蛇毒の女帝は栄光へとひた走る   作:にょろたろ

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年が明けて9歳になった。年齢が上がるごとにきつくなるヒエラルキーを感じながら、どこ吹く風の体で過ごしていた。

 

 

 どうやらウマ娘の間で派閥のようなものが形成され、ある時は派閥同士、ある時は派閥と個人で争いごとやケンカ、いじめが発生するようになっていた。おお、怖い怖い。

 

 

 正直、生活圏にいても何もいいことはない。ウマ娘におびえて庇えない先生を無視して、いろいろなところへと向かった。

 

 

 図書館では、「自分」の経験を活かし、ウマ娘に関する書籍を読み漁った。言葉は馬の字以外は変わらない新設設計であったため、どんな本でも読むことができた。また、PCを使って論文を読み、自分のトレーニングに当てはめた。

 

 

 自由時間を使って走り込み、読書、筋トレを行う私を当然揶揄する輩は存在したが、無視を徹底することで抵抗した。まぁ、暴力を振るわれることもあったが、大人げない罠などでハメたら収まった。もちろんその分陰口は増えたが。

 

 

 

 孤児院周りの店舗街では愛想振りまいて買い物をすることも多かった。

 

 

 少量のお金を孤児院からお小遣いとしてもらい、それで追加の食材を買った。ニンジンとひき肉でニンジンハンバーグを作り、米を買って飯を炊く。鶏ささみなどの筋トレ食品やローラーのような器具も購入した。ちょーっと足りない部分はケンカの仲介費用の臨時収入が欲しいと先生を説得したり、振りまいた愛想で負けてもらったりとで補いつつ。

 

 

 普段の食事が少ないわけではないが、他のウマ娘と違い運動量に差があるため、こうして追加で食べないと筋力がつかないのだ。重い荷物を自分で運べるのはウマ娘に生まれて感謝したことの一つである。

 

 

 それと、いじめを受けたと訴えたえてから寝室が個室になったことも大きい。買った米やトレーニング器具の置き場所に困らなかった。日が昇る前に厨房を借りてウキウキで調理をしたことは記憶に新しかったりする。

 

 

 さて、そんな生活を続けていた私は現在、グラウンドにある木に登って図書館で借りた本を読んで勉強中だった。図書館にいると派閥の連中がたまに出張ってくるので自分だけの場所を・・・と探した結果ここに落ち着いた。

 

 

 前世に引き続き雑学を蓄える趣味を持っていた(というより引き継いだ)ことだし、図鑑を見て孤児院にある食べれそうな野イチゴの発見、接収を行って優雅な休日暮らし・・・そう思いながら本を閉じて、次の本に手を伸ばそうとした。

 

 

 と、その時。

 

 

「泣き虫!足遅!どんくさウイルスが移っちゃうからどっか行って!!」

 

 

 風にのってそんな声が聞こえてきた。

 

 

 その声に驚いて木から見下ろすと、そこには手に泥団子を持った三人のウマ娘の子たちが、一人のウマ娘の子に向かって泥を投げつけていた。

 

 

「はぁ・・・?」

 

 

 流石に動揺した。こんな直接的ないじめの現場なんて見たことが無かったから。

 

 

 咄嗟に動いた視線。手から零れ落ちた泥をたどって行くと砂場が見えることからみるに、砂場で邪魔された、若しくはいじめの対象がやってきたかの理由で攻撃しだしたのだろうが、おそらく後者であろう。

 

 

 

 

 リーダー格ウマ娘が声を荒げて恫喝すると、周りの二人がそうだそうだと盛り上げる。いじめの現場、しかも無抵抗の相手を数で虐げる時の声音だ。

 

 

「ほらっ、あたしが鈍足ウイルスを退治してあげる!」

 

「あははは!いいね!そらっーー!」

 

「あたれーーーー!」

 

 

 手に持った泥を投げつける三人。それに対していじめられている子は弱弱しく囁くだけだ。

 

 

「やめて・・・」

 

 

 どこか諦めを思わせるような態度を見せる少女。どれだけの期間こんなことをされていたのかを考えると吐き気がする。

 

 

「は?何言ってんの?やめるわけないじゃん!」

 

 

「隊長!バケツに泥入れてきたよ!」

 

 

 うわ・・・一人増えた。

 

 なんだこの現場、手に持った泥で終わりじゃないんか。流石に胸糞になる。それにバケツっておま、容赦なしかよ・・・。

 

 

 

 ・・・ああ、こういう奴らは、相手が格下なら何をやってもいいと思ってるんだ。まるで羽虫みたいに扱っていいと思ってるんだ。

 

 屑だな。常識的に考えてありえない。

 

 

 

「顔に当てたら10点よ!」

 

「耳と尻尾は5点!」

 

「狙うぞ~!」

 

「動くな~~!」

 

 

「「「「あっはははは!!」」」」

 

 

 気味の悪い笑い声が響く。それを耳からシャットアウトしながら私は本から手を放し、野イチゴを左手に持って、静かに立ち上がる。

 

 

 

「・・・誰か・・・助けて」

 

 

 遠い目をして、小さく紡がれた言葉。それが聞こえた瞬間、私は動いた。

 

 

「ああ分かった、助けてあげる」

 

 

 跳躍。同時に右手に野イチゴを一つ移し、着地と同時に全力投球。

 

 

「ははは、うびゅ!・・・いったっ!!」

 

 

 手から離れた野イチゴがリーダー格の顔面に投げ込まれたことを確認。

 

 

「わ~い、顔面は10点、だっけ?」

 

 

 私が不敵に笑うと、他3人が一斉にこちらを向いた。

 

 

「ぁぁぁ、目に入った・・・」

 

 

「なによあんた!」

 

 

「関係ねーやつが入ってくんじゃないわよ!」

 

 

「弱虫の仲間!?」

 

 

 動揺しているいじめっ子らにクイクイと手招き。顔を真っ赤に染めた面々は、その勢いで泥玉を投げてくる。

 

 

 はっはっは、投げ方が甘いぞ新人と言わんばかりに投げられた泥玉を躱しながら野イチゴを投げ返す。うーん、得点が40点になったわ。嬉しくない。

 

 

 しばらくはお互いに泥玉と野イチゴを投げ合っていたが、一方的に当てられているとわかると、リーダー格の子が急におもしろくなくなったとでも言わんばかりに泥の入ったバケツを蹴飛ばした。

 

 

「はーあ! 面白くない!帰る!」

 

「覚えてろ!」

 

「行こう行こう!」

 

「服が汚れちゃったわー!」

 

 

 負け惜しみのような、それでも負けを認めないというような、そんな捨て台詞を残しながらいじめっ子は去っていった。

 

 

「・・・もー、バケツは片づけてから消えなさいよ・・・」

 

 

 そんな場違いなコメントを残してしまうぐらい、あっけない幕切れだった。空になったバケツを腕にかけながら、溜息を吐く。

 

 

「あのっ、大丈夫ですか?おケガはありませんか?」

 

 

 後ろから響いた鈴のような声に慌てて振り返る。そこには・・・

 

 

 わーぉ・・・。びっくり。

 

 

 驚くほどの美少女ウマ娘。儚さと脆さ、美しさ、それと上品さを掻き合わせたような奇跡の存在。そんな印象だろうか。ただ、黒く淀んだ眼が育ってきた環境を思わせる。表現的には目のハイライトが入ってないとか、そんな感じか。

 

 

 黒いカチューシャを伴った綺麗な白銀のワンカールミディアムの髪に耳に尻尾。優し気な蒼い目を持つ少女だった。

 

 

「ああ、こっちは大丈夫だけど・・・むしろ貴女にケガとかない?」

 

「はい・・・あの、助けてくれてありがとうございます。」

 

 

 そう言って彼女は頭を下げた。うんうん、お礼を言えるいい子だね、なんて近所のおじさんみたいな考えを一瞬浮かべて消す。もう私はおじさんじゃない。

 

 

「いいのよ、貴方が無事でよかった」

 

 

「でも、私なんかの為に・・・」

 

 

「助けて、なんて聞いて動かないウマ娘はいないよ」

 

 

 そう断言する。確かに私はここでいじめを黙殺していたことだってある。面倒ごとはゴメンだし、自分かわいさだってあった。だが直接の現場を見たうえで、被害者が救いの声を上げたんだったら動かないわけにはいかなかった。

 

 

「あとさ、ああいう奴らはちゃんと抵抗しないと調子乗るよ」

 

「勝てませんもの・・・」

 

「それでも、だよ。」

 

 

 そんな上からのアドバイスをすると、彼女は乾いた笑みを浮かべた。

 

 

「だって・・・わ、私が、駄目なんです。私の足が遅いのが、悪いんです。特技もなくて、手も不器用で、体力もない、私が・・・悪いウマ娘なのがいけないんだから」

 

 

 ・・・ああ、この子はこの環境の被害者で、しかもそれに乗じたいじめっこの言うことを真に受けている。それだけじゃない、きっと孤児院に来る前から何かがあったんだろう。しかも、きっと助けてくれる人なんていなかっただろうことも想像できた。それだけ彼女の抱える闇は深いんだろう。

 

 

 そんな生活を続けていたら、自己嫌悪に苛まれてもおかしくない。

 

 

「こいつは重症だな・・・」そんな考えがよぎり、私はわざとらしく額に手を当て、溜息をついた。

 

 

 私の溜息を聞いた彼女は、びくりと身体を振るわせ、小さく笑う。

 

 

「・・・そう、ですよね。助けた相手がこんなんじゃ」

 

 

「ああ違う違う!そうじゃない!そうじゃないんだ」

 

 

 慌てて否定するが、少女は両目に涙を浮かべていた。

 

 

「でもぉ・・・」

 

 

 決壊寸前。そんな彼女にどう接していいかわからず、ちょっとうろたえた。いじめられっ子をなだめた事はあるが、それでも前世の小学生時代、体感では軽く半世紀ほど前の経験なのだ。

 

 

 どうする。恐らく彼女はいじめだけじゃない、この世の理不尽かなにかに襲われてしまったんだろう。そうだ、心をおじさんにしよう。帰ってきてくれおじさん、おじさんの気配りスキルはきっとこの状況を打開してくれる。

 

 

 考えろ・・・泣いてる子供、可哀そうな子供、慰めるべき子供・・・そうだ!こうすれば!

 

 いや、いいのか?

 

 大丈夫、今は同年代だよ!

 

 ヨシ!

 

 

 少しの躊躇の後、私はめそめそと泣き出してしまった彼女に近づき、優しく抱きしめた。

 

 

「ふぇ・・・?」

 

 

「大丈夫だよ、君は強い子だから」

 

 

 そう言って彼女の髪を撫でる。人に抱きしめられるとストレスが減るらしいし、なにより彼女に今必要なものは心を許せる友であろう。ならば通りがかった船だ。私がその役割になってもいいだろう?

 

 

「君は大丈夫。私が保証しよう。足が遅いなら、体力がないなら、一緒に鍛えよう。不器用なら、私が手伝おう。君と共に、私はあろう」

 

 

 慰めの言葉と一緒に、強く強く彼女を抱きしめた。言葉の強さを表すように。彼女の心に届くように。

 

 

「っ、あっあっ・・・わぁぁぁぁっっっ!!!」

 

 

 少女は泣いた。これまでの心の淀みを吐き出すように。

 

 

 私は彼女が泣き止むまで、ずっと、抱きしめたままでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから幾何か過ぎたころ。

 

 

「あの・・・ごめんなさい。服、たくさん汚しちゃったりしてしまって」

 

 

「ん?あぁ、気にしないで。」

 

 

 あれだけ泣いて、すぐに他人に気を配れる点は凄いと思った(小並感)。

 

 

 実際、私の服はしわだらけ。涙やら鼻水やら泥やらで柄も付いたが名誉の負傷だ、捨て置け。

 

 

 彼女の目を見る。涙で腫れた瞳の中には、どこか決意のような焔が灯っているような錯覚を覚えた。これから強くなっていくだろうと、そう感じさせる決意が。

 

 

 ニッと笑いながら、右手を差し出す。握手のつもりで出した手は、彼女の両手に包み込まれた。うぉう想定外。

 

 

「・・・今更だけど、自己紹介ね。私、セミラミスオロチっていうの。よろしくね」

 

 

「はいっ、私は・・・イスタバリスシモイと言います。」

 

 

「本当に今更ですね」なんてシモイの言葉に私は笑いを抑えられなかった。

 

 

「そうだ、シモイって呼ばせてもらおっかな」

 

 

「じゃあ・・・私はミラって呼びますね」

 

 

 

 

 私は今日、今世初めての友達を作った。




うp主「ウマ娘要素どこ?と思ったそこの貴方!もうちょっと待って下さい!」


シモイ「初登場です!よろしくお願いします!」


オロチ「なんか展開急じゃない?」


うp主「すまねえ……シモイの補足は次ともう一個の間話でやるから」


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