俺、ツインテールになります。2 's ~二人で結ぶツインテール~ 作:中川カイザー
まだ外はやや薄暗く、太陽が上り切っていない朝焼けの頃。
いつもならけたたましく俺を起床させる目覚まし時計が騒ぎ始める前に俺は飛び起き、大急ぎでリビングへ向かう。
当然だが、リビングには誰もいない。
唯一の同居人である婆ちゃんはまだぐっすり夢の中だ。
俺はテレビも何も付けずに黙々と朝ご飯及び学校の支度を済ませていく。二度寝を誘発させる柔らかなソファに座るのはご法度なので見向きもしない。
そうこうしているうちに朝ごはんであるトーストが焼き上がり、制服への着替えを済ませる事が出来たのでひとまずテーブルにて朝ご飯をいただく事にする。
「いただきますっと」
ブルーベリージャムをふんだんに塗ったトーストを大急ぎで口の中に放り込む。
とてもじゃないがそこにはゆっくりと落ち着いた朝食の一コマとは言えないだろう。寧ろ遅刻寸前ギリギリの大ピンチな状態であるかのようだぜ。
「……」
そう言えば何故、普段ならティアナが起こしに来てくれる遅刻ギリギリまで眠っている筈の俺がこうも朝っぱらからせわしなく動き回っているのかというと、それには訳がある。
それは昨日の深夜の出来事だ。
俺は昨日、ティアナと共にアイドルであるヒカリの護衛をする為に一日中、彼女の仕事の様子を見学し、そして現れたエレメリアンを撃破する事に成功した。
そこまでは至って普通の俺の日常であり、特筆するような事もない。
問題なのはここからだ。
俺はその後、色々訳あって一人で帰る事になった。
ティアナとヒカリの二人との関係をどうすればと考え歩き続ける中、俺はひょんなことからかつて共に戦った総二さんたちの事を思い出し、いずれ総二さんが誰かと結婚して娘を授かるという事実が気になってしまった。キモイかもしれないが、気になっちまった俺は総二さんが誰と結ばれるかを頭の中で妄想し始めていく。そうしていると俺は重大すぎるある事を思い出した。
それはかつて俺とティアナが入れ替わった際、俺だけが見たティアナの幼少期の記憶の風景。そこに出てきた優しそうな父親と母親、ティアナの両親であるその人物こそ、より大人となった総二さんと愛香さんの二人だったんだ。
俺は驚くと同時にこの事実を早くティアナに伝えなくてはと思い、いてもたってもいられなくなったけど、その時は既に時刻はド深夜もいいとこであり、且つこの事実は電話ではなく直接会って話したかった。
結果、俺は今こうやって朝早くからティアナに会いに急いでいるという訳なんだ。
「ごちそうさん……よしいくか」
飲み込むように食べ終わった俺はそのまま流れるように歯磨きをすぐに済ませ、既に準備万端である鞄を持って外に飛び出す。
「行ってきます……っ!?」
「ッ!!」
ドアを開けた先、そこには丁度今インターホンを鳴らそうとしていたティアナがいた。
「お前、どうしてこんな早くに……」
「和輝こそ……」
お互いにまさかこんな朝早くから来てるとは思っていなかったのか、俺もティアナも少し硬直してしまう。
ようやく脳の処理が終わり、動き出せるようになった俺は昨日思い出した事を伝えるべく声を張り上げる。
「「ティアナ(和輝)!! 思い出した事があるんだ(の)!!」」
◇
開門したばかりの校門を抜けた俺たちは落ち着いて話せる場所を求めて新聞部の部室へと向かう。
その道中、丁度同タイミングでやって来たとされる悠香さんと青葉さんとばったり出くわした。
「あら、和くんにティアちゃん。どしたのこんな早くに」
「珍しい……」
訳を話す時間も今は惜しいという事もあり、俺たちは何も言わずに悠香さんたちを加えて部室へと急ぐ。
そして部室に辿り着いた俺たちは大急ぎでそれぞれの定位置であるソファや椅子に座り、話し合う体勢を整える。
「ねぇ、どうしたの? そんな慌てて」
「訳がしりたい……」
「すいません、ちょっとタンマ……」
ごもっともな反応を見せる悠香さんと青葉さんととりあえず深呼吸して落ち着こうとする俺とティアナ。
何とか落ち着かせる事、数秒間。ようやく落ち着きを取り戻した俺とティアナは今度はどちらから先に話すべきかを考える。
ティアナの方も重大そうな話故にこればかりは仕方ない。
「和輝、あなたの方からお願い。私のはちょっと訳ありだから……」
「お、おう。わかった」
ティアナのその言葉から少し嫌な予感をしながらも俺は昨日思い出した事をみんなに向かって語りだす。
「ティアナには言ったけどよ、俺さ、以前ティアナと身体が入れ替わった時にティアナの過去を見たことがあったんだ」
「へ~あの時そんな事があったんだ」
入れ替わりという単語を聞いて懐かしさにふけて呑気な声を出す悠香さん。
そんな悠香さんは置いておいて俺は話を続ける。
「昨日までは忘れていたけど、俺はその時、ティアナの両親の顔を見ていたんだ」
「成程、つまり和くんはその顔を思い出したって訳なのね」
「ああ、そしてその人物は俺とティアナがよく知る人物だったんだ」
「私の知っている人物……」
よく知ると聞き、ゴクリと唾を飲むティアナ。
俺もいざ言うとなると緊張してくる。
「いいか、落ち着いて聞けよ。お前の父親と母親は総二さんと愛香さんだ」
そう言ったと同時に静まり返る部室内。
悠香さんと青葉さんは俺とティアナと違って異世界に行っておらず話でしか聞いていないのであまりピンと来ていない様子なのは仕方ない。
だけどティアナの方もあまり驚いた様子を見せていない。
これは一体どういう事だよおい。
もしかしてあまりにも衝撃的すぎて言葉を失ったとかいうあれかと思った矢先、ティアナは静かに口を開く。
「そう……やっぱりなのね……」
「え? それだけ? てかやっぱりってどういう事なんだよおい」
あまりにもあっさりとした反応を見て逆に驚いた俺はティアナに向かってそう尋ねた。
「いや、何というか……何となくそんな気がしていたの……」
「は? それはどういう事だ?」
何となくんな気がしてただぁ?
ますます意味がわからなくなった俺は再度聞き返す。
するとティアナは俺の方に向き直り、今までの事を振り返るかのように語りだす。
「いい和輝? 私のお父さんは私と同じくらいツインテールが好きな人物なのよ。そんなの私の知る限りじゃ総二さん以外考えられないわ。それに私、総二さんや愛香さんと会った時、初めて会った気がしなかったし……。それにそれに私の本名である総愛って名前も二人の名前の頭文字を合わせているし……それ以外にも上げればキリがないくらい引っかかる点が多いのよ」
成程、確かにそう言われれば総二さんと愛香さんを疑いたくなる気持ちもわかる。実際、総二さんとティアナは雰囲気とツインテール好きな点がかなり似ていたし、愛香さんに関しては身体能力の高さと胸の貧相さが瓜二つ。三人の関係性を疑ってかかっても無理はない。
まぁでも、名前に関しては少し考え過ぎな気もする。
「まぁ兎に角、お前が総二さんと愛香さんの娘であるって事は俺ははっきりと見た訳だしそれは事実って事だ」
「そうなのよね……」
あれ? 両親が誰かわかりもっと喜ぶかと思っていたがどうもティアナは暗い様子だ。
何となく、総二さんがお父さんだという事を知って以降、酷く落ち込んでいるようにも見える。
俺的には総二さんのようなツインテール愛が深い人物が父親だと知ってもっと喜ぶような気がしていたのだがこれは一体どういう事だろう?
「ねぇ、あなたたちさっきから盛り上がっているけどさ、ちょっとおかしくないかしら?」
「はい?」
何かに引っかかりを覚えたのかさっきまで黙って聞いていた悠香さんがそう尋ねてくる。
俺としては何がおかしいのかさっぱりわからない。
「いやね、あなたたちさっきからさも平然とその総二って人と愛香って人の事をお父さんだとかお母さんだとか言っているけど、確かその人たちって和くんたちは実際に会っているのよね?」
「はい、でそれがどうしたんだよ」
「いやだって、その総二って人も愛香って人も、二人とも結婚してなかったんでしょ?」
それを聞いて俺はハッとする。
そうか、俺はさっきから当然かのように話していたけど、あの二人はまだ結婚なんてしておらず、精々愛香さんの一方的な片思いで終わっていた関係だった。
それに総二さんも愛香さんも当然のようにティアナの事なんかわからないと言った様子だった。
これは一体どういう事なんだ?
冷静になってみれば見る程意味がわからなくなる。
もしかして俺の見間違いだったのかだなんて疑心暗鬼になっちまうほどだ。
「もしかしてティアナちゃんは未来からやって来たのかも……」
今度は青葉さんがボソッとそう呟いた。
俺はそれを聞いて霧で覆われかけていた頭の中が晴れていく。
「そうか……!! それだ!! ティアナは今まで別の異世界からやって来たとばかり思っていたけど、それはおしいようで違っていた。本当は別の異世界且つ未来からやってきていた。そういう事か!!」
今まで同じ時間軸からやってきているとばかり思っていたからわからなかったが、ちょっと考えてみればそれがおかしいと直ぐにわかる。ティアナは総二さんたちがいる世界の未来からやって来たんだ。
今更、未来からやってきたとか言われても何も驚きやしない。
なんせ今までそれよりも凄い異世界からやってきたとか言ってたんだしな。
「成程、そう考えれば辻褄は合うわね。ナイス青ちゃん」
「あれ? でもまてよ。確か総二さんには既に未来からやって来たとされる娘がいた筈……」
再び俺の頭の中に霧が立ち込める。
原因なのは総二さんが語った未来からやって来た娘、観束双愛。
総二さんが言うには双愛は一人っ子だったようだし、それに双愛はティアナと瓜二つであっても同一人物ではないから訳が分からなくなる。
暗い様子のティアナにその事を聞いても私には姉も妹もいなかったとしか返してくれない。
「じゃあなんだ? どっちかが本当の娘でどっちかは偽物の娘だとでも言うのかよ!?」
頭がこんがらがって何が何だかわからなくなる。
そんな時、青葉さん再び口を開く。
「いや、もしかしたらどっちも本当の娘って線もあるんじゃないかな……」
「青ちゃん、それどういう事?」
「パラレルワールドだよ……。つまり、ティアナちゃんが生まれたのはその総二って人が愛香って人と結ばれた世界線なのかもしれないし、それとは違う何か別の未来を辿った世界線なのかもしれないってことさ……」
つまりあれか? 俺たちがよく使っている平行世界の正しい意味での使い方って奴か?
例えに出すと俺たちが今まで言っていた異世界というのが国や星だとするのなら、今言っている違う歴史を辿ったパラレルワールドって奴は銀河や宇宙に当たるって事なのかもしれない。
言葉の意味が何となくでしか分かっていない俺ではあるが、確かにそれなら二人が瓜二つだという事や名前が同音なのも頷ける気がしてくる。
「歴史は一つじゃない……。同じようで何処か違う歴史の世界があってもおかしくないのさ……」
「成程、流石青ちゃんね。こういう事を話させたら右に出る者はいないわ」
悠香さんのサムズアップに同じくサムズアップで返す青葉さん。
色々と謎だった箇所が明らかにスッキリとしていくそんな中、相も変わらずティアナは暗い様子のままなのが俺は気になって仕方ない。
「なぁ? もしかしてお前が思い出した事と関係あるのか?」
「うん……」
何となくだが嫌な予感がする。
俺自身の言いたい事は既に済んだという事もあり、今度はティアナの番に移る事にしよう。
そうすれば何故、ティアナがこんなに暗い様子なのがわかるかもしれない。
「実はね、私の記憶を失う原因となった事を思い出したの。でも、その内容がとてもじゃないけど信じられなくて……」
「信じられない? どういう事だ?」
「そのね……私、戦っていたの。ボロボロになった街の中で暴れるある人と」
「ん? それって……」
ティアナが言葉を聞き、俺はティアナの過去を見た際に最後に見たあの光景を思い出す。
無茶苦茶に荒らされた廃墟の中で佇む謎の人物と対峙する変身したティアナ。
あれを見た当時はあまりに衝撃的な内容過ぎたのだが、その後に色々な出来事が重なったが故にその謎の人物とやらがどんな奴だったのかを俺はすっかりわすれてしまっている。というより、何となくだが思い出したくないと脳が勝手に判断して思い出せなくなっているような気すらしてくる。それほどにその謎の人物は俺にとって刺激が強い人物なのだろう。
「ねぇ、もしかして……!? そういう事!?」
何かを察した様子の悠香さん。
対するティアナはゆっくりと首を縦にふる。
「私は……テイルレッドと戦っていたの」
な、なに!? あのテイルレッドと戦っていた!?
言葉にならない程の凄まじい衝撃が来ると同時に、当時俺が見た光景にかかっていた靄が鮮明になり、忘れていた謎の人物の姿が明らかになっていく。それは紛れもなくあの赤いツインテールが特徴の戦士、テイルレッド。
俺がティアナの過去を見たときに映った最後の光景に出てきた謎の人物はテイルレッドだったんだ。
そんな筈が無いと思って否定したくなるが、俺自身も一度はその光景を見ているが故に否定する事が出来ない。
「それって本当なの……!? 確かテイルレッドってあたしたちの世界含めた全世界をアルティメギルから救った英雄なのよね? それにさっきの和くんの話が本当だと仮定するならテイルレッドってティアちゃんのお父さんなんじゃ……」
一度見ているが為にある意味冷静になって事実を捉えている俺とティアナを違い、悠香さんと青葉さんはさっきの話の流れから含めてか強く驚いている。
「一応、聞くけどそれって、単なる親子喧嘩だとか模擬戦とかじゃないよね……?」
青葉さんが至って当然の質問を尋ねる。
だが、俺とティアナの表情は優れない。
あの光景を見ている奴ならわかるが、あれは単なる親子喧嘩や模擬戦では断じてない。寧ろ、互いにツインテールを奪う、奪われまいと本気になって戦っていて、ティアナからは怒りや憎しみのような感情すらも伝わって来るほどだったのをよく覚えている。
「そう、じゃあ考えられる事は二つになるわね」
「二つ?」
「そう、まず一つはティアちゃんがいた未来の世界でテイルレッドが乱心を起こしそれを止める為にティアちゃんが戦っていた」
落ち着きを取り戻し至って冷静に仮説を述べる悠香さん。
曰く、未来の総二さんが何らかの原因か理由がきっかけで暴れ出してしまったのではないかという事。
確かに可能性としては無くはないが、あまりピンと来るようなものではない。
いくら俺たちが出会った総二さんとティアナの父親である未来の総二さんがパラレルワールド故に別人だとしたとしても、あの総二さんがそんな事を自分からするような人物には到底思えない。ティアナの記憶を見たときに映った何気ない日常の風景での総二さんは俺が出会った総二さんと何ら変わらない優しいいい父親だったんだ。
「悠香さん。多分、違うと思います。総二さん……いや、お父さんはそんな人じゃなかったはずです」
ティアナも俺と同じ意見な様子であり、悠香さんの言った仮説をやんわりと否定する。
すると悠香さんは寧ろ、次の仮説の方が本命よとばかりに口を開く。
「あたしが考えるに、もう一つは、未来の世界でテイルレッドが何者かに洗脳され操らてしまったもしくは肉体を誰かに乗っ取られてしまったって線なの」
「んな馬鹿な!?」
悠香さんが述べた本命の仮説は思わず声を上げてしまう内容であった。
あの心身ともに強い総二さんに限ってそんな筈が無い。絶対にあってなる物かと俺は強く訴えたかったほどだ。
だけど、さっきの仮説と比べると実際にテイルレッドが暴れている場面を見ているという確かな説得力が存在するのもまた事実であり、強く言い切る事が出来ない。
「つまり、悠香は闇堕ち、もしくは悪墜ちって可能性を考えている……。そういう事だね……」
「そうよ青ちゃん。今考えられる可能性としてはそれしかないわ」
本当にそれしかないのか?
もしそうだとするのならあまりにも悲しすぎる。
愛してやまないツインテールを悪事に使い、実の娘と死闘を繰り広げ、結果としてその娘であるティアナを遥か彼方の過去の異世界に飛ばすことになるだなんて、そんな事実、絶対にあっていい筈が無い。
「ティアナ、お前はどう思うんだ? 総二さんが誰かに操られているとでも思うのか?」
「それは……」
言っておいて何だが中々に酷な問いかけだ。
ティアナからすればようやく判明した実の父親が、元居た未来の世界では何者かの原因で悪の道に墜ちて敵として戦う事になってしまっているだなんて嫌な気持ちになるに決まっている。
ティアナがさっきから暗かったのはこれを想定していたからかもしれない。
何なら総二さんが父親ではないという事すらも願っていたんじゃないかと思うくらいだ。
「操られていると仮定するなら、問題なのは誰が操っているのかって点ね。ねぇティアちゃん? テイルレッドと戦っていたという記憶意外に何か思い出したこととかないの?」
「すいません……思い出したのは私がお父さんと戦っていたという事だけなんです」
「そう……。ごめんなさいね、辛い事聞いちゃって」
希望的観測を上げるとするなら俺たちがみたテイルレッドがただの偽物で総二さん本人じゃないって線だけだけど、現状の得られている情報からじゃテイルレッドが敵に操られたって線の方が説得力がある。
果たしてどうするべきなのか。
いずれではあるがティアナは元の世界に帰らねばならない都合上、この謎を解かない限り道はないと言っても過言ではない。
「兎に角、今のあたしたちじゃここまでのようね」
「そうだね……」
悔しいが悠香さんの言う通りだ。
現状の俺たちじゃ何も出来やしない。
もし、ティアナが元居た未来の世界に行くことが出来るのなら、真実がわかるかもしれないっていうのによ。
後味の悪い空気漂う中、俺とティアナは部室を後にするのだった。
◇
今日の一限目の授業はロングホームルームであった。
その内容はズバリ二週間後に迫った文化祭の出し物について。文化祭と言えば年に一度だけ開かれる学生たちにとって最も楽しめる行事と言っても過言ではなく、その盛り上がりはやはり尋常ではない。現にクラスメイト全員が今年はあれをしようこれをしようと言いあってわちゃわちゃと盛り上がっている。
だが、悲しいかな俺とティアナの二人は先程の件も相まってあまりに乗り気にはなれておらず、周りの楽しそうな空気に必死に合わせるので精一杯といった状況だ。
「なぁ? お前ら何かあったのか?」
不審に思った匠が俺とティアナにそう尋ねて来た。
「まぁ、ちょっとな……」
「うん……」
「お、おう。そ、そうか……」
雰囲気から察してくれたのか匠はそうかの一言で済ませてくれた。
一応、匠や華先生といった他のメンバーには放課後、何があったのかを伝えるつもりではあるので今はそっとしておいてもらおう。
「はい皆さーん!! 静かにー!! では今年の出し物について議論していきたいと思いまーす!!」
黒板の前に立ったクラスの委員長(名前は忘れた)が大きな声を張り上げる。
今日のロングホームルームは基本的に担任は関与せずに見守るだけなので、今回のまとめ役は必然的に彼女と言う事になる。
委員長の声を聞いた事でさっきまでわちゃわちゃと騒ぎ立てていた他の奴らはスッと黙り、それぞれがそれぞれの席に着席する。
「では、今年の出し物について希望があれば手を上げてくださいー!!」
その瞬間、俺とティアナと匠を除いた殆どがスッと手を上げる。
それはもう、あまりにもピッタリ同じタイミング過ぎてビビっちまうくらいだ。
それほどに皆、やりたい出し物があるのだろう。
俺からすれば基本的に何でもいいので流れに従うしかない。
「じゃあ一番速かった鈴木君!!」
「は、はい!! ぼ、ぼくは……」
最初にあてられたのはクラスの中のオタクグループのリーダーである鈴木だ。
制服からはみ出んばかりのでっぷりとした大きな腹を持ち上げながら起立した鈴木はおどおどと緊張しながらも何とか声を張り上げる。
「やっぱり、テイルバイオレットたんの活躍鑑賞会を希望します」
うわぁ、やっぱり来たか……
いずれは必ず来るであろうテイルバイオレット関係の出し物については少し覚悟はしていたつもりではあったが、まさかの一発目からとは思っても見なかったぜ。
尤も、テイルバイオレット大好き勢であるオタク軍団リーダーの鈴木が一発目にあてられた時点で何となくそんな気はしていたのだがな。
「えーっとそれは具体的にはどういった出し物なんです?」
「そ、それは……今までばくたちが集めてきたテイルバイオレットたんの活躍の歴史を教室のプロジェクターで鑑賞する出し物で、テイルバイオレットたんの人気も相まって人気間違いなしの出し物になる筈です!!」
乗って来たのか段々はきはきと喋りだす鈴木。オタク仲間である他の奴らはいつの間にか取り出していたテイルバイオレットグッズを手にその説を後押ししている。
にしても成程、ようするにお前らオタク集団の日々の努力の結果をみんなに見てもらうって内容って訳か。
何というか、俺にとっては恥ずかしさこそあれど、全体的に楽が出来そうな出し物だな。
でも、普通はこういうのって研究会とか部活動でやる内容なんじゃないかとは思うぜ。
「そ、そうですか……。わかりました。一先ず、候補に入れましょう」
「ぜひ!! お願いします!!」
苦笑いを浮かべつつも黒板にテイルバイオレット鑑賞会と文字を書き込む委員長はある意味流石だ。
書き込み終えた委員長は気を取り直して次の人を探す。
「はい!! じゃあ次は水嶋さん!!」
「はい!!」
次にあてられたのはティアナの友人の一人である彼女だ。
彼女はさっきの鈴木と違ってテイルバイオレットを応援こそしていても、あそこまでの熱狂っぷりは見せていないので、きっとまともな出し物をやりたいと言い出すだろう。
「私は占いの館がしたいです!!」
うわー出たー。滅茶苦茶オーソドックスな奴じゃねぇか。
女子=占い好きとはよく聞くがまさかマジだったとはな。
その後語った内容はズバリ、それぞれが占いの道具を持ち寄って客を占っていくという物で、わかってはいたがやはりオーソドックスな物であり変化球めいた特色が何かあるわけではなかった。
まぁ、俺としてはこれはこれでサボりやすそうではある。
「はい!! では次!!」
どんどんヒートアップしていく教室内。
クラスメイト達が皆それぞれメイド喫茶やらお化け屋敷やらと出したい出し物を述べては、委員長がその内容を黒板にバシバシ書き込んでいく。
面白いのはテイルバイオレット関連の出し物が最初の鑑賞会を除けば劇をやりたいと言い出す奴がいたくらいであり、殆どいないという事だろうか。
俺としては辱めを受けずに済むと安堵する一方でちょっと寂しいような気もする。
「ではもう時間もそろそろなので、多数決をしたいと思います!!」
そうこうしているうちに決戦の時がやって来た。
この多数決によって今年の出し物が決まる大事な瞬間だ。
俺としては一番サボれそうな物を選ぶつもりだ。
「さて、どうしようか……」
どれに投票しようかと迷い始めたその時、ティアナが肩を叩いてくる。
「どうしたんだ?」
「エレメリアンよ。場所は近いわ」
「マジか……昨日来たばっかなのによぉ……」
エレメリアンの野郎。昨日に引き続き今日もかよ。
まぁでも、うだうだ言っても仕方ない。
俺がテイルバイオレットである以上、戦いに赴くしか方法はないのだからな。
俺とティアナは揃って用事が出来ましたと担任と委員長に一言入れた後、ちょっと待ちなさいの制止も聞かずに教室内を飛び出した。きっと後始末は匠がやってくれると信じている。
「ねぇ和輝……!!」
「なんだ……?」
階段を駆け下り、バイク置き場へ向かう際中、ティアナがそう声をかけてきたので振り向いた。
するとそこにはどことなく不安気なティアナが俺を見つめている。
「その……ううん、やっぱり何でもない」
「そ、そうか……」
ティアナのその態度から形容し難い不安に駆られるのであった。
毎度、焦らしてすいません。
次回はあのキャラが大暴れをし始める予定です。