俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~   作:中川カイザー

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第95話 乙女の怒り

 私の耳に突然聞こえて来た声。

 それはねちっこさと独特のいやらしさを合わせたようなエレメリアン特有の声。

 そう言えばヒカリはエレメリアンにつけ狙われていたわねと元々の目的を思い出した私は声がした方向を振り向く。

 

「やっぱり、エレメリアン……!!」

 

「あれま、見つかっちゃった」

 

 川の上、宙に浮いているエレメリアンの姿の特徴は白く幻想的な身体と天高くそびえる凛々しい角。

 そのエレメリアンの姿はまさしく神話や伝説上に登場するユニコーンのようであり、背中で羽ばたく黒い翼が悪魔を表現しているようにも見える。

 

「こんばんは、僕はアムドゥシアスギルディ。泣く子も黙るアルティデビルのエレメリアンさ」

 

 ご丁寧に挨拶と名乗りをしてくれたエレメリアンもといアムドゥシアスギルディだけど、泣く子も黙るとか何とか言っておきながらあまり好戦的ってわけじゃないのか積極的に襲ってくる素振りを見せず、私の事をジッと見つめ続けてくる。

 そんなアムドゥシアスギルディに対して私は相対しながらも少し距離を取る。

 

「驚いたな。君、僕の事が怖くないのかい?」

 

「誰がエレメリアンを怖がるもんですか。こう見えても私だってかつてはあなたたちエレメリアンと戦う戦士だったんだから」

 

「ふーん、そうなんだ。納得」

 

 本当に信じているのか信じていないのかは知らないけど、アムドゥシアスギルディは一向に私を襲う素振りを見せず、なおも空中に浮いている。

 何だか知らないけどこれはちょっとしたチャンスかもしれない。

 そう感じた私はアムドゥシアスギルディに問いかける

 

「そんなことより一つ聞くけど、あなた、テレビ局で何してたの? アルティデビルは今、何を企んでいるの?」

 

 ヒカリは言っていた。つい先日、テレビ局で収録していた時にエレメリアンがコソコソ何かをしていたってね。

 そのエレメリアンの正体がコイツかどうかはわからないけど、ヒカリの言っていた事が正しいとするのならアルティデビルは何か良からぬ事を企んでいるに違いないわ。

 

「え、何で君が知ってるの? もしかしてさっきのあの子から聞いたの?」

 

 わかりやすく驚き、妙にフランクに聞いてくるアムドゥシアスギルディ。

 その反応を見るにどうやらヒカリが言っていたエレメリアンの正体はコイツで間違いなさそうね。

 これはもう少し問い詰めれば何を企んでいるかわかりそうなので、私はより強く問い詰める。

 

「そんな事よりも、あなたたちテレビ局で何企んでいたの!! はっきり答えなさい!!」

 

「企んでいるって……言われても、別に大した事じゃないんだけどなぁ……」

 

 大したことじゃない? それはどういう事かしら?

 エレメリアンからすればそれは大したことじゃないって線もあるけど、このエレメリアンの性格的に本当に大した事じゃない可能性が浮上してくる。

 じゃあ一体何をしていたって言うの?

 その謎に答えるかのようにアムドゥシアスギルディは口を開く。

 

「ただの人探しをしていただけだよ……」

 

「人探しですって?」

 

「うん、人が多いテレビ局でならこの世界にいるって言う、究極のツインテールに匹敵するくらい強力なツインテール属性の持ち主がわかると思ってさ」

 

「究極のツインテール……ッ!?」

 

 アムドゥシアスギルディが何となく言ったその言葉。

 その言葉を聞いたその瞬間、私の全身に電流をような物が流れ、突如頭が割れるような痛みが襲い始める。

 もしかしてこの言葉は私の記憶に関係しているとでもだなんて思いながら私は地面にうずくまる。

 

「あれ? 大丈夫ぅ?」

 

 突然うずくまり始めた事に心配してくれているアムドゥシアスギルディだったけど、私はそんな事を気にする余裕すらない。

 究極のツインテール……!!

 その言葉の意味を知らない私は、頭を押さえながら必死になって思い出そうと努力する。

 だけど肝心な所で思い出せそうにない。

 そのまま押さえ続ける事、数十秒。

 結局、肝心な所はわからないまま頭の痛みは引いていってしまった。

 

「何だったの? 今の……?」

 

「僕が聞きたいよ……」

 

 呆れるアムドゥシアスギルディの声を聞き、私はそう言えばエレメリアンと対峙している真っ最中だという事を思い出す。

 気を取り直して、立ち上がった私は再びアムドゥシアスギルディを睨みつけ構える。

 

「兎に角、あなたが特に何も企んでいないのはわかったわ。じゃあ何故、ヒカリをストーキングするような真似しているのよ」

 

「え、それは……」

 

 顔を赤くしてもじもじし始めるという何処か既視感を覚える素振りを見せるアムドゥシアスギルディ。

 もしかしてあれかしら?

 このエレメリアンもヒカリの事が好きになったとかそんな感じかしら?

 

「僕、あの子の事が……気になって……」

 

 どうやら図星みたいね。全く、エレメリアンってのは……。

 どうしてこうエレメリアンというのは一癖も二癖もある奴らばっかりなのかしらと頭を抱えたくなるそんな時、私はある事を思い出した。

 

「でも、待って。あなたさっき、ヒカリの事を見て何かブツブツ言っていたわよね? ヒロインがあがく様は何とかって……」

 

 声が小さすぎたのとそもそもエレメリアンがいるって事のインパクトが強すぎた事もあってか、そもそもアムドゥシアスギルディがヒカリを見て何を言っていたのかがはっきりと思い出せない。

 でも、何となくその内容があまり褒められた物じゃないのはわかる。

 

「ぐふ……よくぞ聞いてくれたね。実はね、あの夢宮ヒカリってアイドルはね、最高の負けヒロイン属性の持ち主なんだよね」

 

「ま、負けヒロイン?」

 

 言葉の意味はわからないけど、その語感からしていい意味には到底聞こえない。

 言葉の意味を分かっていない様子である私をみたアムドゥシアスギルディは待ってましたとばかりにその意味の説明をし始める。

 

「負けヒロイン、それはつまり、恋物語において想いを遂げる事が出来ずに物語を終えた悲劇のヒロインの事。要するに失恋する運命を背負ってしまったヒロインの事さ」

 

「それってつまり……」

 

「そう。夢宮ヒカリはね、負ける運命を背負っているんだよ。大好きな男の子を賭けた世紀の勝負において敗北するという絶対的な運命がね。僕はそんな儚くも尊い彼女が大好きなんだ」

 

 何? つまりこのアムドゥシアスギルディとかいうエレメリアンはヒカリが私との勝負に負けて和輝にふられる姿が好きだとでも言ってるの? 冗談じゃないわ!! そんな悪趣味な属性!!

 いけしゃあしゃあとそう言ってのけるアムドゥシアスギルディを見て、私のツインテールがカッと熱くなる。

 

「私の友達を馬鹿にしてるんじゃないわよ!! ヒカリはまだ負けてない!! 勝てるチャンスだってあるかもしれないじゃない!!」

 

 大きく地面を蹴り、柵を飛び越え飛翔した私は渾身の飛び蹴りをアムドゥシアスギルディに見舞う。

 だがしかし、生身の攻撃がエレメリアンに効くはずもなく、私はあっけなく弾き返されてしまう。

 

「くッ……!!」

 

「君さ、自分で言っている事の意味わかってる? 夢宮ヒカリは君との勝負に負けるヒロインなんだよ? なのにまだ負けてないとか、勝てるチャンスがあるとか、どうしてそんな言葉が出てくるんだい? 意味が分からないよ」

 

「だからってあの子の努力もあの子の想いを知らないあんたみたいな部外者が!! 勝手に運命を決めつけて嘲笑っていい筈が無い!!」

 

 ヒカリはアイドルという険しい道を弱音を吐かずに日々努力して進んでいる。

 それは偏にアイドルが好きって事だけだからじゃない。

 和輝という想い人のアドバイスがあってこそ、彼女は夢に向かって突き進んでいられるんだから。

 

「心外だなぁ、僕だって彼女の努力や想いは知っているよ。アイドルの仕事を人一倍努力している所やアイドルという立場に着きながらも人一倍誰かを想っている所、全てが完璧なヒロインの姿だとは思うよ。でもね、最終的な想いは決して実らない。だからいいんじゃないか」

 

「だからいいですって? あんた最低よ!!」

 

「ははは、基地でもみんなによく言われるよ」

 

 未だこれほどまでにエレメリアンに怒りを覚えた事はないと私自身、自覚できる程に興奮していた。

 故に和輝がいないというのに私はなおもエレメリアンに食って掛かる。

 

「あんただけは許せない……!! 友達の恋路を笑ったあんただけは!!」

 

「許せないって……別に悪い事してないと思うけどなぁ」

 

 何一つ悪びれる様子がないアムドゥシアスギルディ。

 それどころか、私に負けヒロインの魅力を伝えようとまでしてくる始末。

 その慇懃無礼な態度が私の逆鱗に触れる。

 

「いい? 負けヒロインってのはね――」

 

「さっきからうるさいのよ!!」

 

 無駄だとわかっていながらもこのまま何もしないだなんて出来なかった。

 だから私は、なおも空中から話しかけてくるアムドゥシアスギルディに向かって飛び掛かる。

 効かなくてもいい、ただ一発拳を叩きこめさえすればそれでいい。

 私はありったけの力を右の拳に乗せてアムドゥシアスギルディの顔面目掛けて叩き込まんとする。

 だけど――

 

「言っておくけど、どれだけあがいたとしても無駄な物は無駄なんだよ?」

 

「ッ……!!」

 

 私の拳はアムドゥシアスギルディの顔面に到達することなく、あっけなく突き出した腕を掴まれ止められてしまった。

 さらにアムドゥシアスギルディはそのまま私の首を掴み宙吊りの状態にする。

 

「くッ……!!」

 

「そんな目で睨まないでよ。僕が悪い奴みたいじゃないか……」

 

「どの……口が……」

 

 空中にて首を掴まれているがために呼吸さえ困難な私ではあったけど、何とかアムドゥシアスギルディの腕にしがみつくように握り、睨みつけている。

 一応、何とかして脱出しなければと考えるけど、何も浮かばないのが現状。

 一体どうすれば……?

 自分からピンチに陥るような真似しておいてあれだけど、こんな時こそ変身できさえすればと思ってしまう。

 

「ねぇ? そう言えば君、随分と強力なツインテール属性を持っているね。どうしてかな? さっきまでは全くもってツインテール属性が感じなかったのに」

 

 興味津々とばかりに覗き込んでくるアムドゥシアスギルディ。

 こんな時になって今更だけど、どうして私の属性力を隠す認識攪乱機能は一定の距離でないと機能しないのだろう。

 これもテイルブレスが故障している為なのかしら?

 

「まぁ、いいや。とりあえず君の事は報告するとしようっと」

 

 私を掴んでいる腕とは反対の腕で背中をゴソゴソと漁るアムドゥシアスギルディ。

 そしてアムドゥシアスギルディは美少女キャラクターがデザインされたスマホを取り出すと私に向かってシャッターを切る。

 

「送信……っと。よし、じゃあ君はこのまま基地まで連れて帰るね」

 

「何……ですって!?」

 

 基地に連れて帰る? ツインテール属性を奪うじゃなくて? それってつまり誘拐じゃない!?

 脳裏に浮かぶのは以前、バアルギルディが起こした和輝誘拐の事件。

 あの時は何とか救出することが出来たけど、果たしてこのまま連れさらわれて助かる見込みはあるのかと言えばそれはないに等しい。

 私は無駄とわかりながらも抵抗を試みる。

 

「放して……!! 放しなさい!!」

 

「もう野蛮だなぁ……」

 

 精一杯暴れるものの、アムドゥシアスギルディは全く持ってビクともしない。

 そして抵抗虚しく、アムドゥシアスギルディは基地へ帰還する為のゲートを上空に開く。

 

「じゃあ行くよ」

 

 ゆっくりと上昇し始めるアムドゥシアスギルディ。

 カッとなり冷静さを欠いた自分自身を悔やみながらも諦めかけるそんな中、私の耳に声が聞こえて来る。

 

「ティアナーー!!!!」

 

「和輝!?」

 

 下を除くとそこにいたのは和輝だった。

 でも、どうして? 和輝にはまだエレメリアンが出たって知らせてない筈なのに……。

 そんな疑問を浮かべたその時、事務所の窓に私の事を心配そう見つめるヒカリの姿が映った。

 成程ね、ヒカリが気づいてくれたのね……。

 折角、恋敵の一人がいなくなる大チャンスだって言うのに気にせず私の事を気にかけてくるヒカリのそんな姿を見て、私は一層、ヒカリの恋路を馬鹿にしたエレメリアンが許せなく感じてくる。

 そんな私の想いに応えんと和輝は柵の上から力一杯跳びあがった。

 

「うおおおおお!!」

 

 宙を舞うアムドゥシアスギルディに届きうる見事な大ジャンプ。

 だけど、アムドゥシアスギルディは素早く軌道を変えて和輝を躱そうとする。

 このままでは和輝も私も一巻の終わり。

 しかし、私は諦めない。

 

「いくわよ和輝!! 変身よ!!」

 

 今現在、私たちの距離は3メートルもない程の近さ。

 これならテイルドライバーを召喚することだって可能な筈。

 私はテイルブレスに念じ、テイルドライバーを和輝の腰に装着させる。

 

「そのベルト……まさか……!!」

 

 テイルドライバーを見て驚愕するアムドゥシアスギルディ。

 そして――

 

「テイルオン!!」

 

 空中にて弾ける青紫の光の繭。

 変身の衝撃を受けたアムドゥシアスギルディは私を掴んでいた腕を放し吹き飛ばされ、召喚したゲートは上空にて霧散。

 そして私は、変身を完了させた和輝に抱っこされる形で地上に帰還した。

 

「たっく……危機一髪だぜ」

 

 月光に照らされる青紫のツインテール。

 その輝きとカッコよさはシチュエーションも相まって思わず心がキュンとくる程であり、テイルバイオレットこと和輝はそんな私を見て安堵していた。

 

 

 

 

 月光に照らされた川沿いの道路にて、俺はティアナを抱っこしながら翼が生えたユニコーンのようなエレメリアンと相対する。

 この野郎はヒカリをストーキングするに飽き足らず、ティアナを連れ去ろうとしていやがったクソ野郎だ。

 絶対に逃してやるものか。

 

「ティアナは下がってろ。アイツは俺がやる」

 

「わかったわ、私の分まで頼むわよ」

 

 抱っこから下ろしたティアナはそう頷くと後方に下がっていく。

 それを確認した俺は目の前のエレメリアンに飛び掛かる。

 

「うおらッ!!」

 

 放つはいつも通りの強烈な右ストレート。

 その一撃は吸い込まれるようにエレメリアンの頬に命中。

 俺は確かな手ごたえを感じるがしかし、エレメリアンの野郎は全くもって怯みせず平然としてやがった。

 俺は驚きながらもすぐに持ち直し、即座に攻撃に移る。

 

「だらぁッ!!」

 

 型もへったくれもない荒々しいパンチとキックがエレメリアンに襲い掛かる。

 だけど、相変わらずこのエレメリアンは微動だにしていない。

 不思議なのはこれだけ平然としてやがるのに反撃をしてこないという事だ。

 その不気味な様子に一度距離を取った俺はコイツは中々に強敵だぜと理解する。

 

「もう、危ないなぁ……」

 

「危ないだと? チっ、なめられたもんだぜ」

 

 そう吐き捨てるが、内心は不気味で仕方ない。

 一体、このエレメリアンは何を企んでいやがるって言うんだ。

 

「言っておくけど、僕は反撃しないから気が済むまで殴ればいいよ。僕は君のように無駄なのにあがく姿が大好きなんだ」

 

 あがく様ねぇ……

 つまり、このエレメリアンは俺が諦めるまで攻撃を受け続けるってわけかい。

 上等だぜ、だったら悲鳴上げるまで殴り飛ばしてやる。

 そう意気込む俺は先程よりもより激しい連撃を開始する。

 がしかし、相変わらずこのエレメリアンはビクともしない。

 

「クッソ……」

 

「いいねいいね、その表情いいね。最高だよ」

 

 煽るエレメリアンを見てより一層力を籠めるもビクともしない。

 それどころか手を覆うテイルギアの装甲がどんどんボロボロになっていってやがる。

 その様子を見て次第にではあるが、俺の心に諦めの一文字が浮かび始める。

 

「にしても野蛮とは聞いていたけどここまで野蛮とはね。びっくりしたよ」

 

「うるっせぇ、人の彼女を誘拐しようとした奴に容赦してられるかってんだ」

 

 余裕からか攻撃をもらいながらも喋りだすエレメリアン。

 俺は殴る手を止めずにそのままに言い返す。

 まぁ尤も、俺は基本的にどんなエレメリアン相手だろうが一切の容赦はしないがなと付け加えておく。

 

「フフフ、やっぱりそうだよね……」

 

「あん?」

 

 何かは知らねぇが、エレメリアンの野郎、俺の発言を聞いて何か確信すると同時に笑みを漏らしやがった。

 一体なんだ? 何がやっぱりそうだっていうんだ?

 このエレメリアンの属性も性格もまるでわからない俺はただ頭を傾げるしかできない。

 

「念のために聞くけど、君……夢宮ヒカリの事をどう想っている?」

 

「んだよ急に……どう思うかだぁ?」

 

 そして今度は突然の問いかけ。

 その質問にどういう意図があるのか全くもってわからないが、だからと言って何も答えないというのも少し違うというか何というかだ。

 ここははっきりと言ってやる事にしよう。

 

「大切なダチの一人に決まってんだろ!!」

 

 ヒカリは匠や悠香さんらに並ぶ俺の大切なダチの一人であるとそう俺は宣言した。

 するとどうだ、エレメリアン野郎は先程以上にはっきりと大きな笑い声を上げはじめた。

 

「ハッハッハッハッハ!! だよね!! そうだよね!!」

 

「何がおかしい……!!」

 

 これには思わず殴る手を止めざる得ない。

 俺がそう反射的に殴るのをやめたと同時にエレメリアンはティアナが下がった方向に首を向けた。

 

「今の聞いたでしょ!! これが現実さ!! 彼女は負ける事が決まった天性の敗北者なのさ!!」

 

『ッ……!!』

 

 テイルギアを通して聞こえてくるティアナの声。

 そこからは苦虫を嚙み潰したようかのような不愉快さを感じ取れる。

 事情を知らない俺はどういう事なのかがさっぱりわからない。

 だけど、何となくムカついてきた。

 

「なぁ、ティアナ? あいつの属性って――」

 

『和輝……!!』

 

「うん?」

 

『一気に片付けるわよ……!!』

 

「……了解!!」

 

 俺とティアナの二人の考えが一致したその瞬間、それに呼応するかのようにティアナがいた方向から青い光が飛来する。

 そしてその青い光は愛情……というより怒りの激流となって俺を包み込み、追加装甲(テイルアーマー)を形成、瞬時にエモーショナルチェインへと変身を完了させる。

 

「ッ……!! この感じ……!!」

 

 強化変身と同時に流れ込んでくる激しい怒りの感情。

 これはちとばっかし制御するのが大変だな。

 でも、伝わったぜお前の怒り……!!

 

「へーそんな姿もあるんだ」

 

「そう言ってられんのも今のうちだぜ。言っとくが今の俺は俺自身制御効くかわからないもんでな」

 

「ふーん、そう。じゃあ来なよ。どうせ無駄だけどね」

 

 なおも、俺が諦め心が折れるのを狙うエレメリアン。

 今回も俺の攻撃を受けきるつもりの様子であり、回避する素振りを全く見せない。

 俺はそんなエレメリアンに全力の拳を叩きこむ。

 

「おらぁッ!!!」

 

「ッ!?」

 

 三度目の正直とはこの事か。

 先程まではビクともしていなかったエレメリアンは驚愕の表情と共に吹き飛ばされる。

 吹き飛び殴られた箇所を押さえ立ち上がるエレメリアンは一体何が起きたのかまるでわかっていない様子だ。

 

「ば、馬鹿な……」

 

「でらぁッ!!」

 

「ぐ……!?」

 

 そこから始まるのは一方的な蹂躙だった。

 サンドバッグのように殴っては吹き飛ばし、殴っては吹き飛ばしを繰り返す。

 殴る度にティアナの怒りが俺に伝わり、俺の力を増大させてくる。

 

「どうして……どうしてだよ……!! 無駄な筈なのに……!!」

 

「うるっせぇ!! この世に無駄な事なんてねぇんだよ!!」

 

 諦めちゃ何も変わらない。

 どれだけ無駄だろうとわかっていても俺は突き進んでやる。

 例えこれから先、どんな困難にぶつかろうとな。

 

「クッソ……こうなったら……」

 

「ッ!? それは!?」

 

 エレメリアンが苦し紛れに取り出した黒い石。それはまさしくエレメリアンを暴走させてしまう悪魔の道具、魔神の吐息(デモン・ブレス)

 あの野郎、それがどんな危険な物かも知らない癖に俺が驚愕した隙をついて使用しやがった。

 するとどうだ、ユニコーンの獣人だったエレメリアンの姿はみるみると大きく巨大化。二足歩行から一転して四足歩行となり、神話上なんかに出てくるユニコーンそのままの化け物と化しやがった。

 

「ウォォォォォッ!!」

 

「ッ!! 言わんこっちゃねぇ!!」

 

 雄たけびを上げながら道路上で暴れ狂う暴走エレメリアン。

 その姿からは先程までのふてぶてしさはまるで感じない。

 こうなったら一気にトドメを刺すっきゃねぇ。

 

「行くぞティアナ!!」

 

『うん!! やっちゃって和輝!!』

 

 ウインドセイバーを二本召喚し、即座に連結してナギナタモードへ、そしてさらにそのまま一気に完全開放(ブレイクレリーズ)。水と風が周囲に巻き起こり、嵐を起こす。

 

「うおりゃぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 放たれるは激流の光弾、エグゼキュートブレイカー。

 暴れ狂う暴走エレメリアンは迎え撃たんとその立派な角を突き出し防御するがしかし、エグゼキュートブレイカーは拮抗するのを許さずにその立派な角を真っ二つにへし折り、暴走エレメリアンの腹部を貫いた。

 

「ウ、ググ……ウオオオォォォ……」

 

 月光照らされる中、派手に爆散するエレメリアン。

 それを確認し終えた俺は人目についていない事を念入りに確認しながら変身を解除するのだった。

 

 

 

 

「お疲れ、和輝」

 

「おう」

 

 戦い終え駆け寄ってくる和輝。

 口ではああ言っているけど、心なしかいつもよりも疲弊している気がする。

 やっぱりちょっと無茶させすぎちゃったかな……。

 危うく連れ去らわれかけた事と言い、今回は少し反省する必要があるわね。

 

「そういや結局、何の属性だったんだ?」

 

 属性玉を回収し終えた矢先、和輝が不意にそう尋ねてくる。

 だけど私としては、今回の件は秘密にしておきたい。

 ヒカリにも和輝にもね。

 

「秘密よ、秘密」

 

 はぐらかすにしては随分と素っ気ない返しだったとは私も思うけど、和輝は納得したのかそれ以上聞いてくるそぶりは見せない。

 私たちはヒカリたちが待つ事務所に向かって歩き始める。

 

「ねぇ、それよりも和輝」

 

「うん? どうした?」

 

「今日はもう遅いし、ヒカリを家まで送りなさいよ。勿論、あなた一人でね」

 

「え?」

 

 昨日から今日の昼間にかけて私は和輝をヒカリにとられまいと振舞っていた事もあり、事情を知らない和輝はただただ驚いている。

 

「ど、どうしたんだ? 急に?」

 

「どうしたもこうしたもないわよ。ヒカリは今をときめくアイドルなのよ。彼女の事を狙うのはエレメリアンだけとは限らないわ。だから和輝が付いて行ってあげなさいって事」

 

 本当は少しでもヒカリに和輝と二人きりでいられる時間を作ってあげたかったからだなんて、和輝には絶対に言えない。

 だって言えば和輝、絶対にヒカリに変な事を言い出しそうなんだもの。

 これはあくまでも私とヒカリの二人の問題だしね。

 

「いや、でも……どうして俺一人で……」

 

「何なの和輝? もしかして私がエレメリアンでもないそこらの一般変質者に負けるとでも?」

 

「いや、そういう事じゃなくてよ……」

 

「はいはい。いいからさっさと迎えに行く!! 私は先に帰ってるからね!!」

 

 強制的に話を終わらせた私は駆け足で家のある方角へ走っていく。

 正直、これで本当に良かったのかわからない。

 私だって和輝と結ばれたい。

 だけど、ヒカリに不幸にもなって欲しくはないという気持ちも勿論ある。

 

「恋って難しいね……」

 

 夜空の下、私は誰に聞かせるつもりでもなく、ただ一人そう呟いた。




元のプロットでは今回のラストに和輝がティアナたちの目の前でヒカリをふるというシーンがあったんですけど、前回の話の流れからしてヒカリがあまりにも可哀想だなと思い、ボツに。
結果として今後どうなっていくかわからない風になってしまいましたが、一応、この作品のヒロインはティアナで決定していますのでその辺はご了承ください。

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