やはりこのセカイはまちがっている。   作:エイトマン

2 / 3
 今の段階だと、もし八幡と『雪』の2人だけで会話する場合、成り立たなさそうって思いました。むしろ、少しでも本音を出してくれるほうが仲良くしそう。また、『雪』のがMIXの技術は上です。

好きな曲②:けーだっしゅさんの『サンセットマーチ』


第2話

 

 ネットの知り合い同士で、お互いの顔は知らないままだ。

 

 メンバー5人全員が高校生なのは、ただの偶然だ。俺や暁山が同じ学校なだけであって、他のメンバーはもっと遠くに住んでいる可能性だってある。だから、ネットの知り合いなんて、一期一会だと思っていたけれど、この関係は続いている。だから、信頼はともかく、なんだかんだ信用はしていると俺は思う。

 

「エイト、おっそーい!」

 

 1時に関わらず、暁山、もとい、Amiaは元気な声だ。

 

 ナイトコードを通した音声とはいえ、そのクセのある声は余韻を残し、印象的に感じる。その歌も中性的で、コメントを見る限りファンも多い。さっきの猫なで声だって、かなり様になっているし、いつかそういうのを組み込んだ歌を作ってもいいかもしれない。また、動画担当であり、コラージュを活用して、かわいさとセンスの良さを発揮している。

 

「よう、おつかれ」

「うん。おつかれさま。さっきまで作業してくれていたんだよね」

 

 雪は、透明感のある声だと思う。

 

 大人っぽい雰囲気も合わせて、最初は、年上で女子大生なのかもしれないと思っていたが、同級生なのだと言われた時は驚かされた。俺と同じく、作詞・編曲担当であり、読書家ということが伝わってくる。雰囲気が違う作詞についてはともかく、編曲に関しては完全に雪のほうが実力は上だ。歌でも音程の正確さを感じさせられるし、音楽についても天才肌なのは確かだろう。

 

「とりあえず、鯖に入ってからにしなさいよね」

「わるいな。終わらせて入ろうと思ったら、なかなか手こずったんだ」

 

 えななんは、普段はその性格通りに強気な声なのだが、これが歌声になると、優しい声になる。本人曰く、SNSにおいて顔出しの自撮りとかで人気らしいが、そこは本人のプライベートなところだろう。ニーゴにおいては、イラスト担当であり、サムネイル用のキャラクターだけでなく、絵画のような背景まで描いてくるのだから、彼女もニーゴの人気の秘訣である。

 

「そうだよ。えななんも心配しちゃうもんね~」

「は、はぁ!? 変なこと言わないでくれる!?」

 

「エイト、今聴いたよ。おつかれさま」

 

 ミュートを切り、2人の騒がしさを潜り抜けるように、我らがリーダーのKの落ち着いた声が聞こえてきた。といっても、歌の時はメンバーで最も感情的な声で、ジャンル問わず、音楽に関して天才なのだと感じさせる。作曲担当であり、オリジナル曲をいくつも作ってきたし、少し教えただけでボカロの使い方もマスターしている。

 

「Amiaとえななんの声、曲に馴染んでいたよ。いいと思う」

「そうね。録音のときは心配だったんだけど」

「ねー いいmixしてくれるよ、ほんと」

「うん。そうだよね」

 

 Kのこと大好きなえななんが賛同し、Amiaや雪も純粋に褒めてくれるのだが、最近ようやく『初音ミク』合わせて3人分の編曲がスムーズにできるようになったくらいだ。今となっては、実力的にKと雪の手伝いに回っているのが現状といってもいい。

 

 ボーカルについてもこの4人で十分だし、いつか、俺の手伝いを必要としないグループになるかもしれない。

 

「……どこか気になるとこ、あるか?」

「そうだね。少し2人の歌が走っているところがあると思う……その箇所、まとめて送るね」

 

 リーダーにしごかれているおかげで、トライアンドエラーの日々だ。Kのアドバイスが的確なおかげで、ほとんど独学でここまで上達することができたのだろう。ボカロカバー曲をなんとなく投稿していた俺に、ボカロの使い方を聞いてきたKのおかげで、今も続けられている。

 

「ああ。俺なりに直してから送る。雪、あとは任せる」

「うん。仕上げ、やっておくね」

 

 俺たちに雪が加わって結成したニーゴにしばらくして、ファンアートを描いてくれたえななん、興味本位でMVの作成をしたAmia、それぞれKが勧誘してきた。

 

 最初期はボカロのオリジナル曲だけだったのだが、ナイトコードで毎晩聴いていたこともあって、せっかく4人共いい声なのだから、各自ボーカルの担当を提案した。そうしたら、ニーゴは知る人ぞ知るグループとなっていた。ふとニーゴの成り立ちを振り返ってみたが、モチベの高い5人それぞれが、できることをやってきただけだ。

 

 曲作りをやめれば、この繋がりは自然消滅するかもしれないし。

 

「ボクは『独りんぼエンヴィー』の続きかな~ そろそろ投稿に持っていけそう」

「じゃ。私は『シャルル』のほう、絵を描いておくわね」

 

 Amiaやえななんも、個人の作業を始めたようだ。こうして、通話を繋げていても、それぞれの担当の作業は必要なわけで、たまに2人を中心として世間話が盛り上がるくらいだ。そういう意味では、このグループも、『曲作り』という目標を持っている同僚に過ぎないのかもしれない。

 

「そうだ。エイト、雪、さっきできた新曲のラフ送るから。時間あるときに聴いて、明日意見を聞かせてくれないかな」

「ペース早いな。了解っと」

「うん、わかった」

 

 ニーゴのグループチャットに、音楽のファイルが送信された。これを一度自分のPCにダウンロードしなくても再生が可能なところが、ナイトコードの利点だ。これは、雪の作詞のほうで、『サンセットマーチ』という曲らしい。奏のほうですでに初音ミクに歌わせているらしいが、相変わらずの調教の上手さだ。

 

 心地よいリズム感があり、思わず歌詞を口ずさんでしまいそうだった。

 

「エイト、今から送るね」

「おう」

 

 ナイトコードの通知音がしたので、Kに指摘されたところを直し始める。

 

 フレーズごとに切り分けたものを、少しずつずらして、確認を重ねる。たぶんこれが雪だったのなら、少し聴いただけで正解がわかるのだろうが、俺は地道にやっていくしかない。普段ナイトコードで聞いている声とは、一味違った歌声を何度も聴くことになる。

 

 ただ、今まで投稿した動画にコメントされるように、4人共いい声を持っているので、思わずニヤニヤしてしまうのである。以前耳にしたくらいだが、桐谷遥って中学生アイドルとは、また別の持ち味がある。

 

『こんな感じでどう?』

 

 作業の途中で、えななんから『クロッカス』の花のラフ画が送られて来たので、『綺麗に描いててさすが』ってコメントを返しておく。グループ内にこれほどの絵師が付いていてくれていて、要望以上に描いてくれるのは、本当にありがたいことだ。でも、まあ、こいつ、動画の絵に関するコメントにはかなり一喜一憂するから、時たまフォロー入れてやらないとならない。

 

『さっきの、ほんと?』

『絵に関して詳しくないが。俺はお世辞とか嫌いって知ってるだろ』

 

 えななん個人に対するコメントを返信しておいて。

 

 さて、こっちの作業も一通りは終わった。

 

『雪、これから送るが、寝たかったら明日でもいいからな』

 

「ううん、まだ起きてるから大丈夫」

「ああ。まあ、無理はすんなよ」

 

 すでに、PCの右下は2時を示していた。

 現役女子高生にとっては、かなり夜更かしだろう。雪の『大丈夫』って言葉はなんだか軽く感じてしまう。

 

「そうだ。K、曲は聴いたよ? 今は返事できる?」

「うん。どうだった?」

 

 Kがミュートを外して、雪に返事をした。

 

 最初は俺も話しかける際に躊躇いがあったのだが、ミュート時も話を聞いていないわけではない。たぶん、PCモニターとか、音源とかが多そうだと、Kの部屋の中を予想している。現役高校生なのに、設備も本職並みだと思う。

 

「すごくいいと思うよ。エイトも聴いた?」

「そうだな。リズム感が出ているし、サビの盛り上がりとかウケるんじゃないか」

 

 作曲についてはほとんど知識がないが、電子音であそこまでの迫力を出せることに感心する。使っているソフトが良いのかもしれないが、Kの実力の高さがひしひしと伝わってくる。

 ていうか、雪は急に名指ししないでくれ。授業とかで数学の問題を黒板の前で解かされるよりはマシなんだが。

 

「へぇー、こりゃあ、次の曲も楽しみだねぇ」

「そうね。さすがKね」

「ありがとう」

 

 Amiaもえななんも、Kの作曲技術について、いつも感心しているのは確かだ。えななんに至っては、ここまで気を許してうっとりとした声を出すのは、このメンバーの中でもKに対してだけだ。

 

「そうだ、エイト。このボーカルはどうするの?」

「……雪、俺が決めていいのか?」

 

 こういうのは、リーダーのKか、今回の作詞の担当の雪が決めることだと思うのだが。

 

「うん、いいよ。エイトが考えるほうがいいと思うから」

「なんかボクたちのマネージャーって感じだよね。頼りになる大人っていうか」

 

 雪の言い方、個人的にあまり好かないのだが、まあ、いいか。

 あと、Amiaはリアルの関係バレを避けるのがやはり上手い。

 

「いや、俺たちほぼ同年代だろうが」

「でも。まあ、いろいろと的確よね」

「そうだね。よく見てくれてると思う」

 

 えななんやKにストレートに褒められると、むずがゆくなる。といっても、画面の向こう側なのでその表情も見えず、単なるお世辞なのかもしれないといまだ疑念が残っているのだが。

 

 『独りんぼエンヴィー』と『シャルル』のボーカル担当を考えて。

 それに、明日から土日だしな。

 

「えななんと雪、今回頼めそうか? いつも通り余裕があるときに録ってくれていい」

「ええ。わかったわ」

「私も大丈夫。一応、土日だもんね」

 

 透明感のある歌声の雪がメインになると思う。

 そして、えななんなら、サビの盛り上がりにも埋もれないだろう。

 

「んー 明日から土日かー 休みの日だね~」

「あんた、今日は学校行ったんでしょうね?」

 

 来てた、と俺は失言しない。

 聞き手に回って静かになったKや雪のように、俺も眠気覚ましに2人の会話を聞きつつ、作業を再開した。

 

 ご当地スタバの話とかしているし、2人共流行に敏感な女子って感じだな。暁山たちが生き生きとしている声で、頬が緩んでくる。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。