「いや、だってお前…」
「言いたい事は分かるが、少し黙れ」
えっ、なにこれ意味分かんない。
思わずキャラがブレるレベルで。
…マジかよ
「…殺人鬼、『鬼』ですか。」
「ちょっと待て、俺も状況が飲み込めねぇんだよ」
この職業を見てお姫様も顎に手を当て深刻そうな顔をしている。
それもそのはずだ。
なんせ、救国の英雄達を召喚したのにまさか殺人鬼なんて者が現れるなんて想像もしていなかっただろう。
俺自身、自分がこんな職業になるなんて思わなかった。
「オイ、どうなってんだよ!!」
怒鳴り散らしてこっちの部屋に入ってきたのは今藤だ。
その隣には当然の様に勿花もいた。
勿花は今藤の腕を引っ張って制止させようとしている。
今藤は気に入らないことが有ると直ぐに暴れ回る、手に負えない奴でイジメの主犯だ。
「お前、今すぐ俺達を元の世界に返せ!」
「そ…それは、今は無理です。先程も言いましたが帝国に侵略されている今、皆様をお返しする事は出来ないのです。」
「ここに連れてこられたんだから直ぐに返せるだろ!
早くしろ!」
「今は出来ません。」
「テメェッ!」
今にも殴り掛かりそうな勢いで今藤はお姫様を睨んでいる。
隣にいる勿花が手を引いて戻ろうとするが、其れが癪に触ったようで勿花を突き飛ばす。
雄叫びを上げながらお姫様に向かって殴り掛かる。
「危ない!」
昇吾がお姫様に警告するが、お姫様は咄嗟のことで動けない。
そう判断した俺は、直ぐにお姫様の前に立つ。
が、ここで不思議な事が起こる。
なんと、勢いよく向かってくる今藤が何時もよりゆっくり見えるのだ。
あっという間にお姫様の前に立った俺だが、今藤が殴るまでまだ時間があった。
そして、今藤の拳がようやく俺の顔に近ずいて来る頃に
は、これも不思議な事だが相手の急所がわかってしまう。
俺は目に手刀を、喉には拳をお見舞させる。
そして、股間を蹴り上げ前屈みに怯んだ所に頚椎に肘をくらわせる。
倒れた今藤の顔を踏みつけようとした時。
「止めて!」
勿花の悲痛な叫びで俺は我に帰る。
今にも泣き出しそうな顔をして俺に目で訴えかける。
これ以上はやり過ぎだと言うことを。
これ以上は死んでしまうかもしれないと言うことを。
「俺は…今…」
何なんだ今のは?
「今のは勇者としての、いえ殺人鬼としての特殊能力の様ですね。」
「今のが?」
「はい、多分ですが今、周囲の動きがゆっくり進んでいるように見えたのでは有りませんか?」
「ああ、そうだ。」
「それは、文献にも残っている能力の1つで身体能力強化だと思います。」
「身体能力、強化?」
今のが、職業に付属しているスキルの様なものなのか?
でも、それだけじゃあないような気がする。
今のはもっと、身体の奥底から溢れ出して来たものは?
「とにかく、今日はもうお終いにしましょう。
この方も医務室に運ばなければなりませんしね。」
今し方、襲われそうになったと言うのに、お姫様は笑顔で今藤の事を見つめる。
こうなる事も、少しは予想していたのだろう。
今藤の傍にはさっきと変わらず勿鼻がそばに居る。
倒れてる今藤の傍には居る勿花は、まさに彼氏の事が大好きな彼女と言うふうに見える。
俺はそれを横目に、先程の自分の状態について思いを馳せる。
先程感じたものは、確かに身体能力が良くなったと思う。
相手の急所が分かるのが能力と言えば、そうなのだろう。
だが、今も自分の中に駆け巡り、余韻を残しているものは、一体なんなのだ?
本当は分かっている。
分かってしまう。
先程の俺には確かで、確実で、強大な殺意があったことを、思い知られる。
そんな事を思いながら、タンカーに乗せられ運ばれる今藤の事を見つめる。
「…なぁ、慎太郎…。大丈夫か?顔色悪いぜ?」
「あ、あぁ大丈夫だ。」
「さっきのカッコよかったぜ!」
「そうかよ。」
俺達は軽口を叩きながら笑い合う。
でも、俺はいま、歪んだ笑顔をしているだろう。