天の河原に龍と来たりて 作:KaNDuMe
夕焼けに赤く染まる公園に、白と黒、光と闇の龍が並ぶ。
ソリッドビジョンにより投影された巨龍達の姿に、道行く人達も思わず足を止める。
彼らを挟んで対峙するのは二人の少女。
ターンを受け取った、小さな少女がデッキに手をかける。
「私のターン! ドロー!」
「ドロー処理後、オーバーレイユニット一つ、青眼の精霊龍を取り除き闇属性を宣言することで真竜皇V.F.Dの効果発動! このターンの終わりまでの間、フィールド上のモンスターは全て宣言した属性になり、宣言した属性のモンスターは効果を発動することが出来ず、攻撃宣言を行う事もできなくなる!」
龍巳が宣言を行うと、黒き竜の身体より闇の瘴気が滲み出す。フィールドは瞬く間に邪悪な闇に覆い尽くされてしまった。
「効果の発動も、攻撃宣言も出来ないなんて……」
少女の顔に不安の色が過ぎる。
真竜皇V.F.Dの効果は強力であり、これ一枚で戦況を左右する威力がある。流石に容赦なくやり過ぎたかと龍巳が心配し始めたその時、彼女達の間を暖かなそよ風が通り過ぎた。
「……!」
少女の傍らに、誰かがいる。
青き翼の和装を纏ったその女性は少女を励ますように優しく微笑みかけ、龍巳にもまた、同じ笑顔で微笑みかけた。それは、彼女が少女の元に届けたカード。
「うん……そうだね。私のターンはここからだもんね! メインフェイズ!」
その姿に勇気づけられたように、少女は力強くカードを手に取る。
「魔法カード、儀式の下準備を発動! デッキから儀式魔法を一枚選び、そのカードに名前が記された儀式モンスター一枚をデッキ、墓地から選び、その二枚を手札に加えるよ。私が手札に加えるのは、霊魂の降神と霊魂鳥神-姫孔雀!」
女性が両手を広げると、その身は光へと変わり、少女の手札へと宿った。
(カードの、精霊……)
龍巳が驚く間にも、少女は動き続ける。
「手札の霊魂鳥神-姫孔雀と風霊媒師ウィンを捨てることで、風霊媒師ウィンの効果発動! 私のデッキから守備力1500以下の風属性モンスター一体を手札に加える事が出来るよ。私が手札に加えるのは烈風の結界像!」
瘴気を払う様に少女の周りを風が舞い、一枚のカードとなってその手札に宿る。
「そういえば、風属性にはその子がいたわね……バードマンとかゼピュロスを警戒して闇にしたけど、失敗だったかしら」
「ううん。そのどっちも入ってるし、偶々ウィンちゃんの方が来てくれただけだよ」
ムムム、と唸る龍巳に少女は苦笑気味に答える。
「そして、ウィンちゃんだったお陰でこのカードのコストが揃ったよ! 手札から魔法カード、ガルドスの羽根ペンを発動! 墓地の風属性モンスター二体、風霊媒師ウィンと霊魂鳥神-姫孔雀をデッキに戻すことで、相手フィールドのカード一枚、真竜皇V.F.Dを手札に戻すよ!」
少女の右手に、緑色の羽根ペンが現れる。それを一振りすると、少女の周りに漂う風は烈風となり、真竜皇V.F.Dの巨体をも飲み込み、空の彼方へ吹き飛ばしていった。
「ガルドスの羽根ペン……! V.F.Dが封じられるのはモンスター効果のみ。上手に弱点を突いてきたわね」
「怖い竜は倒せたけど、効果は残っちゃうんだね……。それなら、手札から烈風の結界像を召喚! 烈風の結界像が存在する限り、風属性以外のモンスターは特殊召喚することが出来なくなるよ」
悪戯っぽく笑い、少女はカードを召喚する。大きな翼を畳んだ緑色の像は聖なる風を纏い、瘴気の中にあっても神々しく輝く。
「後はカードを一枚セットして、ターンエンド!」
伏 伏せカード
烈 烈風の結界像
少女 手札3 LP8000
□□伏□□
□□烈□□□
□ □
□深□□□□
□□□□□
龍巳 手札4 LP8000
深 深淵の青眼龍
エンド宣言と共に、フィールドを覆っていた瘴気が消えていく。
「私のターンね。ドローカード!」
カードを引き、龍巳は盤面に目を落とした。
(深淵の青眼龍は残ってるけど、V.F.Dは処理された。本当なら止めを刺しに行きたい所だけど、烈風の結界像でケアされちゃってるか)
思っていたよりずっと的確な対処が返ってきたことに、龍巳は素直に感心した。そして、手加減が必要なのではないかと考えた自分の思考を恥じた。
顔を上げ、少女の目を見る。そこに怯懦の色はなく、挑戦的にさえ見える表情には純粋な楽しさが窺えた。
「よっし、それじゃ私も巻き返していきますかね! メインフェイズ、手札からデュアルモンスター、炎妖蝶ウィルプスを召喚! 更にスーペルヴィスを炎妖蝶ウィルプスに装備!」
赤く燃える炎の羽を持つ蝶が現れ、更に激しく燃え上がる。
「スーペルヴィスが装備されたデュアルモンスターは再度召喚された状態になるけど……」
炎妖蝶ウィルプスの効果は自身をリリースすることで墓地のデュアルモンスターを蘇生する効果。烈風の結界像が存在しているため、効果を使用することは出来ない。
「仕方ない、このままバトルフェイズ! 深淵の青眼龍で烈風の結界像を攻撃よ!」
深淵の青眼龍の身体が光を放ち、口腔にエネルギーが集約されていく。やがて紫電を放つ青い光の球となったそれは、光のブレスとなって烈風の結界像へと放たれた。
「攻撃宣言時、烈風の結界像をリリースすることで罠カード、魂の転身を発動!」
焼き尽くされようとした烈風の結界像が、突如として消滅する。
「このターンの特殊召喚を封じる代わりに、カードを二枚ドロー!」
「それなら攻撃宣言を巻き戻して、ダイレクトアタックよ!」
少女が二枚のカードをドローする。直後、深淵の青眼龍の放ったブレスが少女の身体を包み込んだ。
少女 LP 8000 → 5500
「きゃ!」
「続けて炎妖蝶ウィルプスもダイレクトアタック!」
眩しそうに顔を覆う少女に、更に炎妖蝶ウィルプスが羽から火の粉を放つ。薄暗くなってきた空に吸い込まれていく火の粉は、ある種送り火のようにも見える。
少女 LP 5500 → 4000
「いたたた……」
「なんだか上手いこと凌がれちゃったわね……。でも、結界像がいなくなったことで特殊召喚の縛りはなくなったわよ。と言うわけでメイン2! 自身をリリースすることで、炎妖蝶ウィルプスの効果発動!」
炎妖蝶ウィルプスの姿が巨大な炎に包まれ、真っ赤に燃え上がる。
「墓地のデュアルモンスター一体を対象に、そのモンスターを特殊召喚する。来なさい! ダークストーム・ドラゴン!」
炎は次第に渦を巻き、竜巻となる。炎の竜巻を振り払い、暴風と共に現れたのは黒い翼を持つ嵐纏う竜。
「炎妖蝶ウィルプスと共に墓地に送られたスーペルヴィスの効果も発動! 墓地の通常モンスター一体を特殊召喚する事が出来る。来なさい! 青眼の白龍!」
空から光が降り注ぎ、咆吼が轟く。降り来たのは、余りにも有名な白き巨体の白龍。
「続けて、レベル8のダークストーム・ドラゴンと青眼の白龍でオーバーレイ!」
二体の巨竜はその身を光へと変え、黒き銀河の渦へと飛び込んでいく。
「光纏いし青の翼、銀河の輝きを御霊に宿し、星雲の彼方より現れ出でよ! エクシーズ召喚!」
黒い渦に光が差し、閃光が弾ける。舞い散る光の粒子が、龍巳のフィールドを明るく彩る。
「来なさい! No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー!!」
現れたのは、白い鎧を纏った巨大な竜。その透明な肢体は宇宙を思わせる粒子を伴い、瞳には文字通り銀河の輝きを宿している。空に向かい放たれた咆吼は、彼方の星々へと手向けるようであった。
「綺麗……」
少女の口から、思わず呟きが漏れた。
「綺麗な花には棘が……じゃないけど、この子は相手が魔法カードを発動した時にその効果を無効にしてオーバーレイユニットに吸収する効果を持ってるわよ。カードを一枚セットしてエンドフェイズ、深淵の青眼龍の効果を再び発動。デッキから青眼の亜白龍を手札に加えて、これでターンエンドよ!」
少女 手札5 LP4000
□□□□□
□□□□□□
□ □
□深□希□□
□□□□伏
龍巳 手札4 LP8000
深 深淵の青眼龍
希 No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー
伏せカード
「魔法は封じられちゃうけど、今度はモンスター効果がちゃんと使えるんだよね。私のターン、ドロー!」
こちらを見下ろす銀河の瞳に微笑み返しながら、少女はカードを引く。
「メインフェイズ、手札からスピリットモンスター、和魂を召喚。そして和魂の効果により、このターン私はもう一度スピリットモンスターを召喚することが出来る。荒魂を追加で召喚するよ!」
荒ぶる炎のような魂と、穏やかな篝火のような魂が少女のフィールドに並ぶ。
「荒魂の効果を発動! デッキからスピリットモンスター一体を手札に加えることが出来るよ! 私が手札に加えるのは……霊魂鳥神-姫孔雀!」
「ガルドスの羽根ペンでデッキに戻した姫孔雀、ちゃんと回収してきたわね」
「うん! 早速呼びたいけど、まずはお姉ちゃんのカードを何とかしないとね。私はレベル4の和魂と荒魂でオーバーレイ!」
二つの魂は混じり合いながら一つとなり、新たなモンスターを呼び出す。
「来て! 鳥銃士カステル!」
現れたのは、紫の翼を持つ鳥人の戦士。ゴーグル越しに構えられた、その手に持つ長大な銃身は、真っ直ぐにNo.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシーに狙いを定めた。
「げっ!? そのカードは……」
「オーバーレイユニット二つを使い、No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシーを対象に鳥銃士カステルの効果発動! そのカードをデッキに戻すよ!」
引き金が引かれる。放たれた弾丸はNo.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシーの身体を貫く代わりに突風を巻き起こし、その巨体を空の彼方へと吹き飛ばしていった。
「バウンスは風属性の十八番とはいえ、簡単に対処してくれちゃうわねー」
「お姉ちゃんが探してくれたこの子が、一緒にいてくれるからね」
少女が傍らを見上げる。柔らかな笑顔がそれに応え、頷き返した少女は一枚のカードを手に取った。
「手札から儀式魔法、霊魂の降神を発動! レベルの合計が儀式召喚するモンスターのレベル以上になるように手札、フィールドのモンスターをリリースするか墓地のスピリットモンスターを除外することで、儀式召喚を行う! 私は、墓地の和魂と荒魂を除外するよ!」
少女がその手を天に掲げ、二つの魂が天へと還る。天は呼びかけに応え、一柱の神が舞い散る羽と共に地上へと降り立った。
「天の河の辺にて、想いは永久に、願いは遙か。儀式召喚! 霊魂鳥神-姫孔雀!」
それは少女の傍らにいた女性、その人である。彼女は龍巳を見つめると、丁寧に深々とお辞儀をした。
「うえ!? え、えーと、どーいたしまして?」
照れて目を逸らす龍巳にクスリと上品に笑いかけ、彼女は右手に持った扇子を一振りする。
「儀式召喚成功時、霊魂鳥神-姫孔雀の効果発動! 相手フィールドの魔法、罠カードを三枚まで選んでデッキの戻すよ!」
「それならリバースカードオープン! 罠カード、リビングデッドの呼び声を発動! 私の墓地の、太古の白石を特殊召喚するわ! リビデが消えたら破壊されちゃうけどね」
その一振りが起こしたのは僅かなそよ風。しかしそれが龍巳のフィールドに到達する頃には突風となり、発動されたリビングデッドの呼び声は吹き飛ばされてデッキに戻っていった。リビングデッドの呼び声によって蘇生されていた太古の白石は、その力が消えたことで再び墓地へと帰っていく。
「霊魂鳥神-姫孔雀の効果にはまだ続きがあるよ! バウンス効果の後、デッキからレベル4以下のスピリットモンスター一体を、召喚条件を無視して特殊召喚することが出来る! 私が召喚するのはスピリットモンスター、霊魂鳥-巫鶴!」
突風はやがて再び穏やかな風となり、それに誘われるように一匹の鶴がやってくる。巫女装束を纏った鶴は弓を構え、戦う姿勢を見せた。
「600のライフポイントを支払い、手札から魔法カード、翼の恩返しを発動。カードを二枚ドローするよ!」
少女 LP 4000 → 3400
翼の恩返しはフィールドのモンスターが鳥獣族のみで且つ全員が違う種類の場合にのみ発動することが出来るカードである。少女のフィールドには三体の鳥獣族がおり、全員が違うモンスターである。
引いたカード見て、少女は笑みを深くする。
「よし、これで! 手札から永続魔法、霊魂の拠所を発動!」
少女のフィールドに、小さなお社が現れる。沢山の霊がその周囲に集い、霊魂鳥神-姫孔雀と霊魂鳥-巫鶴に力を与える。
「霊魂の拠所がフィールドにある限り、私のフィールドのスピリットモンスターは攻撃力が500上昇するよ!」
「霊魂鳥神-姫孔雀の攻撃力は2500だから、これで3000……深淵の青眼龍を越えられちゃったわね。ついでに霊魂鳥-巫鶴も2000か」
ムムム、と龍巳は眉根を寄せる。伏せカードも除去されてしまった今、この攻撃はまともに受けるより他にない。
「行くよ! バトル! 霊魂鳥神-姫孔雀で深淵の青眼龍を攻撃!」
両手を組み、瞳を閉じて霊魂鳥神-姫孔雀は天に祈りを捧げる。そうはさせまいと深淵の青眼龍が光のブレスを放つが、それは霊魂鳥神-姫孔雀の身体に触れる前に風の障壁によって吹き散らされてしまう。霊魂鳥神-姫孔雀が瞳を開ける。光のブレスを防いだ風の障壁は更にその勢いを増し、猛烈な嵐の如き爆風となって深淵の青眼龍に襲いかかり、その身を千々に引き裂いていった。
龍巳 LP8000 → 7500
「残る二人もダイレクトアタックだよ!」
鳥銃士カステルの銃弾と霊魂鳥-巫鶴の矢が、同時に龍巳へと襲いかかる。
龍巳 LP7500 → 3500
「くうぅ! 一応ちゃんと待ち構えてた筈なんだけど、結構やられちゃったわね……」
ごめんあそばせ、とでも言う様に霊魂鳥神-姫孔雀が扇子で口元を隠しながらニッコリと微笑んだ。
「カードを二枚セットしてエンドフェイズ、このターンに儀式召喚した霊魂鳥神-姫孔雀の効果が発動。このカードを手札に戻し、霊魂鳥トークン二体を守備表示で特殊召喚するよ」
後ろを振り返ってお辞儀をした霊魂鳥神-姫孔雀の身体が光となり、少女の手札へと戻っていく。しかしその後には青く輝く二羽の孔雀が残されていた。
「そしてフィールドの風属性モンスターが手札に戻ったことで霊魂の拠所の効果も発動! デッキからスピリットモンスターか儀式魔法を手札に加える事が出来る。私が加えるのは……霊魂鳥神-彦孔雀!」
社に集った霊達が少女の手に宿り、一枚のカードを形作る。
「このままやられっぱなしって訳にはいかないわよね。その効果処理後に、このターン墓地へ送られていた太古の白石の効果を発動!」
「あ! そういえばリビングデッドの呼び声で……」
ターンを移そうとしたその時、龍巳が動く。霊魂鳥神-姫孔雀が除去したカード、その時蘇生されていたカードを少女は思い出した。
「デッキから「ブルーアイズ」モンスター一体、今回は白き霊龍を守備表示で特殊召喚! そして特殊召喚された白き霊龍の効果が発動! 相手フィールドの魔法、罠カード一枚を除外する! 伏せカード一枚を除外させてもらうわよ」
青眼の白龍より尚白い、真白の龍が空間から滲み出るように現れる。龍の霊力が少女のフィールドを侵食し、このターンに伏せられたカードの一枚を消し去っていった。
「風霊術-「雅」が除外されちゃった……」
「お、これは当りだったかしら? 後は大丈夫?」
「うん。このままターンエンド、お姉ちゃんのターンだよ!」
伏 伏せカード
拠 霊魂の拠所
カ 鳥銃士カステル
巫 霊魂鳥-巫鶴
ト 霊魂鳥トークン 守備表示
少女 手札3 LP3400
□□拠伏□
トトカ巫□□
□ □
□□□霊□□
□□□□□
龍巳 手札4 LP3500
霊 白き霊龍 守備表示