4月
俺、犬飼真太郎は高校2年生になった。まだ桜が残っていて時折、風が吹くと散っていきとても幻想的な風景だ。
俺は机に座りながら頬ずえついて、窓際から外の様子を見つめている。
春とはいえ、まだまだ肌寒く薄着にしている人はほとんど居ない。
馬鹿みたいに騒いでいるヤンキー集団も全員制服を、多少は崩しているが着込んでいる。
「おはよ〜」
教室に入ってきた、くすんだ金髪の顔立ちは綺麗なギャルがヤンキー集団に近寄っていく。
俺の傍を通り過ぎる時に一瞬だけこっちを向いたが直ぐに目を逸らした。
彼女の名前は天野 勿花(あまの もか)。
一応俺の幼馴染だ。
俺と彼女の両親が親友同士でよく家族ぐるみでキャンプやBBQなど色々と遊びに行ったものだ。
勿花は子供の頃は天真爛漫でよく走り回って迷子になったものだ。
そして、それを見つけに行くのが俺の仕事だった。
だが、今の彼女はあの頃の面影があまり見受けられなくなっていた。
髪は金髪に染めていて、服装も崩しているしスカート丈なんて少し屈めば下着が見えそうなほど短くなっている。
高校生らしくないほど普段から化粧をめかし込んでいて、一見どこかのOLかそういうお店で働いている人のようにも見える。
はっきり言って安っぽい女に思えて仕方がない。
しかし、彼女のスタイルは抜群でとても魅力的だ。
胸は大きくふくよかで、腰は綺麗にくびれている。
スタイル維持のためにしているストレッチやウォーキングなど、陰ながらの努力が、目に見えて現れていると思う。
夜になると必ず1度俺の家に来て両親に顔を見せている。
母は『通い妻みたいね〜』と喜んでいて時々、家で晩御飯を食べてまた、歩いて帰っている。
良く考えたら、夜のウォーキングを始めたのはあのヤンキー集団のリーダー格、今藤 昂 (こんどう ごう)と付き合い始めてからの気がする。
高校1年生の頃、丁度期末テストが終わった日の放課後に誰も居ない教室の中で僕の目の前で自分の交際関係を告白してきたのだ。
初めはその事実をしっかりと認識できずにいたが家に帰り夕食を食べる頃になると段々と寂しさが出てきてその日の夜は、ほとんど一睡も出来ずに夜を明かした。
普段、自分の隣にいるのが当たり前な1番身近な友人が、何処から遠くの人間に思えてしまってとても怖くなってしまったのだ。
「昔は、良かっなのにな…」
そんな風に黄昏ていると自分に近づく者の気配を感じて、そちらを見る。
「よぅ真太郎、何朝から辛気臭い顔してんだよ」
ニヤケ面で俺に挨拶してきたこの男は俺の友人の1人、大澤 昇吾 (おおさわ しょうご)だ。
見た目通りおちゃらけた奴が、性格は前向きで楽観主義と言うやつだ。
良い言い方をするならムードメーカー、悪い言い方をするなら騒がしい奴という印象だろう。
「また、例の幼馴染の事を思ってたんだろ?
ヤラシイ奴だな、お前も」
「うるせぇよ。そもそもそんな事思ってもねぇからな」
俺は強い口調で否定したが、昇吾はそんな事お構い無しいふざけた口調で話を続けようとする。
「またまた〜。本当は大好きな女の子が盗られて妬いてんじゃねぇのかよ〜」
「何度も違ぇっつってんだろが」
今まで何度もこのやり取りをしてきた。
その度に俺は否定しているが、昇吾は気にせず続ける。
確かに妬いた事もあったがそれは、親しい友人として、である。
今までずっと家族のように、一緒に育ってきた親しい友人を異性として捉えることは無かったのだ。
つくずく嫌になる。
美人な幼馴染、それも妖艶な美しさのある一見お姉さんのような幼馴染だ。
たとえ俺自身が冴えない、目付きの悪い悪人面な奴だったとしても、周りの奴らは勝手に色恋に話を持っていこうとしやがる。
俺はアイツの事を異性として好きと思ったことは無いし、アイツも多分そうだろう。
本当の本当に今までずっと兄妹みたいだった。
色恋は苦手だ…気持ちがしんどくなってくる…。
「本当に…何処か遠くの所に行きたい…。」
「何時も、幼馴染の事を話題にしたらソレ言ってるよな。『何処か遠くの所に行きたい』って」
「昔の約束みたいなもんだよ。多分、本人は覚えちゃいねぇけどな。」
「……やっぱお前、あの子の事好きなんじゃねぇの?」
「…だから、違ぇっつの」
このやり取りもそろそろ飽きてきた。
そう思いため息をこぼす、すると何故か勿花が俺の方に真剣な眼差しをして近寄ってくる。
なにか、覚悟を決めたような顔つきをしている。
「ねぇ、シンタ。今日の放課後ここに残っていて欲しいの。」
「今じゃダメだですか、時間はありますよ天野さん」
俺はぶっきらぼうにやる気のない返事を返す。
俺の苗字呼びに少し悲しそうな顔をするがすぐに、先程と同じかそれ以上に真剣な眼差しをする。
まるでこれから一世一代の告白でもするような顔つきだ。
「ダメ。今は絶対にややこしくなるから。」
こいつがこんなに真剣になる時は何を言ってもダメだろう。
こう見えてこいつは結構頑固者なのだ、1度決めたらなかなか意見を曲げようとしない。
「……分かりました、放課後まちますよ…。」
「…ありがとう、シンタ」
それだけ言うと元いた所に戻っていき、先程と同じように振る舞う。
それを見ているととてつもない虚無感に襲われる。
「…はぁ、ホンットに何処か遠くに行きたい……」
心の底からの願い、多分人生最大の願望だった…。
その時、目の前にあった景色が暗転する。
自分の体すら見えなくなるくらいの暗闇だ。
何が起きたのか分からない。
何故か浮遊感を感じる。
椅子から落ちてしまったのだろうか。
この暗闇に囚われてから数秒後、光が戻ってくる。
辺りを見渡せば自分たちは一塊に倒れていた。
しかし、それよりも気になったのが、教室ではなくもっと別の、昔話に出てくるような洋風の建物の中にいたことだ。
壁や床が白い大理石の様なもので覆われている。それに対してカーテンは赤色で、廊下にも同じく綺麗なレッドカーペットが敷かれている。
「ここは……何処だ?」
まだ、身体がダルいが他のみんなが倒れている向こう側から、何やら御大層な甲冑を着た大柄な人達を引き連れた小柄な美少女が現れ自分達を呼ぶ。
「ようこそ、勇者の皆様。私の名はロザリーナ・ラ・フロレンシアと申します。どうか、私達の国をお救い願いませんでしょうか。」
「あぁ?なんだテメェ」
やべぇ、整理が追いついてないせいでメッチャ低い声出た…。