとけ。お前の事は俺たちが守ってやるよ」

 

「和輝さん、ありがとうございます!!」

 

 感謝の言葉と共に勢いよく腕に抱きついてくるヒカリ。

 俺は少し困惑しながらも振り解くなんて真似はしない。

 ドルオタである匠が見たらきっと凄まじい表情になって怒り狂うんだろうな……

 いや、それだけじゃねぇな。もし、この状況が週刊誌の記者か何かにバレたりでもすれば、ヒカリは兎も角、俺の命は全国のヒカリファンから狙われてかなり危ないと言えるぜ。

 幸いなのは今の時刻のアラームクロックには俺たちとおやっさんを除いて誰も客がいないって事だ。

 つまりこの一見、殺されかねないようなヤバい光景であっても俺たちは何も気にせずに安心出来る。筈なのだが……

 

「もしもし、悠香さん? 特ダネがあるんですけど」

 

 至って冷静な顔のままおもむろにスマホを取り出し、悠香さんに今の状況を報告しようとしているティアナ。

 決しておふざけではないガチな雰囲気に思わず俺はストップを入れるべく声を出す。

 

「おいおいおい!! ちょっと待てー!!!」

 

「何? 和輝」

 

「ば、馬鹿!! ご、誤解だ、誤解!! 早く通話を切れ!!!」

 

 ティアナからあんなに冷たい視線を向けられるとは全く思っても見なかった俺は、少したじろぎながらも早く通話を切るように催促したのだがまるで効果がなさそうだ。

 これは何だか嫌な予感がしてきた。

 

「誤解……ねぇ?」

 

「そうだ!! これは誤解だ!! だから早く通話を――」

 

「和輝さん、何焦っているですか? 丁度いい機会じゃないですか、世間のみんなにわたしたちがラブラブだって事を伝えるのに♡」

 

 俺が弁明する中、なおも抱きつき続けるヒカリは火に油を注ぐかの如く、あっけらかんとそう言い放ちやがった。

 流石にこれは俺もツッコまざる得ない。

 

「待て待て待て、アイドルがこんなどこの馬の骨かもわからねぇ奴ちラブラブだなんて発表したらファンが減ってアイドルどころじゃねぇだろ!?」

 

 アイドルにとってのスキャンダルは活動する上で致命的と言える。

 アイドルが恋愛禁止されているのはそういう事なのだ。

 

「何言っているんですか? あえて恋人の存在を匂わせるのも立派なテクニックなんですよ」

 

「テクニックっておま……」

 

 何処でそんなテクニック覚えたんだよ。

 以前あった時はもっと純粋な子だったろお前。

 何がヒカリを変えてしまったのか、もしこの世界に神がいるのならその事を問い詰めてやりたい。

 

「それに……」

 

「それに?」

 

「こんなぺったんこのどこがいいんですか?」

 

 ティアナの胸を指さし言い放つヒカリ。全く持って嫌味を感じないのはアイドルとしてのなせる業だろう。

 だがしかし、こればかりは相手が悪かった。

 

「あ?」

 

 こんな状況で何言ってんだこのバカアイドル!! これは不味いぞ……!!

 そう思いティアナを見るがもう遅い。ティアナの目からはハイライトが無くなり、額に無数の青筋が浮かんでおり、背景に漫画でありがちなゴゴゴゴといった擬音が見える。

 これはもしかしなくても俺、死ぬかもしれねぇ……

 最後の頼み綱であるおやっさんに助けを求めるべくカウンター及びその奥にある厨房へ視線を向けるが、危険を察知したのかおやっさんは荷物を纏めて店の外へと逃げ出してしまっていた。

 

「おい、逃げるなおやっさん!!!」

 

「和輝……!!」

 

「は、はい?」

 

 腕をヒカリに抱きつかれながらも、俺は逃げ出したおやっさんを追って外へ飛び出そうとする。

 がしかし、直後に聞こえてくる冷たすぎる声に足が止まり振り返る。

 すると、そこにいたのはツインテールをした鬼神。怒りというゲージを振り切ってしまったが故にその姿を鬼へと変化させた修羅とも言ってもいいティアナがそこにはいた。

 

 

 

 

 日曜日、それは学生やサラリーマンたちが昼までぐっすりと眠っても何も問題がない魔法の曜日。

 だがしかし、休日と言えどアイドルの朝は早い。とりわけ絶賛人気急上昇中のアイドルである夢宮ヒカリとなれば、その朝は普通のアイドルよりもかなり早いと言えるだろう。

 現在の時刻は午前6時。

 ティアナに叩き起こされた俺は、寝ぼけまなこを擦りながらヒカリの自宅である高層マンションにやって来た。

 

「おはようございます!! 和輝さん!! ティアナさん」

 

「ふわぁ~、おはよう……」

 

「……」

 

 運動用のジャージ姿で現れたヒカリが元気よく挨拶を行う。

 対する俺はだらしない欠伸をしながら挨拶を返した。

 隣のティアナは相変わらず不機嫌そうな顔なのが少し心配だ。

 

「すいません、日課にまで付き合ってもらう事にまでなっちゃって」

 

「別にいいってことよ。それよりも今日から当分の間、世話なるぜ」

 

 当分の間世話になると言っても別にヒカリの家にお邪魔するとかではない。

 ヒカリを狙っているというエレメリアンが倒されるまでの当分の間、俺とティアナの二人がヒカリの生活に出来る限り密着してその警護に当たるということだ。

 幸いな事に今日は学校が休みなので密着し放題。尤も、俺は平日でも学校なんざサボればいいと思っているので別段何も変わらないのだがな。

 まぁそんな戯言はさておき、密着するとなった結果、現状こうやって日課らしき朝のランニングにまで付き合う事になっちまっている。

 

「はい!! よろしくお願いします!!」

 

 相変わらず元気のいい返事だこと。

 以前の悩んでいる時や昨日のぶりっ子していた時とは大違いだぜ。

 はきはき喋るヒカリの頭で揺れるツインテールがとても魅力的だ。

 

「じゃあ行きますよ!!」

 

 走り出したヒカリ。

 俺とティアナは共に走って追いかける。

 その姿はさながらアイドルの追っかけをしているような感じだ。

 それから特に何も喋ることなく走り続ける事約数分。

 昇る朝日に照らされながらビル建ち並ぶ街を抜けて川沿いへ。

 そして川沿いでは、その果てしなく続く長い道をマラソン選手かと錯覚する速度で走り抜ける。

 最初は楽勝楽勝と高を括っていた俺ではあったのだが、段々とその考えが甘かったと認識する程だった。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 何というか思っていたよりも速い。

 普段鍛えている俺であってもついていくのがやっとこさって感じだ。

 流石に隣を走るティアナは息切れを全く起こしていないものの、心なしかランニング開始前の余裕は感じない。

 何とかついていく事、数十分。

 ようやくゴール地点兼スタート地点であるマンション前に帰って来た。

 

「じゃあ、わたしは着替えて支度をしてきますのでそれじゃまた」

 

「お、おう……」

 

 護衛にする奴がこの程度でへばっているなんてバレてはいけない。

 だがしかし、こいつはちとキツいぜ。

 俺は出来る限り平静を装い朝の支度に向かうヒカリを送り出す。

 そしてそれから1時間弱、何とか回復し終えた俺と平然としているティアナの下にヒカリが帰ってきた。

 

「すいません、遅くなっちゃって」

 

 動きやすいジャージ姿とは違い、今度は地味目ではあるが見るからに私服といった感じの装いで現れたヒカリ。

 素材が良いってのも勿論あるが、何を着ても似合っているのは流石は今をときめくアイドルだな。

 とそんな俺の感想はさておき、俺たちはヒカリの案内の下、所属している事務所があるビルに向かって歩き始める。ヒカリ曰くここからそう遠くないので20分くらい歩けば着くとのことだ。

 

「でも意外だな。夢宮ヒカリともあろうアイドルが事務所まで徒歩で行くだなんてさ。こういうのって普通、車でお迎えとかしてくれるようなもんじゃねぇのかよ」

 

「確かにそう思いますよね。でもわたしは歩くのもまた一つのトレーニングみたいなものだと思っているので」

 

 トレーニングねぇ?

 日課のランニングといい徒歩での通勤といい、思っていたよりもヒカリって結構ストイックなタイプなのかと勘ぐってしまう。

 それともなんだ? アイドルは全員こんなものなのか?

 それからピッタリ20分後、俺たちは目的のビルに辿り着いた。

 

「ほら、着きましたよ」

 

 ヒカリの案内を受けながらビルの中に入り、事務所へと。

 途中、テレビか何かで見た事のある芸能人といくつか遭遇したが、会釈する程度で済ましておいた。

 変に騒いじゃ迷惑だからな。

 

「おはようございます!!」

 

「おはようヒカリ」

 

 事務所について先ず出迎えてくれたのはヒカリのマネージャーさん。

 長身スーツ姿に眼鏡となんつーかステレオタイプのマネージャーさんって感じだ。

 

「君たちがヒカリのボディーガードさんたちか。今日はよろしくね」

 

「は、はい。よろしくお願いします」

 

 喋り方といい風貌といい、優しそうなオーラに溢れた人物だ。ヒカリが信頼するのも頷ける。

 てかそれよりもよ、ヒカリの奴、俺たちの事をボディーガードと紹介したのかよ。普通、見学志望の友達とかにしとけよ。何だかこれじゃ子供の癖に大人ぶっている痛い奴みたいじゃねぇか。

 

「一応言っておくけど、くれぐれも仕事の邪魔はしちゃだめだよ」

 

 ガキじゃあるめえし、わーってるつーの。

 口ではそう思いながらも決してそう口には出さずに頷く俺とティアナ。

 

「よし、じゃあそろそろ行こうか」

 

「はい!!」

 

 ついて早々、事務所を出ようと動き始めるヒカリたち。

 何でも今日は予定がびっしりと詰まっているらしく、かなりハードな一日になるとの事であり、最初の仕事は大学の文化祭の特別ゲストらしい。

 早速、俺たちは目的地に向かうべくマネージャーさんの案内で駐車場に向かい、マネージャーさん運転する車にお邪魔する。

 そうだよ、これこれ。やっぱり芸能人はこうでなくっちゃなぁ。

 乗り心地は別段普通ではあるが、やはり徒歩と車では話が違うぜ。

 朝っぱらから今に至るまでですでにくたくたになっていた俺は束の間の休息を満喫するのであった。

 

  

 

 

 午前10時。都市部郊外にあるとある大学。

 ここでは今日、文化祭が行われているらしく、ヒカリはそのオープニングセレモニーにサプライズ登場して場を盛り上げるのが役割との事。

 キャンパスの中庭に作られた大きなステージ。

 そこでは現在、司会進行役である文化祭実行委員の奴らがマイク片手に盛り上げており、俺とティアナの二人はヒカリが出てくるのを学生たちに紛れて見学していた。

 

『それでは登場していただきましょう!! 特別(スペシャル)ゲストの夢宮ヒカリさんです!!』

 

『はーい!!』

 

 煌びやかで可愛らしいフリフリの衣装を身に纏い、元気な声と共に登場するのは我らがアイドルのヒカリ。

 トレードマークとも言えるツインテールが可愛く揺れ、俺は思わずおぉ~と声を出してしまう。

 

「マジ? ヒカリちゃん?」

「ヒカリちゃんだぁ!!」

「ヒカリちゃ~ん!!」

 

 人気急上昇中のアイドルである夢宮ヒカリの登場。

 そんな事を夢にも思っていないであろう学生たちの声が広場に響き渡るかのように大きく爆発する。

 

『みんな~!! スペシャルゲストの夢宮ヒカリで~す!! 今日は短い間だけど一緒に楽しもうね!!』

 

 ミュージックスタートの掛け声と共に設置されたスピーカーから大音量の曲が流れ始め、それを聞いた学生たちの悲鳴にも似た歓声をかき消していく。

 始まるのは夢宮ヒカリのデビュー曲。

 匠ではないので曲名こそ知らないがその曲調及び歌詞はヒカリのイメージあったとてもキュートでポップないい歌だ。

 ステージの上ではその曲を完璧に歌いながら踊り続けるヒカリの姿があり、その動きはまさに神業とも言える至高の領域。アイドルとしての彼女の信念と決意、その全てが詰まっている。

 

「凄いわね……」

 

 隣で見学するティアナがポツリとそう呟く。

 さっきまでずっと不機嫌そうな顔をしていたって言うのにこの圧巻のパフォーマンスには流石に褒めるしか出来ない様子だ。

 

「そうだろう、そうだろう、凄いだろう」

 

「うぉっ!? マネージャー!? いいつの間に!?」

 

 いつの間にか隣にいたマネージャーが腕を組みうんうんと首を振っていた。

 余りにも予想外過ぎて驚かざる得ない。

 てかそういや、あんた他の準備があるからとか何とか言って別行動をとっていた筈じゃ……

 

「うちのヒカリは天才なんだ。そんじょそこらのアイドルなんかとは訳が違うからね」

 

「お、おう。そうかよ……」

 

 マネージャーの急な自慢話には少しうんざりするぜ

 いやまぁ、確かに自慢したくなる気持ちはわからんでもないが。

 

「尤も、彼女は努力の天才なんだけどね」

 

 最後にそう付け加えるマネージャー。

 俺はそれを聞いて今朝の日課とやらを思い出す。

 そういや、ここに来るまでの移動中もずっと車の中で鏡に向かって笑顔の練習したり、自分の曲をずっと聞いて歌詞やリズムなどを忘れないようにしてたっけな。

 小さいことからコツコツととはよく言った物だぜ。

 

『みんなー!! 短い時間だったけど今日はどうもありがとう~!! わたし、すっごく楽しかったよ~!!』

 

 そう思い出しふけっているのも束の間。

 どうやらここでのヒカリの仕事は終わりを迎えたようだ。

 学生たちに拍手で見送られながらステージを後にするヒカリ。

 俺たちは次の現場に向かうべく急いでヒカリと合流を行う。

 

「お疲れさん」

 

「……お疲れ」

 

「ありがとうございます和輝さん、ティアナさん」

 

 無事、合流に成功した俺たちはステージ衣装の上に軽い上着を羽織っただけのヒカリと共に車に乗り込む。

 マネージャーさんの運転の下、次の現場へ移動を開始だ。

 

「次の仕事はっと……」

 

「雑誌の取材ですね」

 

 マネージャーさんが言うよりも前に言い切るヒカリ。

 俺はそれを聞いてもしかして今日の仕事の内容と場所を全部覚えているのかと思ってしまう。

 当然と言えば当然なのかもしれないが何となく凄いを感じるぜ。

 その後の車での移動中、少し早めではあるが次の仕事に備えて用意しておいた携帯食を口に頬張るそんな中でもヒカリは、メモ帳片手に先程の反省会を開始しており、その姿が俺とティアナに強く印象を残すのであった。

 

 

 

 

 陽もすっかり落ちて暗くなり、時刻で言う所の午後10時を超えた頃。

 雑誌の取材、新曲のレコーディング、そして果てにはテレビ番組の収録と多忙極める一日からようやく解放されたヒカリと付き添いの和輝たちは今現在、やっとこさ事務所に帰って来たところであった。

 

「芸能人って大変だな……」

 

 和輝はそう呟くと、事務所の廊下にある椅子にもたれ掛かる。

 随分と安請け合いしちまったなと少し後悔するそんな中、曲がり角の先からヒカリのマネージャーが缶コーヒーを両手にやって来た。

 

「はい、お疲れ様。今日はどうだったかな?」

 

「そりゃあもう疲れましたよ……って何もしてない俺が言うのも変ですけど」

 

「ははは、そんな事ないよ。君たちがいてくれたおかげで今日のヒカリはいつも以上に楽しそうだったしね」

 

「そりゃあどうも」

 

 恥ずかしいのか頭をかきながら顔を背けた和輝はマネージャーから渡された缶コーヒーを口につける。

 そんな和輝に対しマネージャーは突然頭を下げた。

 

「ぶふっ!! な、何やってんだよ!?」

 

 マネージャーの突然過ぎる行動に思わず口に入れたコーヒーを噴きだしてしまう和輝。

 だがマネージャーは至って真剣そのものだ。

 

「ごめんごめん。少しお礼がしたくってさ」

 

「お、お礼?」

 

「そう。だって君なんだろ? 以前、ヒカリが迷っている時にアドバイスを上げて励ましたのって」

 

 それを聞いた和輝は以前の事件を思い出す。

 あの時は色々と無我夢中だったこともあり、振り返ってみると少し恥ずかしくなってしまう。

 

「礼なんていいって、別に大した事してねぇよ」

 

「いや、そんな事ないよ。君のおかげでヒカリは一皮むけてくれたからね」

 

「一皮ねぇ……」

 

 昨日の事含めてちょっとむけすぎた所もあると思うがとは口を避けても言えない。

 昨日の事はあくまでもオフレコなのだ。

 

「本当なら僕たち大人がヒカリの相談に乗るべきだったのに、あの時の僕は本当に何も出来ていなかった。だから君には感謝してもしきれない」

 

「そ、そすか……」

 

 困惑する和輝。だけど嫌な気はしない。

 そんな中、マネージャーは再び頭を下げる。

 

「これからもヒカリを頼む。彼女の事を支えてやってくれ」

 

「おう、任せとけ」

 

 和輝はそう強く頷くのであった。

 

 

 

 

 場面かわってここは事務所から一番近い川沿いの歩道。

 柵にもたれかかるようにティアナはある人物を待っていた。

 

「ティアナさん? どうしたんですか急に?」

 

 着替え終え私服姿に戻ったヒカリがやってくる。

 そう、ティアナが待っていた人物はヒカリだ。

 

「いや、その……あなたに謝らないとって思ってね……」

 

「謝る? 何か悪い事でもしてたんですか?」

 

 謝られるような事をされた覚えのないヒカリは頭を傾げる。

 対するティアナは少しバツが悪いのかツインテールの穂先をくるくると指に絡めている。

 

「実はね、私あなたの事が嫌いだった。ただちょっと顔とスタイルが良くてツインテールも素敵だからって嫉妬してた。でも、今日一日あなたを見て、私って馬鹿だなって思えたの」

 

「ティアナさん……」

 

「あなたはただ才能だけでここまで来たんじゃない。あなたはあなた自身努力し続けていた。だから今がある。それを知らない癖に勝手に嫉妬して嫌いになっちゃって……ごめんなさい!!」

 

 大きく頭を下げるティアナ。

 突然の出来事にヒカリは慌てだす。

 

「そ、そんな……頭を上げてください!! 寧ろ謝らないといけないのはわたしの方なんです」

 

 え……? と思いティアナは頭を上げる。

 今度はヒカリが頭を下げる番だ。

 

「さっき和輝さんから聞きました。ティアナさんって和輝さんと付き合っているですよね。わたし、そんな事も知らずに昨日は図々しい真似ばっかり……。挙句の果てにティアナさんの事をぺったんこだなんて……気にしているを知らなかったとは言え、どうもすいませんでした!!」

 

「あなた……」

 

 謝罪するつもりだったのが逆にされるとは思っても見なかったティアナはヒカリのその行動に心底驚いた。

 深々と頭を下げるヒカリの姿を見るにその謝罪が本心から来るものだとわかると同時に、ティアナはヒカリに頭を上げるように促す。

 

「私が言うのも変かもしれないけど、じゃあこれでおあいこね」

 

「はい!!」

 

 何だか変な感じとプッと笑いだす二人。

 その姿には昨日までの和輝を巡っていがみ合う二人の姿はなかった。

 ひとしきり笑った後、ティアナとヒカリは共に柵にもたれかかり空を見上げる。

 

「ねぇ? ヒカリはさ、和輝のどういう所が好きなの?」

 

「そうですね……やっぱり頼りになる所ですかね」

 

 そうかしらとは少し思いながら頷くティアナ。

 対するヒカリは嬉しそうに語りだす。

 

「わたし、今でも忘れません。わたしが迷い悩んでいる時に和輝さんにかけられた言葉。あの言葉は今でもずっと心に刻んでいます。だから今日も頑張れたんです」

 

「そうなんだ」

 

 そう言えばあの時も昨日みたいに嫉妬していたっけなとティアナは思い出す。

 当時はまだ和輝と付き合ってすらいなかったのにそう思えていたという事はあの時点から和輝に惚れていたのだと思うとなんだか少し恥ずかしい。

 

「ティアナさんこそ、どうして和輝さんが好きなったんですか?」

 

「え……それは……」

 

 突然そう言われた事もあり、ティアナは悩み始める。

 そう言えばどうして和輝が好きになったのだろう。

 考えた事もなかったが故に答えがわからない。

 

「そうね……いつの間にか好きになっていた。かな」

 

「いつの間にか、ですか?」

 

「うん」

 

 沈黙の果てにティアナが出した答えはいつの間にか好きになっていたという物。

 もっとドラマチックな物であると思っていたヒカリは面食らう。

 それを見て、ティアナはこれまでの和輝との全てを語り始める。

 初めて和輝と出会い、テイルバイオレットが誕生したあの日や、心と身体が入れ替わると言ったハプニングがあった日、さらに言えば最近、共に異世界を渡り別の世界の戦士たちを共闘し奇跡を起こした事まで全て。

 ティアナは余すことなく語り切った。

 

「凄い……ですね」

 

「ま、まぁね」

 

 凄いと言われて少し照れるティアナ。

 対してヒカリの方は少し顔が暗い。

 

「どうしたの? 浮かない顔して」

 

「いや、その……やっぱりティアナさんには敵わないな~って」

 

 空を見上げるヒカリの目にはうっすらとであるが涙が見える。

 何となくであるが察するティアナはそんなヒカリに声をかける。

 

「ねぇ、私が言うのも変かもしれないけど、こんな事で諦めていいの? あなたも和輝の事が好きなんでしょ。」

 

 そんな事を言われるとは思ってもみなかったヒカリは再度面食らってしまう。

 思わずなんて言ったのかわからなくなるくらいである。

 

「ティアナさん……何言って――」

 

「だったら私から奪ってやるくらいの気概を見せなさいよ。そうでしょ?」

 

「でも、わたしアイドルだし……」

 

 アイドルは恋愛禁止。

 その事を盾に逃げ出そうとするヒカリをティアナは見逃さない。

 

「何言ってるのよ、彼氏の存在を匂わせるのもテクニックなんじゃないの? それに本心ではそんな事全く思ってない癖に」

 

「そ、それは……」

 

 図星だった。

 ヒカリとて和輝のことを諦めきれるわけがない。

 だが、ヒカリは和輝とティアナの関係性の深さを知り、もう無理だと諦めてしまっていたのだ。

 これからどうすればいいのかわからないヒカリ。

 そんなヒカリにティアナは再度言葉を送る。

 

「いい? 好きな人を奪い合うのに卑怯も何もないし、恋する乙女は誰にも止められないの」

 

 この言葉は誰から教わった物ではない。

 ティアナが自分でだした結論だ。

 

「だからかかってきなさい。全力で戦ってあげるわ」

 

 これはある意味、ティアナからの宣戦布告だ。

 それを聞いたヒカリの顔に徐々にではあるが笑顔が戻り始める。

 

「後悔しても知りませんよ」

 

「何言ってるのよ、和輝は絶対にわたさないわ」

 

 互いを認め合い握手する二人。

 それは正しく強敵と書いて友と呼ぶ関係にふさわしい。

 ティアナとヒカリ、二人が真の意味で分かり合った瞬間だ。

 

「じゃあわたし、先に戻って和輝さんに抱きついてこよ~っと!!」

 

 そう言い切ると同時に全速力で事務所まで駆けていくヒカリ。

 それを見て全くしょうがないわねとティアナは苦笑いを浮かべ、追いかけようと駆け出すそんな時だった。

 

「尊きかな尊きかな、やはり負けヒロインのあがく様は素晴らしいなぁ……」

 

 背後から聞き覚えの無い声が聞こえて来た。




今回のエピソード、本当は和輝たちが付き合う出すよりも先に書く予定だったんですけど、紆余曲折あって今に至ります。
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