蛇毒の女帝は栄光へとひた走る   作:にょろたろ

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孤児院編~始まり~


 私が2度目の人生だと自覚したのはいつだっただろうか。前世の記憶は、特になんの変哲もない人生だった。

 

 普通に進学して、大学を出て、企業に就職して、働きづめの生活をして、そして・・・

 

 変な趣味を色々持ってた気がする。やれ面白そう一心でいろいろなことに手を出した。その中で、自分が最も入れ込んだものは・・・

 

「競馬」だった。

 

 なんで好きになったかなんて、もう思い出せないくらいのころ小さいときに・・・そうだ、伯父さんに競馬場に連れていかれたのが始まりだった気がする。

 

 伯父さんは元調教師だったみたいで、色々なことを教えてくれた。毛色や脚質、どの血族がどうだこうだ、この調教師、騎手はああだこうだ・・・

 

 実は自分は、そんな話なんてほとんど聞いてなくて。美しい毛並みをなびかせて走る馬がただただ、輝いて見えたのだ。

 

 馬たちの栄光が、自分の目を駆けていき、瞼の裏で蘇り、移り変わる時代と共に、また新たな伝説が生まれる。好きな馬、嫌いな馬なんて腐るほど増えた。それでも、誰が1位になっても祝福した。自分でも嫌になるくらいの競馬バカだったんだ。応援して、何も知らない隣の人と肩を並べて喜び合った。

 

 本当に、大切な思い出だった。そんな馬たちは、自分の人生に彩りを添えてくれたんだと、そう、勝手に思ってる。

 

 競馬やら引退場支援やらで金を落としていた自分。馬のために金を稼いでる・・・みたいに生きていた自分は・・・。

 

 

 定年くらいでぽっくりと、急病で死んだ。

 

 親もいない、兄弟もいない自分にとっての病室ってのは静かで、日々動かなくなってく体をただ受け止めていくのはとても辛くて、辛くて。

 

 不規則な心電図の音を聞きながら、重くなる瞼を閉じる。血の気が引いて、力が抜けて、闇の中に沈んでいく。

 

 

 闇の中で揺蕩う自分。死を直感すると同時に、もう一つの世界が見えた。

 

 いくつもの思い出を積み重ねていったら、見えるはずの無い光景が、光輝いて見えたかのように。

 

 それは馬であり、人だった。人であり、ウマだった。自分が見届けたあの名馬の面影を残した少女たちがターフを駆けていく。その表情は、いつか見た騎手の如く真剣で。

 

 あぁと、漏れるはずのない嗚咽交じりの声が鳴る。流れるはずのない涙が流れる。無意識のうちに手を伸ばす。

 

 意識の最後に残ったのは

 

 

 もっと好きな事のために生きたい、あの少女のように身体全体で走りたい!ふざけんな!

 

 そんな心の叫びだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ・・・今の」

 

 さんさんと太陽が照り付ける昼下がり。芝生の上で寝転がりながら、私は目を覚ました。ちゅんちゅんと鳥の鳴く声に()()()()()()()、私は立ち上がった。

 

 まるで()()()()()()()()()()()()感触に脂汗が出る。それを日差しのせいの汗ということにして、無理やりハンカチで拭う。

 

 輪廻転生とでも言うのだろうか?前世の記憶が蘇ってきた、なんてライトノベルの中だけの世界だ。だが、「ありえない」なんて切り捨てられるほど甘い記憶ではない。ただの妄想やら悪夢やらなのであればよかったんだろうけど、やけに鮮明で、リアリティのあるイメージであることは否めない。

 

 それに、

 

「馬・・・か」

 

 4足歩行で、人を乗せて走る動物。この生物の存在は私は知らない。知るはずがない。何故なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()から。

 

 はぁ、と一呼吸。吸って、吐く。

 

「ありえない、けど、面白い」

 

 まるで別世界の自分みたいだ。なんて感想を零す。そして私は太陽に向かって一つ伸びをして、()()()()()()()()()()()()走り出す。

 

 

 

 

 私の名前は「セミラミスオロチ」。齢8歳。孤児院育ちのウマ娘。

 京紫(きょうむらさき)色をした耳と尻尾、同じ色の長い髪をハーフアップで揃えた金色の瞳を持つ釣り目の幼い女傑。

 

 彼女が駆け抜ける栄光を知るものは、まだ誰もいない。

 




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