蛇毒の女帝は栄光へとひた走る   作:にょろたろ

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 ターフの上に7人のウマ娘が集う。各々が勝利を望み、そこに立つ。

 

 軽いウォーミングアップを個人個人でするなかで、言葉はいらない。お互いに向けられるのは闘争心と滾りだけ。

 

 それを直接当てられていないはずの者が震えるほどの緊張感の中、GOサインの印である赤い旗を持ったウマ娘が覚悟を決めたように声をあげる。

 

「……いきます!整列!」

 

 その声で、7人が1列に並ぶ。ミラとシモイは「挑戦者」という位置付けなのか、1枠に入れられた。ゲートはない。だが、まるでそこにあるかのように自然に()()

 

 周りの視線を受けながら、号令を待つ。

 

「位置について!」

 

 1枠1番は1人しゃがみこみ、他6人は構えをとる。

 

「よーい」

 

 一瞬の静止、高鳴る鼓動、沸き上がる血液。

 

 瞬間の渇望は、ウマ娘に宿る興奮は、刹那の時の後に解放される。

 

 

 

 スタートを告げるフラッグが上がる。

 

 

「ドッ」という芝を蹴る音が一斉に鳴った。

 

 

 

 野次ウマがどよめく。そこには、注目を浴びる一人のウマ娘がいた。6人のウマ娘を取り残してスタートを決める、変わったフォームをしていた彼女。

 

 女帝の走りは、その日、日の目を浴びた。

 

 

 

 

 ーーーー

 

 

 

 フラッグの風を切る音を聞いて、練習通りのクラウチングスタートを切る。跳ね上がった力すべてを前進するために向けて解き放つ。

 

(・・・いいスタート)

 

 なんとなくだが、確信する。

 

 一瞬で人の出せる限界を超えてスピードを出す。頬を撫でる風はその速度を感じさせないくらい穏やかだった。ウマ娘って不思議!

 

 そこから先頭でハナをつかむ・・・と思ったが、後ろからB子、C子が私の隣を抜いていった。恐らく「逃げ」なのだろう。一瞬写った彼女らの顔は驚愕と必死な表情で、上手く動揺を誘えたなんて思う。

 

 もう勝負は始まってる。スタートで一手指せたのは大きいだろう。

 

 

 すぐに第一コーナー、第二コーナーと続く。

 

 

 思ったよりも遅かったため、逃げ二人の背中にピッタリとついて様子を伺う。スリップストリームを利用した走りを意識しながら、何処か余裕な走りをしていると、急に横から声が入った。

 

「お前、結構やるじゃねえか」

 

 ちらりと横を睨むと、不敵な笑みを浮かべて外を走るのはウインド先輩がいた。

 

「話す暇があるなんて、案外余裕なんですね」

 

「はっ!逃げと同じ速度の先行バが何か言ってるぜ!」

 

 彼女の走りのブレはない。小学生の3歳差という影響が非常に大きいことを実感する。いや、それだけではない。彼女の野性的なセンスもまたあるだろう。

 

「気を抜いていたら、足元を掬われますよ。レースに絶対はない、そうでしょう?」

 

 そう言葉を返すと、ギャハハと笑われた。

 

「そうかもな。だが、もう勝負はほぼついてんだよ。見てみろ」

 

 そういって彼女は顎で前を指した。前を走るは二人。だが、姿勢の乱れが見て取れた。特に私のすぐ前を走っていたC子の走りはスタート時と大きく変わってしまっていた。

 

「お前の走りの圧ってのはヤバイみてえだな。今俺に向けた目もそうだ。獲物を狙う蛇みてええな瞳だ。」

 

「このグラウンドに毒でも盛ったか?」なんて先輩は冗談をかましてくる。笑える冗談だ、追い抜くのは最後にしてやろう。

 

 

 まるで談笑するかのような余裕をお互いにかます。しかしその中でも駆け引きは進んでいた。

 

 

 コース内側にいる私が速度を上げると、前方の逃げウマに衝突してしまう。そのため先頭に出るには、私は外側に抜けなくてはならない。しかし、その道をウインド先輩は上手く塞いでくるのだ。

 

 速度の増減を使った陽動を仕掛けているが、先輩はついてくる。余りあるスタミナを使う心理戦もまたレースで展開されていた。

 

「随分、ダンスがお上手ですね」

 

 軽口を叩くと

 

「ああ。こんな楽しい舞踏(レース)は初めてだ!」

 

 とウインド先輩は笑った。

 

「・・・だがな」

 

 先輩からすぐに笑みが消える。

 

「てめえにはな」

 

 第三コーナーに入り始めたころ。

 

 

「"俺"という風を超えられねえんだよ!!」

 

 溜めた足を解放する爆発的な加速。二人の逃げを簡単に追い抜いて、一陣の風が、コーナーを駆ける。

 

「チィッ!」

 

 舌打ちをしたくなるほど、いや、その時間すらも惜しくなるほどの加速だ。慌てて背中を追う私。

 

 わずか一呼吸、されど一呼吸。仕掛けるのが一瞬遅れた、いや、()()()()()

 

 

 

 

 

 焦りは一瞬、だがそれは致命傷となりうるか。

 

 

 刹那の判断が勝負を決めるレース。

 

 残り、300m

 

 

 

 

 

 

 

 シモイside

 

 第一コーナーに差し掛かったころ。練習通り、私はミラの3バ身後ろを駆けていました。

 

「君には差しが合っていると思うよ」

 

 その言葉の通り、この一週間は差しを習得するための練習を重ねました。

 

 

 

「私を追ってきて、シモイ。私を差した瞬間がゴールになるよう練習しよっか」

 

 

 

 練習は難しかった。不慣れで、体がいうことを聞かなかった。でも、ミラは見捨てないで一緒にいてくれた。だから、頑張る。

 

 これまでの弱い私とさよならするための、そんなレースがしたいから。

 

 

 

 

 そして、今日。私の瞳に入れるのはミラの背中だけ。

 

「ちょっと?今日の弱虫ちゃんは元気じゃない?」

 

「ざこがよお!」

 

 私の後ろからそんな声が聞こえたが、風と一緒に後ろに流れていく。私の意識、私の身体はまるで一つの機械のように動いていく。

 

 でも、心が壊れて、何もない無個性だったあのころとは違う。確かな意志がある。

 

「負けたくない」

 

 そんな思いが、私にはある。それを思い出させてくれた、彼女の背中がそこにある。

 

 

 コーナーを回り、直線を走る。無駄だと思ったのか、私への悪口はなくなり、ただターフを駆ける足音と、呼吸音、そして、心臓の鼓動だけが辺りを支配していました。

 

 このレースの中心となる二人、深緑と紫の駆け引きを目に刻み込む。一コマ一コマを映しながら、いつ仕掛けるかを模索する。

 

 体感で覚えた残りの距離、300m。偶然なのか、私と風派の長の仕掛けのタイミングが重なる。

 

 

 

(・・・勝った)

 

 

 この瞬間、私は何故か勝ちを確信した。

 

 

 それはまるで、撃つ前に弾が当たることがわかる狙撃手(しにがみ)のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残り200m

 

 第四コーナーを回ってそれぞれがスパートをかける。

 

 先頭はウインドパーティ。半バ身離れてセミラミスオロチ。後ろは確認しない。いや出来なかった。見物ウマはみな、二人の走りに魅入られていた。

 

「あっははははっははは!!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 大笑いしながら走る深緑と、静かに這いよる京紫は酷く対照的で、見る者の眼を引き寄せた。

 

 どちらが勝つかわからない。片やここを統べる派閥の長の一人、片や無名の蛇。全くもって異なる二人の結末に、多くのウマが期待した。

 

 

 

 残り100m

 

 

 

 距離は頭差となるが、まだ風の遊宴は続く。

 

 

 競り合う二つの影。そのどちらが勝つかと集中していた者たちから驚愕の声が上がる。

 

 

「影を晴らす白銀(はくぎん)の弾丸」

 

 

 誰かがそういった。

 

 

 イスタバリスシモイ、脅威の末脚。

 

 

 前を走る二人を貫かんと、外から外から追い上げる。

 

 

 残り50m

 

 

 

 じわりじわりと差が縮む。

 

 派閥からのいじめを受けていたものが祈る。

 風派の一員は長の勝利を願う。

 

 

 誰もがあの場所に至ると欲望を浮かべる。

 

 

 勝者を誰もが、予想する。

 

 

 残り30m

 

 

 

 

 祈りは声に

 

 願いは声に

 

 望みは声に

 

 予想は声に

 

 

 いつしか、誰もが関係なしに、声が飛んだ。

 

 

「がんばれ!」

「負けるな!」

「勝て!」

 

 

 自分たちが到達しえないところにいる猛者に対する、憧れと妬みと、祝福を込めた声援だった。

 

 

 

 

 

 

 残り20m

 

 

 

 

 恐るべき重圧と共に、疾走する紫の蛇がスルリと抜ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 残り10m

 

 

 白金の弾丸が、風を差す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして・・・0m

 

 

 ゴールの旗を駆け抜けるは紫の蛇。

 

 一瞬で一バ身を開いた脅威の足。

 

 

 続くは白銀の弾丸。

 誰もがいじめられていた姿を見ていた、弱いと()()()()()()少女。

 

 

 

 

 走り切った彼女らの顔は、晴天に負けないくらい晴れ渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 




うp主「レースって難しい(げっそり)。大丈夫?これ読み物として成立してる?」

オロチ「やっとウマ娘要素が出てきたな、これでタグ詐欺は回避か?」

シモイ「この調子だと原作ウマ娘が出てくるのはいつになるのやら……」
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