天の河原に龍と来たりて   作:KaNDuMe

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題名思いつかぬゑ……。
デュエル出来るまでまだまだ時間がかかりそう。



第二話

 

 

 

「多分、こっちに行ったんじゃないかと、思うんだけど……」

辺りを見回しながら走る龍巳は、旧サテライト地区に向かっていた。

市街地はセキュリティが厳重な事に加え、全体的に人も街も小綺麗なのでガラの悪い不良などはよく目立つ。旧サテライト地区はそちらに比べれば人通りが少なく、未だに治安の悪い地区も多いため、彼らのような人々が屯するならこちらの方が向いているだろう。

次第に景色は小綺麗なシティのそれからサテライトの埃っぽい様子へと変わり、人々の様子もそれに伴って富裕層から中間層の雰囲気が強くなる。アカデミアの制服で走る龍巳の姿は、その美しい容姿もあって人々の目を引いた。

「はぁ、はぁ、っふぅ! っと、後は、少し聞き込みとかしてみなきゃダメかな……」

膝に手をついて息を整え、再び顔を上げる。すると、正面からこちらを覗き込む瞳と目が合った。まだ幼い容姿の少年である。服装はこの辺りの子供だとしても少々貧相であり、あまり裕福な家庭の子供ではないことを窺わせる。

「お姉ちゃん、どうしたの? 大丈夫?」

「あ、ああうん! 別にどこか悪いわけじゃないの! ちょっと急いでただけで……っゲホ! ゴホ! ぅぇ……」

純朴な瞳に見つめられ、ドキンと跳ね上がる心臓の鼓動を誤魔化す様に龍巳は頭を掻いた。が、息の整わないうちに捲し立てたせいでむせかえってしまう。

「ほ、ホントに大丈夫? 誰か呼んで来た方がいい?」

蹲って咳き込む龍巳の背中をさすりながら、少年は更に心配そうな声をかける。そこに、歩み寄ってくる人があった。

「おう、やっと見つけたぜ!」

低い男の声である。しかしそれは厳しい物ではなく、陽気で明るい響きであった。

「あ、おじちゃん!」

応える少年の声も親しげで、彼らが知り合いである事を窺わせる。龍巳が何とか上目遣いに顔を上げると、逆立てた橙色のツンツン頭が特徴的な小柄な老人がこちらに向かって歩いてきているのが見えた。表情は穏やかな物ながら、その顔に刻まれた三つもの黄色いマーカーが嫌でも威圧感を出してしまっている。

「知らない奴には声かけるなって何度も言ってるだろ。攫われちまっても知らねーぞ」

「そ、そうだけど……このお姉ちゃん、苦しそうだったから」

彼らの会話はまるで親子のそれであるが、流石にこの場所で、しかも相手の容姿が容姿なだけに、龍巳は警戒した。

と言うより、ビビった。

パッと上体を起こし、素早い動きで露骨に後ずさる。その際ちゃっかり少年を後ろに庇っている。

「よ、よよ、よ、余計なお世話よ! す、少なくとも、マ、マーカーついてる人よりは怪しくないんだから!」

「なんだと!? ……と言いたいが、言い返せねぇ……」

思わず言い返そうとした老人だが、自覚があるのか苦い顔をするのみである。

「お、お姉ちゃん。おじちゃんは怪しい人じゃないよ! そ、それより……」

後ろに庇った少年が声を上げる。が、その声は若干うわずっていた。

「え? そうなの? ていうか声、大丈夫?」

「あー……あんた、あれだ。そいつはちょっと、青少年には刺激が強いと思うぜ」

苦い顔だった老人が、彼の様子に気づいて含み笑いを漏らす。

「んん?」

そして気づく。後ろ手に庇っている少年は今彼女の身体に密着しており、しかもその位置は……

「○`*×△#□!!??」

 

真っ赤になって錯乱した後冷静になって平謝りに謝った龍巳と、流石に初対面の人間を前に言う台詞ではなかったと頭を下げる老人は、龍巳と同じく真っ赤になった少年を伴い近くの公園に移動した。

「うう、もうお嫁に行けない……」

「そういうテンプレートなのは置いといてだ。本当に具合が悪いわけじゃないんだな?」

「そんな軽く流さなくたって良いじゃないですかー! ホントに大丈夫ですって。走りすぎて疲れただけですから」

ムーっと顔を顰める龍巳を軽く笑ってあしらいながら、老人は彼女がそんなに慌ててこの場所にやってきた理由を尋ねた。

「アカデミアの制服って事は上層に住んでるんだろ? んな慌ててここまで来るなんて、何か事情でもあんのか?」

「あ、それですそれ! 折角だから聞いちゃいますけど、向こうからこっちに向かって、こんな感じの集団がやってきたりしませんでした?」

身振り手振りでガラの悪い不良達の容姿を老人に説明する。しかしお世辞にもその表現力は優れているとは言えず、色っぽい踊りになっただけである。

「いや、俺は見てねーな。そいつらがどうしたんだ?」

あえてそこには触れず、老人は首を振った。

「カードドロボウなんですよ! 港のカードショップのカードが盗まれちゃって!」

その言葉に、老人は思わず目を逸らした。少々、後ろ暗い思い出があるのである。

「あー…いや、まぁ、なんだ。そいつは大変だったな。けどな、嬢ちゃん一人で何とか出来る問題じゃないだろ。セキュリティには通報したのか?」

「もうお店には来てたからそれは大丈夫ですよ。でも、見つけてあげるって約束したカードがその中にあるんです。だから、ほっとくわけにもいかなくって」

「そうか……けどな、気持ちは分かるが無茶はすんなよ? もし見つけても突撃なんかすんじゃねーぞ」

そう言って笑う龍巳に、どうやら決意は固いらしい、と老人は苦笑を零す。

「あのー……」

そんな二人の横から、小さな声が上がる。見ると、ついてきていた少年がおずおずと手を上げていた。

「ん、何々?」

龍巳が顔を寄せると、彼は自信なさげに口を開く。

「えっと……もしかしたら僕、その人達見たかも……」

「え!? ホントに!?」

更に顔を寄せる龍巳にドギマギしながら、少年は小さく頷いて見せる。

「う、うん。多分お姉ちゃんが言ってるみたいな人達が、沢山カード持って歩いてたから、それじゃないかなーって……」

「それだー! でかした少年!!」

「!!??」

感動のあまり、龍巳は思わず正面から少年の顔に抱きついた。当然、龍巳の豊かな物が少年の顔一面を埋め尽くす形となり、その柔らかな感触と甘い香りが彼の理性を激しく攻撃する。

「……それくらいにしといてやれよ。戻れなくなっちまうぞ、色々と」

「あ、ごめんなさい! 苦しかった?」

パッと手を離し、肩を押して顔を離す。息苦しさやその他諸々で、少年は色々と限界であった。

「で、どっち行ったんだ?」

老人が苦笑しながら尋ねると、目を回しながらも少年は右手を上げる。その人差し指は先程の道の先を示しており、その先に行ったのだと言う事を二人は悟った。

「あっちの方か……それでガラの悪い奴らの溜り場なら、心当たりがあるな」

顎に手を当てながら記憶を辿る老人は、それらしい場所に思い当たった。

「それってどういう場所なんです?」

「昔学校だった廃墟があるのさ。伝統的なドミノ町っぽい不良がよく出入りしてるから、こいつらには近寄るなって言ってる場所なんだが……」

「学校の廃墟……わっかりました!」

言葉を続けようとする老人を、龍巳の元気良い返事が遮った。遂に手の届く場所まで来た。その思いが、彼女の気持ちを逸らせてしまったのだ。

「早速行ってみますね!」

「お、おい! まだ話は」

「ありがとうございましたー!!」

呼び止めようとする老人に気づかず、大声で感謝を述べながら龍巳は公園を駆けだしていった。

「待てって! ったく、話を聞かない奴だな……!」

駆け去って行く龍巳と傍らの老人を心配そうに交互に見つめる少年に、大丈夫だと笑いかけながら、老人は携帯端末の電源を入れた。

 

 

 

少年の示した方向に走ること数分。人通りは更に減り、廃墟化した無人の建物が増えてきた。旧サテライトでも外縁に当たる地区に近づいているのである。

その中でも一際大きな建物が、龍巳の目に入った。広々としたグラウンドの先に立つのは正に校舎であり、その寂れた様子は廃墟に違いない。

龍巳は正解を確信すると校門前に向かった。そこから校舎の全体を見上げる。

元は大人数が入学可能な、大きな学校だったのだろう。教室棟は四階建てになっており、横幅も広い。その奥には各授業で用いる専門的な教室が並ぶ棟が、ほぼ同じ大きさで備えられている。その横には部活動用と思しき建屋が並び、その近くには広大なプールや体育館が軒を連ねる。彼女の通うデュエルアカデミア・ネオ童実野校よりは小さいが、在りし日は沢山の生徒がここで過ごしていたのだろう。

「っと、感慨に耽ってる場合じゃないわね! 早いとこ盗んだ奴らを見つけないと!」

両手で頬を叩いて気合いを入れ、敷地内に踏み込む。周囲を窺いながら歩いていると、校舎入り口の階段に屯していたグループと目が合った。

何故こんな所に名門校の女子生徒が? と一瞬呆気にとられた彼らだがすぐに、これはまたとないチャンス、と下卑た笑いを浮かべながら立ち上がった。

「おう、嬢ちゃん。ここに何の用だい?」

「ここはあんたみたいのが一人で来る場所じゃないんだぜ!」

作者のセンスが疑われる程のテンプレートな台詞と共に、彼らは龍巳に歩み寄る。人数は三人。高等部程度の年齢であろう彼らはそれぞれどこぞの制服を無造作に着崩し、腕にシルバーやらアクセサリーやらをジャラジャラさせている。見るからにガラが悪い。

「いやーそれは一応、自覚あるんだけどね。丁度良いから聞くけど、ちょっと前にレアカードを沢山持った不良さん達が来たりしなかった?」

若干引き気味に、しかし龍巳は引きつった笑みを浮かべながら尋ねてみる。

「へー! そいつらを探してここまで来たって訳か」

「実は俺達、あいつらとは仲良しなんだぜ!」

それに対する反応は、彼女に当りの予感を臭わせた。これは幸先が良い、と内心ガッツポーズを決めた龍巳だが、その時には不良達は目前に迫っていた。彼女は女性としては身長が高い方だが、それでも彼らの方が大きい。それが三人ともなると、威圧感は相当な物である。

「えーっと、知ってるなら教えて欲しいなーなんて……あ! デュエルに勝ったらーとかでも全然構わないんだけど!」

更に後ずさりながら鞄に入っていたデュエルディスクを取り出そうとするが、その腕を不良の一人が掴んだ。

「それも良いが、もっと良い事しようぜ!」

「あ、ちょっ、こら! 触んないでよ! 私とデュエルしろー!!」

抵抗しようとする龍巳だが、相手の方が力は強い上に三人である。

「勿論良いぜ! ベッドでやる大人のデュエルだけどな!」

「まー今回は三対一だけどな!」

「俺のダイソンスフィアですぐにドロドロゴンって奴だぜ!」

その時、獲物の捕獲を確信して嗤う彼らの耳に力強いモーターの駆動音が響いた。反射的に全員がそちらを向くのと、瓦礫を利用した跳躍で何かが校門を飛び越えたのは同時だった。

「「「「うおおわああああ!?」」」」

龍巳を含めた全員が反射的に悲鳴を上げ、三人は龍巳を手放して四散する。取り残された龍巳は反射的に身を縮めて頭を抱えた。

直後、飛び込んできた何かはその巨大な車輪で地面を削りながら横向きになり、丁度龍巳の眼前で制止した。

パラパラと小石が龍巳の身体に当り、しかし予想した衝撃は来ず、龍巳は自分がその何者かに碾かれたわけではないと悟った。

「怪我はないか?」

頭上から降ってきた声にゆっくりと目を開け、顔を上げる。するとそこには、世にも珍しいモノホイール型のDホイールが駐まっていた。巨大な車輪の内側に運転席があり、前後に各種推進機器を内蔵した胴体部が伸びている。その白銀に輝くボディは、デュエルを志す者にとってはあまりにも有名な物である。

「あ、え、えっと、はい。大丈夫っぽい……です」

声に応えながら、更に顔を上げる。すると、運転席に腰掛ける人物と目が合った。Dホイールと同じ色のライダースーツに身を包んだ美丈夫である。今はヘルメットを脱いでおり、彼女と同じ金の短髪が炎の如く逆立っている。老いて尚力強さを失わない紫紺の瞳はしかし、それだけではない懐の深さを感じさせた。

簡単に言えば、背が高くて超絶イケメンなおじ様である。そして、Dホイール同様この老人に関しても知らぬ者などこの世には殆どいないだろう。当然、龍巳もデュエルを志す身。憧れの対象である。

「あいつに言われて駆けつけてみれば、案の定だったな。偶々近くにいたから良かったようなものを、無謀にも程があるぞ」

呆れたように龍巳を見下ろしながら、彼は龍巳に右手を取って立ち上がらせた。

(うわー! うわー! 触っちゃった! あの方の手に! 触っちゃったよー!)

説教らしき言葉がかけられているが、龍巳としてはそれどころではない。感激の余り頭が沸騰しそうである。

「どうした? まだ何もされていないんだろう?」

「は、はいー! まだ無事です! Sir!!」

ややぶしつけな言葉に我に返るも、まだ混乱が抜けきっていない龍巳である。

「怖い思いをしたのは分かるが落ち着け。詳しい話は聞いていないが、お前は何かを探していて、ここにそれがある。合っているな?」

「(そうだけどそうじゃないんだけど!)はい! えっと、他にもお店から盗まれたカードも沢山あって、返してあげなきゃいけないなって、思ってて……危ないのは分かってたんですけど、ほっとけなくって……」

返事だけは勢いが良かったが、続く言葉は段々と小さくなっていった。しかし彼としては、相手のその手の反応には慣れている為気にする様子もない。むしろ龍巳の語る内容は、彼としては好ましいものであった。

「なるほどな。そこまでは聞いていなかったが、そういう事なら捨て置けん。先ずは道理の分からんガキ共に灸を据えてやらねばな。連中をセキュリティに突き出すのはその後だ。行くぞ!」

宣言するやいなや彼はDホイールにロックをかけ、校舎に向かって歩き出した。

「え? ええええ!? さっき無謀とか言ったばっかりじゃないですかー!?」

素っ頓狂な声を上げながら、龍巳もその後に続く。

(そういえばあいつに言われてって……あいつって誰だろ?)

彼らの様子を遠くから眺めていた不良三人組みは、校舎内の不良達に無言で両手を合わせた。

 

 

「おい! ここにシティのカードショップからカードを盗んだ奴らがいるはずだ! 場所を言え!」

一階の教室の一つに、大音声が響き渡る。更には情けない悲鳴が後に続いた。

「ひぃ! あ、あいつらなら多分職員室の方に……!」

やけくそ気味に殴りかかってきた不良達をあっという間にリアルファイトで叩き伏せ、あまりにも有名なその老人はその内一人の胸倉を掴み上げていた。

老いて尚圧倒的な彼のデュエルマッスルと名声に完全に震え上がった不良は、せめてデュエルで応戦すれば良かったと後悔しながら、素直に情報を吐き出す。

「ふん! ならば後はセキュリティが来るまで大人しくしておくんだな!」

老人が手を離すと、尋問を受けた哀れな不良は力なく崩れ落ちた。

「これ……ちょっと、やり過ぎじゃないですか……?」

「口で言って分からん奴にはこれくらいが丁度良い。それよりも場所が割れたのだ。さっさと行くぞ!」

嵐の如き暴威に唖然とする龍巳を余所に彼は傲岸にふんぞり返り、ズンズンと廊下を先に進んでいく。

職員室は扉が閉まっていたが、老人はその手で取っ手を丁寧に回す代わりに右足を振り上げ、豪快な前蹴りを繰り出した。

破砕音と共に蝶番を破壊された扉は内側に吹き飛び、その向こうで戦利品を眺めていた不良達が何事かとビックリ仰天しながら入り口の方を振り向く。

「貴様らの所業は既に分かっている! そのカードをさっさと手放せばよし、そうでなければ向こうにいた奴らと同じ目に遭うことになるぞ!」

腕組みをしながら入り口に仁王立ちする老人の姿を、当然彼らも知らないわけはない。騒然となって立ち上がり、何かの見間違いではないかと目を擦る。しかし、それで現実が変わるわけもない。

「う、うるせぇ! これが盗んだ物だって証拠がどこにあるんだよ!」

「そうだぜ! これは俺達が店で買ったカードだ!」

果敢にも言い返す彼らだが、目の前の老人はそんなもので揺らぐような心の持ち主ではない。そんな雑音など耳に入らんとばかりに部屋の中に踏み込むと、必死に威嚇する彼らの眼前にまで歩みを進める。

その圧倒的な威圧感と存在感に、わめき散らしていた彼らの声が止んだ。それは正に、天上から下界を見下ろす王者のそれである。

「この俺を前にその態度を崩さん度胸は認めてやる! それに免じ、貴様らに一度だけチャンスをやろう。この俺とデュエルし、勝利できたならセキュリティへの通報だけは勘弁してやる。デュエルの間に、盗んだカードはそこの女に渡しておけ!!」

それが果たして言葉通りの慈悲だったのか、苛立ち紛れに心までへし折ってやろうという無慈悲だったのか、それは本人以外誰にも分からない。ただ分かるのは、彼らに逆らう選択肢など最早残されてはいないと言う事だけだ。

不幸にも一番手として老人から指名を受けた不良が彼と共に十三の階段を登る死刑囚のような面持ちで部屋を出て行くと、隠れていた龍巳が漸く顔を出した。

「なんか……ごめんなさいね」

「いや……悪いのは俺らだし……」

本来そんな義理はないのだが、彼女としても今の状況には同情を禁じ得なかった。すっかり毒気を抜かれた不良達からカードを返してもらっている間に、校庭で行われていたデュエルは決着がついた。

「次! 助かりたい奴はかかってこい!!」

結果など言うまでも無い。逃げることなど許さぬと、その声は言外に告げていた。

「じゃ、俺、行くわ……」

「私が言うことじゃないけど、頑張ってね……」

悄然として俯きながら校庭に向かう背中を見送りながら、龍巳は残りのカードを纏める作業に戻った。傷がついていないか、足りない物はないか。そして何より、探しているカードはなくなっていないか。

「えーっと……あ、これ!」

そして遂に、目的のカードを見つける。何度も見返し、そしてそれが本物であると確信し、彼女は会心の笑みを浮かべた。カード達を鞄に仕舞い込み、次は誰が行くのかと不良達が口論する職員室を後にする。

正面入り口を出ると、ガックリと項垂れた不良が一人。そして校庭では今正に、先程別れた不良が敗北する瞬間を目にすることが出来た。面倒だから後は全員纏めてかかってこい等と啖呵を切る彼の姿は、王者と言うより無双武将のそれである。

「うーん……画面越しにみるのと実際とじゃ、やっぱり違うのねー」

三対一で三人を圧倒する彼の姿を遠い目で眺める龍巳の耳に、サイレンの音が響いた。

音の方を振り向くと、セキュリティ仕様のDホイール数台がこちらを目指して走ってくるのが見える。

「よう! 無事だったか!」

その中の一台、翼のついた黒いDホイールに乗っていた人物が声を上げる。その声に、龍巳は聞き覚えがあった。

「あ! さっきの!」

近くに停止し、ヘルメットを上げると、その中から出てきたのは先程別れた小柄な老人の姿だった。

「もしかして、セキュリティの人だったんですか!?」

「古巣なのさ。だから知り合いも多い。そのつてでな」

会話の間にセキュリティの隊員達はDホイールを降り、廃墟内に駆け込んでいく。不良達は既に制圧されたも同然の状況なので、すぐに補導は完了するだろう。

「さて、あいつも間に合ったみたいだし、その様子じゃ目的は無事達成できたみたいだな」

セキュリティ隊員と口論になっている“あいつ”と龍巳を見比べ、小柄な老人はニヤリと笑って見せた。

「はい! 本当に助かりました! ありがとうございます!」

勢いよくお辞儀をする龍巳もまた、満面の笑みを浮かべる。

「向こうはまだ取り込み中だし、後で伝えとく。それともう一人、お前さんに用があるみたいだぜ」

「もう一人?」

彼の向いている方向に、龍巳も顔を向ける。

するとそこには、一台のDホイール。白と水色の塗り分けられた標準仕様のそれは、セキュリティの物ではない。そして、その運転席に跨がる初老の男性は、彼女のよく知る人物だった。

「よ。……久しぶりだな」

「……うん。久しぶり」

「行きたい場所、あるんだろ。乗せてく」

「ええ。お願い。けど……」

鞄の中身を確かめ、しかし思い直して小柄な老人の方を振り向く。彼は全て承知していると言うように、力強く笑った。

「セキュリティの事なら気にすんな。俺が説明しといてやる。さっさと持ち主の所に返しに行ってやんな」

「うへ……何から何まで、本当にありがとうございます」

龍巳が頭を下げる間に、再び火を入れたDホイールのモーメントが唸りを上げる。

「ほらよ。これ使いな」

「わっとと。投げないでよ、危ないわね」

投げ渡されたヘルメットを被り、龍巳はタンデムシートに跨がった。

「行き先は?」

「港。通り沿いの目立つ建物」

「分かった。掴まってな」

「うん」

アクセルを入れると、Dホイールは加速を始めた。

その速度は、彼にしてはとてもゆっくりとした物だった。

 

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